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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
172/206

吟味開始

 ガルドが牢破りをしたと城に連絡が入り直ぐにレンに報告された。

 「陛下、ガルドが牢破りをしたと連絡が!」

 と、ディープ伯爵が血相を変えて報告に来た。レンは、自室でエレナと過ごしていた。

 「お休みの所申し訳ございません陛下、先ほど評定所よりお城に連絡がありました、ガルドが脱走したようです」

 と、扉の向こうでディープ伯爵が話した。レンは、急いで着替えを済ませ不死鳥の剣を取った。エレナが心配そうに見ている。

 「レン…」

 「大丈夫だよ」

 レンは、エレナに軽くキスをしてディープ伯爵と重臣達が集まっている部屋へと向かった。城に詰めていた重臣達がレンに気付き皆、一礼した。

 「一体、何がどうなってるんだ?」

 「はい、陛下、評定所の者によりますとガルドはイビルニア製品を持っておったそうで、それに操られているようです」

 話しを聞いたレンは、絶句した。トランサー国内のイビルニア製品は、確かに全て破壊したはずだった。

 「どこで手に入れたんだろう?メクリアから持って来たのかなぁ…そうか!ジャスティ大臣が何か違和感を感じるって言ってたのはイビルニア製品の事だったんだ!」

 「どうやらそのようですな陛下」

 と、ディープ伯爵も納得した。レンは、サイモン元帥とテランジン達に知らせるよう命じた。知らせを受けたサイモン元帥は、ルーク、シンと共に登城。テランジンは、ジャンを連れて登城した。

 「城下にはもう居ないようです、港町に向かったのか?」

 「いや、港町も捜索させてるが見つからないそうだ」

 「いってぇどこに隠れやがったんだ」

 ガルドの異常な状態を見れば夜中でも目立つだろう。捜索を始めてから二時間経過したが見つからなかった。その頃、ガルドは城下町を出て城に続く道の脇ににある林の中に身を潜めていた。すぐ近所にロイヤー屋敷がある。

 「グルフフフ、まさかこんなところに潜んでいるとは思っていないようだな、しかしなぜだ?余の記憶がアルカトを目前にしてから消えている」

 林の中に居るガルドが呟いた。今、首飾りを通してガルドに乗り移っている者の正体は、ベルゼブだった。しかし、このベルゼブは、自分が純白の世界で消滅した事に気付いていないようだった。ベルゼブが生前何らかの形で首飾りに自分の魔力を込め世に放ったのだろう。それが偶然ガルドの手に渡ってしまったのだ。ガルドの身体を使ってベルゼブは、林の中を城に向かって歩いた。

 「あの小僧を殺すまで余は何度でも蘇ってやるわ、グルフフフ…し、しかしこの身体はどうもおかしい、人の身体とはこんなものか?」

 と、ベルゼブは、若者と老人の体力の違いなど全く分かっていない。若い身体に乗り移っていれば楽々に林を抜けれただろうが、ガルドの様な年寄りの身体では、思うように進めない。木の根っこに足を取られ倒れそうになったり、小さな崖を上るのに必死になっていた。何とか誰にも気付かれる事もなく城付近まで到着した。その頃、テランジン達も捜索に加わると言って城門前まで来ていた。

