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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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ラーズとソフィア

 レン達は、騒ぎが起きている方に行ってみた。そこには、若い男と女がいかつい男どもに取り囲まれていた。もう人だかりになっていて良く見えない。

 「もう良いだろう、昨日約束した通り三百万ユール払った、ソフィアは連れて行く」

 「だからこっちの手違いで足りねぇんですよ、ソフィアはまだ渡せませんぜ」

 と、言い争う声が聞こえる。レン達は、もっとよく見ようと人だかりを掻き分け近づいた。

 「あっ!?ラーズじゃないか、どうしたんだ」

 「ホントだ、ラーズだ」

 と、レンとマルスが気付いた。ラーズは、ソフィアと呼ばれた女郎を連れていた。ソフィアは、胸を押さえて激しく咳をしていた。厳つい男どもは、ソフィアが籍を置く女郎屋の連中だった。

 「何で今日になって身請け金が吊り上がるんだ、さっさと証文を出せ、ソフィアはもう自由だ」

 「何言ってんだあんた、証文がこっちにある以上、ソフィアを連れて行ったら、そりゃあ誘拐ですぜ」

 と、男どもを仕切っている小柄な男が言った。どうやら女郎屋の亭主のようだ。亭主が男どもにソフィアを取り返すよう命じ、男どもがラーズとソフィアに近付こうとした時、レン達が割って入った。

 「はい、そこまでだ、やいおっさん、身請け金は受け取ったんだろ?じゃあ良いじゃねぇか、女を解放しろ」

 「マ、マルスじゃないか、何でこんな所に、レンも居るのか」

 と、突然現れたレン達にラーズが驚いた。

 「話しは、お前の兄貴から聞いたよ」

 「そ、そうか…とにかく今、この通りだよ」

 と、ラーズが苦笑交じりにマルスに言った。

 「だ、誰だてめぇは?!」

 「誰でもよい、証文を見せよ」

 と、今度はヨーゼフが亭主の前に立ちはだかった。

 「何だジジイてめぇも関係ないだろ」

 「つべこべ言わずに証文を見せよ」

 と、ヨーゼフが凄んだ。亭主は、その迫力に押されヨーゼフの目の前にチラッと証文を出し直ぐに引っ込めようとしたが、ヨーゼフに奪われた。

 「何々、親の借金返済のため娘ソフィアを十六歳になったら客を取らせ……金四百万ユール返済せし時は、解放す…」

 と、ヨーゼフは証文の金額を書いた箇所をじっと見つめていた。そして、ヨーゼフは物も言わずに亭主を張り倒した。

 「馬鹿者、どこの世界に証文の金額を書き換える奴がおるかっ!こんな物は無効じゃ」

 と、言ってヨーゼフは証文をビリッビリに破り捨てた。

 「あっ!何てことしやがるジジイ、お前達早くこの連中をやっつけろ、ソフィアを連れ戻すんだ」

 「へいっ」

 と、亭主に言われた厳つい男どもがレン達に襲い掛かり乱闘になった。シーナがソフィアの傍に行きそっとその場から離した。レン、マルス、ヨーゼフそしてラーズが相手になった。レン達は素手で相手をした。次々と男どもを倒したが、とうとう男どもの一人が刃物を出した。

 「野郎っぶっ殺してやる」

 と、叫んで男がラーズに向けて刃物を振るおうとした時、色町を管轄する警備隊がやって来た。

 「何をしている止めんか!」

 「お役人、お助け下さい、この連中がうちの女を無理やり落籍ひかせようとして…」 

 「黙れっ!身請け金は既に支払っているだろう」

 「いったい、どう言う事だ」

 と、警備隊員が亭主から事情を聞いた。警備隊員達は、相手が自分の国の王子だと気付いていない。亭主から事情を一通り聞き終え今度は、レン達に事情を聞こうと警備隊員が近付いた時、初めてラーズに気が付いた。

