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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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休息

 意識を取り戻したマルスがラーズの肩に掴まりながらレンに近づいて来た。

 「レン、大丈夫か」

 「ううん、今シーナが繋いでくれてるよ、ううううぅ」

 シーナは、斬られたレンの右腕を両手で掴み集中している。

 「シーナ頑張ってくれ」

 と、ヨーゼフがシーナに言うとシーナは、額に汗を掻きニヤッと笑いながら言った。

 「大丈夫、ぼくが必ず殿様の腕を繋げるからね」

 「頑張れ!」

 と、皆がシーナを応援した。そんな中、壁際でへたり込んでいるラインが訳の分からない奇声を上げていた。インギは、ラインに近付き思い切り殴り倒した。

 「馬鹿者め、貴様のせいでレン殿の腕が斬り落とされたのだぞ」

 「へへへ…へへ」

 と、殴り倒されたラインは、へらへらと笑った。インギは、駄目だと思い側近の者を呼びラインを医者に診せるよう命じた。

 「はぁはぁはぁ…今日はこれが限界だよ、ごめんね殿様」

 と、シーナは言って床に寝転んだ。レンの腕は繋がったが感覚がまだ戻らず指が動かなかった。

 「ありがとうシーナおかげで助かったよ」

 と、レンは、繋がった腕を触りながら言った。シーナにまだ動かすなと言われ首から布をかけて腕を吊った。レンの腕が完全に治るまでインギは、ラインの館に居るようヨーゼフに言ってラインの家来達を呼び出した。

 「その方ら占い師グラウンがイビルニア人と誰も気付かなかったのか」

 「全く面目次第もございません」

 「ラインの様子がおかしくなっても気付かなんだのか、馬鹿者」

 と、インギが家来達を殴りつけた。家来たちは、平伏ひれふし許しを請うだけだった。インギの怒りは治まらず、とうとう剣に手を掛けた時、ヨーゼフが止めた。

 「止めんかインギ!何も知らずに上位者のイビルニア人に気付く者などそうそうおらぬ事はおぬしも良く知っておろう」

 「し、師匠しかしこやつらはラインがああなっても占い師と称していたグライヤーに気付かなかったんだぞ」

 「おぬしは昔の自分を忘れたのか?」

 と、ヨーゼフに言われギクッとなったインギは、ふて腐れてもう良いと言い、家来達には謹慎を申し付けた。レン達は、昔のインギに何があったのか気になった。

 「父上…」

 ラーズがばつの悪そうな顔をして父インギ王にソフィアの事を話した。インギは意外にも同情的だった。

 「そ、そうか…亡くなったのか…ヨハンから色々と聞いていた、お前の妻として葬ってやったのならそれで良い」

 「父上、ありがとうございます」

 「うむ、今日より勘当を解く」

 そう言ってインギは、また来ると言い残し急ぎ北の居城に帰って行った。これからしばらく休息も兼ねラインの館でレンの右腕が完治するまで暮らす事になった。レンが毎日シーナの治療を受けていたある日、剣の稽古をしていたマルスとラーズが、指導するヨーゼフにインギの昔の事を聞いた。

 「ヨーゼフさん、あの時昔の自分を忘れたのか?と父上に言っただろ、どういう事なんだ?」

 「そうだ俺も気になってたんだ、なぁ教えてくれよ」

 ヨーゼフは、フフッと笑い言おうか言うまいか迷っている様子だった。

 「この話は、お父上には内緒ですぞ」

 と、ヨーゼフは最初に言ってから話し出した。その昔二十五年以上前、イビルニア国との戦争に参加していた若かりしインギは、戦場に物を売りに来た商人と出会った。珍しい物ばかり売っている商人からこのお香は、嗅ぐと力がみなぎって来ると言われ若いインギは、その言葉を鵜呑みにして買い早速ランドールの陣屋でそのお香をいた。皆が元気に戦えれば良いとインギにすれば親切心でやったのだろうが結果は、インギも含め陣屋に居た者全員がラインの様な状態になりいくさどころではなくなった。偶然フウガとヨーゼフが各国の陣屋を巡り歩いていた時に発見し大事には至らなかった。正気を取り戻したインギに事の経緯を詳しく聞くと商人の正体はグライヤーと分かった。下位や中位者のイビルニア人ならば、あの何とも言えぬ嫌悪感で正体がわかるが、上位者のイビルニア人にはそれが無い。おまけに顔もまともな顔になる。何の経験もない若いインギに分かるはずもなかった。

 「ははぁ、そんな事があったのか」

 若い頃の自分の話しをされているとは思ってもいないインギは、重臣達を集めランドール全域にイビルニア人の警戒及び見つけ次第殺すようにと、触れを出すよう命じていた。

 「港や海岸は特に警戒するように言っておけ」

 「ははっ直ちに!」

 インギは、ラインの様子を側近に聞いた。側近が聞いた医者の話しによるとラインは、毎日の様にあのお香を嗅がされていたようで正気に戻るには相当時間が掛かると言われた。

 「ふうむそうか…余は今からラインの館に行く、支度を」

 と、インギは側近に言い支度をさせ他の政務は長男のヨハン太子に任せラインの館に向かった。マルスとラーズの稽古の様子をぼんやりと眺めていたレンは、ふとエレナの事を想った。こちらからの情報は手紙で報告出来るがエレナの事が全く分からない。

