ヨーゼフ・ロイヤー
サイファの港町にあるジャンパール大使館から国境の村を目指して四日目、レンとマルスは、やっと国境の村に到着した。馬上から見える景色は、何の変哲もない田舎の景色だった。
「本当にこんな所に居るのかよ、そのヨーゼフって人」
マルスは、信じられないと言った感じだった。
「うん、おじいさんが言ってたから確かだと思うよ」
レンは、フウガを信じきっている。二人は、村人を探したが、なかなか見つからない。
「何なんだここは、人っ子一人居ねえじゃないか」
と、マルスが文句を言った時、森の奥から子供の泣く声が聞こえた。
「今の聞いた?」
「ああ、聞いたぜ、また借金取りの類か?」
二人は、声のした方へ馬を進めた。そこには、三人組の少年達が一人の小さな男の子を取り囲んでいる姿があった。男の子は、腕や足をさすっていた。少年の一人が持っている細い木の枝で叩かれたのだろう。
「お前は、あのジジイが何者か知ってるんだろ?言えよ」
「ぼくホントに知らないんだ、痛い叩かないで」
少年達は、絶対に知ってると決めつけいる。男の子が何を言っても嘘と決めつけて木の枝で叩いた。
「何も知らないジジイと何で一緒に暮らしてるんだ」
「大体、お前はどこから来たんだ?」
一番背の高い少年が男の子の襟首を掴まえ持ち上げた。
「痛い痛い、放して痛いよ」
「へへっぎゃあぎゃあ、うるさいんだよ」
今度は、そばかすだらけの少年が男の子のズボンを軽く引き下げると何と鱗の付いた尻尾が現れた。
「うわぁこいつ尻尾が生えてらぁ」
少年達は、面白がり男の子の尻尾を引っ張った。
「痛いやめてっ」
男の子が泣き叫んだ時、レンが馬に乗って飛び出し馬の前足を少年達の目の前でバタつかせた。少年達は、驚いて尻もちを着いた。その拍子に男の子は、地面に落ちた。
「さっきから黙って見てたら酷い事するじゃないか、僕が相手になってやる」
と、レンは、言って馬から飛び降りた。少年達は、レンを取り囲んだ。
「何だお前、女みたいな顔しやがって」
「よそ者だな」
「お前もこのガキみたいに尻尾があるんじゃねぇか」
と、少年達は、口々に文句を言った。一番背の高い少年がレンに殴りかかったが、レンは軽くかわして少年の頬っぺたを思い切りビンタした。今度は、一番背の低い少年がレンに蹴りかかったが、これも軽くかわされレンに足払いをされすっころんだ。そばかすだらけの少年がポケットから小型のナイフを取り出した。
「このおかま野郎、殺してやる」
「僕はおかまじゃないしお前のような奴に殺されたりしない、それと刃物を使うのなら手加減はしないよ」
と、レンは、冷静に言った。マルスがいつの間にか近づいてきて馬上から見下ろしながら言った。
「おうおう、お前ナイフなんか出して後悔するなよ」
「うるせぇ!」
と、少年は、レンにナイフで襲い掛かったが、手加減はしないの言葉通りにレンは、少年からナイフを取り上げ顔面を拳で二、三発殴り蹴り飛ばした。少年は、木にぶつかって顔を押さえて悶絶している。
「ひ、ひぃ~逃げろ」
「覚えてろっ!畜生め」
三人組の少年達は、逃げて行った。男の子は、何が起きたか分からないと言った顔をしてレンとマルスを見ていた。
「大丈夫かい」
と、レンは、屈んで男の子に優しく言った。男の子は、うんうんと頷いた。
「お兄ちゃん達、逃げた方がいいよ」
と、男の子が意外な事を言った。何でも先ほどの少年達の中に村長の息子がいて村ではやりたい放題の毎日を送っているらしい。
「ほほう、そりゃ面白いな、とにかく坊主、お前を家まで送ってやろう」
と、マルスは、全く気にもしていない。レンは、男の子と馬に乗って家まで送る事にした。男の子はおじいさんと二人暮らしで普段は、出歩かないがたまに出歩くとあの三人組に絡まれるそうだ。男の子が言う道を行くと川辺に出た。そこに小さな小屋が建っていてその小屋でおじいさんと暮らしていた。
「ここだよ」
男の子は、馬から飛び降りて小屋に入って行ったが直ぐに出て来た。
「じいちゃん居ないや、ちょっと待っててね」
レンとマルスは、男の子に言われるがままおじいさんを待った。別にお礼をしてもらおうと言う訳じゃなくヨーゼフ・ロイヤーの事を知っているか聞きたかっただけだった。おじいさんが帰って来る間レンは、男の子と遊んでいた。マルスは、川に向かってひたすら石を投げて遊んでいた。
