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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
193/206

孤児院

 部屋の中では、不死鳥の剣を抱いたアンジュとケリーをレン達が囲むようにして見下ろしている。レンは、二人にまず座るよう促した。アンジュとケリーを座らせレン達も適当に座り話しかけた。

 「どうやってその剣を手に入れたんだい?」

 と、レンは、最大の謎だった事を二人に聞いた。アンジュは、剣をギュッと抱き締め話そうか迷ってる様子である。

 「アンジュや、陛下のご下問だ、早くお答えなさい」

 と、ホーリッシュ大司教が真剣な目をして言うとアンジュは、泣きそうな顔をして答え始めた。

 「あ、あの…信じてもらえるか分かりませんが…その、声を聞いたんです、私はここだ、ここにあるからって…優しい女の人の声でした」

 「女の人の声?なるほど…で、どうして不死鳥の剣を持ち出したのかな?」

 と、レンは、女の人の声の主がラムールだろうと思い聞いた。アンジュは、目を潤ませレンをじっと見つめ話し出した。

 「国王様は、この剣の力で甦ったって聞きました、ヨーゼフ様が亡くなったと聞いた時、私は恩人のヨーゼフ様をこの剣で甦らせたいと思いました、国王様はどうしてこの剣でヨーゼフ様を甦らせないのですか?」

 この問いには、レンも困った。出来る事なら甦らせたいと誰よりも思っている。この剣の本当の力を目の前の少女に話して理解してもらえるだろうかと悩んでいた時、テランジンが答えてくれた。

 「剣の力でおやじを甦らせようとしてくれた事は、義息子むすことして礼を言う、しかし残念な事にその剣の力で甦らせる事が出来るのはティアック家の方々と決まっていてな、それもその方が死ぬ運命にない時だけなんだよ、陛下はあの時、死ぬ運命ではなかった、だから不死鳥が陛下をこの世に連れ戻った、そして、この世に甦らせる事が出来るうつわ、つまり身体が残っていた、俺のおやじは国葬の後、火葬にしたからもし甦らせる事が出来ても魂を受け入れる器が存在しないから無理なんだよ」

 「ええ~?そんなぁ…じゃあ私達は何のために…ヨーゼフ様、ごめんなさい、うわ~ん」

 と、アンジュが泣き出してしまった。姉が泣くのを見て今度は、弟のケリーまで泣き出した。レン達は、やれやれといた顔で二人を見ていた。

 「ヨーゼフ様ぁ…」

 「しかし、大胆な事をしたものだな…これっ、アンジュ、ケリーお前達は、お城に侵入しあまつさえ国宝である不死鳥の剣を盗み出したのだぞ、これは重罪だぞ!」

 と、ホーリッシュ大司教が怖い顔をして言った。アンジュとケリーは、ハッとなって震え出した。

 「とにかく、まずは剣を陛下にお返しなさい」

 「本当にほんとうにごめんなさい」

 と、アンジュが言いレンに不死鳥の剣を返した。レンは、剣を受け取るとアンジュの頭を優しく撫でた。

 「陛下、誠に申し訳ございません、この上はこの子らに罰をお与え下さい」

 と、ホーリッシュ大司教が神妙な面持ちで言うとレンは、首を横に振った。

 「僕は、この子達に罰を与えようとは思っていません、確かに剣を盗み出した事は悪い事ですが、それはヨーゼフを甦らせようとした事ですから、ヨーゼフもきっとあの世で喜んでいてくれてますよ、ねぇテランジン」

 「はい、陛下、私もその様に思います…ところで君達はどうやって城に入ったのかね?門番兵が居ただろう?」

 「私達は、お城の外塀にあった穴から入りました、ね、ケリー」

 「うん」

 と、アンジュとケリーは、答えた。レン達は、不思議に思った。外塀の塀に穴が開いているなど聞いていない。外堀は、深く絶えず水が張ってあった。

 「掘りはどうやって渡ったんだい?水が張ってるし、まさか泳いで渡ったのかい?」

 「違います、小さな小舟があってそれに乗ってお堀を渡って、塀を少し登ったら穴があって」

 レン達は、益々訳が分からなくなった。堀に小舟なんて浮かべていないのだ。サイモン元帥は、部屋の魔導話を使って警備兵の詰め所に連絡し外堀にあると言う小舟の確認をするよう命じた。

