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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
167/206

母と姉

 「さぁお母さん到着したわ、ここがトランサーよ」

 と、ルークの姉ルーシー・メタールが母ステラに言った。二人は、港町に降り立った。

 「綺麗な町ね、海風が心地良いわ」

 「感心してる場合じゃないわお母さん、早くルークに会わなきゃ」

 と、気の強い姉ルーシーは、弟であるルークを引っ叩いてやりたい気持ちで一杯だった。誰にも相談せず勝手に父親の敵を討ち取ったその日の夜に故郷を捨てならず者になり海賊になりその次は、軍人になり更には貴族にまでなった弟が許せないでいる。

 「ちょっと待ってルーシー、母さんお腹が空いたわ、そんなに慌てる事ないだろう、この国に居る事は間違いないんだから」

 「もう、お母さん!」

 と、のん気な事を言う母に腹を立てたルーシーだったが自分も腹を空かせている事にふと気づき、どこかで食事を取る事にした。二人は、食堂を探すため港町を歩いた。この時間帯は、どこの食堂も休憩中や準備中の札を出していて開いていなかった。

 「ここの通りの食堂は皆、駄目ねぇ、こんな事だったら船でちゃんと食べときゃ良かったねぇ」

 「そうねぇ…あっ?!この裏通りはどうかしら?」

 と、ルーシーが指差し二人は、大通りから裏の小通りに向かった。この通りには、海軍や陸軍の軍人達、特に海軍の中でもテランジンの子分や兄弟分達が良く行く大衆酒場兼食堂の「青い鳥」があった。

 「ほら、お母さん、あそこのお店開いてるわ、あそこにしましょう」

 と、二人は、偶然にも息子や弟が通う店を発見し店に入った。無論この二人は、そんな事は知らない。

 「いらっしゃい」

 と、店のオヤジが迎えた。

 「ああ良かった…表の通りの店は皆お休み中でしてねぇ」

 「ははは、まぁこの時間帯はどこも休憩や準備中でさぁ、さぁどうぞお好きな席にお座り下さい」

 と、オヤジは、笑顔で言った。言ったが別な事を思った。

 (あれぇ?あの親子の顔…誰かに似ている様な…はて?)

 オヤジは、シンの恋人でもある店の看板娘ライラに注文を聞くよう言いつけ店の奥へ行った。ライラは、愛想よく返事して注文を聞きに向かった。

 「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 と、言ったライラも二人を見てオヤジ同様に誰かに似ていると思った。二人は、品書きを見て一番美味そうと感じた物を注文した。ライラは、注文を受け奥に引っ込んだ。

 「おい、ライラ、あの二人誰かに似てねぇか?」

 「オヤジさんも思ったの?うん、確かに誰かに似てるわ、誰だろう?」

 オヤジとライラは、注文の品を作りながら考えた。料理を完成させライラがステラとルーシー親子の席に持って行った時、店に陸軍海軍の連中が数名入って来た。その中にテランジンの子分が入っていた。

 「おう、来たな」

 と、オヤジが相手をする。連中は、カウンター席に座り話し始めた。

 「いやぁしかし、今回の人事には驚いたなぁ、ロイヤー閣下やサイモン閣下の大臣職は分かるが、まさかまさかメタール殿やシン殿が貴族になっちまうとはなぁ」

 と、陸軍の士官が言った。奥の席に居たステラとルーシーが漏れ聞こえる話しを聞き顔を見合わせた。

 「お母さん、今あの人メタール殿やシン殿って言ったわよね?」

 「ええ、そう聞こえたわ」

 二人は、軍人達の会話をもっと良く聞こうと聞き耳を立てた。

 「そうだなぁ俺もまさか兄貴達が貴族になっちまうなんて夢にも見なかったぜ、まぁそんだけうちのお頭や兄貴達が殿様に信頼されてるってこったな」

 と、海軍士官が誇らしげに言った。姉ルーシーは、お頭、兄貴と聞き新聞で見た弟やテランジン、シンの顔を思い浮かべた。大礼服に勲章を付けたテランジンは、どこか野性的な匂いのする良い男と思って見たが、同じ様な格好をした弟やシンは、姉から見ればまだまだ慣れない礼服を着たチンピラにしか見えなかった。

