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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
203/206

クラウドの受難

 怒りをあらわにするレンを目に前にジャンパールから来た男は、余裕の笑みを浮かべている。男の父は、ベルゼブである。どのようにして生まれたのか。

 「まぁ聞けよ、俺がどうやって生まれたのかをな」

 「聞く必要は無い!」

 と、レンは、斬鉄剣に気を溜めながら叫ぶように言った。それでも男は、レン達と間合いを取りながら話し出した。無論、男も刀に気を溜めている。

 「俺が生まれた国は貴様らも知っての通りイビルニアだ、そこで俺はグライヤーの手によってジャンパール人の女から産み落とされた」

 ジャンパール人であるマルスが苦々しい顔をした。レン達は、イビルニア城内にあったグライヤーの研究施設を思い出した。そこでテランジンは、無二の親友であるシドゥ・モリアを半イビルニア人の手で殺されている。テランジンは、シドゥの形見である剣に最大級の気を溜め込んでいる。

 「滅殺雷神斬!!」

 と、テランジンは、ジャンパールから来た男に必殺技を放った。強烈な稲光と共にレンが放った雷光斬の数十倍以上ある雷が男を襲った。

 「やった!」

 と、誰もが思った。

 「フハハハハハ、危ない危ない、気を溜めていなかったら黒焦げになるところだったぜ」

 と、ジャンパールから来た男は、刀の刃を頭上に向け練気を持って直撃を防いでいたのである。

 「な、何ぃ?」

 「テランジン・ロイヤー、ただのイビルニア人なら今ので殺せただろうが…フッ、俺は半分人間だがベルゼブ様の血を受け継ぐ半イビルニア人だ、そして兄はアルカ…」

 と、男が言い終わる前にレンは、強烈な真空突きを放った。弾丸のような真空波が男の額に命中した。男は、門の辺りまで吹っ飛んだ。

 「お前がアルカトの弟だと?ふざけるな!アルカトはお前の様にふざけてはいない、一体何が目的でここに来たんだ?」

 レンは、目の前の男がアルカトの弟だと認めたくなかった。男は、何事も無かった様にゆっくりと立ち上がり刀の切っ先をレン達に向けた。

 「俺がこのトランサーに来た目的はただ一つ、貴様ら練気使いをこの世から消すためだ、グライヤーよりイビルニア半島から送り出されて俺は最初メタルニアへ行った、あそこには俺の様にグライヤーによって送り出された半イビルニア人達が多く居た、気ままに暮らす者、徒党を組んで盗みを働く者、一人働きの殺し屋をやったりしている者も居た…連中と情報交換をしている頃、ベルゼブ様は討たれ半島は海の底に沈められ我々イビルニアの血を引く者の帰る場所が無くなってしまった」

 「ふん、あんな半島があったから貴様らの様な悪鬼が誕生したのだ、消えて当然だ、そしておのれもここで死ね」

 と、マルスが真・神風を放った。男は、気合と共に目の前に見えない壁の様なものを作り防いだ。強烈な真空波が真上に飛び上がり消えた。レン達は、絶句した。テランジンの放った滅殺雷神斬やマルスの真・神風をいとも簡単に防いでいる。目の前の半イビルニア人は、とてつもない力を持っている。

 「フッ…まぁ聞けよ、いずれは半島に帰るつもりだった俺は途方に暮れたよ、そこで俺は自分を産んだ女に会いに行く事に決めた、そうジャンパールにな、俺を産んだ女はジャンパール人だろうと他の半人共が言っていた、そしてジャンパールに行き…不思議なものだったどこに居るか分からん女をあっさりと見つけ出す事が出来た、何て言うのか直感かな…女は都から近いアシナラの町に居た」

 「ア、アシナラ!?」

 「マルス、都の直ぐ隣じゃないか!」

 と、ジャンパールの事を良く知るレンが驚き言った。マルスは、額に汗をにじませ目の前の男をまじまじと見ている。

 「そこで親子の対面さ、ククク、あの女、俺を見るなり狂ったように叫び出したなぁ、いやぁぁぁ助けてってな、ハハハハ」

 「当り前だ!貴様を産ませるためにグライヤーは女に何をしたか知ってるのか!」 

 と、ラーズが怒りに任せて怒鳴った。男は、まぁまぁといった素振りを見せ話し出した。男を産んだ女は、レン達の手によってグライヤーの研究施設から救い出されジャンパールに戻され両親が待つアシナラに帰った。そこで平穏無事に暮らしていた。イビルニア人に誘拐され半島に連れて行かれ望みもしない子を産まされた悲しみや恐怖を日々癒していた矢先に男が現れたのだ。

