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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
38/206

川辺の村で

 ドラクーンの都ドラゴニアを出て一つ目の町に到着したレン達は、カイエンらが龍神のお触れをドラクーン全土に触れ回っていた時、レン達の活躍も一緒に触れ回ってくれたおかげで、かなり厚遇された。泊まった宿に町長が挨拶に来たり、イビルニア人との戦闘の話しを聞きに来る者が来たりほとんど休めなかった。早々に一つ目の町を出てまた川を下り今度は、川辺の村で一泊する事になった。

 「この村って宿屋あるのかな?それらしき建物が全然見当たらないなぁ」

 と、レンが船着場から村の様子を見て言った。どこの国でも船着場の近所に宿屋はあるはずだが、ドラクーンでは見当たらない。

 「シーナ、どうなってんだぁ」

 と、マルスが船から馬を降ろしながら聞いた。

 「どこの村にも宿屋があるとは限らないよ」

 と、シーナは、当たり前の様に答えた。ドラクーン人は、龍に変身して空を飛べるので宿屋が無い場合は、空を飛んで次の村や町に行けば良いのだ。

 「若、いかがなさいましょう、また船に乗りますかな?」

 と、ヨーゼフは、レンに判断を仰いだ。臣下として主君に判断してもらおうと思った。レンが意見を述べようとすると村の者が声を掛けて来た。

 「旦那方はもしやイビルニア人を退治してくれた方々かね」

 「ああそうじゃが、何かね」

 と、ヨーゼフが答えた。するとその村の者は、ちょっと待っててくれと言いどこかへ行ってしまった。しばらくして村長らしき老人と一緒に現れた。

 「あんた達が古龍党の奴が言ってた人間達ですな、丁度良かった、どうかお助け下され」

 と、村長らしき老人が言った。この村に触れを出したのは、古龍党の者だった。レン達は、顔を見合わせ答えた。

 「何かあったんですか?」

 「半龍が出ましてな、困っているんです」

 「半龍なんてあんたらで何とかなるだろ?」

 「それが…」

 と、村の者と老人が言い難そうにしていた。二人とも尻尾があった。遠くの方で雄叫びが聞こえる。半龍が暴れているようだ。

 「とにかく行ってみよう」

 と、レン達は、村の者と老人に案内され半龍が居る場所に向かった。そこには、龍に変身したドラクーン人達が必死に暴れる半龍に鎖を掛けようとしている。半龍は、ほぼ黒龍化していた。

 「ありゃあシーナの時と同じじゃないか」

 「イビルニア人に何か細工されましたな」

 と、マルスとヨーゼフが言った。イビルニア人と聞いてドラクーン人達が驚いた。

 「な、何ですと?どう言う事じゃ」

 「半龍になる前に首が痛いとか言ってなかった?」

 と、シーナが自分の体験を話した。

 「そ、村長…」

 と、村の者が老人に指示を仰いだ。老人は、この村の村長でコルベを支持して来た。コルベの村の出来事を古龍党の者から聞いていたが、信じられなかった。

 「尻尾を切れば元に戻るかも知れません」

 と、レンは、不死鳥の剣を取り出しながら言った。マルスとヨーゼフは、辺りにイビルニア人の気配がしないか探っている。村長は、信じられないといった顔をして言った。

 「し、しかし半龍になってしまっては尻尾を切っても元には戻らないはずでは」

 「あの半龍状態がイビルニア人の仕業なら戻るかも知れません、どのみち殺さなきゃならないんでしたらやってみる価値はあると思いますが」

 レンは、冷静に言った。ほぼ黒龍化したドラクーン人が炎を吐いて暴れている。村長は、深いため息を吐きレンに頼むと言った。レンは、出来るだけ注意を自分から逸らして欲しいと頼んだ。龍の姿に変身したドラクーン人達が分かったと答え、ほぼ黒龍化したドラクーン人を取り押さえに掛かった。シーナも変身して手伝う。

