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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
182/206

海の上の救出作戦

 ガーリッシュ将軍達がエルン村を出た頃、南の港に向かっていたラーズとシーナは、上空を飛んでいた。

 「見えた、シーナあの港がそうだ、降りてくれ」

 「うん」

 と、龍の姿に変身したシーナの背中に乗るラーズが言った。シーナは、一気に高度を下げ地上に降り立ちラーズを降ろすと変身を解いた。真夜中なので港には、人の気配が無かった。

 「船を調達しろと父上は簡単に言うけどこんな時間にどうやって…」

 と、ラーズは、文句を言いながら船を探した。そこへ港を管理する役人達がラーズとシーナの前に現れた。役人達は、既に連絡を受けていてラーズ達が来るのを待っていた。

 「殿下、話しは承っております、船を一隻必要だとか」

 「ああ、ガーリッシュ達を亡命させるためにな、人質の命が掛かっている…と言っても形だけだ、連中は絶対に逃がさん、とにかく海をまともに渡れる船を用意してもらいたい」

 「では、中型から大型の船になりますな」

 「ああ、心当たりはあるかい?」

 と、ラーズの問いに役人の一人があると答えた。港内には、様々な船がある。漁船、客船、個人所有の船。役人は、ある個人船を指差した。結構な大きさの船だった。

 「あの船でございます殿下、あの船の所有者はこの辺りでは有名な悪党でして我々の目を掻い潜っては、船内で博打場を開いたり女を買わせたりと好き放題やっております、我々は何度か踏み込んだのですが、いずれも証拠不十分でして」

 「な~る、この機に潰してやろうと言う訳だな、面白い、ではあの船を頂戴しよう」

 ラーズ達は、その船に近付いた。船内から笑い声が聞こえる。今夜は、酒盛りでもしているのだろう。ラーズ達は、静かに船に乗り扉を開けた。船内に居た者達の笑い声が止まった。最初に役人達が入って、後からラーズとシーナが入った。

 「な、何の用だよ、俺の船の中で酒盛りしちゃいけねぇってのかよ」

 と、広い船内に置いてある豪華なソファーの上に座っている所有者が怒鳴った。所有者の両脇に居る女が馬鹿にしたような目でラーズ達を見ている。その周りに居る所有者の子分のようなガラの悪い男達がラーズ達を睨み付けている。

 「おほん、おかみの御用だ、この船は我々が接収する、皆、大人しく表へ出てもらおうか」

 と、ラーズがわざとらしい咳払いをして言った。所有者達は、唖然としている。

 「なな、何がお上の御用だ?!てめぇ何もんだ!旦那方、この若僧は何もんだ!」

 「馬鹿者、控えろこのお方は…」

 と、役人が言いかけたがラーズが手で制し言った。

 「もう一度言う、この船は我々が接収する、直ちに表へ出ろ」

 「こいつっ!」

 と、怒った所有者が、テーブルにあった酒瓶に手を掛けようとした時、ラーズが抜き打ちで真空突きを放った。真空波が瓶を割り所有者の足の間で止まった。ソファーに穴が開いた。所有者達は、一体何が起きたか分からないといった顔をしている。

 「次は貴様の自慢のモノを潰して、そこの女を二度と抱けねぇようにしてやる…なぁ頼むよ、人の命が掛かってるんだよ」

 「わ、分かった、分かったからさっきのは止めてくれ、おい、皆出るぞ」

 と、余程、真空突きが恐ろしいのか所有者は、あっさりと仲間を連れて船から出て行った。これで船の用意が出来たとラーズは、安心した。

 「ところでこの船の引き渡しは君達がやってくれ、俺とこの子はちょっと他に用があるんでね」

 「はい、分かりました、ガーリッシュ達はいつ頃現れましょうか?」

 「さぁ…昼前ぐらいじゃないか?では頼んだぞ」

 と、ラーズとシーナは、この船が動き出す様子が一番見れそうな建物に案内してもらった。その頃、ガーリッシュ達は、都付近まで来ていた。ガーリッシュ達がエルン村を魔導車で出発した直後に既に都には、連絡してある。ガーリッシュ達が乗る魔導車を見ても知らぬ顔を知ろと伝えていた。ガーリッシュ達の魔導車から、かなり距離を取ってインギが軍を率いて後を付いて行く。

