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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
170/206

姉の怒り

 ランドール領海の海の中を進む一隻のふねがある。潜水艦に変形したテランジンの艦だ。艦内では、アストレア女王が目を輝かせて海の中を見ていた。

 「よく飽きもせずに見ていられますね」

 と、ルークが呆れ気味にテランジンに言った。

 「女王様、そろそろ南ランドールに到着します、ぼちぼち浮上したいのですが」

 と、テランジンが遠慮がちに言うとアストレア女王は、残念そうな顔をした。

 「そうなの…ああ、もっといろんな海が見たい」

 「あはは、それならちょくちょくヘブンリーから出て来てもらわねばなりませんな」

 と、テランジンが言うとアストレア女王は、面白くないといった顔をして用意されている豪華な椅子に座った。テランジンの合図で艦は、ゆっくりと浮上し元の軍艦の形に戻った。しばらく陸地を目指して進むと海岸にラーズが率いるランドール陸軍の姿が見えた。翼を生やした者の姿も見えた。エンジェリア人がアストレア女王を迎えに来ていた。港を使わなかったのは、人前に出る事を嫌うアストレア女王のためだ。

 「良し、この辺りで良いだろう、小舟を出してくれ」

 と、テランジンが子分達に命令した。艦の後ろから人が五人ほど乗れる小舟が出て来てテランジン、ルークそしてアストレア女王が乗り込んだ。三人を乗せた小舟が岸に着くとエンジェリア人達がアストレアにひざまずいた。

 「お帰りなさいませ女王様」

 「新しい永遠の従者が神殿を守り待っております」

 「出迎えご苦労です」

 「やぁアストレア女王、海の底はどうでしたか?」

 と、ラーズは、多少皮肉ったつもりで言ったが、アストレア女王は、満足そうな顔をして答えた。

 「ええ、とっても良かったわ」

 ラーズは、少しおどけて見せ今度は、手に持っていた新聞をルークに渡し言った。

 「ところでルーク、大変な事になってるぞ」

 「えっ?」

 と、ラーズから新聞を受け取ったルークが新聞の一面を見た。「トランサー王国海軍中将、ルーク・メタール子爵の過去」と書かれてある。ルークは、驚きながら記事を読んだ。読むほどに新聞を持つ手が震えて来た。

 「な…何だよこれは?これじゃあまるで俺はただの悪党じゃねぇか、一体誰がこんな記事を…」

 今度は、テランジンがルークから新聞を取り読んだ。そして、アストレア女王に新聞を渡した。

 「この記事を書かせたのはメクリアの者ですね、悪意を感じます」

 「やっぱりメクリア政府が絡んでるのかな、父上がこの記事を読んで怒り狂っていたよ、兄上にメクリア大使館に抗議して来いと言っていた」

 ラーズの父ランドール国王インギは、昨日この新聞を見て怒り狂った。ルークがどの様な男かラーズから話しも聞いているし実際に会った事もあるルークをただの悪党の様に書いてある記事が許せなかった。

 「ヨハンッ!お前もルーク・メタールと言う男を知っているだろう、この様な悪党に仕立ておって、メクリア人が書かせたのであろう、お前メクリア大使館に行き抗議して来い!」

