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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
201/206

二つの像

 トランサー王国にも春がやって来た。城内の中庭にある花壇は、色とりどりの花が咲き乱れ人々の目を癒していた。レンが正式に国王となって一年が過ぎていた。城下町や港町は、もちろんの事トランサー王国各地でお祭りが催されていた。

 「やっぱりトランサーは、ティアック家が治めるべきなんだ、今と昔じゃ大違いだ」

 「そうそう、ザマロ時代を思い出すとゾッとするねぇ」

 「こんなに楽しく飲んで歌って出来ねぇやな」

 「レオニール様、万歳!ティアック家、万歳!」

 と、国民は、喜びティアック家の治世に満足していた。トランサー城内もレンの治世一年目を祝して貴族や政治家達、各国の大使らが祝賀の挨拶あいさつに連日訪れていた。レンとエレナは、謁見の間から離れる事が出来ないほど忙しい日々が続いていて近頃やっと落ち着きを取り戻していた。

 「そう言えばアンジュが学校に行くって聞いたけど」

 と、城内でレンがディープ伯爵を相手に話をしていた。

 「はい、確か昨日からでございましょうか、ふふふ…ルーク殿が学校でアンジュがいじめに遭わない様にと入学の際同行して生徒達ににらみを利かせたとか」

 「あははは、ルークも心配性だね、でも学校って貴族の子供が行く学校だろ?」

 「はい」

 「じゃあ正解だよ、エレナがジャンパールの都にある貴族の子供達が通う学校に編入した頃、大変だったそうだよ、エレナが皇后様やコノハの希望で入ったって事を知らない連中から直ぐに目を付けられて酷い嫌がらせを受けたって、でもコノハも同じ学校に通ってたからね、コノハと仲良くしてる姿を見て嫌がらせをやってた連中はコノハに告げ口されるんじゃないかって逆に心配してたそうだよ、元が平民の子は何か後ろ盾が必要なんだよ」

 と、レンが大真面目な顔をして言った。

 「そうでしょうなぁ、貴族の中にはサイモン家の養子の一件を快く思っていない者も居ると聞き及んでおりますゆえ、そう言った連中の子供が何をやらかすか分かりませんからな」

 と、ディープ伯爵が深刻な顔をして言った。確かに貴族の中には、サイモン家の養子の事で快く思っていない者が多数居るのだ。サイモン元帥は、伯爵位を持つ貴族である。貴族ならば何故、貴族から養子をもらわないのかと異を唱える者が居るのだ。

 「まぁ、何かあったら僕が直接学校に行ってやるさ、あの子達にはもう二度と辛い思いはさせたくない」

 「左様でございますなぁ、もしもの時はまず私が陛下の名代として学校と生徒達の親に会い掛け合いまする」

 と、ディープ伯爵が言った時、扉を叩く音がした。

 「何か?」

 「ははぁ、先ほどジャンパール皇国マルス・サモン大公より連絡がありまして」

 「中へ入りなさい」

 「ははぁ」

 と、ディープ伯爵に言われた役人が部屋へと入って来てレンに一礼し説明を始めた。マルスが言うには、レンの国王即位を祝う銅像が完成したので持って行くとの事。銅像は三体あり、どこに設置するかは、もう決めてあるそうで二体は、城の内門の両脇、そしてもう一体は、中庭の花壇の真ん中に置くので設置出来るよう準備をしていて欲しいとの事だった。

 「ああ、そう言えばヨーゼフの葬儀の後に何か言ってたな、その事だったのか、うん、分かったよ」

 「ははぁ、ではサモン大公のお言い付け通りに事を運びます」

 と、役人は、答えて部屋から出て行った。

 「銅像ですか、陛下の銅像ですかな、楽しみですな」

 と、ディープ伯爵がにこにこしながら言った。

 「いや、違うよ、三体あるって言ってただろ、フウガおじいさんとヨーゼフの銅像だよ…でももう一体は誰だろう?まさか、マルスじゃ…」

 「あはははは、まさかそれはありますまい」

 「いいや、分からないよ、マルスならやりかねないからね、俺のは花壇の真ん中に置いておけって言いそうだよ、もしそうだったら直ぐに撤去してやる」

 と、苦笑交じりにレンが言うとディープ伯爵は大笑いした。マルスから連絡があった一週間後、ランドール王国からラーズとユリヤがレンの治世一年目を祝うため私的にやって来た。

