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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
181/206

家族との再会

 メルガド軍、ランドール軍合同のガーリッシュ将軍の捜査が行われて二日が経った。インギとラーズは、ガーリッシュ将軍が見つかり裁きが終るまでメルガドに残ると言い城内に一室を用意されていた。シンは、乱が治まった事でまた家族を探せると喜んだ。シーナは、ドラクーンに帰ろうとしたが、インギにもう少し傍に居なさいと言われ素直に従っていた。

 「シン殿、トランサー王国とはどの様な国ですか?」

 と、アメリア女王は、今回の反乱鎮圧に力を貸してくれたシンの主であるレンや国に興味を持ち始めていた。シンは、ありのままのトランサー王国をそしてレンの事を話した。

 「ザマロ・シェボットって野郎から国を奪還してから色々ありましたが、本当に良い国です、トランサー王国は、ティアック家あってのトランサー王国だって国中の者が言っております」

 「レオニール殿とは、どの様なお方ですか?」

 「へぇ、本当にお優しいお方です、俺達みてぇな海賊上がりにも分け隔てなく接してくれて」

 と、シンは言うとデスプル島で初めて出会った頃の事が鮮明に思い出された。

 「初めて見た時は女かと思いましたよ、お姿もお優しいんです」

 「まぁ…新聞の記事で拝見した事はありますが、確かに一見女性に見えますね、ところでシン殿、ご家族をお探しとか?」

 と、アメリア女王は、ふとインギ王からシンがメルガドに何をしに来たのか聞かされた事を思い出した。

 「へぇ、生き別れた家族を探すために戻って参りました、まぁある事情で俺は死んだ事になってまして、家族は本当に死んだと思ってるはずです」

 と、シンは、改めて自分がメルガド出身者である事を話し始めた。メルガドの片田舎で生まれ子供の頃、よくトラビス・ゲイン大佐に遊んでもらった事や悪仲間と遊ぶようになって実家を飛び出しカツに出会った事やラドンの町で些細な喧嘩が原因で初めて人をあやめてしまった事など話した。

 「その時、ある爺さんに助けてもらいましてね、相手が相手だから俺とカツは死んだ事にしたって聞かされて驚きましたよ」

 シンは、ゼペット爺さんの事を話そうと思ったが、やはり言わない事にした。そして、海を渡りデスプル島に行った事やカンドラやルーク、テランジンとの出会い、そして海賊になった事を話した。

 「なるほど、今まで波乱万丈だったのですね…ところで今回のお礼も兼ねてシン殿のご家族も探すよう命じておきましょう、ご家族のお名前は?」

 「えっ?あぁ…はい、親父おやじの名はトニー・クライン、お袋はタチアナそして兄がロブです」

 「分かりました、聞きましたね、直ちに手配しなさい」

 と、アメリア女王は、近臣にシンの家族を探すよう手配させた。シンは、断ろうとしたが役人が動いた方が早いと思い直し素直に礼を言った。この日、シンはラドンの町に居るゼペット爺さんに会いに行った。そして、役人が家族を探してくれる事を話した。

 「おお、そうかい、良かったじゃねぇか、まぁこっちでも探すけどよ」

 「うん、ところでカツの親父さんとお袋さんはどうしてるんだ?」

 と、シンは、出されたお茶を飲みながら言った。カツの両親は、乱も治まったと今まで暮らしていた村で静かに暮らしている様だった。それを聞きシンは、安心した。

 「俺がトランサーに帰る時は、一度連れて行ってやらねぇといけねぇから爺さん時々、様子を見てやって欲しいんだ」

 「ああ、そっちも任せな、また都に戻るんだろ?」

 「うん、ガーリッシュの野郎が捕まるまで帰れねぇよ、それに家族も見つけねぇとな」

 そう言ってシンは、都の城に戻った。城では、インギ王、ラーズを交えてガーリッシュ捜索の会議が行われていて、シンも会議に加わった。捜索隊の隊長達の報告を受け皆、難しい顔をしていた。

 「東と南の港は隈なく探しましたが見つかりませんでした、しかし、ガーリッシュ将軍らが海を渡るつもりならこの二つの港しかないはずなんです」

 「そうだな、一番外海に面している」

 「まだ港に潜伏しているのではないか?」

 「そう思い、兵を二十人ほど置いてあります」

 「北に港があったでしょう?」

 と、メルガド出身であるシンが言うと皆が一斉にシンを見た。まだシンをただのトランサー王国の軍人だと思っているメルガドの将校達が何故知っているのかといった顔をしていた。会議に出席しているラファル大臣が、まさかといった顔をしながら答えた。

