槍のガルド
早朝からルークは、姉とマリア・アドマイヤを連れて海軍の修練場に来ていた。二人に剣術を教えるためである。
「さぁ、ここに練習用だが剣がある、一本取って構えてみて」
と、ルークが二人に言った。二人は、剣を取り構えた。構えに問題はなさそうだ。ルークは、まず基本的な動作を二人に教え練習させた。
「うん、まぁ良いだろう、姉さんもマリアさんも今の動きを忘れないでくれよ、じゃあ次は防御だ」
と、ルークは、姉ルーシーとマリアに攻撃させそれを防いだ。何度か攻撃させ防御の形を見せ今度は、二人でやるよう指示した。
「いきなり早くやる事はないよ、最初はゆっくりやれば良いから、気を付けて、稽古中に怪我でもしたらあいつらを討ち取るどころじゃなくなるからね」
「やってるなぁ」
と、テランジン、シン、サイモン元帥が心配で様子を見に来た。
「あっ兄貴」
「なかなか筋が良さそうじゃないかルーク」
と、サイモン元帥がルーシーとマリアを見て言った。ルークが複雑な表情を見せた。
「まぁ筋は良いんだけど、俺ぁはっきり言って反対なんだ、姉さん達に人を斬らせたくないんだよ」
「うん、しかし本人達が望むのなら仕方あるまい、討ち取った後で何か心に悪い影響が出ればドラクーン人に相談すれば良いだろう」
と、テランジンがルークの肩に手をやり言った。ドラクーン人には、傷を治す力と同時に心を癒す力も持っている。その事は、テランジンがイビルニア半島で十分知った事だった。
その頃、刑場でもガルドがキムズ、パング、ジヨンに槍の稽古をつけていた。イルミは、一人剣を振るっていた。その様子を見ていた役人達が、不思議に思った。この連中は、本気でルークに勝とうとしているのかと。
「下手に抵抗すりゃ無駄に痛い思いをするだけなのに馬鹿じゃないのか?」
「いや、案外本気かもな、ガルドとか言うおっさん見ろよ、ありゃ相当槍に慣れてると思うが…」
「ううむ…確かにそうだな…」
この日の夕方、ルークに稽古をつけてもらったルーシーとマリアはクタクタになり屋敷に帰って来た。母ステラは、不安に思っていた。敵を討ちたいと言ったが実際刃物で人を刺すか斬るのである。自分に本当に出来るのだろうかと考えると調理に使う包丁を見ても怖くなる始末だった。
「お帰り、二人とも、あれルークは?」
「ただいま、お母さん、ルークはロイヤーさん達と飲みに行ったわ」
ステラは、三人分の食事を用意して待っていたのでルークの分が余ってしまうと言った。
「ああ、私達で食べるわ、もうお腹がペコペコよ、ねぇマリアさん」
「はい、あんなに動いたのは生まれて初めてかもしれません」
と、幼少期に病弱だったマリアが楽しそうに答えた。その頃、ルークは、テランジン、シンそしてサイモン元帥と大衆酒場兼食堂である「青い鳥」で飲みながら話していた。そこへルークに気付いた客が、次々とルークに励ましの言葉をかけていた。
「メタール中将、頑張って下さい、我々はあなた方の味方です」
「ルークさん頑張って、あんな連中叩き斬ってやって下さい」
「ありがとう、皆ありがとう」
と、ルークは、心から礼を言った。
「えらい人気者になったなルーク」
と、店主のオヤジが四人分の酒を持って現れた。そして、これは店のおごりだと大皿に乗った鶏肉の揚げ物をテーブルに置いて厨房に戻って行った。
「おお、美味そうだな」
と、シンが鶏肉を一つ取り食べ始めた。テランジンがルークにどんな作戦でガルド達と戦うのか話し合っている中、サイモン元帥は、どこかもじもじした様子で落ち着かないでいた。
「なぁサイモン、君はどう思う?やはりルークが一気に…ん?どうしたんだサイモン、先ほどからどうも落ち着かんようだが、小便でも我慢してるのか?」
と、テランジンに言われサイモン元帥は、とても言い辛そうに話し出した。
「あ、あの、ルークよ…その…敵討ちとは関係ない話しだから敵討ちが終ってから話そうと思ってたんだが…その、ええ…」
「どうしたんです兄貴、何です?言ってくれよ」
「サイモンどうした?らしくないぞ」
と、テランジン達が話している中、シンは、よほど腹が減っていたのだろう鶏肉を黙々と食べていた。
