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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
178/206

城へ

 シンとシーナがゼペット爺さんの店で話している頃、都では戦闘が開始された。この知らせは、アメリア女王にインギ王の意を伝えるため都の城に向かったバーデン少尉からの知らせだった。

 「バーデン少尉は無事なんですかい?」

 「ははっ、少尉の事なら問題ありませんよ、無事に今、城内に居ます」

 と、大使館員が答えシンは、ホッと胸を撫で下ろした。近辺の集落を回っていたヴェルト少尉とバロッサ少尉も大使館に帰って来た。二人は、シンに集落で聞き込んで来た情報を伝えた。数年前、ブロイと名乗る家族が住んでいたが、丁度イビルニアと戦争になった頃、どこかへ引っ越して行ったそうだ。

 「そうだったんですか…」

 「しかし、そのブロイ家がカツ殿のブロイ家とは限りませんから」

 と、ヴェルト少尉は、申し訳なさそうに言った。シンのクライン家は、今の所、全く情報が無かった。シンは、ヴェルト、バロッサ両少尉にある老人に家族を探してくれるよう頼んだと言った。

 「その爺さんの情報網を持ってすれば意外に早く見つかりそうです」

 「そうなんですか、で、その老人とは?」

 と、二人に聞かれシンは迷った。昔の事をむやみに話せばどんな事になるやも知れぬ。シンは、昔世話になった爺さんだと話した。

 (もう、足は洗ってるが念のため)

 そして、新たに都の情報が大使館に伝えられた。正規軍が押され気味で籠城戦に出たとの事だった。

 「な、何だって?籠城だと?」

 シンは、驚き叫ぶように言った。反乱軍の勢いが凄まじく正規軍を次々と降伏させ取り込んでいるという。この辺りに駐屯する正規軍は、大丈夫なのかと大使がメルガドの役人に聞いていた。ランドール大使館があるこの町の守りに就く正規軍は、忠誠心が強い者ばかりだと役人は答えた。

 この事は、直ぐにランドールに知らせが入った。ランドール王インギは、苛立っていた。

 「アメリア女王からの応援要請はまだ来んのか?」

 「ははっ、今の所はまだ来ておりませぬ、バーデン少尉が説得しているそうですが、女王はあまり良い顔をされぬそうで」

 と、インギに知らせた側近が答えた。

 「困ったお嬢さんだ…」

 と、インギが呟いた。インギは、アメリア女王がまだ少女の頃に城で何度か会っている。女王の叔父が公務でランドールに来た時、連れて来る事があった。その時のアメリア女王の印象は、か細く弱々しかった。そのアメリアが去年、女王に即位したと聞いた時は、驚いた。先代の国王が急死する直前にアメリアを女王にするよう言ったという。戴冠式には、ヨハン太子を出席させた。ヨハン太子からアメリアがどう成長したか聞くと少女の頃の様な弱々しさは消えていたが、たくましくなったとも言えないと聞いていた。そして、何となくだが無理矢理女王にされたのではないかと思ったとヨハン太子は、話していた。裏でアメリア女王を操る誰かがいるのではないかとインギは、考えた。しかし、無理矢理でも女王となったのなら国民を正しく導いて行かねばならない。そんなアメリアが女王としての激務に耐えているのかと思うとインギは、隣国を治める者として何とか彼女を助けてやりたいと義侠心を燃やしていた。

 「もしもの時に備え何時いつでも援軍を送れるようにしておけ」

 と、インギは側近に命じた。

 その頃、メルガドでは、バーデン少尉が、何とかランドールからの援軍を受け入れるようアメリア女王を説得していた。

 「なぜです女王陛下!このまま籠城すればガーリッシュ将軍の思う壺ですぞ、陛下の一言でインギ王が駆けつけます」

 「……こ、これは我が国内での事、他国に迷惑をかける事は出来ません」

 「し、しかし、ですね」

 「しつこいですぞ!女王陛下は援軍は要らぬと仰られている、お下がりなさい」

 と、アメリア女王の傍に居る男が言った。バーデン少尉は、男を見た。

 「ご貴殿は?」

 「私は侍医のグラスデン、アメリア女王はお身体の具合がすぐれない、さぁもうお下がりなさい」

 バーデン少尉は、納得のいかないまま女王に一礼して下がった。

 (はて?あの男…妙な)