 「どんな小舟かな?」

 と、サイモン元帥が屈み込んでアンジュに聞いた。

 「え~と確か…木で出来てて、乗ったら勝手にお堀を渡りました」

 アンジュが聞いたと言う女性の声と言い勝手に進む小舟と言いレンは、ラムールの仕業だと確信した。しかし、どうして甦らせる事が出来ないはずのヨーゼフをこの子達の願い通り甦らせようとしたのか。レンは、ラムールが何をしようとしているのかさっぱり分からなかった。ほどなくして部屋の魔導話が鳴りサイモン元帥が応答した。

 「何っ小舟は無い?ちゃんと確認したのか、そう東側だ…そうか、分かった、ご苦労…陛下、小舟は存在しないそうです」

 「そ、そんな、私たち本当に小舟で渡ったんです」

 と、アンジュが驚き言った。レンは、にっこり笑って答えた。

 「大丈夫、小舟で渡ったんだろ、僕は信じるよ、ところでサイモン元帥はどうしてこの子達があそこにいる事に気付いたの?」

 レンだけでなくテランジンもディープ伯爵も疑問に思っていた。そもそも、外郭そとぐるわの東側に何か特別なものがあるわけでもない。陸軍の最高司令官たるサイモン元帥が行くような場所では、ないのである。

 「ははぁ、そ、それが実は私もこの子の様に女性の声を聞き、なぜか行かなければと思い行ってみると二人が木陰に隠れている場所まではっきり分かり」

 「サイモンも聞いたのか、その女の声とやらを」

 「テランジン、二人はラムールの声を聞いたんだと思うよ、小舟を浮かべたり塀に穴を開けたり…ふふふ、こんな不思議な事ってラムールにしか出来ないよ」

 と、レンが話すと皆、不思議そうな顔をした。そして、サイモン元帥とアンジュ、ケリーを見た。ラムールは、何故この三人を引き合わせたのだろうと。そんな時、アンジュとケリーの腹が鳴った。

 「んん?二人ともお腹が空いてるのかい?」

 「昨日から何も食べてないんだ、僕お腹空いた」

 「ちょっと、ケリー」

 「そうか、そうか、じゃあご飯にしよう、イーサン、ケイン料理長に子供二人分の食事を用意するよう伝えて」

 「陛下、剣を盗んだ二人に食事など、帰って取らしますゆえお気遣いなく」

 と、慌ててホーリッシュ大司教が言うとアンジュは、盗んだのではなく借りたつもりだったと言い訳をした。

 「ちゃんとお返しするつもりでした」

 「これっ!言い訳をするなどもってのほかだぞアンジュ」

 「まぁまぁ、良いじゃないですか、今回の件はヨーゼフの恩に報いるためにやった事です、それにどうやら不死鳥のラムールが関わっているようですし、不問にします、さぁアンジュ、ケリー食堂に行こう」

 と、レンは、にこやかに言い二人の手を取って皆で食堂に向かった。食堂のテーブルには、ちょうど出来たばかりの料理が乗っていた。

 「ああぁ陛下、イーサンの旦那から作るよう言われて作りましたが、この子達は?」

 「ありがとう料理長、この子達はね、ヨーゼフの恩に報いるためヨーゼフを甦らせようとした偉い子達なんだ、だからたくさんご馳走してあげて」

 「ははぁ、ご隠居を…分かりやした、このケインにお任せあれ」

 と、ケイン料理長は、単純である。

 「何から何までありがとうごいまする、陛下」

 と、ホーリッシュ大司教が恐縮し礼を言った。レンは、うんと頷きアンジュとケリーに食べるよう促した。

 「いただきます、うわぁおいしい、私こんなの初めて食べます」

 「姉ちゃん、すごいね」

 と、二人は、目を輝かせて目の前の料理を夢中で食べた。そこに新たに作られた料理が出され二人を満足させた。

 (ふふふ、姉と弟か…まるでルーシーとルークのような、あの二人も子供の頃は、こんな様子だったのかな)

