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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
183/206

ガーリッシュ達の最後

 「屋根に何かあったのか?」

 と、ガーリッシュ将軍がギリーに聞いた。ギリーは、まだ入り口に立っているだけで船内には、入っていない。ギリーの後ろには、レンとテランジンが隠れている。

 「いやぁ、何も無かったです」

 「そ、そうか、では早く中に入れ」

 「はい…」

 と、ギリーが船内に一歩足を踏み入れた瞬間、テランジンが力任せにギリーをガーリッシュ将軍に向け突き飛ばした。ギリーがガーリッシュに激しくぶつかる。そして、テランジンは、疾風の如く船内に突入してガーリッシュ達とシンとタチアナの間に立った。突然現れた大男にガーリッシュ達は、声が出ない。

 「あ、兄貴!」

 と、突然現れたテランジンにシンも驚いた。

 「シン、ご苦労だったな、後は俺達に任せろ」

 と、テランジンは、後ろに居るシンに振り向かずガーリッシュ達を見ながら言った。「俺達」と聞いてガーリッシュとマージンは、まだ仲間が居るのかと慌てて剣を抜いた。

 「どうやってこの船に来た?周りは海獣だらけだと言うのに」

 「ここに来る方法が海とは限らん」

 「何っ?こんな海のど真ん中をどうやって…空でも飛んで来たとでも言うのか?」

 テランジンは、ニヤリと笑うのみで何も答えない。ガーリッシュ将軍は、まじまじとテランジンを見た。そして、もう一人の仲間を警戒した。

 「マージン、何をしている、さっさと扉を閉めろ!」

 「ははっ」

 と、マージンがテランジンを警戒しながら扉に近付こうとした時、レンが船内に入って来た。

 「僕の家臣を返してもらおうか」

 「な、何だこの小僧は」

 「控えろ馬鹿者!このお方は、トランサー国王レオニール・ティアック様なるぞ!」

 「……な、何っ?嘘をつけっ!なぜ一国の王がこのような場所に…ええぃマージンッ!何をしておる、早く殺せ!」

 ガーリッシュ将軍は、怒鳴りつける様に言った。マージンがレンに襲い掛かる。船内は、剣を振り回しても十分な広さと高さを持っていた。レンは、既に斬鉄剣の鯉口を切ってあった。抜き打ちでマージンの剣を叩き斬った。叩き斬られた刀身が天井に突き刺さった。

 「無駄な抵抗は止せ、諦めて裁きを受けろ」

 と、レンは、剣先をガーリッシュ将軍に向け言った。

 「ぐぬぬ…ギリー、マージンこのままでは恥をさらして死ぬだけだぞ、我々は戦って死ぬか自決するかだ、立てっ!」

 「くっ!うぅぅ…うわぁぁぁぁぁ!」

 剣を折られたマージンが剣のつかを投げ捨てレンに襲い掛かった。レンは、峰討ちでマージンを倒した。ギリーは、既に諦めていた。ガーリッシュ将軍は、テランジンに襲い掛かった。テランジンは、わざと鍔迫り合いに持ち込んだ。

