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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
171/206

ガルド召喚

 ジャンに連れられたサムス・ヒープが怯えながらルークの前に姿を現した。

 「いよぉ、久しぶりだな、おっさん」

 「ル、ルーク」

 新聞で見たルークと目の前の生身のルークとでは、随分違うように見えヒープは大いに驚いた。

 「何しにこの国へ来た?」

 と、ルークは、ヒープの目的を知っていながらわざと聞いた。ヒープは、ルークを見上げながら答えた。

 「あ、あの時の賠償金を払ってもらうためだ、私はヒープ家の分家の者、私は被害者の一族だぞ、本家をあんな形で失ったんだ」

 「あんな形って?あれは立派な敵討ちだ、現大統領のハルムが正式に認めたってお城で聞いた」

 と、ルークは、無表情に言うとヒープは、信じられないといった顔をした。そして、ルークが賠償を受けるのは、メタール家であり近くメクリア国から正式に謝罪と賠償がなされると話すとヒープは、泣きそうな顔をして言った。

 「な、どうして私には賠償が無いんだ!今さら敵討ちを認めるって…」

 「ふん、お前の本家が何をしていたのか知ってるだろう、お前の家はその本家のおこぼれで生きていた、本家が滅亡してお前の家が貧窮したぁ?…そんな事私達には関係ない!何が賠償金を払えだ!」

 と、ルーシーが殴りかからん勢いで言うとヒープは、ジャンの後ろに隠れた。

 「ヒープ、メクリアからガルド達元役人がこの国に召喚される事が決まった、俺はあの連中を許さない、お前の一族の嘘を信じて親父を死刑にしたあいつらをこの手で始末してやる、で、お前はどうする?俺は賠償金は払わん、一族の敵を討ちたいと思うなら掛かって来い、返り討ちはどこの国でも認められている、俺はお前を返り討つだけだ」

 「そんな…わ、私がお前に挑んで勝てるわけが無い、私は平和的に解決したいだけだ、だから賠償…痛い!」

 と、ヒープが言い切る前にジャンが黙れと言わんばかりにヒープの頭を引っ叩いた。ヒープが恨めし気にジャンを見上げた。とにかく話しは、ガルド達が来てからだと言う事になりサムス・ヒープを引き続きロイヤー屋敷で預かりルークは、母と姉を連れて拝領した貴族町にある屋敷に帰った。屋敷では、先に帰っていたルークのお気に入りの弟分達が出迎えた。

 「お帰り兄貴、そちらが母上様と姉上様ですかい?ささっどうぞどうぞ」

 と、弟分達に居間へ通されたステラとルーシーは、部屋の作りを見て驚いた。どこからどう見ても貴族の屋敷である。重厚な作りに綺麗に装飾された壁や柱、立派な暖炉、二人は改めて自分の息子や弟が貴族になったんだと思った。

 「母さん、姉さん、良かったらメタルニアを引き上げてうちに来ないか?一緒に暮らそう」

 と、ルークは、少し照れながら言った。

 「良いのかい?お前とまた一緒に暮らせるなんて…母さん嬉しいよ」

 「ふん、当たり前だ、あんたには一生私達の面倒を見る義務がある!あんたのせいで私の人生は滅茶苦茶になったんだ」

 と、ルーシーが怒ったように言った。ルークは、ばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。ルークは、せっかくだから二人がトランサー国民になれるよう大臣に話すとも言った。そして、この日は親子姉弟の再会を果たしためでたい日と言う事で、ささやかな祝いの席を作り弟分達と祝った。

 翌日、ルークは登城して無事に親子姉弟の再会を果たしたとレンに報告した。それからジャスティ大臣とフロスト大臣が居る部屋に向かいガルド達の召喚の日を決め、母と姉がトランサー国民となれるよう頼んだ。そして、メタール家の墓をメクリアからトランサーに移したいとも言った。全て認められホッとしたルークだった。その頃、前任者の代わりに来たメクリア大使が謁見の間でレンに挨拶していた。

