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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
173/206

マリア・アドマイヤ

 役人が女性を連れて現れると法廷内に居た皆が一斉に女性を見た。女性を見たルークは驚いた。この女性は、大衆酒場兼食堂の青い鳥で見た女性だったからだ。当然テランジン、シンも驚いていた。

 「あ、兄貴あのひと…青い鳥で見た」

 「うむ、そうだ」

 と、テランジンとシンが小声で話しているとルークがテランジン達を見て目で合図を送っていた。役人が女性をルーク達が座る席へ連れて行き法廷の隅に行った。女性は、ルークの隣りに座った。

 「ああ、其の方らこの人が誰か存じておろう」

 と、ジャスティ大臣がガルド達を見て言った。ガルド達は、全く誰だか分からないと答えた。

 「知らぬ?誠か?…では自分が誰か言ってやりなさい」

 と、ジャスティ大臣がガルド達と女性に言った。女性は、真っ直ぐガルド達を見て言った。

 「私の名はマリア・アドマイヤ、十九年前あなた達の身代わりとして処刑されたローエン・アドマイヤの娘です」

 名を聞いたガルド達の顔色が一気に変わった。そして、法廷内が騒然となった。

 「身代わりとはどういう事だ?」

 「あいつらは一体何をしたんだ?」

 「ああ、静粛に!」

 と、ジャスティ大臣が静めた。御簾みすの向こうでレンがディープ伯爵と話している。

 「身代わりって?」

 「ははぁ、一体どういう事でしょうな」

 ジャスティ大臣は、大きな封筒を取り出しガルド達に見せつけ読み始めた。

 「これはメクリア大統領閣下の書簡である、其の方ら心して聞けぃ…親愛なるトランサー国王陛下、フレイド・フロスト大臣閣下、エイゼル・ジャスティ大臣閣下へ…これなるマリア・アドマイヤは、十九年前ガルドら元役人達によって情報漏えいの罪を着せられ処刑されしローエン・アドマイヤの忘れ形見でございます、十九年前、ローエン殿はガルドらとある約束を交わしガルドらの身代わりとなり処刑されたのです、身代わりとはまさに国家機密情報の漏えいの罪、情報を漏らしていたのはガルド達だったのです、当時カーク殿の処刑に疑惑を感じたローエン殿は密かにガルドらの身辺を調べていたところイビルニアや当時のトランサー王国、イビルニア支配下の国々へ情報を流しているのがガルドらと知り得ました、その事をガルドらに詰め寄り当時の大統領に報告すると言ったところ、ガルドらはローエン殿が借金を抱えている事に目を付け交渉しました」

 と、までジャスティ大臣は読みガルド達を見た。ガルド達は、明らかに動揺している。法廷内は、静まり返っていた。

 「マリア殿、失礼だが父上殿の借金とはどのような借金だったのかね?」

 と、ジャスティ大臣がマリア・アドマイヤに優しく問いかけた。

 「はい、父の借金とは私のやまいの治療費の事です、当時私は、とても病弱で入退院を繰り返していました…今じゃ直ぐに治せる病ですが当時は薬が無く…」

 と、マリアは、話し黙った。

 「ふむふむ、それで父上殿や母上殿は借金の返済で苦労していたんだね、そしてこの連中はそこに目を付けこう言ったと書いてある、自分達の身代わりに情報漏えいの真犯人となったら借金を肩代わりしアドマイヤ家の面倒は自分達が生きている限り一生見ると言ったんだな」

 と、ジャスティ大臣は、マリアとガルド達を交互に見ながら言った。

 「だ、大統領の書簡に書いてある事の証拠はどこにあるのか?我々がこの女の父親に罪を着せたと言う証拠を出せ!アドマイヤは国家機密を他国に売り渡していたのは事実だ!」

 「そ、そうとも、我々がそれを取り調べ極刑にしたのだ」

 と、ガルド達が口々に言い始めた。ルークは、静かに怒りの炎を燃やしていた。後ろに居たステラとルーシーは信じられないとった顔をしてガルド達を見ている。

 「証拠ならメクリアにあるそうだ、其の方らが騒ぎを起こした頃から大統領は密かに十九年前の事を調べていたと言われる、そしてマリア殿の事を知ったとな、マリア殿、そなたも証拠を持っておりましたな」