 「しかし、人騒がせな奴だぜ、全く…聞けばエレナ様のお心を奪った時のラストロ殿下の様だったと言っていたな」

 「じゃあ上位者の魔力に操られているって事か?誰だろう?連中はもうこの世に存在しないはずだが」

 「我々の知らない上位者がまだどこかに居るのか?」

 「とにかく、さっさと捕まえちまおうぜ」

 テランジン達は、城門を潜り外に出た。その瞬間、何か異様な気を感じた。後、小一時間もすれば夜が明けるだろう。

 「おい、皆、感じるか?城の直ぐ近くでこんな気を感じるなど」

 「ああ、感じるぞテラン、どこだ?あっ?!あそこに誰か居るぞ!」

 と、サイモン元帥が指差した林の中を皆が一斉に見た。そこには目や口からどす黒い煙の様なものを立ち上げているガルドの姿があった。

 「あの野郎!」

 と、ルークが真っ先に林に駆けこんだ。直ぐにテランジン達も追う。ガルドの身体に乗り移ったベルゼブが魔掌撃ましょうげきを放った。

 「貴様らに用は無いわ!グルゥワッ!」

 ルークは、魔掌撃をまともに喰らい吹っ飛んだが、直ぐに跳ね起きた。

 「ってぇぇ!何だ今のは?おい、ガルドッ!イビルニアのもんなんかどこで手に入れた?」

 ベルゼブは、混乱した。なぜ魔掌撃をまともに喰らって直ぐに立ち上がったのか。評定所内で暴れた時は、確かに威力はあった。

 「ど、どうして直ぐ立ち上がった?グググ…グルワァァァァァァ!」

 ベルゼブに乗り移られたガルドは、魔掌撃を連発した。テランジン達は、襲い来る衝撃波を避けながら妙だと感じていた。

 「おい、何か変だなあいつ」

 避けながら徐々にガルドとの距離を縮め全員で一気に取り押さえた。五人の屈強な男達に取り押さえられベルゼブに乗り移られたガルドは、身動きが取れない。

 「くっ…ど、どうなっておるのだ?余が、余がこんな簡単に捕えられるなど…」

 「余だとぉ?貴様は上位のイビルニア人だな?名は何と言う?」

 「ぶ、無礼者めがぁ余はベルゼブなるぞ、重地縛じゅうちばく!」

 と、取り押さえられているガルドが叫んだ。テランジン達の身体が一瞬重くなったが何ともなかった。

 「んん?貴様、本当にベルゼブか?嘘を吐け!この野郎」

 と、シンがガルドの頭を引っ叩いた。

 「皆っ!」

 と、気になったレンがミトラ隊と共に林の中に現れた。ミトラと近衛兵達がガルドを取り押さえるテランジン達を取り囲んだ。

 「き、貴様はぁ!殺してやる、殺してやるぞぉぉぉぉ」

 と、レンを見たガルドが叫んだ。

 「陛下、信じられませんがガルドは今、ベルゼブに乗り移られているようです」

 「ええっ?ベルゼブに?」

 と、レンは、ガルドをまじまじと見た。本当にベルゼブに乗り移られているのなら、なぜこんなあっさり捕まってるのだろうと疑問に思った。

 「お前は本当にベルゼブなのか?嘘だろう」

 「余はぁベルゼブなるぞぉぉぉグルワッ!」

 と、ガルドに乗り移ったベルゼブが全身から衝撃波を放とうとしたが、衝撃波の代わりに大きな屁を放った。レン達は、大爆笑した。

 「な、なぜだぁ?!なぜ何も起きぬ?グルルル…裂空間陰れっくうまいん!…?…何も起きん」

 大笑いしながらレンは、ルークにガルドの首にかけられた首飾りを外すよう言った。ルークは、ガルドから素早く首飾りを外すと地面に投げ捨てた。レンは、不死鳥の剣をゆっくりと鞘から抜いた。

 「ベルゼブ、残念だったね、お前の魂は純白の世界で消滅したんだ、もしもまだ魂が暗黒の世界に存在して居たらこうはならなかっただろう、十分力を発揮出来たかもね、おまけにその年寄りに乗り移ったのが運の尽きだ」

 レンは、そう言うと不死鳥の剣を構えた。

 「な、何をする気だ、やや止めろ、止めろ小僧」

 「こんな時、シーナやカイエンが居てくれたら龍に変身して炎で灰にしてもらうんだけど居ないからね、ラムール聞こえてるかい?力を貸して、頼んだよ」

 と、レンが言うと不死鳥の剣の淡く赤い刀身が光り出した。

 「雷光斬!」

 レンは、首飾りに雷光斬を放った。ドーンと首飾りに雷が落ちて黒焦げになり粉々になった。ガルドの身体に乗り移っているベルゼブが苦しみ出した。

 「ウガガガガ…き、貴様ぁ…ググ、グルルゥゥゥゥ…」

 ガルドの目や口から出るどす黒い煙の様なものが徐々に消えて行った。そして、完全にベルゼブの気配が消えた。レンは、不死鳥の剣を鞘に納めガルドを見た。テランジン、シン、ジャン、サイモンがガルドから離れた。ルークだけが取り押さえている。

