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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
175/206

敵討ちが結ぶ縁

 ルーク達のかたき討ち前日となり、トランサー国内は、大いに盛り上がっていた。国民達は当然、ルーク達が見事父親の敵であるガルド達を討ち取ると信じて止まない。町中、敵討ちの話しで一杯だった。そんな中、朝早くからルーク達は、一生懸命稽古に励んでいた。

 「さぁ姉さん、マリアさん、今日が最終日だよ、今までやった事をおさらいしよう、サイモン元帥お願いします」

 と、ルークは、稽古に協力してくれているサイモン元帥に言った。サイモン元帥は、まず基本的な事から実演して見せた。そして、相手が槍を使うと言う事で自分が知っている限りの事をルーシーとマリアに話した。

 「必ず間合いの内側に入るのです、そうすれば相手は必ず距離を取ろうと下がるか、槍の柄ですくいあげる様に攻撃を仕掛けて来るでしょう、その動きに注意して斬りかかって下さい、隙は必ずあります」

 と、サイモン元帥は、言いルークに槍を持たせて実演して見せた。ルーシーとマリアは、真剣にそれを見た。そして、ルークとサイモン元帥は、練習用の槍を持ちルーシーとマリアに稽古をつけた。

 「明日、やっとお父さんの敵が討てる…サイモン元帥見ていて下さい、私は絶対にあの連中を皆殺しにしてみせます」

 と、ルーシーが恐ろしい事を言ったが、サイモン元帥はそんな彼女の気の強さに益々惚れこんだ。

 「姉上殿なら必ず討ち取れますよ」

 ルークは、マリアを相手に横目でちらちらと姉とサイモン元帥を観察している。

 (ああ、サイモン元帥やっぱり本気なんだな…皆殺しにしてやるとか言う女のどこが良いのやら)

 ルークは、昼になったのに気付き食事休憩を取ろうと言った。ルークの母ステラが作ってくれた弁当を食べながら皆で明日の事を話し合った。

 「ルーク、あんたに頼みがある、ガルドは皆で討ち取りたいから、あいつを死なない程度に痛めつけておくれ」

 と、突然ルーシーが言った。ルークは、困ったような顔をして答えた。

 「難しい事言うなぁ姉さん…俺はさっさと片付けて姉さん達に加勢したいんだが」

 「私達は私達で何とかする、ガルドとイルミ以外は大した事ないんだろう?だったら私達が他の三人を討ち取りあんたに加勢する」

 「いやいや、実際に戦えるのは姉さんとマリアさんだけだぜ、母さんは多分何も出来ないよ、稽古にだって来てないんだし、二対三になるんだぞ」

 「ルークさん、私達の事は心配しないで下さい、この三日間やるだけの事はやって来ました」

 と、マリアまで言い出した。ルークは、青い鳥で初めてマリアを見かけた時の事を思い出していた。あの時は、どこか暗くんでいる印象だったが、今、目の前に居るマリアは、健康を取り戻しはつらつとした美しさをたたえている。ルークは、言い知れぬ感動を覚えた。

 「分かりました、マリアさん、でも無理はしないで下さい」

 と、ルークは言った。サイモン元帥は、ルーシーに何かあっては困ると思い、やはり自分が助っ人に入ろうかと言ったがルーシーが断った。

 「いいえ、サイモン元帥、これは私達の問題です、どうか静かに見守っていて下さい」

 「ははぁ…ですが、あなたにもしもの事が…ああ、いえ、な、何でも無いんです、ははは、ル、ルークしっかり姉さん達を守るんだぞ」

 サイモン元帥の妙な慌てっぷりを見てルーシーは、不思議に思ったが何も言わなかった。

 (く~全く何て鈍いんだ姉さんは!サイモン兄貴は姉さんの事が好きなんだぞ、いい加減気付いてやれよ、姉さんさえ良ければ助っ人の申し出を受けても良いんだ)

