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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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旅立ち

 イザヤもナミも黙ってレンの話を聞いていたが、あまり良い顔をしない。

 「レン、一体何をそんなに急いでいるんだ?らしくないぞ」

 と、アルス皇太子が、言った。その隣でコノハ皇女が暗い顔で朝食をつついている。レンは、諦めずにイザヤとナミに話した。

 「お願いします、僕を旅に行かせて下さい、ジャンパールへは必ず帰ってきます」

 やはり、イザヤもナミも首を横に振るばかりだった。その時、マルスが急に椅子から立ち上がりレンの後ろに立ち言った。

 「父上、母上、俺もレンと一緒に旅に出るよ、こいつには俺と言う助けが必要だ」

 「マルス…お前…」

 「この子ったら…」

 イザヤとナミは、顔を見合わせてやっぱりと笑った。実は、昨日の夜寝室で話し合っていた。マルスは、絶対に付いて行くと言うだろうと、そして止めても無駄だと言う事も話し合っていた。

 「よろしい、しかし理由をつけねばならんぞ、お前は一国の皇子だ、その皇子が突然いなくなったら世間は大騒ぎになる」

 イザヤは、どんな答えが返って来るか楽しみだった。子供の頃から悪知恵ばかり働くと思っていた皇子が、どんな理由を付けるのか。

 「理由はこうです、私マルス・カムイは無期限の遊学に出る、その供連れとしてフウガの孫レン・サモンが同行すると言う事でいかが?」

 マルスは、いつになく真剣な眼差しで言った。

 「ふうむ、遊学か…しかも無期限の…その手があったか」

 「俺が行けば各国にある大使館なんか堂々と使えるじゃないか、旅の情報だって父上達に伝えやすいし、なぁ良いだろう行かせてくれよ」

 「おかみ…」

 ナミの心は、決まったようだった。レン一人では、絶対に認めないつもりだったがマルスが同行するなら安心出来る。イザヤは、うんうんと一人頷き納得しているようだった。

 「よろしい、レンをしっかり助けてやってくれ」

 「じゃあ、私も行くっ!」

 と、今度は、コノハまで言い出した。

 「馬鹿っ遊びに行くんじゃないんだぞ、その代わりお前には大事な役目がある」

 と、マルスは、コノハに言った。コノハは、ふくれっ面を見せたが大事な役目と聞いて目を輝かせた。

 「大事な役目って?」

 「エレナの事だ、俺とレンが居なくなったと知ったら必ずまたエレナにちょっかいを出す馬鹿どもが居る、その連中からエレナを守ってやって欲しい」

 以前、エレナを襲った連中の事は、コノハも知っている。

 「分かった、エレナさんは私に任せて」

 「ありがとう、コノハ」

 レンは、心から礼を言った。この後、イザヤとナミは、今までレンに見せた事のないアルバムを一冊見せた。レンの本当の母、ヒミカのトランサー王国に嫁ぐ前の姿を写した写真が収められているアルバムだった。レンは、驚いた、自分の小さい頃にそっくりな女の子が写っていた。

 「この人が僕の母ですか…」

 「そうだよ、お前は成長するたびにヒミカに似て来てね、いや父レオンにも良く似ている、二人の良いところを全て受け継いでいるようだ」

 イザヤは、目に涙を浮かべしみじみと言った。レンは、初めて目にする母が自分に良く似ている事が嬉しかった。このアルバムには、残念ながら父レオンの姿がない。しかし、トランサーに行けば父の姿を写した何かが有るかも知れない、そんな期待をレンはいだいた。

 「レン、そろそろエレナのところへ行こうか」

 「うん」

 レンとマルスは、魔導車に乗りエレナの通う学校へ向かった。レンも通っていた学校だ。魔導車は、マルスが運転した。

 「いつの間に乗れるようになったのさ」

 と、レンが変に感心して聞いた。マルスは、ニヤリと笑い言った。

 「俺に出来ない事はない」

 マルスが運転する魔導車は、無事に学校前に到着した。昼頃だったのでまだ下校する時間ではなく、二人は、近くにあった食堂で昼食をとった。腹も満たし二人は、魔導車の中でエレナが下校するのを待った。マルスが居眠りを始めて数分後、エレナの姿が見えた。レンは、慌ててマルスを起こした。魔導車で近づくには目立つのでエレナが通る道を先回りして待った。

 「本当にこの道で間違いないんだな」

 マルスがレンに確認した。

 「うん、僕達、帰りは必ずこの道を通ったから大丈夫だよ」

 「そうか、なら後はお前一人で大丈夫だな」

 「うん、ちゃんと話すよ」

 レンは、魔導車から降りエレナを待つ事にした。

 「俺は、フウガ屋敷の前で待ってるぞ」

 マルスは、そう言い残してこの場を去った。レンは、ぼんやりとエレナが通るのを待った。しばらくすると、元気のないエレナの姿が見えた。

 「エレナ」

 と、レンは、普段通りに声をかけた。うつむいて歩いていたエレナが正面を見るとそこにレンが立っていた。

 「ああっ!?」

 と、エレナは、声を上げそうになったが、レンは、人差し指を自分の口に当て静かにと言う合図を見せた。レンは、エレナを森の中へ連れて行った。誰もいない事を確認すると直ぐにエレナを抱きしめた。