 「おらっ、起きろおっさん」

 ルークがガルドの後頭部を軽く叩いた。

 「うう…うぅぅぅ、痛い!いたたたた…こ、ここはどこだ?ん?あぁぁぁぁぁ?!おお、お前はルーク・メタールか?ひぃぃぃぃ!」

 と、ガルドが意識を取り戻すとルークに気付きルークの手を払いのけ半身を起こしてズルズルと後ずさりした。

 「その様子だと、大丈夫そうだね、後の事は任せたよ、ミトラ帰ろう」

 そう言ってレンは、ミトラ率いる近衛兵達と城に帰って行った。その様子をガルドが目を見張って見ていた。

 「な、何なんだあの小僧は?あんなに兵隊を連れて…痛い!た、叩くんじゃない!」

 と、ルークに頭をまた叩かれたガルドが頭を防ぎながら言った。

 「馬鹿野郎、控えろ!あのお人はてめぇの様な野郎が一生お目に掛かる事の無い尊いお方だ!」

 「ふ、ふん、何が尊いだ…で、一体ここはどこなんだ?わしは牢屋に居たはずじゃ…ま、まさかお前わしをここで殺す気か?」

 残ったテランジン達は、呆れてものを言う気にならなかったが一応説明してやった。ガルドは、自分の首に首飾りがない事に気付き慌てた。

 「わ、わしの首飾りが…どこだ?お前取ったな?畜生め、返せ」

 「慌てるな、貴様の首飾りはあれだ」

 と、テランジンが黒焦げになり粉々になった首飾りを指差した。

 「ああああ、何て事を!」

 と、ガルドが首飾りに近付こうとした時、テランジンが止めた。

 「触るなっ!さっきも言っただろう、それはイビルニア製品だと、貴様はその首飾りを通してサターニャ・ベルゼブに身体を乗っ取られていたんだぞ」

 「サ、サターニャ・ベルゼブって…えぇぇぇぇ?そ、そんな…」

 「まぁ信じられんだろうが、事実だ、評定所に戻ればベルゼブが貴様の身体を使って何をしたか分かるだろう、念のためだ、もう一度その首飾りに雷光斬を撃つ」

 そう言うとテランジンは、剣を抜き首飾り目掛けて雷光斬を放った。さらに細かく破壊出来た。空が白み始め夜明けを告げた。

 「全く、もう朝になった、寝不足で吟味中に眠ってしまいそうだな、評定は午後からにしてもらおう」

 「そうしてもらおうぜ兄貴、俺ぁこいつを評定所へ連れて行ったら帰ってひと眠りするよ」

 「ああ、その方が良いな、さぁ皆帰ろう」

 と、テランジン達は、屋敷に帰った。ルークとシン、サイモンがガルドを評定所まで連れて行った。ガルドを見た評定所の役人や兵士達は、激怒していた。

 「この野郎、よくもやってくれたな!あそこもここも全部お前が壊したんだぞ!」

 「そうだ、怪我人も出ている、覚悟しとけよ!」

 ガルドは、全く訳が分からない様子で牢屋まで連れて来られた。そこに残っていた仲間の元役人達も怒っていた。

 「ガルドさん、あんた酷いじゃないか!何でイビルニア製品なんか持ってて何も感じなかったんだ?」

 「せっかく介抱に来てくれた兵隊さんに怪我まで負わせて、信じられん」

 「うるさいっ!わしは何も知らないんだ、気が付いたら城の近くの林の中だった、腕もほれ、擦り傷だらけだ」

 と、ガルド達が言い合うのを黙って見ていたルークに気付いた元役人がルークに気付き悲鳴を上げた。

 「ひぃぃぃ!ルルル、ルークじゃないか?」

 「貴様らの評定は午後からだ、覚悟しておけ」

 そう言い残してルーク達は、各自の屋敷に一旦帰った。


 午後になりルークとステラ、ルーシーやシン、ヨーゼフ、テランジンのロイヤー義親子おやこサイモン元帥、ジャスティ大臣、フロスト大臣や各大臣そして珍しくラストロも評定所に集まって来た。

 「メクリア大使殿がまだ来ておらんそうだな?」

 「陛下もお越しになられますぞ」

 と、ジャスティ大臣と他の大臣達が話しているとメクリア大使が女性を一人連れ現れた。

 「遅れて申し訳ございません」

 と、メクリア大使、ワイマンと連れの女性が頭を下げた。ジャスティ大臣は、うんと頷き女性だけ別室に連れて行った。他の大臣が今の女性はと聞くとフロスト大臣が評定で分かるとだけ言った。サムス・ヒープは、午前中にテランジンの子分達に評定所に連れて行かれていた。

