表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
45/206

ソフィアの死

 レン達は、声の主がラーズとソフィアに間違いないと思い、音を立てずに静かに建物に近付き中の様子を伺った。女郎屋の連中がラーズを縛り付け滑車で吊って痛めつけている所をソフィアに見せつけていた。女郎屋の亭主とイビルニア人がその様子を眺めて笑っている。

 「おらおら、てめぇのおかげで店に客が来なくなったんだぞ、どうしてくれるんだ」

 「うわぁぁぁぁ」

 ラーズが腹に焼いた鉄の棒を押し当てられている。ジュウと皮膚が焼ける。

 「いやぁ、もう止めて、お願い止めてぇ」

 「やかましい」

 と、泣きながら頼むソフィアを子分が引っ叩いた。その様子を亭主は楽しんでいる。

 「元はと言えばソフィア、お前がこのお坊ちゃんに惚れなきゃ良かったのだ、生意気にこのお坊ちゃん以外の男とはもう寝ないなどとぬかしおって」

 「か、金は払っていただろう、だったら文句はないはずだ…はぁはぁ」

 ラーズは、苦しそうに言った。亭主は、急に真面目な顔をしてラーズに言った。

 「ソフィアを買いに来る客はあんただけじゃないんだよ、ソフィアみてぇな病持ちでも見た目が良いから買いに来る、あんたに一日中買われたんじゃ他の客がソフィアを抱けねぇだろ」

 「外道めぇ」

 ラーズは、ソフィアを目当てに来る客が多い事を知っていた。だから自分が一日中ソフィアを買い休ませてやりたかった。

 「ああ外道で結構よぉ、女郎屋の亭主の俺様に徳や情けがあると思ってるのかい?それにしてもよく金が続いたもんだ、あんた一体どこの貴族のボンボンだね」

 と、言って亭主がラーズの腹に焼いた鉄の棒を押し当てた。

 「ぐおぉぉおぉぉ」

 ラーズの呻き声が建物に響いた。ソフィアは、子分に髪を引っ掴まれラーズが痛めつけられている様子を見せつけられている。

 「野郎っ!」

 と、マルスが建物に飛び込もうとしたがレンが慌てて止めた。

 「マルス落ち着いて、今飛び込んだらソフィアさんに何するか分からないよ、それにイビルニア人だって居るんだ」

 「殿下、必ず手はあります」

 レン達は、まずソフィアを救出する作戦を立てる事にした。建物全体を見て回りソフィアが居る場所から一番近い窓にレンとシーナがついた。マルスとヨーゼフが表の入り口に回り、わざと大きな音を立てて注意を引き付ける。その隙にレンとシーナが窓から侵入しソフィアを助けると言う段取りを決めた。

 「俺達が出来るだけ派手に中に入る、この窓から正面が見えるな、隙を見てソフィアを助けろ」

 「分かった、マルス、ヨーゼフ気を付けて」

 と、レンが言うとマルスは、親指を立てヨーゼフと表の入り口に向かった。レンとシーナは、マルスとヨーゼフが中に入るのを裏の窓から女郎屋の連中に見つからない様に見た。ラーズが殴られている。素早く表の入り口に回ったマルスとヨーゼフは、刀を抜き構え練気を始めた。真空斬で扉を破壊して突入する事にした。

 「殿下、力は抑えて下され、万が一ラーズ殿下とソフィア殿を傷付けるような事になれば大変でござる」

 「ああ、分かってるぜ、じゃあいくか」

 と、二人は、呼吸を合わせ一気に真空斬を放った。建物の扉を派手に切りきざんだ。中に居る女郎屋の連中が驚いて一斉に破壊された扉を見た。

 「な、何だどうした?と、扉が…」

 マルスとヨーゼフが走り込んで来た。

 「おう、てめぇら今の扉の様になりたくなかったら大人しくしろ」

 と、マルスが刀を構えて言った。その様子をレンとシーナが裏の窓から見ている。頃合いを見てレンとシーナは、窓からこっそりと速やかに中に入りソフィアを捕えている子分二人をレンが後ろから鞘ぐるみの斬鉄剣で殴り倒しソフィアを助けた。ラーズは、何が起きたか分からない様子だった。