 と、長男のヨハン太子に命じた。ジャンパール皇国でも同じだった。マルス、イザヤ皇帝、ナミ皇后をはじめルークを知る者は、皆怒りを露わにしていた。

 「で、では余の甥はこの様な悪党を臣下に持っていると言うのか…マルスッ!マルスを呼べ!」

 と、イザヤは、マルスを呼びメクリア大使館に行き抗議するよう命じた。マルスは、言われるまでも無くそのつもりだと言い大使館に向かったと言う。

 「ははは、あいつ記事の事を取り消さねぇと大使館を焼き討つと脅したそうだよ」

 「あははは、マルス殿下ならやりそうですな」

 と、テランジンは明るく笑ったがルークは、暗い顔をしていた。アストレア女王は、ルークの頭を優しく撫で言った。

 「心配はいりませんルーク…誰もこの記事を信じる者は居ないでしょう」

 「は、はぁ…」

 「元気出せよルーク、らしくねぇぜ、レンやヨーゼフさんもこんな記事信じちゃいないよ」

 と、ラーズが励ましたがルークは、暗い顔をして頷くだけだった。アストレア女王は、エンジェリア人達が用意した純白の馬車に乗り込んだ。その周りを迎えに来たエンジェリア人達が護衛する。そして、さらにその周りにエンジェリア人達を隠すようにラーズが連れて来たランドール陸軍が取り囲んだ。

 「じゃあな、テランジン、ルーク、レン達によろしくな!」

 そう言ってラーズ達は、エンジェリア人達を迷いの森の前まで送って行った。テランジンとルークは、小舟に乗り艦に戻った。

 「心配するなルーク、とにかく国に帰って話そう」

 テランジン達が帰路についた頃、メクリア国の元役人達が何としてもルークを悪人に仕立て自分達の身の安全を図ろうとしていた。

 「何としてもルーク・メタールを召喚し十九年前のヒープ家討ち入りが正当で無かった事を言い罪を問わねば」

 と、元役人達の中心人物であるガルドと言う六十過ぎの男が必死になっていた。

 「ガルドさん、考え過ぎなんじゃないですか?今の所トランサー側からは記事の事で抗議があっただけですよ」

 と、中年の役人がうんざりしたように言った。ルークの記事が新聞に載った事でジャンパール皇国やランドール王国に置いてある大使館が大変な事になっていると連絡が入りこの中年の役人は、その事の対応で忙しかった。

 「いいや、必ず何かある!ヒープの様な者が十九年前の事を蒸し返しおった、どうしてお前達はヒープをまともに相手にしなかったのだ?」

 「そんな事…ヒープ家討ち入りは国内でもメタール家に同情する者が多くてですね、私もまぁその一人ですが、その今頃になって賠償金を請求するヒープがおかしいんですよ」

 「何だと?では貴様はあの時カーク・メタールを死刑にしたわしが悪いと言いたいんだな?」

 と、ガルドは中年の役人に凄んだ。

 「ち、違いますよ、あれはヒープ家の者に騙されてたんでしょう、分かってますよ!ただ、今さら騒いでもどうしようも無いでしょう、とにかくルーク・メタール殿がどう言って来るか様子を見ないと」

 「ふん、そうだあの時我々はヒープに騙されてたんだ、そうだ…我々は騙されていた」

 と、ガルドは、自分に言い聞かさる様に呟いた。他の役人達もそうだと言った。

 「とにかくトランサーから何か連絡があったらまたお知らせしますので今日の所はお帰り下さい」

 「分かった、何か分かったら直ぐに連絡するように」

 そう言い残してガルド達元役人は、役所を出て行った。

 「ふん、偉そうに…」

 と、中年の役人が吐き捨てる様に言った。トランサー城内では、レンと各大臣達が新聞記事の事で話し合っていた。レンは、大臣達に記事にあるルークの話しは半分以上嘘だと言った。ディープ伯爵やジャスティ大臣もレンの言う通りだと言った。

 「私も含め陛下やヨーゼフ公がルークの母御と姉御から直接話しを聞いておりますがこの記事の内容はでたらめですぞ!ルークをただの殺人鬼の様に書きおって、父を偽りの罪に陥れた一族を討ち取った敵討ちです…それにこの記事は陛下をも愚弄する記事にも感じます」

 「左様、この事だけでも到底許せる事ではない!メクリア大使を呼びつけましょうぞ!」

 と、ある大臣が声を荒げて言うとこの場に居た全員が賛成した。レンも記事の内容を読み遠回しに馬鹿にされているように感じていた。直ぐにメクリア大使館に連絡して大使に登城するよう言ったが、大使が変わったので今は行けないと返事が来た。ディープ伯爵が忘れていたと皆に説明した。