 バーデン少尉は、謁見の間から出ると近くに居た役人にグラスデンの事を聞いた。先代の王ヨルドの頃より仕えている侍医で王族達の信頼も厚いとの事だった。

 「そうですか、しかし困ったな、外はガーリシュの兵で一杯だ、帰れない」

 と、バーデン少尉は、苦笑いし役人に通信室を借りたいと言った。大使館や本国に連絡するためである。バーデン少尉は、直ぐに通信室に通された。最初にランドールに連絡し自分の安否とアメリア女王が今だ援軍を受け入れない事を報告、そして大使館に連絡し自分の安否と戦況を知らせた。連絡を終えたバーデン少尉は、メルガドのラファル大臣に呼ばれ部屋へ向かった。

 「やぁバーデン殿、大臣を務めるラファルです、此度こたびは妙な事になりご迷惑をおかけしてます」

 と、ラファル大臣は、自己紹介して詫びた。バーデン少尉は、アメリア女王にランドールの援軍を受け入れるよう大臣からも説得して欲しいと頼んだ。

 「何故、女王陛下は、援軍をお受けにならないのです、我が軍が出れば直ぐに片付くはず、ぐずぐずしていればガーリッシュ将軍に与する者を増やすだけですぞ、大臣からも陛下に援軍を受け入れるよう説得して下さい」

 「左様、私もそう思う…アメリア女王には私からも援軍を受け入れるよう再三申し上げたのだが…ところでバーデン殿、グラスデン殿にお会いしましたかな?」

 と、ラファル大臣は、侍医グラスデンに会ったかとバーデン少尉に尋ねた。

 「はい、アメリア女王の傍に居た男ですな、確かに見ましたが」

 「あの者には妙な噂がありましてな…実は…」

 と、ラファル大臣が侍医グラスデンの事を語り出した。バーデン少尉は、信じられないといった顔をした。

 「ど、毒殺ですと?」

 「はい、先王ヨルド様は、いやヒルバンナ王家の方々に言えるのですが代々心臓が弱い方が多くヨルド様もまた心臓が弱かった…グラスデンは毒薬を心臓を強くする薬と称してヨルド様に投薬し毒殺したのではないかと陰で噂されておるのです」

 「心臓が?で、ではアメリア女王は?」

 「アメリア女王は幸い普通の方と同じだと聞いております、よってヨルド様はアメリア様を王位に就かせたと」

 「なるほど、他の王族方は皆、心臓が弱いと言う訳ですな、しかし」

 と、バーデン少尉は、何か腑に落ちなかった。アメリアもどこか身体の具合が悪いのではないかと見受けられたからである。ラファル大臣の好意でバーデン少尉は、城内に一室を与えられ、この籠城戦を見守る事になった。

 一方、城下町に陣を張る謀反人、ガーリッシュ将軍は、満足そうに城を眺めていた。

 「けっこう、けっこう、後はグラスデンがあの小娘を上手く説得して開城させればお終いだ、ククク」

 「将軍、ラドンの町に駐屯する部隊が今だ無傷で残っております、いかが致しましょう?」

 と、ガーリッシュ将軍の側近の者が尋ねた。ラドンの町はランドールとの国境付近の町の事で現在シン達が居るランドール大使館がある町だ。

 「ラドンを守る精鋭部隊は厄介だ、後方から攻められる前に潰せ」

 と、ガーリッシュ将軍は、城を眺めながら答えた。

 「しかし、あの町にはランドール人が数多く居ます、もしランドール人に被害が出れば不味い事になりますよ、インギ王が有無を言わさず攻め込んで来るでしょう」

 「ふん、あの血の気の多い国王か…世界の三大英雄の一人に数えられているからと調子に乗りおって、三日時間をやる、その間にランドール人達に自国へ帰るよう伝えろ」

 「ははっ」

 と、側近は、その場を離れラドンの町を攻撃させる部隊の編成を行った。側近は、大隊長二人に攻撃する前に必ずランドール人に対して避難勧告を出すよう命じた。

 「三日間避難勧告を出せ、三日もあればあの町のランドール人は皆、国へ帰るだろう」

 そして、二個大隊がシン達が居るラドンの町に向かって行軍を始めた。その頃、シンとシーナは、町をぶらぶらと歩き回っていた。シンは、どこを歩いても懐かしさを感じカツとの思い出に浸っていた。

