真実を知ったアメリア
城内の庭に降り立ったシン達は、正規兵達が見守る中、ラファル大臣とバーデン少尉が来るのを待っていた。正規兵達が口々に何か囁き合っている。
「おい、一体どうなってるんだ?」
「あの三人は、一体何者なんだ?」
群がる正規兵達を押し退けラファル大臣とバーデン少尉が駆けつけて来た。
「さぁクライン少将、どうぞこちらへ」
ラファル大臣を先頭にシン達は、堂々と城内へ入って行った。その頃、女王アメリアは、侍医グラスデンに薬を飲まされようとしていた。
「さぁ陛下、お薬を…これを飲めば落ち着くでしょう」
「グラスデン、わたくしに本当に薬が必要なのでしょうか?父上は、一族の中で一番わたくしの心臓が強いと仰っていましたが…」
と、女王アメリアが少し青ざめた顔色で言った。水の入ったコップを持ったグラスデンの手が僅かに震え少しだけ水がこぼれた。
「いやいや、陛下、我々宮中に仕える医師としてヒルバンナ家に関わる古い文献を調べましたるところ、女性であられる陛下こそ心臓には気を付けねばならぬ事が分かったのです、さぁ早くこのお薬を」
「で、ですが、それを分かっていながらなぜわたくしを女王になど…お前達はなぜ父上に申し上げなかったのです?」
と、アメリア女王は、疑いの目でグラスデンを見た。グラスデンは、悲しい表情を浮かべ言った。
「お父上様のご意思でした…先王ヨルド様は、我々にこう言われました、王族の男達は皆、頼りにならぬ…息子やその他の者を王とすればランドール王インギは色々と難癖をつけて戦争に持って行くだろう…女であるアメリアがこの国を治めればさすがにインギも女を相手に不埒な真似はせぬだろうと…そして、我々にアメリア様の健康を守ってくれと…アメリア様を女王とされたのはこの国をランドール王インギから守る事でもあったのです」
「インギ王がこの国を?わたくしには到底信じられない…グラスデン、そなたはインギ王を見た事がありますか?お話しした事がありますか?あのお方はその様な方では決してありません」
と、アメリア女王は、きっぱりと言った。
(くぅぅぅ…生意気な女めぇぇ)
と、グラスデンは、腹の底ではアメリア女王を引っ叩いてでも言う事を聞かせたいと思っているが、さすがに出来ない。気を取り直して薬だけは飲むよう言った。アメリア女王は、そっと薬を取り飲んだ。
「さぁ薬は飲みました、お下がりなさい」
「ははぁ、陛下、外の事は軍人や大臣達に任せ心安らかにお過ごし下さいますよう、そして決してインギ王の援軍はお受けにならぬように」
と、グラスデンは言い部屋を退出した。
「もっと簡単に言う事を聞くと思っていたが…もう少し恐ろしい思いをさせねばならんな、ガーリッシュ殿にもっと暴れてもらわねば」
と、グラスデンは周りに聞こえないほどの小さな声で呟き、ある部屋を目指した。一方、ラファル大臣の部屋へ案内されたシン達は、女王に直接会えるようにしてくれと頼んでいた。
「俺は女王にランドールからの援軍を受け入れるよう説得しに来たんです、どうか女王に謁見出来るよう大臣頼みますよ」
「どうして女王は素直に援軍をお受けにならないのです?」
と、シンとヴェルト少尉がラファル大臣に言った。ラファル大臣は、バーデン少尉を話しても大丈夫かとの意味を込めた目で見た。バーデン少尉が静かに頷いた。
「実は…」
と、ラファル大臣は、バーデン少尉に話した事をシン達に話した。シン達は、直ぐに侍医のグラスデンが怪しいと見た。
「ひょっとしたら外に居るガーリッシュとか言うおじさんと繋がってるかもね」
と、シーナが何気に言った言葉に皆が驚いた。特にラファル大臣は、信じられないといった顔をしてシーナを見た。
「ま、まさかそんな…私は今までメルガドの面子にかけて他国からの援軍を断っているものとばかり思っていましたが…」
「その侍医のグラスデンって野郎はそんなに権力を持ってるんですかい?」