 「そうでした、前のメクリア大使殿は本国に召還されたのでした」

 ディープ伯爵が大使館職員から聞いた事を話すとジャスティ大臣が顔を真っ赤にして怒った。髪や髭が真っ白なので余計に赤くなった顔をが目立った。

 「何と、メタール家に同情的だから召還しただと?で、後任の大使はいつトランサーに?」

 「明日の昼頃には到着するとの事です」

 レン達は、後任の大使を待つ事にした。ロイヤー屋敷では、シンがサムス・ヒープを訊問していた。部屋に居並ぶ厳つい海軍士官達を見てヒープは、ただただ恐れて震えていた。

 「で、今さら賠償金を取ろうとする理由は何だ?」

 「そ、それは…」

 「借金返済のためだけか?本当にそれだけか?」

 「…はい」

 と、ヒープは、シンに答えた。シンは、汚いものでも見る様な目でヒープを見た。自分の一族が形はどうあれ皆殺しにされているのである。

 「お前…一族を殺されて悔しくねぇのか?」

 「そ、それは悔しいですよ、しかし私がルークに挑んだところで勝てるはずも無く…それに本家の者がカーク殿を罪に陥れたのは事実ですから…その…」

 「ほほぅ、お前の本家の者が悪いとお前自身は自覚してるんだな?」

 「は、はい、それはもう…痛い!」

 シンは、ヒープの横っ面を思い切り引っ叩いた。椅子から飛ぶようにして倒れた。ヒープは、驚きと苦痛と恐怖が入り混じった顔でシンを見た。

 「この野郎…てめぇの一族の罪を分かっていながらあにぃから金を取ろうとは…何て野郎だ」

 と、シンは、呆れた。そして、シンはこの国の人間があの新聞記事を見ても誰も信じないと言った。

 「俺達がこの国の国民となり何をして来たかこの国のお人達は皆知ってる、兄ぃが本当はどんな人間なのかも知ってる、あんな記事が新聞に載ったくれぇで調子に乗ってんじゃねぇぞ、これからメクリア政府と喧嘩になるだろう、もしも戦争にでもなったらお前…覚悟しとけよ」

 と、シンは軽く脅したつもりだったがヒープは、真剣に思ったらしくみっともないくらいに泣き出した。

 「そ、そんな…せ、戦争だなんて…わ、私は個人的にルークから賠償金を取れれば良かっただけなのに、貴族になったんだから金は持ってるだろうと思っただけなのに…うえぇぇぇっえっえ…」

 「おい、聞いたか?兄ぃが貴族になったからだとよ、馬鹿馬鹿しい」

 と、シンは、吐き捨てる様に言い部屋から出て行った。しかし、ヒープが言う個人的にではなく、もう国対国の争いに発展しつつあったのだ。メクリア国内では、メタール家同情派とヒープ家、元役人擁護派とが生まれていた。