 「謀反などと…なぜ馬鹿な事をした?」

 「貴様の知るところではないわ!」

 「俺の弟分を人質に取った事が間違いだったな、おらぁぁぁぁ!」

 と、テランジンは、鍔迫り合いからガーリッシュ将軍を蹴り飛ばした。ギリーにぶつかったガーリッシュは、お前も戦えとギリーを掴みテランジンに向けた。

 「将軍、諦めましょう、我々の負けです」

 「き、貴様ぁ…」

 カッとなったガーリッシュは、ギリーに斬り付け身体をテランジンに向け蹴り飛ばした。

 「ぎゃぁぁぁ」

 「ああ、何て事を!」

 ギリーの身体を受け止めたテランジンにガーリッシュが襲い掛かった。

 「死ねぇい!」

 その瞬間レンの絶妙な力加減の真空突きがガーリッシュの頭に直撃し壁まで吹っ飛んだ。ガーリッシュは、白目をむいて気を失った。

 「おい、しっかりしろ!シーナ、シーナッ!」

 と、テランジンが大声で叫んだ。レンも駆け寄りギリーの様子を見た。

 「大丈夫だ、ドラクーン人が治してくれるよ」

 「うぅぅぅ…か、かたじけない…」

 船内にラーズとシーナが来た。シーナは、直ぐにギリーの傷の治療を行った。ラーズは、ガーリッシュとマージンを縄で縛り上げ、港に居るインギ王に連絡した。

 「父上、たった今シン達を救いました」

 「そうか、良くやった」

 「では、港に戻ります」

 船は、メルガドに向け舵を切った。レンは、シンを休ませるためテランジンに船の操舵を命じシンの労をねぎらった。

 「ご苦労だったねシン」

 「へぇ、まさか陛下がお越しになるとは…一体どうやって?」

 レンは、にっこり笑って天井を指差した。シンは、訳が分からないといった顔をしたが直ぐに気付いた。

 「あっ?!まさか、デ・ムーロの飛行魔導機で?」

 「そういう事だシン、そうだ兄弟に知らせてやらねば」

 と、テランジンが上空を旋回するデ・ムーロ兄弟に無事に救出したと連絡した。

 「そうか、良かったな、で、俺達はどうする?一緒にメルガドに行こうか?」

 「そうだな、帰りも乗せてもらわねばならん、取り合えずメルガドに行ってくれ」

 「分かった、じゃあ」

 と、デ・ムーロ兄弟は、先にメルガドに向かって飛んで行った。船内では、シンがタチアナにレン達を紹介していた。国王や王子、元帥そしてドラクーン人と聞いてタチアナは、驚き恐れ入る次第だった。

 「とにかく、お二人が無事で何よりでした」

 と、レンは、シンとタチアナを気遣った。タチアナは、目の前の女の様な容姿の歳若い国王に見とれていた。シーナに治療され一命を取り止めたギリーは、抵抗する事無く気を失って縛り上げられているガーリッシュ将軍とマージンの傍で神妙に控えていた。元の港に到着したのは、陽も上がり切った頃だった。

 南の港に着くとメルガド軍、ランドール軍が整然と並んでいた。船からは、先にシンとタチアナが出てエルン村から来た兄家族の出迎えを受けた。

 「兄ちゃん、母ちゃんは無事だぞ」

 「シン、母ちゃん、良かった、良かった」

 と、兄ロブが二人を抱き締め喜んだ。そして、ラーズとシーナが謀反人ベンゼル・ガーリッシュ将軍と側近マージンの縄を取り船から出て来た。その後ろからギリーがうつむき加減で付いて行く。

 「ラーズ、シーナご苦労であった、後はゆっくり休みなさい」

 と、インギ王が改めて息子とシーナの労をねぎらった。メルガドの憲兵がガーリッシュ、ギリー、マージンの身柄を拘束し魔導車に乗せた。

 「貴様の裁きには、余も参加する、覚悟しておけ」

 と、インギに言われガーリッシュは、悔しそうにインギを睨み付けた。ガーリッシュ達を乗せた魔導車は、都の城へと向かった。そして、最後にレンとテランジンが船から降りた。

 「やぁレオニール殿、テランジン、久しぶりだ」

 「お久しぶりですインギ王、お元気そうで何よりです」

 「うむ、此度の事さぞ心配であったろう、まぁ二人のおかげで無事にシンと母御を救い出せた」

 と、インギは、満足そうにレンとテランジンを見た。

 「ところで、デ・ムーロ兄弟が先に来ていると思うのですが、ご存じありませんか?」

 と、テランジンが言うとインギが兄弟は、既に都に居ると答えた。

 「ラーズから話しを聞いていたからな、あの兄弟の飛行魔導機とやらは、都の空き地に泊めさせた」

 インギは、レン達をアメリア女王に謁見させるため都に戻った。城内では、トランサー王が来たと大騒ぎになっていた。レンは、女王と謁見する前に国に連絡させて欲しいと頼み、ディープ伯爵にシン親子を無事に助けたと知らせ今からメルガド女王に会う事になったと話した。

 「良かった、陛下とテランジン殿も無事なのですね?」

 「うん、大丈夫だよ、でも直ぐには帰れそうにないからガーリッシュの裁きに参加する事になると思う」

 「左様ですか、分かりました、エレナ様にも良くお伝えしておきます、では」

 と、ディープ伯爵は、話しを終え魔導話を切った。傍には、ヨーゼフが居た。

 「そうか、そうか無事にシンと母御を救い出されたか、良かった…しかし、一国の王たるお人が一家臣のために自らお出ましになるのは他の者の手前良くない、余計な嫉妬や恨みを買う原因にもなりかねん、伯爵そなたが居て何故お止めせなんだのか」