 「陛下、クライン少将と母御は大丈夫でしょうか?」

 と、メルガド軍士官が心配してインギに尋ねた。インギも少し不安であった。何せガーリッシュ達を乗せた船を海獣達に襲わせるのである。シーナは、海獣達に船を沈めるだけと伝えるだろうが、海獣達にどの程度、理解力があるか知れたものではない。

 「まぁ…大丈夫だろう」

 と、インギは、難しい顔をして答えた。ガーリッシュ達に人質に取られたシンとタチアナは、魔導車内で再会を喜び合っていた。

 「こんな形で母ちゃんに会えるとは思いもしなかった…母ちゃん今まで本当にごめんよ」

 「うん、うん、良いんだよ、お前が生きていてくれて母ちゃんホントに嬉しいよ、でもこんな状況じゃあねぇ…ちょいとあんた!いつまで私達をこんな目に遭わせる気だい?」

 と、タチアナは、両腕を縛られたシンを抱きながらガーリッシュ将軍に言った。将軍の代わりに隣に居るギリーが答えた。

 「港に着き船に乗り込む前に母御は解放する」

 「む、息子は?いつ帰してくれるんだい?」

 「ふむ、ご子息には船の操縦を頼む、我々が無事に亡命先に到着出来たら帰そう」

 と、今度は、ガーリッシュ将軍が答えた。タチアナは、シンをきつく抱き締めた。シンは、母に抱かれ涙を流した。せっかく再会出来たのにもしかするとガーリッシュ達と一緒に海獣に襲われ食われるかも知れない。無事に船に乗っても海獣に襲われる事を知らないギリーは、シンとタチアナの様子を見て素直に親子が再会出来たと密かに感動していた。この男は、こういった人情ものに弱いようである。

 (死んだと思っていた息子に会えたんだ、良かったなぁ)

 「ぐすっ…」

 「ん?どうしたギリー大佐」

 と、前席に座るガーリッシュ将軍がギリーに振り向いた。

 「な、何でもありませぬ将軍」

 と、ギリーが慌てて答えた。魔導車は、都の大通りを走った。あちこちが瓦礫で埋もれている。ガーリッシュ達の反乱の傷跡が色濃く残っていた。民間人や兵士達がガーリッシュ達を乗せた魔導車を見て何か囁いているのが見える。

 「我々の事を皆知っているようだな」

 と、ガーリッシュ将軍が兵士達を見て呟いた。

 ラーズが予測した通りガーリッシュ達は、昼前に南の港に到着した。インギ達も追い付き港は、封鎖された。

 「我々が乗る船はどれだ?」

 と、応対に来た役人にガーリッシュ将軍が言うと役人は、接収した船を指差した。

 「あの船だ、あの船なら十分に大海原を渡れる」

 「だ、そうだクライン少将、操れるか?」

 「ああ、訳もねぇ、さぁ早く母ちゃんを解放しろ、人質なら俺だけで十分だろ?」

 と、シンが言うとガーリッシュ将軍は、自分達を取り囲むインギ達を見てしばらく考えた。いくら人質が居るとはいえ、インギ王がこんなにあっさりと自分達の亡命を認めるのは、怪しいと思った。

 (何か裏がある…息子の姿が見えん、ドラクーンの小娘は帰ったと言うが本当か…)

 「気が変わった、母御も船に乗ってもらう事にする」

 「えっ?」

 「何っ?ま、待てガーリッシュ、母御は解放しろ」

 と、慌ててインギが言った。シンは、後ろ手に縛られながらもタチアナの腕を取るギリーに体当たりをした。

 「このっ!母ちゃん、逃げろ!」

 体当たりをされギリーは、思わずタチアナの腕を放してしまったが、ガーリッシュ将軍が即座にタチアナの髪の毛を引っ掴んだ。ギリーがカッとなりシンを殴り倒した。

 「痛い!」

 「母ちゃん!」

 「動くなっ!目の前で母御を殺されたいのかクライン少将!インギ王、そこを動かないでもらおう、マージン、母御を船へ乗せろ」

 と、ガーリッシュ将軍は、タチアナの首元に刃を当て言った。マージンが辺りを警戒しながらタチアナの腕を掴み船に乗り込んで行った。ギリーは、シンを乱暴に引き摺り船内に入って行った。ガーリッシュ将軍は、素早く船に乗り込むと船を港に繋ぐ縄を斬り飛ばした。切っ先をインギ達に向けながら叫んだ。