 「おめでとうレン、何か立派な王様になったなぁ、エレナさんも王妃って感じが出て来たぞ」

 と、ラーズは、感慨深げに言った。マルス同様にレンを弟の様に思っているラーズは、目頭を熱くさせた。ザマロを討ち取るためにトランサーに乗り込んだのが、つい昨日の事の様に思えた。

 「ありがとうラーズ、もうそろそろマルスもやって来るよ、お土産付きでね」

 と、レンが言うとラーズは、あんな奴が持ってくる土産なんざろくなもんじゃねぇと言い周囲を笑わせた。

 「ところでユリヤ、まさかあなた」

 と、ふとエレナがユリヤのお腹が少し大きい事に気付いた。ユリヤは、照れ臭そうに小さく頷いた。

 「そう、出来たの」

 「ええっ?!やったじゃないか、おめでとう」

 「ありがとう、レン、エレナさん、俺もとうとう人の親だ」

 と、ラーズは、満面の笑みで礼を言い、ユリヤに寄り添った。二人のトランサー訪問は、ごく私的なものなので大袈裟な晩餐会などはせず、ラーズとユリヤが見知った者だけを集めて、レンの治世一年目とユリヤの懐妊祝いを行った。

 「ご懐妊おめでとうございます、殿下、ユリヤ様」

 と、テランジンとサイモン元帥が二人を祝った。

 「ありがとう、テランジン、サイモン元帥、ところでサイモン元帥は養子を迎えたとか?」

 「はい、殿下、二人迎えました、姉がアンジュと言い弟がケリーと申します」

 「へぇ、いきなり二人の親かぁ~どんな子だい?一度会ってみたいな」

 と、ラーズがにこやかに言った。

 「ははぁ、会ってもらえますか」

 と、サイモン元帥が顔をほころばせて言うとテランジンが笑いをかみ殺しながら言った。

 「くくく、顔に似合わず親馬鹿でしてね」

 「何が親馬鹿だ、あの子達とはまさに運命の出会いだったんだぞ」

 と、サイモン元帥がアンジュとケリーと出会った経緯を話した。ラーズとユリヤの顔から笑顔が消え真顔になった。

 「なるほど…そりゃ確かに不死鳥の剣の導きだろうな」

 「それにしても酷い親も居たのね、サイモン様に引き取られて本当に良かったわ」

 「ははぁ、恐れ入ります、そう言っていただけると妻も喜びます」

 と、サイモン元帥が嬉しそうに答えた。こうして夜も更け祝宴は、終わりを告げた。

 翌日、マルスが来るまでレンは、普段通り政務を執りラーズとユリヤの相手は、エレナに任せた。エレナは、身重のユリヤを気遣いあまり外に出歩かない方が良いと言い、ラーズを益々暇にさせた。

 「退屈だなぁ~、エレナさん、ユリヤ、俺ぁちょっと出て行くぜ」

 「えっ?で、殿下お一人で?」

 「うん」

 「駄目ですよ、レンに相談して下さい」

 と、エレナに言われラーズは、レンに散歩に出たいと話した。レンは、マルスが来るまで城内で大人しく出来ないのかと愚痴をこぼしながらも案内人を付けるからとテランジンに相談した。

 「な~る、今日はジャンが非番ですのでジャンに案内させましょう、あいつもトランサーに来て五年です、あちこち知ってるでしょう、護衛はいかが致しましょうか?」

 「護衛なら無用だ、ランドールから連れて来た者も居るし大丈夫さ」

 と、言う事でラーズは、以前メルガドの内乱の時にシンと共に活躍したランドール陸軍少尉バーデン、ヴェルト、バロッサを引き連れ、城内の厩舎で馬を借りてロイヤー屋敷に向かった。ジャンは、軍の宿舎で寝泊まりはしておらず、ロイヤー屋敷内の長屋に居るからだ。

 「この辺りは、静かな所だな」

 などと言っているうちにロイヤー屋敷に到着した。呼び鈴を鳴らすと既に連絡を受けていたジャンが出て来た。ジャンも馬に乗り、早速城下町に向かった。

 「この前来た時はヨーゼフさんの葬儀の時だったから湿っぽかったけど、さすがに今は違うな、活気に溢れてる、良い町だ」

 と、ラーズを先頭にその少し後を案内人のジャンが行き、バーデン、ヴェルト、バロッサ少尉らが続く。城下町の大通りを馬で歩きながら店先に並ぶ売り物を眺めた。ユリヤに土産でもと思ったからだ。そして、ある宝石商の店の前で歩みを止めた。