 と、ヨーゼフは、厳しくディープ伯爵に言った。

 「申し訳ございませぬヨーゼフ公、私もまだまだあもうござる」

 「ふむ、テランジンもテランジンじゃ、何故自分の一家の者を連れて行かなんだのか、ジャン・ギムレットでも連れて行けば良いものを…しかし、レオニール様もまだまだお若いご自分の身分をよくよくお考えになってもらわねばなるまい、おいさめせねば」

 と、ヨーゼフは言いソファーから立ち上がった。レンが帰り次第また登城すると言い残し自分の屋敷に帰って行った。その後ろ姿をディープ伯爵が見送る。

 「はて、ヨーゼフ公…今日はいつになく老けて見えた様な」

 と、ディープ伯爵は、ヨーゼフの様子が妙だと感じていた。メルガド城、謁見の間では、レン達がアメリア女王に謁見していた。

 「メルガド女王アメリア・ヒルバンナです、シン殿からお話を伺い是非ともお会いしたいと思っておりました」

 「トランサー王レオニール・ティアックです、お目に掛かれて光栄です」

 「トランサー王国海軍大臣テランジン・ロイヤーです、此度は我が弟分の事でご心配をお掛けしました」

 「まぁ、あなたがシン殿の兄貴分という、シン殿から海賊時代の事を聞いております」

 と、アメリア女王は、にこにこしながら言った。そして、シンやタチアナ、ロブ家族に目を向け今回の事を詫びた。

 「此度は、あなた方家族には大変な思いをさせました、この国を治めるわたくしの不徳です、この通り」

 と、アメリア女王は、シン達に頭を下げた。恐れ入ったのは、シン達の方で悪いのは全てガーリッシュだと慌てて言った。

 「ど、どうか女王様、お顔をお上げくださいまし、俺も母ちゃんもこの通り無事です、どうか、どうか」

 と、アメリアよりさらに頭を下げロブが言った。そんな様子をレン達は、和やかに見ていた。

 「ところで、何で苗字が変わってるんだよ、父ちゃんはどうしたんだ?」 

 と、シンは、父トニーの姿がエルン村から見えなかった事に疑問を抱いていた。

 「父ちゃんはねぇ、お前が村を出て行きラドンの町で死んだって聞いた時にねぇ…」

 と、母タチアナが当時の事を語り出した。シンがラドンの町で死んだと聞いた時、父トニーは、シンが死んだのはタチアナのせいだと責めた。村を飛び出したのも全てお前の教育が悪かったとタチアナを責めたと言う。シンの父トニーは、腕の良い鍛冶職人で多忙な日々を送っていた。シンも兄ロブも父に遊んでもらった記憶がほとんど無かった。

 「母ちゃんは、あれからほぼ毎日父ちゃんに暴力を振るわれてたんだ」

 と、ロブが悲しそうに言った。父トニーからすればある日突然、家を飛び出した次男が死んだと聞かされ、仕事一筋の日々を送っていたトニーには、その寂しさと怒りをどう消化すれば良いか分からなかったのかも知れない。

 「私も堪りかねてねぇロブを連れて家を飛び出したのさ…それから半年して離縁したんだよ、そして旧姓のオーラに戻したのさ」

 「そうだったのか…で、父ちゃんは?」

 「あの人は五年前に死んだって聞いたよ」

 そう聞いてシンは、何も言わずただ頷いた。ゼペット爺さんの情報網を駆使しても見つからなかった理由が分かり納得したがどこか寂しい気分になった。父トニーを狂わせたのが自分のせいだと思い、せめて墓前にて生きている事を報告しようと思った。

 「ところで、デ・ムーロ兄弟は何処どこに?」

 と、テランジンが思い出した様に言った。レンもシン家族の事ですっかり忘れていた。デ・ムーロ兄弟は、メルガドの役人達と話し中だと聞かされた。そして、ガーリッシュ達の裁きの話しになった。裁きは、明日から行うと言う。当然、侍医長グラスデンも呼び出される。

