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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
176/206

ルーク達の結婚

 ルークは、病院の一室でマリアと過ごしていた。他人が見れば入院する夫の世話をする妻にしか見えないだろう。ステラとルーシーは、テランジンから余り見舞いに行かないで欲しいと頼まれていた。二人が理由を聞くとメタール家に嫁は欲しくないのかと言われ、二人は納得した。ステラもルーシーもマリアならルークの嫁にしても良いと思っていた。

 「母さんも姉さんも来ないなぁ、どうしたんだろ?」

 と、ベッドの上で半身を起こしながらルークが呟いた。マリアも不思議に思っていた。ルークが目覚めたその日、ステラとルーシーが屋敷からルークの着替えを持って来て、夕方になり三人で屋敷に帰った。その日の夜、テランジンが訪ねて来た事は、知っているがその時にテランジンが母と姉にルークとマリアの事を話したのだった。その事は、マリアは知らない。知らないが、マリアはルークと二人きりで過ごせる事に喜びを感じていた。キムズに殺されそうになった所をルークは、守ってくれた。それが元でルークは、ガルドに脇腹を刺され重傷を負った。

 「ルークさん、何か食べたい物はありますか?」

 「食べたい物?う~ん、医者は血を失ってるから肉をしっかり食べろって言ってたが俺は実はあまり肉が好きじゃなくてね、果物が食べたいな」

 「うふふ、じゃあ買って来ますね」

 「悪いね、マリアさんにそんな事までしてもらって、屋敷でゆっくり休んでもらって良いんだよ」

 と、ルークは言ったが、マリアは嬉しそうに果物を買いに部屋から出て行った。ルークは、マリアがトランサーで生きて行けるようとだけ考えていたが、まさか周囲の者がマリアと本気で結婚させようとしている事など考えもしなかった。