 ルークは、姉を歯痒い気持ちで見ていた。そんな頃、ガルド達も食事休憩を取っていて明日の事を話し合っていた。

 「とにかくお前達は、女共を殺せ、ルークはわしとイルミで何とかする、女共を片付け次第わしらに加勢しろ、良いな」

 と、ガルドがキムズ、パング、ジヨンに言った。三人は、顔を強張らせて頷いた。

 「し、しかしこんなので刺したら痛いんだろうな…」

 「何を言っている、当たり前だ」

 「今さらながら俺に出来るかな?」

 「やらなきゃわしらが殺されるんだぞ、何が何でも返り討ちを成功させてこの国から出るんだ、良いな」

 と、ガルドに言われキムズ、パング、ジヨンは、困ったような顔をして頷いた。そして、それぞれが最後の稽古に励んだ。


 敵討ち当日の朝がやって来た。公式の敵討ちと言う事もあり刑場には、ティアック家の紋章が描かれた横断幕が張られ、そこに見届け人として国王レオニールやその側近達が居る事が集まった国民達に知らされた。

 「陛下も今日の敵討ちをご覧になられるのか…」

 「当たり前だろう、メタール中将が海賊時代からご縁があるんだぞ」

 「まぁこの勝負、メタール中将だけで終わるんじゃないか?他の人達は形だけってとこだろうな」

 と、国民達が口々に話す中、ルーク達が姿を現した。刑場に集まった国民達から歓声が沸いた。横断幕の内側に居たジャスティ大臣とラストロが迎える。二人は、ルーク達に何か言いレンの前まで連れて行った。

 「ルーク、くれぐれもガルドには気を付けるんだよ、母上方も決して無理はしないで下さい、助っ人を望まれるのなら今からでも間に合います」

 と、レンが言うとルーシーが毅然とした態度で丁重に断った。凛とした美しさがあった。同じく横断幕の内側に居たサイモン元帥は、その姿をいとおしく見つめていた。そんなサイモン元帥を隣に居たテランジンとシンが笑いそうになりながら見ている。そして、ガルド達がそれぞれ手に槍や剣を持ち役人に連れられて刑場にやって来た。この瞬間、国民達から怒号が鳴り響いた。

 「この野郎!さっさと討たれちまえ!」

 「てめえら、生きて帰れると思うなよ!」

 気の弱いキムズは、既に戦意を失っている様子だった。

 「しっかりしろ、キムズ、あの連中は我々に手出しは出来ん」

 と、ガルドが励ました。国民達の怒号が鳴りやまないのでジャスティ大臣は、レンの身辺を警護する近衛師団長のフリード・ライゼン大将に国民達を静かにさせろと言った。ライゼン大将は、部下達に同じ事を命じ国民達を静かにさせた。