と、シンは顎に手をやりラファル大臣に聞いた。大臣曰く、医術を持った側用人との事だった。
「アメリア様が即位して以来、片時もお側を離れません、奴が一人でいる時は必ず女王陛下もお部屋でお一人で過ごされます」
「厄介だな…女王に謁見出来ても必ず野郎が側に居るのか…どうしたもんだろう?」
「と、とにかく今から陛下に会いに行きましょう」
と、ラファル大臣は、シン達を引き連れて謁見の間に向かった。警護に当たる近衛兵に女王に会いたいと話すと今は、ご自分の部屋でお休みになられているはずと言われた。
「ちなみにグラスデン殿は?」
「さぁ…あっ?!そう言えば先ほどお一人でどこかへ向かわれる姿を見ました」
「ほう」
と、ラファル大臣の目が一瞬光った。女王は、今、部屋で一人でいるかも知れない。思わぬ好機が訪れたと高鳴る胸を抑えつつラファル大臣は、シン達を連れ急いで女王が居るはずの部屋へ向かった。部屋の前には、やはり近衛兵が警護していた。
「陛下はおられるか?」
「はい、大臣閣下、ところで後ろの方達は?」
「うむ、大事なお客人である、ところで陛下はお一人でおられるのか?」
「はい、先ほどグラスデン殿はお一人でどこかへ向かわれました」
と、近衛兵から聞きラファル大臣は、今しか無いと思い近衛兵に今から女王に謁見するが、もしグラスデンが戻って来ても直ぐに部屋には入れるなと言った。
「ええっ?どういう事です?」
「時間が無いんだ、この反乱を治めるため君達も協力し給え」
「はぁ…グラスデン殿をこの部屋に入れぬ事が協力になるのですか?」
「そういう事だ、後に分かる、きっとな」
そして、ラファル大臣は、部屋の扉を軽く数回叩いた。中から女性の声がした。女王アメリアの声である。
「私です、ラファルです、お部屋に入ってもよろしゅうございますか?」
と、ラファル大臣が言うとアメリア自ら部屋の扉を開けた。シン達は、驚いて慌てて片膝をついた。
「時間がありません陛下、中へ入っても?」
「構いませんが、この者達は?」
「我々にとって最大の味方です」
と、ラファル大臣が言うと全てを悟ったのかアメリア女王は、直ぐに皆を部屋に入れ扉に鍵を掛けた。シン達は、改めて片膝をつきアメリア女王に挨拶をした。
「トランサー王国海軍少将シン・クライン男爵です、お会い出来て光栄です」
「ランドール陸軍少尉ヴェルトです」
「ぼくはドラクーンのシーナ、よろしくね」
と、三人から挨拶を受けたアメリア女王は、特にトランサーとドラクーンと聞き驚いた。
「トランサーの方やドラクーンの方がどの様な用件で来たのか存じませんが、あなた方が来たのは援軍の事でしょう?何度も言いますがランドール王からの援軍はお受け出来ません、国内の事は国内で解決します」
と、アメリア女王は、きっぱりと言った。ラファル大臣とバーデン少尉は、アメリアを説得に掛った。早く援軍を受け入れなければ城は落とされると言い、王族は皆殺しにされるとまで言った。しかし、アメリアは、首を横に振るばかりだった。傍で聞いているシンは、意を決してアメリアに言った。
「グラスデンとか言う医者が謀反を起こしたガーリッシュと繋がっているとすれば、陛下はいかに致しやすか?」
「えっ?グラスデンが?」
アメリア女王は、真っ直ぐシンを見た。トランサー人と称しているが何となく自国民に見えて来た。
「そ、そなたは一体…」
「へへっ、私は元はメルガド人です、今回メルガドに帰って来たのは生き別れた自分の家族と親友の家族を探し出す目的で帰って来ました、まぁ新婚旅行のついでなんですけどね、驚きましたよ、ドラクーンからランドールに来てみりゃメルガドは今、内乱状態にあるって聞きましてねぇ、でも家族探しを諦める訳にはいかないもんでして、インギ王に無理を言ってランドールから出してもらったんです、最初は家族さえ捜し出せりゃそれで良いと思ってましたが、戦闘が激しくなって来て家族もろくに探せねぇ、困った矢先にトランサーの私の主や上官から女王陛下に協力するよう命じられまして」