 (んん?はて…妙な…俺の勘違いかな?確かトランサーにあったイビルニア製品は全て破壊したと聞いたが…)

 「殿下、どうかしましたか?」

 と、ジャンが険しい顔をしたラーズに気付き尋ねた。

 「ああ、ちょっとな…俺の勘違いなら良いのだが、まぁこの宝石店に入ろう」

 「は、ははぁ」

 と、ジャンは返事をしてバーデン達と顔を見合わせた。ラーズ達五人が店に入ると直ぐに店主が揉み手をしながら声を掛けて来た。

 「いらっしゃいませ、旦那方、どの様なものをお探しで?」

 と、人の好さそうな顔をしている。店主は、ラーズを他国の貴族か金持ちと見た。

 「妻に指輪でも贈ろうと思ってな」

 「なるほど、ではこちらはいかがでしょう?」

 と、店主は、大きな宝石が付いた指輪や純金製の指輪を数個、手触りの良さそうな布が張られた盆の上に置き並べ、ラーズに見せた。ラーズは、それらを見ながら同時に店主の様子を探った。

 (ふむ、店主に悪意は無さそうだな…この中にもイビルニア製品は無い…するとやはり俺の勘違いか?…いや、違うこの店からあの嫌な感じがする、どこだ、どこにある?)

 「お気に召しませんか…それなら」

 「いや、どれも素晴らしい一品だ、ところで店主、この店の中に何かこう不思議な感じがする物があると思うのだが」

 と、ラーズが店主の言葉尻を捕って言った。驚いたのは店主である。

 「お、お客様、どうしてご存じなのです?私はあれを仕入れた事は誰にもまだ話していないのに」

 「ほほう、あれ…じゃあそのあれとやらを見せてもらおうか」

 「少々お待ちを」

 と、店主は言い店の奥へと引っ込んだ。

 「なぁジャン、あのおっさん悪党かな?」

 「えっ?な、何です急にただの商人でしょう」

 「ところでお前達は何も感じないのか?」

 と、ラーズに言われたジャン達は、互いに顔を見合わせた。

 「さぁ…別段何も感じませぬが、いて言えば店先に来た時から若干妙な感じが致します」

 と、バロッサ少尉が答えた。ラーズは、うんと頷き「それだっ!」と言った。

 「この店にイビルニア製品があるかも知れん」

 「ええっ?何ですって、じゃあ、あの店主は」

 「ジャン、捕り物になるかも知れんぞ」

 と、ラーズが言った時、奥から店主が神妙な顔をして「あれ」と呼んだ物を持って来た。店主は、厳かに「あれ」をラーズ達の前に置き包みを解きほぐした。

 「これにございます、ヘブンリーから流れて来たと言う首飾りです」

 ラーズ達は、一斉に首飾りを覗き込んだ。イビルニア製品なら悪意の無い者が見れば頭痛がして気分が悪くなる。しかし、ラーズ達は、何も感じなかった。

 「店主、俺が言ってるのはこれじゃない、他にあるだろう、それにこれはヘブンリー製ではないぞ、ヘブンリーで作られた物を持ってる人間はこの世ではレンとジャンパールのマルス・カムイじゃなかったサモンだけだ」

 「はぁ?何を言ってるんだ、私はこの首飾りを探すのにどれだけ苦労したか、これはヘブンリーで作られた貴重な物です、お気に召さなければ結構です」

 「はいはい、分かった分かった、で、他に無いのか?必ずこの店にあるはずなんだがなぁ」

 「そう言われましても、他には…」

 と、店主が言いかけた時、店の奥から男の店員が一人出て来た。

 「店長、シャルマン夫人に持って行く宝石の準備が出来ました」

 と、言った店員をラーズが何気に見た。

 「あっ?!こ、こいつだ!ジャン捕らえろ!」

 と、ラーズは、一瞬で店員の男が半イビルニア人である事に気付いたのだ。さすがにジャンやバーデン達も半イビルニア人を目の前にして気が付いた。驚いたのは、店主でいきなり自分の店の者が捕らえられ憤っていた。