 翌朝、町に警告音が鳴り響いた。正規軍兵士達がランドール人達に早く自国へ帰るよう言い回っていた。

 「帰れる者は直ぐにランドールに帰ってくれ、三日後に戦闘が始まる」

 ランドール大使館にも正規軍兵士がやって来て同じ事を言った。

 「大使、どうかお国へお帰り下さい、三日後に反乱軍は攻撃して来ます」

 「何と…この町に攻撃を仕掛けるというのですか?なぜ?」

 「我々が居るからでしょう、大変申し訳ない」

 と、知らせに来た正規軍兵士が大使に頭を下げた。大使は、直ぐにはここを引き払う事は出来ないと言い正規軍兵士を帰した。

 「困りましたな…とにかくランドールに連絡しましょう」

 と、大使は、ランドールに魔導話を掛けた。シンは、恐れる事もなくぼんやりと自分やカツの家族の事を考えていた。そんな時、ゼペット爺さんの使いの者が大使館に現れた。

 「シン・クラインってお人がここに居ると聞いたんですが」

 近くに居たバロッサ少尉がシンに知らせた。

 「おお、俺だ、俺がシン・クラインだ、爺さんの使いか」

 「へい、直ぐに店にお連れするようにと」

 「分かった、シーナ行こう、皆さん、ちょっくら行って来ます」

 と、シンはシーナを連れて大使館を出た。ゼペット爺さんの店に入ると老夫婦がゼペット爺さんと向かい合って座っていた。

 「おう来たか、見つかったぜカツの親父さんとお袋さんだ、都の直ぐ隣の町に居たんだよ」 

 老夫婦は、ゼペット爺さんにシンを紹介されそれぞれ自己紹介した。

 「カツの父、ゼルドです、息子やあんたの昔の事はこちらのゼペットさんから聞いたよ、でも…カツはもうこの世にいねぇんだなぁ…」

 「母のカンナです…息子の事は本当に残念です」

 「申し訳ねぇ、俺がもっと強かったらカツを守れたんだ…本当に、本当に申し訳ねぇ…ううぅぅぅ」

 と、涙を流しカツの両親にシンは詫びた。ゼルドとカンナは、シンの手を取り共に泣いた。シーナもカツを思い出し目に涙を浮かべた。シンは、メルガドを出奔してからの事を二人に語った。

 「いやぁ、あんたも息子もあの当時は死んだ事になっていたからねぇ、生きてるって知った時は、そりゃ喜んだよ、おまけに海賊から海軍の将校になったてんだから、いつか会える日を楽しみにしてたが…」

