ドラクーンへ
外の様子がおかしいので慌ててレンとヨーゼフは、小屋から出た。そこには、シーナをいじめていた三人組の少年達とその親らしい大人がマルスと言い争っていた。
「うちの息子に怪我をさせた奴を出せ」
「だからちょっと今取り込んでるから待っ…あっ!レンお前に客だぞ」
と、マルスは、ヘラヘラ笑いながら言った。シーナは、マルスの足元に隠れて不安げに大人達を見た。
「ナイフで襲い掛かって来たんだ、仕方がないでしょう」
と、レンは、冷静に言った。ナイフを持っていたそばかすだらけの少年が言い訳をした。
「俺達は、遊んでいただけなのに突然こいつらがやって来て俺達に襲い掛かったんだ」
「おいおい、嘘はいけねぇなぁシーナをいじめてただろ、俺達は止めに入っただけだぜ」
今度は、マルスが言った。一番背の高い少年が言い訳をした。それを聞いて大人は、ヨーゼフを見た。
「おい、じいさんこの連中は、あんたの知り合いのようだが、うちの息子に怪我をさせたんだ責任を取ってもらうよ」
と、大人は言ってそばかす少年を指差した。どうやらこの少年の父親のようだ。
「村長、口を慎め、このお方達を…」
「ヨーゼフ」
ヨーゼフは、レンとマルスの事を説明しようとしたが、レンがそれを止め言った。
「とにかく僕は、謝る気はないし責任も取らない、あなたの息子がこんな小さな子をいじめていたんだ、それを僕が成敗したまでです」
「何を~生意気なっ!お前たちの様なよそ者が…」
「うるせぇクソ野郎、黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって何が責任だ」
マルスがブチ切れて怒鳴り散らした。その迫力に負け村長達は、後ずさりした。
「と、とにかくヨーゼフじいさん、あんたをもうここに住まわせる事は出来ん、村から出て行ってもらうよ、それとお前達、覚悟しておけ」
と、村長は、捨て台詞を残し少年達を連れ帰って行った。レン達は、小屋に戻りマルスにドラクーンに行く事を話した。
「ほほう、ドラクーンか良いぞ俺はお前が行くとこならどこへでも行く」
マルスは、シーナと遊びながら言った。
「ところでヨーゼフ、シーナは、ドラクーンの子だろ?」
マルスは、シーナが三人組の少年達にいじめられていた時に見た尻尾でドラクーン人だと気付いた。
「左様でござる殿下、この子は三ヶ月ほど前でしたかな急にここへ来て居座りましてな、拙者も一人暮らしの寂しさでつい一緒に暮らすようになりました」
レンは、自分とフウガの事を思った。急に泣きそうになり首をぶんぶん振った。
「ねぇシーナ、どうしてうちに帰らないんだい?君の父さんや母さんが心配するだろ」
と、レンは、シーナに聞いてみた。シーナは、へへっと笑うだけで答えない。
「まぁいつもこんな感じでござる」
と、ヨーゼフが言った。龍神に会いに行く時に連れて行けば良いと思っていた。
その頃、少年達は、どうも怒りが治まらないでいた。何とかレンとマルスに仕返しがしたい。
「畜生、このままじゃ絶対に済まさねぇ、親父は甘すぎるんだ、何が役人に報告するだ、よそ者なんか殺しちまえば良いんだ」
と、村長の息子が言った。
「で、どうするんだよ、やるのか?」
「ああ、リンゲの役人が来るまで日がある、それまでにあの二人をやっつけよう」
少年達は、何やら良からぬ相談を始めた。少年達の事など全く気にもしてなかったレン達は、翌日からドラクーンに行く準備を進めた。ドラクーンの都ドラゴニアに行くには、一週間近く森の中を延々と進まねばならず食料も大量に用意しなければならない。村の市場で大量に買い込んだ。
「これだけあれば四人十分ございますな」
ヨーゼフは、満足そうに言った。そして、出発を明日と決め早々に寝る事にした。
この日の夜中、馬が騒ぐ音に気付いたレンは、外の様子を窓から伺った。
「どうしたんだろ?何もな…ん?何だこの臭い…火事だ!みんな起きて火事だ」
と、レンは、大声で言いマルス達を起こした。四人は、直ぐに小屋から出た。小屋の壁が勢いよく燃えている。幸い小屋は、川辺にあるのでレンとマルスは、すぐさまバケツで川の水を汲み消しにかかった。火は、消し止められたが小屋の半分が燃えてしまった。
「食料は、無事のようですな良かった、しかし一体誰が火を付けたのじゃ」
と、ヨーゼフが言った時、少し離れた所から物音がした。
「誰だ!」
と、マルスが叫んだが返事がなく逃げ去る影だけが見えた。それを見たマルスは、石を拾って影の方に思い切り投げた。ゴチッと音がして何かが倒れた。レンとマルスが走って見に行くと三人組の少年の一番背の高い少年が倒れて気を失っていた。