 「ごめんよ、こんな形でしか会えなくて」

 「会いたかった…レンどこに居たの?本当に心配してたんだから」

 エレナの美しい目から涙が溢れ出ている。二人は、しばらく抱きしめ合った。レンは、あの日の屋敷内の出来事を全てエレナに語った。エレナも新聞で事件の内容は知っていたが、紙面で読むのと本人から直に聞くのでは、迫力が違う。そして、フウガが、死の直前に自分に言った事を話した。

 「レンの本当のご両親のかたきを討ちトランサー国の王になれって?」

 「うん、おじいさんはそう言ったよ」

 二人は、しばらく無言でいた。エレナは、ずっとレンの手を握ったりさすったりしていた。レンは、本題を切り出した。

 「それでね…実は旅に出る事にしたんだ」

 「えっ?」

 「おじいさんの願いを叶えるには旅に出るしかないんだよ、この世界に必ず僕と共に戦ってくれる人がいるから、その人たちと敵を討ってトランサーの王に…そんな簡単な事じゃないけどね」

 と、レンは、エレナに話した。エレナは、うつむいて重い口を開いた。

 「私達どうなっちゃうの?」

 エレナは、もう終わりだと思った。元々身分が違う。平民と武家貴族の若様との交際で、ましてや本当は、一国の王子様だったレンと今後も交際出来るのか不安になってきた。

 「エレナ…僕を待っていてくれるかい?」

 エレナは、無言でレンを見つめた。

 「どれだけ時間がかかるか分からない、でもおじいさんの願いを叶えられるのは僕しかいないから、エレナとはしばらく別れる事になってしまうけど…でも必ず君を迎えに行くよ…その時は、レン・サモンではなくレオニール・ティアックとしてかも知れないけど」

 レンは、エレナの目を真っ直ぐに見つめて言った。エレナは、レンの言葉に偽りは無いと確信した。

 「うん…待ってる、私ずっと待ってるから…レン、あなたを愛してる」

 二人は、初めて唇を合わせた。今まで感じた事のない何かが二人を包み込んだ。

 「ありがとう、エレナ」

 この後、二人は、森の中をエレナの家の方角に歩いた。歩きながらレンは、マルスの遊学のお供としてジャンパールを出る事や最初にヨーゼフ・ロイヤーと言う人物を探し出す事もエレナに話した。そして、森を出て少し歩けばエレナの家に到着するところまで来た時、二人は、もう一度唇を合わせた。

 「必ず、必ず帰って来てね、私待ってるから」

 「うん、必ず君を迎えに帰って来るよ」

 レンは、エレナを先に行かせて自分は、しばらく森の中に居た。エレナが家に到着した頃合いを見計らって自分は、マルスが待つフウガ屋敷に向かった。

 「話は出来たか?」

 マルスは、レンの顔を見るなり聞いた。レンは、うんと頷き魔導車に乗り込んだ。そして、ジャンパール城に帰ってレンとマルスは、旅の準備を進めた。

 翌朝、この日がレンとマルスにとって特別な一日になる。朝食をとり旅装束に身を包んだ二人は、イザヤとナミそしてアルスとコノハの前に最後の挨拶をするため現れた。レンの腰には、フウガの形見となった斬鉄剣があり背中に布で巻いた不死鳥の剣を背負っている。マルスの腰には、まだ何もない。

 「では、行って参ります」

 レンとマルスは、声を揃えて言った。

 「うむ、くれぐれも無理はするな、危険を感じたら直ぐに帰って来なさい、分かったね」

 イザヤは、二人に優しく言ったが、心では、泣いていた。

 「必ず無事に帰って来いよ」

 「エレナさんは、私がちゃんと守るから安心して」

 アルスもコノハも泣き出しそうな顔をしていた。

 「とにかく、あなたたち二人が無事に帰って来る事を祈ってるわ」

 ナミの目には、涙が光っている。レンとマルスは、皆に深々と頭を下げた。

 「ところでマルス、お前まさか丸腰で行くのか」

 イザヤがマルスの腰に刀が無いの事に気付いた。

 「まさか、途中で手に入れますよ」

 と、マルスは、気楽に答えたがイザヤは、とんでもないと言った顔をして奥の部屋に行った。戻ってくると手に刀を持っていた。それをマルスに渡して言った。

 「これは、先祖から受け継がれた叢雲むらくもだ、必ずお前やレンを守ってくれる、持って行きなさい」

 「父上…」

 さすがのマルスも驚いた。叢雲の事は知っていたが、まさか持って行けと言われるとは、夢にも思ってなかった。マルスは、父の愛情を感じた。

 「ありがたく…」

 そう言ってマルスは、また深々と頭を下げた。泣き顔を見せたくなかった。

 「さあ、もう行きなさい、後の事はこちらで何とでも出来る」

 「まめに手紙は書いて寄越すんだぞ」

 「お兄ちゃん…レン…」

 「気を付けてね…」

 そう言ってイザヤ達は、レンとマルスを送り出した。

 「行ってきます」

 レンとマルスは、イザヤ達の思いを背中に受け旅立った。

 

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