 「ルーク・メタールは国を捨て今はトランサー人になったんだぞ!奴の家族もメクリアには居ない、そんな連中の肩を何で持つんだ?」

 「何を言うか?!メタール家がこの国から出て行った原因は元々ヒープ家やあの当時の役人達がカークさんを死刑にしたからだろうが!」

 「ふん、あんな殺人鬼を貴族に取り立てるなんてトランサー王は頭がおかしいんじゃないのか?」

 「何を!殺人鬼とは何事だ!無届けだったとはいえあれは立派な敵討ちだ!それに頭がおかしいとはトランサー王に失礼だろう」

 と、町のあちこちでこんな会話がされていた。この事態を知ったメクリア大統領は、十九年前当時の元役人達を呼び出した。

 「一体どういう事か?私も当時の事を知っているが、何故今頃になって騒ぎになるんだ?忘れていたのに」

 「ははぁ、それはヒープ家の分家の者が」

 と、元役人達の代表格であるガルドが話し出した。

 「馬鹿な…今さら賠償金を…厚かましいにも程がある!そもそもカーク殿が死刑になったのはヒープ家の偽りの証言が元ではないか、それと」

 と、大統領は、ガルド達を見た。十九年前の大統領は、当時一介の政治家に過ぎず大した権力も無かった。ガルド達元役人は、当時はかなり権力を持っていた。政治家達の弱みを握り裏で操る事もしていた。そして、その「弱み」の情報を持って来るのが当時のヒープ家の当主だった。ヒープのおかげで散々良い思いをして来たガルド達は、カーク・メタールが国家機密を売っていると言うヒープの嘘を簡単に信じたのだ。

 「ガルド殿、カーク・メタールは外交官という立場を利用して我が国の国家機密を相当他国に流しておりますぞ、この様な者を生かせておけば国家のためにならず…早々に死刑にしなされ」

 当時の事を思い出したのかガルド達は、顔を青くした。今にして思えば何も死刑にする事はなかったのだ。メクリア大統領は、重厚な椅子に座りながら言った。

 「此度の件で我がメクリアとトランサー王国とが戦争になったらあなた方はどう責任を取るおつもりか?」

 「わ、我々に責任を?お待ちを大統領、最初に騒ぎ出したのはサムス・ヒープですぞ!分家筋の!」

 「黙らっしゃい!それでは何故、昔の威光を笠に着て役所に行き勝手に役人を使い大使を交代させたのか?何故、勝手にルーク・メタールの吟味を行うなどと言ったのか?何故、新聞にあのような記事を載せさせたのか?調べはついている全て貴様らが手を回した事だろう!」

 と、大統領にぴしゃりと言われガルド達は、何も言い返す言葉が無かった。

 「そのヒープ家の分家筋の者の言う事など放って置けば良かったものを下手に騒ぐからこういう事になるのだ、今の所トランサー側からは新聞記事の事だけ言って来たが、もし何かあったらあなた方にはトランサーに行ってもらう事になるだろう」

 「しかし、あの記事の内容は嘘ではありませんぞ、十九年前ルーク・メタールは無断で敵討ちをしたのは事実です、無許可であればただの殺戮です、それだけでもルーク・メタールを吟味する…」

 「黙れ!何を今さら吟味するだ、では何故あの当時、逐電したルーク・メタールを探さなかった?デスプル島に居たと知って何故捕えに行かなかったのか、私は今さらだがあの当時のルーク・メタールの敵討ちを正式に認めるものとする、吟味は無用だ」

 と、大統領は言いガルド達に謹慎を申し渡した。部屋に一人残ったメクリア大統領は、魔導話を取り事務方に連絡を入れトランサー王国へ繋ぐよう言った。しばらく間が空き繋がった。

 「メクリア国大統領エルビナ・ハルムです、ルーク・メタールの件でお話しがございます」

 「大統領閣下ですか、ああルーク殿の件で、少々お待ちを」

 取り次いだ外務を担当する役人が上司である外務大臣フロスト侯爵に話した。フロスト大臣は、直ぐにレンに知らせた。

 「メクリアの大統領から?」

 「はい、ルーク殿の件で話しがあると」

 「まさか大統領が直々にルークを渡せなんて言って来るんじゃ…」

 と、レンは、不安に思ったが、とにかく話しを聞くようフロスト大臣に言った。フロスト大臣は、魔導話で大統領と会談する事になった。

 「トランサー王国外務大臣フレイド・フロストです」

 「まずはレオニール様、国王即位誠に祝着に存じます、私はメクリア国大統領エルビナ・ハルムです、ルーク殿の件で我が国の者が貴国に対し大変なご迷惑をおかけしておるようで」