 「生意気な…」

 と、ルーシーは小さく呟いた。

 「そりゃそうとルークとシンは今回の事でお屋敷を拝領したんだろ?」

 と、オヤジが言うとそれ来たとばかりに海軍士官が話し出した。ブラッツの反乱で多数の貴族が改易になり空き屋敷が出来ていたので家格に応じた屋敷を拝領したと言う。

 「ただ縁起が悪いからって内装を少し変えるって言ってたなぁ」

 「そりゃもっともだ、何なら屋敷ぶっ壊して建て直せば良いのに」

 「あははは、そんな金ねぇだろうぜ」

 「そりゃそうだな、はははははは」

 と、軍人達は、話して帰って行った。ステラとルーシーは、ルークが本当に貴族になったと改めて知り呆然としていた。

 「はぁ…しかし、ルークやシンが貴族になっちまうなんてなぁ、他の貴族や大臣方が良くお許しになったぜ、元を正せば海賊だぜ、ははは、そりゃそうとライラよ、お前もシンと結婚すりゃ男爵夫人だな」

 と、オヤジがカウンター席を片付けながら話した。ライラが嬉しそうに頷いた。

 「あのぅ…もし」

 と、意を決したステラとルーシーがオヤジに声を掛けた。

 「へぇ何です?お勘定ですか?」

 「ええ、先ほどからルークやシンがとお話しされておられたので…」

 「へぇ?ああ、あの二人はねこの国の海軍士官でうちにもよく飲みに来るんですよ、つい先日栄典式がありましてね、へへへ、元海賊が貴族だなんて痛快でしょう、しかも元々はトランサー人じゃないんですよ、どこの出身だったか…シンの野郎は確かメルガドか…ルークは…知らねぇなぁ、まぁイイや、とにかくこの二人、本当はもう一人居たんですがねカツって野郎が、ルーク、カツ、シンこの三人はテランジン一家の中でも特に若様…じゃなかった陛下の信頼が厚いんですよ」

 と、オヤジが自慢気に言うとルーシーが少し怒った様な顔をして言った。

 「そうなんですか、ルークがよくこのお店に…ああ、お勘定…ちなみにルークの出身はメクリアです、また来ます、お母さん行きましょう」

 と、ルーシーは言い勘定を済ませてさっさと店から出て行ってしまった。ステラは、苦笑いを浮かべ、オヤジやライラに会釈して出て行った。

 「う~む、俺なんか不味い事言っちまったかなぁ?」

 「そんな事ないわ、でもあの人どうしてルークさんの出身地を知ってたのかしら?…あっ!?オヤジさんあの二人、ルークさんに似てなかった?」

 「何?ルークに…おうおう、そうだな確かに似てたな目鼻立ちなんか…まさかルークの身内かぁ?」

 「そうかも知れないよ、だって出身地を知ってたんだから」

 「おい、ライラ、これが本当なら大変だ、ご隠居に知らせて来いルークの身内が現れたかも知れないと」

 オヤジが言うご隠居とは、ヨーゼフの事である。隠居が認められた翌日から世間からロイヤー家のご隠居と呼ばれるようになっていた。ライラは、作業着のまま自転車でロイヤー屋敷に向かった。屋敷では、隠居の身となったヨーゼフが孫娘デイジーと積み木で遊んでいた。積み木を組んだり並べたり時折デイジーが投げ付けて来る積み木に閉口しながら遊んでいた。そんな時、屋敷の呼び鈴が鳴った。

 「誰か来たぞ」

 「へい、見て来ます」

 と、屋敷内の長屋に住み暮らすテランジンの子分が玄関に向かった。この男も当然海軍の者でこの日は、非番であった。

 「へい、どちら様で」

 と、厳つい顔の男が丁寧に言った。

 「青い鳥のライラです、ご隠居様にお知らせがあってやって来ました」

 「何だライラさんか、入んなよシン兄貴の事かい?」

 と、子分が言い屋敷にライラを入れた。ライラは、ルークの事でと子分に言いヨーゼフのもとへ案内された。

 「何じゃライラか、どうした?シンと喧嘩でもしたのか?」

 「違うのご隠居、ルークさんの事よ」

 「何、ルークの?何かあったのか?」

 ライラは、店に来たステラとルーシーの事を話した。ヨーゼフは、デイジーを抱きふむふむと聞いている。ヨーゼフの腕の中のデイジーがヨーゼフの顎髭を見るや掴んで引っ張った。