 「閣下、敵討ちなど久しぶりですな」

 と、ライゼン大将がかつて上司だったヨーゼフに小声で嬉しそうに言った。

 「これ、フリード、喜んどる場合じゃないぞ」

 と、ヨーゼフが苦笑いしながら答えた。頃合いと見て、ジャスティ大臣がレンに目配せしてルーク達、ガルド達を刑場中央に連れて行った。

 「え~これより、メタール家、アドマイヤ家の敵討ちを行う」

 と、ジャスティ大臣が大声で言うとまた国民から大歓声が沸き起こった。歓声が止むのを待ちジャスティ大臣がルークに問うた。

 「討ち手側代表、ルーク・メタール殿に問う、もしも返り討ちに遭っても後悔はせんか?それと今なら助っ人を入れる事も可能だが」

 「はい、後悔はしません、それと助っ人は要りません」

 と、ルークは真っ直ぐジャスティ大臣を見て言った。ジャスティ大臣は、ルークの強い意志を感じた。

 「あい、分かった、ではこれより始める、一同整列…」

 「お待ちを大臣」

 と、ガルドが不意にジャスティ大臣に言った。

 「何か?今さら命乞いか?」

 「さにあらず、確認したい、返り討ちに成功すれば本当に無罪放免してもらえるのでしょうな?そして、一年間は追っ手を差し向けないと」

 「うむ、公式の敵討ちである、その事は約束する」

 と、ジャスティ大臣は、馬鹿馬鹿しいといった顔をして答えた。

 「それを聞いて安心した、では始めて下され」

 と、ガルドはニヤリと笑った。その顔を見たルーシーが今に飛び掛からんとしたが、ルークが止めた。そして、ジャスティ大臣の掛け声でルーク達の敵討ちが始まった。案の定、キムズ、パング、ジヨンがステラ、ルーシーとマリアに襲い掛かった。ルークは、ルーシー達の前に立ちはだかった。

 「どこを見ている!お前の相手はわしらだ!それっ!」

 と、横合いからガルドが激しく槍を突き入れて来た。ルークは、それを紙一重でかわしたが、今度は間髪入れずイルミが斬りかかって来る。ルークは、徐々にルーシーから遠ざけられていた。

 「ルークッ!私達の事は気にしなくて良い!そこのジジイ二人を相手にしなさい」

 と、ルーシーが剣を構え叫んだ。

 「フフフ、頼もしい姉だな」

 「ああ、頼もしい姉だよ、おらぁぁぁ!」

 と、ルークも激しく攻撃に出た。その攻撃をガルドは、巧みな槍さばきで防ぐ。ルーシーとマリアは、キムズ、パング、ジヨンの攻撃を必死に防いでいた。母ステラは、少し離れた場所で剣を持ち震えていた。

 「ああ…やっぱり私には出来ない…ごめんね、ルーシー、ルーク」

 「きゃぁっ!」

 と、ルーシーがジヨンの繰り出して来た槍を受け損ね、太ももを突かれた。紺色のズボンが血を吸いさらに色濃くなった。サイモン元帥が今にも飛び出さんとしたが、テランジンとシンが止めた。

 「何じゃサイモンの奴」

 と、ヨーゼフがサイモン元帥の取り乱しぶりを不思議に思った。そこでレンは、サイモン元帥がルーシーに惚れている事を話した。

 「何と…左様でござったか、な~る、それは取り乱しますな、あははは」

 と、ヨーゼフは、満足気にサイモン元帥を見た。敵討ちが無事に終わればルーシーにサイモン元帥との縁談話を持ち掛けようと思った。太ももを突かれたルーシーの闘争本能に完全に火が付いた。ルーシーは、痛みを忘れて激しくジヨンに斬りかかった。間合いを詰められたジヨンは、間合いを取ろうと下がるが直ぐに詰め寄られ胸元からバッサリとルーシーに斬られた。

 「ぎゃぁぁぁぁ!」

 ジヨンが仰向けに倒れた所をルーシーが止めに首を刺した。この瞬間、刑場に集まった国民達から大歓声が起こった。

 「一人目…」

 と、ルーシーは呟くと残るキムズ、パングを睨み付けた。二人は、震え上がっていたが仲間がやられた事で覚悟が決まったのか、先ほどよりさらに激しく攻撃を仕掛けて来た。

 「こここ、殺されてたまるか!」

 「い、生きてこの国から出るんだ!」

 ガルドとイルミを相手するルークは、姉の働きを大いに喜んだ。これでルーシーとマリアは、一対一で戦える。

 「ふん、一人殺ったくらいで良い気になりおって、わしもそろそろ本気を出すか」

 ガルドは、そう言うと槍を頭上で数回、回転させ槍先をルークに向けた。

 「ガルドさん、さっさと殺っちまおう、キムズとパングが押されている」

 と、イルミが素早くルークの後ろに回り込み言った。挟み撃ちにしようとしている。ルークは、落ち着いていた。

 「ふん、俺の姉さんを甘く見ない方が良いぜ」

 と、ルークは不敵な笑みを見せガルドに言った。隙ありと見たのかイルミが斬りかかって来た。ルークは、攻撃を弾き返し反撃しようとすると今度は、ガルドが激しく槍を突き入れて来る。

