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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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さらわれたカレン

 疲れた顔をしたインギ王は、玉座から立ち上がりレン達を歓迎した。

 「やぁ、マルス大きくなったな、ヨーゼフ元気にしていたかね」

 と、マルスとヨーゼフに言った。そして、レンとシーナを見た。

 「後ろの美少年と可愛らしい娘さんはどなたかな?」

 「はい、此方こなたはフウガ・サモン殿の孫、レン・サモン公爵、こちらがドラクーンの子シーナにござる」

 と、ヨーゼフは、レンをあえてフウガの孫と紹介した。インギは、フウガの孫と聞いて驚いた。フウガに孫が居ると言う事は知っていたが、想像とは遥かに違っていたからだ。そして、シーナにも驚いた。ドラクーン人が、外に出てくるなどイビルニアと戦争をした時以来無かった事だ。

 「フウガの孫か…ジャンパール人は皆、黒髪だろう…何故髪が赤い、んん?誰かに似ているな…」

 と、インギは、何か思い出そうとしていた。ヨーゼフは、インギに人払いを願った。インギは、ヨーゼフが何か大切な事を言おうとしていると感じ側近や侍従達を下がらせた。

 「どうしたのだ、こんなだだっ広い部屋で我々五人しか居なくなったぞ」

 「まずは」

 と、ヨーゼフは、改めてインギに宮廷式の挨拶をした。それにならってレンも挨拶をしシーナも見様見真似で宮廷式の挨拶をした。マルスはわざとらしく大げさに挨拶をした。

 「うむ、それでどうしたのだ師匠、人払いなどさせて」

 と、インギはヨーゼフを師匠と呼んだ。二十五年以上前、血気盛んだった若きインギは、イビルニアとの戦争に自分も行くと言って周りの反対を押し切り従軍した。その時、イビルニア人に殺されそうになった所をフウガとヨーゼフに何度も助けられた。鬼の様な強さの二人の剣技を見て弟子にしてくれと言った。最初は身分が違うから弟子には出来ませぬと丁重に断っていたが、二人の弟子になれないなら死ぬと言い出したので仕方なく弟子にしてやった。フウガとヨーゼフは、忙しい中、時間を作ってはインギに稽古をつけてやった。

 「インギ殿、先ほどこのお方をフウガ殿の孫と紹介したが、実は違うのじゃ本当は十五年前、ザマロ・シェボットの乱でお命を落とされたレオン様ヒミカ様の忘れ形見、レオニール・ティアック王子じゃ」

 と、ヨーゼフは、改めてレンを本名で紹介した。

 「そうか、誰かに似ていると思ったらレオン殿に…しかし、王子は十五年前に一緒に死んだのではなかったのかね?」

 と、インギは、言った。世間ではレオン、ヒミカ、レオニールはザマロに処刑された事になっている。ヨーゼフは、フウガが密かにレンをジャンパールに連れ帰って養育していた事を話した。

 「そうだったのか…なるほどレオニールが生きていると知ればザマロの奴、度胆を抜くだろうな」

 「この事は一切他言無用に願いたい、時期が来るまでの」

 と、ヨーゼフが頼んだ。インギは、師匠の頼みを断る訳にはいかないと言って応じてくれた。

 「ところでインギ殿、十四年前の事じゃがランドールに当時まだ若かったトランサー人二人が訪ねて来なんだか?」

 と、ヨーゼフは、テランジン・コーシュとシドゥ・モリアの事を聞いた。

 「十四年前?若い二人…ええっと、ああ思い出した、師匠の使いだと言ってたな、その二人がどうかしたのかね?」

 「探しておるんじゃ、ヘブンリーに行ったはずなんじゃが」

 「ああ、ヘブンリーに行くと言ってたな、何だあれから会ってないのかね」

 と、インギは、てっきり二人がヨーゼフに会っていると思っていた。ヨーゼフが今までの経緯いきさつを話した。

 「行き違いになったんじゃないのか?今頃サイファに居るかもな」

 と、インギは言った。ヨーゼフはそんなはずはないと言った。十四年もあの国境の村に居て訪ねて来なかった。無事にヘブンリーに行ったのかも分からない。

 「とにかく、ランドール国内に居るかもと思ってな、ところでこの国が北と南に別れたと聞いたがどうしたんじゃ?」

 と、ヨーゼフは話題を変えた。インギの疲れた顔がより疲れた顔になった。

 「ああ、そうなんだ、そうなんだよ師匠、あいつめラインの奴め…いったい何を思ったのか急に国を別けようと言い出して強引に南北に別けてしまったんだ、おかげで俺は毎日毎日…」