 と、ジャスティ大臣に言われマリアは、一通の封書をジャスティ大臣に手渡した。それを見たガルド達は、凍り付いた様になった。

 「ふむ、これは念書かな?どれ…」

 と、ジャスティ大臣が中に入った紙を取り出し広げ書かれた内容を読み上げた。

 「え~、我々の身代わりとなったあかつきには、ローエン殿を含め妻ナナ殿、娘マリア殿の生涯の面倒を我々ガルド、キムズ、パング、ジヨン、イルミが生きている限り看る事を神仏に誓い約束する…署名…」

 ジャスティ大臣が厳しい顔でガルド達を見た。ガルド達の顔色が明らかに変わっている。

 「そ、そんなもの証拠になるかっ!アドマイヤが我々の筆跡を真似て書いたかもしれないじゃないか!」

 「そそそ、そうだ!我々…」

 「黙れっ!おのれらの顔を見ればその念書が本物かどうか見当がつくわっ!馬鹿者」

 と、ヨーゼフが怒鳴った。少し間が空いてジャスティ大臣がマリアに話すよう促した。

 「この念書は、父が生前この人達と交わしたものです、その当時、私は入院してて直接父から聞いた話しじゃありませんが母が話してくれました、父はこの人達の身代わりで刑罰を受け服役する事になるだろうと、でも父が無事に出て来れば家族三人また暮らせると、私の治療費で出来た借金もこの人達が全て払ってくれるから安心しなさいと…うぅぅ…でも父は…父は、帰って来る事がなかった…ただ刑務所に行くはずだったのに死刑になったって…」

 ここでマリアは、泣き崩れた。ガルド達は、ローエンにカークの様に死刑には絶対にしないと約束したと言う。必ず刑期が三年で済むようにするからと約束した。レンは、御簾の向こうで怒りに震えていた。

 「念書にはローエン殿も含め面倒を看ると書いてある…と言う事は死刑にする気はなかったのだな、しかしなぜ死刑にしたのだ?」

 「ふん、だからその念書の事などわしらは知らん!そんな約束をした覚えも無い、ローエンが真犯人だったのだ!」

 と、ガルドが声を荒げて言った時、御簾の向こうからレンが飛び出して来た。法廷内の誰もがレンを見た。レンは、ガルド達を睨みつけながら言った。

 「先ほどヨーゼフが言ったように汝らの顔を見ればその念書が本物かどうか分かる、いい加減しらばっくれるのは止めろ!」

 突然現れたレンにガルド達は、呆然と見ていた。新聞では何度か見て若い国王とは知っていたが目の前で見るとこれほど若く、そして女の様な容姿に驚いた。

 「な、何をしておる、平伏させろ!」

 と、ジャスティ大臣が慌ててガルド達の後ろに居る兵士達に言った。兵士達は、ハッとなりガルド達をねじ伏せる様に平伏させた。

 「ぐぐぐ、いい痛い!止めろ、放せ」

 「ええい黙れ、控えぬか!」

 ディープ伯爵は、もはや御簾は必要ないと思い役人に取り外させ、レンに椅子に座るよう言った。レンは、素直に座りガルド達を見下ろした。

 「ガルドさん、あの念書が出た以上もう駄目だ、諦めよう」

 と、パングと言う気の弱そうな元役人が蚊の鳴くような声で言った。他の三人は、青ざめた顔でうな垂れている。しかし、ガルドだけはギラギラした目で床を見つめていた。マリアは、涙を拭い話し出した。

 「母が言ってました、入院中の私の面倒を看て家に帰ると家に誰かが侵入した跡が何度かあったと…父が最後に家を出る時、父は念のため母にこの念書はアドマイヤ家のお墓に隠すようにと言ったそうです、母はその通りにしました、あなた方はこの念書を取りに家に侵入したんでしょう?」