 「そりゃそりゃそりゃ、どうだ!手も足も出んかぁ!」

 「ふん、こんなもんイビルニア人に比べたらどうと言う事は無い!」

 と、ルークは余裕で二人の攻撃を防ぎかわしている。その時、マリアがパングを討ち取った。パングの悲鳴が刑場に響いた。

 「パ、パング!」

 「マリアさん、早く止めを」

 「はい」

 と、マリアは倒れ込んだパングの首を剣で突き刺し止めを刺した。それを見たキムズは、気が動転してやたらめったら槍を振り回した。

 「ひ、ひぃぃぃ~く、来るなぁ!」

 ルーシーとマリアがキムズに襲い掛かる。ガルドは、イルミにキムズに加勢しろと言った。

 「ここは俺が何とかする、お前はキムズの加勢を頼む」

 イルミが奇声を上げルーシー達とキムズの間に割って入って行った。

 「野郎!」

 「お前の相手はわしだ!」

 と、ルークの行く手をガルドが阻む。それでもルークは、何とか姉達の加勢に向かおうとする。イルミが来た事で形勢が一気に逆転した。ルーシーとマリアが押されて来た。二人とも深手ではないが身体中あちこち斬られた。

 「ハハハ、女の癖に生意気に剣など持ちおって!後悔させてやる、おらぁぁぁ!」

 「あの野郎、調子に乗りやがって!」

 と、見届け人席からサイモン元帥が今にも飛び出しそうな勢いで言った。傍でテランジンとシンが冷静に見ていた。

 「サイモン、ルーク達を信じろ」

 「し、しかし…」

 サイモン元帥は、何も出来ないもどかしさを大声で応援する事で紛らわせた。

 「ルーシー殿!稽古を!稽古を思い出すのです!あなたは強い!」

 サイモン元帥の言葉が聞こえているのかいないのか分からないが、ルーシーは、イルミの攻撃を全て防いだ。たった三日、剣術を稽古しただけの腕とは思われないほどだった。

 「この三日間、お前達を殺すために私は必死で稽古したんだ、はぁはぁはぁ…」

 「ううむ、女の癖に…キムズッ!いつまで遊んでいる、さっさとアドマイヤを片付けんか!」

 と、イルミは、ルーシーから目を離さず怒鳴った。キムズにあちこち槍で突かれながらもマリアは必死で戦っている。

 「私は負けない、父の敵を絶対に討ち取る」

 「そうよ、マリアさん、この連中は必ず私達の手で討ち取るのよ」

 ルーシーとマリアは、猛然と斬りかかった。ルーシーとイルミが鍔迫り合いになりマリアは、キムズとの距離を一気に詰め勝負に出た。キムズの突きをかわしたマリアは、剣を斜め下から突き上げる様にしてキムズの首を斬った。血が勢いよく出たが、致命傷には至らずキムズが訳の分からない事を叫びながらマリアに襲い掛かる。マリアが押し倒され仰向けになった。

 「マリアさん!」

 と、ルークが思わずマリアに気を取られた所にガルドの槍が容赦なくルークの左腕を襲った。

 「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 「どこを見ている、お前の相手はわしだ!」

 「て、てめぇ…」

 ルークは、さらに襲って来る槍を引っ掴むと一気にガルドとの距離を縮めガルドを思い切り蹴り飛ばした。そして、マリアを助けようと駆けた。キムズの突きを必死になって避けていたマリアも体力の消耗が激しく避け切れず、とうとう太ももを深く刺されてしまった。