 城内では、サイモン元帥とルーシーを結婚させる計画をレン、ヨーゼフ、ディープ伯爵が話し合っていた。

 「ルーシー殿はサイモンをどう思っておるかですな」

 「左様、あの姉御はサイモンがただ稽古を付けてくれたと思っておるようです」

 と、ヨーゼフがテランジンやシンから聞いているルーシーの様子を話した。

 「こうなったら、お母さんに話してみる方が早いかもね」

 「そうですな若、では拙者、早速メタール屋敷に行き話しをして来ましょう」

 「頼んだよ、ヨーゼフ」

 ヨーゼフは、直ぐに貴族町にあるルークの屋敷に向かった。ヨーゼフの突然の来訪にステラとルーシーやルークの弟分達が大いに驚いた。

 「ご、ご隠居様」

 「やぁ、先日の敵討ちの儀、ご苦労でござった」

 と、ヨーゼフは、にこやかに言い、母御に話しがあると言い応接間でステラと二人きりで話す事にした。ステラは、何の話しだろうと不安気な顔をしていた。

 「母御殿、突然で驚かれるだろうが、今日はルーシー殿の事で参りました」

 「娘の?はぁ…まぁ娘と言う歳ではありませんがどうかしましたか?」

 「はい、実は…」

 と、ヨーゼフはサイモン元帥の事を話し出した。

 「まぁ、元帥閣下がルーシーの事を?おほほ、まぁあんな男勝りのどこが良いのやら…」

 「ふふふ、サイモンめ、ルーシー殿を知ってから仕事が手につかぬとか、いかがでござろう、一度母御殿からルーシー殿にお話ししてもらえんかのぅ」

 「はぁ…元帥閣下は本気なんでしょうか?あんな年増を」

 と、ステラはまだ半信半疑だった。

 「はい、本気でござる、我が義息子むすこやルークの兄弟分のシン・クラインが確認してござる」

 「ははぁ、では一度ルーシーに話してみます」

 「では良しなに」

 そう言ってヨーゼフは、屋敷を出た。ヨーゼフが帰った後、ルーシーがステラに一体何の用事で屋敷に来たのか聞いて驚いた。

 「あなたのお見合い話だよ」

 「ええっ?私の?冗談でしょ?」

 「私もそう思ったわ、でも本気だそうよ」

 「…で、相手は誰?私のような歳の女と見合いがしたいなんて、どうせ爺さんでしょ?」

 と、ルーシーがふて腐れて言うとステラが急に大真面目な顔をして答えた。

 「お相手はサイモン元帥閣下よ、閣下は相当あなたの事が気に入っておられるとか」

 「サ、サイモン元帥が?私を?」

 「そう、ルークやルークの兄貴分のテランジン様や兄弟分のシンさんが確認したそうよ」

 と、ステラに言われルーシーは、呆然としていた。この歳になって本気で自分に惚れてくれる男などもう居ないと思っていたし、自分も誰かに恋などしないと思っていたからだ。

 「ル、ルークに会って話しを聞かないと、お母さん病院に行って来るわ」

 ルーシーがルークの病室に行くとマリアだけが病室に居た。

 「ああ、お姉さん」

 「ルークは、ルークはどこ?」

 「ルークさんは今、お手洗いに…ああ、ルークさんお姉さんよ」

 と、丁度ルークが便所から帰って来た。

 「やぁ姉さん、あれ母さん…いてぇ!」

 と、ルークを見るなりルーシーがルークを引っ叩いた。ルーシーがルークをベッドの上に乱暴に座らせサイモン元帥の事を話し出した。

 「あんたはサイモン元帥が私に…そ、その私に惚れてるって知ってたのか?」

 と、怒り少し照れながらルーシーが言った。

 「な、何だよ今頃気付いたのか?あんなの誰が見たって姉さんに気があるって分かるぜ、なぁマリアさん」

 「はい、私もそう思いました」

 と、ルークとマリアに言われルーシーは、急に恥ずかしくなったのか誤魔化すためにまたルークを引っ叩いた。

 「痛いよ、それで何だよ?サイモンの兄貴に告白でもされたのか?」

 「ち、違う、さっき屋敷にロイヤーのご隠居が来てお母さんと話してたんだよ、わ、私にサイモン元帥とお見合いをしろって」

 「良かったじゃねぇか、他に男なんて居ないんだろ?」

 と、ルークに言われルーシーは、ムッとしたのかルークを睨み付けた。

 「まぁとにかくサイモンの兄貴は本気だ、姉さんも本気で考えて欲しい、頼むよ」

 と、ルークに言われルーシーは、何か思い詰めた様な顔をして病室から出て行った。ルークは、マリアに兄貴は、あんな女のどこが良いんだろうと話すとマリアは、にっこり微笑んで答えた。

 「ルークさん、人が人を好きになる理由なんて人それぞれですから、お姉さん、きっと満更でもないんですよ、うふふふ」

 ルークが入院して一週間が過ぎ、ルークの体力が完全に戻ったと言う事で退院する事になった。一週間ぶりに帰った我が屋敷では、退院祝いと称して弟分達が色々とご馳走を揃えていた。

 「兄貴、退院おめでとうございます」

 「なぁに言ってやがる、ろくに見舞いにも来なかったくせに…あれ?姉さんは?」

 と、ルークは姉ルーシーが居ない事に気付き言った。ステラが、クスクス笑いながら答えた。

 「うふふ、あの子、今日サイモン閣下とロイヤー屋敷でお見合いをしてるの、私も行こうと思ったんだけどねぇ、あなたが退院する日だからと一人で行くって言ってねぇ」

 「ふぅん、それで姉さんちゃんと女らしい格好で行ったのかい?」

 「それはもう、大丈夫よ」

 と、ステラが言った。ルークは、弟分達を見た。皆、大丈夫といった顔をしていた。その頃、ロイヤー屋敷では、ルーシーとサイモン元帥が向かい合って座っていた。どちらもうつ向き何か話そうとしているが、二人とも話し出せないでいる。そんな様子をヨーゼフ、テランジン、リリーが見ていた。

