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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
29/206

儀式

 「待っておったぞ、ヨーゼフ」

 と、老人の姿をしたドラクーン人は、言った。

 「やぁ龍神殿、お久しゅうござる」

 と、ヨーゼフは、言って頭を下げた。レン達も続いて頭を下げた。

 「ほほ、そちらのお若い方はジャンパールの若君と…」

 と、龍神は、初めて会うはずのマルスの素性を言い当てレンをじっと見つめた。マルスは、何で知ってるんだと言った顔をした。

 「君はトランサーの…」

 「レオニール・ティアック王子でござる」

 ヨーゼフが龍神の言葉じりを取って言った。龍神は、うんうんと頷き悲しい顔をした。

 「おお、レオニール殿か、両親の事は本当に気の毒に思う、しかしフウガのおかげで助かった、両親の分もそしてフウガの分もしっかり生きなさい」

 と、龍神は、レンの肩に手を置いて言った。全て知っている様子だった。

 「ところで龍神殿、今日こそ良い返事を貰い受けに来たぞ」

 「おおその事じゃ、ヨーゼフ協力しよう、我々ドラクーン人は、今一度イビルニアの者共と戦おう」

 と、龍神は、以前からヨーゼフにトランサー王国奪還後、イビルニア国と戦争になった時の協力を頼まれていた。ヨーゼフが今まで龍神に会いに来て協力を頼んでいた時は、返事をうやむやにいていたが、ここ最近になりイビルニア人の活動範囲が、ドラクーンにまで及んでいる事を深刻に考えた龍神は、ヨーゼフの頼みを受け入れる事にしたのだ。

 「今まで返事をうやむやにして悪かった、わしらドラクーン人は本来、人間とはあまり関わり合いになりたくないからのぉ」

 「俺っちは別だぜ、俺っちはもっと人間の友達が欲しいからよ」

 「ははは、それは嬉しいな」

 と、ヨーゼフが笑いながら言った。

 「そうだ、シーナこっち来い、ほれ龍神様に尻尾切ってもらうんだろ」

 カイエンは、シーナの手を引き龍神の前に立たせた。龍神の隣りに居た屈強な身体のドラクーン人がシーナを見るなり拳骨で頭を小突いた。

 「馬鹿者、どこをほっつき歩いていた、どれだけ心配を掛ければ気が済むのだお前は」

 「ご、ごめんなさいドラコお兄ちゃん」

 シーナは、小突かれた頭を両手で押さえ涙を浮かべながら謝った。カイエンが今までのシーナの行動をドラコに説明した。ドラコは、レン達に礼を言った。

 「今までシーナの面倒を見てもらいありがとう、龍神様と同じく私も協力させてもらう」

 「それは心強い、宜しくお願いつかまつる」

 と、ヨーゼフは、言った。カイエンは、龍神に古龍党の話しをした。そして、ここに来る途中イビルニア人に遭遇した事も話した。

 「はぁ、なるほど、駄目だったか…東の村の者も気になるのぉ、あそこは古龍党の意見に賛同する者が多いからのぉ」

 と、龍神は、ため息交じりに言った。東の村はセージ家族が住む村である。

 「とにかく今はシーナの尻尾を切る事が先決じゃ、シーナ覚悟は良いな?」

 龍神は、シーナの頭を優しく撫でながら言った。シーナは、震えていたが大きく頷いた。早速儀式を行うため神殿の奥にある部屋にレン達は、移動した。部屋の中央には、何やら魔法陣の様なものが描かれている。シーナは、その魔法陣の中央に立たされた。龍神が尻尾を切るための短刀を取り出した。その短刀見たシーナは、恐怖で逃げ出した。