 「このたびワイマン大使の後任となりましたベックです、ご拝謁出来まして光栄に存じます、早速ですが貴国の海軍中将ルーク・メタール子爵をメクリアにお引き渡し下さい、ご存知かと思われますが彼の者は十九年前メクリアで大量殺人を犯した人物です、被害者一族の者が当時の事で賠償金を求めておりますれば、我が国においてその事で吟味致したいのです」

 と、若いベック大使が言った。レンとディープ伯爵は、何も知らないのかと思いベック大使がトランサーに来るまでの間の出来事を話してやった。

 「あなたが我が国に来る間にルーク・メタールの敵討ちは正式なものとなり罪は消えました」

 「左様、ご貴殿を大使に任命するため裏で工作したであろうガルドとか申す元役人は今、謹慎処分を受けておるとか」

 「ええっ?そんな、まさか」

 と、ベック大使が驚いた時、城詰めの役人が報告に来た。

 「只今、メクリア大使館員の方がベック大使に本国より火急の伝言があると参っておりますが」

 と、聞いたディープ伯爵は、一瞬ニヤリとして「お通ししなさい」と役人に言った。直ぐにメクリア大使館員が通された。大使館員は、まずレンとディープ伯爵に挨拶しベック大使に向き言った。

 「ベック大使、先ほどハルム大統領自ら魔導話があり大使は解任されました」

 「はぁ?私が解任?」

 「はい、後任は元のワイマン大使です、それと急ぎメクリアにお帰り下さいガルド達の事で聞く事があるとの仰せです」

 と、大使館員から言われベック大使は、呆然としていた。

 「わ、私は一体何のためにここへ来たんだ?」

 がっくりと肩を落として謁見の間から出て行くベックを見てレンは、少し可哀想だなと思った。これより少し前、ルークと話し終ったフロスト大臣は、ハルム大統領に魔導話で直接会談していた。内容は、ガルド達のトランサー召喚である。ハルム大統領は、快諾しこう言った。

 「全てルーク殿の心のままに…真のかたきはガルド達でしょうから…実は大臣、ガルド達の祖父達は五十年前はメクリア王家の家来共でした、ヒープ家は重臣、どちらも王家を裏切り革命軍に加担した者達でした、あの連中はメタール家を恨んでおったのです、革命後ヒープやガルドらに与えられた席は、たかが地方の小役人…最後まで王家と共に抵抗したメタール家には中央の重職の席が与えられたのですから…この事がずっと尾を引いていたのでしょう、カーク殿の代で不幸が起きてしまった…残念ですが今もなおこう言った昔のしがらみが続いております、私が大統領としてこのしがらみを断ち切りたいと思います、ガルド達は罪人としてそちらに送ります」

 会談を終えたハルム大統領の行動は迅速を極めた。まずワイマン大使の後任としてガルドの息の掛かったベックを直ぐに解任し元のワイマンを復任させ、謹慎しているガルド達を捕えるため役人を送った。そして、ある女性を一人、大統領官邸に呼び寄せた。謹慎処分を受けているにも関わらず何の反省もせず家でゴロゴロと退屈そうにしていたガルドは、役人が来た事で謹慎が解かれたと思った。

 「おお、やっと謹慎が解けたか、やれやれ」

 「何を勘違いしている、ドット・ガルド、十九年前何の罪も無い者を逮捕し死刑にした罪で逮捕する」

 「…はぁぁぁぁぁ?きぃ…貴様ぁ誰に向かって…」

 「黙れぇ!これより大統領閣下のお言葉を申し伝える!神妙に聞けぃ!」

 と、役人は、怒鳴り一枚の令状を見せ読み上げた。

 「ドット・ガルド、汝は十九年前において当時外交官として活躍していたカーク・メタール殿をザイル・ヒープの嘘の証言を元に逮捕し情報漏えいの罪を着せ死刑にしあまつさえ刑に対し抗議に来たカーク殿の妻ステラ殿と娘ルーシー殿を狂人扱いした事、重々不届き至極である、よってメクリア政府の名において汝を逮捕しトランサー王国へ引き渡す」