 「あの者はどうしておる?」

 「はい、おじ様、今は城内の牢で神妙に控えているとの事です」

 と、インギの問いにアメリア女王が即座に答えた。アメリア女王は、明日の裁きには、是非レンとテランジンに参加して欲しいと頼んだ。二人は、快く引き受けた。

 翌日、法廷の場にメルガド軍憲兵に連れられてガーリッシュ将軍達が現れた。ガーリッシュは、開き直っているのか堂々としているが、側近であるギリーとマージン、そして侍医長グラスデンは、うな垂れていた。アメリア女王を中心として王族達と向かい合う様にしてガーリッシュ達は、むしろの上に座らされた。レン、テランジン、シーナそして人質として捕らわれたシンとタチアナ親子は、ラーズが座るランドール軍側の席に座っていた。この裁きの場を仕切る役をインギが買って出ていた。

 「皆、揃ったな、ではこれより謀反人ベンゼル・ガーリッシュ将軍とその側近、ギリー、マージン両大佐そして侍医長グラスデンの裁きを執り行う、なお此度の件で人質救出に尽力されたトランサー王レオニール・ティアック殿、トランサー王国海軍大臣テランジン・ロイヤー殿にも同席、ねごうている」

 と、インギは言いレン達をちらりと見た。レンとテランジンは、静かに頷いた。そして、ガーリッシュ達の訊問が始まった。最初に何故謀反を起こしたのか問いただされ、王族達に心臓の薬と称し毒を盛っていた事を問いただされた。

 「わ、私は全て将軍の指示でやっていただけだ、全て将軍がこの国の王となるために」

 と、グラスデンが一点を見つめて言うと王族達から怒号が鳴った。そして、先代の王ヨルドを毒殺させたのもガーリッシュの指示だとグラスデンが言うとガーリッシュは、顔を真っ赤にして反論した。

 「き、貴様…何て事を…ち、違う、断じて違う、俺は殺せとは言っていない弱らせろと言っただけだ、政務を執れない様に…そして次の王にはバルドではなく娘のアメリアをと」

 「残念だったなガーリッシュよ、ヨルド殿は元からバルドを王にする気は無かったのだ、アメリアに継がせる気だったのだ、うぬは自分の思惑通りアメリアが女王になったと勘違いしていただけである、もしもバルドが王位を継いでおったら、うぬの謀反は成功していただろうがな」

 と、インギに言われガーリッシュは、訳が分からないといった顔をした。ガーリッシュは、女であるアメリアの方が気弱く王位を継がせ謀反を起こせば直ぐにでも逃げ出すと考えていたからだ。

 「で、では何故ランドールの援軍を直ぐに受け入れなかったのだ」

 「それはグラスデンがわたくしや王族達を惑わせていたからです」

 「左様、ランドールの援軍を受け入れれば余がこの国を支配するかも知れぬとな」

 と、インギがグラスデンを睨み付けた。

 「わたくしは直ぐにでも援軍を受けたかった…なれどわたくしの一存では決められなかった、常にグラスデンがわたくしの傍にあり反対した、そしてその反対意見に王族達が賛成する」

 と、アメリア女王が言うと女王の兄バルドをはじめ王族達がばつの悪そうな顔をした。そして、アメリア女王は、援軍を受ける事が出来たのは、シンとシーナのおかげだと言った。

 「シン殿とシーナ殿が命懸けでわたくしに会いに来てくれなかったら今頃は、晒し首になっていたかも知れません」

 「左様でございます、シン殿やドラクーンのシーナ殿のおかげです」

 この裁きの場に居た、大臣ラファルも大きく頷き言った。ランドール軍席側に居たシンは、照れ臭そうに頭を掻いた。そんな息子を母タチアナが満足そうに見ていた。

 「そして、アメリアは余の援軍を受け入れ、うぬら反乱軍は負けた訳だが…仲間を裏切りそこの二人だけを連れ人質を取り亡命を企てた、どこに行くつもりだったのだ?」

 と、インギは、呆れた様に言った。ガーリッシュが悔しそうに答える。

 「亡命は、最初から考えていたが人質を取るつもりはなかった、成り行きだったのだ」

 「それが偶然にもクライン少将の家族だったとは…」

 と、ギリーが薄っすら目に涙を浮かべ言った。今さらながら謀反に参加した事に後悔している様子だった。そんな姿をアメリア女王は、憐れみを持って見ていた。ガーリッシュは、亡命先はサウズ大陸のどこかの国だと言った。サウズ大陸には、政情が不安定な国が多い。必ず自分達の様な軍人を受け入れてくれる国があると信じていた。

 「なるほどな、確かに良い所に目を付けたな、あの大陸はいまだにイビルニアの影響が色濃く残っている、安定するまで後数年は掛かるだろう、で、もし亡命が成功しておればシンと母御をどうするつもりだったのか?」