 「痛い!痛い痛い!デイジー離しなさい、いたたたた、リリー、リリーよ!」

 と、ヨーゼフは、娘リリーを呼びデイジーを渡した。

 「これっ、デイジー止めなさい、デイジーったら」

 と、ようやくヨーゼフの髭から手を離したデイジーは、急に機嫌が悪くなったのかリリーの腕の中で暴れた。そんな様子をライラは、微笑ましく見ていた。

 「全く…誰に似たんじゃ、お~痛っ…まぁはっきりとルークの身内と分かった訳ではないのじゃ慎重にな、また来ると言っておったのじゃろう?」

 「はい、あの様子だと明日にでもまた来そうですが」

 「ふむ、では明日の夕方にでもわしが店に行ってその者らを見てみよう」

 と、言いヨーゼフは、ライラを帰した。

 「ルークの親御さんが見つかったって本当かしら?」

 と、デイジーを落ち着かせたリリーが言った。

 「うむ、そうらしいが分からん、テランジンは自分の兄弟分や子分の出自など知らんのだろう?シンの事は、カツの事があって初めて知ったそうじゃないか」

 「ええ、デスプル島では流れて来た者の出自や来るまでの間に何をやっていたのかなど聞かないそうよ、それが暗黙の掟みたいになってたってテランは以前話してたわ」

 デスプル島では、誰が決めたか分からないが、流れて来る者がどのような理由で流れた来たのか聞いてはいけない事になっていた。流れ者の大半は、殺人や強盗で国に居れなくなった者ばかりで詐欺師や婦女暴行などの犯罪者も流れて来る事もあったが、それらの犯罪者はもっとも忌み嫌われ島内で袋叩きにされ殺されるか島を抜け出しまたどこかへ消えて行った。

 「なぜか詐欺師や女を手籠めにするような奴は行動で分かるそうよ」

 「まぁ今晩にでもテランジンに話してみよう、どうせ青い鳥で直接聞いて来ると思うがの」

 と、ヨーゼフは、言いテランジンの子分が入れたお茶を一口飲んだ。その頃、ルークは、軍港で自分が艦長を務める一号艦の整備に立ち会っていた。

 「中将閣下、お手が汚れますよ」

 と、若い水兵に言われていた。ルークは、慣れない呼ばれ方をして照れ臭そうにしていた。明日の朝、一番にアストレア女王を乗せヘブンリー行く。何かあっては困ると自ら整備を手伝っていた。

 「うん、ここも大丈夫だな…おい、ここにもう少し油を足しておいてくれ」

 などと言いルークは、隈なく点検していた。徹底的に整備をして気付けばもう日も暮れかかっていた。

 「良し、もう良いだろうこれなら兄貴も納得だ、青い鳥で飯でも食って帰るか」

 と、ルークは、拝領した屋敷で一緒に住む事にしたお気に入りの弟分を連れ青い鳥に向かった。青い鳥には、既にテランジン、シン、サイモンが居て飲んでいた。

 「さぁ元帥閣下、少将閣下、お飲み物はこちらになります」

 などとわざとらしい言葉を言いながら店の店主であるオヤジが言ってテランジン達に酒を出していた。ルーク達に気付いたシンが、早く座れよと合図を送りオヤジにルーク達の飲み物を注文した。

 「兄貴、ふねの整備は完璧だぜ」

 「そうか、ご苦労だったな、さぁ乾杯しよう」

 と、運ばれた酒を片手にテランジン達は、乾杯し飲んだ。

 「かぁ~~~仕事の後に一杯はたまんねぇなぁ」

 「おい、ルーク、お前さんに話す事があるんだが」

 「ん、俺に?何だよオヤジ」

 オヤジは、今日の昼間に来た女性二人の事を話した。ルークは、全く心当たりが無いと答えた。

 「本当かね?お前さんの出身地まで言ってたんだぞ、メクリアだってな」

 「ああ、確かに俺はメクリア出身だが俺の身内はもう居ないはずだぜ、とっくに死んじまってるよ」

 と、ルークは言い暗い顔をした。自分が父の敵討ちをした事で母と姉は政府に捕まり死刑にされたと思い込んでいた。何があったのかとは、誰も聞かなかった。何も聞かないでくれといった顔をルークはしている。