「ルークよ…その…ルーシー殿はどんな男が好みなんだ?弟のお前なら知ってるだろう」
「姉さんの好みの男?何でそんな事聞くんだよ」
と、ルークに返され一瞬情けない顔をしたサイモン元帥だったが、意を決してルークに言った。
「お、俺はお前の姉さんに惚れたみたいだ」
「ぶぅぅぅぅ、うえぇぇぇっえっえ」
「こ、こらっ!汚ねぇぞシン」
サイモン元帥の言葉に思わずシンが噴き出した。テランジン、ルーク、シンがサイモン元帥をまじまじと見た。三人とも本気で言ってるのかといった顔をしている。店内は、少し薄暗くしてあるため、はっきりとサイモン元帥の顔色まで分からなかったが赤くなっている事だけは確かだった。
「あ、あんな気の強い女のどこが良いんだよ、弟の俺が言うのも何ですが、ありゃあ女を捨ててるぜ」
「駄目なんだ俺…ああいう気の強い女に弱いんだ…」
と、サイモン元帥は、初めて自分の女の好みをテランジン達に打ち明けた。四年前トランサー王国を見事奪還した後、サイモン元帥には、様々な縁談が持ち込まれたと言う。ティアック派の政治家や軍人、貴族は、もちろんの事ザマロ派だった政治家や軍人、貴族も縁談を持ちかけて来た。ザマロ派だった連中は、反乱軍の首領だったサイモンと縁を結んでおけば後々、役に立つと考えたのだろう。サイモンも暇を見つけては見合いをしたがどれも好みの女ではなかった。そのうち口の悪い者は、サイモン殿は男が好きなんじゃないのかと囁き合っていた。
「な~る…そうだったのか…それを聞いて安心したよ」
「な、何だテランお前まで俺が男好きと思っていたのか?」
テランジンは、何も言わず手を振った。ルークとシンは、顔を見合わせて驚いていた。
「こうなったらルーク、義兄弟のために一肌脱いでやれ、ルーシー殿にサイモンの事を話せ」
「ええっ?テラン兄貴、本気で言ってんのか?兄貴も見ただろ?俺をボコボコに殴ったのを、あんな凶暴な女をサイモン元帥の嫁さんになんかしたくないよ、それに年増だぜ」
と、ルークは言いグイッと酒を飲んだ。
「ルーシー殿はいくつになるんだ?」
「ええっと確か兄貴達と同い年だったかな?もっと若いのにしときなよ、絶対後悔するぜぇ」
「同い年かぁ、良いなぁ、ルーク頼む、それとなく俺の事をルーシー殿に伝えてくれ、もちろん俺も自分で何とかするつもりだ、明日もまた稽古するんだろう?」
「うん、するけど軍務は?大臣の仕事は?」
「そんなもん、どうでも良い、やっと理想の女に出会えたんだ」
と、サイモン元帥は、目を輝かせて言った。ルークは、テランジンを見た。テランジンに何とか言って欲しかった。シンは、笑いを堪えるので必死になっていた。
「ルークよ、サイモンは本気だ、お前の姉さんがやっと幸せを掴む好機だ、協力しろ」
「うう…分かったよ…でも後悔しても俺ぁ知らねぇぜ」
こうして夜も更けて行きそれぞれが屋敷に帰って行った。早朝、サイモン元帥がメタール家の屋敷に現れた。昨日の夜、青い鳥から帰ったルークは、ルーシーにサイモン元帥が稽古をつけてくれると言ってあったので驚かれずに済んだ。
「ご協力感謝します」
「何の何の、姉上殿には是非敵討ちを成功してもらわねばなりません、及ばずながらこのダンテ・サイモン、ルークの義兄弟としてお手伝いさせてもらいます、さぁ行きましょう」
と、サイモン元帥は颯爽と海軍の修練場へ向かった。修練場へ到着しルーシーは、早速サイモン元帥の指導を受けた。ルークは、マリアを指導しながらサイモン元帥と姉ルーシーを観察していた。
(ううむ、サイモン元帥にあんな一面があったとは、姉さんは…ああ駄目だありゃ鉄仮面みてぇな面しやがって、もっと女らしい顔が出来ねぇのかよ)
「あのルークさん?」
「へっ?ああ、あああすいやせん、さぁどうぞ打ち込んで来て下さい、はい、良いですよ、昨日よりさらに良くなってますぜ」
(見ろやい、マリアさんの方がよっぽど女らしいぜ、このか細い腕で敵を討とうってんだから泣かせるじゃねぇか)
「お姉さん、何だか楽しそうですね」
「えっ?あいたっ!」
