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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
205/206

フウガとヨーゼフ

 アークがレンと練気隊士三人に向け最大級の真空斬を放とうとした時、アークは突然今まで感じた事のない強い殺気に襲われ大きく飛び下がった。驚いたのは、レン達の方でアークが何故飛び下がったのか分からないでいた。

 (な、何だ、今のは?この場にこいつら以外に誰か居るのか?何だったんだあの殺気は?)

 アークは、辺りを見回した。レン達以外に誰も居ない。アークは、気を取り直してまた真空斬を放とうとしたが、また強烈な殺気を感じた。レン達に真空斬を放てば自分は、確実に死ぬと思うほどの殺気である。

 「あ、あいつ、どうしたんだ?」

 「なぜ撃って来ない?」

 辺りをきょろきょろと見回すアークを見てレンと練気隊士達は、不審に思った。

 「隊士達よ、よくぞ主君を守った、それでこそ臣下である」

 「孫を守ってくれてありがとうよ、後はわしらに任せなさい」

 「そ、その声は…ヨーゼフ、おじいさん?」

 と、レンは、直ぐに気付いたがどこに居るのか分からない。何よりも二人は、もうこの世に居ないはずであった。

 「い、今の声は、ヨ、ヨーゼフ公?」

 「孫って?誰だ?」

 と、練気隊士達もアークに注意を払いながら辺りの気配を探った。自分達以外に後ろのレンやマルス、少し離れたところで倒れているラーズ、テランジンとドラクーン人達、そして目の前のアーク・ワイリーしか居ないではないか。そして、アークが明らかに動揺している姿が見える。

 「な、何者だ!出て来い!」

 「ふん、小僧め、よくもわしの大事な孫や仲間を痛めつけてくれたな」

 「其の方!覚悟は出来ておろうのぅ」

 と、どこからともなく聞こえてくるフウガとヨーゼフの声にアークは、戦慄した。そしてアークは、ふとレン達の後ろに何かがある事に気付いた。丁度、内門の真ん中、破壊されたフウガとヨーゼフの銅像の間にそれはあった。レン達は、アークが自分達の後ろを見ている事に気付き、アークを警戒しながら後ろを見た。

 「あっ?!へ、陛下、門の前に不死鳥の剣が突き刺さっておりまする」

 「えっ?あっ!まさかラムールが!」

 (レオニール、もう心配要りません、後は二人に任せない)

 と、不死鳥ラムールは、レンに言うと不死鳥の剣から数本の光の筋が伸びた。筋は、破壊されたフウガとヨーゼフの銅像に繋がり、マルス、ラーズ、テランジンにも繋がった。

 「うっ…うぅぅぅ、レ、レン」

 「あっ?!マルス、気が付いたのかい?」

 「ああ、何だあの野郎まだ居たのか」

 「陛下ぁ!おいら達の傷が完全に癒えましたぜ、直ぐに治療しますぜ」

 と、自力で怪我を治したラードン達ドラクーン人がレンの傍まで駆け寄った。

 「良かった、ぼ、僕よりも先にマルスを…ラーズとテランジンも」

 「我々が」 

 と、タキオンとワイエットがアークを警戒しながらラーズとテランジンに近付いた。アークは、動けないでいた。タキオンとワイエットの邪魔をすれば間違いなく何かが飛んでくる気配を感じていた。そんな様子をサイモン元帥とルーク、警備兵が物見塔から見ている。

 「先程ラムールが我らに言った事はこの事だったのか…しかし」

 「あの野郎、何にビビってんだ?」

 と、フウガとヨーゼフの声が聞こえない二人は、何故アークが攻撃しないのか不思議に思った。不死鳥の剣があるだけなら何も気にする事は無いではないか。

 「それにしてもあの光の筋は何故、銅像にまで伸びてるのだ?」

 「ああぁ?!銅像が!」

 と、サイモン元帥達は、破壊された銅像が物凄い光に包まれていくのを見た。現場に居るレン達も後ろで物凄い光を放っている事を感じていた。タキオンとワイエットによって斬り落とされた両腕を繋いでもらい意識を回復させたラーズと刺された腹を治療され意識を回復させたテランジンが光の中に人影を見た。