 と、ゼルドは、肩を落とした。

 「ところでシンさん、あなたのご両親は?」

 と、カンナがハンカチで涙を拭いながら聞いた。シンは、ゼペット爺さんを見た。

 「すまねぇなぁシンよ、お前さんの両親はまだ見つかんねぇだよ、それにあちこちでドンパチやってるからよう、なかなか上手く事が進まねぇやな」

 と、ゼペット爺さんは、申し訳なさそうに言った。シンは、カツの両親が見つかっただけでも良かったとゼペット爺さんに礼を言った。

 「ところでどうしやす?トランサーに行きカツの墓参りでもしますか?」

 「そうしたいんだが、今はねぇ」

 「ああ、この国が治まってからですよ」

 今は、メルガドが内乱状態であるためメルガド人が勝手に他国に行く事は許されない。メルガド王政府は、自国民には避難勧告を出していないのである。

 「しかし、この町も三日後には戦闘が始まる、わしらも身をどこかに移さねぇと…シン、お前さんとシーナさんは大丈夫なのかい?」

 と、ゼペット爺さんが言った。シンは、この町から出るつもりはないと答えた。

 「爺さん達はどこに行くんだい?」

 「ああ、となりの村にでも避難してるよ、あそこなら兵隊も居ねぇからな」

 「そっか、分かった、では親父さん、お袋さん内乱が治まったら一緒にトランサーに行きましょう」

 と、シンは言いシーナを連れてランドール大使館に戻った。シンは、カツの両親が見つかった事を大使やヴェルト、バロッサ両少尉に話した。そして、トランサーに連絡した。

 「シン・クライン少将だ、兄貴…じゃなかったロイヤー元帥に代わってくれ」

 丁度、トランサーは夕方でテランジンは、城内の一室で海軍大臣としての仕事を終え帰ろうとしていた。そこへ部屋の魔導話が鳴った。

 「何か?」

 「閣下、今メルガドに滞在中のクライン少将から魔導話が掛かってまして閣下に代わるようにと」

 「そうか、繋いでくれ」

 一分ほど時間が掛かりシンと繋がった。

 「兄貴、俺です、シンです、そっちの様子はどうですか?」

 「ああ、こちらは至って平和だ、それより大変な事になってるってな、内乱が起きていると」

 「そうなんだ兄貴、詳しい事は俺にはまだ分かんねぇんだが、それより兄貴、見つかったよ」

 と、シンが嬉しそうにカツの両親の事を話した。

 「そうか、良かった…で、お前の両親は?」

 「うん、まだ見つからねぇ、内乱でこの辺りも戦闘に入るって言ってるからしばらくは、探せねぇ」

 「そうか…ではどうするんだ?一旦ランドールに引き上げるのか?」

 「いや、このまま、ここに居るよ、今朝方、正規兵がランドールに帰れって言って来たが俺は残るよ」

 「うむ、お前の生まれた国だ、勝手は分かってるだろうが無理はするな、ライラのためにもな」

 「はい、兄貴」

 「今日の事は陛下に報告する、じゃあな」

 と、テランジンは魔導話を切り直ぐにレンに会いに行き、シンから聞いた話しをレンとディープ伯爵に伝えた。レンは、カツの両親が見つかった事を喜んだが、シンの家族がまだ見つかっていない事を残念に思った。そして、メルガドの内乱の話しになった。

 「ランドールからの知らせではガーリッシュ将軍と言うのが謀反を起こしたそうだ、理由は病弱な王族に国を任せてはおけないと」

 と、ディープ伯爵が城下町にあるランドール大使館で聞いた話しをした。

 「うちとは国交が無いからね、全部ランドールを通して情報が入って来るんだ」

 と、レンが情けない顔をして言った。

 「しかし、インギ王はどうされているのです?あの王様のご気性なら黙っていないでしょう」

 「左様、インギ王は反乱軍を撃退する援軍を送ると言っておられるのだが、メルガドの女王が拒んでいるそうなんだよ」

 「ううむ、なぜでしょう?素直に援軍を受け入れるべきでしょう」

 と、テランジンは、顎に手をやり言った。レンとディープ伯爵もその通りだと言った。テランジンは、ふとシンと一緒に居るシーナが頭によぎった。そして、大胆な事を思いついた。

 「陛下、シンとシーナを正規軍に協力させてはどうでしょう?」

 「ええっ?駄目だよ、危険だよ…でも…」

 と、レンは言ったもののシンとシーナなら大丈夫かも知れないとも思った。二人ともイビルニア人を相手に戦って来たのだ。いざとなったらシーナが龍に変身してシンを乗せて空に逃げる事も出来る。

 「本当に大丈夫かなぁ?」

 「陛下、シンは今シーナと一緒に居ます、ドラクーン人であるシーナが傍に居れば反乱軍も簡単に手は出せません、もしもシーナが怪我でもするような事があればカイエンが黙ってはおらんでしょう」

 「左様、ドラクーンの者に危害を加える事は許されない、この世界の常識ですからな、陛下、これは上手く行くかも知れませぬぞ」

 と、ディープ伯爵も乗って来た。レンは、多少不安が残ったが、シンにアメリア女王やガーリッシュ将軍の事を調べさせる事にした。テランジンは、魔導話を使いメルガドのランドール大使館に連絡した。

 「何です?兄貴」

 「シン、お前の家族を探すついでと言っては何だが、お前メルガドの正規軍に協力してやれ」

 「ええっ?協力ってまさかいくさをしろって事ですかい?」

 「うん、まぁ状況に応じてだが…とにかくメルガド女王がなぜランドールの援軍を拒むのか気になってな、レオニール様も案じておられる、インギ王の助けを受け入れれば直ぐに反乱軍など鎮圧出来るはずなのにとな、シン、無理にとは言わん」