と、不意にマリアが言った言葉にルークが動揺しマリアの一撃を頭にまともに喰らった。練習用の剣なので大事には至らなかったが、相当痛い。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「ははは、良いんですよ、今のは良かったです、その調子で行きましょう、あはははは」
そんな様子を陰でテランジンとシンがこっそりと見ていた。その頃、メクリア大使館のワイマン大使がレンに謁見を求めていた。何事かと側用人であるディープ伯爵が尋ねた。
「どうなされたのかワイマン大使、陛下は只今お食事中ですぞ」
「ははぁ申し訳ございません、ガルド達の事でお耳に入れておきたい事がございます」
「あの連中の事で?ふむ、しばし待たれよ」
ほどなくして朝食を終えたレンが謁見の間に現れた。
「ガルド達がどうかしましたか?」
「はい、陛下、敵討ちが始まる前に是非お話する事がございます」
「何でしょう?」
ワイマン大使は、メクリアがまだ王政だった頃の話しをした。そして、今回ルーク達が討ち取るガルドは、実は槍の名手だと言う。王政時代ガルド家は、武官の家柄で槍を最も得意として来たと言う。そして、ガルドは、子供の頃からお家芸である槍を祖父や父から徹底的に叩きこまれて来たそうで腕は相当立つと話した。
「あの者が返り討ちにこだわったのは自信があったからです、他にイルミと言う男が剣を得意とした家に生まれておりこの者も幼少期から剣の手ほどきを祖父や父から受けております」
「なるほど、あの自信には根拠があったのか…では、他の三人はどうですか?」
「はい、後のキムズ、パング、ジヨンは文官の家柄でこの者らは大丈夫でしょう」
「よく教えてくれました、早速ルーク達にこの事を知らせます」
「はい、そうして下さい」
そして、最後にワイマン大使は、ガルド達は必ず討ち取られるべきだと言った。ワイマン大使が帰った後、レンはルーク達に会うため海軍の修練場へ向かった。魔導話を使えば早かったが、レンはルーク達の様子が見たかったので直接話す事にしたのだ。海軍本部の前に物々しい一団が現れ本部は、大騒ぎになった。
「おい、陛下が見えられたぞ、何事だ?」
「何が始まるんだ?」
口々に話す将兵や兵卒の間を掻き分けテランジンとシンがレンの前に姿を出した。
「何事ですか陛下?」
「やぁテランジン、ルーク達は?」
「はい、修練場でルーシー殿とマリア殿に稽古をつけています、それとサイモンも居ます」
「サイモン元帥も?そうなんだ、ルーク達に話しがあってね」
「ルークに?実は私も少し陛下にお話しがあります」
「あ、兄貴」
と、シンがテランジンの袖を引っ張った。テランジンは、シンに良いんだといった顔をした。レンは、何の事かさっぱり分からないのでとにかくルーク達が居る修練場へ向かった。ルークがマリアをサイモン元帥がルーシーに稽古をつけている。テランジンは、ルークを呼んだ。
「あっ?!陛下!」
と、レンに気付いたルークとマリアは、慌てて跪いた。それに気付いたサイモン元帥も慌てて跪くとレンに全く気付いていないルーシーの容赦ない一撃がサイモン元帥の脳天を襲った。
「ぐわぁぁぁぁ」
「あっ!ご、ごめんなさい、えっ?あっ、陛下」
と、ルーシーは慌てて練習用の剣を後ろ手に持ちレンに跪いた。ルーシーの隣りでサイモン元帥が悶絶している。その様子を笑いを噛み殺しながらレンとテランジン、シンは、見た。
「やぁルーク、ルーシーさんマリアさんやってるね、サイモン元帥大丈夫かい?」
「ははっ、大丈夫です、はは、ははは」
サイモン元帥の目が涙目になっているのが気になったが、レンは今朝ワイマン大使から聞いた事をルークに話した。
「槍ですかい?へぇ~あのおっさんの家がねぇ、姉さん知ってたかい?」
「ああ、何となく昔お父さんから聞いた事があったかな、その時は全く興味が無かったから何とも思わなかったけど…まさかこんな事になるなんて思わなかったから、それで槍と戦うのは難しいの?」
「そりゃ剣と槍じゃ長さが違うだろ?相手の間合いに入り込めたら良いが…」
と、ルークは、姉の質問に答えた。
「でも槍をまともに扱えるのはガルドだけみたいだよ、イルミって言う奴は剣が得意だそうで他の三人は大した事ないってワイマン大使が言ってたな、ガルドとイルミはルークが相手になって他の三人はルーシーさんマリアさん、そしてルークのお母さんが戦うしかなさそうだね」