 インギがここ最近の多忙さをレン達に語り出した。

 「おまけにあのラーズの奴は…よりによって…ああ、もうやめようこんな話し気が滅入って来る」

 「何だよラーズがどうかしたのかよ」

 と、マルスが聞いた。ラーズとは、インギ王の次男坊である。インギはその話は止めだといった風に手を振った。

 「気になるじゃないか」

 と、マルスが言った時、扉を叩く音がした。インギが何だと大声で言うと扉が少し開いて側近の者が答えた。

 「ハープスター伯爵がお目通りを願っておりますが、いかがなさいますか?」

 ハープスターと聞いてレン達は、顔を見合わせた。マルスの股間を蹴った少女の執事も確かハープスターと言っていた。

 「師匠、話しはまた後で良いだろう、ハープスター伯爵を紹介しよう」

 と、インギは言って側近に通すよう伝えた。少し間が空いて恰幅の良い、いかにも人の良さそうな顔をした男が部屋に入って来てその後を少女が付いて来た。男と少女は、国王であるインギに挨拶をした後、レン達にも挨拶をした。少女は、ずっと下を向いていて顔を見せない。レン達は、まさかと思ったが顔を見せないし声も上げないので分からない。

 「国王陛下、大変なんです、我が領地を南の連中が占拠しまして息子夫婦が捕らわれてしまいました」

 と、ハープスター伯爵は、情けない顔をして言った。ランドールは川を境にして北と南に別れていた。ハープスター伯爵の領地は、北側の川の付近にありそこを占拠されたと言う。

 「何っ!?南の者はこちらに侵攻して来たと言う事か」

 と、インギは、驚いて言った。南北に別けてから臨戦態勢にはなっていたが、開戦の知らせを受けていないし宣戦布告もしていなかった。

 「ラインの奴め、とうとう一線を越えたな、分かった軍隊を送ろう」

 と、インギはハープスター伯爵に言い、側近の者に伯爵の領地を占拠している南の兵隊を追い出し捕らわれている伯爵の息子夫婦を解放するよう命じた。ハープスター伯爵は、ホッとした様子だった。

 「ところで陛下、このお方達は?」

 と、ハープスター伯爵がレン達を見て言った。

 「うむ、紹介しようこちらはジャンパール皇国イザヤ皇帝の次男マルス殿下だ、そして彼は亡くなったフウガ・サモン公爵の孫、レン・サモン公爵、そしてこのお方はトランサー王国のヨーゼフ・ロイヤー閣下、そして驚くなよ、こちらのお嬢さんは何とドラクーン人のシーナさんだ」

 と、インギは、丁寧に紹介した。ハープスター伯爵は、レン達をまじまじと見た。レン達は、伯爵と少女を交互に見ていた。

 「これ、カレン顔を上げて皆さんに自己紹介しなさい」

 と、ハープスター伯爵は、娘に言った。カレンと呼ばれた少女は伏し目がちでおしとやかに自己紹介しようと顔を上げた時、マルスが先に言った。

 「何だやっぱりお前だったのか」

 「えっ?」

 と、カレンは、マルスを見て叫んだ。

 「あぁぁ、お前はあの時の無礼者!」

 「何だもう知り合いだったのか」

 と、インギは、少し驚いて言った。マルスはやれやれといった顔をして言った。

 「こいつは、俺に助けられたくせに俺のキンタマ蹴り上げてレン達に悪態あくたいついて逃げたんだよ」

 「な、何ですと?これカレン、今殿下が仰った事は本当かね?」

 と、ハープスター伯爵は、娘を見て言った。カレンは、顔を真っ赤にして言った。

 「お、お前が私の気にしてる事を言うからだ、馬鹿っ!」

 と、言ってカレンは、部屋から飛び出した。マルスが追いかけようとしたが、ハープスター伯爵が止めマルスに謝罪した。インギ王は、マルスから事の次第を聞き大笑いしていた。ハープスター伯爵は、顔を真っ青にしていた。