 と、サイモン元帥は、アンジュとケリーを見て思っていた。最後にデザートを食べたアンジュとケリーは、幸せそうな顔をしていた。ホーリッシュ大司教は、目に涙を浮かべている。孤児院では、こんなに大人に囲まれて食事をする事がない。実は、孤児院には、現在アンジュとケリーしかいないのだ。かつては、数十人居た孤児達は、二人を除いて皆、里子に出されたりや養子にもらわれたりしていた。この二人のみ親の評判の悪さでそういった縁がなかった。

 「どうだい?お嬢ちゃん、坊ちゃん、美味かったかい?」

 「うん、私こんなにおいしいお料理食べたの初めてでした」

 「僕も初めて」

 「そうかい、そうかい、じゃあ最後にこいつを持って行きな」

 と、ケイン料理長は、いつの間に作ったのか焼き菓子を包んだ小袋をアンジュとケリーに渡した。

 「ありがとう、おじさん」

 「皆様、今日は本当にありがとうございました」

 と、ホーリッシュ大司教は、皆に礼を言いアンジュとケリーにも挨拶するよう促した。レンは、二人の頭を優しく撫でた。不死鳥の剣紛失事件が無事に解決しホーリッシュ大司教は、アンジュとケリーを連れ孤児院に帰る事にした。

 「途中までご一緒しましょう」

 と、サイモン元帥が言いケリーを肩車してアンジュと手を繋いで城外に続く廊下を歩いた。そんな様子を見てレン、テランジン、ディープ伯爵は、まるで親子の様だと思った。テランジンも屋敷に帰り、ディープ伯爵も城内に与えられている自室に戻った。レンは、エレナが待つ部屋に戻ろうと思ったが、ふと不死鳥の剣を持っている事に気付き宝物殿に向かった。ヘブンリー製の金庫を開けそこに不死鳥の剣を入れ金庫の扉を閉めようとした時、ラムールの声を聞いた。

 「えっラムール?」

 (うふふ、レオニール、お久しぶり)

 「ラムールだろ?あの子達に剣を持ち出させたのは」

 (そうよ)

 「何でそんな事したのさ、君だってもうヨーゼフを甦らせる事が出来ないって分かってるじゃないか」

 (それは、時が来れば分かるわレオニール、あの子達に私を持ち出させた理由がね)

 「う~ん、とにかくもう変な真似はしないでね、もう少しで大騒ぎになるところだったんだから」

 (はいはい、そうね、ふふふ…おやすみレオニール)

 ラムールは、最後にそう言った。レンは、もう話す事は、ないだろうと思い剣を静かに金庫に入れ、扉を閉め鍵を掛けた。ちゃんと鍵が掛かっている事を確認し宝物殿を出て自室に戻った。

 ホーリッシュ大司教、アンジュ、ケリーと一緒に魔導車で帰っていたサイモン元帥は、三人を孤児院前で降ろし、屋敷に戻った。そして、今日の出来事を妻でありルークの姉であるルーシーに事細かに話した。

 「女の声を聞いて?」

 「ああ、レオニール様曰く不死鳥ラムールの声だろうと、そして、子供達も同じ声を聞いたというんだよ、ああそうそう、その姉弟を見ていて思ったんだが、まるで君とルークの様だったよ、ふふふふ」

 と、サイモン元帥がルーシーに着替えを手伝ってもらいながら話した。

 「へぇ~、まるで私とルークの様?うふふ、一度見てみたいわ」

 「うむ、一度会ってみてくれ、何でも今孤児院はあの子達だけだそうだよ、他の子達はみな里子養子にもらわれたそうだが、どうも親の事があってね、あの子達だけ引き取り手がないそうなんだよ」

 「まぁ…それは可哀そうね」

 サイモン元帥は、四年前のトランサー国内の大粛清の話しをした。

 「結果的にあの子達を親無しにしてしまった…ヨーゼフ公もさぞ悔やんでおられたと思うよ」

 「それにしても酷いわ、子供を置き去りにして国を去るなんて…どんな顔をしているのか見てみたいわ」

 と、ルーシーが怒りを燃やした。

 翌朝、夫サイモン元帥を送り出したルーシーは、使用人達に孤児院に行くと言い出掛けた。孤児院に到着しなんとなく窓から中を覗いていると後ろから声を掛けられ驚いた。

 「あの、何か御用で?」

 孤児院に奉仕に来ている者だった。

 「ああ、ごめんなさい、わたくしダンテ・サイモン伯爵が妻のルーシー・サイモンです、ここのアンジュとケリーにちょっと会いたくて参上しましたの」

 「ははぁ、あなたがルーシー殿ですか」

 と、孤児院の奉仕者は、有名人を見る様な目をして言った。ルーシーは、敵討ちの一件以来、女傑と称えられていた。奉仕者は、どうぞとルーシーを孤児院内に案内した。廊下を歩いていると窓からアンジュとケリーの姿が見え足を止めた。