 「まぁ良いじゃねぇか飲もうぜ」

 と、気を取り直しシンが言い新しい酒を注文した。ルークも気を取り直し飲みまくった。

 「何だもうこんな時間か、明日は早いんだぜ兄貴、もうお開きにしようぜ」

 「んん?ああそうだな、オヤジ勘定だ、サイモンのおごりでな」

 「ええっ?お、俺か?全く…」

 と、サイモン大将改め元帥は、渋々財布を取り出しオヤジに金を支払った。そんな様子をテランジン達は、クスクス笑いながら見ていた。勘定を済ませたテランジン達は、それぞれの屋敷に帰って行った。

 「本当に心当たりは無いのか?ルーク」

 と、同じ貴族町に屋敷を拝領したサイモン元帥が急に言った。

 「無い」

 と、一言だけルークは、答えた。

 「そうか…残念だな、では私はこの辺で、お休み」

 と、サイモン元帥は言って自分の屋敷の方へ歩いて行った。シンと弟分だけになったルークは、深いため息を吐いた。シンがどうしたんだと聞くとルークは首を横に振りながら呟くように言った。

 「そんなはずはない…そんなはずは」

 シンは、一体何があったのか聞こうと思ったが止めた。そして、それぞれの屋敷に帰った。その頃、屋敷に帰っていたテランジンは、義父ヨーゼフから昼間の事を聞いていた。

 「ええ、青い鳥のオヤジが直接ルークに言いましたがルークは全く心当たりが無いと言ってました」

 「そうなのか、しかしライラの話しではその女二人はルークによく似ていたそうな」

 と、ヨーゼフは髭を撫でながら言った。ヨーゼフは、明日の夕方青い鳥に行ってみると話した。

 「そうして下さい、おやじ」

 「うむ、おぬしとルークは明日の朝一番でアストレア女王を送りに行くのじゃろう」

 「はい、シンは置いて行きますので何かあればシンに申し付けて下さい」

 「うむ、分かった、さぁもう寝ようか」

 と、ヨーゼフの言葉でロイヤー屋敷の灯りが消えた。その頃、港町の宿屋に泊まっていたステラとルーシーは、どうやってルークを調べようか話し合っていた。青い鳥には、夕方行く事にしてそれまでに一度海軍本部を訪ねてみる事にした。

 「きっと、何か分かるはずよ」

 「そうね、でもいきなり行って大丈夫かしら」

 「何言ってるのお母さん、私達はあの子の家族なのよ、遠慮する事ないわよ」 

 と、気の強い姉ルーシーが言った。


 翌日の早朝、アストレア女王を見送りにレンとエレナそしてヨーゼフは、軍港に居た。テランジン、ルークは既に艦の中に居て直ぐにでも艦を動かせる状態にしていた。 

 「レオニール、ミストレアとロックウェルが築いたこの国をどうか守ってね」

 「はい、女王様」

 「エレナを大切にね、ヨーゼフ…今までレオニールを支えてくれてありがとう、隠居したとは言えこれからも頼みますよ」

 「うむ、心得てござるわい」

 「エレナ…」

 と、アストレア女王は、そっとエレナの手を握り言った。

 「レオニールと仲良くね、あなたは良い王妃になれるでしょう」

 そう言ってエレナの頭を優しく撫でた。

 「女王様、どうかご無事で」

 エレナは、夢でも見ている様な気分で言った。アストレア女王は、にっこり微笑んで艦に乗った。テランジンとルークが甲板に出て来た。

 「では、行って参ります」

 「うん、気を付けてね」

 「女王に良く海の底をお見せするのじゃぞ」

 と、ヨーゼフが言うとアストレア女王は、少し顔を赤らめた。そして、テランジンとルークに連れられアストレア女王は、艦内に入って行った。艦が汽笛を上げ岸からゆっくりと離れて行きヘブンリーから近い南ランドールへと進んで行った。レン達は、艦が見えなくなるまで見送り城に帰った。それから三時間ほど経った頃、軍港にルークの母と姉の姿があった。

 「ここから先は関係者以外立ち入り禁止ですって?生意気な…」

 「ルーシーそりゃそうだろうこの港は軍人さんの港なんだから」

 「分かってるわよ」

 と、姉ルーシーは、所詮ルークが居る海軍などまともな海軍とは思っていなかった。二人が軍港の入り口付近でうろついているところをシンが馬で通りかかった。海軍少将となってからは、威厳を出すため馬で海軍本部に行く事にしていた。馬の口取りは、弟分がやっている。馬上のシンを見るなりルーシーは「あっ!」と声を上げた。シンを含めた四人の男達が一斉にステラとルーシーを見た。