「あっ?!じいちゃんが帰って来た」
と、男の子は、おじいさんに気付き走って行った。何か話している。おじいさんは、ゆっくりとレンとマルスに向かって歩きだした。
「いやぁシーナを助けていただいたそうで、ありがとうございまする」
と、おじいさんは言ってレンの顔を見た瞬間、凍り付いた様になった。
「も、もしやレオニール様…」
「えっ?」
レンとマルスが驚いた。
「あの、あなたはヨーゼフ・ロイヤーさんですか?」
と、レンがそっと聞いて見た。おじいさんは、膝から崩れるようにしゃがみ込み泣き崩れた。
「おぉぉ…レオニール様、よくぞよくぞご無事で…おぉぉ」
レンとマルスは、この老人が探していたヨーゼフ・ロイヤーだと確信した。四人は、小屋の中に移った。おじいさんは、レンとマルスに茶を出し改めて自己紹介した。
「トランサー王国、近衛師団長ヨーゼフ・ロイヤーでござる」
「レン・サモンいやレオニール・ティアックです」
「俺は、マルス・カムイ、ジャンパール皇国の皇子だ、よろしく」
「ぼくはシーナ」
マルスは、レンとヨーゼフの二人きりにしてやろうと思いシーナを連れて外に出て行った。二人きりになりヨーゼフは、改めて臣下の礼をレンに取った。レンは、照れながらも礼を受けた。
「まさかフウガ殿があのような事に…誠に残念でござります」
と、ヨーゼフは、フウガの死を悼んだ。そしてヨーゼフは、これまでの自分の事を話した。十五年前、ザマロ・シェボットが謀反を起こした時ヨーゼフは、国王側として戦った。レオン達を逃がして奮戦するも捕えられ牢獄に入れられ処刑を待つだけの身だったが、謀反に加担した下級兵士が、後悔の念からかヨーゼフを逃がしてくれた。その時、共に戦った若い士官のテランジン・コーシュとシドゥ・モリアも逃がした。牢獄から脱出した三人は、夜の闇に紛れてトランサーを出国した。その後三人は、転々と居場所を変えながら日々を送っていた。トランサーを出て一年が過ぎた頃ヨーゼフは、フウガに会うため単身ジャンパールに向かった。それまでレオン、ヒミカ、レオニールは、ザマロに殺されたとばかり思っていたが実は、レオニールだけが助かりフウガの屋敷で孫として養育されている事を知り歓喜した。主家を失い途方に暮れていたヨーゼフに希望が見えた。この時、ヨーゼフは、フウガにレオニール成人の際、必ず両親の敵であるザマロ・シェボットを討ちトランサーの王にする事を約束した。フウガも元よりそのつもりでレンを育てている。数ヵ月フウガの屋敷で世話になりヨーゼフは、ドラクーンに行くと言ってフウガの屋敷を出た。ザマロの謀反にイビルニア国が絡んでいる以上、人間だけではどうにもならない。ドラクーンの龍神やヘブンリーの天の民の協力が必要になる。その頃、サイファに身を隠していたテランジンとシドゥにレオニールが生きている事を話し自分は、龍神に会いに行くと言いテランジンとシドゥにヘブンリーに行かせた。ドラクーンの首都ドラゴニアに向かったヨーゼフは、龍神に会いイビルニアと戦争になった際の協力を求めた。龍神は、人間の勝手な行いのために協力してくれとは何事かと怒ったが、イビルニアが復活した以上、黙って見ている訳にもいかずこの時は、はっきりと協力するともしないとも言わなかった。ヨーゼフは、また来ると言ってドラクーンからサイファの国境の村に戻りそこに住む事にした。また、折を見て龍神を説得するためだ。
「ここに住んで十四年になりましょうか、まさかレオニール様がここに来られるとは夢にも思いませんでした」
十四年間、折を見ては龍神を説得しにドラクーン向かっていたが、なかなか良い返事がもらえないでいた。
「あの…ヨーゼフさん」
「家来に尊称は不要、ヨーゼフと呼び捨てて下さい拙者は若と呼ばせていただきまする」
と、ヨーゼフは、言った。
「僕はフウガのおじいさんからヨ、ヨーゼフを探せと言われてここに来た、僕はこれから何をすればいい?」
レンは、ぎこちなく言った。ヨーゼフは、うんうんと頷き答えた。
「まずは、龍神に会いに行きましょう、あの憎きザマロ・シェボットを討ち果たしトランサーを取り戻すにはまだまだ人も足りませぬ、それにイビルニア国が奴の後ろに控えている以上龍神らの協力が必要です」
「うん」
レンは、この事をマルスにも伝えるため外に向かおうとした時、何やら外が騒がしい事に気付いた。




