半龍
セージ達の村から出発して三日目、順調にドラクーンの森の中を進んでいたレン達は、二つ目の村に到着した。村では、騒ぎが起きていた。大勢のドラクーン人達が何かを取り囲んでいた。
「何だろう?」
レン達は、様子を見に行った。レン達に気付いたドラクーン人が驚いた。
「何だ人間じゃないか、何しに来た、ここはお前達の来るところじゃない」
と、ドラクーン人が言った。それを聞いた一人のドラクーン人が飛び出て来た。
「おうヨーゼフの旦那、久しぶりだな、おお今日は仲間もいるのかい」
と、陽気なドラクーン人が言った。
「ああ久しいのぉカイエン、ところで何の騒ぎかね」
ヨーゼフは、人垣をあごでしゃくりながら言った。カイエンは、珍しく暗い顔をして答えた。
「あれか…手遅れの奴さ、最近よく出るんだ、もう元には戻らねぇだろうな…こらシーナお前もああなるんだぞ、早く儀式を済ましちまえよ」
「儀式って何のことですか?」
と、レンが聞いた。
「ああ儀式な、龍神様の神殿でやるんだが、俺っち達ドラクーン人は尻尾を付けて生まれて来るんだがある時期になると切らねぇといけねぇんだ、切らねえとああなっちまうのさ」
と、カイエンは、手遅れの奴と呼んだドラクーン人を指差した。
「え?」
レン達は、息を飲んだ。そこには、セージが見せた龍の姿のドラクーン人ではなく黒っぽい身体をしたトカゲの化け物の様な姿をして鎖で拘束されているドラクーン人が居た。
「馬鹿な奴さ、ああ言うのを俺っち達は、半龍って呼んでるんだが、ああなっちまうと元に戻れねぇんだな、ならねぇ奴もいるんだけどああなる可能性があるから尻尾を切っちまうんだ、それを進めたのが龍神様なんだが、頭の固い連中がいてね、尻尾を切ると穢れるとか何とか言ってよ龍神様に反発してる連中がいるんだ、あいつもそのうちの一人だろうな」
と、カイエンは、言ってレン達を自分の家に案内した。
「まぁゆっくりしていきねぇ」
カイエンは、レン達にお茶を振る舞った。レンとマルスには、苦くて簡単に飲めなかったがヨーゼフは、慣れた様子で飲んでいた。
「ところでカイエン、ドラクーンにも最近よくイビルニア人が現れるそうじゃな、ここに来るまでに三人見て殺したが、この辺りでも現れるのか?」
と、ヨーゼフは、カイエンに聞いた。カイエンは、それ来たと言った顔をして話し始めた。
「おうおう、その事よ!何で奴らがドラクーンに侵入して来るかってな、そりゃあれよ龍神様を暗殺しに来てるって言われてるが違うんだな、あんなザコのイビルニア人が何人来ようと龍神様に敵う訳がねぇ、奴らの狙いは半龍さ、半龍をさらいに来てるのよ」
「なぜ半龍を連れて行くのじゃ?」
「そりゃあれよぉ、自分たちの兵隊にするのよ、もう何人か連れ去られてる、だから」
と、カイエンは言ってシーナを見た。シーナが目を逸らした。
「尻尾を付けてるとイビルニア人にさらわれるんだぞ、もうヨーゼフの旦那のところに行って気が済んだだろ約束だ、ちゃんと龍神様に切ってもらうんだぞ」
シーナは、尻尾を切るのを恐れて逃げ回っていた。そんな時、カイエンがある人間と仲が良いと聞いてカイエンに頼んでドラクーンとサイファの国境までカイエンに連れて行ってもらい国境を越えヨーゼフの小屋に行き勝手に居座ったのだった。その時、シーナは、ドラクーンに帰ったら儀式を受けるとカイエンに約束した。
「なんじゃそういう事だったのか…これシーナ儀式を受けなさいお前が化け物みたいになったら、わしゃ悲しい」
「そうだよシーナ、僕もマルスもあんなおぞましい姿のシーナなんて見たくないよ」
「ああ、見たくねぇな、それに尻尾なんて邪魔だろう、俺が切ってやろうか」