 と、ハルム大統領は、話しを始めた。騒ぎの切っ掛けとなったサムス・ヒープの事とガルド達元役人の事を話した。フロスト大臣は、はいはいと返事をして聞いている。

 「ところでサムス・ヒープが今そちらに滞在しているはずですが」

 「ああ、あの者なら現在ロイヤー公の屋敷におるようです、ええ、ルーク殿の母御と姉御も一緒におりますよ、ふふふ、聞いた話しによりますとサムス・ヒープが姉御にコテンパンにやられたとか…」

 と、フロスト大臣が笑いながら話した。魔導話越しにフロスト大臣の笑い声を聞きハルム大統領は、救われた気がした。事態は、もっと深刻なものと思っていたからだ。

 「とにかくルーク・メタールの名誉を汚した元役人共には謹慎を申し付けております、必要とあらばいつでもトランサー側に引き渡します、それと十九年前の敵討ちの一件今さらですが私が許可したので正当な敵討ちとしました」

 「ははぁそうですか、それは良かった、ああそうだ、サムス・ヒープはいかが致しましょう?あやつはルーク殿に賠償金を求めておるそうで」

 「とんでもない、賠償を受けるのはメタール家の方々ですよ、これも今さらですがメクリア国として正式にメタール家への謝罪と賠償をしようと考えております、あの当時私は一介の政治家に過ぎなかった私にもっと権力があればカーク殿を死なせずに済んだと思うと胸が痛みます…当時を知る者の代表としてお詫び申し上げたい、サムス・ヒープの事はルーク殿にお任せします」

 と、心からハルム大統領は言った。フロスト大臣は、最後に全てはルークが帰国してからこちらで会議し謝罪を受け入れるのかガルド達元役人をトランサーに召喚するのかを決めたいと話した。ハルム大統領は、是非そうして欲しいと言った。魔導話での会談を終えたハルム大統領は、椅子に深々と座り深いため息を吐いた。

 「カーク殿…遅くなりましたがどうかお許しを」

 と、ハルム大統領は、天井を見つめながら呟いた。


 テランジン、ルーク達がアストレア女王をヘブンリーに送るため一週間の航海から帰って来たと報告を受けたレンは、シンにルークを城に連れて来るよう命じていた。

 「お帰り兄弟、早速だが陛下達がお待ちだ登城するぜ」

 と、シンが元気良く言うとルークは、暗い顔をして頷いた。テランジンが見かねてルークの尻を思い切り引っ叩いて喝を入れた。

 「しっかりしろ!ランドールで見た新聞の事を気にしてるのか?あんなものを見てレオニール様やおやじ達が信じると思ってるのか?」

 「そうだぜ、兄貴、心配いらねぇって!」

 と、他の元海賊達がルークを励ました。シンに連れられテランジンとルークが登城した。謁見の間ではなく直ぐに重臣達が集まっている部屋に向かった。

 「お帰り、テランジン、ルーク」

 と、レンは、にこやかに言った。他の重臣達もにこにこしている。それが返ってルークを不安にさせた。

 「陛下、アストレア女王を無事に送り届け只今戻りました」

 と、まずはテランジンが挨拶をした。そして、ルークも挨拶したが元気が無い。レン達は、直ぐに新聞記事の事を気にしているのだろうと気付いた。そこでジャスティ大臣が大きな声で笑いながら言った。

 「あははは、ルーク殿、我々はあんな新聞記事の事など一切信用しておらんよ」

 「左様、あんな記事を書かせたメクリアの連中は今謹慎処分を受けているそうだ、それで今からその連中の事についてルーク殿と話そうと思うのだが」

 と、ディープ伯爵が言うとルークは、困ったような顔をした。自分の知らないところで何が起きているのか全く分からない。フロスト大臣が手を挙げて皆の注目を集め話し始めた。

 「先日、メクリアのハルム大統領と魔導話で会談しました、ルーク殿、十九年前君が無断で父上の敵討ちをした事は許可した事とし正当な敵討ちとして認めると大統領が仰っていたぞ、安心し給え君には一切罪は無い、そして、今回ルーク殿に対して誹謗中傷した新聞記事を掲載させたガルドとか申す元役人達は、謹慎処分となっています、こちらがメクリアに要請すれば召喚する事も可能だと大統領は、仰っていたがルーク殿いかが致そう」