 「何しに来やがったって女の家族に散々殴られたよ、殺されそうになり命からがら逃げおおせた俺はふと思ったんだ、理由はどうであれ俺はあの女から産まれた子供じゃないか、どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだってな」

 「それで、その可哀そうなひとに母親の愛を求めたのか?」

 と、レンが言うと男は、大笑いした。

 「愛?母親の愛だと、フン、そんなものは不要だ!俺が会いに行った理由はただどんな人間か知りたかっただけさ、そして出来る事なら俺の下僕にしてやろうと思ったまでさ」

 「やはり…お前は断じてアルカトの弟なんかじゃない、アルカトの様に半分人間の血が流れているのなら愛とは何かを知りたくなるはずだ、アルカトはベルゼブを影では父と慕っていた」

 「フン、ベルゼブ様を父と慕っていただと?恐れ多い事だ、ベルゼブ様は父であり父では無い、主だ!兄貴がどうして愛なんぞに興味を持ったのかは知らんが、それがために貴様らに討ち取られた間抜けな奴さ」

 「何だとぉ!」

 と、レンは、怒りが頂点に達し真空斬を乱発した。男は、余裕で避け刀で弾き返しニヤリと笑った。そしてまた話し出した。日を改めてまた女に会いに行った男は、女やその家族に自分の下僕になれと言った。当然、断られる。そこでまた散々殴られたが、今度は反撃に出たのだ。女の父親を隠し持っていた短剣で刺し殺した。家族は、警備兵に連絡しようとしたが、男に次々と刺し殺されていった。目の前で家族を殺された女は、とうとう発狂してしまったのだ。

 「面白かったぜ、あんなに狂った人間を見たのは初めてだった」

 「そうか…あの事件は、おのれの仕業だったのか」

 と、マルスが悲痛な面持ちで言った。マルスは、アシナラで起きた悲惨な事件の事を知っていた。心の傷が癒えず、発狂した女が家族を殺したと思われていたのだ。施設に保護された女は、廃人の様になっているという。男は、自分を産んだ女を残してその場を去り、大胆にもアシナラの山奥へと向かった。

 「そこで俺は目覚めたのだ、自分の能力にな、父であるベルゼブ様が使った術や貴様らが使う練気技にな、ククク、あの山には何か不思議な力を感じたな、俺はそこにしばらく住み着き技を磨いたのだ」

 「アシナラには確か皇族のお墓があったんじゃないのかマルス」

 と、レンは、マルスをちらりと見て言った。マルスは、男を睨みながら頷いた。

 「たまに山を下りて町を散策したり都に行ったりすると貴様らの情報が入った、メタルニアで出会ったライヤーやタリス達、皆貴様らに殺された事を知り少し寂しい気分になったよ、そこで俺は連中の敵討ちをしてやろう思ったんだ、つまり貴様らを殺す事だ」

 「ほう、敵討ちとは殊勝だな、しかしそう簡単にはいかんぞ」

 と、テランジンがまた剣に最大級の気を溜めながら言った。

 「分かってるさ、さっきのあんたの技やマルス・サモンの技、油断していたらとっくに死んでいた、だから貴様らを目の前にしてからは一度も気を緩めてはいない、おしゃべりも飽きたな、そろそろ本気で始めようか、練気使いである貴様らの命このアーク・ワイリーがもらい受ける!」


 レン達と半イビルニア人アーク・ワイリーとの戦いが本格的に始まった頃、城内大広間の祝賀会も終わりに近付いていた。レン達から何の知らせが無いのでサイモン元帥らは焦っていた。

 (まずいな…このまま祝賀会を終わらせて良いものか…貴族達を裏門から帰すか、いや待て、ジャンパールから来たという半イビルニア人の仲間が居るかも知れん、ここで大騒ぎになったら陛下達の苦労が水の泡だ、俺の独断でここは引き延ばすか、良し)