 「あっ!こら、逃げるな」

 と、カイエンが追いかけようとした時、レンが僕が行くと言って追いかけて行った。レンには、不思議とシーナが隠れている場所が分かった。

 「やっぱりここか、シーナ出ておいで、僕だレンだよ」

 シーナは、神殿の奥にいくつかあった部屋の良い匂いがした部屋に隠れていた。シーナは、部屋の奥からひょっこり顔だけ出して言った。

 「どうしてここって分かったの?」

 「なんとなくさ」

 と、レンは、言ってゆっくりと部屋に入りシーナの隣りに座った。

 「逃げちゃ駄目だよ」

 「だってあんなの見せられたら怖くなって…」

 と、シーナは、短刀の事を言った。レンは、うんうん頷いてシーナの肩に手をやり言った。

 「そうだね、確かにあれは怖いな、でも君も見ただろ、カイエンの村でトカゲの化け物みたいになった奴を、尻尾があればああなる可能性があるんだから、やっぱり切らないと」

 「でもならないかも知れないもん」

 シーナは、自分の両膝に顔を埋めて言った。

 「そうかも知れないけど、もしなったらシーナがシーナじゃなくなるんだよ、消せる可能性なら消した方が良いよ、僕なら直ぐに切っちゃうな」

 「うう…」

 シーナがレンにしがみ付いた。レンは、優しく抱きしめて言った。

 「ね、シーナ、ちゃんと儀式を受けよう、僕もマルスもヨーゼフもあんなトカゲの化け物みたいになったシーナを見たくない、それにカイエンだって乱暴だけど君を守ってくれたじゃないか、みんなシーナの事が好きなんだよ、だから心配するんだ」

 「ホントに?」

 と、シーナは、レンの胸の中で言った。

 「本当だよ、だからもう行こう、皆待ってる」

 と、レンは、言って立ち上がった。シーナもゆっくり立ち上がりレンに手を引かれ良い匂いのする部屋を出た。部屋を出た瞬間レンをあの例の嫌悪感が襲った。

 「何だ?!」

 と、レンは、神殿内を見まわした。何も感じない。

 「どうしたの?」

 シーナがレンを見上げて言った。

 「ん、今一瞬…気のせいか…何でもないよ」

 と、レンは、シーナに余計な心配を掛けさせまいと思い嘘を言った。

 (あの感覚、この神殿内に居るのかな…だとしたら)

 と、レンが考えながら奥の部屋に向かった。

 「痛いっ!」

 シーナが突然首筋を押さえた。

 「どうしたんだ?」

 レンは、しゃがんでシーナの押さえる首筋を見た。

 「今、チクッてしたんだ」

 「…何もなってないようだけど、大丈夫かい?」

 「うん、あれ?もう痛くないや」

 「そっか、じゃあ行こう」

 と、二人は、奥の龍神達が待つ部屋に行った。シーナは、ごめんなさいと言って部屋に入った。ドラコにまた頭を小突かれ魔法陣の中央に連れて行かれた。レンは、マルスとヨーゼフそしてカイエンに先ほど感じた事を話した。

 「まさか、この神殿内に…」

 「うん、気のせいだとは思うんだけど」

 「そりゃ殿様の気のせいだぜ、この神殿内に入って来れるイビルニア人なんざ居ねぇさ」

 レンは、龍神にイビルニア人がこの神殿内に居るかも知れない事と先ほどのシーナが急に痛がった事を話した。

 「イビルニアの…ふむ、何も感じんがレン殿の気のせいではないかね」

 「だと良いんですが」

 「ふむ、シーナどこが痛かったのじゃ?」

 と、龍神は、念のためシーナの首筋を確認した。

 「ふぅむ、何もなっとらんようじゃな、気分はどうか?」

 「うん、もう痛くないし大丈夫、でもちょっと怖い…」

 「そうか、なら大丈夫そうじゃな」

 と、龍神は、言って儀式を始めた。レン達は、壁際に並んで見た。シーナは、短刀を見ると怖くなるのでずっと目を閉じていた。龍神は、何やら訳の分からない呪文を唱えて短刀の刃をシーナの尻尾の根元に当てた。シーナが一瞬ビクッとした。

 「偉大なるドラクーンの先人達よ、我らが証でもある尻尾を切る事をお許し下さい、そしてこのシーナの幸福あらんことを」

 と、龍神が厳かに言ってシーナの尻尾の根元に当てた刃を押し引いたその瞬間、事態は急変した。切り口からどす黒い禍々しい霧の様なものが吹き出した。霧の様なものがシーナを包み込んだ。