 ガルドと聞いたルークの顔が一瞬険しくなったのを誰もが見逃さなかった。ルークは、黙って机を見つめていた。隣りに座っているシンが心配そうにルークを見つめていた。

 「あ、あの野郎がヒープにそそのかされて親父おやじを死刑にした…呼べるのなら呼んで下さい、この手で始末を着けねぇと…」 

 と、ルークは、机を見つめながら言った。フロスト大臣は、うんうん頷き言った。

 「あい、分かった、メクリア政府に話しておくよ、それと現在ロイヤー屋敷に軟禁されているサムス・ヒープの事だが…」

 「えっ?あいつが兄貴の屋敷に?」

 と、ルークは、意外な顔をした。母と姉が居る事は知っていたが、まさかヒープ家の者が居るとは考えもしなかった。

 「ああ、そうだった言うの忘れてたぜ、居るんだ、ご隠居に言われてジャン達がとっ捕まえて軟禁してるんだって、野郎、兄ぃの姉さんにボッコボコに殴られたそうだぜ、ふふふ」

 と、シンが笑いながら言った。フロスト大臣も話しを聞いていたのでくすくす笑って言った。

 「どうするかね?大統領は君に任せると仰っていた、それと近くメクリア政府からメタール家に対して謝罪文と賠償金を持った使者が来る」

 「そうですか…謝罪が…」

 と、ルークは、無表情で答えた。今さら謝罪や賠償などされても遅いと思ったが口には出さなかった。ルークは、サムス・ヒープとも会い話しを付けると言った。そして、テランジン、シンと共にロイヤー屋敷へ向かった。

 「ルークやっと母親と姉に会えるんだね、良かった」

 と、テランジン達が居なくなった部屋でレンは、にっこり微笑んで言った。周りに居る重臣達も生き別れていた家族に会えるルークの喜びを思うと笑顔になった。 

 テランジンは、一週間ぶりに帰る我が家で弟分であるルークの親子姉弟の再会が果たせる事を嬉しく思った。シンも自然と顔がほころぶ。テランジンとシンは、さぞ嬉しかろうとルークを見たが暗い顔をしているのを不思議に思った。

 「おい、ルーク、母さんと姉さんに会えるんだぞ、嬉しくないのか?」

 と、揺れる魔導車の中でテランジンが言うとルークは、少し震えていた。テランジンとシンは、益々疑問に思ったが何も聞こうとはしなかった。魔導車が屋敷に到着しテランジンを先頭に中へ入った。

 「ただいま」

 「お頭ぁお帰りまさいませぇ!」

 「あなた」

 と、子分達が威勢よく挨拶しリリーは、テランジンと抱き合った。デイジーを抱いたヨーゼフがにこにこしながら姿を現した。

 「おお、お帰りご苦労だったのぅ、おおルークや、待っとったぞ、母御殿ぉ!」

 と、ヨーゼフがルークの母であるステラを呼ばわった。ステラがそっと姿を見せるとルークは、信じられないといった顔をして呟いた。

 「か、母さん…ほ、本当に生きてたんだね…俺ぁてっきり…母さん!」

 と、叫ぶと母と子は抱き合った。

 「本当にルーク何だね、もうこの子って子は…どれ程心配したか」

 「ごめんよ、母さん…でも、でも俺我慢出来なかったんだよ、親父の、親父の敵を討たなきゃって…ううぅぅ、母さん、ごめんよ」

 十九年ぶりに再会する親子にテランジン、ヨーゼフ達は、涙した。

 「良かったのぅルーク、さぁ姉御殿もこっちへ来なされ」

 と、ヨーゼフが言った時、ルークは一瞬凍り付いた。ルーシーがゆっくりと部屋に入って来た。ルークは、姉に背を向けたままだった。

 「ルーク」

 と、ルーシーの優しい声がしてルークは、ゆっくりと振り向いた。その瞬間、ヨーゼフとシンだけが予想していた事が起きた。ルークが振り向いた瞬間を狙ってルーシーが思い切りルークの横っ面を引っ叩いた。ルークが抵抗する間もなくルーシーは、ルークに素早く足払いを掛け突き倒し馬乗りになってルークをぼこぼこに殴った。