 と、サイモン元帥は、意を決してルークを呼び祝賀会を引き延ばす事を話した。ルークも賛成した。

 「そうしよう兄貴、幸い誰も陛下達が居ない事に気付いてないし、今夜は無礼講だっつって飲ませよう、俺は後で陛下達を見に行って来るよ」

 「うむ、そうしよう、ではクラウドとミトラにも話しておく」

 と、サイモン元帥は、クラウド、ミトラに祝賀会を引き延ばす事を話しに行き、ルークは大広間の中央に行き集まった貴族達に今夜は、無礼講だから大いに飲み明かそうと大声で呼ばわった。

 「へぇ~もう終わりかと思ったらまだ祝賀会が続くのね」

 と、コノハが珍しそうに言った。エレナは、妊婦であるカレンとユリヤを気遣い、もう休もうと言っていた。

 「お腹の子に良くないわ、カレンさんユリヤもう寝なさい」

 「そうね、じゃあそうさせてもらうは」

 「はい、お姉様、ところでマルス様や陛下のお姿が先ほどから見えませんわ」

 と、カレンがふと気付き辺りを見回した。

 「そ、そうね、どこに行っちゃったのかしら」

 「まぁ、良いじゃない、陛下もマルス様もうちの人も久しぶりにあったからお城のどこかで話し込んでるんじゃないかしら」

 と、ユリヤが言うとエレナもカレンもそうかと納得した。エレナは、クラウドにカレンとユリヤを部屋でゆっくり寝かせたいと話した。困ったのは、クラウドである。大広間から人を出すなと言われている。

 (困ったな…しかし、身重の奥方達に陛下が戻るまで起きておくようになど言えん、仕方がない少し騒がしいが隣の部屋でお休みいただくか)

 「いつ陛下らがお戻りになられるか分かりませぬ、お隣の部屋でご休息下さいますよう」

 と、クラウドが言うとエレナが妙な顔をした。

 「でも二人は懐妊してるんですよ、もっと静かな部屋で休ませたいわ」

 「ははぁ」

 と、クラウドが情けない顔をした。エレナは、益々おかしいと思った。クラウドは、エレナがジャンパールから来た時からずっとエレナ付きの護衛として仕えている。クラウドは、今まで一度も言葉を濁した事は無い。何かあると感じたエレナは、素直にクラウドの言う事を聞いてやった。

 「ごめんね、カレンさんユリヤ、ちょっと騒がしいけどこの部屋で休んで」

 と、エレナは、大広間の隣の部屋に二人を案内した。そこには、既に酔い潰れたり、疲れて眠っている貴族の妻子が数名居た。その中に眠っているアンジュとケリーを両脇に抱き眠るルーシーの姿やデイジーを抱き眠るリリーやルークの妻マリアと母ステラも眠っていた。ちなみにこの部屋は、女子供しか入れないようにしてあった。エレナ達は、空いているソファを見つけそこに寝そべった。

 「おかしいなぁ~お兄ちゃん達どこに行ったんだろ?お姉ちゃん達も居ない」

 と、一人大広間に居たコノハが辺りを見回しながら呟いた。音楽に合わせて踊ったり、会話を楽しむ貴族達で一杯である。コノハは、エレナ達を探した。

 「どこだろう?あっ!?あの人、いつもお姉ちゃんの警護をしてる、え~と名前何だったっけ…あっそうそう、クラウドさん、クラウドさんに聞いてみよう」

 と、コノハは、エレナ達が休む部屋の前に立つクラウドを見つけて聞く事にした。そんな様子を数時間前、コノハを口説いていた若い貴族が見つけまた口説こうと近付いた。

 「ねぇねぇクラウドさん」

 「ははぁ、これは姫様」

 と、コノハに声を掛けられたクラウドは、丁重に礼を取った。

 (この人、お兄ちゃん達の事も何か知ってるんじゃないかな)