 と、インギがガーリッシュに厳しく問うた。

 「クライン少将さえ良ければ共に亡命しようと考えたさ、母御もな、帰りたいと言えば殺していたかも知れん」

 ギリーとマージンが意外な顔をした。自分達は、当然逃がすと思っていた。インギは、やはりといった顔をした。それからインギ達は、ガーリッシュとグラスデンの関係を改めて問い、ガーリッシュが船内で腹立ち紛れにギリーを斬りつけた事を問いただし裁きを決めるため一旦、休廷した。ガーリッシュ達が憲兵に牢へと連れて行かれた。

 「はぁ~ぼくお腹空いたなぁ~」

 と、シーナが気の抜けた事を言い皆を笑わせた。インギが後で沢山食べさせてやるから今は、我慢しなさいと言うとシーナは、素直に頷いた。レンとテランジンは、ガーリッシュに罪を問う事が出来るのは、今やトランサー人であるシンと母タチアナを人質に取った事だけであると言った。

 「ふむ、その事も十分踏まえて裁きを決めよう、どうであろうアメリア、ガーリッシュは反逆罪と他国人及び民間人誘拐で死罪、グラスデンも先代ヨルド殿の毒殺に関与し王族達に毒を盛っていた罪で死罪、ギリーとマージンには懲役刑を与えようと思うが」

 「はい、おじ様、ガーリッシュとグラスデンは到底許す事は出来ません、側近の者に関しましてはわたくしも懲役刑が良いかと存じます、あの者達はただガーリッシュに従っていただけでしょう、特にあのギリーとか申す者は心底悔やんでいる様に見受けられました」

 「うむ、決まったな、では側近の者の懲役期間を決めよう」

 バルドをはじめ王族達は、ギリーとマージンも死刑にするよう言ったが、インギとアメリアがそこまでする必要は無いと言い意見を一蹴した。バルドは、二人が生きているとまた謀反を起こすのではないかと不安がっていた。

 「死刑が駄目なら終身刑に、あの二人にも反逆罪を問うべきだ」

 「叔父上、あの二人は上官であるガーリッシュに従っていただけです、そこまでする必要はありません」

 「し、しかし…」

 と、叔父上と呼ばれた王族が情けない顔をした。レンは、国で起きたブラッツ侯爵の反乱事件を思い出し苦い顔をした。あの時は、ブラッツ侯爵にそそのかされ反乱に参加した兵の処遇を決める事に苦労した。

 「レオニール殿、以前そなたの国で反乱が起きたな?確かブラッツとか言う貴族が起こしたという」

 「はい、インギ王、あの時は反乱の中心人物達には厳しい処分を下しましたが、兵士達は懲役刑で済ませました」

 「何年ほど牢に入れて置くつもりだったのか、途中、そなたの即位で恩赦を出しただろう」

 と、インギが言った。インギは、トランサーの事件を参考にしようとしていた。レンは、一般兵に関しては、三年から五年と話し士官以上の者には、五年から十年と話し取り調べで残虐行為が分かった者は、兵卒士官問わず死刑にしたと話した。

 「なるほどな、あの二人が残虐行為を行ったとは思えん、シンどうだ?人質に取られたお前やタチアナ殿の意見も聞きたい」

 と、インギがシンとタチアナに顔を向けた。

 「はい、人質には取られましたが、あの二人はガーリッシュほど悪人じゃないと思います、特にギリーは魔導車で移動してる時も船に乗った時もガーリッシュやマージンに気付かれないよう母ちゃんに気を遣ってくれてたみたいで、まぁ俺ぁ奴に殴られましたが」

 「はい、あのギリーって人、本当は優しい人なんでしょう、船ん中じゃ私にそっと椅子を勧めてくれたり飲み物なんか出してくれたり、あの将軍ともう一人の男とは随分違いましたよ」

 と、シンとタチアナが話した。そういった面も踏まえ二人の処遇を決める事にした。メルガドの軍事面を担当する大臣から二人の資料を用意させた。

 「ふむ、二人とも士官学校ではなかなかの成績だったようだな、ん?マージンは大尉時代に事件を起こしているな」

 「ああ、それは上官と大喧嘩した時の事でしょう、まだ若さもあって当時は大目に見てもらったそうですが、その事が切っ掛けでガーリッシュの目に留まり側近の一人になったそうです」