 「確かに北に港はありますが、外洋に出るにはかなり遠回りになります、我々が捜索している事はガーリッシュ達も気付いているはずです、それなら一番近い港を目指し国からの脱出を考えるのではありませんかな」

 「でも見つからねぇんでしょう?確か都の下には北に続く地下水道があったでしょう、今頃野郎達は地下を歩いて北に向かってるかも知れませんぜ」

 と、シンが言うとインギは、ランドール軍の将校に念のため地下水道から北に向かって捜索してみろと命じた。

 「シンの言う通りかも知れぬ、一旦遠回りをして我々の目を誤魔化すつもりであろう」

 それならばとメルガド側も地下を捜索する事になった。直ぐに捜索に向かわせた。その頃、ガーリッシュ将軍と側近のギリーとマージンは、エルン村の近くまで来ていた。

 「もう直ぐ陽の光を浴びる事が出来るぞ、お前達」

 「ははぁ、しかし将軍、表に出て大丈夫でしょうか?」

 「それなら心配は要らん、奴らが気付いた頃には我々は海の上だ、ハハハハ」

 「だと良いのですが…」

 ガーリッシュ将軍達は、真っ直ぐ北に延びる地下水道のとある場所で脇道に入った。階段があり地上へと繋がっている。階段を上り扉の取っ手に手を掛け開けようとしたが、外から鍵がかけられているのだろう開かない。

 「退いてろ」

 と、ガーリッシュ将軍は、ギリーとマージンに言い剣を抜き柄の部分で取っ手を叩き壊し蹴破った。外は、陽が沈みかけていた。久しぶりに見る太陽の光に目を細めガーリッシュ将軍達は、表に出た。

 「ここは?」

 「うむ、エルン村の近所の森だ、森の中を行く」

 ガーリッシュ将軍達は、ここからエルン村を越え北の港を目指す事にした。

 「しかし、将軍、こんな時に何ですが、腹が減りましたな…あれから何も口にしておりませんぞ」

 と、ギリーが空腹に耐え兼ねて言った。実は、ガーリシュ将軍もマージンも同じだった。ここまで来る途中ずっと水しか飲んでいなかった。

 「確かに水しか飲んでおらんからのう、エルン村で何か食べるか」

 ガーリッシュ将軍達がエルン村に到着したのは、真夜中だった。森の中を歩いていたので時間が掛かってしまった。街灯すらない田舎の村である。どこの家も商店も寝静まっている。ガーリッシュ将軍達は、月の光を頼りに食料を探した。畑を発見し作物を奪い食べた。

 「肉が食いたいが仕方があるまい…しかし、腹を満たすと急に眠くなって来たな…」

 ガーリッシュ将軍達は、都からここまで来るのに一睡もしていなかったのだ。三人は、農家が農具などを保管する小屋を見つけそこで夜明けまで仮眠をとる事にした。ギリーとマージンが交代で見張りに就いた。

 夜明け頃ガーリッシュ将軍達は、小屋を出て少し村の中を歩く事にした。村の朝は早い村人がぽつぽつと姿を現し農作業をしたり店の前を掃除したりしていた。村人達は、見慣れない三人を奇妙な目で見ているが、まさか都で謀反を起こした張本人だとは、全く気付いていない様子だった。

 「将軍、村の連中は我々を見ても何とも思っていないのでしょうか?」

 「ふむ、まだこの村には我々の情報は入っていないようだな、ここを出る前に最後に腹ごしらえして北に行くぞ」

 ガーリッシュ将軍達は、朝食を取るため食堂を探した。しかし、田舎とあってこんな朝早くから食堂が開いているはずもなかった。仕方がないので村人に金をやり朝食を取らせてもらう事にした。

 「ああ、そこの君、ちょっと良いかね?」

 と、マージンが男性村人に声を掛けた。この村人は、家の前で農作業に出る準備をしていた。

 「ん?何だ?」

 と、準備の手を止め村人は、ガーリッシュ将軍達を見た。一目で都から来たと感じた。ちなみにガーリッシュ将軍達は、エルン村に向かう途中で来ていた軍服や鎧は、脱ぎ捨てていて用意していた平服に着替えてあった。

