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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
33/206

修行

 翌日、マルスがシーナの傷を治す力の練習台となって神殿で寝ている時、神殿の裏庭でレンは、ヨーゼフから真空斬しんくうざんの放ち方を教えてもらっていた。

 「若、まずは気を練気れんきを修得せねばなりませぬ、フウガ殿から聞き及んではございませんか」

 「そう言えばおじいさんが言ってたよ、そろそろ練気を使えるように稽古せなばって、でも教えてもらう前に…」

 と、レンは言って暗い顔になった。ヨーゼフはしまったと思い、気を取り直して慌てて言った。

 「ま、まぁとりあえず、そこに胡坐あぐらをかいでお座り下さい、手は膝の上に…左様、目を閉じへその辺りを意識して光の玉を想像して下され」

 「うん」

 と、レンは、ヨーゼフに言われた通りにやってみた。しばらくやっていると眠気が襲ってきたが我慢して続けた。ヨーゼフが頃合いを見て話す。

 「光の玉を想像したら今度はその玉が両手にあるとお考え下さい、手が温かくなってくるはずです」

 レンは、言われた通りに想像してみたが、なかなか上手くいかない。額に薄っすらと汗が滲んでいる。

 「駄目だ、全然感じない」

 と、レンは、自分の両手を見て言った。

 「若、焦る事はありませぬ、いきなり出来る事ではございませんぞ」

 と、ヨーゼフはレンを励ました。

 「でも、マルスはあの時どうして出来たんだろう」

 「ははは、あれは偶然でございましょう、今、殿下がやってみても何も起こりませんぞ」

 「うん、でも偶然でも出来たんだから凄いな…僕も頑張るよ」

 と、レンは、また気を練る練習を始めた。ヨーゼフはレンの素直さに感心しフウガに育てられて本当に良かったと思った。その頃、マルスは、シーナの練習台として治療されていた。

 「痛ぇ~痛ぇ~よぉ~」

 と、マルスがわざと大げさに痛がった。シーナは、シーナなりに一生懸命やっているがなかなか上手くいかない。

 「兄ぃ、ちょっと静かにしてよ、集中出来ないよ」

 「そうか、悪い悪い、早く治してくれよ、俺も真空斬の練習がしたいんだから」

 マルスは、偶然出せた真空斬をいつでも出せる様になりたかった。

 「分かってるよ、ぼくだって早く龍神様みたいに傷を治せる様になりたいんだから」

 と、シーナは言ってマルスの傷付いた脇腹にかざす手に力を込めた。治したいと強く思った。するとシーナの手が少し光った。

 「おお、良いぞ」

 「んんん~~~~はぁぁ~」

 と、シーナは、マルスの脇腹に手をかざすのを止め椅子にもたれた。相当疲れる様だった。

 「今のは良かったんじゃないか」

 「うん、で、でも凄く疲れるよ」

 シーナは、息を切らしながら言った。龍神とドラコは、朝早く神殿に来た古龍党の連中の尻尾を切る儀式で忙しい。都中に昨日の出来事を触れ回っていたカイエンが帰って来た。

 「おうやってるなシーナ、兄ぃの治療が終わったら今度は変身の練習だ、良いな」

 と、言って龍神が居る儀式の部屋に行ってしまった。

 「ええ~今度は変身の練習かぁ」

 シーナは、げんなりして言った。マルスは、笑いながら励ました。

 「ははは、忙しくて良いじゃないかシーナ、まぁ頑張れよ」

 「他人事ひとごとだと思ってぇ」

 と、シーナは言ってマルスの傷口を指で突っついた。

 「いってぇ~」

 「へへ~んだ」

 シーナは、マルスの居る部屋から出て行った。そこへカイエンが戻って来た。

 「あれ、シーナの奴どこへ行きやがった?」

 「俺の傷突っついて出て行きやがったよ」

 と、マルスが脇腹を指差し答えた。

 「なぁカイエン早く治してくれよぉ」

 「おおっと、そいつは出来ねぇんだな兄ぃ勘弁しちくり、龍神様から言われてんだ、シーナにゃ早く治療と変身が出来るよう練習させろってね」

 「で、俺が練習台ってわけか…はぁ~俺も早く真空斬の練習がしたいんだがな…」

 と、マルスは、しょんぼりして言った。

 「ところで兄ぃ、殿様と旦那はどこに?」

 「ああ、神殿の裏庭にいるんじゃないか真空斬の練習をしてるはずだぜ」

 「そうかい、ちょっくら行ってくらぁな」

 と、カイエンは言って、変な鼻歌を歌いレンとヨーゼフが居る神殿の裏庭に向かった。

 「しっかし、あの鼻歌何だろう…」

 と、マルスは、カイエンの鼻歌がずっと気になっていた。神殿の裏庭では、レンがようやく練気のコツを掴んだ様だった。

 「ヨーゼフ感じるよ、両手が温かくなってきたよ」

 「ほほほ、さすが若様でござる、その感覚をどうかお忘れなく」

 「うん」

 と、嬉しそうにレンは、ヨーゼフを見た。そんな様子をシーナは、ぼんやりと眺めていた。そこへカイエンが現れシーナの後頭部を引っ叩いた。

 「こらっシーナ、おめぇも殿様見習って治療と変身の練習をしやがれってんだい」

 「痛いなぁ~ぼくは少し休憩してただけだよ」

 と、カイエンに引っ叩かれた後頭部をさすりながらシーナが言った。カイエンは、シーナに厳しい。先ほどまで静かだった裏庭が急に騒がしくなった。レンとヨーゼフは、顔を見合わせて笑った。そして、レンとシーナは、ヨーゼフとカイエンに見守られながら練習に励んだ。その様子を龍神とドラコが神殿の窓から見ていた。