 「な、何を今頃…何でわしがトランサーなんかに行かなきゃならんのだ?」

 と、真っ青な顔をしてガルドが言った。傍で妻が呆然と聞いている。役人は、構わず読み上げる。

 「故カーク・メタール殿の嫡男ルーク殿は今はトランサー国民であるため汝が罪はトランサーの法で裁かれる、以上」

 「そ、そんな…」

 と、うな垂れるガルドに構わず、役人達は逮捕した。他の四人の元役人達も逮捕され復任したワイマン大使と共にトランサーに送られた。知らせを受けたルークは、静かに怒りの炎を燃やしていた。軍務を終え拝領した屋敷に帰ったルークは、ガルド達の事をステラとルーシーに話した。

 「本当かい?本当にあいつらが来るのね!」

 「ああ、姉さん、三、四日もすれば来るだろう」

 と、ルークが言うとルーシーは、大喜びした。やっと父の本当の敵が討てると思った。当時は、役人だったので手も足も出せなかったが今回は、罪人なのだ。

 「あなた…やっとこれで本当に無念が晴らせるわ」

 と、母ステラがカークが写った写真を見て呟いた。そして、四日後に復任したワイマン大使がレンに謁見していた。

 「復任おめでとうございますワイマン大使」

 「ありがとうございまする陛下」

 と、ワイマン大使は、にこやかに言った。ディープ伯爵は、古い友人にでも会った様な感じで言う。

 「ああ、大使殿、ガルド達は今どこに?」

 「はい、大使館にて武官を見張りに就け閉じ込めております」

 と、ワイマン大使は、答えメタール家に対してメクリア政府から出た謝罪文の書かれた書状と賠償金が入った袋を差し出した。ディープ伯爵は、謁見の間に居た役人に別室に運び入れるよう命じた。

 「あれは確かにルークに渡しておきましょう、ガルド達の身柄を評定所に移したい、後ほどテランジン一家いや海軍士官を差し向けるのでお引き渡し願いますか?」

 「一家?…はぁ、承りました」

 そして、ワイマン大使が大使館に戻るとシンとジャン・ギムレットが兄弟分を引き連れてガルド達元役人の身柄を引き取りに来た。

 「海軍少将シン・クライン男爵である、ドット・ガルド他四名の身柄を引き取りに来た」

 と、シンは珍しく大真面目な顔をして大使館員に言った。シンなりに威厳を出したかったのだろう。大使館員は、直ぐにワイマン大使に伝えた。ワイマン大使は、武官にガルド達を連れて行くよう命じた。シン達の前に連れて来られたガルド達元役人は、驚いた。海軍の将軍が自分達の身柄を引き取りに来たと聞きどんな年寄りかと思えば自分の息子ほどの歳の男が目の前に立っている。ガルドは、急に態度を変えた。

 「何だ、貴様の様な若僧が海軍少将だと?ふざけるな!この国は一体どうなってるんだ?」

 その言葉にジャンがカッとなりガルドの頬をビンタした。

 「痛い!な、何をする!」

 「無礼者!控えろ!クライン少将の実力は我らが主君レオニール国王やトランサー海軍元帥ロイヤー卿、他国においてはジャンパール皇国海軍のアイザ大将やヤハギ中将がお認めになられている、今度ぬかしやがったらこいつをくれてやる!」

 と、ジャンは握りこぶしを見せつけガルドを怒鳴りつけた。ガルドは、これまた自分の息子ほどの歳の男に怒鳴られ顔を真っ赤にして怒りに耐えているが、他の四人は、逆に顔を青くしていた。こうしてガルド達は、評定所内の牢屋に入れられた。