 「ああぁ?!あれは!」

 「ま、まさか?!」

 驚くラーズとテランジンを見てレンとマルス、そしてマルスの治療をするラードン大使や練気隊士達三人は、自分達の後ろで何が起きているのか気になったが、目の前のアークを警戒して見れない。

 「一体、何が起きてるんだ?」

 目の前のアークは、明らかに動揺している。

 「さてと…ここから先は、わしが相手じゃ、ヨーゼフ殿レン達を頼んだぞ」

 「心得ました、ご存分に」

 と、破壊された銅像を包み込む光の中から現れたのは、紛れもなくフウガとヨーゼフだった。しかし、どこか様子がおかしい。

 「お、おじいさん?ヨーゼフ?」

 「やぁレン、よく頑張ったのぅ、ん?何じゃその顔は…あぁなるほどな、あっはっはっは、ラムールが気を利かせてくれてのぅ、少し若返らせてくれたようじゃ」

 と、フウガがにこやかに言った。不死鳥ラムールは、フウガとヨーゼフを少し若返らせて一時的に復活させたのだ。四十代後半といったところだろうか。二人が練気使いとして一番輝いていた頃だろう。

 「フ、フウガ、ヨーゼフ」

 「マルス殿下、銅像のおかげで一時的にですが我ら復活する事が出来ました、ありがとうございまする」

 「はは、まさか銅像のおかげで本人に会えるとは…夢みてぇだよ」

 「おやじっ!」

 と、タキオンとワイエットに連れられレン達の傍に来たテランジンが自分と似た年頃の姿をした義父を見て驚いていた。ラーズも若返ったフウガとヨーゼフを見て驚いている。

 「さぁ陛下、治りやしたぜ」

 と、マルスの治療を終わらせたラードン大使は、レンの両膝を治療し終えた。レン達は、復活したヨーゼフと内門前まで下がり、これから始まるフウガとアークの戦いを見守る事にした。

 「小僧、始めようか」

 「くっ…フウガ・サモン、あんたの事はジャンパールに居た時散々聞いたよ、ジャンパールの英雄、いや世界三大英雄の一人…フッ、フハハハハ、まさか最強の練気使いと戦えるとはな」

 と、アークは強気なところを見せているが、刀を持つ手が震えているのを誰もが見逃さなかった。フウガは、斬鉄剣を抜く事もなく、ただ間合いを開けアークと対峙しているだけの様に見える。

 「フウガは何で剣を抜かないんだ?」

 「ふふふ、マルス殿下、ご心配は無用でござるぞ」

 と、ヨーゼフがマルスの問いに答える。レンは、固唾を飲んでフウガを見守った。最初に動きを見せたのは、アークである。今まで感じた事のない恐怖を打ち消すには、一にも二にも攻撃するしかないと判断したのだ。

 「うおりゃぁぁぁぁ!」

 と、マルスの真・神風に匹敵するほどの真空斬をフウガに放った。レン達は、思わず身構えたが、ヨーゼフだけは涼しい顔をして立っている。

 「かぁぁぁっつ!」

 と、フウガは、気合と共に斬鉄剣を抜き放ち、飛んで来る真空斬を真上に打ち払い、直ぐに斬鉄剣を鞘に納めた。

 「なかなかの威力だな、今のが限界か?」

 と、フウガは、何事も無かったかのように言った。アークは、呆然としていた。レン達であれば先程放った真空斬でそれ相応の傷を負わせる事が出来ただろう。

 「す、すげぇ…たった一振りで」

 と、ラーズが信じられないといった顔をして言った。マルスもテランジンも同じ様な顔をしている。自分達が持つ最大の技を繰り出しても歯が立たなかったアークの攻撃をいとも簡単に防いだのである。