 「一体何ですかあんた達は?彼が何をしたと言うのです」

 「店主、残念だがあの男は半イビルニア人だ、この店から不思議なものを感じて入ったが、まさか商品ではなく半人からだったとは…あんた気付かなかったのか?」

 と、ラーズに言われ店主は、顔を真っ青にした。この世界では、イビルニア人、半イビルニア人と関わる事は、許されない。

 「全く気付きませんでした、彼はリードニアから来た宝石商の息子だと聞いてましたもので…わ、私はどうなるのでしょう?あなた方は一体」

 「まぁ無理もないさ、あそこまで人に近い奴は俺も初めてだからな、素人のあんたらが気付かないのは当然だな、俺はランドールのラーズ・スティールだ、ジャン、お前達この野郎を軍部に連れて行け」

 と、ラーズは言い、店主に後から役人が来るだろうから正直に答えるよう言い渡し店を出た。

 「ち、畜生め!何で分かったんだ」

 と、店を出るなり半イビルニア人が喚いた。通りを行き交う人々が一斉にラーズ達を見た。

 「どんなに上手く隠しても分かる者には分かるのさ、ジャン非番なのにすまんなぁこんな事になってしまって」

 「いいえ、とんでもねぇ、ありがとうございました、じゃあ俺はこの野郎を軍部に連れて行きます」

 と、ジャンは、宝石商の隣の店から丈夫なひもを借りて半イビルニア人を縛り上げバーデン達と城下町にある軍部に向かった。

 「やれやれ、まだ居たんだな…ランドールももう一度調べるか…まぁ、今日は大人しく帰るか」

 と、一人になったラーズは、馬に乗りトランサー城へ帰った。帰ると直ぐにレンが宝石店の一件を聞きに来た。

 「まだ半人が居たんだって?」

 「もう耳に入ってるのか、ああ、居たぜ、今ジャン達が取り調べてるだろう」

 「うん、そう連絡があったよ、本当に助かったよ、ありがとうラーズ」

 「俺も驚いたよ、まさかあんなところで出くわすとはな、あはははは」

 そして、この日の夕方頃に半イビルニア人の取り調べを終えたジャンは、後の処置を陸軍将校らに任せ登城しレンとラーズに取り調べた内容を話した。半イビルニア人は、店主が言ったように本当にリードニア国から来たとの事で何の目的でトランサーに来たのかは、不明だと言う。

 「ただ生きていくためだと言っておりました」

 「ホントかよ、絶対何か目的があるはずだぜ」

 と、ラーズが腕組みをしながら言った。傍でラーズの子を宿したユリヤが不安な表情を浮かべている。イビルニア四天王であるグライヤーによって世界に放たれた半イビルニア人の数は、今だ分からず見つけ次第捕らえて殺している。今回見つかった半イビルニア人も十分取り調べた上で処刑する。ジャンが帰った後、レン達は、夕食を取り、この日は、大人しく休む事にした。そして、夜明け前にレン達にジャンパールからマルスが妻カレンと妹のコノハと共にやって来たと報告が入った。

 「まだ夜明け前じゃないか」

 「ははぁ、申し訳ございません、サモン大公に早く取り次ぐよう催促されまして」

 「うん、分かったよ、ところでラーズには知らせたかい?」

 「はい、他の者が知らせに行きました」

 と、レンは、納得したがラーズは、ご立腹だった。知らせた役人は、苦笑いするしかなかった。

 「あの野郎、何時だと思ってるんだ?全く迷惑な奴だな、あと二、三時間も待てねぇのかよ」

 「仰る通りでございます」

 ラーズは、着替えを済ませレンとエレナの部屋に向かった。レンも着替えを済ませていた。

 「レン、お前は国王だぞ、あの馬鹿を迎えにわざわざ行く必要はねぇ、俺が行って来るからお前はまだ寝てろ」

 と、ラーズは、レンに言いトランサーの役人を引き連れてマルスが待つ港町へ魔導車で向かった。港に到着するとジャンパール皇国の国旗を掲げた中型の輸送船が停泊しており、マルス、カレン、コノハが既に陸に降りていてトランサー側の役人達と何か話をしているのが見えた。空は、まだ暗い。