 「良いぜ兄貴、反乱軍のおかげで家族がまともに探せねぇから俺も何とか援軍を受け入れるよう女王に会って話してみるよ」

 「そうか、すまんな、では頼んだぞ」

 と、テランジンは言い魔導話を切り、レンとディープ伯爵に話した。

 「シンとシーナならきっと上手くやってくれるでしょう」

 「うん、これでカツが一緒に居てくれたらもっと安心出来たんだけどね…そうだイーサン、明日カツの墓参りに行くよ」

 「ははっ、承知しました」

 「お供致します」

 と、テランジンもカツの墓参りに行く事にした。

 翌日、シンは、シーナを連れて都に行くとランドール大使やヴェルト、バロッサ両少尉に話した。

 「む、無茶ですよ、クライン閣下!今の都は危険過ぎます、現にバーデンが帰って来れないんですよ!」

 「いや、都に行きアメリア女王に謁見して援軍を受け入れるよう説得する、昨日上官である兄貴…じゃなかったロイヤー元帥からの命令でね、ドラクーン人であるシーナを連れて行くから簡単に手出しは出来ねぇはずだし、それに俺は元々メルガド人だから」

 と、支度をしながらシンは話した。シーナは、とっくに着替えを済ませて待っていた。

 「それなら私達も行きましょう」

 「えっ?」

 「一緒に行かねば、インギ王にお叱りを受けます、何のために付き添わせたのかと…それにバーデンの事が気掛かりですし」

 と、ヴェルト少尉が言った。大使や大使館員達は、シン達を止めたが聞かなかった。それならせめてヴェルト少尉か、バロッサ少尉のどちらかが大使館に残って欲しいと頼んで来たので、バロッサ少尉が残る事になった。

 「それじゃあ行って来ますぜ」

 と、シンは、そこら辺を散歩しに行く様な口ぶりでシーナとヴェルト少尉を連れて大使館を出た。シン達は、堂々と表通りを歩いた。正規兵達がシン達に気付き近づき民間人が何をしているのかと聞いて来た。シンは、正直にアメリア女王に会いランドールからの援軍を受け入れるよう説得しに行くと話した。

 「ば、馬鹿な…ここの者達には避難命令が出ているんだぞ、君達は一体何者なんだ?」

 「俺はトランサー王国海軍少将シン・クライン男爵、と、言っても元はメルガド人だがな、こっちはドラクーン人のシーナ、そしてこの人はランドールのヴェルト少尉だ」

 と、シンに言われ目の前の兵士達は、絶句した。嘘かも知れないと思ったがシンの余りにも堂々とした態度に兵士達は、信じる事にして自分達の上官に会わせる事にした。シン達は、このラドンの町の入り口に陣取る正規軍の陣屋に連れて行かれた。兵士が上官にシン達を紹介した。

 「私はこの町の守りを任されている司令官のゲイン大佐です…ん?どこかで見た様な…」

 と、ゲイン大佐は、シンをまじまじと見た。シンもゲイン大佐を見た。そして、お互いがまさかといった表情を見せた。

 「ト、トラビス兄ちゃんか?」

 「まさか…シンか?あの近所に住んでたシン・クラインか?」

 「ああぁそうだよ、近所に居たシン・クラインだよ!」

 「はっはぁ!まさかこんなところで会えるなんて」

 と、シンとゲイン大佐は抱き合い手を握り合った。

 「いやぁ、懐かしいなぁ、部下がシン・クライン少将なんて言うから全く気付かなかった、お前トランサーでえらい出世したんだってな」

 「うん、色々あってね、今はトランサー人になったよ」

 と、驚く周りの者など気にもしないでシンとゲイン大佐は、再会を喜び合った。シンとゲイン大佐は、シーナとヴェルト少尉、メルガドの兵士達に自分達の事を話した。

 「ガキの頃、よく遊んでくれたなぁ」

 「そうだったなぁ、俺が士官学校に行く事になってから遊んでやれなくなってお前は悪仲間と遊ぶようになった、突然村からいなくなったと聞いてびっくりしてたんだぞ」

 と、ゲイン大佐は、当時の事を思い出しながら言った。シンは、ばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。