 「朝早く都から村に来たのだが、腹が減ってね、その、店が開いてなくて困っている、悪いが君の家で何か食べさせてもらえないか、もちろん金は払うよ」

 と、マージンが言った。村人は、もう一度ガーリッシュ将軍達を見た。着ている服は、薄汚れてはあるが上等な物で立ち居振舞もどことなく上品に思え都の金持ちか役人かなと思った。

 「本当に金は出すのかね?」

 「うむ、ちゃんと払うよ」

 「んじゃあ、ちょっと待っててくんねぇ、おい、ミランダッ!」

 と、村人は、妻の名を呼びながら家の中へ入って行った。しばらくして村人が出て来て中に入れとガーリッシュ将軍達に言った。食卓を用意しながら村人がガーリッシュ将軍達にしきりに話しかける。

 「この村へは何しに来たんだね?あんたら役人かい?都から来たんだろ、ついこの間まで大変だったじゃないか、ガー何とか将軍が謀反を起こしたとかでよぉ」

 「ああ、そうだね」

 と、ギリーが軽く返事をした。そこへ食べ物を持って来た村人の妻がやって来た。

 「どうぞ、こんな物しかありませんが」

 と、朝食の残り物やら新たに作った食べ物をガーリッシュ将軍達の前に並べた。将軍達は、礼を言い無言で食べ始めた。

 「美味い」

 と、昨晩は、畑で盗み取った野菜しか口にしていなかった将軍達は、夢中で食べていた。

 「ミランダ、飲み物を出してやんな、ところで旦那方のお名前は?」

 と、村人は妻に飲み物を持って来てやれと言い将軍達に名前を聞いた。当然、ガーリッシュ将軍達は、偽名を使った。

 「へぇ、リッシュさん、ギースさん、ジンさんか、俺ぁロブ・オーラ百姓だ、であれが嫁のミランダ、そんで奥で寝てるのが俺の母ちゃんのタチアナ、庭先で水撒いてんのが息子と娘のマックとジニーだ、で、村には何をしに?」

 「ああ、エルン山の湧水の調査だよ」

 「ふぅん、道具も無しに?」

 と、ロブは、荷物も持たず腰にただ長剣だけを差している三人を見て疑問に思った。

 「ああ、ちょっとここへ来る途中獣に襲われてね、失くしたんだよ、出来れば何か書く物を貸してもらえれば大いに助かるのだが」

 と、マージンが咄嗟に言った。ロブは、だから服が薄汚れていたのかと妙に納得して筆と紙をマージンに渡した。

 「こんなもんで良いかね?」

 「大いに助かる、では我々は調査に向かう、これは食事代だ」

 と、マージンは、ポケットから一万ユール札を取り出し食卓へ置いた。

 「ええ?こんなに?良いのかい?」

 「うむ、大変美味かった、ありがとう」

 と、今度は、ガーリッシュ将軍が答えロブの家から出ようとした時、外の異変に気付いた。軍の魔導車が三台停まっている。兵士達が村人から何か話しを聞いている様子だった。それに気付いたロブが様子を見に行った。

 「何かあったんですかい?」

 「うむ、我々は謀反人、ベンゼル・ガーリッシュを探している」

 「へぇ、しかしこんな田舎に来ますかねぇ?」

 「分からん、女王陛下やインギ王のご命令だ、最近この村で怪しい奴は見なかったかね?」

 と、兵士に言われロブは、直ぐにリッシュ達を思い浮かべたが思い直し見ていないと答えた。

 「都からエルン山の湧水の調査に来たって言う連中なら今、うちにいるけどな」

 「何?湧水の調査だと?こんな時に…」

 「ああ、リッシュ、ギース、ジンって言う役人だ」

 と、ロブが言うと兵士は、詳しく話せと言った。ロブは、兵士に三人の姿形を話した。兵士の顔色が段々と変わっていくのが見て取れた。兵士は、魔導車から三人の写真を持って来てロブに見せた。