 「何じゃ?」

 龍神が切り口をよく見ようとした瞬間、ドンと大きな音と共に龍神と傍に居たドラコが吹っ飛ばされた。宙に浮き紫色の光の玉のようなものの中でシーナがもがいている。

 「シーナッ!」

 レン達がシーナに近寄ろうとした時、カッとシーナの目が見開かれ、けたたましい耳をつんざく様な声で叫び、またドンと大きな音を出しレン達を吹っ飛ばした。そして、黒い霧の中から龍の影が現れた。

 「いてぇ何だあれは?」

 「シーナ…」

 壁に叩きつけられたレン達は、驚愕した。目の前にカイエンが龍に変身した時よりもさらに大きい真っ黒な龍がそこに居たのだ。

 「こ、これは…」

 龍神は、考えた。儀式を行うのが遅すぎたのか、違う。手遅れなら半龍になるだけだが、目の前のシーナには、何か別の禍々しい力が働いている。先ほどレンが話したイビルニア人の気配とシーナが急に首筋を痛がった事に関係するのか、龍神は、シーナがイビルニア人に何か細工をされたと気付いた。

 「レン殿、わしが甘かった、シーナめイビルニア人に何かされよったわ」

 「えっ?じゃ、じゃあこの神殿内に」

 「そのようじゃ、どこかに潜んでおる」

 レン達は、一斉に刀を抜いて周りを警戒したその時、シーナがレン達に向き大きく息を吸い込んだ。

 「いかんっ!」

 と、龍神が眩い光を放ち龍に姿に変身した直後、シーナは、レン達に向かって炎を吐いた。間一髪で龍神がレン達の盾となり炎から守った。

 「大丈夫ですか」

 と、レンが龍神を心配した。

 「大丈夫じゃこの程度、どうと言う事は無い、ドラコ、カイエン」

 と、龍神が言うとドラコとカイエンが龍の姿に変身してシーナを取り押さえに掛かったが、シーナの力は、思いのほか強く二人は、振り回されている。カイエンが壁に投げつけられ壁が崩壊した。ドラコは、投げられまいと後ろに回り込みシーナを羽交い絞めにした。シーナが引き離そうと大暴れしている。ドラコを壁にぶつけたり鉤爪で引っ掻いたりしドラコの血があちこちに散った。崩壊した壁からカイエンが飛び出てまたシーナを取り押さえに掛かった。カイエンは、炎を吐かせない様にシーナの首根っこを掴み顔を上に向けさせた。

 「シ、シーナは、どうなるんじゃ」

 と、ヨーゼフが龍神に聞いた。

 「シーナを元に戻せる可能性はあるが、あの尻尾を切るには少々厄介じゃな…」

 「尻尾を切れば元に戻るのですか?」

 レンが慌てて聞いた。龍神は、切れればの話しだたと言った。確かに暴れているシーナの尻尾を切るには相当危険が伴う。しかし、ここで諦める訳にはいかない。レンとマルスとヨーゼフは、じわじわとドラコとカイエンに取り押さえられているシーナに近づいた。龍の姿に変身したドラコとカイエンにも尻尾はあるが、シーナの尻尾の様に凶悪なとげは無い。あの棘に気を付けろとまずは、ヨーゼフが隙を見て斬りかかったが、全く斬れない。続いてマルスも挑戦したが叢雲むらくもでも斬れない。最後にレンが斬鉄剣で斬りかかったが、何か固い物にでも守られているようで全く斬れない。

 「駄目だ、全然斬れねぇ」

 マルスが言った時、シーナがまた耳をつんざくような叫び声を上げ、取り押さえるドラコとカイエンを吹っ飛ばした。また神殿が壊れた。

 「ははははは、子供は素直で良いなぁ、もっと暴れろ、あはははは」

 と、壊れて空が見える神殿の屋根から声がした。見上げるとそこには、黒ずくめの衣装を着た背が高く青白い顔の男が立っていた。

 「お、おのれは…」

 と、ヨーゼフは、顔色を変えて言った。

 

 

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