「こいつは人質だ」
と、マルスは、背の高い少年を縛り上げた。小屋の前まで引っ張って行き水をぶっ掛けて目を覚まさした。背の高い少年は、すっとぼけたがマルスに二、三発殴られ観念して自分たちがやったと話した。
そして、夜が明けしばらくすると村長が息子と一番背の低い少年とリンゲの町の役人達を連れてヨーゼフの小屋までやって来た。
「さぁ、お役人あの二人です、うちの子に怪我をさせたのは、ああ火事まで起こしてるじゃないか」
と、村長は、リンゲの役人にレンとマルスを捕まえてもらおうとしていた。
「よぉ、また会ったな」
と、マルスが気軽に役人達に手を振った。役人は、やっぱりといった顔をしてレン達に頭を下げた。役人は、村長から黒髪で背の高い少年とその少年より少し背の低い赤毛で色白の女の様な少年に息子が怪我をさせられたと聞いた時、嫌な予感がしていたが報告を受けた以上、確認しなければならない。
「ちょっと、お役人何であいつらに頭を下げるんだ、早く逮捕しなさいよ」
村長は、役人達の態度がおかしい事に気付いた。役人は、村長に振り向き思い切り村長を殴り倒した。
「馬鹿者っ!このお方達をどなたと心得る、ジャンパール皇国のマルス皇子とサモン公爵だ、控えろ」
役人は、顔を真っ赤にして怒鳴った。村長は、ポカンとした顔で殴られた頬をさすっていた。
「リンゲでイビルニア人を退治してくれたのもこのお二人だ、聞いているぞ、貴様の息子の悪行を!この村でやりたい放題やってるそうだな、何度も相談を受けている、子供のやった事だと思って目をつむっていたがもう許さん」
と、役人は、怒鳴り散らして村長の息子のそばかすだらけの少年の頭を思い切り叩いた。
「連れて行け」
と、役人は、自分の部下の役人達に言った。村長親子と背の低い少年と先にマルスが捕えていた背の高い少年が役人達に連れて行かれた。
「大変ご迷惑をおかけしました」
と、役人がレン達に謝罪した。サイファ国は、ここ数年不況不作でジャンパール皇国から支援を受けていてジャンパールの皇子であるマルスの機嫌を損なう様な事にでもなれば支援を打ち切られるんじゃないかと冷や冷やしていた。
「きつ~くお灸を据えてやれ」
と、マルスは、笑いながら言った。その様子を見て役人は、少し安心した様子だった。
「あっ?!そうだ、あんたに頼みたい事が出来た、馬を一頭くれ」
と、マルスは、役人に言った。役人は、お安い御用ですと、村長宅の馬を取りに行った。その間にレンとマルスは、半分焼けた小屋に入って手紙を書き始めた。三十分ほどして役人が馬を一頭引き連れて戻って来た。レンとマルスも各々封筒を持って現れた。レンは、封筒を二通持っている。皇帝家族宛とエレナ宛に書いた手紙だ。
「おお、良い馬だなありがとう、それとすまんがこれをジャンパールの大使館に持って行って国元に送って欲しいんだ」
と、レンとマルスは、役人に手紙の入った封筒を渡した。
「ははっ必ずやお届け致します」
と、役人は、請け負ってくれた。それからレンは、役人に自分達はこれからドラクーンに行く事を伝えた。
「ははぁドラクーンですか、分かりました大使館の方にお伝えしておきます」
「そうして下さい」
「手紙の方も頼んだぜ」
そして役人は、レン達に最後の挨拶をして村長達を連れて行った部下達を追って村の役場に向かった。
「では、我々も行きましょうか」
と、ヨーゼフが言った。レン達は、食料などを馬の背に乗せ半分焼けた小屋から国境に向かった。大きな川が流れていて石で出来た立派な橋が架かっている。橋の向こうがドラクーン領になる。橋の前に大きな門がありそこには、やる気のない門番兵が居た。二人組で門の両端に座って居眠りをしていた。
「これ、これ起きぬか二人とも、門を開けてくれ」
と、ヨーゼフは、いつもの事だと門番兵を起こした。
「おお、とっつぁん久しぶりだな、行くのかい?」
と、門番兵の一人が大あくびをかきながら言った。
「ああ、お前さん達と会うのもこれで最後じゃ」
「へぇそうかい、ん?今日は連れがいるのか、珍しいな」
そう言って門番兵は、門を開けた。レンは、門番兵に軽く会釈して馬を引き歩いた。馬の背中にシーナが乗っている。マルスは、わざと尊大な態度で食料乗せた馬を引き歩いた。最後にヨーゼフが役人が村長宅から無断で連れて来た馬を引き、門番兵に餞別だと言って大きな屁を放って通って行った。門番兵は、ゲラゲラ笑った。
「元気でなぁとっつぁん」
と、門番兵二人は、国境の橋を越えて行く四人に手を振った。




