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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
165/206

国王レオニール

 魔導車で大広場に戻ったレン達をヨーゼフやラストロが迎えた。貴賓席に居たアルス皇太子夫妻ヨハン太子夫妻は、ホッと胸を撫で下ろした。アストレア女王の傍に居たエレナ、コノハ、カレン、ユリヤがレン達に駆け寄った。

 「レンッ」

 「エレナ、終わったよ…でも」

 と、レンは、エレナを抱きながら暗い顔をして後ろを見た。魔導車の中で苦しそうにしているアンドロスが居る。マルスとラーズがアンドロスをそっと魔導車から降ろした。空を飛んで来たシーナとカイエンも大広場に降り立ち元の姿に戻った。

 「アンドロス」

 「女王…」

 と、アンドロスは、アストレア女王に寂し気な笑顔を向けた。アンドロスは、立っていられないのかその場に崩れる様に座り込んだ。マルスとラーズが支えている。

 「とうとう…お別れの時が来たようです…長きに渡り女王の従者として…お仕えして…いつかこの日が来る事は分かっていましたが…いざとなると寂しいものです」

 「な、何じゃどうしたんじゃアンドロスよ?何を言っておる、その程度の怪我など、シーナ治してやらぬか」

 と、何も知らないヨーゼフが言うとシーナは、目に涙を浮かべ言った。

 「駄目なんだ、じいちゃん…アンドロスのおじさんはね、お別れしなきゃいけないの…うう、うううぁぁぁぁぁぁぁ」

 と、とうとう泣き出してしまった。アストレア女王がシーナを優しく抱き締めた。

 「お別れとは何じゃ?アンドロスよ、今日はレオニール様の戴冠式というめでたい日じゃぞ」

 「そうだったな、そのめでたい日にすまんが私の役目が終ったのだ、私は純白の世界に帰らねばならない」

 「役目?純白の世界に帰るだと?」

 と、ヨーゼフは、まだ訳が分からないといった顔をして言った。アンドロスが遠い目をして話し出した。自分達エンジェリア人の中には、極限られた者にだけ役目がある。その役目とは、アストレア女王の永遠の従者である。エンジェリア人が住むヘブンリーは、南ランドールの東にある山岳地帯にあり山の入り口には、迷いの森と呼ばれる広大な森林地帯がある。それらを女王の永遠の従者と呼ばれる者が管理する。エンジェリア人にとって永遠の従者になる事は、非常に名誉な事でそれゆえに過酷でもある。アンドロスは、先代の永遠の従者から役目を引き継ぎ約二千年もの間、アストレア女王の傍に居た。そして、その役目を終えるのがいつになるのか分からない。役目を終える時は、永遠の従者と呼ばれる者が純白の世界と言う異次元に帰る時なのである。ヨーゼフは、呆然とした。かつて共にイビルニア半島でイビルニア人を殲滅するため戦った同志でもあったアンドロスが今この世界から消えようとしているのだ。

 「女王…あなた様にお仕え出来て光栄でした…後任の者は既に神殿に控えております」

 「そうですか、アンドロス…永きに渡り本当にご苦労でした」

 と、アストレア女王は、アンドロスの手をそっと握り言った。アストレアは、アンドロスの役目が終えようとしている事を数ヵ月前から知っていた。アンドロスの身体が、弱弱よわよわしく光り出して来た。

 「ヨーゼフ…」

 と、アンドロスは、力の無い声でかつての同志を呼んだ。ヨーゼフは、涙を流しもう一方の手を両手で握り締めた。

 「何じゃい?」

 「レ、レオニールを立派な国王に育ててくれ…争いの無い世界を作るには…人間の心が一番大事だ、互いに分をわきまえ協力し合い慈愛に満ちた心を…レオニール」

 「うん」

 と、レンもアンドロスの手を握り締めた。

 「お前の顔を見ているとミストレア様を思い出す…ロックウェルの面影も感じる」

 と、アンドロスは、レンの先祖でありアストレア女王の妹であるミストレアと夫であるロックウェル・ティアックの名を言った。

 「レオニール…国民を大事にするのだぞ、お、お前にはヨーゼフが居るテランジンも居る…ミストレア様とロックウェルが興したこの国を大事にしてくれ」

 「うん、分かってるよアンドロス」

 と、レンは、涙を流し答えた。アンドロスは、微笑み頷くとマルスを呼んだ。マルスもまたアンドロスの手を握り締めた。

 「マ、マルス…お前は本当にタケルヤ様に似ている…顔つきも性格も…あまり悪戯いたずらばかりするなよ」

 と、アンドロスは、アストレア女王とミストレアの弟でジャンパール皇国を興したカムイ家の先祖タケルヤの名を言った。

 「俺はもう悪戯なんてする歳じゃないぞ、そんな事より本当に帰っちまうのかよ」

 「…ああ、永遠の従者となった時からの宿命だ」

 アンドロスは、寂しげな顔で言うとシーナ、カイエン、ティガー大帝を呼んだ。三人とも涙で顔を濡らしていた。

 「シーナ…カイエン、ドラクーンの未来はお前達二人に掛かっている…カイエン、あまりドラコを困らせる事はするな、シーナ、お前もドラコやカイエンを助けてやってくれよ…ティガーよ、ベアドのような立派な王になってくれ…はぁはぁ…ふっ、ふふふ…私の迎えにフウガ、まさか君が来るとはな」