 「さぁ、クライン少将、船を動かしてもらおうか、まずは港から出てもらおう」

 「ど、どこへ行く気だ?行き先は?」

 と、インギが言うとガーリッシュ将軍は、大笑いした。

 「フハハハハ、私が答えずともついて来る気なんだろう?妙な真似をすれば二人の命は無いとだけはっきり言っておく」

 船が動き出した。岸から離れるとガーリッシュ将軍は、船内に入った。インギは、役人にラーズがどこに居るか聞いた。直ぐにラーズとシーナが居る建物に案内された。

 「今のを見たなラーズ、シーナ、海獣に船を襲わせる計画は止めだ」

 「はい、父上…とにかくトランサーに一度連絡しましょう」

 「うむ、そうだな、ガーリッシュ達の行き先なら見当が付くしな、まずはレオニールにこの事を知らせるべきだろう」

 「ライラには知らせますか?」

 と、ラーズは、シンの嫁であるライラを事を思い出し父に尋ねた。

 「いや、今は知らせぬ方が良かろう、下手に心配を掛けるだけだ」

 インギ達は、都の城に戻りアメリア女王にその事を報告した。アメリアは、海軍を動かそうと言ったが、インギが止めた。

 「連中を無駄に刺激するだけだ、奴らの目は本気だった、トランサーに連絡したい、魔導話を貸してくれ」

 と、インギ自らレンに連絡する事にした。突然インギ自らの魔導話にレンやディープ伯爵、折よく傍に居たテランジンが驚いた。

 「シンと母御が…そんな…イーサン、テランジン」

 「何と…」

 「母御まで人質に取られているとは厄介ですな…」

 インギは、レンに必ず無事に救い出すからと言ったが、事態を聞いた以上こちらとしても何か手を打つと話した。

 「ふむ、どんな手がある?テランジンの戦艦で潜水して近付くのか?」

 「そうですね、でも今頃どの辺りまで航行しているのか分かりません、探し出すには時間が掛かり過ぎる様な気がします」

 と、レン達とインギが話していると役人が部屋にやって来た。

 「失礼します、ロイヤー大臣ただ今メタルニアのデ・ムーロ殿から連絡が入り着陸したいので場所を指定して欲しいと」

 「何?ええい、こんな時にあの馬鹿兄弟め!何しに来やがった」

 「ちょっと待ってテランジン、着陸って事はデ・ムーロ兄弟は今、飛行魔導機で来てるんだよね」

 「そ、そうですね陛下」

 「うんうん、これなら上手く行くかも知れない…テランジン、あの兄弟に着陸するよう伝えて」

 と、レンは、一人で納得しながらテランジンに言った。訳が分からないままテランジンは、部屋から出て行き魔導無線でトランサー上空を飛ぶデ・ムーロ兄弟に海軍の広場に着陸するよう伝え、海軍本部に向かった。レンは、インギにデ・ムーロ兄弟の飛行魔導機の話しをした。

 「ふむ…以前、ラーズから聞いた事があるな、何で鉄の塊が空を飛べるのか余には理解出来んが」

 「僕も良くは分かりませんが彼らがその飛行魔導機を使って空を飛んでいるのは間違いありません、シンと母御救出にはデ・ムーロ兄弟に協力してもらおうと思います」

 と、レンは、思い付いた作戦をインギに伝えた。インギの顔が急に明るくなったのを息子ラーズは、見逃さなかった。

 「良かろう、面白い、ではシーナに伝えておこう、では」

 と、インギは、魔導話を切りシーナに言った。

 「予定通り海獣を使う、ただし船を襲わせるな、船の周りを飛び跳ねてガーリッシュ達の注意を引くのだ」

 「ど、どいう事ですか父上?」

 「ふむ、ラーズ良く聞け、レオニール達がデ・ムーロ兄弟の飛行魔導機とか言うのに乗ってガーリッシュの船に降り立つ、そのため出来るだけ派手に海獣達には動いてもらわねばならぬ、だからシーナ、海獣達にこの事を話してくれ」