 と、大臣がインギに答えた。ギリーには、特に目立った事も無く、順調に出世の道を歩んでいた様だった。しかし、何故ガーリッシュの様な男の目に留まったのか謎だった。

 「ギリーの実家は我が国でも有名な資産家でしてあの者はギリー家の次男坊です、ガーリッシュはギリー家の資産を狙っておったのかも知れません」

 「何と…」

 大臣の話しを聞き皆、呆れて言葉も無かった。そして、ギリーとマージンの懲役年数が決められ、憲兵に再び法廷に連れて来られたガーリッシュ達に裁きが言い渡された。

 「今からうぬらの裁きを申し渡す、ガーリッシュ、うぬは先王暗殺に関与し謀反を起こし国を混乱させ町を破壊し多くの人々の命を奪った事、明白である、そして謀反が失敗に終わると知るやおのが兵を捨てそこの側近二人を連れ逃げ去り他国への亡命をはからんとし、あまつさえクライン親子を人質に取り逃げ去らんとした事、重々不届きである、では裁きを申し渡す、先王に対する暗殺、国家反逆罪、誘拐、部下に対する殺人未遂によって死刑に処す、刑の方法はおって申し渡す」

 と、インギに告げられたガーリッシュは、既に覚悟していたのか取り乱す事も無く静かに頷いた。大いに取り乱したのは、隣に座っていたグラスデンであった。自分も死刑になるだろうと覚悟はしていたものの実際に裁きの場で「死刑」と聞き恐ろしくなったのだ。

 「ひぃぃぃぃぃ…いい、嫌だぁ死にたくない、死にたくない」

 と、グラスデンは、頭を抱え込み震え出した。

 「ええい、見苦しい静まれぇ!次はうぬの裁きだ、グラスデンうぬは侍医と言う立場を利用し先王ヨルドに良薬と称し毒を処方し暗殺した事、明白である」

 「ひっ!そっそれはガーリッシュ将軍の命で…」

 「黙れっ!それでは何故ガーリッシュが毒殺しようとしていると他の者に言わなかったのだ、馬鹿者めが!」

 と、インギに怒鳴られグラスデンは気を失いそうになった。

 「続ける、暗殺に成功した後は効力を弱めた毒をアメリア女王や王族達に飲ませ徐々に弱らせ自分の意のままに操れるよう仕向けガーリッシュの謀反に協力し謀反の際、ヒルバンナ王家を守るためのランドールの援軍をメルガドを支配するための余の策略と女王に偽り拒ませたる事、重々不届きである、裁きを申し渡す、先王に対する暗殺、王族達に対する毒殺未遂、国家反逆罪、よって死刑に処す、刑の方法はおって申し渡す」

 と、インギに告げられグラスデンは、放心状態になった。そして、急にヘラヘラと笑い出した。法廷にいた皆が頭がおかしくなったと思った。アメリア女王は、憲兵にグラスデンを牢に入れて置くよう命じた。グラスデンが憲兵に連れ出されると法廷内が静かになった。気を取り直したインギは、ギリーとマージンの裁きを始めた。