と、レン達がシーナに言った。シーナは、泣きそうな顔をして尻尾を自分の身体に巻き付けた。
「とにかく、お前を龍神様の所へ連れて行く…ところで自己紹介がまだだったな、俺っちはカイエンってんだ、ヨーゼフの旦那、お仲間を紹介してくれよ」
と、カイエンはレンとマルスを交互に見て言った。ヨーゼフは、咳払いを一つして紹介を始めた。
「まずは、こちらはジャンパール皇国イザヤ皇帝の御次男マルス皇子様である」
と、ヨーゼフは、マルスを紹介した。マルスは、わざと尊大な態度でカイエンに右手を差し出し言った。
「あ~よろしく頼む」
「あいよっ!俺っちはマルス兄ぃって呼ぶわ」
と、カイエンは、軽く陽気に答えた。そして、ヨーゼフは、レンを紹介しようとした時、迷った。どちらの名前で紹介するべきか、世間に通っている名のレン・サモンで紹介するべきか本名のレオニール・ティアックで紹介するべきか、ヨーゼフは、ちょっと黙り込んだ。
「どうしたんでぇ、そっちの女みてぇな顔の兄ちゃんを紹介してくれよ」
と、カイエンは、レンがちょっと気にしている事を平気で口にした。レンは、一瞬ムッととした顔をした。その様子をヨーゼフは、見逃さなかった。
「無礼者、このお方は我が主君であらせられるレオニール・ティアック様なるぞ!控えよ」
と、ヨーゼフは、カイエンの軽口を窘める様に言った。そのためかつい本名で紹介してしまった。
「へぇ~そいつは恐れ入ったぜ、ヨーゼフの旦那の殿様かぁ、んじゃあ俺っちは殿様って呼ぶわ、よろしくお願ぇしやすぜ殿様」
と、カイエンは、本当に恐れ入り言った。レンは、何だかからかわれてる様な気がしたが、フウガも用人のバズや女中のセンとリクから「殿様」と、呼ばれていた事を思い出し満更でもない気になった。
「よろしく、カイエン」
と、レンは普段、親しくない人には必ず「君」や「さん」などの尊称を付けるが、カイエンにはわざと呼び捨てで呼んだ。それがカイエンには、嬉しかったらしくまるで臣下の様な態度をレンに取った。それを見てマルスとヨーゼフが笑った。
「ところでヨーゼフの旦那、今回も龍神様んとこに行くんだろ?俺っちも行くぜ」
「何か用事でもあるのかえ?」
「まぁね、龍神様に頼まれていた事の報告をしにな」
と、カイエンは、龍神から古龍党なる尻尾を切ってはいけないと言い張っている古い考えを持つ連中の説得を頼まれていたが、失敗に終わったと報告しに行く事を話した。
「おおっと、もう外は真っ暗じゃねぇかい、晩飯食って寝ようぜ」
と、カイエンは、言って皆の分の食事を用意してくれた。食べ終わって風呂に入り明日に備え寝る事にした。皆が寝静まった頃にシーナが逃げ出すんじゃないかと警戒したカイエンは、シーナの胴に紐を括り付けて紐をしっかりと握って寝た。
翌日、目覚めたレン達は、洗面や朝食を済ませ、また旅の準備に取り掛かった。
「そういえば昨日の半龍ってどうなるの?」
と、レンがカイエンに聞いた。カイエンは、手で首を斬る真似をして言った。
「殿様、かわいそうだが半龍になると理性が無くなっちまってどうにもならねぇ、だからまともな連中で殺しちまうのさ、そうする方が半龍になっちまった奴のためでもある」
「んじゃあ昨日の半龍は?」
「ああ、もうこの世にゃ居ねぇ」
レンは、聞くんじゃなかったと後悔した。話しをしているうちに準備が整いカイエンを加えてレン達一行は、都ドラゴニアに向け出発した。カイエンは、シーナがいつ逃げ出すか分からないと言ってシーナに紐を括り付け馬に乗せ自分は、その馬の脇を歩いた。
「逃げないから外してよ」
と、シーナは言ったが、カイエンは駄目だと言って聞かなかった。都に通じる村の道を歩いているとドラクーン人が変な目でレン達を見た。