 「レン、そいつは任せたぞ、俺とヨーゼフはイビルニア人が居ねぇか周りを見回ってくる」

 と、マルスは言って、ヨーゼフと辺りを警戒して回った。レンは、不死鳥の剣を鞘から抜き構えた。必ず尻尾を切り飛ばす機会があるはずだと、ほぼ黒龍化したドラクーン人にじりじりと迫った。暴れ狂う尻尾を取り押さえては、弾き飛ばされるドラクーン人、シーナは、思い切って尻尾を掴み空を飛ぼうとした。それを見た他のドラクーン人もシーナと一緒に尻尾を掴み空を飛ぼうとした。尻尾から持ち上げられたドラクーン人は、足が浮きバタバタしている。バタつかせる足をまた他のドラクーン人が取り押さえた。丁度、尻尾がピンと張った状態になった。レンは、今だと思い全速で走り尻尾を目がけて真横に不死鳥の剣を払った。尻尾が切り離れた瞬間あのシーナの時と同様に切り口からどす黒い霧が吹き出た。どす黒い霧は、何かの形になろうともがいている様に見えた。ほぼ黒龍化したドラクーン人はのたうち回っている。

 「シーナ、その霧を焼き払え」

 と、レンが叫んだ。シーナは、霧に向かって勢いよく炎を吐いた。霧は一瞬、紫の光を放ち消えた。のたうち回っていたドラクーン人が急に大人しくなった。そして、光を放ち元の姿に戻った。

 「やった」

 レン達が駆け寄った。村長は、震える手で元の姿に戻ったドラクーン人を揺り起した。

 「生きておるのか、しっかりしろ」

 「うううぅぅ…ち、父上…私はいったい…」

 元の姿に戻ったドラクーン人は、村長の息子だった。

 「良かった無事に戻れて、まだ尻尾がある方は、早急に龍神様の神殿へ行って尻尾を切ってもらって下さい」

 「ありがとうございます、ありがとうございます」

 と、村長は、息子を抱きしめ何度もレンに礼を言った。その頃、マルスとヨーゼフは、イビルニア人の気配を感じていた。

 「りますな殿下」

 「ああ、るな…どこだ」

 二人は、神経を研ぎ澄ませた。レン達から少し離れた場所で、周りは木に囲まれている。二人は、あの何とも言えない嫌悪感を感じながらイビルニア人を探した。刀は、既に抜いてある。練気もやっている。いつでも真空斬を放てる準備は出来ている。

 「そこかっ!?」

 と、ヨーゼフは、自分が立っている右側に真空斬を放った。バサバサと木の枝が飛び散った。そこから一人イビルニア人が飛び出して来た。物凄い勢いでヨーゼフに襲い掛かり間一髪攻撃を防いだ。マルスが加勢しようとした時、左側から他のイビルニア人も飛び出しマルスに襲い掛かった。

 「うおっ!あぶねぇ、この野郎」

 と、マルスがイビルニア人の撃剣を叢雲むらくもで撃ち払い蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたイビルニア人は、すぐさま体勢を整えてまたマルスに襲い掛かる。ヨーゼフの加勢どころではなくなったマルスは、真空突きを放った。真空波が弾丸の様に飛びイビルニア人の腹を貫通した。貫通した穴からドロドロと黒い内臓の様な物が垂れ出ているが、イビルニア人はお構いなしにマルスに攻撃を仕掛けて来る。

 「面倒臭ぇなぁ」

 と、マルスは言って、イビルニア人の首を刎ね飛ばした。残りは、ヨーゼフが相手をするイビルニア人だけである。ヨーゼフと相手のイビルニア人は、少し間を空けて睨み合っている。

 「ホホホホ、なかなかやるなぁ、さすがジルド様の顔に傷を付けた男だけある」

 「ふん、貴様は中位の者か?」

 と、ヨーゼフは、しゃべったイビルニア人を中位者だと見た。イビルニア人には、位があり下位の者は、言葉が話せず中位者か上位者と行動を共にする。単独行動が許されるのは中位者からであり会話も出来る様になる。