 「困ったのぅ、あの状態で小一時間は経つぞ」

 「そうですね、サイモンめ、あれだけ俺達に惚気のろけていたくせに」

 「あなた、何か二人の共通する話しでもないのかしら?」

 「ふむ、共通する話しなら敵討ちの事しかないだろう…良し」

 と、テランジンは、一人納得して敵討ちの時のルーシーの活躍などを話し出すとサイモン元帥は、やっと助け船が来たといった顔をして話し出した。サイモン元帥は、ヨーゼフ達が聞いていて全身がむず痒くなるほどルーシーを褒め称えた。ルーシーは、何も言わずただ顔を少し赤らめて聞いている。散々、褒め称えたサイモン元帥は、意を決して言った。

 「ルルル、ルーシー殿、わ、私はあなたを知ってから仕事も手につかずあなたの事ばかり考えている…も、もしも、あなたに好きな男が居なければ…わわ、私と結婚を前提にお付き合い願いたい」

 ルーシーは、驚いた顔をしてうつ向いた。そして、沈黙が続いた。この場に居たヨーゼフ、テランジン、リリーは、ハラハラしながら見守っていた。やがてルーシーが重い口を開いた。

 「私のような年増で本当に元帥閣下はよろしいのですか?私は、ルークが居なくなり母と二人でメタルニアに移住した頃から女を捨てて今までやって来ました、はっきり言って家事は苦手です、今日こんなひらひらした服を着るのも久しぶりでどうやって着るのか分からなかったくらいです…こんな私でも後悔しませんか?」

 と、ルーシーは、少し悲し気に言った。確かに今日は、見合いのために慣れぬ化粧を施し、慣れぬ服を着ているルーシーにどことなく違和感をヨーゼフ達は感じていたが、サイモン元帥にはその姿がかえって健気に見えたのだろう。自分のために慣れない事をしている事に感動を覚えていた。

 「そ、そんな後悔など…お願いです、ルーシー殿、私はあなたの様な人でないと駄目なんです、その…何と言うか…お気の…」

 と、言いかけてサイモン元帥は、ハッとした。見合い前にテランジンやリリーからルーシーに「気が強い」とか「男勝り」などルーシー本人に絶対に言ってはいけないと釘を刺されていたからだ。

 「と、とにかく私はあなたの様な力強く凛々しいひとが好きなんです」

 そう言うとサイモン元帥は顔を真っ赤にした。テランジンは、笑いそうになるのを必死に堪えていた。ヨーゼフは、頃合いだと見込みルーシーに言った。

 「ああ、ルーシー殿、どうかな?サイモンは本気でござる、お付き合いなどと申しておりますが、貴殿をサイモン家の嫁にと考えてござる、サイモンほどの男はそう世間にはおりませんぞ、ルークの事で色々と苦労された分、今度は自分の幸せを考えるべきです、サイモンとなら良い家庭を築けましょう」

 と、ヨーゼフの言葉にルーシーは、突然泣き出した。リリーが慌ててルーシーの肩を抱くようにして理由を聞くと子供の様に泣き話し始めた。

 「まさか…まさか、自分が他家に嫁ぐことが出来るとは思いもしなかったから…ごめんなさい、嬉しいんですけど、なぜか申し訳なくて…私のような女よりもっと閣下には相応しい女が居るはずなのに」

 「な、何を言うのです、私はあなたでないと駄目なんです」

 「サイモン、ルーシー殿と庭を散歩して来い」

 と、ヨーゼフが二人きりになれるよう仕向けた。サイモン元帥は、何か吹っ切れたのかルーシーをやや強引に庭へと連れて行った。ロイヤー家の庭は広い。ヨーゼフ達は、二人が庭に現れるのを二階の窓から見ていた。