 「うぬら二人に関しては先に言う、死刑にはせぬ懲役刑だ」

 「何っ?どういう事だ、こやつらは今まで俺の手足となり働いていたのだ随分と汚い事もして来たぞ、当然死刑だろう」

 と、ガーリッシュが言うとインギがつかつかとガーリッシュに近付き思い切り蹴り倒した。

 「愚か者め!上官なら部下の命が助かった事を何故喜ばぬ、この二人はうぬの命令で動いていたのだ、軍人なら上官の命令は絶対であろう」

 「くっ…」

 「二人共、これがうぬらの上官の真の姿だ」

 と、インギに言われガーリッシュは、悔し気にインギを睨み付け、ギリーとマージンは、うつ向き神妙に控えていた。そして、インギがギリーとマージンの刑を言い渡した。

 「両人共、懲役五年に処す、五年間しっかり反省した後は、この国のために尽くせ、良いな」

 「な、何故俺だけ…何故俺だけ死刑なのだ!こやつらも同罪ではないか!」

 と、ガーリッシュが喚き出すとインギが呆れた様に言った。

 「グラスデンが居るではないか、仲良く地獄に行くが良い、さぁもう連れて行け」

 「ち、畜生めぇ!」

 ガーリッシュが憲兵に連れて行かれ法廷は、静まり返った。残されたギリーとマージンは、アメリア女王に向かって平伏した。

 「二人共、出所した後は軍に身を置く事は出来ません、ガーリッシュの事は忘れ一民間人となり静かに暮らしなさい」

 「ははぁ、ありがとうございます」

 「ありがとうございます」

 と、ギリーとマージンは、涙を流して礼を言い憲兵に連れられ法廷を出て行った。こうしてガーリッシュ達の裁きが終った。

 翌日、レン達は、それぞれの国に帰る事になった。レンとテランジンは、デ・ムーロ兄弟の飛行魔導機で帰る事にした。

 「じゃあ、シン、僕達は先に帰るよ」

 「はい陛下、カツの親父さんとお袋さんを連れて帰ります」

 「では、気を付けてな」

 と、レンとテランジンが飛行魔導機に乗り込み飛び立った。インギとラーズもランドール軍を率いて帰る事にした。シーナは、昨晩アメリア女王やメルガドの王族達が言葉を失うほど食べ尽し大満足の様子だった。

 「はぁ~裁きも無事に済んだし、美味しいものもたくさん食べれたし、ぼくもう帰るね」

 「ご苦労だったなシーナ、カイエンによろしくな」

 「ありがとうシーナ、また遊びに来いよ」

 「トランサーにも来るんだぜ」

 「うん、じゃあね」

 と、シーナは、龍の姿に変身してドラクーンに向け飛び立って行った。その姿をインギがにこやかに眺めながらシンに言った。

 「ではシンよ、我々は先に帰る、ライラが首を長くして待ってるだろう、早く帰ってやれよ」

 「はい、明日にはお城に行けると思います、ライラによろしくお伝え下さい」

 「うむ、分かった、ではラーズ行くぞ」

 と、インギはラーズとランドール軍を率い帰って行った。シンは、家族を連れて父トニーの墓があると言う墓地に行き墓参りをした。それから一旦、都に戻り兄家族と別れ母タチアナを連れてラドンの町に向かった。そこでゼペット爺さんに再会した。

 「母ちゃん、俺が若い時に世話になったゼペット爺さんだ」

 「そうですか、母のタチアナです、息子が随分と世話になっちまって」

 「ふふふ、良いって事よ、シン良かったなぁ、無事に会えてなぁ、うんうん、ああそうだ、カツの親父さんとお袋さんを呼ばねぇとな、もうトランサーに帰るんだろ?」

 「うん、今日はこの町で一泊してからランドールに行き嫁さん連れて帰るよ」

 と、シンは、嬉しそうに答えた。タチアナは、早く嫁に会いたいと言っていた。翌朝、ゼペット爺さんの使いの者から話しを聞いたカツの両親が旅支度済ませランドール大使館を訪ねて来た。シン親子は、大使館に泊まっていた。シンは、タチアナにカツの両親を紹介し共にランドールに向かった。国境を越えるとシン達を迎えに来た魔導車に乗り城に行き、城内でライラと再会した。ライラは、シンの姿を見て安心したのか子供の様に泣き周囲の者を慌てさせた。

 「お前さんがシンの嫁さんだね、わたしゃ母のタチアナだよ、まぁまぁ心配掛けたねぇ」

 と、タチアナがライラを抱き締めた。ヨハン太子とシャルロット妃が今までのライラの様子を話すとシンは、泣きそうな顔をしてライラに詫びた。

 「すまなかったなぁ、勘弁してくれぇ、おかげで母ちゃんや兄ちゃんにも会えたし、カツの両親にも会えた」

 「うん、良かった、本当に良かった、お義母かあさん、シンの妻ライラです」

 と、ライラがタチアナに挨拶した。タチアナは、うんうん頷きまたライラを抱き締めた。インギが気を遣い、この日の夜は、城内で晩餐会を開いてくれた。タチアナやカツの両親は、ただただ恐れ入るばかりで、食事もまともに喉を通らないほど緊張していた。

 翌日、シン、ライラ、タチアナそしてカツの両親は、トランサーへ帰るため観光も兼ね南ランドールの港に向う事になった。

 「レンによろしくな、またユリヤを連れて遊びに行くよ」

 「はい、殿下、お待ちしております、ではお元気で」

 と、城の外門まで見送りに来たラーズに手を振りシン達は、魔導車に乗り込み南ランドールの港を目指した。

 

  


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