 (あの子達ね、なるほど…ダンテが言うように幼い頃の私とルークみたい)

 ルーシーは、昨夜サイモン元帥から聞いた話しを奉仕者にすると大いに驚いていたが、目に涙を浮かべ喜んでもいた。

 「行方不明になって気を揉んでいましたが、無事で何よりでした、しかし、大胆な事をしたもんですなぁ」

 と、話しているとそこへホーリッシュ大司教が現れた。ルーシーは、深々とお辞儀をした。

 「ホーリッシュ卿、結婚式ではお世話になりました」

 「やぁ、奥方殿、お久しゅうございます、ご主人からお聞き及びの様ですな」

 と、ホーリッシュ大司教は、にこやかに言った。

 「はい、主人から聞きましてね、どんな子か見てみたいと思いまして」

 「会われますか?」

 「ええ、会おうと思っていたのですが、今日はここから見るだけで…手ぶらで来てしまったものでして」

 と、ルーシーは、土産を忘れた事を思い出し答えた。しばらく廊下から窓越しにアンジュとケリーを眺めてルーシーは、孤児院を辞しルークの屋敷に向かった。その頃、港では、メルガドに大使として赴任するシンと妻ライラの姿があり、そのシン達を見送るためルークとジャン、シンの弟分達の姿があった。

 「しっかし、まさか不死鳥の剣が盗まれていたとはなぁ…そりゃディープの旦那も必死になるわなぁ」

 「ああ、騒ぎを大きくしないために陛下と話し合ってひた隠しにしてたそうだ」

 「それにしてもたいしたガキ共だぜ、ご隠居から受けた恩を返そうと城に忍び込んで不死鳥の剣を盗み出すとは」

 と、ルーク達は、今朝テランジンから聞いた話しをしていた。

 「まぁこれで俺も安心してメルガド行ける、ジャン、お前達しっかりルーク兄ぃやテランジン兄貴を助けるんだぞ」

 と、シンが弟分達に言った。ルークは、何を言ってやがるといった顔をしたが、デスプル島に居た頃から今日までの事を思い出し胸を熱くした。

 「カツの分もしっかり頼んだぞシン、向こうにいるお袋さんに親孝行するんだぞ」

 「分かってるよ兄ぃ、んじゃちょっくら行って来るぜ」

 と、シンは、ルークと固い握手を交わした。そして、シンは、妻ライラとメルガド行きの船に乗り込んだ。船が汽笛を鳴らしゆっくりと岸から離れて行く。ルーク達は、船が見えなくなるまで見送った。