 「何を話してるんだろう?ルーシー殿が急に女っぽく見えて来たな」

 「ふむ、サイモンめ、上手く口説いておるようじゃな、けっこう、けっこう」

 「ルーシーさんは女を捨ててなんかいないわ、うふふ、この縁談きっと上手くいくわ」

 その頃、ステラが息子ルークにマリアを嫁にしろと言っていた。余り見舞いに行かなかったのは、マリアと二人きりになれるようテランジンから言われていたと話した。

 「そうだったのか…兄貴達も一回しか見舞いに来なかったもんな…うん、実は母さん俺もマリアさんを嫁にしたいと思ってたんだ、でもマリアさんが俺みたいなのを受け入れてくれるかどうか…」

 「この屋敷で一緒に住もうって言ったらマリアさん、泣いて喜んだんだろ?マリアさんもあなたの事が好きなんじゃないかい?」

 「いやぁ分からないよ、マリアさん去年母親が亡くなって一人きりだったから、寂しかっただけかも知んねぇしなぁ」

 と、ルークは遠い目をして言った。下手な事を言っては、マリアが屋敷を出て行くかも知れない。この時、マリアは部屋を掃除して回っていた。

 「姉さんと違って家事もちゃんと出来る子だしねぇ、母さんあんな子をあなたのお嫁さんにしたいわ」

 「…うん、まぁね」

 と、親子で話しているとルーシーが帰って来た。何か思い詰めた様な顔をしている。サイモン元帥との縁談話が上手く行かなかったのかと心配したが、そうではなかった。

 「私、サイモンさんと婚約した」

 「ええっ?もう婚約したのか姉さん」

 ロイヤー家の庭を散歩中、サイモン元帥の歯の浮くような愛の言葉を聞いてその気になったルーシーであった。

 「サイモンさん…いやダンテがあんなに私の事を想ってくれているなんて」

 と、今まで見た事の無い表情をしてルーシーが言った。そんな時、マリアが部屋の掃除を終え皆の前にやって来た。

 「お母さん、お部屋の掃除が終わりました、お姉さん、お帰りなさい」

 「マリアさん、聞いてくれ姉さんがサイモンの兄貴と婚約したよ」

 「ええっ?本当ですか?おめでとうございます」

 と、マリアは自分の事の様に喜んだ。

 「ありがとう、マリアさん、ルーク、あんたも早くマリアさんを嫁にしな」

 と、ルーシーが何も考えずに言った言葉が切っ掛けとなり、ステラは意を決してマリアに言った。

 「マリアさん、良かったらルークのお嫁さんになってくれないかい?わたしゃねぇ、これは亡き夫カークとあなたのお父さん、ローエンさんのお導きだと思ってるんだよ」

 「ちょ、ちょっと、母さん」

 と、母ステラの言葉にルークは、慌てたが、マリアは慌てる事無くむしろその言葉を待っていたようだった。

 「はい、実は私もお母さんと同じ事を考えてました、ルークさん、私をメタール家の嫁にして下さい」

 と、マリアは真っ直ぐルークを見て言った。ルークも見つめ返した。今、目の前に居るマリアは、初めて見た時のあのいかにも病弱そうで不幸そうなマリアではない。明るく健康で美しいマリアがそこに居る。