 「な、何故なぜマルス達がここに?」

 「話しはこいつらを片付けてからだ」

 と、マルスは言ってラーズの傍に居る焼いた鉄棒を持った子分の手を狙って真空突きを放った。真空波が鉄棒に命中し鉄棒が飛んで行った。

 「次は、お前の身体を狙うぞ」

 「ひえぇぇぇ」

 子分は、恐れて亭主の傍に駆け寄った。その隙にヨーゼフは、もう一人の子分を峰討ちで倒しラーズを解放した。

 「ててて、てめぇら一体何者なんだ、だ、旦那やっつけてくれよ」

 と、亭主が隣に居るイビルニア人に言った。

 「おい、亭主、大概の国ではイビルニア人と悪さをした者は死罪と言う事を知っておろうな、ランドールとて同じじゃろう」

 と、ヨーゼフは、亭主を見ずイビルニア人を見て言った。亭主は、ニヤリと笑って言った。

 「へっ残念だったな、ここ南ランドールにそんな法はねぇんだよ」

 「グフフ、そうそうグラウンが変えてくれたイヒヒ」

 と、イビルニア人は言うとマルスに襲い掛かった。右手に剣、左手に鉄の爪を装備している。マルスは、イビルニア人の最初の攻撃を叢雲むらくもで防ぎイビルニア人に足払いをかけた。間一髪でイビルニア人は、飛び下がり足払いを避けた。レンとシーナは、ソフィアを連れラーズの元に駆け寄った。

 「ラーズ様…私のためにこんな酷い目に遭って…ごほっごほっ、ごめんなさい」

 ソフィアは、ラーズの手を握り涙を流して言った。

 「だ、大丈夫だソフィアこんなもの何でもない…うううぅぅ」

 ラーズは、ソフィアに心配を掛けまいと必死だった。シーナは、ラーズの火傷を負った腹に両手をかざした。シーナの両手が優しく光り火傷が徐々に治って行く。

 「こ、これは…傷が、な、治って行く」

 「ドラクーン人にはこんな事も出来るんだよ」

 と、驚くラーズにレンが言った。

 「そうか、だから怪我は治せても病気は治せないと言っていたのか…」

 ラーズは、自分の怪我よりもソフィアの病を治して欲しいと心から思った。

 「はい、もう大丈夫だよ、でも無理はしないでね」

 と、治療を終えたシーナが言った。かなり疲れている様子だ。その様子をまるで化け物でも見ているように女郎屋の連中が見ていた。

 「こ、こんな連中相手にしてられるか、に、逃げるぞ」

 と、亭主が子分どもに言って逃げようとした時、ヨーゼフが絶妙な力加減で真空突きを放ち、女郎屋の連中を気絶させた。

 「誰が逃がすか」

 と、ヨーゼフは、その辺にあった縄で女郎屋の連中を縛り上げた。レンとヨーゼフがマルスに加勢する。イビルニア人は、中位者でなかなか手強い。今まで相手にしてきた中位者と少し違うようだった。

 「お前なかなかやるな」

 と、マルスはイビルニア人に言った。レンは、呆れ顔でマルスに言った。

 「感心してる場合じゃないよマルス、早く始末しよう」

 「若、お待ちを、イビルニアの者よ、グラウンとは何者か」

 と、ヨーゼフが刀を構え聞いた。イビルニア人は、目深に被ったフードの下から笑い声を上げている。

 「グラウン?ククク、知りたければ自分の目で見る事だな」

 「簡単には答えんか、仕方がないのう」

 ヨーゼフはそう言うと真空斬を三発放った。イビルニア人が両腕で顔を防いだが身体を覆っている真っ黒なマントと来ている服がビリビリに引き裂かれ青白い上半身が露出した。建物の天窓の真下に居たイビルニア人は、天窓から差し込む日の光を避ける様に移動した。レン達は、イビルニア人を壁際に追いやった。