 「何と…」

 ガルド達以外の全員が呆れた。サムス・ヒープさえも呆れていた。

 「ふ、ふふふ…まさか墓に隠していたとは…そう、あの時念書さえ取り戻せば無駄金を払う必要は無かった…念書さえ取り戻せていたなら…」

 と、ガルドが悔しそうに呟いた。ガルド達は、ローエンを処刑した後、直ぐにアドマイヤ家に自分達の息の掛かった者を侵入させ念書を探させていたのだった。

 「しかし約束はちゃんと守ったぞ、お前の家の借金もお前の治療費だって払ってやった、お前の母親が知っている事だ」

 「ええ、母から聞きました、でも私達の面倒を一生看ると言って三年間しか看なかったでしょう?その事で母はあなた方に会いに行ったはずです」

 と、マリアは、ガルドに言った。ガルドが目を逸らした。大臣席から様子を見ているテランジンが納得したような顔をした。ちゃんと面倒を看てもらっていたならあんなに痩せてないだろうし着る物も、もう少しましな物を着ているだろうと。お世辞でもお洒落とは言えない服をマリアは着ていた。

 「こっちにも事情があったんだ、急に金回りが…」

 「勝手な事を言うなっ!てめぇらが面倒を看ると言ったんだろう!てめぇらの都合で俺の親父を殺しても飽き足らず、また人に罪を着せて殺すなんて…この場でぶっ殺してやる!」

 と、ルークが怒りを爆発させガルド達に飛び掛かった。慌ててテランジン、シン、サイモン元帥が止めに入った。

 「ルーク、落ち着け!ここは法廷だぞ!」

 「放してくれ兄貴!こ、こいつら、こいつら許せねぇ!!」

 テランジン、シン、サイモン元帥は、何とかルークをガルド達から引き離し元の席に座らせた。ガルド達がジャスティ大臣に今のルークの行いは法廷侮辱罪に当たらないのかと抗議したが、ジャスティ大臣は「何の事か?わしは何も見ておらぬ」と言い放った。ガルド達は、怒り狂ってジャスティ大臣に散々悪態を吐くと今度は、それこそ法廷侮辱罪だとジャスティ大臣に言われ閉口した。法廷内が静かになりジャスティ大臣がマリアに話すよう促した。

 「母は、何度かこの人達に会いに行き話しをしたそうですが、最後にはメタール家の様に狂人扱いしてメクリアから追い出すと言われたそうです、その時、母はもう何を言っても無駄だと悟ったそうです」

 「それで今日まで大人しくしていたのだね、ところで母御はどうされておるのかな?」

 と、ジャスティ大臣がマリアに優しく聞くとマリアは、また泣き出し嗚咽交じりに答えた。

 「うぅぅっ…去年、心労がたたり亡くなりました」

 「な、何と…」

 法廷内がまた静かになった。そこへ評定所の役人が、ワイマン大使に先ほどメクリア大使館員から連絡があったと報告に来た。ワイマン大使は、一礼し席を外した。しばらくして法廷に戻るとガルド達を見て言った。

 「ハルム大統領閣下からのお言葉だ、汝らをメクリアから追放する、そして汝ら家族も同様追放したとのお言葉である」

 「えっ?えぇぇ?つつつ、追放?」

 「ちょちょ、ちょっと待ってくれ家族まで追放とはどういう事だ?」

 ガルド達は大いに取り乱した。まさか家族にまで累が及ぶとは、思ってもみなかったのだろう。ワイマン大使は、ガルド達を憎らし気に見て答えた。

 「大統領閣下は、貴様らの事を調べれば調べるほどメクリアには必要ないと判断されたそうだ、旧王家の家臣だった事を笠に着てやりたい放題だったなそうだなぁ、私を勝手に解任させたりした事などまだ序の口、役人を引退してからも現役の頃と同様な振舞いだったとか、よくも今まで閣下のお耳に入らなかった事だ、信じられない」

 「其の方ら王家を倒した革命派の者が何故なにゆえ王家の家臣だった事を利用するのか?何のための革命だったのだ?」

 と、ヨーゼフが怒鳴った。トランサー側の者達が口々にガルド達を罵倒した。ジャスティ大臣でさえ何か言いたげだったが、グッと堪えて皆を静かにさせた。

 「五十有余年前、メクリアの王政が腐敗していた事はわしらも知っておる、役人共は肥え国民は重い税で痩せ衰えていた聞く、そんな時に立ち上がったのが初代大統領のラムズ・ムステンだった、当時若かったわしは衝撃的だった、我がトランサー王国では考えられん事だった」