 「ラ、ラーズ様、何故こんな所に?」

 と、警備隊員は、小声でラーズに言った。今度はラーズが警備隊員に説明した。亭主の話しとかなり

食い違っている。警備隊員は、当然ラーズに味方した。

 「亭主、諦めろ、相手が悪い、身請け金は受け取ったんだろ?」

 と、警備隊員は、亭主に言った。亭主は、納得がいかない。

 「何言ってるんですか、身請け金が足りねぇのに女を連れて行こうとするんですよ、早くあの連中を逮捕して下さいよ」

 「お前、自分の店を潰したいのか?お前の存在自体危なくなるぞ」

 と、警備隊員は、亭主を脅した。亭主は、真っ赤な顔をして男どもを連れ帰って行った。

 「な、何者なんだあの連中は」

 引き上げて行った女郎屋の男どもを見てシーナに支えられて立っていたソフィアがラーズに抱き付いた。

 「ソフィアもう大丈夫だ、もうお前は自由の身だ」

 ラーズは、ソフィアを抱きしめて言った。レン達は、ラーズが借りている家に向かいソフィアを直ぐに寝かせた。小さいが、住み心地の良さそうな家だった。

 「ところで何でマルスやレンがランドールに?」

 と、ラーズは、レン達を見て言った。レンとマルスがヨーゼフとシーナを紹介しジャンパールで起きた事や今までの旅の流れを説明した。

 「そうだったのか…レンがトランサーの王子だったのか、レン、お前がトランサーに乗り込む時は俺も行こう」

 「ありがとう、ラーズ」

 「ありがとうございまする、ラーズ殿下」

 と、レンとヨーゼフが礼を言った。

 「ところでラーズ、女は病気だと聞いたが、かなり酷いのか?」

 マルスは、ベッドで寝ているソフィアを見て言った。ラーズの顔が暗くなった。ラーズは、自分とソフィアの馴れ初めをレン達に話した。

 「あいつ、親に八歳であの店に売られ十六になって直ぐに客を取らされて…元々身体が弱かったそうでな、気が付けば身体はボロボロだよ」

 「医者には見せたのか?」

 「一度だけ診てもらった事があったそうだ、その時にはもう遅かったらしい、死の病だよ」

 と、ラーズは目頭を押さえて言った。話している内に涙が込み上げて来たようだ。

 「あいつ、生まれてから何も良い事が無かったんだぜ、物心ついた時には借金取りに追われて借金の形に売られた揚句あげく、死の病にかかり…」

 部屋は、静まり返った。皆、深刻な顔をしていた。

 「そうだ、シーナお前の治癒の力でソフィアの病気治せないのか?」

 と、マルスが言ったが、シーナは、悲しそうな顔をして答えた。

 「ごめんねあにぃ、怪我は治せても病気は治せないの」

 「そうか、残念だな…」

 また部屋が静まり返った。ソフィアが激しく咳込みラーズが慌ててベッドに行き介抱した。そんな様子を見てレン達は、ラーズにインギ王の伝言を伝える気にならなかった。

 その頃、ソフィアが居た女郎屋では、亭主が店の男どもと話していた。

 「しっかし、あの男はいったい何者なんだ、警備隊の旦那達に聞いても何も答えねぇし」

 「そうですねぇ親分、でもここにソフィアを買いに来てた様子を見ると金回りは良さそうな感じですかねぇ」

 「どこぞの貴族のボンボンって所ですかねぇ」

 「だろうな、ソフィアみてぇな病持ちなど、もうどうでも良いが何かこう納得がいかねぇ、あの男に一泡噴かせてやりてぇもんだな」

 と、亭主と男どもは、自分の国の王子だと全く気付かず好き勝手な事を話していた。

 ソフィアの具合が落ち着いたのでレン達は、ラーズが借りている家に泊めてもらう事にした。翌朝、ソフィアをもう一度医者に診せようと言う事になり、南ランドールで一番大きな病院を訪ねソフィアを診てもらった。

 「先生どうなんですか、ソフィアの病は」

 「非常に残念だが、手の施しようがない…心穏やかに暮らしてその時を待つしかありませんな」

 と、医者は、ラーズに言った。ラーズは、やっぱり駄目かといった顔をした。ラーズとソフィアが診察室から暗い顔をして出て来て、診察室の前で待っていたレン達に言った。

 「やはり、治らないと言われたよ…その時が来るまで心穏やかに暮らせってさ…ちくしょう」

 「お、王子…私は王子と一緒に暮らせるだけで幸せです…わ、私の様なけがれた女を…」

 「ソフィア…何も言うな」

 ラーズがソフィアを抱きしめた。レン達は、ソフィアが愛するラーズと静かに暮らせる事を祈った。その時が来るまで…

 レン達は、ラーズの借家に戻った。そして、ラインに会いに行くと告げた。

 「えっ!?ライン公に会いたいのか」

 「ああ、会って何で南北に別けたのか聞きたい、会わせてくれ」

 と、マルスが言った。橋を守っていた兵士から聞いた占い師が気になると言い、ラインに会えるようラーズに紹介状を書かせた。

 「ホントはお前が一緒に来てくれたら早いんだが、ソフィアを放って置く訳にはいかん」

 「出来る限り傍にいてあげないとね」

 と、マルスとレンが言った。ラインには、明日会いに行く事にしてこの日は、ラーズの借家でのんびり過ごした。

 翌朝、レン達は、、ラーズが書いてくれた紹介状を持ってラインが居る館に向かった。レン達がラーズの借家から出て行くのを見届けて男がある方向に走って行った。あの女郎屋の亭主の子分だった。

