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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
55/206

海賊から海軍へ

 デスプル島に帰還したレン達は、海賊達から大歓迎を受けた。最初に来た時とは大違いだった。レン達が自分達のお頭の仲間だと分かったからだ。豪華な食べ物を振る舞われ宴を催してくれた。

 「酒や食べ物はいくらでもあるからどんどん食べて飲んで下せぇよ旦那方」

 と、給仕をする海賊に言われた。マルスとヨーゼフとラーズは、酒を飲みシドゥは、テランジンの横で酒を飲みながらヘブンリーに一人残された時の愚痴を散々テランジンに言っていた。シーナは、目の前に並べられた食べ物を見て目を輝かせ、物凄い勢いで食べていた。

 「おい凄いな、あのねぇちゃん」

 と、海賊が驚いていた。レンは、あまり好きではない酒をちびちび飲みながら、食べ海賊達が騒いでいる様子を眺めていた。

 「酒はお口に合いませんか、若」

 と、シドゥの愚痴に飽きたテランジンがレンの傍まで寄って来て言った。レンは、座っている長椅子にテランジンが座れるようにと横にずれた。テランジンは、失礼しますと言って座った。

 「足はどうしたの?」

 と、レンは少し遠慮がちに気になっていたテランジンの右足の事を聞いた。テランジンの右足の膝から下が無い。普段は義足をしている。

 「俺のせいなんですよ殿様」

 と、いつの間にか傍にいたテランジンの側近ルーク・メタールが申し訳なさそうな顔をして言った。テランジンが海賊になって三年ほど経った時、トランサーの船を発見し襲った。船にはトランサー人しか乗っていないと思い込んでいて食料などを奪い去ろうとした時、船から突如現れたイビルニア人にルークが斬られそうになった。慌ててイビルニア人に体当たりをしたテランジンは、イビルニア人と海に落ちた。海の中でイビルニア人と戦闘になり首を斬り落としたが、イビルニア人の血で海獣が来て右足の膝から下を食い千切られたのだった。

 「いや、あれは俺の油断だよ、ルーク気にするな」

 と、テランジンが言った。レンは、余計な事聞いたと思い後悔した。テランジンは、ルークに皆に話す事があるから静かにさせろと言った。ルークは、とうとうその時が来たと真面目な顔をした。

 「皆、静かにしてくれ、お頭から大事な話しがある」

 と、ルークが大声で言った。広間が静まり返った。テランジンが立ち上がり手下の海賊達を見回し言った。

 「皆聞いてくれ、今日より俺は元の軍人テランジンに戻る、ここにおわすレオニール・ティアック様の臣下として今のトランサー王、ザマロ・シェボットを討ち取りに行く」

 「ええぇぇぇ?おお、お頭ぁそれじゃあこのテランジン海賊団はいってぇどうなるんでぇ?」

 と、海賊達が騒ぎ出した。テランジンは、言い難そうに答えた。

 「うむ…今まで話さなかった事は謝るすまん、俺が海賊になったのはこの日のためでもあったんだ、ザマロを討ち取る手助けをして欲しい…頼む」

 広間は、また静まり返った。海賊の一人が立ち上がり言った。

 「お頭、水臭いぜぇ俺達は皆、凶状持ちだけどよう、お頭から受けた恩は決して忘れるような奴はここには居ねぇぜ、ろくでなしの俺達に生きがいを与えてくれた、俺はお頭についてくぜぇ、なぁ皆はどうだい?」

 「ああ、おいらもお頭に付いて行くぜぇ、手助けなんて水くせぇ事言わないでくれよ」

 「皆でザマロって野郎をぶっ殺しに行こうぜ」

 と、広間のあちこちから聞こえた。

 「ありがとう、みんな」

 と、テランジンは涙を浮かべ海賊達に礼を言った。ヨーゼフは、レンに何か言うとレンは、うんと頷いた。そして、ヨーゼフが海賊達に話した。

 「皆良く聞いて欲しい、我らが見事ザマロ・シェボットを討ち果たしたら皆をトランサー海軍に迎え入れたい、ザマロを討ち取ればイビルニアが動き必ずや戦争になる、その時はトランサー海軍としてイビルニアと戦ってもらいたいのだ」