 「陛下がお見えになられました」

 と、評定所の役人が知らせに来たので評定を開始する事になった。法廷の壁側上段にレンと側用人であるディープ伯爵が座った。レンの前のは、御簾みすが掛かってガルド達には、はっきりと顔が見えないようになっている。レンから見て右側手前にジャスティ大臣とルークが座っていて奥にテランジン達各大臣が座っている。そして、左側手前にワイマン大使とサムス・ヒープが座っている。まずは、ルークとサムス・ヒープの争いとなった。

 「これより評定を行う一同、起立されよ」

 と、ジャスティ大臣の掛け声で皆一斉に立ち上がりレンに向かって礼をとった。

 着席

 「サムス・ヒープ、立ちませい、其の方何故トランサー王国へ参った?」

 と、ジャスティ大臣が始めた。サムス・ヒープは、十九年前のルークによる本家討ち入りから話し始め、現在借金があり当時のルークの本家討ち入りが不当であったとして賠償金を取り、その金で借金を返済しようと考えたと話した。

 「何故、今頃になって賠償金を取れると思ったのか?」

 「ははぁそれはルークがこの国で貴族に列したと知り、貴族ならそれなりに金は持ってるだろうと考えまして…」

 と、ヒープは、情けない顔をして言った。そして、ジャスティ大臣が呆れ顔で言う。

 「賠償金より先に本家の仇を討とうとは考えなかったのか?」

 「とと、とんでもない、私がどう頑張ってもルークに敵うはずがございません…で、ですから平和的にと思ったのですが…今日までロイヤー様のお屋敷におりまして考えが変わりました、元々は私の本家がルークの父親であるカーク殿を罪に陥れた事が原因です、分家筋の私が賠償金などと考えたのが間違いでした」

 「ふむ、それで賠償金は諦めるのか?それともルークを討ち取りたいか?」

 「そそそ、そんな…両方ともけっこうです、借金は真面目に働き返します、それとヒープを名乗る分家の者としてメタール家の人々に本家のやった事をこの場をもって謝ります」

 と、ヒープは、ルーク、ステラ、ルーシーに深々と頭を下げた。ルーク達は、意外に思った。こんなにあっさりと終わるとは思ってもみなかった。

 「ルーク、ステラ殿、ルーシー殿いかが致す?」

 「もう良いです」

 「はい、サムスさんあなたの言葉を聞き気持ちは晴れました」

 「………」

 と、ルークと母ステラは、答えたが姉ルーシーだけ何も言わなかった。

 「では、これで一件落着じゃな、サムス・ヒープ、今からガルド達を呼ぶ、其の方には引き続き評定に参加してもらう、良いな?」

 「ははっ」

 と、ヒープは、返事をしてワイマン大使の隣りに座った。ジャスティ大臣が役人にガルド達を連れて来るよう命じた。ほどなくして兵士達にガルド達が法廷へ連れて来られた。五人横一列に並べられた。

 「一同の者、陛下の御前である、平伏せよ!」

 と、ジャスティ大臣は、ヒープとは打って変わって罪人に対する言い方をした。事実、ガルド達は、メクリアより罪人としてトランサーに送られて来ている。ガルド達は、自分の国では平伏などしないと言い軽く頭を下げただけだったが、後ろに立つ兵士達に無理やり平伏させられた。

 「愚か者め!其の方らにはっきり言っておく、其の方らは罪人であるぞ!控えよ!」

 と、ジャスティ大臣は、厳しく言った。ガルド達に椅子など無く床に直接座らされた。

 「これよりドット・ガルド以下四名の吟味を行う、初めに其の方昨日の夜中に牢で暴れ脱走したそうじゃな」

 「ここの役人にも何度も言ったがわしは全く覚えてないんだ、信じてくれ、ああ、そのイビルニア製品の魔力とか何とか聞いたが、あの首飾りがイビルニア製品だったとは知らなかったんだよ」

 と、ガルドがイライラした様に言った。大臣席に居るラストロが神妙な顔つきで聞いている。

 「知らぬ事とは申せイビルニアの物を持っていたり他国に持ち込んだだけでも罪だな、それにしても身に付けていて何とも思わなんだのか?」

 と、同じ大臣席側に居たヨーゼフが言うとガルド達が驚いた。かつてフウガ・サモン、インギ・スティールと共に世界の三大英雄の一人として名を馳せたヨーゼフ・ロイヤーが居るのである。ガルド達の年齢の者なら知らない者はいない。ガルドは、答える事が出来なかった。