と、レンは少し心配しながら言った。テランジン達もそうしろと言った。
「お前が速攻でガルドとイルミを倒せ、そして直ぐにルーシー殿らに加勢しろ」
「うん、そのつもりだよ兄貴」
「なぁルーク兄ぃ、やっぱり分が悪いよ、ジジイとは言え男五人相手だぞ、兄ぃはまともに戦えても姉さん達が心配だ、その槍の達人も居る事だしさぁ誰か助っ人頼めよ、俺が手伝おうか?」
と、シンも心配になりルークに言った。ルークは、静かに首を横に振った。
「駄目だシン、これはメタール家とアドマイヤ家の問題だ、それにあのジジイ共相手に助っ人頼んじゃ笑われちまうよ」
「あいつらは、私達の手で始末をつけなきゃいけない、絶対にやっつけてやる」
と、ルーシーが言うとサイモン元帥が目を輝かせた。レンは、そんなサイモン元帥を不思議に思った。テランジンは、決して無理はするなとだけ言いレンとシンを連れ修練場から出た。
「陛下、お気付きですか?」
「えっ?ああ、サイモン元帥かい?何かいつもと様子が違うような気がしたけど」
「はい、実は…」
と、テランジンは、昨日「青い鳥」でサイモン元帥から打ち明けられた事をレンに話した。レンは、素直に喜んだが、テランジンとシンは、笑いを堪えるのに必死になっていた。
「ま、まさか、あいつが気の強い女が好みだったとは…くくく」
「よりにもよってルーク兄ぃの姉さんですぜ、あんな気の強い女見た事ないですよ」
「そんなに気が強いの?」
「はい、私の屋敷でルークを見るなり引っ叩いて仰向けに倒し馬乗りになってボコボコにしましたからね」
「す、凄いね、でも良いじゃないか、サイモン元帥が上手くいくよう皆で応援しなきゃね」
と、レンは明るく言ったが、テランジンとシンは、何とも言えない顔をしていた。ルーク達が剣の稽古に励んでいる頃、当然ガルドもキムズ、パング、ジヨンに稽古をつけていた。さすがに歳は取っているとは言え男である。ガルドの指導が良いのか三人ともそれなりに槍を扱えるようになっていた。
「うんうん、この調子なら全員でルークの野郎を串刺しに出来るな、とにかくお前達は真っ先に女共を殺せ、わしとイルミでルークを相手する、片付いたら直ぐにわしらに加勢しろ良いな?」
「ああ、分かったよガルドさん、何だか返り討ち出来るような気がして来たよ」
城に帰ったレンは、エレナにサイモン元帥の事を話していた。エレナは、意外な顔をしたがレンと同じくサイモン元帥とルーシーが上手くいけば良いと思った。
「全てはルーク達の敵討ちが終ってからさ」
「敵討ちは明後日でしょ?無事に済めば良いけど」
「大丈夫さ、ルークが居るんだし、でも…」
と、レンは美しい小首を少し傾げた。やはりガルドの事が頭によぎった。剣と槍では戦い難い。ガルドがどれ程の槍の達人なのか気になった。エレナは、こっそりガルドの様子を見に行けないのかレンに言った。王子の頃ならヨーゼフに相談して直ぐにでも行けただろうが、今や一国の王である。今朝、ルーク達の様子を見るために城を出たばかりなのに戻って来てそう簡単にまた城を出る訳にはいかなかった。
「う~ん、やっぱり自分の目で確かめたいな…イーサンに言ってみよう」
と、レンはディープ伯爵に相談してみた。意外にもディープ伯爵は、賛成してくれた。
「よろしゅうござる陛下、今朝方のような人数では目立ちますのでミトラとテランジン一家の者数名で刑場に行きましょう」
と、ディープ伯爵は、直ぐに近衛師団隊長のミトラに話しをしてロイヤー屋敷に魔導話を掛けた。
「御側御用人、イーサン・ディープです、ヨーゼフ公にお取次ぎ願いたい」
「へい、少々お待ちを」
と、テランジン一家の若衆が応対した。ほどなくしてヨーゼフが魔導話に出た。ディープ伯爵は、ガルドの事を話しレンがガルド達の様子を直接見たいと言うので一家から少人数出してくれと頼んだ。
「何と、あやつ槍の達人だと言うのか…ふぅむ、そりゃ気になるのう、ではわしも一緒に刑場に様子を見に行こう」
「ヨーゼフ公もお出でになられますか?それは陛下がお喜びになられます、では後ほど」