 「マリアさん、母さん、俺も今さらながらそう思えて来たよ、マリアさん、俺の嫁になってくれ」

 「はい」

 と、ルークとマリアは、手を取り合った。そんな姿をステラは、涙を流して喜んだ。ルーシーは、自分の事で頭が一杯なのか、夢を見ている様な顔をして見ていた。

 この日の夜、ルークは、大衆酒場兼食堂「青い鳥」に行った。テランジン、シン、ジャンが先に来ていて飲んでいてルークを見るなり直ぐにルーシーの話しになった。

 「よう、姉さんの婚約おめでとう」

 「はい、兄貴、世話になりました、姉さんもやっと自分の幸せを掴める事となりました」

 「ところで、お前の方はどうか?」

 と、テランジンに言われルークは、照れ臭そうにしながら答えた。

 「俺もマリアさんと結婚する事になった」

 「良かったじゃねぇかあにぃ、おめでとう」

 と、シンとジャンは、大喜びしテランジンは、一人うんうん頷いていた。婚約や結婚と聞き店主のオヤジがお祝いだと言ってルークに今日は、好きなだけ飲んでけと言った。

 「お前達はちゃんとお代は貰うからな」

 と、テランジン、シン、ジャンに言い店の奥に引っ込んだ。

 「明日、陛下に報告に上がろうと思ってるんだ」

 「うむ、サイモンも明日登城する、一緒に報告しろ」

 と、テランジンは、にこやかに言った。そして、この日の夜は、前祝いと称して店に来る常連客も交えて宴会のようになった。

 翌朝、ルークは、サイモン元帥と共に登城し婚約、結婚の事をレンとエレナに報告した。レンもエレナも大喜びした。そして、結婚式は、一ヶ月後に海軍の講堂でシンとライラを加えた三組で行う事にした。ルークとサイモン元帥が帰った後、レンは、直ぐにジャンパールのマルスやランドールのラーズに連絡した。二人も自分の事の様に喜んでくれ、結婚式には、必ず参加すると言った。そして、月日は、あっという間に過ぎ結婚式前日となった。トランサーの港にマルス、カレン夫妻、コノハ、ラーズ、ユリヤ夫妻の姿があった。

 「ああ、風が気持ちいい、皆元気にしてるかなぁ?」

 と、マルスの妹コノハが海風を受けながら言った。城からの迎えの魔導車に乗り込み五人は、登城した。五人は、謁見の間ではなくレンとエレナの私室の招かれた。

 「やぁ、国王陛下、ご機縁麗しゅう」

 と、マルスがわざとらしい宮廷の挨拶をした。レンは、思わず噴き出した。

 「ふふ、そんな事しなくたって良いよ、皆元気そうで何よりだよ、明日うちの海軍本部の講堂でルーク達の結婚式をやるからね」

 「ああ、ところでルーク達は?」

 と、ラースが聞くと明日の結婚式に備えて軍務は、休ませてあるとレンが答えた。

 「私はルークさんのお姉さんがどんな人かとても気になって、今もやっぱり男勝りなの?」

 と、コノハが兄マルスがレンから聞いた話しをした。レンは、少し誇張されてるなと思いながらそうだと答えた。

 「でもあれから一ヶ月経って随分変わったそうだよ、相変わらずルークには厳しいようだけど」

 「へぇ~どんな人だろ?早く見たいなぁ」

 その頃、明日のために屋敷でのんびり過ごしていたルーク達にマルス夫妻やラーズ夫妻が式に出席すると伝えられて、ステラ、ルーシー、マリアが大いに驚いていた。

 「私達の結婚式に何でジャンパールの皇族やランドールの王族が来るの?」

 「ルークどうしてそんな偉いお人が?」

 「あははは、そりゃ来てくれるだろうぜ、まぁ同じ釜の飯を食った仲間と言うかね、まぁ、ありがたい事さ」

 と、言うルークをステラとルーシーは、不思議な物を見るような目で見ていた。マリアは、自分の夫になる人がただの海賊上がりでない事を改めて知った。

 結婚式、当日の朝、海軍本部にある講堂には、既に祭壇が設けられていて、式部大臣であるラストロが軍人や自分の部下である役人を使いあれやこれやと指示を出していた。

 「うむ、完璧だ、ホーリッシュ大司教よろしくお願いしますぞ」

 と、ラストロは、既に講堂に姿を見せている大司教に言うとにこやかに頷き言った。

 「しかし、三組同時とは面白いですなぁ、こんな事は初めてですよ、あはははは」

 軍港では、祝砲が撃たれていた。レン達が講堂に現れるとラストロは、座る席を伝えそこに座らせた。今日の主役であるルーク、シン、サイモン元帥は、自分達の妻となるマリア、ライラそしてルーシーの花嫁姿を見て感動していた。