「主とはレオニール・ティアック殿の事ですね、どうして国交も無い我が国のために?」
「お優しい方なんですレオニール様は…そのレオニール様も女王はどうしてランドールの援軍を受けないのかと案じておられまして」
と、シンの話しを真剣に聞いていたアメリア女王は、考え抜いた末、自分の意志を話し出した。
「わたくしと致しましてはインギ王の援軍を直ぐに受けたいと思っております、しかし、わたくしの兄や他の王族達そしてグラスデンが反対するのです、インギ王はどさくさに紛れてメルガドを征服するつもりだと」
「何だって?」
それを聞いたシン達が驚いた。アメリアの兄バルド・ヒルバンナや他の王族達は、インギ王を恐れていて女王であるアメリアに絶対にランドールの援軍を受け入れるなと言っていた。アメリア女王は、何度もインギ王は信頼出来るお方だと話したが誰も聞き入れなかった。
「インギ王に征服されると思われていたのか…まぁあのご気性なら仕方がないか」
と、バーデン少尉は、呆れたように言った。
「そ、そんな事絶対にありませんよ、メルガドで謀反が起きたと聞いた時、インギ王は真っ先に女王の安否を気遣われ、もしもの時に備え援軍の準備をするよう命じられたのです」
と、ヴェルト少尉がとんでもないといった顔をして言った。
「ところで陛下、お身体の御具合はいかがですか?」
と、ラファル大臣が言った。アメリア女王は、軽く胸を押さえながら答えた。
「わたくしは至って健康だと思っているのですがグラスデンが言うにはヒルバンナ家の血が目覚め始めていると言うのです」
ヒルバンナ家の血が目覚め始めているというのは、心臓が悪くなって来ているという意味だ。薬も朝昼晩と欠かさず飲まされているという。シンは、ふとトランサーで起きたレンとヨーゼフの毒殺未遂事件を思い出した。あの時は、半イビルニア人ライヤーが調合した毒でレンとヨーゼフは、殺されかけた。
「薬って今ありますか?」
と、シンは薬が気になりアメリアに聞いた。
「これですが何か?」
と、アメリアは、何の疑いもなくシンに薬の入った紙袋を手渡した。シンは、紙袋から一包取り出し嗅いでみた。無臭である。少し首を傾げ、今度は薬をシーナに渡した。シーナは、くんくんと匂いを嗅ぎしばらく薬を眺めて言った。
「これ、毒だよ」
「ええっ?」
と、アメリア女王とヴェルト少尉が驚いた。シンは、やっぱりなといった顔をしている。ラファル大臣とバーデン少尉もやはりといった顔をしていた。
「こんなのずっと飲んでたらいつか必ず身体を壊すよ」
「し、しかしそれはグラスデンが調合した心臓を強くする薬のはずなのでは…」
「陛下、思い出して下さい、お父上である先王ヨルド様が亡くなられた時の事を、グラスデンはヨルド様の頃より宮中の侍医としてお仕えして来ましたが、今にして思えばグラスデンがヨルド様を時間を掛けて毒殺したのやも知れません、この事は宮中で密かに噂されておりました」
と、ラファル大臣に言われたアメリアは、父である先王ヨルドが亡くなる直前までグラスデンが何か薬を投与していた事を思い出した。あの時は、きっと治すための薬を飲ませているとばかり思っていた。
「グラスデンは、王族方々にも同じ薬を処方しておるとか…グラスデンが侍医長になってから王族方は皆、心臓がお弱いと診断されております」
「しかし、その様な事をして誰が得をするのです?あっ?!まさかガーリッシュ」
「左様、ガーリッシュが乱を起こした理由を考えれば…ガーリッシュは反乱軍を起こす際、身体の弱い王族にはもはや国を任せる事は出来ないと言い乱を起こしました、おそらくガーリッシュは数年前からグラスデンと通じておったのでしょう、医師であるグラスデンを利用し自らが王になろうと考えた」