 「悪意を持つ者がイビルニア製の物を持つとな、その魔力に支配され持ち主を破滅へと追い込むのだ、まさに今の其の方だな」

 と、ヨーゼフに言われガルドは、何も言えず思わずうつ向いた。ジャスティ大臣は、咳払いをして呆れた様にガルドを見てレンに言った。

 「まぁ幸いにして怪我人も大した事もなく死人が出んかっただけ良かったわい…いかがでございましょう陛下、この件に関しましては首飾りも陛下のおかげで無事破壊され既に解決済みにございます、本件とは関わりがございませぬゆえ不問に致そうと存じまするが」

 「はい、僕…いや余も不問で良いと思う」

 と、御簾の向こうから聞こえた。ガルドは、夜明け頃、林の中で聞いた若者の声だと気付き驚いた。

 (陛下?ま、まさかあの小僧がこの国の国王レオニール・ティアックだったのか?そ、そうかだからルークはわしに一生お目に掛かる事の無い尊いお方と言ったのか…くぅぅぅぅ生意気な!はっきり顔を見せろ)

 「良かったのう、陛下の御許しが出た、それでは本件の吟味を始める、ドット・ガルド、並びに四名の者、何故なにゆえルーク・メタールや陛下の名誉を汚す記事を新聞に掲載させあまつさえルーク・メタールをメクリアに召喚し吟味しようとした?申せ!」

 と、ジャスティ大臣が厳しい口調で言うとガルド達は、驚き答えた。

 「待ってくれ、確かにルークの名誉を汚す記事は載せさせたがこの国の国王の名誉を汚すような事は…」

 「ほほぅ、誠にそう思うのか?テランジンちょっと読んでやれ」

 と、ヨーゼフが言うとテランジンは、席を立ち新聞記事の一部を読み始めた。

 「歳若い国王陛下は、ルーク・メタールの残虐性を見抜けず海軍中将、果ては爵位を与え貴族に列した、このような国王を頂く国民はよい迷惑である…貴様らの言う残虐性とは何か?どこの国の国民が迷惑しているのか?」

 「我々臣下はルークだけでなく陛下も侮辱していると見た」

 「そそそ、それはあなた方の勘違いですよ、その一文いちぶんは陛下の事を心配して書かせたのです」

 「国民はよい迷惑であると書いてあるが…」

 「そ、その続きを呼んで下さいよ」

 と、ヨーゼフの言葉尻を捕ってキムズと言う元役人が答えた。ヨーゼフは、テランジンに読めと言った。

 「…迷惑である、よって早々にルーク・メタールを解任し爵位を剥奪しメクリア政府に引き渡すべきである、若い国王の英断を期待する」

 「そうだ、わしらは期待した…ルークの過去を知れば必ず引き渡すと考えた」

 と、ガルドが太々しく言った。御簾の向こうでレンがディープ伯爵に何やら囁いている。ディープ伯爵が御簾の向こうから出て来てガルド達に言った。

 「陛下の御言葉である、謹んで聞けぃ…余の臣下の進退は余と重臣達で決める事、他国人である其の方共悪党にとやかく言われる筋合いは無い、との仰せである、控えよ!」

 と、言ってディープ伯爵は、御簾の向こうへ引っ込んだ。

 「むぅぅ…まどろっこしい、人を介せず直接ものを言えんのか、これだから王政は嫌いなんだ」

 と、ガルドが吐き捨てる様に言うとジャスティ大臣がまた咳払いを一つ落とし言った。

 「ところでメクリアは五十年前は王政だったな、そこのヒープと其の方らはメクリア王家の家臣だったそうな、メタール家とは相当仲が悪かったと聞いたが」

 サムス・ヒープは、申し訳なさそうな顔をしていたがガルド達は、堂々として言った。

 「そうだ、わしらの祖父じいさんは王家に見切りをつけ革命軍に参加した英雄だ」

 「左様、腐敗した王家を倒した英雄だった」

 「ふん、何が英雄だ、ただの裏切り者の間違いだろう」

 と、ルークが言うとガルド達は、ルークを睨み付けた。ルークの後ろに居るルーシーが鬼の様な顔をしてガルド達を睨み付けている。

 「ふん、祖父さんが良く言っていた、メタール家の者は絶対に許さんとな…革命軍に最後まで抵抗したのにも関わらず、革命後なぜか中央の重職に就いたラムズ・ムステンに上手く取り入ったのだろうと」