 「てめぇらの裁きは明日から始まる、そこで大人しくしてろ」

 シン達が牢屋から出て行くとガルドは、直ぐに寝転がった。

 「ふん、生意気な小僧共め!」

 と、吐き捨てる様に言った。他の四人は、壁にもたれる様にして座った。

 「なぁ、わしらは一体どうなるんだ?何でこんな事になったんだ?」

 「そうだ、たかがヒープの分家の者が騒いだくらいでガルド、ビビり過ぎたんだよ」

 「ああ、まだルークが何も言って来なかったのに」

 「ほっときゃこんな事にはならなかったかも…」

 と、他の四人はガルドの文句を言い始めた。ガルドが半身を起こし四人を睨み付けた。

 「わしのせいと言いたいのか?元を正せばサムス・ヒープが騒ぎ出したんだぞ!」

 「ほっときゃ良かったんだよ!確かに今頃になって分家の者が騒ぎ出すとは夢にも見なかったが…何も新聞記事に当時の事やルークを罪人に仕立てる様な内容の記事を載せさせる事は無かったんだよ」

 「だ、黙れキムズ!貴様も新聞記事にするのを賛成したではないか!」

 と、ガルドはいつの間にか服の上から首飾りを握り締めながら怒鳴った。キムズと呼ばれた男が妙だなと思った。胸を押さえている様に見えたからだ。

 「ところでガルドさん、先ほどから胸を押さえている様に見えるが痛むのか?」

 「んん?いや別に痛みはせんが…ああこれか」

 と、ガルドは首飾りを引っ張り出し皆に見せた。

 「謹慎中、暇だったんでな、久しぶりに部屋を片付けていたら引き出しから小箱が出て来て中を見たらこれが入ってたんだ、まだ現役の頃わしに気に入られようとしたのかある小役人が持って来たものだ」

 と、自慢げに皆に見せた。十五年以上前、当時は女、酒、金にしか興味が無かったガルドがこの首飾りの入った小箱を受け取った時、ろくに中身を確認せずに自室の机の引き出しにしまい込み、その存在すら忘れていた。しかし今回謹慎を受け退屈だったことから珍しく自分で部屋を片付けていたところこの小箱を発見し中身を確認して驚いたと言う。首飾りを手に取りよくよく見ると何とも言えない美しさを感じた。そして、何よりこの首飾りを身に付けていると謹慎中の不安や先々の不安を感じなくなった事に気付いた。それ以来ずっと肌身離さず身に付けている。

 「まぁわしのお守りみたいな物さ」

 「何がお守りだ!現実を見ろ!」

 「うるさい、パング!」

 と、ガルドは、パングと呼んだ男を睨みまた寝転がった。ガルドは、どこかで自分は絶対に助かると思っている様だった。ガルド達が評定所の牢屋に入ってから二時間ほど経った頃、役人が現れた。

 「貴様ら控えろ、トランサー王国法務大臣エイゼル・ジャスティ公爵がお見えになられる」

 法務大臣と聞きガルド達は、一応態度を正した。そこへジャスティ大臣が牢屋に入って来た。いかにも頑固そうな貴族の老人の姿にガルド達は、やっとまともな人間を見たような気がした。

 「ほうほう、おのれらがルークの父上を死に追いやった連中か」

 「だ、大臣閣下、何故我々はこの国の裁きを受けなければならんのです?」

 と、ガルドが鉄格子を握り締め顔を鉄格子の間に突っ込むようにして言った。

 「ふむ、確かに本来ならメクリアの評定所で裁きを受けるのが当然だろう…しかし、父を殺されたルークはトランサー国民である、被害者の国籍がある国で裁くのも当然であろう、ハルム大統領は、全てルークの心のままにと言われたそうな…ルークがおのれらをどうするかは分からん、おそらく父を殺した真の敵としておのれらを討つだろう、まぁ覚悟しておくことだ」