と、ラファル大臣は、アメリア女王に言った。アメリア女王は、相当衝撃的だったのかフラフラと倒れそうになった。シーナが慌てて支えた。
「そ、そんな…わたくしはそうとも知らずあの者を傍に置いていたのですね…」
そう言うとアメリア女王は、心理的ショックからか苦しそうに胸を押さえた。
「じょ、女王!」
「陛下!お気を確かに!」
「う、うぅぅぅ…きゅ、急に…苦しい」
「おい、シーナ」
「うん、大丈夫だよ、ぼくが居るから」
と、シーナは、アメリア女王の胸に手をかざした。右手が優しく光り出した。苦痛に歪めていたアメリア女王の顔が安らかな表情へと変わって行った。
「もう大丈夫だよ」
と、シーナは言いアメリア女王をベッドに座らせた。
「ありがとう、助かりました、これがうわさに聞くドラクーン人の治癒の力なんですね」
「そうです、シーナのおかげで俺達は何度も助かりましたからね、これでお分かりになったでしょうグラスデンの野郎をとっ捕まえて吐かせましょう」
と、シンが言った時、扉の向こう側が急に騒がしくなった。何だろうと聞き耳を立てるとグラスデンが部屋を警護している近衛兵と言い争っている。
「私を誰だと思っておるのだ?侍医長のグラスデンだぞ!早くここを通しなさい」
「お待ちを!今はお部屋に入れる事は出来ません」
「ラファル大臣が陛下と大事なお話をされているのです、どうか今はお下がりください」
「何を!お側御用も務めるこの私を差し置いて何故ラファル大臣が!ええい!通さぬか!」
と、グラスデンは、半ば強引に扉を開けようとしたが内側から鍵が掛かっているので開けられない。
「陛下、陛下!私ですグラスデンです!大臣と何の話をされているのですか?陛下!陛下ぁ!」
と、扉をドンドン叩いた。相当焦っている様に見えた。扉の内側でアメリア女王は、ラファル大臣に鍵を開けるよう言ったが、シンが俺がと扉に近付き鍵をそっと開けた。グラスデンが慌てて扉を開けると見た事のない背の高い男が立ちはだかっていた。
「だ、誰だ貴様は?陛下、陛下」
「ああ、女王様は奥にいらっしゃるぜ、てめぇを待ってたんだ、来い!」
と、シンは、乱暴にグラスデンの首根っこを持ち外に居る近衛兵に軽く会釈して扉を閉め、そのまま皆の所までグラスデンを連れて行った。
「いい、痛い、放せ、放せ!…あいたっ!」
と、シンは、皆の前まで来るとグラスデンを床に叩きつけるようにして放した。グラスデンが慌てて見上げると左右に鬼の様な形相のバーデンとヴェルトが居て目の前には、自分を睨み付けるラファル大臣、そしてその奥にあるベッドの上に座るアメリア女王と傍にシーナが立っていた。
「こ、これは…陛下、一体何事ですか、ラファル大臣この者らは一体何者なんだ?」
「お黙りなさいグラスデン、其の方よくもわたくしをたばかりましたね」
「貴様がこれまで女王陛下はもちろんの事、他の王族方々に毒を盛っていた事、明白である」
と、ラファル大臣が厳しく言うとグラスデンは、何が何だか分からないといった顔をした。そこにシーナが薬の入った紙袋を持ってグラスデンの前まで来た。
「おじさん、人間には気付かない臭いでもぼくたちドラクーン人の鼻は誤魔化せないよ」
と、シーナは言って紙袋をグラスデンに投げ渡した。ドラクーン人と聞いたグラスデンは、目の前のシーナをまじまじと見た。一見普通の少女に見える。
「こ、これは心臓を強くする薬だ!ドラクーン人だか何だか知らんがなぜそんな事が分かるのだ!」
「じゃあ、おじさんその薬ここで全部飲んで、薬なんでしょ?」
「私は心臓は悪くない、この薬を飲んだら逆に悪くなる、これはアメリア女王のために調合した薬なのだ」
「ふぅん、そうかい、シーナ、こいつの心臓悪く出来るか?」
「う~ん、出来ない事も無いけど…やってみようか」
