古龍党
シーナがカイエンの悪口を延々とレン達に話していると尻尾を切ったセージ家族を連れて龍神とドラコが戻って来た。
「無事に終わったわ」
と、龍神がにこやかに言った。セージ達も歩き辛そうにしていた。息子のレンジは、お尻を押さえてフラフラしている。
「あれ?レンジは大きくならないんだな」
と、マルスがレンジの頭を撫でながら言った。
「ああ、レンジは普通に子供だよ」
と、セージが言った。シーナが気まずそうな顔をしている。
「じゃあどうしてシーナは急に大きくなったんですか?」
レンがシーナを見て言った。ドラコがシーナを見て呆れたように答えた。
「こいつは自分で自分に呪いを掛けて成長しないようにしたんだよ」
「ええ?そんな事が出来るんですか」
「一つ間違えれば命取りだよ」
と、ドラコは、妹であるシーナの頭を叩いた。シーナは、ふくれっ面で叩かれた頭をさすった。大人になりたくなかったシーナはその昔、神殿内にある古い本などを保管している部屋で遊んでいた時、偶然ある禁書を見つけた。その禁書には、あらゆる呪いの方法が書いてありこれまた偶然に成長を止める呪い方を見つけてしまい、書いてあるやり方で鏡を見て自分に呪いを掛けた。やり方を少しでも間違えれば鏡に吸い込まれ永久に出て来れない事になっていたかも知れなかった。
「何と言う危ない事をしたんだ」
ヨーゼフが呆れ顔で言った。
「でも無事に元の姿に戻って良かったじゃないか、俺は分かるぜシーナの気持ちが、今は思わないが子供の頃は大人になんかなりたくないと思った事があったからな」
と、マルスがしみじみと言った。
「さっすが兄ぃ話しが分かるね」
と、シーナがニヤニヤしながら言った。
「調子に乗るな」
と、また兄ドラコに頭を叩かれた。
「ところで龍神様よぉコルベはどうするんですかい、ジルドって野郎はコルベの村に居るぜ」
カイエンが腕組して言った。
「おお、そうじゃったな、行かねばなるまい…あやつの村に」
「コルベ様がどうかしたのですか?」
と、セージが聞いた。セージ家族が住む東の村は、コルベ率いる古龍党を支持する者が多くセージもかつては尻尾を切ってはいけないと思っていた一人だった。
「あの野郎、イビルニア人とつるんでたんだよ」
と、カイエンが吐き捨てる様に言った。セージは、信じられないと言った顔をした。
「カイエン、コルベの村に行こう、ドラコや神殿を頼んだぞ」
「龍神様、僕達も行きます」
と、レンが言った。
「これはドラクーンの問題、お前さん達には関わりのない事じゃと言いたいところじゃが味方は多い方が良い、是非お頼み申す」
と、龍神がレン達に頭を下げた。
「龍神殿、水臭いではないか、コルベと言う者の事はよう分からんが、そやつの居る村にイビルニア人が居ると分かっていてわしらは黙って見過ごす訳にはまいらんからのぉ」
ヨーゼフは、旧知の龍神に言った。そして、龍神達は、ドラコとシーナ、セージ家族を神殿に残してコルベの村に向かった。コルベの村は、都より少し離れた場所にある。
龍神とカイエンは、龍の姿に変身して空を飛んでいる。レン達は、馬に乗って龍神達を追った。
「殿様ぁ、もう直ぐコルベの村に着くぜぇ」
と、カイエンが空中から叫んだ。レン達は、馬の歩みを緩めた。龍神とカイエンは、地上に降り元の姿に戻り歩いた。レン達も馬から降り歩いてコルベの村に近づいた。適当な場所を見つけ馬を繋いで村の入り口まで近づくと村は物々しい空気で包まれている事に気付いた。古龍党の連中は皆、武装していた。
「おい、えらい事になってるな…ありゃあ簡単に村に入れないぞ」
と、マルスが村の入り口の手前の木陰から見て言った。
「いや、堂々と入りますぞい」
龍神は、そう言って村に入って行く。カイエンも後に続いた。レン達も後を追った。コルベの村では大騒ぎとなった。
「りゅ、龍神殿ではないか、カイエンまで何の用だ?!に、人間まで居るじゃないか」
武装した古龍党の連中がレン達を取り囲んだ。
「何をしている、お前さんらの親分に会いに来たのじゃ通してもらうぞ」
「何の用で来たのだ、コルベ様は今取り込み中だ」
「うるせえ、通せっつてんだよ、退かねぇか」
カイエンが目の前に居た古龍党の者を突き飛ばした。
「こいつっ!」
古龍党の連中が一斉にレン達に手にしている槍を向けた。レン達も刀に手をかけた。
「止めんかっ、お前さんらと争うために来たのではない」
龍神が制し古龍党の連中に言った。
「良いかよく聞け、お前さんらの親分はイビルニア人とつるんでおる、何か良からぬ事をしようとしている、それを止めに来た」
「何?イビルニア人と…何を馬鹿な事を」
「何じゃ知らんかったのか」
龍神は、古龍党の連中に神殿で起きた事を話した。古龍党の連中の顔色が変わって来た。
「で、ではコルベ様はジルドとか言うイビルニア人に利用されていると言うのか」
「残念ながらそのようじゃのう、で、お前さんらはどうする?このままお前さんらもイビルニア人に利用されるかいの」
古龍党のドラクーン人達が顔を見合わせて口々に話し合っている。