 「何をしている?ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ、ん?旅行者か?」

 と、シンの弟分の一人が言った。

 (く~生意気なチンピラ風情が)

 と、ルーシーは、心で思い口では別の事を言った。

 「あのぅこちらにルーク・メタールが居ると聞いて来たんですが」

 「兄ぃなら確かに居るが今朝早くに港を出たぜ、帰って来るのは一週間後ってところか、ところであんた達は何もんだ?ルーク兄ぃに何の用だ?」

 と、シンが答えると母ステラは、娘を見て駄目だとばかりに首を横に振った。ルーシーは、弟ルークを兄ぃと呼んだ目の前の馬上の男を思い切り引っ叩いてやりたい気持ちを必死に抑え答えた。

 「そうですか、分かりました、お母さん行こう」

 と、自分達の事は、一切名乗らず軍港から去った。

 「あっ?!ちょ、ちょっと、あんた達」

 「ああ、構わねぇほっとけ」

 「で、でも兄貴っ」

 「良いんだよ」

 と、シンは、馬上で弟分達を止めた。シンには、二人の正体が分かっていた。

 (そうかあれがオヤジの言ってた兄ぃの母ちゃんと姉ちゃんだな)

 シンは、弟分達には何も言わず海軍本部へと向かった。軍港から離れたステラとルーシーは、宿屋に戻った。ルークが今この国に居ない事と帰って来るのが一週間後である事が分かり二人は、どうやって過ごすか話し合っていた。

 「どうするんだい、ルーシー、ルークが帰って来るのは一週間後ってそれまでお金もつかねぇ?」

 「ええ、まさか一週間後っていうのは予想外だったわ、お金の心配はいらないわ、あの子が帰って来た全部払わせてやるから」

 と、ルーシーは、目をギラつかせて言った。とにかくもっと情報を集めようと予定通り夕方に青い鳥に行く事に決めた。

 その頃、海軍本部ではシンが悩んでいた。ルークの母と姉と思われる彼女らの事をレンに話そうか迷っていた。

 (はぁ~どうしたもんかなぁ、はっきり兄ぃの母ちゃんと姉ちゃんって決まった訳じゃないし、偽者だったら大変だしなぁ、やっぱりちゃんと問い詰めるべきだったか…それにしても兄ぃに良く似てたよなぁ)

 「…っか、閣下、クライン閣下」

 「えっ?」

 と、シンは、考え込んでいて自分の机の前に居る士官に呼ばれている事に気付いていなかった。そして、気付いて慌てた。

 「な、何だよ?」

 「この書類に署名願いますか?」

 「ああ、何だそんな事か…あいよ」

 と、シンは、自分の名を書いた。士官は、一礼して部屋から出て行った。シンは、また考え込んだ。

 (兄ぃは、自分の家族はもうこの世にいないと思い込んでる…兄ぃがメクリアで何をしたのか知らねぇがきっと家族に会いたいはずだ、うん、そうだな、きっと会いたいはずだぜ)

 と、シンは、勝手にそう思った。そして、この日の夕方シンは、職務が終わると大衆酒場兼食堂の「青い鳥」に向かった。そこには、既にヨーゼフも居た。

 「あっご隠居」

 「おう、シン来たか、まぁ座りなさい」

 と、ヨーゼフも座るカウンター席にシンを座らせた。シンは、直ぐに今朝方、出会ったステラとルーシーの事をヨーゼフに話した。

 「何ぃ?その二人が軍港に現れたのか?ルークを訪ねに来たのじゃな」

 「その様です、でも今思えばちょっとおかしな感じでした、何かこう怒ってる様な」

 「おお、シンもそう感じたか、俺も姉の方が怒ってる感じがしたんだよ」

 と、青い鳥のオヤジが言った。シンの恋人でもある店の看板娘ライラは、そんな事は無いだろうと言ったが、シンとオヤジは違うと言った。

 「兄ぃの奴、一体国で何やらかしたんだろう?」

 と、シンが呟いた時、店にステラとルーシーが入って来た。 


 

 


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