 「きゃぁぁぁ!」

 「ふ、ふふふ…止めだぁ!」

 キムズがマリアに槍を突き入れようと構えた時、ルークが剣をキムズに投げた。

 「ぎゃぁぁぁぁ!」

 剣は、見事にキムズの首に刺さり絶命した。ルークは、マリアに駆け寄り半身を起こした。

 「マリアさん大丈夫ですか?」

 「ありがとうございます、ルークさん腕が」

 「ああ、こんなもん何でもないです…ううおぉぉぉぉ…ぐ、ぐぅぅぅぅ」

 と、突然ルークが苦しみ出した。ステラの悲鳴が刑場に響く。レン達は、思わず椅子から立ち上がった。先ほどルークに蹴り飛ばされ、もがき苦しんでいたガルドがルークの脇腹に槍を突き入れていた。

 「く、くふふふ、さっきの蹴りは効いたぞルーク、しかし油断したなぁ」

 「う、うぅぅぅ…」 

 「ル、ルークさん」

 「ルーク!」

 ルーシーは、ルークの姿を見てさらに闘争本能に火が付いたようで、イルミとの鍔迫り合いを制し猛然と斬りかかった。

 「ふん、男女め、ルークよ、わしはお前達を返り討ちこの国から出る、そしてお前達の考えが及ばぬところで平和に暮らすよ、さぁ止めを刺してやろう」

 ガルドは、ゆっくりとルークの脇腹に刺さった槍先を引き抜き身構えた。ルークは、その場に倒れ込んだ。刑場に集まった国民達からも悲鳴や怒号が聞こえた。ルークに半身を起こされたマリアが呆然とルークを見ている。

 「ル、ルークさん…し、しっかりして、ルークさん」

 「う、うぅぅぅ…ち、ちくしょう…」

 と、ルークは、何とか身を起こし立ち上がろうとした。見届け人席では、レン達も必死になってルークを応援している。本当なら直ぐにでも助けに行きたいが公式の敵討ちなので手が出せなかった。

 「あの馬鹿何やってるんだ!、ルークッ!しっかりしろ」

 「頑張れルーク!」

 「フフフ、さぁ終わりだルーク」

 と、ガルドが槍を突き切れようとした。マリアは、ルークに覆いかぶさった。その瞬間、ガルドの悲鳴が刑場に鳴り響いたのだった。マリアは、恐る恐るガルドを見た。すると震え上がっていたルーク、ルーシーの母ステラがガルドの腹に深々と剣を突き刺していた。