 「マリアさん、とても綺麗だよ」

 「ライラ、お前は何を着ても可愛いなぁ、カツの野郎に見せたかったぜ」

 「はぁ…ルーシー殿、やはり私が思った通り素敵だよ」

 と、ルーク達は、自分達の妻に大満足していた。しばらくしてラストロからそろそろ式を始めたいと言って来てルーク達に緊張が走った。司会進行役のジャン・ギムレットの呼びかけでルーク達三組が講堂に姿を見せた。講堂に集まったレン達や海軍陸軍の将兵達から大歓声が沸き起こった。親族席に居たステラやライラの両親、サイモン元帥の母が目に涙を浮かべ見ている。ルーク達は、真っ直ぐに祭壇に向かう。祭壇前には、ホーリッシュ大司教が弟子に盃を三つ載せた銀の盆を持たせ立っている。ルーク達は、ホーリッシュ大司教の前に進み出て一礼した。

 「これより結婚の儀を行います、まずは祭壇に祈りを捧げて下さい」

 ルーク達は、言われた通り祭壇に向かって祈りを捧げた。ホーリッシュ大司教が三組を見て厳かに言う。

 「汝らは、今からこの神の御前にて宣言をする事になる、良いですか?」

 ルーク達は、声を揃えて返事をした。

 「では、ルーク・メタール、そなたはマリア・アドマイヤを生涯の妻とする事をこの神の御前にて誓いますか?マリア・アドマイヤ、そなたはルーク・メタールを生涯の夫とする事を誓いますか?」

 「はい、誓います」

 と、ルーク、マリアは声を揃えて答えた。そして、ホーリッシュ大司教は、シン、ライラ、サイモン元帥、ルーシーに同じ事を聞き同じ返事を受けた。ホーリッシュ大司教は、大きく頷き弟子から銀の盆に載った盃をルーク達に手渡し、祭壇に供えられた酒瓶を持ちそれぞれに注いでいった。

 「その盃に注いだ聖酒を二人で交互に飲み干して下さい」

 ルーク達は、静かに聖酒を飲み干した。

 「おお、ここに新たな三組の夫婦が誕生しました、皆さんどうか拍手を!」

 と、ホーリッシュ大司教が言うと皆、惜しみなく拍手をルーク達に送った。軍港では、祝砲がこれでもかと言わんばかりに撃たれている。司会進行役のジャンが式が終わり今から披露宴を行うと言いルーク達は、一旦講堂を出る事になった。ラストロがテーブルなどを並べるよう指示を出し豪華な料理が運ばれた来た。

 「おめでとうございます」

 と、レンとエレナが親族席に座るステラ達の前に行った。ステラ達は、直接国王に声を掛けられ大慌てで席から立ち上がった。ステラは、一度ヨーゼフに連れられ登城した際、レンに会っているので大した緊張感は無かったが、ライラの両親とサイモン元帥の母は、震えていた。レンは、ルーク達がどれほど自分のために働いてくれているか話した。ザマロから国を奪還する際、当時大尉だったサイモンが首領となり命懸けで反ザマロ派を結成して内部からザマロ政権を崩してくれた事やルーク、シンが快く自分に従ってくれなければトランサーに帰る事は出来なかったと話した。

 「あの当時、息子が反乱軍を結成しているとは知っていましたが…そんなにお役に立てたのですか」

 と、サイモン元帥の母が今さらながら感心していた。

 「おい、母さんライラは良い婿を手に入れたなぁ、こりゃあ自慢出来るぞ、ははは」

 「そうねぇ、ライラにはもったいない婿だわ」

 と、ライラの両親が言い、ルークの母ステラは、息子が褒め称えられ照れ臭そうにしていた。しばらくレンとエレナは、ステラ達と話しているとお色直しを済ませたルーク達が講堂にやって来て披露宴が始まった。最初は、置物の様に座っていたルーク達だったが、元海賊の士官達でルークやシンの兄弟分達が海賊流の宴会を始めたのが切っ掛けでルーク、シンは、居ても立っても居られず騒ぎに参加した。テランジンもこの時ばかりはと元の海賊のかしらに戻ったようになった。サイモン元帥とルーシーだけは、もう二人の世界に浸っているようで終始、傍を離れようとはしなかった。マルス達は、ルーシーが話しで聞くような気が強く男勝りな女でない事を残念がった。