 「そうじゃ、そしてメクリア王家は倒され王家の者はどこかへ亡命した、懐かしいのうぅ、わしも衝撃的じゃった、レオーネ王がよく仰っておられた、余は良き家臣に恵まれて幸いであるとな」

 と、当時を知るジャスティ大臣とヨーゼフが話した。レオーネ王とは、レンの曽祖父になる人だ。

 「わしの祖父さんがよく言っていた…我ら旧家臣達が革命軍に味方に付いたからこそラムズ・ムステンは大統領になれたのにと…なのに何故、最後まで王家のために戦ったメタール家を贔屓するのかと、だからお前達がもし政治家や役人になったら革命に参加した旧家臣達を優遇してやれ、そしてメタール家を潰せとな」

 と、ガルドは言い最後にルークを睨み付けた。ルークがまた飛び掛かりそうになりテランジン達が止めた。ガルドは、サムス・ヒープの本家の当主だったザイル・ヒープの事を話し出した。この男が一番メタール家を恨んでいたと話した。

 「ザイル・ヒープがカークを…いやメタール家を潰すには何か罪を着せて潰すのが良いと言った、あの時わしらはイビルニアやその関係諸国と裏で取引していた、我が国の情報を教えるだけで莫大な金が動いた…それに最初に気付いたのがカークだった…」

 と、ガルドは言い遠い目をした。ルークの父カークは、一介の外交官でありながら当時の大統領や政治家達の信頼が厚かった。そのカーク・メタールに情報漏えいの罪を着せて処刑にすれば面白かろうとザイル・ヒープがガルド達に話しを持ちかけたのだ。ザイル・ヒープは、役人でもなければ政治家でもないただの裕福な民間人だった。祖父は、革命軍に参加した事で地方の行政官にはなれたが中央の役人にはなれなかった。父の代でも中央の役人にはなれず、地方の行政官であったが、その時にある不正を働き貯めた金で土地を売買して財を築いて行った。そして、ザイルがヒープ家を相続した時には、役人にはならず民間人として建設会社を設立した。ガルド達とは、祖父の代から繋がっていたので運よく中央の役人になれたガルド達から国が発注する工事を一手に引き受け会社はどんどん大きくなった。ザイルは、政治家達を接待する時は、必ず女を付け金を握らせた。それで政治家達の弱みを作りガルド達に教えガルド達は、それを大いに利用してただの役人ながらとてつもない権力を手に入れたのだった。

 「ザイル・ヒープは、ある席でカークが我々のやっている事に気付いているかも知れないと言って来た、確かに外交官のカークが中央の情報部に頻繁に出入りするのをわしらも見ていた…危ないと思った、やるなら今だと、奴が情報部に出入りしている事を逆手に取り逮捕させた、そして処刑させた」

 と、ガルドが話した時、今度はルーシーがガルドに襲い掛かった。あっという間だったのでテランジン達も止める余裕がなかった。

 「このゲスめぇ!お父さんが情報部に出入りしてたのはお前達の事を調べるためじゃない、当時密入国者が多かったからそれを調べていたんだっ!」

 「いい、痛い!止めろ、ぐわぁあ、痛い!と、止めてくれ」

 シンとサイモン元帥がゆっくりとルーシーを止めた。ガルドの鼻や口から血が流れていた。ルーシーは、シンとサイモン元帥になだめられながら席に着いた。ガルドがまた話し出した。

 「カ、カークの処刑後、ザイル・ヒープ家がルークにより滅ぼされ三ヶ月ほど経ったある日、そこのマリア・アドマイヤの父ローエンがわしらを疑り出した、最初は放って置いたがローエンは確信を得たんだろう、とうとうわしらに詰め寄って来た、カークを殺した事を謝罪し罰を受けろとな、そんな事今さら出来るもんじゃない、わしらはローエンの弱みを探した、そこで大きな借金を抱えている事に気付いた」

 「そこでローエン殿に取引を持ち掛けたのじゃな」

 と、ジャスティ大臣が念書を見せながら言った。ガルド達は静かに頷いた。

 「身代わりにさえなってくれれば借金はこちらで全て返し家族の面倒も一生看ると言った、ローエンは相当悩んでおったわ、最後に絶対にカークの様に死刑にはしないからと言うとローエンは渋々応じた、その代り念書を書けと言ってきおった、わしらは後で奪い返せば済むと思い極め念書を書いてやった…ところが念書が無い、散々探した、まさかアドマイヤ家の墓に隠しているとは夢にも思わなんだわ」