 「馬鹿野郎!何時だと思ってんだ、こんな朝っぱらに来やがって!」

 と、ラーズが魔導車の窓を開けるなり怒鳴った。マルスは、へらへら笑っている。カレンとコノハは、申し訳なさそうな顔をしていた。

 「いやぁ久しぶりだなラーズ君、元気にしてたかね?」

 「何が元気にしてただ、カレン、お前がこいつを止めないと駄目じゃないか…って、カレンもしかして懐妊してるのか?」

 と、ラーズは、カレンの腹が大きい事に気付き言った。カレンは、嬉しそうにうんと頷いた。

 「そうだったのか、おめでとう…って、マルス、カレンが身重なんだから少しは考えろよ」

 「ふふふ、まぁな、ところであいつは?」

 「レンはまだ寝かせてるよ、あいつは国王なんだぞ、俺達みたいな冷や飯食らいじゃないんだ」

 「へん、何を言う、俺はちゃんと独立している、冷や飯食らいはお前だけだ、あはははは」

 「このぉ減らず口がぁ」

 と、マルスとラーズのやり取りを役人達が笑いをかみ殺して見ていた。

 「ところでお前、何を持って来たんだ?レンに土産みやげがあるんだろ?」

 「ふむ、本当はもっと早く持って来るはずだったんだがヨーゼフが死んじまって予定が変わったんだ」

 「何でヨーゼフさんが関係するんだよ、ちょっと見せてみろよ」

 「駄目だ、こんなところで広げられん…おぉ、やっと来たか、おーい!こっちこっちぃ!」

 と、マルスは、ラーズを相手にせず、こちらに向かって来る魔導重機に手を振った。魔導重機の後ろには、荷台がある大型の魔導車が続く。マルスがあれこれ指示を出し、ジャンパールから持って来た物を魔導重機で吊り上げ大型魔導車に載せさせた。持って来た物は、白い布に包まれて三つある。二つは、細長く一つは、横に広い。荷台から落ちないようにしっかりと縄を掛けた。

 「これで良かろう、さぁ城に運んでくれ」

 「なぁ、マルス何だよあれは?」

 「うるさい、さぁ行くぞ」

 と、マルスは、乗って来た輸送船の船長とトランサーの役人に何か言って、ラーズが乗って来た魔導車に勝手に乗り込んだ。カレンとコノハも続いて乗り込んだ。後部座席が一杯になったのでラーズは、助手席に乗った。乗り切れなかった役人は、大型魔導車に乗り城へ向かった。ロイヤー屋敷の前を通り過ぎようとした頃、やっと空が白んで来た。魔導車の中でラーズが大あくびを掻いていた。

 その頃レンは、結局眠れずに起きて椅子に座っていた。ベッドからエレナの健康そうな寝息が聞こえる。エレナを起こさないようそっと部屋を出て警備に就いている近衛兵に声を掛け城門へ向かった。廊下を歩くと窓辺から小鳥のさえずりが聞こえた。中庭が見える廊下を過ぎ、内門まで来ると何やら騒がしい。

 「どうしたんだい?」

 「あぁぁ、陛下ぁ!おお、おはようございます、マルス大公が大きな荷物を持って来たそうで」

 と、城門の警備に就いていた兵士が慌てて言った。レンが中門辺りまで歩いているとマルスの元気な声が聞こえた。レンは、嬉しくなって走った。

 「マルスッ!」

 「おう、兄弟!元気そうだな、持って来たぞ」

 と、マルスは、台車に載せられ白い布に包まれた大きな荷物を指差した。ちなみに荷物は、城の大外門の内側で大型魔導車から降ろし城の修繕などで使うための魔導重機で引っ張って来た。