 「兄ぃも無事にメルガドに行ったし俺達も戻ろうか」

 と、ジャンが言うとルークが、孤児院に行くと言い出した。

 「お前達、気にならないのか?どんな姉弟なのか俺ぁ見てみたいんだ」

 と、言う事で皆で孤児院に行く事にした。孤児院に到着すると厳つい男達がぞろぞろとやって来たので何事かと騒ぎになった。

 「一体、何事ですか?」

 「ああ、急に来て申し訳ない、私は海軍中将ルーク・メタール子爵だ、昨夜の事を聞き子供達を一目見たいと思いやって来た」

 「ああ、メタール中将閣下、今朝姉上のルーシー殿も参られましたよ」

 と、孤児院の奉仕者がにこやかに言った。

 「ええ、姉さんが?ああ、そうかサイモンの兄貴から聞いたんだな、で、子供達はどこに?」

 「はいはい、ご案内します、どうぞこちらです」

 廊下の窓越しにアンジュとケリーを見たルークは、思わず笑った。

 「あははは、まるでガキん頃の俺と姉さんみたいだな、会って話せますか?」

 と、ルークが言うと二人が居る部屋へ通された。厳つい大人の男達を見てアンジュとケリーは、凍り付いた様になった。昨日の事を咎めに来たのだろうと思った。

 「ははは、お前達が陛下の大事な剣を盗み出したアンジュとケリーだな?」

 「ご、ごめんなさい、盗んだんじゃなくてちょっとお借りしただけだったんです、ほらケリーもちゃんと頭を下げなさい」

 と、アンジュがケリーの頭を押さえ付け下げさせた。そんな様子を見てルークは益々、子供の頃の自分と姉ルーシーにそっくりだと思った。

 「ははは、咎めに来たんじゃないよ、亡くなったご隠居のために命懸けで城に侵入したんだよな?大したもんだ、おじさんはね、サイモン元帥の義理の弟になる、ルーク・メタールってもんだ、よろしくな」

 と、ルークは、笑顔で言い二人の頭を撫でた。ルークは、孤児院に来る途中で買ったお菓子が入った包みを取り出し二人に渡した。するとジャンや弟分達も一緒に買ったお菓子を取り出し二人に渡した。あっという間にお菓子の山が出来た。

 「うわ~い!姉ちゃんお菓子がこんなに…食べきれるかなぁ?」

 と、ケリーが嬉しそうに言うとアンジュは、食べきれるわけがないと言い皆で分けると言った。ルークは、満足気に二人を見て奉仕者にまた来ると言いジャン達を連れて孤児院を出た。

 「姉の方は、なかなかのしっかり者のようですね兄貴、しかし何で孤児なんだろ?」

 と、詳しい事情を知らないジャンが首を傾げた。

 「そうだな…まぁいずれ分かるさ、さぁ俺達も本部へ戻ろう」

 と、ルークは、皆を引き連れ海軍本部へ向かった。そして、この日の夕方、勤務を終えルークが自分の屋敷に帰ると姉ルーシーが居て少し驚いた。

 「ど、どうしたんだい?」

 「何だい、来ちゃ悪いのか?」

 「そ、そんな事ないけど、どうしたんだよ?」

 と、いつもの姉の気の強さに閉口しながらもルークは、尋ねた。ルーシーは、ふんっとそっぽを向いたので代わりに一緒に暮らす母ステラが答えた。

 「ルーク、昨日のお城での出来事聞いてるかい?何でもご隠居様を甦らせようとした子供達が居たって」

 「ああ、母さん知ってるよ、俺は今日その二人に会って来たよ」

 「ええ?あんたもう会ったのかい?」

 と、ルーシーが驚いた。

 「私はその事を話しに来たんだよ、何だ…もう会ってきたのか」

 「うん、子供の頃の俺達によく似てるなぁと思ったよ」

 「私は、窓越しでしか見てなかったけど私もそう思ったよ」

 「へぇそんなに似てるのかい?母さんも一度見てみたいわ」

 「お母様、明日にでも行ってみましょうよ」 

 と、ルークの妻マリアが言った。それなら私も一緒に行くとルーシーも言い明日三人で孤児院を訪ねる事となった。用が済んだルーシーは、ルークの弟分が運転する魔導車で屋敷まで送ってもらった。夫であるサイモン元帥は、既に帰宅していた。

 「お帰り、ルーシー、孤児院には行ってきたかい?」

 「ただいま、ええ、行ってきたわ、今日はお土産を忘れちゃって…窓越しでしか見てないけど、明日母さんとマリアさんと一緒に会ってみようと思うの、ルークは先に会ったみたいだけど」

 「へぇ、ルークも会ったんだね、何て言ってた?」

 「子供の頃の私達によく似てるって」

 「ふふふ、やっぱりそうか」

 と、サイモン元帥は、にっこり微笑んで言った。翌朝、ルーシーは、母ステラとマリアを連れ孤児院に行った。朝早くに焼いた菓子を持って来ている。孤児院の奉仕者に案内され教室のような部屋に入った。そこには、仲良く遊ぶアンジュとケリーの姿があった。