 「さてと、ではわしも攻撃に出ようか」

 と、フウガが言い斬鉄剣の柄に手を添えた時、アークは、何か感じたのか大きく飛び下がった。

 (こ、これか…さっき感じたのは…あいつらに真空斬を放とうとした瞬間に感じた殺気!どうする?アーク・ワイリー、ベルゼブ様の血を引くこの世でたった一人の存在)

 と、アークは、自問した。フウガに攻撃させれば間違いなく自分は、死ぬだろう。そこでふとレン達の後ろで赤く光る不死鳥の剣が目に入った。

 (そうかぁ…あの、あの剣さえ潰せばフウガ・サモンとヨーゼフ・ロイヤーは消えるんじゃないのか?あの剣の力で復活したんだ、そうだあの剣さえ潰せば…よし)

 と、アークは、攻撃目標を不死鳥の剣に決めた。そして、アークは作戦を立てた。まず重地縛じゅうちばくでフウガの動きを止め一気にレン達の前まで出て、今度は衝撃波を放ちレン達を吹っ飛ばす。そこで周りに誰も居なくなったところで不死鳥の剣を破壊する。そう決めたアークは、一足飛びでフウガの前まで来て最大級の重地縛を使った。

 「おお?!こ、これはベルゼブの!」

 「そうさ、そこで大人しくしてろ!」

 身動きの取れなくなったフウガを放っておいてアークは、素早くレン達の前まで駆け込んで来た。レン達が剣を抜こうとするよりも早く全身から衝撃波を放とうとした時、更にそれより早くヨーゼフが蹴り飛ばした。

 「これこれ、相手が違うぞ」

 と、ヨーゼフに言われアークは、起き上がりざまに真空突きをヨーゼフに放った。それをヨーゼフは素手で弾き返した。

 「其の方の狙いは不死鳥の剣を破壊する事だろう、そんな事誰がさせるか、愚か者め!」

 「くっ!フッ、フハハハハ、しかしフウガ・サモンはあの通り身動きが取れんぞ!」

 「誰が身動きが取れんと?」

 と、フウガの声がして慌ててアークが後ろを振り向くと直ぐ真後ろにフウガが立っていた。アークは、驚いて壁際まで飛び下がった。

 「おのれの重地縛は真の重地縛にあらず、練気を使ったものだろう」

 「さすがサモン閣下であります、その通りであります」

 と、テランジンが言った。アークが悔し気な顔をした。

 「おのれは練気を極めたと言ったな?しかし、いくら練気を極めたとは言え悪意に満ちた練気など所詮はその程度よ、特別な力を身につけたわしらの使命は、その力を正しい事に使う事だ、弱き者を助け強き者をくじく、わしとヨーゼフ殿は、おのれらイビルニア人から人々を救うためヘブンリーにて練気を体得した、正義の心で使う練気とおのれの力を誇示するために使う練気がどう違うか…今から見せてやる」

 そう言うとフウガは、斬鉄剣を抜く事もなくアークに近付いた。レン達は、フウガの全身から湧き出る凄まじい気を感じた。きびしいが温かみのある気である。アークには、その厳しさしか感じないのか狂ったようにフウガに攻撃を仕掛けた。その攻撃を何とフウガは、素手で防いでいる。