 「ところでアメリア女王に会いに行くと部下から聞いたが」

 「うん、そうなんだ、俺達は女王に会いランドールの援軍を受け入れるよう説得しに行くんだ」

 「しかし、今の都は反乱軍で一杯だぞ、シーナ殿やヴェルト少尉は大丈夫だろうが今はトランサー人であるお前が居ると知れば追い返されるか下手をすれば殺されかねんぞ」

 「それなら大丈夫だよ、おじさん、ぼくがシン兄ぃとヴェルトさんを乗せて空を飛んで逃げるから」

 「シーナ殿が?どうやって…あっ!?ドラクーン人は確か龍に変身出来るんだったな」

 「そうだよ」

 と、シーナが無邪気な笑顔で答えた。シンは、シーナに龍に変身してやれと言った。シーナは、うんと頷き皆の前で龍に変身した。

 「す、凄い…あれがドラクーン人の変身か…なるほど、これなら二人を乗せて飛べるな」

 「な、トラビス兄ちゃん凄いだろ、ところでちょっと聞きたい事があるんだ」

 と、シンは、自分の家族の事をゲイン大佐に聞いた。ゲイン大佐は、士官学校を卒業し村に帰った時には、シンの家族は引っ越した後だったと答えた。

 「すまんな、力になれなくて」

 「いいよ、この内乱を片付けちまえば、もっと探しやすくなるし、俺はそのためにも女王に援軍を受け入れるよう説得しに行くんだ」

 「分かった、では上手く都に辿り着き城に入った時の事を考えて俺が紹介状を書こう、ちょっと待っててくれ」

 と、ゲイン大佐は、シン達のために紹介状を書いてくれた。

 「それがあれば大丈夫だ、くれぐれも気を付けてな」

 「うん、ありがとうトラビス兄ちゃん、んじゃあ行って来るよ」

 と、ゲイン大佐率いる精鋭部隊と別れを告げシン達は、都に続く街道を歩き始めた。無論、途中までである。反乱軍が陣を張る位置の目と鼻の先辺りからは、森の中を歩いた。魔導車で街道を行くと都まで三時間ほどで行けるが徒歩であり森の中を歩いているのでかなりの時間を要する。ラドンの町を出て、どれ程経過しただろう。すっかり夜になってしまった。

 「仕方がねぇ、今日はここで野宿だな…」

 こうなる事は予想していたのでニ、三日分の食料は用意していた。シン達は、早めに寝る事にし夜明け前に出発する事にした。

 翌日になり夜明け前に起き、また都に向かって歩き出した。空が明るくなった頃、森の中から街道を行く反乱軍の部隊が見えた。

 「あの部隊どこに行く気だろう?」

 「さぁラドンの町の応援かも知れませんね」

 「ええっ?ラドンを攻撃するのに二個大隊じゃ足りねぇって言うのかい?」

 と、シンは、驚いた。

 「ゲイン大佐が率いる部隊はメルガドでも精鋭と言われてましてね、ガーリッシュ将軍は二個大隊でも足りないと判断したのでしょう」

 「へぇ…トラビス兄ちゃん、やるなぁ」

 と、シンは、妙に感心した。シン達は、ひたすら森の中を進んだ。昼食時にシーナが食べ過ぎ夕食分が無くなったのには閉口した。そして、夜になってもひたすら歩いた。

 「お腹空いたぁ~」

 と、シーナが文句を言い始めた。

 「馬鹿、お前が昼に食べ過ぎたからだろ」

 と、シンは言って取り合わない。ヴェルト少尉は、気の毒に思ったのか少し残っていたパンをシーナにあげた。シーナは、目を輝かせてヴェルト少尉に礼を言ってパンを食べた。

 「ああ、少尉、甘やかしちゃいけませんぜ」

 と、シンが言った時、大砲の音が聞こえ始め都の付近まで来ている事を知った。シン達は、そろそろ森を出ようかと話し慎重に都の入り口辺りまで進んだ。案の定、兵隊で一杯だった。