 「もう、これ以上私からなにも奪わないで!」

 ガルドの姿を見たイルミが動揺した。その一瞬の隙をルーシーは、見逃さない。イルミの剣を叩き払うと一気に首を刎ねた。首が勢いよく飛び地面に転がった。

 「お見事!」

 と、サイモン元帥が思わず叫んだ。レン達は、ホッとしたのか椅子にへたり込んだ。

 「ふぅぅぅ、一時はどうなる事かと思いましたわい」

 と、ヨーゼフが額の汗を拭いながら言った。レンは、まさか最後にステラが立ち向かうとは思いもしなかった。ガルドは、イルミが討たれた事を確認すると突然笑い出した。

 「あは、あははははは、ま、まさかイルミまでやられるとはな…そ、それにしても奥方殿、見事だ…完全にわしの油断だった、まさかあんたがな…あは、あははは」

 ステラは、ガルドに剣を突き刺したままルークに駆け寄った。

 「ルーク、ルーク、しっかりして」

 「うぅぅ…母さん、大丈夫かい?」

 「この子ったら…私は大丈夫よ」

 と、ステラはルークを抱き締めた。ガルドは、槍を杖の様にして立っている。イルミの首を刎ねたルーシーがゆっくりとガルドに近付いた。

 「さぁマリアさん、あなたも剣を持ちなさい、ガルド…よくも弟を刺してくれた」

 と、ルーシーは剣を構えた。マリアも剣を取りガルドの前に立ち剣を構える。二人の様子を見てルークがキムズの首に刺さった自分の剣を取りガルドに近付いた。

 「ふ、ふふふふ、さぁどうした?かかって来い」

 と、ガルドは言ったが、立っているのがやっとの様に見えた。ルーシーとマリアは、同時にガルドの腹に剣を突き入れた。またガルドの雄叫びの様な悲鳴が刑場に響いた。

 「この十九年間の恨み、覚えたか!死んであの世でお父さんに詫びろ!」

 「ぎゃぁぁぁぁ…うぐおぉぉぉぉ」

 ルーシーが突き刺した剣をさらに深く刺そうとグリグリと剣を動かした。

 「うっく…姉さん、マリアさん、離れて、はぁはぁはぁ…」

 と、ルークが苦しそうにゆっくりと剣を構えながら言うとルーシーとマリアは、サッと引き下がった。ルークの脇腹から血が滴り落ちている。

 「国で大人しくしてりゃ、こんな事にはならなかったのになぁ、俺はお前達の事なんかとっくの昔に忘れてたんだザイル・ヒープをぶっ殺しただけで満足だった…あいつのせいで親父はお前らに殺されたんだからな…はぁはぁ…でも今は違う…俺の親父を罪人にして死刑にしただけでは飽き足らず、アドマイヤさんの命まで奪った、許せねぇ…うぅぅぅ…落とし前を付けてやる、ね」

 そう言うとルークは、ガルドの首を刎ね飛ばした。この瞬間、刑場に集まった国民達から大歓声が沸き起こった。レン達も拍手を送った。

 「ルーク」

 「ルークさん」

 ステラ、ルーシー、マリアがルークに駆け寄ったが、ルークはその場に倒れ込んだ。ガルドの槍で受けた傷が思いのほか深い様だった。

 「ルークッ!」

 「いかん、早くドラクーン人を!」

 レン達もルークに駆け寄った。

 「ルーク、今ドラクーン人を呼びに行かせた、ご苦労だったね」

 「へ、陛下…」

 「良くやったなルーク」

 「はは、兄貴」

 ほどなくして、ドラクーン大使館からドラクーン人が呼ばれルーク達の治療が行われた。ルーシーとマリアの傷は、直ぐに治ったがルークは、少々血を失い過ぎているため傷口を塞ぎ直ぐに入院させる事になった。

 敵討ちが無事に成功した翌日、ルークは病院の一室で家族とマリアに見守られ眠っていた。

 「昨日は本当に驚いたわ、ドラクーン人が手をかざしただけで傷が綺麗に治って行くなんて」

 「ホントね、不思議な事もあるもんね、ルークの傷もあんなに綺麗に治ったし、でも…」

 「この馬鹿、いつまで寝てるの、早く起きなさい」

 と、ルーシーが少し強くルークを揺さぶった。ステラが止めなさいとルーシーを止めた。

 「死ぬような事は無いと、ドラクーンの方やここのお医者さんも言ってたわ、ゆっくり寝かせてあげなさい」

 と、ステラに言われルーシーは、面白くないといった顔をして椅子に座った。本当は、可愛い弟を良くぞ父の敵を討ち果たしたと褒め抱き締めてやりたい気持ちで一杯なのだが素直になれないのだった。