 「う~ん、こんなだったかなぁ、もうちょっと頬がこけてたなぁ」

 と、そんなやり取りをロブの家の玄関先からガーリッシュ将軍達は見ていた。

 「将軍、まさかこんなに早く追手が来るとは…」

 「うむ、予想外だったな…しかし、ここを上手く切り抜けねばなるまい…どうしたものか」

 「おじさんたち何してるの?」

 と、不意にロブとミランダの娘のジニーがガーリッシュ将軍達に声を掛けた。

 「うわっ?!…なな、何でもないんだよ、さぁお庭でお兄ちゃんと遊んでおいで」

 と、ギリーが優しく言うとジニーは「はぁい」と元気な声で返事をして奥へ引っ込んだ。その声を聞きロブと兵士は、何となく家の玄関を見た。ギリーが兵士と目が合った。ギリーは、兵士に作り笑いを浮かべ軽く会釈して目を逸らした。兵士は、魔導車の中の上官に何か言うと上官が出て来た。

 「貴殿の家に居ると言う三人に会せてもらおう」

 「へぇ、ようがす、どうぞ」

 と、ロブが上官と兵士を連れて家に戻って来た。

 「あっ?!馬鹿、こっちに来るな」

 追い詰められたと感じたガーリッシュ将軍達は、兵士達を斬り殺して逃げる事に決め長剣を抜き払い襲い掛かった。驚いたのは、ロブである。ただの役人だと思い込んでいたリッシュ、ギース、ジンが剣を構え血相を変えて襲い掛かって来たではないか。

 「だだ、旦那!何を!」

 「ええい、退けい!」

 と、ガーリッシュ将軍は、ロブを突き飛ばし上官を瞬殺した。傍に居た兵士は、ギリーとマージンが殺した。村は、騒然となった。他で聞き込みをしていた兵士達が騒ぎに気付いた。

 「あっ?!あれは!居たぞぉぉぉぉ」

 兵士達がロブの家の前に集まり始め大乱闘になった。ロブは、腰が抜けたのか立てず這いながらこの場を離れようとした。

 「ギリー、マージン、皆殺しにせよ!」

 「ははっ!」

 騒ぎに気付いた村長が都へ魔導話で村の状況を話した。この事は、直ぐにアメリア女王、インギ王に伝えられた。

 「とうとう現れおったか!ラーズ、エルン村に行くぞ!」

 「はい、父上」

 と、親子がガーリッシュ将軍捕縛の支度を始めた矢先にまた知らせが来た。今度は、ガーリッシュ将軍達が村人家族を人質に取ったと言う。インギとラーズは、アメリア女王の部屋へ向かった。

 「おじ様」

 と、アメリア女王は、今にも泣き出しそうな顔をしてインギを呼んだ。アメリア女王は、人質に取られたと言う村人家族の話しを役人から聞いていた。

 「人質に取られているのは、オーラ家の者で亭主以外全員が人質だそうです」

 「亭主は何故無事なのだ?」

 「はい、偶然、表で兵士と話していたそうで、亭主の話しですと早朝ガーリッシュ達がやって来て朝飯を食わせて欲しいと、何も知らない亭主はガーリッシュ達をただの役人だと思っていたらしく」

 「ふむ、なるほど、で、人質に取られている亭主の家族の様子は?」

 「はい、怪我人は出ていないそうですが、子供の泣き声がするとか」

 「子供の?ふむ、ラーズ、余がこの事を知った以上は捨ててはおけん、女子供を人質にするなど絶対に許せん、ラーズ行くぞ!シンとシーナにも知らせい」

 と、インギは言いアメリアの部屋を出て改めて支度をした。ラーズから知らせを受けたシンとシーナも加わり四人は、ランドール、メルガド軍を引き連れエルン村に向かった。その頃、ガーリッシュ将軍達は、ロブの家に立てこもりロブの家族を居間に集めていた。

 「わ、私達をどうするつもりですか?」

 と、ミランダが子供を両手に抱きながら言った。

 「連中が我々の要求に応じればそなたらに危害を加える事は無い」

 と、ガーリッシュ将軍が落ち着き払って言った。家の前では、ロブが半狂乱になっている。

 「ミランダァ、母ちゃーーん、マッーーーク、ジニーーー!」

 「ロブ殿、落ち着いて!」

 と、ガーリッシュ将軍達との乱闘を生き残った兵士がロブをなだめた。

 「何で!何で、俺の家族がこんな目に遭うんだ!畜生め!」

 夕方頃になりようやくインギ達がエルン村付近に到着した。エルン村に入る前にインギは、村を先に包囲するよう軍に命じた。包囲し終わった事を確認し少数でエルン村に入った。直ぐに村長が出迎えに来た。