と、シーナが右手をグラスデンに差し向けシンがグラスデンを後ろから羽交い絞めにした。グラスデンは、シンから逃れようとするが、力では到底及ばない。シーナの右手がグラスデンの心臓辺りで止まり光り出した。アメリア女王の治療を行った時の様な優しい光ではなく強烈な光を帯びている。
「な、何を…うう?うぅぅぅぅわぁぁああああ、く、苦しい…ししし心臓がぁぁぁ、いい痛いぃぃぃ!」
グラスデンの様子が一目で変わったのが分かりシンは、羽交い絞めを解いた。グラスデンは、その場に倒れ込み胸を押さえている。顔から脂汗が滲み出ていた。
「ぐわぁぁぁぁぁ…」
「おい、これ飲んで楽になれ」
と、シンが薬の入った紙袋を差し出した。
「ひっ!ひぃぃぃ!ここ、こんな状態で飲んだら死んでしまう!あっ?!ちちち、違う!今のは冗談だ」
「ほう、その状態でよくもまぁ冗談が言えるなぁ、まぁいいや、さぁ飲んで楽になろうぜ」
シンは、グラスデンの顎を掴み薬を流し込もうとした。グラスデンは、必死になって抵抗した。バーデン少尉とヴェルト少尉もグラスデンを取り押さえ、いよいよグラスデンの口に薬が流し込まれようとした時、アメリア女王が止めた。
「もうよい…グラスデンの様子を見ればその薬が毒である事がはっきりしました、シーナ殿、グラスデンを元に戻してやって下さい」
シーナがグラスデンの心臓を元の状態に戻してやった。グラスデンは、その場に座り込みうな垂れていた。急に静かになった部屋に大砲の音が小さく聞こえた。
「グラスデン…わたくしはお前を信じておりました…誠に残念です」
「我々は決して貴様を許さんぞ、先王ヨルド様を殺したのも貴様だな?」
と、ラファル大臣が厳しく言うとグラスデンは、ぶるぶると震え出し話し始めた。
「す、全てはガーリッシュ将軍の計画だった…」
グラスデンが侍医長に任命された頃、ガーリッシュ将軍が近付いて来たと言う。最初は、とても温厚で趣味の話しなどをしていた。将軍が開く宴などにも呼ばれ次第に昵懇になると、ある日突然グラスデンに毒は作れるかと聞いて来たと言う。自分は、医師なので簡単に作れると言うと将軍は、満足そうに「そうか」と言った。それから数日後、将軍は先王ヨルドの暗殺計画をグラスデンに打ち明けたのだ。
「最初は反対した…しかし…」
グラスデンは、将軍の甘い言葉に乗ってしまった。ヨルドを暗殺し次の王には、長男のバルドではなく長女のアメリアを据え裏で操るというものだった。そのためには、医師であるお前の力が必要だと言った。将軍は、グラスデンにヨルド達男系の王族は皆、心臓が弱いと言う事にしろと命じた。グラスデンは、自ら王族を診察し侍医長という立場を利用して心臓が弱いと言う事実を作った。
「貴様はガーリッシュに何を約束されたのだ?」
と、ラファル大臣は、怒りに震えながら厳しく問うた。アメリア女王も厳しい目でグラスデンを真っ直ぐ見つめている。
「将軍は私にこう言われた、自分が王になれば私を一介の医師ではなく大臣として迎えようと…私は大臣になりたかった、大臣になってこの国の医術をもっと高めたかった、そして病で苦しむ者を助けたかったのだ…痛い!」
シンが後ろからグラスデンの頭を思い切り引っ叩いた。
「大臣になって医術を高めたかった?病で苦しむ者を助けたかっただとぉ…人を毒殺するような奴がよくも言えたなぁ、てめぇなんざこの俺がぶっ殺してやる」
と、シンは、カツの形見となった剣をスラリと抜き放ったがバーデン、ヴェルト両少尉に止められた。
「クライン閣下、お待ちを、この者にはまだ聞く事があります、我がランドールの援軍を拒むよう仕向けていたのは貴様だな」
と、バーデン少尉が怒りに満ちた目でグラスデンに言った。グラスデンは、フッと笑い答え始めた。
「左様、私だ、バルド様以下他の王族方は簡単に私の言う事を聞いてくれたが女王様だけがお信じ下さらなかった…だからバルド様や他の王族方に絶対に援軍を受け入れぬよう女王様を説得するよう頼んだ」