 「やはり、日の光は苦手なようじゃの、今一度問う、素直にグラウンの事を話せば楽に殺してやる、言わねば十分苦しめて殺す、好きな方を選ぶが良い」

 と、ヨーゼフは、静かに言った。手足を斬り飛ばされても全く動じないイビルニア人をどうやって苦しめるんだろうとレンとマルスは思った。

 「ククク、ウフフフフ、シャアーッ!」

 と、追い詰められたイビルニア人は、弱いと思ったレンに攻撃を仕掛けて来た。レンは、フウガ遺愛の斬鉄剣で攻撃を防ぎ鉄の爪をはめている左腕を斬り飛ばした。

 「ソフィア見るな」

 と、言ってラーズはソフィアを抱き寄せた。左腕を斬り飛ばされたイビルニア人は、またレンに攻撃する。レンは、攻撃を防いではいるが力の強いイビルニア人にやや押され気味になった。

 「この野郎、調子に乗るなっ!」

 と、マルスが言って後ろからイビルニア人の右膝を斬り付けた。ガクンと態勢が崩れたイビルニア人をレンが思い切り蹴り倒した。丁度、仰向けに倒れたイビルニア人の右腕をヨーゼフが斬り落とし抵抗出来ないようにしてヨーゼフが改めて問うた。

 「さぁイビルニアの者よ、グラウンとは何者じゃ」

 「グフフ、自分で調べろ」

 「そうか、仕方がないのう」

 そう言ってヨーゼフは、イビルニア人を天窓の真下に引き摺って行った。

 「ううううう」

 日の光を素肌に浴び苦しそうに唸った。

 「こいつ何で日光浴びて苦しんでるんだ?」

 と、マルスが不思議に思いヨーゼフに聞いた。

 「はい殿下、イビルニア人は、日光を嫌います、よって外出時には必ず真っ黒なフード付きマントで全身を覆っているのです、逆に闇はこやつらを活動的にします」

 レンは、思い出した。フウガ屋敷に現れたイビルニア人がフウガと対等それ以上に強かったのは、夜で部屋が薄暗かったからだと。フウガがまだ若ければ勝っていたかも知れないが、老いて体力の落ちたフウガには夜のイビルニア人と戦うには無理があったのだ。ヨーゼフは、イビルニア人の仮面をぎ取り醜い顔を露わにした。

 「ぎいいいいぃぃいぃ」

 顔に直射日光を浴びイビルニア人が苦しんだ。醜い顔が更に醜くなった。

 「さぁ申せ、グラウンとは何者か、ただの占い師ではあるまい」

 「ググ、グラウンは…グライヤー様は…ぐぶぶぶぶぅ」

 そう言ってイビルニア人は、泡を吹いて気を失った。ヨーゼフは、やっぱりイビルニア人だったかと思った。レンは、イビルニア人を汚物でも見る様に言った。

 「グライヤーって?」

 「…イビルニアの上位の者でございます、かつて拙者もフウガ殿もグライヤーのせいで多くの部下を亡くしました」

 と、ヨーゼフは悲痛な顔をして言い、泡を吹いて気を失っているイビルニア人の首を刎ねた。

 「んじゃラインはイビルニア人にあやつられているのか?」

 と、マルスがイビルニア人の首を見て言った。ヨーゼフは、無言で頷いた。そうと分かれば一刻も早くラインに会わねばならない。

 「おい、ソフィアしっかりしろ、ソフィア!」

 と、レン達の後ろに居たラーズが叫んだ。ソフィアの容体が急変したのだ。レン達はラーズとソフィアに駆け寄った。ソフィアが小刻みに震えている。とにかくソフィアをラーズの借家に連れて行かなければならないと思いレン達は、借家に戻った。途中、ヨーゼフが役人を見つけイビルニア人の死体と女郎屋の連中の始末を頼んだ。借家に着くと直ぐにソフィアを寝かせた。