 「うん、分かった、おじさん」

 「良しシーナ俺も行こう」

 と、ラーズが言いシーナを連れて建物から出た。そして、シーナは龍の姿に変身してラーズを背に乗せ飛び立った。密かにシンとタチアナを乗せた船を探した。その頃、トランサーでは、海軍の広場に飛行魔導機を着陸させたデ・ムーロ兄弟がレンに謁見していた。

 「はい、殿様じゃなかった陛下、此度は預かったポッツ達の近況をこの野郎に知らせてやろうと改良した飛行魔導機の試運転も兼ねてやって参りやした」

 「あの三人は元気でやってるのかい?」

 あの三人とは、カツ暗殺事件に関わったカンドラ一家の若衆だったポッツ・ビート、マイキー・バイツ、グアン・ナールと言う若者達である。今は、デ・ムーロ兄弟の工房で職人見習いとして日々修行している。

 「はい、先輩職人達にも可愛がってもらい日々腕を上げてますよ」

 と、兄ミラン・デムーロが嬉しそうに答えた。レンも素直に喜びたい所だったがそれどころではなく、申し訳なさそうにシンの事を話した。

 「な、何だって?人質に?何でまた…」

 「まぁ運が悪かったとしか言いようがない…ところでミラン、クリフお前達のあの飛行魔導機は何人乗りだ?」

 「えっ?何でそんな事聞くんだよ、まぁ後二人乗っても大丈夫だがな」

 と、弟クリフがテランジンの問いに答えた。テランジンは、頷きレンを見た。レンも頷き話した。

 「デ・ムーロさん、ちょっとお願いがあるんだ」

 「何です?」

 「シンと母御を助けるために飛行魔導機で僕とテランジンを乗せて飛んで欲しいんだ」

 「えっ?」

 と、慌てたのは、ディープ伯爵とテランジンであった。テランジンは、飛行魔導機には、自分とジャン・ギムレットと乗ろうと考えていた。

 「な、なりませんぞ陛下、この事はテランジン殿にお任せ下さい」

 「いや、イーサン、僕が行くよ、行ってガーリッシュ達がどんな奴かこの目で見てみたい」

 「なりませんぞ陛下、エレナ様もお止め下さい」

 と、ディープ伯爵は、レンの傍に居るエレナに止めるよう頼んだ。

 「いいえ、伯爵、私は止めません、レン、シンさんとお母さんを助けてあげて」

 「もちろんだよ、これは僕とテランジンにしか出来ない仕事だ、さぁ早く行こう」

 と、レンは、フウガ遺愛の斬鉄剣を持ち玉座を立った。不死鳥の剣は、本来トランサー王国の宝剣であり大事に保管されている。

 「テランジン殿…」

 「伯爵、陛下の御身おんみは私が命を懸けてお守りする、義父おやじにお伝え下さい、シンを助けに行ったと」

 レンは、テランジン、デ・ムーロ兄弟を連れ颯爽と謁見の間から出て行った。呆然と立ち尽くすディープ伯爵にエレナが言った。

 「伯爵、きっと大丈夫ですよ、カツさんが見守ってくれています、さぁ皆様、今の事はどうかご内密に」

 と、最後に部屋に居た役人達や侍女達にエレナが言った。海軍本部に移ったレン達は、直ぐにメルガドに居るインギに連絡しガーリッシュ達が乗る船の特徴やどの辺りを航行しているか聞いた。

 「聞いたか、ミラン、クリフ、今から飛んで何時間くらい掛かりそうだ?」

 「ああ、五時間も飛べば到着しそうだな」

 「良し、では五時間後に海獣達が現れるようお願いします」

 と、テランジンは、インギに言った。そして、直ぐにレン達は、飛行魔導機に乗り込んで海軍の広場から飛び立った。その頃、インギはラーズに連絡を入れた。ラーズは、小型魔導無線を使い応答した。