 「このお馬鹿ぁ!あんたのせいで、あんたのせいで、私の人生は滅茶苦茶だっ!このっ、このっ!」

 「いい、痛い!姉さん痛いよ」

 「あんたが勝手な事をしたおかげで私もお母さんも土地ところには居られなくなった、あんたがやくざか海賊になった頃、私達がどこに居たのか知ってるか?」

 「いい、痛いって、悪かったよ、だ、だから…ぐっぐえぇぇぇ」

 ルーシーは、殴る代わりに首を締め上げた。シンが慌てて止めたが「お放しっ!」と怒鳴られその迫力に負け引き下がってしまった。ルーシーがまた首を絞めようとしたが、ルークはたまらず飛び起きテランジンの後ろに逃れた。

 「お、お助けぇ」

 「ルークッ!こっちへ来なさい、さぁ!」

 この状況をどう見て良いのか分からないヨーゼフ達であった。ステラが何とかルーシーをなだめて事は治まった。テランジンは、ルークの暗い表情の意味が分かった気がした。落ち着きを取り戻したルーシーがルークを睨み付けながら話し出した。

 「十九年前、あんたがヒープ家に討ち入った後、私達は国から謹慎処分を受けた、半年もよ!私達の謹慎が解けた後、真犯人が見つかった…お父さんには何の罪もなかったのよ、私とお母さんは国に抗議したわ、毎日毎日…そんなある日、国は私達を狂人扱いし始めた…おかげで土地には住めなくなりメタルニアに移住したの…女二人で大変だった、あんたさえ傍に居てくれたらどんなに心強かったか…」

 姉の話しをルークは、黙って聞いているしかなかった。傍で母ステラがすすり泣きながら言った。

 「ルーク…お前がデスプル島に居ると風の噂で聞いてねぇ母さん達、行ってみようかと話した事もあったんだけどそこがどんな島か調べたら怖くて行けなかったんだよ…それから今度は海賊になったと…もう訳が分からなくて…」

 「ご、ごめんよ母さん、俺ぁてっきり母さん達が死んじまってる、いや殺されちまってると思ってたんだ、俺の敵討ちは無許可だったから…」

 そう言うとルークの目から涙がこぼれた。

 「で、でも兄ぃその敵討ちの件は正当な敵討ちになったじゃねぇか、ハルム大統領が認めるって」

 と、シンが言うとルークは、静かに首を横に振った。

 「今さら認められても親父が蘇る訳じゃねぇ…謝罪や賠償なんて」

 「しかしルーク、お前の親父さんを死刑にした元役人達をこちらに呼ぶ事は可能だとお城で聞いただろ」

 「えっ?あいつらを呼べるんですか?」

 と、テランジンの言葉にルーシーが飛びついた。テランジンは、城で話し合った事をステラとルーシーに聞かせた。ルーシーは、飛び上がらんばかりに喜んだ。ルークに対しての怒りは消え、その怒りはガルド達元役人に向けられた。

 「あいつらがヒープ家の者の言う事さえ聞かなければお父さんは死なずに済んだ…絶対に許さない」

 「ああ、そうだ!兄貴、ヒープ、サムス・ヒープがこの屋敷に居るんだろ?」

 と、姉の言葉でルークは、屋敷内にサムス・ヒープが居る事を思い出した。ヨーゼフが子分に連れて来るよう命じた。ほどなくしてジャンに連れられたサムス・ヒープがルークの前に姿を現した。

 


 

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