 「ソフィア、家に帰ったぞ、もう大丈夫だ」

 「はぁはぁはぁ…ラーズ様…ラーズ様ぁ…ごほっごほっ」

 と、ソフィアはうわ言の様にラーズの名を言い、胸を押さえて苦しんでいる。もう死が迫っている様子だった。シーナは、その様子を見て龍神の話しを思い出した。ドラクーン人には、怪我を治す力がある。病気は治せない。しかし病気で苦しむ者の痛みや苦しみを取り払える事は出来ると龍神が言っていた。シーナは、ソフィアの胸に両手をかざした。病気は治せない事を知っているレン達が言った。

 「シーナ、何を…」

 「病気は治せないけどソフィアさんの痛みや苦しみは取り払えるから」

 シーナがそう言うと両手が優しく光出した。シーナは、一生懸命に意識を集中させている。しばらくすると苦しむソフィアの顔が段々と安らかな顔に変っていった。

 「ああ、何だかとても楽になったわ…ラーズ様…こんな私を愛してくれて本当にありがとう…最後にラーズ様の元で死ねるなんて夢にも思わなかった」 

 「ソフィア、何を言ってるんだしっかりしろ」

 「…もう、お迎えが来ました、ラーズ様、皆さん本当にお世話に…なりました、ラーズ様…どうか私の分も生きて下さい…ラーズ様…愛しています…」

 ソフィアは、そう言って眠るように逝った。

 「ソフィア…ソフィア、目を覚ませソフィア、うわあああああ…ソフィア…」

 ラーズは、ソフィアの手を握り締め泣き崩れた。フウガの時もそうだったが愛する人が死ぬ事ほど辛い事は無い。レン達は、ラーズとソフィア二人だけにしてやろうと借家を出た。ラーズの男泣きする声が外まで聞こえた。数時間後、いつの間にか泣き声が聞こえなくなりレン達が家に入ろうか迷っているとラーズが目を真っ赤にして出て来た。

 「皆、迷惑をかけたすまない、シーナ、君のおかげでソフィアは安らかに天に旅立てた、ありがとう」

 と、ラーズは、レン達に頭を下げた。その顔は、何か吹っ切れた様だった。

 「ライン公のやかたに行く前にソフィアをちゃんと葬ってやりたいんだ、付き合ってもらえるか」

 「当然だ、俺達もちゃんと葬ってやりたいと思ってるよ」

 と、マルスが答えた。翌日、ラーズは、近習の者にソフィアの墓を建てるからと準備をさせた。場所は王家の墓が並ぶ墓地だ。ラーズも死ねばそこの墓地に埋葬される。

 「本当によろしいので?」

 と、近習は、ラーズに確認した。平民を王家の墓地に埋葬するなど聞いた事がない。しかもラーズは、今も勘当の身である。勝手に王家の墓地にソフィアの墓を建てたら父であるインギ王が怒るだろう。

 「ソフィアは俺の妻として埋葬するのだ、父上には後で話すよ」

 と、ラーズは近習に言って準備を進めさせた。

 ソフィアが亡くなってから二日目、レン達は、ラーズと共にソフィアを入れたひつぎを荷車に乗せ王家の墓地に行った。幸い南ランドールにありラインの館からも近かった。元々ライン・スティール家は、代々王家の墓の管理を任されていた。墓地に到着するとラーズは、一番見晴らしの良い場所を選び、レン達と墓穴はかあなを掘った。

 「ソフィア、お前は俺の妻としてここに入るんだ、あの世で何かあったら私はラーズ・スティールの妻だと堂々と言ってやれ…ソフィア、愛してるよ…」

 と、ラーズは棺のふたを開けソフィアの亡骸に言い最後に口づけをして蓋を閉めた。レン達は、そっと棺を掘った墓穴に入れ埋葬した。墓石はまだ無い。墓石にはラーズ・スティールの妻、ソフィアここに眠ると彫るように近習の者に命じてある。後日、石屋が持って来るだろう。

 「皆、ありがとう、ソフィアも喜んでくれてると思う」

 ラーズはレン達に礼を言った。レン達は、うんうんうなずいた。

 「ではライン公の館に行こう」

 と、レン達は、王家の墓を後にしてラインの館に向かった。

 


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