 と、ジャスティ大臣は、牢の中の五人を見ながら言った。ガルド以外の四人は、顔を青くしていた。

 「大臣閣下、ルークがわしらを討つと言う事は対決出来ると言う事ですな」

 「ふむ、まぁそうじゃな」

 「では返り討ちも可能と言う事ですかな?」

 と、ガルドは額に汗を滲ませながら聞いた。ジャスティ大臣は、ガルドを真っ直ぐ見つめ答える。

 「うむ、ルークが自分の手でおのれらを討ち取る事を望めば、返り討ちは認める、まぁルークに勝てるとは思われんが…」

 (はて?何か妙なものを感じる…何じゃ?)

 と、ジャスティ大臣は、答えながら思った。気のせいだろうと思いガルド達に評定は、明日から始めると言い残し牢屋を出て行った。

 「おい、ガルドさん本気かね?相手は海賊をやってたんだぞ、我々のような年寄りが勝てるとでも?」

 「フフフ、ジヨン大丈夫だ、我々五人で掛かれば絶対に勝てるさ」

 「その自信はどこから湧いてるんだ、信じられん」

 と、他の四人は、顔を見合わせ口々に文句を言ったが、ガルドだけはなぜか自身に満ち溢れていた。


 城に帰ったジャスティ大臣は、ガルド達の様子をレンとディープ伯爵に話した。そして、ガルドがルークと対決したいと言っている事を話した。

 「ルークと対決って…まさか剣を交えるって事?」

 「その様です陛下、返り討ちは可能かと申しておりましたので」

 と、ジャスティ大臣が呆れ気味に言った。レンとディープ伯爵は、顔を見合わせ呆れた。ガルドの様な年寄りがイビルニア人を相手に戦って来た男に勝てるはずがないだろう。レンは、ガルドと言う男は、頭がおかしいんじゃないかと思った。

 「それと…まぁこれは拙者の気のせいでありましょうが、ガルドを見ておりましたら何か妙なものを感じました」

 「妙なものって?」

 「ははぁ上手く説明出来ませぬが、何かこう違和感と申すか…以前にも似たような事がありましたなぁ」

 「何でしょうな?気になりますなぁ」

 と、ディープ伯爵が顎に手をやり言った。レンは、ジャスティ大臣が言った「以前にも似たような事」が妙に気になった。

 「明日の評定は僕も出ます」

 「なりませんぞ陛下、あのような連中に陛下の御姿をお見せする事はなりませぬ、お控え下さい」

 と、ジャスティ大臣は、止めたがレンは、聞かなかった。

 「その妙なものが気になるんだ、だから僕は出るよ」

 「ううむ、では陛下の前に御簾みすを掛ければよろしかろう」

 と、ディープ伯爵がジャスティ大臣に言った。それならとジャスティ大臣は、了承した。ジャスティ大臣が部屋から出て行き、レンは椅子にもたれ掛かり天井を見つめた。

 「以前にも似たような事って何事だろう?」

 「昔ジャスティ大臣が手掛けた裁きに同じ様な事があったんでしょうなぁ」

 「妙な感じがする?」

 「はい、その様に思われます」

 「変な事が起きなきゃ良いけど…」

 と、レンは思いふと明日は、不死鳥の剣を持って行こうと決めた。ラムールは既に剣に帰って来ていた。レンの部屋から出たジャスティ大臣は、フロスト大臣に呼ばれてある女性と城内のフロスト大臣が政務を執る部屋で会い話し合っていた。女性から渡されたハルム大統領からの手紙を読みジャスティ大臣は、激しい憤りを感じていた。

 この日の夜、ロイヤー屋敷でテランジンは、サムス・ヒープを前にして食事をしながら話していた。明日から評定が始まると言うとヒープは、情けない顔をして頷いた。貧相な顔をが更に貧相になった。