 と、こんな時のコノハの勘は鋭い。コノハは、にっこり笑ってエレナ達の事を尋ねた。

 「ねぇクラウドさん、エレナお姉ちゃん達どこに居るか知ってる」

 「はい、こちらのお部屋でカレン様ユリヤ様とお休みになられてますが、姫様もお休みになられますか?」

 「この部屋に居るの?ふぅん…ところでお兄ちゃん達どこに居るか知ってる?さっきから探してるんだけど見つからなくて、テランさんも居ないし」

 と、わざとつまらなさそうにコノハは言った。一人で退屈している素振りを見せた。クラウドは、また困った。レン達の事を話す訳にはいかない。

 (困ったな…何で俺に聞いてくるんだよ、え~何て答えれば良いものか)

 「ねぇクラウドさん、知ってるんでしょ?教えてよ~」

 と、コノハは、クラウドの手を取り握りしめたり腕に絡みついたりした。皇族の婦女子が人前でする行為ではない。そんな様子をコノハを口説こうとしていた若い貴族が見て何とも思わないはずもなかった。

 「き、君ぃ!」

 「はぁ?」

 「んん?」

 と、少し声を荒げ若い貴族は、コノハとクラウドに声を掛けた。周りに居た貴族達も一斉に三人を見た。若い貴族は、怒りの表情でクラウドを見て言った。

 「そのお方が誰か知っているのか?そのお方はジャンパール皇国の姫君なるぞ!お控えなさい!」

 そんな事は、言われなくとも分かっている。クラウドは、何を言っているのだといった顔をして若い貴族を見た。

 「い、いや、私は…」

 「君は職務中に婦女子に手を出すのか!」

 「なっ!?何だとぉ?おい、あんた、今の言葉は聞き捨てならんぞ」

 と、今度は、クラウドが怒り出した。コノハは、何だかよく分からないが面白くなって来たと思った。この点は、兄マルスにそっくりである。

 (こいつ何か勘違いしてるみたいね、そうだ、クラウドさんにやっつけてもらおう)

 「ねぇねぇクラウドさん」

 と、コノハは、クラウドを屈ませ耳打ちをした。

 「レンやお兄ちゃん達、どこに居るの?テランさんも居ないし何かあったんでしょ?」

 「そ、それは…」

 「心配しないで私には分かるわ、何か悪い事が起きてるんでしょ?」

 「えっ?何故それを…」

 「おい、いい加減に姫様から離れろ!」

 と、若い貴族が顔を寄せ合い話をするコノハとクラウドに腹を立て割って入ろうとした。

 「きゃ~クラウドさん、さっきからこの男がしつこく私に付きまとうの、やっつけて」

 「何ですと?おい、あんた、どういう事だ?」

 「なっ?!付きまとうなんて酷い、姫様、私は」

 「どうした何の騒ぎだ?」

 と、今度は、サイモン元帥とルーク、ミトラが来た。周りに集まる貴族達は、音曲や踊りに飽きていたところだったので新しい余興でも始まったかの様に見ている。クラウドがサイモン元帥とルーク、ミトラに事情を説明した。

 「クラウド、丁度良い、この場を上手く利用して陛下達が今何をしているか皆に気取られない様にしよう」

 「しかし、コノハ姫は何かお気付きになっておられるぞ」

 「何っ?…分かった、姫様には俺が話しておくからお前はあの小僧を利用してこの場を盛り上げろ、出来るだけ派手にな」

 「ええっ?派手にって…う~ん、こう言う事はミトラの方が得意だと思うのだが…」

 と、サイモン元帥に言われたクラウドは、頭を掻きながら呟いた。サイモン元帥に「小僧」と呼ばれた若い貴族は、ルークとミトラに自分が先にコノハ姫に声を掛けたのだと主張していた。

 「あの隊長が横恋慕をしたのだ、しかも職務中にだ!近衛兵はこの大広間の警備を任されているのだろう」

 「よ、横恋慕って、あのねぇ、え~っとリューク殿、クラウドには妻も子供も居るんですよ、クラウドがどれほど妻子を愛しているか、陛下もエレナ様もよく存じておられる、あなたの思い過ごしだ」