 「ああ、やっぱりここから入るのは無理だな…」

 「東側にも入り口があります、こちらにあれだけの兵がいるのなら東側は手薄なのでは?」

 と、ヴェルト少尉が言いシン達は、東側に回った。

 「ホントだ、何で?ああ、思い出した、こっちには大きな町はねぇもんな、小隊で守ってるのか…通してくれそうかな?」

 「さぁ、追い返されるでしょう」

 「何か理由を考えねぇとなぁ…まぁ何とかなるだろう、シーナいざとなったら変身してあいつら燃やしてやれ」

 シン達は、そっと東門に近付いた。門を守る兵士達が直ぐに三人に気付いた。

 「何の用だ?民間人だろ?」

 「はい、家に忘れ物を取りに行こうと思いまして」

 と、シンは、いかにも気の弱そうな素振りで話した。兵士達は、シン達を近くの村にでも避難して居た者と判断した。

 「よかろう、ただしお前一人で取りに行け後の二人はここに残れ」

 「ええっ?それは困りますよ旦那ぁ、二人が居ないと探せませんよ」

 「何ぃ?ではそこのお前行け、女は残れ」

 と、兵士はシーナをいやらしい目で見て言った。シンは、面倒臭くなったのか、ため息を吐き急に態度を変えた。

 「おい、俺達を行かせた後、この女に何をする気か知らねぇが止めといた方が良いぜ」

 「何だと貴様!もういっぺん言って見ろ」

 と、兵士達がシンに掴み掛ろうとした時、シーナが眩い光を放って龍に変身した。いきなり現れた龍に度肝どぎもを抜かれた兵士達は、悲鳴を上げ腰を抜かしたり慌てて逃げ散って行った。

 「この子はドラクーン人だ、この子に妙な事をすれば龍神カイエンの怒りを買いてめぇら皆殺しになるところだったなぁ、んじゃあな!あばよ!」

 と、この隙にシン達は、都に入った。シーナは、直ぐに変身を解いた。

 「追手が来ますぞ」

 「そうだな、急ごう」

 シン達は、城に向かって通りを駆け抜けた。幸い都に居る反乱軍のほとんどが、城の正面に集結していたので兵士に見つかる事がなかった。シン達は、城の裏門を目指した。城下は、ところどころ破壊されていた。破壊された家屋を見つつ進むと裏門付近に反乱軍が陣を張っているのが見えた。

 「ああ、やっぱりここにも居たか…う~ん困ったな」

 「しかし、ここまで無事に辿り着いたのが奇跡ですよクライン閣下」

 「ねぇシン兄ぃ、もう飛んじゃおうよ、ぼく早く何か食べたいし」

 と、シーナが空腹を訴えた。シンは、しばらく裏門の反乱軍を眺めて考えた。

 「よし、飛ぶか…トラビス兄ちゃんの紹介状もあるし、いきなり城ん中に入っても何とかなるだろう、シーナ頼んだぜ」

 「うん」

 と、シーナは、嬉しそうに龍の姿に変身してシンとヴェルト少尉を背中に乗せ飛び立った。裏門付近に陣を張っている反乱軍がいきなり現れた龍を見て驚いている。その様子をシン達は、上空から見て笑った。

 「な、何だあの龍は?城に入って行くぞ」

 と、反乱軍は、攻撃も出来ないままシン達が城に入って行くのを見ていた。城内でも大騒ぎになっていた。窓から見える龍の背中に人間が二人乗っている。与えられた部屋の窓からその姿を見たバーデン少尉は、直ぐにシン達だと気付きラファル大臣に会いに行った。

 「大臣、たった今、ドラクーン人が私の同僚とトランサーのクライン少将を乗せて空を飛んで来てます」

 「何ですと?」

 と、ラファル大臣は、窓から空を見上げた。確かに龍が空に浮いている。ラファル大臣は、窓からシン達を呼ばわった。

 「おーーーーい!こちらに!こちらに来て下さーーーい!」

 呼ばれている事に気付いたシン達は、声のする方へ降りていく。地上には、正規兵達が集まり空を見上げていた。

 「あなたがトランサーのクライン少将ですな、私はラファルと言います、とにかく一度地上に降りて下さい、おおーい!君達、この方たちは味方だ!手出しは一切無用だぞ!」

 と、ラファル大臣は、地上の正規兵達に言ってくれたのでシン達は、安心して地上に降り立つ事が出来た。正規兵達は、遠巻きにシン達を囲んだ。シーナが変身を解き正規兵達ににっこりと笑顔を見せた。

 

 

 

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