 「あのぅ、テランジン殿…私はどうなるのですか?」

 「さぁなぁ…あんたはルークから金を取ろうとここに来たのだろう?」

 「は、はい、ですがもう諦めました…よくよく考えれば私はただの分家…賠償金で借金を返そうと思ったのが間違いでした…はい…借金は真面目に働いて返します」

 と、目の前の皿を見つめながらヒープが言った。

 「まぁそういう事だな、しかしあんたにも評定に出てもらう事になるぞ、あんたの知る限りヒープ本家の事やガルドとか言う元役人達が何をやっていたかを評定の場で話すんだ、良いな」

 と、テランジンに言われたヒープは、何か思い詰めた様な顔をして頷いた。食事を終えたテランジンは、ヨーゼフ、リリーに久しぶりに「青い鳥」に行って来る言い港町に出掛けた。この日は子分を連れず一人で行った。青い鳥に入るとルークとシンがカウンターで飲んでいた。

 「おお、お前達も来てたのか」

 「ああ、兄貴、オヤジ席を替えるぜ」

 と、ルークが言い、いつも陣取る奥の席に移った。青い鳥は、相変わらず活気に満ちている。店の看板娘でシンの恋人でもあるライラが客をからかいながらテランジン達の席にやって来た。

 「いらっしゃいテランさん、飲み物は何にする?」

 「ああ、いつものを頼む」

 「俺達にも追加だ、もう空になっちまった」

 「はーーーい」

 と、ライラは、元気よく返事をして奥に引っ込んで行った。シンがテランジンにライラとはいつ結婚するんだと言われ照れながら頭を掻いた。ルークは、明日から始まる評定の事をぼんやり考えていると女性が一人、店にやって来てカウンターにぽつりと座った。初めて見る顔でありトランサー人ではない事が一目で分かった。観光客だろうと何となくルークは、見ていたがどうも違うようだった。歳は、ルークより若い三十前後といった所だろう。美人であるがどこか寂し気な感じがした。

 「メタルニアか、メクリアからの観光客かな?」

 「ん、どうした?」

 と、テランジンがルークに言うとルークは、こっそりカウンターを指差した。テランジンとシンがカウンター席に居る女に気付いた。

 「ほう、なかなかの美人だな、よしルークお前声かけて来い」

 「ええ?何で俺が?」

 「俺やシンには女が居る、お前には居ないだろう、だから行け」

 「そ、そんな…そんな気分にゃなれねぇよ兄貴」 

 と、ルークは、ライラが持って来た酒を見つめながら言った。シンがライラにカウンター席に居る女の事を話した。

 「ああ、あの人、初めてのお客さんね、どうかしたの?」

 「いやぁ何でも無いんだ」

 と、ルークが慌てて言い余計な事を言うなとシンを見た。シンは、ぺろっと舌を出しておどけて見せた。テランジンは、女をじっと見つめて何となく様子を見ていた。

 「あの女、病気なんじゃないのか?」

 「ええっ?テランさんも分かるの?オヤジさんも言ってたわ」

 「そうだろう、ろくに食ってねぇんじゃねぇか?ライラ、あの女に肉でも食わせてやれ俺のつけで良い」

 「ええ、良いのテランさん」

 「ああ、ただしこれは店の好意だと言え、分かったな」

 と、テランジンに言われたライラは、店の主であるオヤジに話した。オヤジは分かったと言う意味でテランジン達に親指を立てた。ほどなくして焼いた肉をライラが女の前に置き「これは初めてのお客様に対する好意です、良かったら是非お召し上がり下さい」と言うと女は、何度もライラに頭を下げ肉を食べた。その様子を見てテランジンは、やっぱりなといった顔をした。