 「何だそんな事があったのか、はははは、酷い目に遭ったなマルス、くくくく」

 「笑いすぎだよ」

 と、マルスは苦笑交じりに言った。その頃、カレンは城を飛び出して城下を早足で歩いていた。

 「何よ、王様の前であんな事…言う事ないじゃない、キンタ…」

 と、カレンは言いかけてさすがにはしたないと思ったのか口をつぐんだ。そして、歩く速度を落とし城下を歩いた。城下のあちらこちらに兵士達が居るのを見て、自分の家の領地が南ランドールの兵達に占拠されている事を思い出し急に不安になり、城に戻ろうとした時、後ろから声を掛けられた。

 「お嬢さん、ちょっと道を尋ねたいのですが」

 「えっ?」

 と、振り向くとそこに身なりの綺麗な男二人が居た。男達は、どこどこに行きたいのでそこにはどう行けば良いかカレンに尋ねた。カレンは、そこにはこの通りからと、歩きながら説明した。そして、人目が途絶えた瞬間、男達は、カレンの口をふさぎ路地裏へ引き込んだ。驚いたカレンは、当然抵抗するが男の力には逆らえず、そのままとある建物に連れて行かれた。

 「んーんー」

 カレンは、男に口を塞がれながらも必死で抵抗した。男達はお構いなしにカレンを縄で縛り猿ぐつわを噛ませた。

 「結構な上玉が手に入ったな、高値で売れそうだ、へへへ」

 「あの変態オヤジ達に無茶苦茶にされるんだろうな…この娘、あはは」

 カレンは、男二人の会話を聞いて自分がどこかに売り飛ばされる事に気付いた。

 「まぁ明日の夜まで時間はたっぷりあるし、ゆっくりしようや」

 「そうだな、しかしあのオヤジ達が言ってたような娘がこんな簡単に手に入るとはな」

 この男二人は、カレンを明日の夜までこの建物に監禁するつもりのようだった。カレンがさらわれてから数時間後、ハープスター伯爵は、城を辞し城下にある屋敷に帰っていた。カレンもそのうち帰って来るだろうと思っていたが、なかなか帰って来ないのでさすがに心配になり、人を使いカレンを探させた。

 「旦那様、カレンお嬢様が見つかりません、どこに行かれたかお心当たりはございませんか?」

 と、あの年老いた執事がハープスター伯爵に聞いた。ハープスター伯爵は、インギに相談しようと城に戻った。

 「ん?どうしたのだ伯爵、まだ何か用か」

 と、戻って来たハープスター伯爵を見てインギが言った。レン達もまだ城に残っていた。

 「陛下ぁ…娘がカレンが屋敷に帰って来ないのです」

 「んん?あれから何時間経つんだ、どっかで寄り道でもしてるんじゃないのかね」

 「カレンが行きそうなところは全て探させたのですが、どこにも見当たらないようで」

 「人さらいにさらわれたかも」

 と、突然シーナが言い出した。ハープスター伯爵は、驚いてシーナを見た。ヨーゼフは、余計な事を言うなと言わんばかりにシーナを睨み付けた。

 「何だよぉ、じいちゃんだって聞いたでしょ城下を歩いていた時に最近よく人さらいが出るって」

 「そそそ、それは本当かねお嬢さん、だ、だとしたらカレンは…」

 ハープスター伯爵の顔から血の気が引いているのが分かった。

 「とにかく、僕達も探そう」

 と、レンが言うとインギは、兵隊を使って良いと言ってくれた。そして、カレンの捜索が始まった。


 


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