 「ルーシー、マリアさん、お母さんお屋敷にルークの着替えを取って来るわ」

 「ああ、私も行くわ、マリアさんもこんなのほっといても大丈夫よ、行きましょう」

 「ええ、私は残ります、ルークさん、いつ目覚めるか分かりませんから」

 「そうかい、じゃあルークを見ていてもらおうかね」

 と、ステラとルーシーは、病室を出て行った。マリアは、じっとルークを見つめていて時々、手を握ったり擦ったりした。

 「ルークさん、ありがとう、あなた達のおかげで父の敵を討つ事が出来ました」

 と、マリアが呟いた時、ルークの指が微かに動いた。それに気が付いたマリアは、ルークの手をぎゅっと握りしめた。

 「ルークさん、ルークさん、気が付いたの?」

 「うっうぅぅぅ…んんん、ここは?」

 と、ルークはゆっくりと目を開け言った。明かりが眩しいのか目を細めている。

 「病院です、ガルドを討ち取った後あなたは気を失って」

 「ああ、そうだった、俺、あいつに脇腹刺されたんだったな、傷が治ってる、ドラクーン人か?あれ?身体が思うように動かないぞ」

 と、ルークは刺されたはずの脇腹が綺麗に治っている事に気が付き半身を起こそうとしたが、なかなか起こせないでいた。マリアは、出血が酷かったからだと話した。

 「そうか…ところで母さん達は?」

 「ルークさんの着替えを取りにお屋敷に行かれました」

 「そっか、はぁ~まぁ無事に親父の敵も討てた事だし、めでたしめでたしだな」

 と、ルークが言うとマリアは、少し寂しそうに頷いた。

 「どうかしましたか?」

 「…父の敵も討てた事だし、私はメクリアに帰らないといけないので…その…」

 と、マリアは口ごもった。短い間だったがルーク達と屋敷で過ごした事で忘れていた家族の温かみを思い出していた。メクリアに帰っても独りぼっちなのである。ルークは、その事にハッと気付いた。しばらく沈黙したが、ルークは思い切って言ってみた。

 「マリアさん、良かったらうちに住まないか…その…何て言うか、メクリアに帰っても一人なんだろ?待ってる男が居るなら別だけど…」

 マリアの目に見る見る涙が溢れ出して来た。そして、ルークに抱き付き声を上げて泣き出した。

 「おいおい、マリアさん、どうしたんだよ?何も泣く事ないだろう」

 「嬉しいんです、ありがとうルークさん、私、私、うわぁぁぁぁん、ありがとうルークさん」

 「あは、あははは、困ったな、それにしても何で兄貴達は来てくれないんだ?」

 と、ルークはマリアの頭を撫でながら言った。その頃、海軍本部にテランジンとシン、そしてジャンがルークの事を話していた。

 「なぁテラン兄貴、本当にルーク兄ぃの見舞いに行かなくて良いんですか?」

 「ああ、構わん、マリア・アドマイヤが面倒を看るだろう、ルークの母ちゃんと姉ちゃんにも余り見舞いに行くなと言っておかねば」

 「な~る、敵討ちが結んだ縁ってところですか、兄貴」

 と、ジャンが嬉しそうに言った。

 「そういう事だ、それとサイモンの事も何とかしてやらねばならんな、まぁその事はおやじも乗り気だし上手く行くだろうよ」

 「へぇ~ご隠居も」

 「ああ、ルークとサイモンが上手く行けばお前のところと三組同時に結婚式を挙げろ」

 「はは、そりゃ良いや、盛り上がるぜシン兄ぃ」

 と、本人達の居ないところで好き勝手に話しているテランジン達であった。トランサー城内でレンは、魔導話でマルスにルークの敵討ちの話しをしていた。

 「そうかそうか、無事に敵を討ったんだな、まぁ当たり前だな、ルークがそんなジジイに負けるなんてありえねぇだろ」

 「うん、それと近いうちにまたおめでたい知らせが出来そうだよ」

 「ん?何だよめでたい知らせって」

 レンは、サイモン元帥の事を話した。案の定、魔導話の向こうで大爆笑していた。

 「あの大真面目なサイモンが…あははは、しかし、そんなに気が強いのかルークの姉ちゃんは?」

 「うん、僕が直接見たわけじゃないけどヨーゼフやテランジンが言ってたから本当だよ、でも二人が上手く行けば良いね」

 「ふふふ、そうだな、きっと上手く行くさ」

 「うん」

 と、レンとマルスは、長々と魔導話で話したのだった。


  


 

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