 「五時間後に?分かりました父上、はい、小さいですが空から船は確認出来てます、暗くなり次第海面に近付き海獣達を呼んでみます、シーナ大丈夫か?」

 「うん、平気だよ、殿様達来るんだね、またあの鉄で出来た鳥が見れるのかぁ、楽しみだなぁ」

 と、シーナは、嬉しそうに答えた。

 船の中では、ガーリッシュ将軍がソファーに座りぶどう酒を飲んでいた。ギリーとマージンがシンとタチアナを厳しく監視している。

 「そろそろ、行き先を教えては貰えねぇかい、将軍」

 と、シンが操舵輪を握りながら言った。港からただ真っ直ぐ進んでいるだけだった。ガーリッシュ将軍は、ぶどう酒を味わいながら答えた。

 「ふむ、我々の行き先はサウズ大陸だ、とだけ言っておこう」

 「サウズ大陸だな…で、大陸まで行けば母ちゃんは解放してくれるんだろうな?」

 「我々の亡命先が決まればな、あの大陸の国々の政情はまだ不安定だ、我々のような軍人を必要としている国が必ずある」

 「なるほど…じゃあ先に言っておく事がある、ベッサーラ王国は止めとくんだな、あそこは一度トランサーともめててねぇ」

 「知ってるとも、だからあの国は止そう、他を探すさ」

 以前、ベッサーラ王国がレンの戴冠式の前に宣戦布告した事をガーリッシュ将軍は、当然知っていた。辺りが薄暗くなっている事が船内の窓から分かった。シンは、船に設置してある常夜灯をつけた。これで大海原から船が確認出来る。船の事を何も知らないガーリッシュ将軍が常夜灯を消せと言ったが、シンは断った。

 「もしも、大型の船とぶつかったらどうする気だ?皆、海の藻屑だぜ」

 そう言われて渋々ガーリッシュ将軍は、常夜灯の点灯を許可した。完全に暗くなった頃、上空のラーズとシーナが動き出した。気付かれないよう高度を下げシーナが海面に向かい海獣達と会話するため意識を集中させた。

 「ラーズ兄ぃ、居るよこの真下に」

 「そうか、では海獣達に伝えてくれ合図を送ったら船の周りを飛び跳ねろと」

 「うん、………船が沈んじゃうかもって言ってるよ」

 「それは何とか加減して頼むと伝えてくれ」

 「うん、……難しいけどやってみるって、あっそうそう、ブラッキーの友達だろって言ってるよ」

 真下に居る海獣達は、どうやらシーナやラーズの事を知っている様だった。シーナは、海獣達に自分達は、友達だと伝えた。

 「じゃあ、頼んだよ」

 と、シーナは、海獣達に言い飛行高度を上げた。一方、デ・ムーロ兄弟の飛行魔導機でシンとタチアナを救うべく船に向かっていたレン達は、かつてイビルニア半島を沈めた黒流穴がある海域の上空を飛んでいた。

 「船より断然早いね、ほらテランジン、あの辺りだろ?僕達が半島を沈めた海は」

 「はい、陛下、あの下に黒流穴があります」

 と、レンとテランジンは、飛行魔導機の窓から下を眺めていると操縦するデ・ムーロ兄弟の兄ミランの隣りで弟クリフが何かを見つけた。

 「おい、何だありゃ?でっけぇ鳥みてぇなのが飛んでるぜ…んん?背中に人が乗ってやがる」

 「船も一隻浮いてるぜ」

 「何っ?」

 と、レンとテランジンは、慌ててクリフが指差した方向を見た。暗くて良く見えない。クリフは、暗闇でも見える双眼鏡をレンに手渡した。ミランとクリフは、暗闇でも見える眼鏡のような物が付いた被り物をしている。