 「インギ王陛下、お会い出来て光栄です、こちらです」

 と、村長は、直ぐにインギ達をロブの家の前まで案内した。

 「あそこで座り込んでいる者は?」

 「はい、オーラ家の主、ロブ・オーラです」

 ロブと聞いてシンは、兄と同じ名前だなぁと思い、何となく座り込んでいるロブを見て驚いた。

 「あっ?!兄ちゃん?…そうだ間違いねぇ兄ちゃんじゃねぇか!おい、兄ちゃん俺だ、シンだ!」

 と、シンがロブに駆け寄りながら言った。インギ、ラーズ、シーナは、こんな偶然があるのかといった顔をした。

 「おおお、お前は…シンか…」

 「うん、シンだ、弟のシンだよ、兄ちゃん、うわぁぁぁぁ」

 と、シンは、ロブに抱き付き泣いた。ロブは、訳が分からないといった顔をしていたが次第に状況が把握出来てシンを抱き締めた。

 「本当にシンなんだな、うんうん、生きていたんだな、良かった…でも」

 と、ロブは、自分の家を見た。中には、愛する家族が人質に取られているのだ。

 「せっかくの兄弟の再会なのにとんでもない事になったな」

 と、いつの間にかインギ達が傍に来て言った。インギは、まず兵士からガーリッシュ将軍達が何を要求しているのか聞きいた。その間、シーナが傷付いた兵士達を治療した。その様子を家の中からガーリッシュ将軍達が見ている。

 「むむむ、インギが来おったか…ドラクーン人まで…ランドールの王子と見知らぬ者も居る」

 家の前に居るインギが兵士から話しを聞き終わり、家に向かって大音声で言った。

 「ランドール王インギ・スティールである!うぬらは恐れ多くも主君に対し刃を向けた大罪人である!そして、勝ち目が無いと知れば味方を裏切りうぬらだけで逃げ去り、捕縛を逃れようと卑怯にも人質を取り他国への亡命をはからんとしている、余の正義を持ってうぬらを成敗してやりたいところだが…しかし」

 と、インギは間を置いた。将軍達は、インギの言葉を待った。

 「人質の命が掛かっている、人質を解放しろ、まずは無事かどうか確認したい、一人づつで良い、オーラ家の者の顔を見せよ!」

 「将軍どうします?まだ我々を逃すとは言っておりませんぞ」

 「うむ、仕方がないまずはこの者らの顔を見せてやれ」

 と、ガーリッシュ将軍は、人質の顔を見せる事にした。まずロブの妻ミランダが窓から顔を出した。

 「お前さーーん!」

 「ミランダァァァ!」

 「あれが俺の義姉ねえさんか…」

 ミランダの次に顔を出したのは、シンの姪になるジニーだった。次に甥になるマック、そして最後に母のタチアナだった。

 「母ちゃん!」

 シンは、母の顔を見るなり叫んだ。タチアナは、ロブが叫んだと思っている。全くシンに気付いていない様子だった。タチアナが引っ張られるようにして奥に引っ込み、代わりにガーリッシュ将軍が窓から顔を出し叫ぶように言った。

 「さぁ全員見せたぞ、我々は他国への亡命を希望する、我々の要求を認めなければここに居る者達を皆殺す事になる、そして我々は自決する!」

 「父上…」

 と、ラーズがインギに何か耳打ちをした。インギは、ガーリッシュ将軍に少し時間をくれと言いロブの家の前から少し距離を取り皆を集めて話し出した。

 「シーナ、君は確か海獣と会話が出来たな?」

 「うん、カイエンも出来るし、まぁぼくたちドラクーン人なら誰でも会話が出来ると思うよ」

 「こんな時に海獣が何の関係があるんです王様、俺の母ちゃんが…」

 「まぁ聞けシンよ、余が今思い付いた作戦を言う、とりあえずあの連中の要求は認めてやろうラーズ、シーナを連れて南の港に行き船を調達しろ、一旦亡命出来ると思わせておいてから、シーナよ海獣に話してガーリッシュ達の船を襲わせるのだ」