 「あの女、相当貧乏なんじゃねぇか、食うもんもろくに食わずにいるから病気になるんだ、可哀想に…ルークお前嫁にしてやれ」

 「ええっ?何でそうなるんだよ、もういいよ、兄貴、俺ぁ先に帰るよ、明日の評定の事で頭が一杯だよ」

 「ああそうか、そうだな…明日はレオニール様もお出になられるそうだ、俺達もそろそろ帰るか」

 勘定を済ませテランジンと店の前で別れたルークとシンは、貴族町に向かった。二人肩を並べ小石を蹴りながら歩く姿は、とても貴族に見えない。

 「なぁルーク兄ぃ、ガルドとか言う野郎、やっぱりぶっ殺すのか?」

 「ああ、あの野郎だけは絶対に許せん、あの時は役人だったから手が出せなかったが今は違う、過去の罪を全て吐かせてから成敗する」

 と、ルークは、てのひらを見つめ握り拳を作りながら言った。その頃、評定所内の牢屋に居るガルド達は、監視役の陸軍の兵士に文句を言っていた。

 「わしらにこんな不味い物を食わせおって、もっとマシな物はないのか?」

 「頼むよ、硬くて噛み切れない、もっと柔らかい食べ物はないのかね?」

 監視役の兵士は、呆れ顔で聞いていたがガルドが常に胸の辺りを触っている事に気付き不審に思った。

 「おい、どうした?さっきから何か隠してるのか?」

 「隠す?何をだ?ああぁこれか、これはただの首飾りだよ」

 と、ガルドが服の中から首飾りを引っ張り出し兵士に見せた。兵士は、牢に近付き首飾りを見た。

 「何だ、ただの首飾りか…ふむ、なかなか良いもの…ちょっと待て!その首飾りをどこで手に入れた」

 兵士は、気付いた。ただの首飾りではない事に。イビルニア製品である。兵士が急に血相を変えたのでガルドは、奪われるんじゃないかと思い両手で首飾りを守る様にして握り締め言った。

 「こ、これはわしの物だぞ、絶対にお前になんか渡さん!」

 「馬鹿っ!そんな物こっちから願い下げだ!その首飾りはイビルニアの物だぞ!直ぐに外せ!破壊する」

 イビルニアと聞き他の四人が驚いたが、ガルドは全く気にもしていない様子だった。

 「おい、ガルドさん、それがもし本当のイビルニアの物ならあんた大変な事になるぞ」

 「捨てろよ、そんな物」

 「これは絶対に渡さんぞ、絶対に…お?おおぉぉぉぉ…ぐぐぐぐぐぅぅぅぅぅぅ」

 と、ガルドが急に苦しみうつ伏せに倒れた。兵士は、直ぐに応援の兵士を呼び苦しむガルドから首飾りを外そうとガルドを仰向けにすると目や口からどす黒い煙の様なものが立ち上がった。

 「こ、これは…急ぎお城に知らせねば、おい、ガルド、しっかりし…うわぁぁぁぁぁぁ!」

 ガルドは、全身から衝撃波を放ち兵士三人と一緒に居た元役人達四人を吹っ飛ばした。壁や鉄格子に身体をぶつけ気を失った。

 「グルゥゥゥ…ここはどこだ?まぁ良いわ」

 イビルニア製品の魔力によってガルドの意識は、完全に支配されている。かつてラストロがアルカトの魔力に首飾りを通して操られた様にガルドは、イビルニア人の魔力に支配された。牢屋を出たガルドは、真っ直ぐ評定所の出入り口に向かった。

 「おい、貴様!どうやって出た!奴を捕えろ!」

 当然、ガルドに気付いた兵士達が捕まえようと群がるがガルドは、手から衝撃波を出し兵士達を吹っ飛ばした。

 「ぐわぁぁぁぁ!ど、どうなってるんだ?」

 捕えようとする兵士達を次々と倒して行きながらガルドは、とうとう評定所を出てしまった。

 「い、いかん…は、早くお城に…」

 評定所を出たガルドは、真っ直ぐトランサー城を見た。

 「グルゥフフフ…感じるぞ、奴の気を」

 そう言うとガルドは、城に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

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