 「あっ?!あれは…シーナだよ、ラーズも居る…じゃあ、あの下の船がシンと母御が人質に囚われている船か…テランジン」

 と、レンは、双眼鏡をテランジンに手渡し確認させた。

 「間違いありませんな…しかしどうやって殿下らに連絡を取るかです、魔導無線でも持っていてくれたら…おい、クリフ、相手が無線を持ってるかどうか調べる事が出来るか?」

 「ふふふ、そんなの簡単さ、このボタンを押せば…ほら、こうやってこの画面に白い点が付くだろ、これが相手と連絡が取り合える印さ、未確認ってなってるが…この点は船だな、この後ろの点が殿下とシーナちゃんだな、ちなみにこのど真ん中の点はテランが持ってるやつさ」

 「な~る、便利だな、では早速殿下に連絡する、繋いでくれ」

 と、テランジンが言い、クリフはラーズが持つ小型魔導無線の魔導波を調べ合わせた。ラーズが持つ小型魔導無線がブルブルと震えた。

 「はい、こちらラーズ、父上?」

 「僕だよ、レンだ」

 「んん?レン?どうしたんだ、何で無線に?」

 「上だよ、上を見てごらん」

 「あっ!兄ぃ、ほらあそこ!デ・ムーロのおじさん達の鉄の鳥だよ」

 と、シーナが先に気付いた。ラーズも自分達よりさらに上を飛ぶ飛行魔導機に気が付いた。

 「あの船だね、シンと母御が乗ってるっていう」

 「そうだ、あの船だ」

 「うん、じゃあ始めよう、僕達は一旦君たちの後ろに回るよ」

 「分かった、では海獣達に派手に暴れてもらうぞ、シーナ頼んだぞ」

 「うん」

 と、ラーズを乗せたシーナは、高度を下げ少し距離を取って船の真後ろに付いた。シーナが海獣達に協力してもらうため海に向かって意識を集中させた。しばらくすると一つ目の水柱が立った。

 「うわぁぁ!な、何だ今のは?」

 と、船内のガーリッシュ達が驚き船の前方を見た。そして、二つ目の水柱が立った時、船が大きく揺れ船内に置かれた物があちこちに散乱した。

 「ク、クライン少将、どうなっておるのだ?」

 シンは、作戦が遂に始まったと悟った。しかし、この時点ではシンは、自力で母タチアナと逃げ出すつもりだった。

 「将軍、どうやら海獣の巣の上を通っちまったみてぇだ、連中怒ってるぜ」

 「な、何だと?何とかならんのか?う、うわっ!」

 と、また大きく揺れた。ギリーが何かに掴まりながら窓を見ると無数の海獣達が船の周りを飛び跳ねている。ギリーは、恐怖を感じた。ガーリッシュ将軍は、マージンに外を見るよう言った。二人も恐怖を感じているのか顔を引きつらせている。

 「ク、クライン少将早くこの海域から脱出するのだ!」

 「む、無理だ、下手に動けば海獣にぶつかって船が転覆する」

 「シンッ!」

 と、船が激しく揺れる中ガーリッシュ達の隙を見たタチアナが息子シンに抱き付いた。

 「母ちゃん」

 と、シンも母タチアナを抱き締めた。そんな姿がガーリッシュ達には、もう助からないと思わせた。上空で船を見ていたレン達は、頃合いだと判断し飛行魔導機を出来る限り低速で飛ばせ船に近付く事にした。

 「これが限界だ、これ以上速度を落とせば墜落しちまう」

 「殿様、どうか怪我だけはしないで下さい、何かあったらご隠居やあの側用人の伯爵に殺されちまう」

 「分かってるよ、ありがとうミランさん、クリフさん」

 「さぁ陛下、一二の三で飛び移ります、準備はよろしいですか?」

 「うん」

 「では、一二の三!」

 と、飛行魔導機の腹の部分を開放させレンとテランジンは、揺れる船に飛び移った。飛行魔導機は、一気に上昇した。幸いガーリッシュ達は、外の海獣達に気を取られ船に飛び移られた事に気付いていない様子だった。作戦通りである。ラーズとシーナも船に乗り移った。シーナは、海獣達に少しだけ暴れるのを控えさせた。