 「何だよ、普通じゃねぇか」

 「ずっとサイモンさんの傍を離れようとはしないなぁ」

 と、マルスとラーズが話しているとサイモン元帥とルーシーにルークが近付き何か言ったのが見えた。その瞬間、ルーシーに殴られるルークをはっきりと見た。ルークが這う這うの体で宴会に戻って行った。

 「ルークの奴、何を言ったんだろ?」

 「なるほど…ありゃあ確かに気が強いな」

 マルスとラーズは、ルークに何で殴られたのか聞きに行った。

 「こっち来て皆で飲んで騒ごうと言っただけなんですよ、そしたらお前達の下品な騒ぎに参加出来るかって言われて殴られやした、全くサイモンの兄貴もあんな女のどこが良いのか、理解出来ませんよ」

 「たったそれだけで?恐ろしい姉さんだな」

 と、ラーズは、チラッとルーシーを見た。熱っぽい目でサイモン元帥を見つめていた。そこでジャンが、マルスとラーズにお祝いの言葉が欲しいと言って来たのでマルスとラーズは、壇上に上がりルーク達に祝辞を述べた。ルーク、シンは、神妙に聞いていたがサイモン元帥には、聞こえていないのかずっとルーシーと見つめ合っていた。こうして披露宴は、夜更けまで続いた。

 翌朝、レン達に礼を言うためルーク、シン、サイモン元帥が登城した。サイモン元帥は、マルスとラーズに散々冷やかされ顔を真っ赤にしていた。そんなサイモン元帥を見てクスリと笑いながらレンは、ルーク達に新婚旅行は、どこに行くのか聞いた。

 「はい、陛下、テラン兄貴と同じ行き先に決めました」

 「ふぅん、じゃあ最初はうちだな」

 と、マルスが言った。ルークは、ジャンパールからドラクーンに行き最後にランドールに行くと話した。

 「俺はドラクーンからメルガドに行きランドールに行きます」

 と、シンが言った。メルガドはシンとカンドラ達に殺されたカツの生まれ故郷である。カツは、メルガドに立ち寄り自分の家族やカツの家族を探してみようと考えていた。

 「家族が見つかると良いね」

 「はい、でも余り期待はしていません」

 と、シンは少し寂しそうに言った。

 「シン、メルガドに着いたらランドールに連絡をくれ、協力するよ」

 「ありがとうございます、ラーズ兄ぃ」

 「シンさん、きっと見つかるわよ」

 と、エレナが優しく言うとシンが目を潤ませ礼を言った。サイモン元帥は、途中までルーク達と同じ行き先だが、最後にメタルニアに行き、ルーシーとステラが住んでいた借家を引き払って来る話した。そして、出発は三日後だと話し城を辞して行った。

 「三日後か、んじゃあ俺達も三日後に帰るか、なぁカレン、コノハ」

 「はい」

 「え~もう帰っちゃうの~私はもう少しお姉ちゃんと居たいなぁ」

 と、コノハが残念がったがマルスは、駄目だと言った。ラーズとユリヤは、もう少し残ると言った。そして、あっという間に三日が経ちルーク達は、新婚旅行に行くため港に居た。

 「とりあえず、皆はうちの高速艇で行くよ、レン、エレナ近いうちにまた会おう」

 「うん、気を付けてね」

 「ルーク、シン、サイモン、軍務の事は忘れて楽しんで来いよ、カイエン達によろしくな」

 「はい、兄貴、では陛下、エレナ様、行って来ます」

 「ラーズ殿下、ランドールでお会いしましょう、では」

 と、ルーク達は、ジャンパール海軍の高速艇に乗り込んで行った。最後にマルス、カレン、コノハが乗り込み高速艇は、ゆっくりと岸壁を離れて行った。レン達は、高速艇が見えなくなるまで見送った。

 

 

 


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