 「そうそう、コノハ姫が妻子ある男に興味を持つはずがないでしょうよ」

 と、ミトラとルークが若い貴族に言ったが、若い貴族は聞く耳を持たない。何とかコノハの気を引こうと必死になっていた。

 「だ、黙れ!いつも陛下やエレナ様のお傍に居るからと調子に乗るな!とにかく私リュート・キュービックは、クラウド隊長に決闘を申し込む!」

 と、若い貴族は、鼻息を荒げて宣言した。周りから歓声が沸いた。

 「おい、決闘だってよ」

 「おぉリュート、ジャンパールの姫君を賭けて決闘か?」

 「良いぞ、やれやれっ!トランサー貴族の誇りを見せてやれ!」

 と、仲間の若い貴族達が口々に言った。ちなみにリュート・キュービックと言う若者の父が侯爵を賜っているので今日は、その父の代わりに祝賀会に参加していたのだった。

 「駄目だこりゃ、完全に姫様にのぼせてるな」

 「はぁ~マルス兄ぃが居なくて良かった、居たら違う意味で大変な事になってたな」

 と、ミトラとルークは呟きながらコノハらの前に出た。

 「姫様、あの野郎完全にのぼせ上ってますぜ」

 と、ルークが言うとコノハは、嫌な顔をした。サイモン元帥がやれやれといった顔をしてクラウドを見た。

 「クラウド、決闘を申し込まれてるぞ、どうする?ここはひとつ姫様をお守りするために一肌脱いでくれ」

 と、笑いそうになるのを必死に堪えながらサイモン元帥が言った。ミトラも笑いそうになっている。コノハは、クラウドの手を取りわざと甘えた素振りを見せた。その姿を見たリュート・キュービックは、カッとなり叫んだ。

 「姫様、その男からお離れ下さい!その男は妻子ある身ですぞ!汚らわしい男め、私が成敗してくれる!」

 クラウドは、腹が立って来た。ただコノハからレン達はどこだと聞かれただけなのにいつの間にか恋敵にされていて、しかも他国の姫君と浮気しようとしていると見られている。実直なクラウドには、耐えられない屈辱である。

 「先ほどから何を勘違いしているのか分からんが決闘と言うなら受けて立つ、しかしここは城内である、剣を抜く事は許されん、こいつで勝負だ!」

 と、クラウドは、大きな握り拳をリュート・キュービックに見せつけた。

 「良いだろう、ではサイモン元帥閣下、始めの合図を」

 と、リュート・キュービックは、仲間の貴族に腰に下げた剣を渡しながら言った。周りから歓声が沸いた。

 「クラウド手加減してやれよ、では双方、始めっ!」

 と、サイモン元帥は、大きな声で言うと直ぐにコノハにレン達の事を説明した。コノハの顔に緊張の色が見えた。

 「じゃ、じゃあ今レン達はそのジャンパールから来た男と戦っているの?」

 「はい、相手は練気使いとの事で一般の兵では太刀打ち出来ません、兄上様やラーズ殿下、それにテランジンもおりますので直ぐに決着する思っていたのですが…どうも気になります」

 「おかしいよ、相手は一人でしょ?四人がかりで…もう一時間以上経ってるじゃない」

 「ひょっとしたら仲間が居たのかも知れません、俺が今から様子を見て来ますよ」

 と、ルークが言うと私も行くとコノハが言った。

 「お止め下さい、姫様に何かあったらマルス様に叱られます」

 「そうですよ、この大広間から出るのは危険です」

 と、サイモン元帥とルークが必死になってコノハを止めた。

 「それにクラウドは今誰のために戦ってるんです?」

 と、サイモン元帥に言われコノハは、ハッとした。

 「そ、そうだった…忘れてた、あはははは」

 と、言うコノハを見てサイモン元帥とルークは呆れた。大広間の中央では、クラウドとリュート・キュービックが取っ組み合っている。

 一方、ジャンパールから来た男アーク・ワイリーと戦っていたレン達は、何と内門付近まで押されていた。練気隊士の怪我を治療していたドラクーン人ラードン大使、タキオンとワイエットが龍に変身している。練気隊士三名は、もはや自分達の出る幕ではない事を痛感していた。