と、魔導話を切りディープ伯爵は、レンにヨーゼフも様子を見に来る事を告げ、レン、ミトラを連れこっそりと城外に出てヨーゼフ達を待った。十分ほど待っているとロイヤー家の黒塗りの魔導車が現れた。レン、ディープ伯爵、ミトラは、直ぐに魔導車に乗り込んだ。
「やぁヨーゼフが来て見てくれるなら僕も安心だよ、ルークにどう戦えば良いか教えてあげて」
「はい、若、拙者がこの目でしかとガルドの腕を見極めまする」
ほどなくして、レン達を乗せた魔導車が刑場前に到着した。刑場の門の警備に当たっていた兵士は、レンに気付いていない。ヨーゼフとディープ伯爵が護衛を付けて来たと思っている。
「ガルド達の様子が見たい、案内せよ」
「ははっ!」
ガルド達が見える場所まで来ると案内した兵士を下がらせた。
「やってますな…なるほど、確かにあの様子だと奴が返り討ちにこだわった理由が分かりますな」
と、ヨーゼフは顎に手をやりガルドを見ながら言った。レンは、槍を持った相手と戦った事は無かったが、練気技を使わずにガルドと戦えばどうなるだろうと思った。レンの目から見てもガルドは、かなりの実力者と感じた。
「ルーク大丈夫かな?お母さん達を守りながらの戦いになるだろうから心配だよ」
「左様ですなぁ…やはり誰か助っ人を入れた方が良さそうですな」
「返り討ちにされたら笑い話では済みませんぞ」
レン達が様子を見に来ている事には全く気付いていないガルド達は、黙々と稽古に励んでいた。ガルドは、刑場の役人に言って藁と木を用意してもらい、その藁を水に湿らせ人型を作り立てていた。
「うりゃりゃりゃりゃ!」
と、その藁人形に向け槍を物凄い速さで突いた。そして最後に首を刎ねた。
「フフフ、ルークめ…わしをただのジジイだと思うなよ、お前もこの藁人形の様にしてやるわ」
レン達は、しばらくガルド達の稽古を見て城に帰った。そして、レン、ヨーゼフ、ディープ伯爵は、ルークを城に呼び出しガルド達の様子を話した。レンは、助っ人を加える事を勧めたがルークは、頑なに拒んだ。
「なぜじゃ、陛下も仰られている、テランジンでもシンでも良い助っ人を頼め」
「いいえ、陛下、ご隠居、ディープ伯爵、これはメタール家、アドマイヤ家の問題なんです、助っ人を頼む事は出来ません」
「で、でもそれじゃあルークのお母さんやお姉さん、マリアさんが危険だ、ガルドとイルミとか言う男は必ずルークに集中して攻撃して来るだろう、そうなると他の三人がまともに戦えるかどうか分からないじゃないか、相手は男だよ」
と、レンは言ったが、ルークは頑として聞かなかった。
「お前一人で戦うつもりか?」
と、ヨーゼフは静かに言った。
「いいえ、皆で戦うつもりです、姉さん達も覚悟は出来てます、どうか静かに見守っていて下さい、必ず勝ちますんで」
と、ルークは言った。しばらく沈黙が続いた。もしもルーク達が返り討たれればガルド達は、無罪放免トランサーから出る事になる。ルークは、最後に後悔はしないと言った。それを聞いたレンが言った。
「分かった…ルーク、僕は君を信じる」
「ありがとうございます、陛下」
そう言ってルークは、海軍の修練場へ帰って行った。ルークが部屋から出て行った後、ディープ伯爵は、やはり無理にでも助っ人を入れる方が良いと言ったが、ルークの覚悟を感じたレンとヨーゼフは、その必要は無いと言った。
「イーサン、大丈夫だよ、ルーク達は絶対勝つよ」
「左様、見事ガルドらを討ち取るわい」
と、二人に言われたディープ伯爵は、不安ながらもルークを信じると言った。その頃、こちらも心配でガルド達の様子をこっそりと見に行っている男が二人居た。シンとジャンである。シンとジャンは、ガルドが槍の名手だと聞いて一度どの程度なのか見ておこうと思って来た。
「ううむ、なかなかやるなあのジジイ…あの剣を持ってるジジイもかなりの使い手みたいだな…他の三人は…はは、ありゃ姉さんだけでも勝てそうだな」
「うん、でもジジイとは言え男だぜ兄ぃ、おまけに槍だ、大丈夫かなぁ?」
と、シンとジャンは、木陰に隠れてガルド達の稽古風景を眺めていた。
「なぁに、ルーク兄ぃは助っ人は要らねぇと言ったんだ、俺ぁ兄ぃを信じるだけだ」
と、シンがジャンに明るく言った。