 「ってことは、俺達はトランサー人になるって事ですかい旦那?」

 と、一人の海賊が立ち上がり言った。

 「そうじゃ、皆にはトランサー国籍を与える事になる」

 「閣下、よろしいので?」

 と、テランジンが驚いて言った。海賊達は元をただせば凶状持ちの悪党である。そんな連中に海軍が務まるのか分からないし簡単に国籍を与えて良いのかとテランジンは思った。

 「テランジンよ、わしゃお前を信頼しとる、その信頼するお前の仲間ではないか、レオニール様も承諾されている」

 と、ヨーゼフは、ザマロを討ち取った後の事を考えて言った。軍事はテランジンとシドゥに任せ自分とレンは、内政を見ようと思っていた。ザマロが王になったトランサー王国は随分と様変わりしたと噂で聞いていた。シェボット派の大臣、貴族、政治家達にろくな奴が居なかった事をヨーゼフは覚えていた。

 「海軍はお前に任せたい、やってくれるか?」

 「はい、レオニール様、ロイヤー閣下、ご期待に沿えるようこのテランジン・コーシュ精進いたします」

 と、テランジンは言うとレンとヨーゼフに最敬礼をした。そのお頭の様子を見て海賊達も見様見真似でレンとヨーゼフに最敬礼をした。ここに仮のトランサー海軍が誕生した。

 「えらく仲間が増えたなレン」

 と、いつの間にかレンの周りにマルス達が来ていた。レンは、まだ見ぬ生まれ故郷の事を思っていた。以前ヨーゼフから聞いたトランサー王国は、草花が咲き乱れ町は活気に溢れ人々は生き生きとしていたと聞いている。そのトランサー王国はザマロが支配してから一変した。町からは活気が消え若者達のほとんどが軍隊に入れられた。逆らった者は、イビルニアの奴隷船に乗せられた。

 夜も更け宴は終わり、レン達はテランジンの部屋で寝る事にした。翌日から海賊達の態度が一変した事にレン達は、笑いを噛み殺しながら見た。急に礼儀正しくなった。自分達はもう海賊ではなく軍人だという気持ちが芽生えたのだろう。あるいは、テランジンに恥をかかせたくないと思ったのだろうか。

 「おはようございます殿様、おはようございます閣下」

 などと言う様になった。

 「一夜にして皆変わるもんじゃのぉ」

 と、ヨーゼフは感心した。レン達は、今後の事を話し合った。一旦、ランドールに戻り馬を引き取り、ランドール王インギにラインの館を出てから今までの事を報告しようと思っていた。それから移民の国メタルニアに行く事にした。そこには、今までテランジンが奴隷船から助け出したトランサー人が数多く居る。そのトランサー人達にレオニールが生きている事を知らせたかった。

 「レオニール様が生きていると知れば彼らも喜びます」

 と、テランジンが言った。レンもメタルニアに行ってみたいと思っていた。そこには、自分の素性を知る前、ずっと父親だと言い聞かされていたフウガの次男、リューガ・サモンの墓がある。ジャンパール皇国の外交官をしていたリューガは、赴任先のメタルニアでレンが生まれる前に流行り病に掛かり病死していた。直接的に関わった訳ではないが、ずっと父親と言われてきてレンもそう思っていたので一度墓参りに行きたいと思っていた。テランジンには、メタルニアに行く理由がもう一つあった。船の強化である。メタルニアに腕の良い職人がいる。海賊船をもっと軍艦に近付けたかった。準備を整えレン達は、テランジンの船に乗りランドールの港に向かった。デスプル島に来る前にラーズが買った小舟は、テランジンの船の緊急用の小舟として使う事にした。テランジンの船の後に二隻の小型の海賊船が後に付いて来る。