 「貴様の首を持って帰れば俺は上位になれる、きぃやぁぁぁ」

 と、イビルニア人が激しくヨーゼフに斬りかかる。ヨーゼフは、攻撃を受け止めているがやや押され気味であった。マルスが駆け寄りイビルニア人に斬りかかる。イビルニア人は、とっさに後ろに跳び下がりマルスとヨーゼフから距離を取った。

 「ヨーゼフ大丈夫か」

 「殿下、拙者は大丈夫でござる」

 「面倒だから二人で片付けよう」

 と、マルスとヨーゼフは、同時に真空斬を放った。イビルニア人は、真空斬をまともに受けバラバラになったが首だけが胴体から切れずに残った。

 「ぐ、ぐぐ…卑怯だぞ、人間め…」

 「貴様らに卑怯もクソもあるか、この国にどれだけ貴様らイビルニア人が入り込んでいる、申せっ」

 と、ヨーゼフが聞いた。イビルニア人は、ヘラヘラ笑って答えようとしない。マルスが腹を立てイビルニア人の顔を蹴った。蹴った拍子にイビルニア人が被っている仮面がはがれた。醜い顔があらわになった。同じイビルニア人でもジルドとは全く違う。

 「けっ、汚い顔だな」

 マルスが吐き捨てる様に言った。そこにレンとシーナが来た。レンは、バラバラになり首と胴体だけになったイビルニア人を見て顔色を変えた。

 「な、何でこいつがここに…おじいさんを傷付けた奴にそっくりだ…」

 「何だって?」

 マルスがイビルニア人の顔をまじまじと見た。

 「若、イビルニア人の中位者は皆、このような顔をしております」

 と、ヨーゼフが説明した。シーナが隣で落ちていた木の枝でイビルニア人の顔を突っついている。

 「そうなんだ、皆同じ顔か…でもジルドとは全然ちがうね」

 と、レンは、どうやってこの醜い顔を変えているんだろうと不思議に思った。

 「フフフ、俺を殺したって無駄だ、仲間がこれからもこの国にやって来ては尻尾を付けたドラクーン人をさらいに来る、キャキャキャ」

 と、イビルニア人が言った。何を聞いても無駄だと判断したヨーゼフがイビルニア人の首を刎ねた。この後、村人達を呼んで穴を掘ってイビルニア人の死体を穴に放り込み龍に変身した村人達が炎を吐いて死体を灰になるまで焼き埋めた。

 「あなた方のおかげで息子も元に戻り、イビルニア人まで退治してもらい何とお礼を言って良いか分かりません」

 と、村長がレン達に言った。村長は、村人達に宴の準備をさせた。レン達は、大いにもてなされこの日は、村長宅に泊めてもらった。

 「村長殿、村の者全員の尻尾を切るようにな、イビルニア人に利用されるだけじゃぞ」

 「尻尾なんて無い方が楽だよ」

 と、ヨーゼフとシーナが村長に言った。村長は、自分の尻尾を見て力無く答えた。

 「そのようですなぁ、今日にでも村の者を連れて都に行きます」

 レンとマルスは、旅支度を整えていた。支度を終えレン達は、村の船着場に向かった。村人達がぞろぞろとレン達に付いて来た。レン達を見送ろうとしてるのだろう。

 「何か恥ずかしいね」

 と、レンが頭を掻きながら言った。船着場に到着すると丁度、船も到着しており直ぐに乗り込んだ。船が動き出すと付いて来た村人達が口々に叫んだ。

 「ありがとう、お気を付けてーー」

 「尻尾は必ず切りまーす」

 レン達が見えなくなるまで村人達は見送った。

 「しかし、行く先々でイビルニア人と遭遇するなぁ」

 と、マルスがぼやいた。

 「そうだね、どこに行っても奴らは居るんだ、きっとランドールにも居るよ」

 「左様、あの時ザマロめが封印を解かねばこんな事にはならなかったものを…」

 ヨーゼフは、封印に関わった一人なので封印する大変さを分かっている。船は、川を緩やかに進み都から三つめの町を目指している。レンとマルスとヨーゼフがぼんやりと水面を眺めていると、聞き覚えのある妙な鼻歌が聞こえて来た。シーナがカイエンの代わりにあの妙な鼻歌を歌っていた。



 

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