 「わしの祖父さんも良く言ってたなぁムステン大統領は我々に冷た過ぎると…我々が革命軍に参加したからこそ王家を倒せたのではないかと」

 と、ガルドに続きジヨンと言う元役人が憎らし気に言った。

 「サムス・ヒープ、お前も何か言ってやれ、お前の家が最大の功労者だったはずだぞ」

 と、ガルドが言うとサムス・ヒープは、額に汗を光らせ言った。

 「そんな五十年も昔の事、私には関係ない革命に参加したのは私の大伯父、私の家はただの分家です」

 「もうよい、話しを元に戻す、其の方らはルークをメクリアに召喚し吟味をしてどうするつもりだったのか?」

 「ああ、十九年前のヒープ本家襲撃の犯人として死刑にするつもりだった…あの敵討ちは無届けだったからなぁ…しかし、今頃になって現大統領のハルムが認めた」

 と、ガルドは、一点を見つめて言った。

 「ところで何故、其の方らは騒いだのだ?」

 と、ジャスティ大臣が言うとガルド達は、ヒープを指差し言った。

 「この男がメクリア政府にルークから賠償金を取りたいと相談を持ち掛けたのが切っ掛けだった」

 「ちょ、ちょっと待って下さい、私が切っ掛け?」

 「そうだ、お前が切っ掛けだ!それまでわしらは平穏無事に暮らしておった、それなのに十九年前の事を蒸し返しおって…」

 「私はただルークがこの国で貴族になったから金は持っていると思い遺族として国からルークに賠償金を請求して欲しいと相談したまでだ、これはあくまで個人的なものです」

 と、ヒープが鼻息を荒げてガルド達に言った。

 「個人的なものでも何でもお前さえ何も言わなければ無事で済んだんだ」

 「わしらは焦った、ヒープが騒いだ事で他国で貴族になったルークは必ず十九年前の事で何か言って来ると思い先手を打つ事にした」

 「それがあの新聞記事だな…ルークよ、お主は十九年前の事で何かしようと考えたかね?」

 と、ジャスティ大臣は、ルークを見て言った。

 「いいえ、あの新聞記事を見て腹は立ちましたがガルド達の事など思い出さなかったし何かしようとは思いませんでした、もうメクリアには関わりたくなかったもんですから」

 と、ルークは、今は違うぞと言わんばかりにガルド達を睨み据えながら答えた。

 「なるほどのぅ、ふむふむ、ガルドよ其の方らの早合点が墓穴を掘ったようだな」

 ジャスティ大臣は、顎髭を撫でつけながら言う。そして、ルークが続けて言った。

 「今は違います、この連中を殺してやりたいです、当時この連中は役人でしたからこっちは手も足も出せなかった…仕方なく親父が国家機密を流していると偽りこいつらに報告したザイル・ヒープ家の連中だけ討ち取りましたが、真のかたきはこの連中なんです」

 「そう、お父さんはあの日、何かの間違いだから直ぐに戻れると言って家を出た…ところがその日は帰って来なかった、そして三日後お父さんはこいつらに死刑にされたんです」

 と、ルーシーがルークの後ろで涙を流して訴えた。大臣席がどよめいた。ヨーゼフやテランジン達は、話しを先に聞いていたので冷静にガルド達を見ていた。それでルークは、十九年前、父カークの死刑後にザイル・ヒープつまりヒープ本家に討ち入り本家の連中を皆殺しにして屋敷に火まで放ちメクリアを逐電したのだ。メクリアに残された母ステラ姉ルーシーには、半年間の謹慎処分が言い渡された。生前のカークの評判が良かったせいかガルド達の処分に不満を持つ者も多く情報漏えいの原因の再調査を求める声が高くなり、ガルド達は困り果てたと言う。

 「決着の付いた事件なのに世間は納得しなかった、だからわしらは再調査したさ」

 「そう、そして真犯人が見つかった」

 「当然その男も極刑にしてやったがな、国家機密を流したんだ当然の処分だった」

 と、ガルド達は、当たり前の様に言うとジャスティ大臣が評定所の役人を呼び何か言った。

 「ははっ!」

 と、返事をして法廷から出て行くとワイマン大使と共に評定所に来た女性を連れて戻って来た。

 

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