 「しかし、この海賊船で港に行って大丈夫かな?海賊が攻めて来たと勘違いされるんじゃないか?」

 「確かにそうだな、はははうっかりしていたよ」

 と、マルスに言われラーズは、のん気に笑っていた。思った通りになった。ランドール海軍の軍艦がこちらに向かって来た。ラーズは慌てて船の舳先へさきに立ち両手を大きく振り叫んだ。

 「おおーい!俺だぁラーズだぁ! 撃つなよぉ」

 「んん?あれは…ラーズ王子だ、何で海賊船に乗ってるんだ?まさか捕まった…でも笑ってるな…あれはジャンパールのマルス殿下だ、どうなってるんだ?」

 と、操舵室から望遠鏡を覗いていた海軍士官が言った。そして、攻撃はするなと言いゆっくりテランジンの船に軍艦を会話が出来る距離まで近付けた。

 「殿下、一体どう言う事ですか?」

 「ああ、デスプル島に行って来た、この海賊達は皆俺の仲間だ、父上に会うから港まで誘導してくれ」

 と、ラーズは話しかけてきた士官に言った。士官は、訳が分からないといった顔をしていたが港まで誘導してくれた。海賊船を港に停泊させると港町が大騒ぎとなった。

 「海賊が来たぞぉ」

 「何で海軍が海賊を連れて来たんだ?」

 と、町の者は口々に言った。騒ぎの収拾を海軍に任せレン達は、インギの居る城に向かう事にした。

 「ルーク、俺はレオニール様達とインギ王に会いに行く、帰って来るまでここに居てくれ他の者達の事は任せたぞ」

 「分かりました兄貴」

 と、テランジンは、ルークと他の海賊達を港町に待機させた。宿屋に預けていた馬を引き取りシドゥとテランジンの馬を調達してレン達は、港町を出てラインの館を目指した。二日でラインの館に到着した。ラインは、グライヤーの術も解けすっかり元のラインに戻っていた。

 「やあ、ラーズ元気にしてたか、色々聞いたよあの占い師のグラウンはイビルニア人だったんだってな、全然気づかなかったよ、王様に酷く叱られたよ」

 と、ラインは、にこにこしながら言った。

 「叔父上、元に戻られて本当に良かったです」

 レン達は、ラインの館で一泊し朝早く出発した。北と南の境目になる橋を越えた辺りでマルスが急に辺りを気にし出した。

 「どうしたのマルス?」

 と、レンは馬をマルスに近付け聞いた。

 「んん…ああいやぁ…」

 と、マルスらしくない返事が返って来た。レンは、もう直ぐハープスター伯爵の長男が管理している領内に入る事でカレンがいつ出て来るんじゃないかとマルスが警戒している事を分かっていた。領内に入った途端、マルスは馬を駆けさせた。何も知らないテランジンとシドゥがどうしたんだろうと顔を見合わせた。

 「マルス殿下を慕う女子おなごが居ってな、その女子の親の領地なんじゃここは」

 と、ヨーゼフが二人に話した。そして、マルスとカレンの事を話した。二人は大笑いして聞いていた。

 「あはは、さすがにキンタマを平気で蹴るような女に好かれても困りますな」

 「でもどんな子か見てみたいな、ははは」

 と、テランジンとシドゥは、笑いながら言った。マルスにとって幸いな事にカレンに出会う事無く領内を通過出来た。夕方に城下町に到着したレン達は、ジャンパール大使館に入った。ラーズは、明日の朝インギに会えるようにしておくからと言い残し自分は、城に帰って行った。ジャンパール大使や職員達がマルスが無事に帰って来た事を喜んだ。

 「殿下、ご無事で何よりです、明日はインギ王にお会いに?はいはい分かりました」

 と、大使はにこやかに言った。夜、レンとマルスは、手紙を書き職員にジャンパールに送るようにと渡した。翌日、インギ王に会うため城に向かった。直ぐに謁見の間に通された。