 「なるほど…でも奴らは無事に亡命出来るまで人質は解放しないのでは?」

 と、ラーズが父インギの話しに疑問を持った。確かにそうだと皆が思った。人質を乗せたまま襲わせる事は出来ない。

 「俺が、俺が代わりになります、どうせあの連中は船を扱えねぇでしょう?俺は元海賊です、船の扱いなら誰にも負けねぇ」

 「一緒に船に乗ると言うのか?殺されるかも知れんし海獣に食われるかも知れぬぞ」

 「平気です、母ちゃん達を危ない目に遭わせたくねぇんです、俺一人なら何とか出来ます」

 「シン…」

 と、兄ロブがシンの手を握り礼を言った。インギは、そんな兄弟の姿を見て決心した。まず、ラーズとシーナをガーリッシュ達に気付かれないよう南の港に向かわせた。そして、ガーリッシュ達に人質の交換を条件に亡命を認めると言った。

 「その代りの人質とは?」

 「この者がなる、トランサー王国海軍少将シン・クライン男爵だ、この者は面白い経歴を持っていてな元は海賊だ、船の操作も出来る、うぬらにはうってつけの人質であろう」

 と、インギは、シンの肩に手をやりながら紹介した。シン・クラインと聞いてタチアナが驚いていた。

 「そ、そんな…まさか…同姓同名かい?そうだきっとそうだ…あの子は死んだんだ」

 「お義母かあさん、どうかしましたか?」

 と、ミランダがタチアナの肩を抱き尋ねた。

 「ミランダ、今外からシン・クラインって聞こえただろ?」

 「はい、そう聞こえましたが…さっきも聞こえた様にトランサー王国の人ですよ」

 「違うんだよ、私の知ってるシン・クラインならトランサー人じゃなくてメルガド人だ、私の息子なんだよ、でも…」

 と、タチアナとミランダの会話をマージンが聞いていた。マージンは、直ぐにガーリッシュ将軍に話した。ほほうと将軍の目が光った。

 「良かろう、ではまずその男の腰の物を外してもらおうか、おっとインギ王、あなたもだ、あの訳の分からん技を出されては困るのでね、ところでご子息と小娘が居ないがどこへ?」

 「んん?ああ、息子は小便でも行ったのだろう、シーナは気まぐれでね、今し方ドラクーンに帰った」

 と、インギは、剣を兵士に渡しながら答えた。シンも兵士にカツの形見の剣を渡した。インギとシンは、ゆっくりとロブの家に近付いた。

 「まずは子供達を解放しろ」

 と、インギは、落ち着いてガーリッシュ達に言った。ギリーが剣を構えインギ達にそれ以上近付けば子供は殺すと言いマックの首に刃を向けた。

 「インギ王、そこに居て下さい、さぁ行け」

 と、まずは、マックが解放された。マックは一目散に父ロブに飛び付いた。ロブが息子を抱き締める。次にジニーが解放された。マック同様に父に飛び付きわんわん泣いた。次にミランダを解放された。残るは、タチアナだけとなった。

 「やっぱり話しが出来過ぎている、この女とそこの男は人質になってもらう、さぁ来い」

 と、ガーリッシュ将軍は、タチアナの首に刃を当て叫ぶように言い、魔導車を一台用意するよう言った。ガーリッシュ達がタチアナを連れ家から出て来た。飛び掛かって捕える事も可能だがタチアナは、間違いなく殺されるだろう。

 「母ちゃんっ!」

 シンは、思わず叫んでしまった。その声を聞きタチアナは、息子のシンだと確信した。

 「お前は…本当にシンなんだね…生きていたんだね」

 「ほほぅ、本物の親子だったのか、面白い…さぁクライン少将、両手を挙げてこちらに来てもらおう」

 シンは、言われた通り両手を挙げてガーリッシュ達に近付いた。ギリーが素早くシンを後ろ手に組ませ縛り上げた。そして、ガーリッシュ達は、シンとタチアナを連れ用意させた魔導車に移動した。

 「妙な真似をすれば二人の命は無い、マージン、南の港に行け、こうなったら北に行く必要はない」

 「ははっ」

 と、マージンの運転でシン達を乗せた魔導車が動き出した。インギは、黙って見送った。

 「陛下…よろしいので?」

 と、メルガド軍士官がインギに駆け寄り尋ねた。

 「うむ、構わん、既に手は打ってある、この村を包囲させている兵士達に伝えよ、急ぎ南の港に向かえと」

 「ははっ」

 と、インギは、メルガド軍士官に命じシンの兄であるロブを見て言った。

 「安心しなさい、弟と母御は必ず救い出す」

 そう言ってインギは、魔導車に乗り込み南の港に向かった。

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