 「エレナ…どうしてるかな」

 「どうしたエレナって誰だ?」

 と、いつの間にか傍に来たラーズが聞いた。びっくりしたレンは、思わず顔を赤らめた。

 「エレナと言うのはこいつの女だ、すっげぇ美人でさおっぱいがこう大きくてな、とにかくいい女だぞ」 

 と、マルスがラーズに説明した。

 「へぇレンに女がいるのか、良いじゃないか俺も是非会ってみたいな」

 と、ラーズはにこやかに言った。そして急に真面目な顔をしてレンに聞いた。

 「ところでレン、お前も真空斬や真空突きが出来るのか?」

 「うん、ドラクーンでヨーゼフに教えてもらったよ」

 「そうか、俺もマルスとヨーゼフさんに教えてもらってるんだが、どうもこう上手くいかないんだ、練気のやり方も間違っては無いはずなんだが全く何も感じないんだよ」

 と、ラーズは、自分の両手を見て言った。ヨーゼフの話しでは父インギも出来なかったと言う。トランサー人やジャンパール人なら大概の者は、訓練次第で出来る様になる。

 「何か特別な事でもあるのかな?まぁ気長に練習するよ」

 と、ラーズは、前向きに考え言った。レンもいつか出来る様になると励ました。この日の夜遅くインギがラインの館にやって来た。

 「レン殿、腕の具合はどうだ?」

 と、来るなり直ぐにレンの右腕を見た。ちゃんと繋がっている。

 「さすがドラクーン人だな、こんな事人には出来ん」

 と、インギが感心した。シーナが誇らしげにカイエンの妙な鼻歌を歌っていた。インギは、レン達の今後の事を話しに来たのだが夜も更けているので明日話す事にしてラインの館に泊まった。

 翌日、レン達は、自分達の今後の事をインギに話した。連日、シーナの治療を受けたおかげですっかり右腕が動くようになったレンは、ヘブンリーに行くと言った。テランジンとシドゥの足取りを追わねばならない。彼らがどこに居るのか全く分からない以上、ヘブンリーに行くしかなかった。それにヘブンリーの女王にイビルニアと戦争になった時、力を貸してもらうためでもあった。その事は、テランジンとシドゥが女王に話しているはずだが、ヨーゼフは直接話したいと思っていた。

 「ヘブンリーか…あの連中も人間嫌いだからな」

 と、インギは不安に思っていた。テランジンもシドゥも無事に女王に会えたか分からない。

 「とにかく行くしかあるまい」

 と、ヨーゼフが渋い顔をして言った。その時、ラーズが急に椅子から立ち上がり父インギに言った。

 「父上、俺レン達と旅に出るよ」

 「何っ?お前正気か…」

 「ああ正気さ、ソフィアが死んで自棄やけになってるんじゃない、レンを助けてやりたいし、俺だって男だ!イビルニア人を退治したい」

 と、言ってラーズは座った。インギは、せっかく勘当を解いてやった息子が今度は旅に出ると言い出して驚いたが、しばらく考えてフッと笑って言った。

 「お前は俺の若い頃にそっくりだな、行って来いヨーゼフが一緒に居るなら安心だ、必ず生きて帰って来いよ」

 「ありがとう父上」

 と、ラーズは父インギに頭を下げた。

 「師匠、息子をよろしく頼む、立派な男にしてやってくれ」

 「ふふふインギ殿、ラーズ殿は本当にお前さんにそっくりじゃ無茶な事をせんようしっかり見張らんとな」

 インギとヨーゼフは笑いあった。ここにフウガが居ればもっと良かったのにと思った。この後、レン達はジャンパールに送る手紙を書きインギに渡した。インギは、必ずジャンパールに手紙を送る事を約束した。それからヘブンリーに向かうための準備に取り掛かった。ヘブンリーに行くには迷いの森と呼ばれている森を通らねばならない。その森は、本当にヘブンリーの民が認めた者しか通れないようになっていると言われている。テランジンとシドゥが認められたかどうか分からない。レン達も認められるかどうか分からない。それなりに食料は用意した。そしていよいよ明日の朝出発しようとなった時、何とハープスター伯爵と娘のカレンがラインの館を訪ねて来た。

 「マルス様ぁ」

 と、マルスを見つけるなりカレンがマルスに飛びつき熱い口づけをした。それを見たラーズは、大爆笑していた。

 「マルス、お前伯爵の娘とそんな仲になったのか」

 「ち、違う違う、ちょっ、止めろカレン、離れろよ」

 「殿下がライン公のお館におられると聞いてカレンが是非ともまた会いたいと申しましてな」

 と、娘に甘いハープスター伯爵がにこにこしながら言った。マルスは、何とかカレンから離れようとしたが、カレンはずっとマルスの傍から離れようとはせず諦めた。

 「俺達今からヘブンリーに行くんだよ」

 「ヘブンリーに行かれるのですか、いつお戻りになられますか?」

 と、カレンは熱っぽい目でマルスを見て言った。マルスは、レン達に助けを求めようとしたが、皆わざとらしく目を逸らした。

 「わ、分からん、帰って来れないかも知れん、それに…」

 「それに?」

 と、言ったカレンの顔を見てマルスは一瞬ドキッとした。以前に見た時より何だか大人っぽくなっている気がしたからだ。

 「とと、とにかくもう行く、じゃあな」

 と、マルスは言って馬に乗り一人先に行ってしまった。カレンは、マルスの背中を見て叫んだ。

 「私はずっと待ってるからぁ」

 カレンは、マルスが見えなくなるまで見送った。レン達は、ラインの家来やハープスター伯爵とカレンに別れの挨拶をして馬に乗りラインの館を後にした。

 

 

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