「と、とにかく、我々はコルベ様に確認する、ここで待っていてくれ」
「そんな悠長な時間は無い、皆で行くぞ」
と、龍神は、半ば強引に先に進んだ。レン達も後に従った。古龍党の連中は、レン達を取り囲みながら歩いた。そして、コルベの住む屋敷前に来た。
「コルベよ、門を開けろ、わしじゃエルドラが参ったぞ」
と、龍神は、自分の名前を叫んだ。門が勝手に開いた。龍神とカイエンが先に入って行った。レン達は、古龍党の連中に取り囲まれながら門を潜った。大きな庭の真ん中にコルベがジルドと一緒に居る。古龍党の連中がそれを見て青ざめた。
「コ、コルベ様、その者は…一体」
「ふむ、イビルニアの同志じゃ」
「えっ?」
コルベはジルドを同志と呼んだ。
「エルドラ、久しぶりだな、また人間を相手にしているのか…貴様、いつまで経っても変わらんな」
「おお、変わらんぞわしは、変わったのはお前さんの方じゃな、尻尾を切るなと言ったり大昔のドラクーンの掟がどうとか我々崇高なドラクーンの民はと言ってイビルニア人と手を組むとは…」
龍神は、そう言うとジルドを指差した。ジルドが嘲笑った。
「尻尾を切らずに居て半龍になってしもうた可哀想な連中はどうした?」
「あ~あ、半龍達はイビルニアに行ってもらったよ」
と、ジルドが答えた。龍神には、何をするか見当はついている。
「コ、コルベ様、半龍達は元に治せるんじゃなかったのですか、何故イビルニアに…」
古龍党の者がコルベに聞いた。コルベは笑いを必死で噛み殺している様子だった。
「は、半龍の者らはジルド殿の役に立ってもらう事にし、した、くくく」
「馬鹿な…」
龍神は、呆れた。コルベは半龍になった者を元の姿に戻せると偽っていた。ドラクーン各地で半龍になった者を集めてイビルニアに密かに送っていたのだった。事実を知った古龍党の連中は、もう何を信じれば良いか分からなくなっていた。
「そ、そんなコルベ様…」
「何をしている、さっさと龍神達を捕えぬかっ」
と、コルベが怒った様に言った。古龍党の連中は、どうして良いか分からず手に持っていた槍をその場に捨て言った。
「コルベ様、やはりおかしいですよ、何故イビルニア人と手を組むのですか?我々はあなたには従えません」
「ふん、わしを裏切ると言うのか…まぁ良いわ、精鋭達は既に揃っている、お前達にはもう用はない…死ね」
と、コルベは言って紫の光を放ち黒龍に変身した。それを見て龍神とカイエンも変身した。
「皆、下がっておれ」
龍神が叫んで黒龍に変身したコルベに組みかかった。レン達も刀を抜き臨戦態勢に入った。カイエンは、古龍党の連中を睨み据えて言った。
「見な、あれがてめぇらの親分の正体よ、イビルニアの悪意に染まっちまったぁ」
「そ、そんな馬鹿なコルベ様が…」
ドラクーンの古き伝統文化を守り生きていると信じてコルベを崇拝して来た古龍党の連中こそ裏切られたと思った。古龍党の連中も龍の姿に変身した。
「我々は龍神殿にお味方する」
「はははは、貴様ら雑魚が何人居ようと知れた事、出て来い者共」
コルベが叫ぶと屋敷からぞろぞろとドラクーン人が出て来た。コルベが精鋭と呼んだ者共だろう。
「皆殺しにせよ」
と、コルベは、龍神に組み付かれながら言った。龍神は、そうはさせまいとコルベを精鋭達に向かって投げ飛ばした。精鋭達も龍の姿に変身してコルベを受け止めた。ドラクーン人同士の戦闘が始まった。
レン達は、ジルドを囲んだ。ジルドがレン達を見て言った。
「ふん、龍は龍同士で戦えか…」
「ああ、ドラクーン人を斬るのは心が痛むが、お前らイビルニア人を斬るのは全く心が痛まねぇ」
と、マルスが叢雲の切っ先をジルドに向け言った。レン達も戦闘に入った。カイエンと古龍党の連中が精鋭達を相手に戦った。大混戦となっている。
「コルベよ、何故イビルニア人と手を組んだ、何を企んでおるんじゃ」
「ふん、貴様こそ何故人間と手を組む、欲深く、自分たちの領土を広げようと戦争を起こし殺し合う様な連中に何故加担する」
龍神とコルベは互いに睨み合い言った。空気がピリピリしている。龍神は、シーナを相手にした龍神ではなく本気の龍神がそこに居た。
カイエンと古龍党の連中が精鋭達を相手に奮戦していた。古龍党の数人はもう殺されている。カイエンは、精鋭の一人を討ち取り、次の精鋭と戦ったいた。
「てめぇらいい加減目を覚まさねぇか」
と、言って精鋭を殴り倒したカイエンは、押され気味の古龍党の者に加勢した。
「ほほう、龍神めさすがにコルベを相手にするには本気を出さなければならぬようだな」
ジルドは、落ち着いて言った。その様子に腹を立てたマルスが一気に斬りかかった。
「おい、どこを見ている相手は俺達だぜ」
「ふふふ、そぉ~だったな」
と、ジルドは言ってマルスの攻撃を弾き返した。ジルドは、武器を持っておらず両腕に気味の悪い手甲だけをしていた。レン達は、じわじわ間合いを詰めては、攻撃を仕掛けたが全て気味の悪い手甲で弾き返された。
「そろそろ、わしらも始めるかエルドラ」
と、コルベは、龍神に言って襲い掛かった。