 「な、何で素手で受けても斬れないんだ?」

 「はい殿下、練気を極めると全身を鋼鉄の様に出来まする、相手がアルカトやフラックなどの四天王ならいざ知らず、アーク・ワイリー如き輩に刃は無用ですな」

 と、ヨーゼフがマルスに答えた。レン達は、全盛期のフウガとヨーゼフを知らない。レン達は、自分達はまだまだ練気使いとしてはひよっ子だと痛感した。

 「はぁはぁはぁ…な、何で斬れない、ただの人間如きが何故俺の気を帯びた刀で斬れないんだ?畜生!」

 と、アークは、渾身の力を込めフウガに斬りかかった。フウガは、軽く避けるとアークの腹に拳を突き入れた。

 「ごふっ!」

 アークは、吹っ飛び壁に激突し倒れ悶絶した。

 「ぐっぐえぇぇぇ…げほっげほっ、ぐぅぅぅぅ」

 「どうした、もう終わりか?」

 「はぁはぁ、こ、殺してやるっ!」

 と、アークは、力を振り絞りフウガに襲い掛かったが無駄な抵抗であった。フウガに散々殴られ蹴られ、フラフラになっていた。もはや気を練る事すらしなくなっていた。

 「おのれは楽には殺さぬ、先に死んだ門番兵やこの国の練気隊士達が不憫でならぬわ」

 そう言うとフウガは、またアークを散々殴り蹴り倒した。そして、ついにアークが動かなくなった。

 「死んだのかな?」

 と、レンが言うとヨーゼフが首を横に振った。

 「いいえ、若、まだ生きておりまするぞ、そして…」

 と、ヨーゼフが何か言いかけた時、アークの身体に異変が起こった。とうとう、真のイビルニアの血に目覚めたのだった。最初ラードン大使らドラクーン人に焼かれ覚醒したと思われていたが、そうではなかったのだ。アークの身体がビクンと大きく動きミシミシと妙な音を立て始めた。

 「ぐ…グヲヲヲ」

 「ふむ、やっとイビルニア人らしくなったのぅ」

 「なったのぅってフウガ!早く奴の首を刎ねろ!」

 と、覚醒を始めているアークを見て妙に感心するフウガにマルスが、怒ったように言った。

 「おじいさん、早く首を刎ねて下さい!」

 「ふふふ、レン、マルス殿下、これで良いんじゃ、覚醒しても無駄という事を思い知らさねばならぬ、こやつが死ねば暗黒の世界に落ちるじゃろう、そこに居るはずのグライヤーにベルゼブの血を混ぜた半人でも我らには敵わぬ事を思い知らさねばのぅ」

 そうこうしているうちにアークの身体が一回りほど大きくなり覚醒が終わった。覚醒したアークを見て思ったほど化け物じみていなかった事にレン達は、意外に思った。

 「ふぅ…あんたに殴り殺されそうになってやっと覚醒ってやつをしたみてぇだよ、さっきまであんたに感じた恐怖心は消えた、礼を言うべきかな、ハハハハ」

 「そうかい、そりゃ良かったなぁ、ではこちらも本気でやろう」

 と、フウガは言い、初めてまともに斬鉄剣を構えた。

 「何っ?フ、フハハハハ、何が本気だ!覚醒した俺に敵う者などおらんわぁ!行くぞぉぉ!」

 と、襲い掛かって来たアークをフウガは、真っ向から迎え撃つ。気を帯びた刃と刃がぶつかり合う。あまりの激しさに草木がざわめき始めた。その様子を物見塔から見ているサイモン元帥とルーク、警備兵が固唾を飲んで見守っていた。

 「あのお方が陛下をお育てになったと言うフウガ・サモン公だ…私が初めて見た時はもっとお歳を召されていたはずだが」

 と、サイモン元帥は、その昔フウガがジャンパール皇帝イザヤ・カムイの名代としてレンの誕生祝いにトランサーに訪れた時にフウガを見ていた。

 「へぇぇ、あのお人が」

 と、ルークは、物見塔からフウガをまじまじと見た。どう見ても自分の兄貴分であるテランジンや義兄になるサイモン元帥と歳が変わらない様に見えた。

 「ほれ、どうした?覚醒してもその程度か?」

 と、フウガは、余裕を持ってアークと戦っている。

 「ハァハァハァ…ふん、やはりまともに戦っても勝てそうにないな、ならばこれでどうだ?グオォォォォ…」

 と、アークがフウガから間合いを取り気を練り始めた。全身が怪しく光り出した。アークは、何かの痛みに堪えている様な顔をしている。アークが前かがみになると背中が盛り上がり皮膚を突き破り何かが飛び出た。目を覆いたくなるような光景である。背中から飛び出た物は、アーク自身だった。ズルリと飛び出したアークは、元のアークの隣に立った。元のアークが息を切らしながらニヤリと笑った。