「そう、わたくしが女王であってもわたくしの一存では他国からの援軍は受けられない…しかし、事実が分かれば話しは別です、今すぐランドールに援軍要請をかけます」
と、アメリア女王は、バーデン、ヴェルト両少尉を見た。二人は、うんと頷き城内の連絡室に向かおうとした時、部屋が大きく揺れた。
「な、何だ?」
「ハハハハ、もう遅かったようですな、痺れを切らしたガーリッシュ将軍が攻め入って来たのでしょう」
「何だと?」
シンは、グラスデンの胸倉を掴み持ち上げた。
「み、皆様、早くここからお出になって下さい、ガーリッシュ将軍が城門を突破しました」
「い、今の揺れは?」
「おそらく城外からの砲撃でしょう」
「くっ、こうしてはおれん、我々は大広間に行きましょう、君、兵を集めてくれ、陛下をお守りする」
「ははっ!」
と、ラファル大臣に言われた近衛兵は、直ぐに仲間の近衛兵を集めた。二十人ほどの近衛兵に守られアメリア女王、ラファル大臣そしてグラスデンを捕まえているシンとシーナ、バーデン少尉とヴェルト少尉は、城内二階の大広間に向かった。そこには、アメリア女王の兄バルドや他の王族、城に居た大臣や貴族達が集まっていた。
「ああ、アメリア、もう降伏しよう、このままでは我々はガーリッシュに殺される」
「兄上、お気の弱い事を、大丈夫です、インギ王に助けを求めます」
「何を言い出すんだ、駄目だ!インギはどさくさに紛れて我が国を乗っ取るつもりなんだぞ、ってグラスデン?どうしたんだ?お前達は何者だ?グラスデンを放せ」
と、バルドは、シン達に気付き言った。シン達は、手短に理由を説明した。皆、信じられないと言った顔をしている。
「グラスデン、何とか言え」
「…この者達が申した事、嘘だと言ってくれ」
と、バルドや王族達に言われたが、グラスデンは何も答えなかった。
「しかし、ランドールの援軍は受け入れたくない、やはり降伏しよう、将軍もまさか降伏した我々を殺そうとは思わないだろう」
「そりゃどうでしょうねぇ、おい、グラスデン、将軍はどうするつもりだったんだ?」
と、いつまで経っても援軍を受け入れないバルドや王族達に呆れたシンがグラスデンに王族達をどうするつもりなのか説明させた。皆、顔を真っ青にした。
「み、皆殺しだと?ももも、もう駄目だ…我々はここで殺される」
「だからインギ王を頼れば済むんだ、もういい、シーナ飛んで行ってインギ王に話して来い」
「うん、その方が早いね、じゃあ、ぼく行って来るね」
そう言うとシーナは突然龍の姿に変身した。王族達は、腰を抜かさんばかりに驚いた。シーナは、二階の窓からランドールに向かって飛び立って行った。
「さぁ後はここが持ち堪えられるかどうかです、女王様」
「シン殿ありがとう、皆の者、良く聞きなさい、たった今ランドールに援軍要請をかけました、我々は何としてもこの場を持ち堪えねばなりません、ガーリッシュの思い通りにはさせません、皆、わたくしと共に戦いましょう」
と、アメリア女王が言うと大広間が大きく鳴った。近衛兵や一般兵達が気合を入れるため叫んだ。
「謀反人、ガーリッシュを討ち取るぞぉぉ!」
「おおぉぉぉ!」
それぞれが大広間から飛び出し反乱軍に立ち向かって行った。城内中庭で激しい戦闘が行われていると報告が来た。城内に居た兵は、忠誠心も厚く良く戦っている。
「ランドール軍がこの都に到着するまで持ち堪えられそうですか?」
「分かりません、城内には二千人の兵士が居るはずです、武器も十分揃っておりますので、この大広間まではなかなかたどり着けないでしょう」
「ガーリッシュも無駄に城を攻撃し破壊する事はしないでしょうし」
「だと良いんですがねぇ、まぁ俺も戦って来ますよ」
「あっ、ちょっと!」
「…行ってしまわれた」
と、シンはアメリア女王とラファル大臣に気軽に言い大広間を出て行った。バーデン、ヴェルト両少尉は、グラスデンを逃がさないようにと近衛兵に託し慌ててシンの後を追った。