 「約束通り準備は出来てるな?」

 「うん、ほら、あの内門の両脇に台を作っておいたよ」

 「ふむふむ、あれだな、おーい!あそこまで引っ張ってくれ」

 と、魔導重機を操作する兵士にマルスが言った。城の敷地内をのんびりと見物しながら歩いていたラーズ、カレン、コノハもやって来た。

 「レン、お久しぶりね、お姉ちゃんは?」

 と、コノハがレンに抱き着くなりそう言った。後ろでお腹を大きくしたカレンがレンに挨拶する。

 「お久しゅうございます、レオニール陛下にあらせましてはご機嫌麗しゅう」

 「お久しぶり、カレンさん、あれっ?カレンさんももしかして懐妊してるのかい?」

 「はい、再来月辺りが産み月になりそうです」

 「おめでとう、そう言えばラーズも再来月くらいなんじゃ」

 と、レンが言うとラーズは、嬉しそうに頷いた。内門前でマルスが何か喚いているのが聞こえ皆で内門前に向かった。

 「何やってんだお前ら、レン腹が減った、飯食ってから台座に移そう、あんたらも飯食おう」

 と、マルスは、魔導重機を操作する兵士や荷下ろしを手伝う兵士達に言うとさっさと我が家同然に城内に入って行った。仕方がないのでレン達も後に続いた。この時間の食堂は、大忙しである。レンとエレナに出す食事はもちろんの事、ディープ伯爵など城詰の大臣や役人に出す食事の準備で大変だった。出来た食事を運び出す者達の横を申し訳なさそうにレン達が歩く。マルスは、食堂ではなく厨房に入り料理長のケインに声を掛けた。

 「おーい、料理長」

 「何でぇ!このくそ忙しい時に…って、ああぁ!?あなたはマ、マルス殿下」

 ブラッツの反乱の時に顔見知りとなったケイン料理長が慌てて帽子を取り挨拶した。マルスが事情を説明し直ぐに人数分の朝食を作ってもらった。

 「こんな物で本当によろしいんで?」

 「ああ、良いんだ良いんだ、腹を満たすだけだ、ありがとよ」

 「忙しい時にごめんね、料理長」

 と、レンは、ケイン料理長に謝った。ケイン料理長は、とんでもないといった顔をして頭を下げ、朝食を食堂へ運ぶよう部下達に命じた。食堂で腹を満たしたマルスは、一人でまた内門に向かった。

 「勝手な奴だなぁ、皆まだ食ってるじゃないか」

 と、ラーズが文句を言うとカレンが申し訳なさそうな顔をした。レン達も食事を済ませ食堂を後にするとエレナとユリヤがやって来た。

 「お姉ちゃん!」

 と、エレナを見るなりコノハが抱き着いた。

 「いらっしゃい、コノハ、ずいぶん早く来てたのね、カレンさん、お久しぶりって、まさかお腹に?」

 と、エレナは、カレンの大きくなった腹を見て言った。レンが産み月は、再来月だそうだと話すと今度は、ユリヤが驚いた。

 「まぁ、うちもそうなんです」

 「どちらが早く産まれるか楽しみですわ」

 と、カレンが大きくなったお腹をさすりながらにこやかに言った。そして、皆で内門に向かうと何とマルスが魔導重機を操作していた。

 「あぁ、殿下ぁ!」

 と、魔導重機を操作していた兵士が慌てて駆け寄った。マルスは、慣れた手付きで操作している。

 「俺に出来ない事は無い、さぁまずこいつを左側の台座に設置するぞ」

 と、荷台からまず一つ目の白い布で包まれた物を魔導重機で吊り上げ台座の丁度中央に持って行った。

 「底の布を少しめくってくれ、そうそう、おうばっちりだな、伝えた寸法通りだ、よぉし、降ろすぞ」

 と、吊り上げた物をゆっくりと台座の上に降ろし、はめ込んだ。そして、ジャンパールから持って来ていた豪華に飾られた留め具で台座と物をがっちり固定した。二つ目の物も同じ様に台座に設置した。

 「これで良し、さぁ布を捲ってくれ」

 マルスに言われた通り、兵士達が白い布を捲るとそこに二つの像が現れた。

 「これは…フウガおじいさんとヨーゼフの像だね、あははは、思った通りだよ」

 「何だやっぱり気付いてたか、まぁ最初はフウガの像だけだったんだがな、まさかヨーゼフが死んじまうなんて思ってもみなかったから、急いで作る事にして、持って行くなら二体同時にってな」

 「ありがとう、マルス、良く出来てるよ」

 「ふふふ、当たり前だ、我が国の職人が丹精込めて作り上げたものだぞ」

 と、マルスが得意気に言った。

 「しかし、二体とも怖い顔をしているな」

 と、ラーズが像をまじまじと見ながら言った。フウガとヨーゼフの像は、共に大剣を地につきこれより先は通さぬといった顔をしていた。

 「悪党は一切通さぬって感じだろ」

 「うん、フウガおじいさんとヨーゼフに守られてる感じだよ」

 と、レンは、二体の銅像を嬉し気に見つめて言った。そして、最後に残った横に少し広がった物を中庭に運び入れ、この日は作業を終えた。マルス、ラーズが揃いこの日の夜は、二人が良く知る者だけを集めて、城内大広間で祝賀会が催される事となった。

 

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