 「ほほぅ、分裂したのか、面白いな」

 「感心してる場合じゃないですよ、おじいさん」

 と、レンは、焦りを見せたがフウガもヨーゼフも何とも思っていないようだった。

 「フハハハ、ベルゼブ様がリヴァーヤの霊力を吸収していたおかげで本当に出来た、二人でかかれば貴様なんか、おりゃぁぁぁぁぁ!」

 と、アークは、自分の分身と共にフウガに襲い掛かった。分身は、素手である。しかし、素手でも練気技を放つ事が出来る。

 「ううぅむ、こりゃ厄介じゃのう」

 と、フウガがやや押され気味になった。

 「どうだっ!」

 「ふむ、二人になってやっと一人前か?」

 「キィィィィ!このぉぉぉ!」

 と、フウガに挑発されアークは、狂ったように攻撃して来た。アークとの戦いが始まって何時間経ったのだろう。レンは、空がほんの少し明るくなって来ている事に気付いた。

 「もう直ぐ夜が明ける」

 「えっ?夜明け?」

 と、レンの呟きに隣に居たヨーゼフが驚いて空を見た。

 「フウガ殿、もう直に夜が明けますぞ!」

 「何っ?もうそんな時間か!遊び過ぎたわい」

 と、フウガは、アーク本体と分身相手に戦いながら言った。

 「すまん、ヨーゼフ殿、手を貸してくれ、一気に片付けよう」

 「あははは、そうしましょう」

 そう言ってヨーゼフは、フウガに攻撃を仕掛けようとした分身に抜き打ちで強烈な真空突きを放ちフウガに駆け寄った。

 「さぁ早う片付けましょう、帰れなくなりますぞ」

 「そうじゃな、アークよ、暗黒の世界に行きグライヤーに伝えろ、イビルニア人が何を作り出そうが無駄だとな、悪は正義によって必ず滅ぶ」

 「左様、正義は必ず勝つ!死ねぇい!」

 フウガとヨーゼフは、同時に真空斬を放った。本体アークと分身アークは、避け切れないと判断し全身に気を巡らせ防御の体勢を取った。

 「ぐっ!グルワハハハハハ!どうだ!貴様らの真空斬など覚醒したこの俺には通用…?…あっ?!あぁぁぁぁぁぁぁ!かか、身体がぁぁぁぁぁぁ!」

 フウガとヨーゼフの放った真空斬を見事受け止めたと思われたアークの身体がゆっくりと裂け始めた。真っ二つに割れドサリとその場に倒れた。そして、分身がドロドロに溶けると本体にくっついた。

 「うへぇぇ…気持ち悪ぃ」

 と、ラーズが口元を押さえながら呟いた。アークが二度と動く事は無かった。

 「うむ、終わったな、ラードン殿、念のためじゃこやつを灰にしてくれ」

 と、斬鉄剣を鞘に納めながらフウガが言った。ラードン大使は、合点承知と龍の姿に変身してアークを爆炎で灰になるまで焼いた。

 「これで良かろう、ありがとうラードン殿」

 「おじいさん、ヨーゼフ」

 と、レン達がフウガとヨーゼフのもとへ駆け寄る。その様子を物見塔で見ているサイモン元帥とルークは、居ても立っても居られなくなり自分達も内門前に行く事にした。

 「まさか、アルカト以外にベルゼブの血を引く者が居たとはな」

 「はい、驚きました」

 「レン、アークに殺された者達の供養を忘れるなよ、しかしお前は誠に良い家臣に恵まれている…テランジン、こうして見るとお前さんも随分と老けたな、あっはっはっは」

 と、フウガは、レンの頭を撫でながらテランジンに言った。テランジンは、その昔ティアック王家を守るため親友シドゥとフウガ、ヨーゼフと共に謀反を起こしたザマロが送り込んで来た反乱兵と戦っていた。その事が昨日の事の様に思い出され、誰はばかる事もなく泣いた。