 「連中出て行きましたぜ」

 と、子分が亭主に言った。

 「そうか、じゃああの家に居るのはあいつとソフィアだけだな」

 「いえ、他に男が三人ほど居ます」

 と、この子分は、昨日から家を見張っていて気付いた事を言った。

 「そうか、そんなの訳もねぇ、あんた頼んだぜ」

 と、亭主はあんたと呼んだ男に言った。男は、背が高く真っ黒なフード付きマントで身体を覆っている。イビルニア人だった。普通の人間なら一緒に居るだけで嫌な気分になるはずだが、性根が腐っている人間には何も感じないのだろう。亭主は、自分の子分とイビルニア人を連れラーズとソフィアが居る借家に向かった。近習の者が一人、家の前を掃除しているのが見えた。掃除が終わるのを待ち近習の者が家に入る瞬間を狙って近習の者の頭を子分が棍棒で殴りつけ気を失わせた。そして、ドカドカと家の中に入って行き次々と近習の者を襲った。ラーズは、やけに騒がしいと思いソフィアに様子を見て来るとソフィアの傍から離れようとした時、部屋の扉が乱暴に開いた。

 「おう、こんな所に仲良く居たか、この間はよくも恥をかかせてくれたなぁ、おかげで商売がやり難くなった、落とし前付けてもらうぜ」

 と、亭主が凄んだ。ラーズは、亭主たちを睨み付けて言った。

 「何の落とし前だ!話しは済んだはずだ、帰れ」

 「やかましい、おい連れて行け」

 と、亭主が言うと子分たちは一斉にラーズとソフィアに襲い掛かった。当然ラーズは抵抗する。子分達は倒せたが、イビルニア人には素手ではどうにも出来なかった。

 「ぐうぅぅぅ」

 と、イビルニア人に腹を殴られ膝立ちになった所を子分達に押さえられた。ラーズとソフィアは、女郎屋一味に連れ去られてしまった。

 その頃、レン達は、ラインの館前でラインの家来にラーズの紹介状を見せていた。

 「ははぁジャンパールの皇子様ですか、ライン様にお会いに?」

 「そうだ、早く取り次いでもらいたい」

 「では、しばしお待ちを」

 と、家来は、ラインに紹介状を見せに言った。しばらくして家来が戻って来て言った。

 「ライン様は、誰にも会わないと仰ってます、申し訳ありませんがお引き取り下さい」

 「何でだよ、ラーズに紹介状まで書いてもらったんだぞ、いいから会わせろ」

 「こ、困ります、グラウン殿が何と言うか…」

 「グラウン?」

 レン達は、顔を見合わせた。レン達はまさかと思い家来に聞いた。

 「グラウンって誰だ?」

 「ライン様の占い師ですよ」

 やっぱりと、レン達は思った。

 「なるほど、占い師ですか、ところでその占い師はどこから来たのですか?」

 と、レンが聞いた。家来の話しによると一年ほど前ラインは、従兄弟のインギ王から貰った剣を失くしてしまい悩んでいた。当初、盗賊に盗まれたと思っていて密かに家来達に捜査をさせていたが一向に見つからない。そんな時、グラウンと名乗る占い師が現れ占いで剣を見つけ出したそうだ。そんな事がありラインは、すっかりグラウンを信頼し何かと相談するようになったと言う。

 「南から来たと言ってました、南のどこかと聞いてもグラウン殿は答えないのです、ライン様も聞くなと仰られて」

 「ふ~ん南ですか」

 レンは、美しい小首を傾げて言った。ヨーゼフは、何か思い出そうとしていた。

 「分かった、また日を改めるよ」

 と、言ってレン達は、ラインの館を後にした。ラーズの借家に着いたレン達は、直ぐに異変に気付いた。借家の扉が半開きになっていた。扉を開けるとラーズの近習の者が頭を押さえて壁に寄りかかっていた。マルスが近習に問いかけた。

 「おい、どうした何かあったのか?」

 「マルス殿下、大変ですラーズ様がソフィア殿と共に何者かに連れ去られました」

 と、後ろから棍棒で殴られた近習の者は、女郎屋の連中だと分からなかった。

 「何?連れ去られただと」

 レン達は、とりあえず残りの近習の者を探し話しを聞いた。連れ去った連中が女郎屋の連中ともう一人背の高い真っ黒なフード付きマントを纏った者が連れ去ったと言う事が分かった。

 「イビルニア人を雇ったのか」

 「と、とにかく女郎屋に行ってみよう」

 と、レン達は、近習の者から女郎屋の場所を聞き向かった。女郎屋に着いたが閉まっていた。ヨーゼフが扉をバンバン叩いた。中から一人男が出て来て今日は休みだと言ってまた中に戻ろうとした時、ヨーゼフが引っ掴み聞いた。

 「ここの亭主はどこだ、言わぬとためにならんぞ」

 「な、何を、親分は忙しいんだ」

 と、子分は言った。レン達は強引に女郎屋に入り子分に問いただした。ヨーゼフは、二、三発子分を殴りつけ耳をこれでもかとばかりに引っ張って言った。

 「素直に吐かねば耳を引き千切るぞ、よいか」

 「ひいいぃぃぃ、言います言いますからぁ」

 と、子分は、亭主達が居る場所をしゃべった。間違いないか確かめ子分が間違いないと言ったので、良しとマルスが言って子分を思い切り殴りつけ気を失わせその場所に向かった。女郎屋からそう遠くはなく直ぐに到着した。倉庫の様な建物の中から男の唸り声と女の悲鳴が聞こえた。


  

 

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