 と、ガルドは言いマリアを睨んだ。マリアは、怒りで震える手をぎゅっと握りしめガルド達に言った。

 「どうして父を死刑にしたんですか?三年ほど刑務所で過ごせば出て来れると言ってました、どうして、どうして父は殺されなきゃいけなかったんですか?」

 「仕方がなかったのだ、先にカークを死刑にしているしな、同じ国家機密情報を漏えいさせた罪で前者は死刑、後者は懲役三年では世間が納得せんと思った」

 と、ガルドがばつの悪そうな顔をして言った。そこでジャスティ大臣が咳払いを一つ落とし言った。

 「其の方らのメクリアでの罪は十分に分かった、今から其の方らの処遇を検討するゆえしばし牢に入って居ろ、連れて行け」

 「ははっ」

 と、五人の兵士がガルド達を元の牢屋へ連れて行った。そして、法廷に残ったレン達でガルド達の処遇が検討された。

 「いかがでござろう、方々、罪なき者二人をにせの罪状を持ってあやめ、あまつさえ遺族の前では謝罪の言葉も無く太々しく居直り言い訳をする、この事をもってしても死罪が妥当と思いますが」

 と、ジャスティ大臣が言った。レンは、ルークがどうしたいのか知りたかった。

 「ルーク、君はどうしたい?」

 「はい、陛下、あいつらは俺の手で殺してやりたいです」

 と、ルークは、震える手で答えた。

 「私もお父さんのかたきを討ちたい」

 「夫の無念を晴らさせて下さい」

 と、ルーシーとステラが言った。ジャスティ大臣がうんうん頷きマリアを見た。マリアは、涙を流しただ黙っていた。ルーシーがマリアの肩を抱き言った。

 「マリアさん、しっかりしなさい、お父さんの敵が目の前に居るのよ、亡くなったお母さんの分もあるのよ、ガルド達を討ちましょう」

 「は、はい、私も敵を討ちたいです」

 「よう申されたマリア殿、メタール家、アドマイヤ家の気持ちが一つになりましたな、若、エイゼル、ルーク達の敵討ちをどうかお認め下さい」

 と、ヨーゼフが感極まったのか涙を流しながらレンとジャスティ大臣に言った。テランジン、シン、サイモン元帥やフロスト大臣、他の重臣達も二人に頼んだ。

 「もちろんだよ、僕に反対する気は無いよ、ねぇジャスティ大臣も同じだろ?」

 「もちろんでございます、陛下、では本法廷はメタール家、アドマイヤ家の敵討ちを認める事とする、連中を連れて参れ」

 と、ジャスティ大臣は、評定所の役人に言った。ほどなくしてまたガルド達が法廷に連れて来られた。五人横一列に並び座った所でジャスティ大臣がガルド達の罪状を読み上げた。

 「裁きを申し渡す、ガルド、キムズ、パング、ジヨン、イルミ其の方ら十九年前メクリア国において役人の地位を利用し自国の国家機密を他国に売り、その罪をカーク・メタール、ローエン・アドマイヤ両氏に被せ死刑にしあまつさえ抗議に来たステラ・メタール、ルーシー・メタールを狂人扱いした上で国外へ追い出し、さらに国家機密情報漏えいの真犯人として処刑したローエン殿との約束も守らず今日こんにちまで来た事重々不届き至極である、よって我が法廷は其の方らを火炙ひあぶりに処す」

 と、ジャスティ大臣は、言いガルド達を見た。火炙りと聞きガルド達は、震え上がっていた。

 「しかし、此度の一件、其の方らをただ処刑するだけに収まらず、ガルド、キムズ、パング、ジヨン、イルミの五人は、メタール家、アドマイヤ家両家の共通のかたきにて両家の希望により両家の敵討ちを行う事にする」