 「これっアンジュ、ケリーちょっとこっちに来なさい」

 と、奉仕者に言われ二人は、ルーシー達を見た。二人は、不思議そうに顔を見合わせゆっくりとルーシー達に近付いた。

 「こちらは、サイモン元帥が奥方のルーシー殿とええっと…」

 「その母のステラ・メタール」

 「嫁のマリア・メタールよ、よろしくね」

 と、奉仕者の言葉尻を捕ってステラとマリアが自己紹介した。メタールと聞いてアンジュは、昨日来たルークを思い出した。

 「あ、あの、昨日メタールって人が怖そうなおじさん達を連れてやって来ました」

 「あれは私の弟なの」

 「い~っぱいお菓子くれた」

 と、ケリーが嬉しそうに言うとルーシーも持って来た焼き菓子を二人に手渡した。

 「はいこれ、今朝おばさんが焼いてきたのよ、後で食べて」

 「ありがとうございます、ほらケリーもちゃんとお礼を言いなさい」

 と、アンジュがケリーに言う姿を見てステラは、思わず口に手を当てた。幼い頃のルーシーとルークにそっくりだと思った。そこへホーリッシュ大司教がやって来て三人に挨拶した。

 「昨日は午後にメタール中将も来られましてな、ははは、急にここが賑やかになりました、アンジュ、ケリー良かったな」

 と、ホーリッシュ大司教に言われアンジュは、照れ臭そうにした。食いしん坊のケリーは、ルーシーが持って来た焼き菓子が気になって仕方がないのか、そわそわしている。ルーシーが食べて良いと言うと嬉しそうに袋を開け、焼き菓子を一つを頬張った。

 「おいしい、ありがとう、おばさん」

 「喜んでくれて、おばさんも嬉しいわ、ありがとう」

 と、ルーシーは、大満足の笑顔で答えた。しばらくアンジュとケリーの遊ぶ姿を見てルーシー達は、ホーリッシュ大司教と別室に行き話しをした。アンジュとケリーが孤児となった経緯を聞くためだ。

 「あらかた夫から聞いておりますが、あの子達の両親は一体どこへ?」

 「さぁ…今のところどこに行ったのやら全く分からず…近所の者の話しでは、メタルニアかサウズ大陸のどこかの国に行ったのではと」

 四年前、レンがザマロを倒すまでトランサーと国交を結ぶ国と言えばサウズ大陸にある国々だけであった。メタルニアは、移民の国なので来るものは、イビルニア人以外、基本的には拒まない。

 「両親の評判がことのほか悪く、それが原因であの子達には里親も養子の話しも来ないのです」

 「一体、どの様な親だったのですか?」

 ホーリッシュ大司教は、直接見たわけじゃないと前置きをして話し出した。

 「あの子達がヨーゼフ公に連れられて来た翌日、ここで奉仕してくれている者が直ぐに調べましたるところ大変な事が分かりました、あの子達いやケリーはまだ生まれて間もないので助かったのでしょうが、アンジュは虐待を受けていたと言うのです」

 「虐待?」

 「ええ、あの子達が住んでいた長屋の者の話しではよくアンジュの泣き声を聞いたと…私が直接見たわけではないし親の評判が悪いので近所の者が大袈裟に言っているだけかも分かりません、アンジュに確認すると何も答えませんのではっきりした事が分からないのです」

 「アンジュやケリーはどう思っているのでしょう?親に会いたいと思っているのでしょうか?」

 「さぁ、ケリーは顔も知りません、アンジュは覚えているでしょうが、あの子から父や母に会いたいと聞いた事は一度もありません、しかし本当の親がいる以上アンジュとケリーを親元に返してやらねば」

 と、ホーリッシュ大司教が複雑な顔をして言った。

 「しかし、子供を置き去りにして自分達だけでこの国を出たんでしょう?そんな親に返して大丈夫なんでしょうか?」

 と、マリアが言うとルーシーもステラもその通りだと言ったが、ホーリッシュ大司教は、当時の親の状況を考えると仕方がなかったのではと言った。

 「見方を変えると親も哀れなものです、主家を失った事で収入が無くなり生活が苦しくなり、紹介された奉公先では上手くいかず特に父親は自暴自棄になっていたのかも知れません」

 「でも母親が居るでしょう、自分のお腹を痛めて産んだ子が可愛くないないはずがありません、同じ人の親として許せませんわ」

 と、ステラが鼻息を荒げ憤った。ルーシーは、悲しげな表情で自分の腹をさすった。しばらくホーリッシュ大司教と話してルーシー達は、それぞれの屋敷に帰った。そして、この日を境に孤児院には、サイモン元帥、ルーシー、ルークやテランジン一家の連中が暇を見つけては、来るようになった。

 


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