 「我々は一体どうなるのだ?クライン少将、貴様ぁまさかわざとこんな所を航行したのか?」

 「違う!俺はあんたに言われた通りにサウズ大陸を目指しただけだ」

 先ほどより揺れは、軽くなったが海獣が飛び跳ねたりしているので全く軽くなった事に気付いていないガーリッシュ達であった。シンは、操舵輪の前で母を抱きガーリッシュ達と対峙するような形になっていた。船に乗ったレン達は、何とか船内の様子を確認しようとしていた。

 「連中に気付かれずにどうやって中を確認しようか…」

 と、レンは、ゆっくりと窓に近付き中を見た。マージンの後頭部が見え慌てて首を引っ込めた。テランジンに直ぐそこに人が居ると言った。

 「シンの姿は見えませんでしたか?」

 「ごめん、見えなかったよ」

 「そうですか、しかし困りましたな…こんな小さな窓じゃ踏み込めないし、扉はおそらく鍵を掛けているでしょうからね、シンと母御の位置さえ確認出来れば良いのですが」 

 と、今度は、テランジンがそっと窓から中の様子を見た。レンが言ったように人の後頭部が見えその先にちらりと見慣れた男と女の姿が見えた。シンとタチアナである。

 「レン、テランジン」

 と、船室の屋根からラーズがそっと二人に声を掛けた。二人が上を見上げると屈んでこちらを見ているラーズと既に変身を解いたシーナが居た。

 「中の様子は?」

 「今、殿下の真下にガーリッシュとか言う奴が居るようです」

 「そうか、そりゃ好機だな!良し作戦を立てよう」

 と、ラーズは、作戦を話し始めた。まず、自分とシーナで屋根の上を派手に音を立てて飛び回る。気になった誰かが屋根を見ようと外に出て来るだろう。出て来た者をレンとテランジンで取り押さえる。

 「そしてそいつを上手く使って中に突入するんだ、シンと母御から離れてるんだろ?」

 「うん、今の所はだけどね」

 「このままここに居ても始まりません、何か行動に移さねば」

 レンは、もう一度ガーリッシュ達とシンの間合いを確認しようと窓に顔を近付けた時、船が何かにぶつかり大きく揺れた。

 「うわぁぁぁ」

 「陛下っ!」

 と、テランジンがレンを抱きかかえた。ラーズとシーナも屋根から落ちそうになっていた。

 「海獣がね、ごめん、ちょっとぶつかっちゃったって」

 と、シーナが海獣の代弁をした。レンは、危うく海に落ちる所だった。こうなったら早い方が良いという事でレンは、もう一度中の様子を素早く確認した。シンとガーリッシュ達とは、まだ距離があった。

 「ラーズ始めてくれ」

 ラーズは、頷き屋根の上でシーナと散々飛び跳ねた。船内にドンドンと鈍い音が鳴り響く。何の音だと皆が音のする上を見た。

 「こんな時に、一体今度は何だ?ギリー大佐、外を確認して来い」

 「ははっ」

 と、案の定、船内から人が出て来た。扉が開く反対側に身を潜めていたレンとテランジンは、ギリーが屋根を見ようと扉を閉めた瞬間、襲い掛かった。大声を出されないようにテランジンがギリーの口を大きな手で塞ぐ。引き倒しレンがギリーの首元に斬鉄剣の切っ先を当て言った。

 「中に居るのは貴様の他に誰が居る?答えよ、逆らうと無駄に痛い思いをするだけだ」

 「なな、何者だ貴様らは?」

 「貴様が知る事ではない、質問に答えろ」

 と、テランジンがギリーの右耳の穴に指を突っ込んだ。苦痛で顔が歪んだ。

 「な、中には私の同僚と将軍が居る、貴様らはランドールの者か?」

 「その二人だけではないはずだ」

 「あ、後二人居る」

 レンは、テランジンを見て頷いた。テランジンは、ギリーを立たせ短剣の切っ先を腰の辺りにあてがった。そして、何事も無かったように船内に入るよう言った。もう、ギリーは、亡命は失敗したと諦め素直にレン達に従う事にした。そして、扉が開けられた。

 

  



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