 と、ジャスティ大臣が言った瞬間ガルドの顔が急に明るくなったのをレンは、見逃さなかった。

 「だ、大臣、今敵討ちと言ったんだな?」

 「左様、討たれるのは無論、其の方達だが」

 「では返り討ちは認めてもらえるんだな?」

 「返り討ち?ああ、もちろん認める、ただしルークに勝てればの話しだが」

 と、ジャスティ大臣は、馬鹿馬鹿しそうに答えた。

 「返り討ちが成功すれば我々は無罪放免か?」

 「ああ、そうじゃな世界の法に照らし合わせてもそうなる、しかし、仮に返り討ちに成功しても今度は、ルークの兄弟分達に狙われる事になるだろうな、あはははは」

 と、ジャスティ大臣が言うとテランジン、シン、サイモン元帥がガルド達に言った。

 「ルークに勝とうと思っているのか知らんが、訳の分からん希望は捨てる事だ」

 「てめらが兄ぃに勝てる訳ねぇだろう」

 「出来るだけ苦しまずに済むように止めを刺してもらうんだな」

 それを聞いたガルド以外の元役人達は、顔を真っ青にしていたが、ガルドだけは自身に満ち溢れた顔をしていた。ジャスティ大臣がルーク達に敵討ちはいつどこで始めるか聞くとルーシーが手を上げ言った。

 「大臣、敵討ちを始める前に三日時間を下さい、場所はどこでも構いません」

 「三日?ふむ、討ち手はそなた達じゃそれで構わんよ、では場所であるが刑場でどうじゃ?まさか街中でやるつもりかね?」

 「いいえ、刑場でけっこうです大臣」

 「良し、では決まりじゃ、三日後刑場にてメタール家、アドマイヤ家の敵討ちを行う、これにて閉廷」

 ジャスティ大臣は、閉廷を宣言し評定が終った。その後、ルーク達とガルド達に使用する武器の説明があり飛び道具以外なら何でも良いと言われた。

 「ところで姉さん、どうして三日も要るんだ?明日でも良かったんだ、どうせ俺一人で片付けられるし」

 と、ルークが拝領した屋敷でルーシーに言った。

 「馬鹿、私もあの連中を叩き斬ってやりたい、だからルーク私に三日間、剣の稽古をつけなさい」

 「ええっ?本気で言ってるのか姉さん」

 「ルーシーあなた」

 「ルークもお母さんも私は本気よ、だからルーク稽古をつけて、マリアさんあなたも稽古をつけてもらいなさい」

 と、ルークの屋敷に泊める事にしたマリア・アドマイヤにルーシーが言った。

 「お願いですルークさん、私にも稽古をつけて下さい」

 ルークは、困った。母のステラは何も言わなかったが二人に稽古をつけて本気で戦わせて大丈夫なのかと。三人は形だけで自分が本気で戦えば良いと思っていたのである。

 「困ったな…三日でどうにかなるとは思えないが、まぁやるだけやってみるか」

 と、ルークは言い明日の早朝から稽古を始める事にした。一方、刑場へ身柄を移されたガルド達は、剣で戦うか槍で戦うか話し合っていた。

 「ガ、ガルドさん、私は剣も槍も使えないよ、どうするんだね?」

 「そうだよ、我々の様な年寄りがあのルークに勝てるとでも思っているのかね?」

 「まぁ女共には勝てるかも知れないが」

 と、キムズとパングとジヨンが情けない顔をして言った。ガルドは、ここに来て急に元気を取り戻したようである。

 「そうか、まぁお前達の祖父さんは元は文官だったからなぁ、わしの家は代々武勇に優れておった、子供の頃から祖父さんによく槍の稽古をつけてもらっててな、今でもたまに槍を持ち身体を動かす事がある、イルミ、お前の家も昔は武官だったなぁ?」

 「ああ、わしは剣を使うよ、こう見えても結構腕が立つ方なんだぞ」

 ガルドは、キムズ、パング、ジヨンに槍で戦う事を勧めた。

 「槍ならわしが三日間、稽古をつけてやる、ルークはわしとイルミに任せお前達は女共を串刺しにしろ」

 「ええっ?ほ、本当にやる気かガルドさん」

 「当たり前だ、あんな小僧に殺されてたまるか、返り討ちに成功すれば、向こう一年間はルークの仲間もわしらには手を出せん、その間に奴らが考えの及ばない場所を探してそこに移り住む、生きてトランサーから出るぞ」

 と、ガルドは興奮気味に言った。


 



 

 

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