 「龍神様、シーナは大丈夫でしょうか?」

 と、ドラコは歳の離れた妹のシーナの出来の悪さを心配していた。

 「大丈夫じゃよドラコ、お前さんの妹だ心配はいらんよ、シーナは幼少の姿で長い事居たからのぉ時間は掛かるわい、シーナにはレン殿達に付いて行き外の世界を勉強してもらわんといかんからの」

 龍神は、シーナをレン達の旅の仲間にしようと考えていた。ドラクーン国は、数千年の間、ヘブンリーの天の民や隣国のロギリア帝国以外の国とは国交を結ばなかった。イビルニア国の台頭で一時的に人間と手を結ぶ事はあったが基本的には、人間との付き合いはなかった。ドラクーン人は、本来人間嫌いであるが、それを少し変える事件が起きた。レンが生まれる十年前に終決したイビルニア国とイビルニア国に与する国との戦争である。戦争は、二十年近く続いた。その戦争の際、人間の力では限界を感じたフウガやヨーゼフ、その他の軍人たちは、ドラクーンやヘブンリー、ロギリア帝国と言ったイビルニアとは、独自に戦っている多種族の協力を求めた。その時、ドラクーンに協力を求めに来たのがフウガとヨーゼフだった。龍神は、協力を拒んだがフウガとヨーゼフの熱意に根負けして共に戦う事を約束した。コルベなど古い考えを貫いているドラクーン人からの批判は激しかった。神殿を焼打ちしようと言う者まで現れる始末だった。しかし、龍神は一歩も引かずフウガとヨーゼフの人柄を見て決めたと言った。

 「そうじゃ、思い出すのぉ…あの頃を」

 と、龍神は、フウガとヨーゼフと初めて会った時の事をしみじみと思い出した。人間も捨てたもんじゃないと思えたのだ。

 「我々ドラクーンの民ももう人間を嫌う時代ではなかろう、若い者には大いに人間と付き合い共に繁栄する時代を築いてもらわねばのぉ」

 と、龍神は、神殿の窓から真空斬の練習に励んでいるレンを見て言った。外が暗くなりレン達は、練習を止め神殿の食堂に向かった。

 「ああぁ腹が減って死にそうだぜぇ」

 と、カイエンは、食堂に入るなりテーブルに並んだ料理をむしゃむしゃと食べ始めた。

 「これ、カイエン行儀が悪いぞ」

 と、龍神が叱ったがカイエンはお構いなしに料理を食べまくっている。その様子をマルスが恨めし気に見ていた。脇腹を怪我しているのでまともな料理が食べられず、離乳食の様な物を少し食べさされていた。皆が席に着き食べ始めてしばらくして龍神がシーナに言った。

 「ところでシーナや、治療と変身の技の方はどうかな、上手くいっとるかいな」

 「なかなか上手くいかないよ龍神様ぁ」

 「ふむ、あまりのんびりとしておれんぞ、マルス殿の傷が治りレン殿とマルス殿が真空斬を放てるようになればシーナ、お前にはヨーゼフ達と旅に出てもらう」

 「えええええぇぇぇ?!」

 シーナは、目を輝かせて驚いた。

 「ホントに、ホントに一緒に行って良いの?龍神様ぁ」

 「ああ、良いとも、その代わりちゃんと治療と変身の技を修得するのじゃぞ」

 「良いなぁ良いなぁ~俺っちも一緒に行きてぇなぁ」

 と、カイエンは、食べるのを止め羨ましがった。

 「すまんのぉカイエン、お前さんにはこのドラクーンでやってもらわねばならぬ事が沢山あってのう」

 と、龍神は、申し訳なさそうに言った。カイエンもそれは十分に分かっている。

 「でもよでもよぉ、龍神様ぁレンの殿様がトランサーに敵討ちに行く時は俺っち何が何でも行くぜぇ、俺っちもそのザマロって野郎、ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇや」

 と、カイエンは、拳を握り熱弁した。そう言ってくれたカイエンにレン達は感動した。

 「ありがとうカイエン、その時はよろしくね」

 「お前さんが居れば百人力じゃ」

 「ああ、頼んだぜカイエン」

 「へへ、任せなって」

 夜も更けて行き最後にシーナがマルスの治療をして皆、寝る事にした。翌日からまたレンは、朝早くヨーゼフと真空斬の練習を始めた。マルスもシーナの治療に技の練習台になっている。シーナは、それが終わると今度は、変身の技の練習と忙しいが、龍神にレン達に付いて行って良いと言われてから俄然やる気を出した様だった。そして、レン、マルス、シーナの若者達の修行の日々がしばらく続く事になる。

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