 「はぁはぁ…あの野郎、何て強さだ、俺達の練気技が全く通用しない」

 と、息を切らせながらラーズが言った。レン達は、アークが既に覚醒していると見ていた。

 「おい、貴様はいつ自分の力に目覚めた?」

 「自分の力?目覚めた?おいおい、何を言ってるんだ貴様ら、俺は最初から力を持ってたんだよ」

 「殴り殺されそうになったって言ってただろ?その時なんじゃないのか?」

 と、以前ジャンパールに現れた占い師フォルツことタリスの事を思い出したマルスが言った。タリスは、兵士に痛めつけられイビルニアの血に目覚めたからだ。

 「ああ、あの時か別に何も起きなかったが、あの時はただ俺を産んだ女に会ってみたいと思ってただけだったからなぁ、ククク」

 と、嘲笑うアークを見てレン達は、絶句した。アーク・ワイリーの強さは、ベルゼブやイビルニア四天王と同格、いやそれ以上に感じられた。

 「本当に覚醒してないのか?奴の練気は異常だぞ、それとも俺達が弱くなっちまったってか?」

 と、マルスが悔しそうに言った。その隣でレンが左脇腹を押さえながら苦しそうな顔をしていた。アークの攻撃を受けあばら骨が折れているのかも知れない。

 「貴様ら練気使い四人とドラクーン人三人合わせてこの程度か…全く買いかぶっていた様だ、つまらん…ところで貴様らの後ろにある銅像は…フウガ・サモンとヨーゼフ・ロイヤーだな、目障りだ壊してやる」

 と、アークが銅像に向け真空斬を放った。フウガとヨーゼフの銅像は、派手な音を立てて粉々になった。

 「あぁぁ!何て事を!」

 「この野郎!」

 と、レンとマルスが真空斬を放とうとした時、アークが叫んだ。

 「重地縛じゅうちばく!」

 レン達の身体が一気に重くなった。

 「こ、これはベルゼブの…」

 「フハハハハ、そうこの術は父ベルゼブ様が使った術、ジャンパールの山奥で修行をしていた日々、俺は重力を操れる事に気付いた、どうだ、動けんだろう?」

 と、アークが得意気に言った。確かにレン達は、容易に身動きが取れなかったが、ベルゼブの重地縛ほど強烈には感じられなかった。

 「そうでもないぜ、ふんっ!」

 と、テランジンが猛烈な真空突きをアークに放った。弾丸の様な真空波がアークの額に直撃し吹っ飛ばした。並みのイビルニア人ならば頭が粉砕しているはずだった。

 「くぅぅぅ…今のは効いたなぁ、全身に気を帯びていなければ頭が潰れていた」

 「や、野郎、まだ死なねぇのか?…うわぁぁぁぁぁ?!」

 「少々甘く見ていた、これでどうだ?」

 と、アークは重地縛の威力をさらに強めた。レン達が地面に吸い寄せられ完全に身動きが取れなくなった。

 「ククク、一人ずつ嬲り殺しにしてやる」

 と、アークがゆっくりとレン達に近付いた。テランジンは、何とかレンを守ろうと渾身の力を振り絞ってレンに近付こうとした。マルスもラーズもレンの前に立とうと必死になった。

 「なめんじゃねぇぞ!」

 と、同じく重地縛で身動きが取れなかったラードン大使がアークに爆炎を吐いた。そして、続けざまにタキオンとワイエットもアークに爆炎を吐いた。アークの全身が炎に包まれた瞬間、重地縛が解けた。

 「グオォォォォォ!」

 「へっ!ざまぁ見やがれってんだい、殿様っ!じゃなかった陛下ぁ大丈夫ですかい?」

 炎で苦しむアークを放っておきラードン達がレン達に駆け寄りレンの左脇腹の治療に掛かった。

 「ありがとう、ラードン大使」

 「へへへ、陛下に何かあったらカイエンの野郎に何言われるか分かったもんじゃありませんぜ、ささっ、これでもう大丈夫ですぜ」

 と、ラードン大使はレンの治療を終わらせた。レン達は、炎に焼かれるアークを見た。ラードン達ドラクーン人も変身を解きアークを見た。炎にもがき苦しむアークを見てレンは、ジャンパールの山奥で大人しく暮らしていれば、こんなに苦しまずに済んだのにと妙な事を思った。

 「馬鹿な奴だ、さぁ皆、これ以上見てても仕方がないよ、とどめを刺してやろう」

 と、レンが斬鉄剣を構えた。マルス、ラーズ、テランジンも剣を構え気を練り始めた。そして、レン達が止めの真空斬を放とうとした時、もがき苦しむアークが強烈な衝撃波を放ちレン達を壁に叩きつけた。

 

 

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