 「サモン閣下…今一度お会い出来て光栄であります」

 「これからもレンを支えてやってくれのぅ」

 「ああ、あの…」

 と、練気隊士の一人が恐る恐るフウガに声を掛けた。

 「おお、お前さん達も良く戦ってくれた、お前さん達も練気使いとして日々精進しその力を正しい事に使う事じゃ良いな」

 「ははぁ、お言葉、肝に命じましてございます」

 練気隊士達は、夢でも見ている様な顔をしていた。伝説のフウガ・サモンに直接声を掛けれたのだ。

 「マルス殿下、ラーズ殿下、お子が生まれるそうで、おめでとうござる」

 「そうなんだフウガ、まだ男か女か分からねぇが、サモン家の名に恥じない子に育てるからな」

 「ありがとうフウガさん、元気な子が生まれるよう見守っていてくれ」

 フウガは、微笑みうんうん頷きレンを見た。

 「レンよ、エレナさんはきっと良い子を産んでくれるじゃろう、エレナさんを大切にな」

 「はい、おじいさん」

 レンは、真っ直ぐフウガを見つめて返事をした。そして、もう直に別れが来るのを感じていた。空が白み始めたのである。

 「ああ、いかん、フウガ殿、完全に夜が明けますぞ」

 「何?ああ、まずい!レン、じゃあな、わしはいつも見守っているからな」

 「若、トランサー王国を頼みましたぞ、テランジン、しっかり若をお助けするのじゃぞ」

 と、フウガとヨーゼフは言い、慌ただしく銅像のあった台座に向かった。

 「ええっと、わしはどっちじゃったかのぅ?」

 「フウガ殿はそっち、拙者はこっちです」

 と、二人は、左右に分かれ台座に飛び乗った。そして、ジャンパールで作られた銅像の形を取った。

 「おじいさん、ヨーゼフ!」

 と、最後にレンは、二人に声を掛けた。フウガとヨーゼフは、にっこり笑ってうんと頷き、いかめしい顔をした。すると地面に突き刺さったままの不死鳥の剣が光り出し左右に光の筋が伸び、二人を繋ぐと二人の全身も光り出した。強烈な光を放った。

 「うわぁ!眩しい!」

 レン達は、思わず顔に手をかざした。光が消えたのを感じ、そっと目を開け目の前を見るとフウガとヨーゼフは、元の銅像に戻っていた。そして、完全に夜が明けた。

 「おじいさん…ヨーゼフ」

 「何か夢みてぇだな…ん?レン、お前の左手」

 「えっ?あれっ?いつの間に」

 レンの左手に不死鳥の剣の鞘が握られていた。マルスが不死鳥の剣を地面から引き抜きレンに渡した。レンが不死鳥の剣を鞘に納めると内門が開いた。

 「陛下、兄貴!」

 「先ほど物凄い光を見たが…あれっ?ヨーゼフ公とサモン公は?」

 と、ルークとサイモン元帥が内門を開けるなり言った。テランジンは、クスリと笑い銅像を指差した。

 「ど、銅像?」

 「ああ、元に戻られてあの世にお帰りになったよ」

 ルークとサイモン元帥は、銅像を見上げ呆然とした。

 「さぁ、もう終わったよ、サイモン元帥、ルーク、すまないがアークに殺されたという兵士達の処置を頼むよ、僕達もうへとへとだよ」

 と、レンが情けない顔をして言った。アークと戦ったレン達は、血や泥や砂にまみれていた。

 「心得ました、ああっ?!そうだ!忘れてた、とにかく大広間へお戻り下さい、陛下達がどこで何をやっているのか知られまいとクラウドがその…もう終わっていると良いのですが」

 「何だろう?とにかく戻ってみるよ」

 と、レン達は、ラードン大使らドラクーン人も連れて大広間に向かった。 




 

 

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