 「大変だったそうだな、もう先祖返りとやらは起きないのか?」

 と、昨日ラーズから色々と聞いたのだろうインギは、レンの顔を見るなり聞いて来た。

 「はい、陛下もう大丈夫です、もしものためにとヘブンリーでラダムの実をいくつか貰いましたので」

 と、レンは言いラダムに実を見せた。インギは、そうかそうかと頷きマルスを見てニヤリとした。

 「マルスよ、カレンの事だが…」

 「止してくれよ、俺には全くその気はないからな」

 と、インギが言い切る前にマルスが慌てて言った。

 「ジャンパールに行ったぞ、父親と一緒にな」

 「はぁ?」

 インギの思わぬ言葉にマルスは絶句した。その様子を見てレン達は、くすくす笑った。

 「殿下、諦めなされあの娘は地の果てまで殿下を追いかけて来ますぞ」

 と、ヨーゼフが冗談で言ったつもりだったが、マルスは本気でそう思っていたらしく何とも言えない顔をした。

 「しかし、師匠よ女と言うのは恐ろしいな、あの一件以来急に大人っぽくなってなジャンパールに行く前に会ったのだが良い女になるぞカレンは」

 と、インギがしみじみと言った。マルスが呆然としているのを放って置いてレン達は、今後の事をインギに話した。昨日の夜にラーズから聞いていたので驚く事はなかった。

 「メタルニアで船を強化してトランサーに向かうのか?」

 「いや、一度ジャンパールに行こうと思うジャンパールで若の立太子式を行おうとな」

 と、インギとヨーゼフが話した。ヨーゼフは、旅の間いつレンを正式にトランサー王国の王子だと世間に知らせようか考えていた。ザマロは、まだレオニールは死んだと思い込んでいる。ジャンパールで立太子式を行いレオニールの存在を知らしめトランサー国内を動揺させようと考えていた。

 「そうだなレンの母親はジャンパール帝の妹だったな、ジャンパールで式を挙げる方が良いだろう」

 「うむ、しかしそうなればジャンパールとトランサーの戦争になるかも知れんな」

 と、ヨーゼフは、ジャンパールを巻き込んでしまう事を気にしていた。

 「それなら心配ないぜヨーゼフ、ここまで来たんだ堂々とレンをトランサーの王子だと宣言したら皇帝おやじは軍を出してくれるさ」

 と、気を取り直したマルスが言った。この世界最強の海軍を持つジャンパールがトランサーの海軍に負けるはずはない。それにトランサー国内で何か動きがあるはずだ。

 「レン、ジャンパールに戻ったらお前の立太子式をやる、良いな?」

 「う、うん」

 と、マルスの言葉にレンは、複雑な思いがした。正式にレオニール・ティアックと名乗ればもうレン・サモンではなくなる。そうなればフウガとの縁が切れるんじゃないかと思った。やっぱり自分はフウガの孫でありたかった。そんなレンの思いをマルスは感じたのか、レンの肩に手をやり言った。

 「心配すんな、お前がレオニールになってもフウガはお前のじいさんだ、それにレオニール・ティアックに戻る事がフウガの願いでもあったんだろ」

 と、マルスに言われてレンは、何だか救われた気がした。今後の事をインギに話し終えたレン達は、また港町へと向かうためインギに別れを告げ城を出た。城下を出るまでラーズの兄、ヨハン太子が送ってくれた。

 「兄上、俺達がどう頑張っても真空斬が出来ない理由が分かったよ、俺達がただの人間だからだ」

 「ん?どういう事だ?」

 「つまり真空斬が出来る者にはエンジェリア人の血が流れてるんだよ」

 「何?そうだったのか」

 と、ラーズはヘブンリーで判明したレン達の謎を話した。

 「だから親父に言っておいてくれどんなに頑張っても無駄だってな」

 「ははは、分かった伝えておくよ」

 そして、ヨハン太子に別れの挨拶をしてレン達は、海賊達が待つ港町に帰って行った。

 


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