 「えっ?おじいさんが?」

 と、アンドロスの言葉にレンは、驚いた。そんな様子を貴賓席に居る各国の要人達は、不思議に思い見ている。

 「彼らは何をしているんだ?あのエンジェリア人は死ぬのか?」

 と、好奇心の強そうな者がレン達のもとへ見に行こうとしたが、アルス皇太子が止めた。

 「およしなさい、見世物ではありませんぞ、本来エンジェリア人が人間の前に姿を現す事は無いのですよ、ましてやあのような時に興味本位で近付けばアストレア女王のご勘気に触れる事になるやも知れませんぞ」

 勘気と聞いて好奇心の強そうな者は、顔を引きらせた。この世界では、エンジェリア人の怒りを買えばその国は、滅びると言われていた。

 フウガが迎えに来たと言ったアンドロスは、微笑んでいた。アストレア女王は、一点を見つめている。多分そこにフウガが居るのだろう。シーナ、カイエン、ティガー大帝にも見えるのだろうアストレア女王と同じ場所を見つめていた。そこは丁度レンとマルスの間だった。

 「ふふ、私はてっきりエルドラが来ると思っていたよ…いや、ありがたい、では行こうか」

 アンドロスがそう言うと身体が強く光り出した。皆、眩しさで目を瞑ったその時、より一層強く光りを放ちアンドロスの身体は、この地上から消えた。そして、アンドロスが横たわっていたところには、美しい羽が三枚落ちていた。

 「アンドロス…」

 レンは、落ちている羽を一枚拾った。マルスとラーズも拾った。三人がアストレア女王を見ると寂し気な微笑みを浮かべ静かに頷いた。三人は、アンドロスが残した羽を胸のポケットにそっと入れた。

 「フウガは、あなたがやっと国王となる事を大いに喜んでいたわ、アンドロスはフウガと共に純白の世界へ行きました、悲しむ事はありません、さぁレオニール、あなたの戴冠式の続きを始めましょう」

 と、アストレア女王は言ったが、辺りはすっかり薄暗くなって来ていた。ラストロは、直ぐに魔導灯を祭壇の四方に設置させた。祭壇前には、レンとエレナ、二人に付き添うヨーゼフと向かい合う形で不死鳥の剣を持ったアストレア女王、大小二つの王冠を乗せた金の盆を持つラストロが居る。暗い中、魔導灯に照らされたアストレア女王の姿がより一層神秘的に見えた。トランサー国民や貴賓席からため息が漏れた。

 「何と言う美しさ…神々(こうごう)しさ」

 「はぁ…あのようなお姿、もう二度とお目に掛かれない」

 ライゼン大将達近衛師団が静かにするよう国民を促した。そして、大広場が静まり返り戴冠式が始まった。まずアストレア女王が祭壇に祈りを捧げ、続いてレンとエレナが祈りを捧げた。そして、アストレアは、不死鳥の剣をそっと鞘から抜き放った。刀身が淡く赤い。レンとエレナがアストレア女王にひざまずいた。アストレア女王は、不死鳥の剣の刀身をレンの肩に当て厳かに言った。

 「なんじがこの国の王として君臨する事をわれヘブンリーを統治しこの世界の記録者であるアストレアが認める、そして汝が妻エレナがこの国の王妃である事を認める」

 アストレア女王は、不死鳥の剣を鞘に納めるとラストロが持つ金の盆の上に置かれた大きめの王冠をレンの頭に被せ小さめの王冠をエレナの頭に被せた。この瞬間、レンは、トランサー王国の正式な国王となったのだ。国民からは、大歓声や拍手が起こり貴賓席からも拍手が送られた。金の盆を祭壇に置いたラストロが国民に向かって叫んだ。

 「トランサー国王の誕生である、皆、大きな拍手を!」

 国民達は、力の限り拍手を送った。

 「レオニール様万歳!トランサー王国万歳!」

 義兄弟として王族側の席に居たマルスとラーズは、握手を交わしていた。互いに目に涙を浮かべている。

 「やったな、長かったなぁ…この日が来るのをどんなに待ちわびたか」

 「そうだな、いやぁ本当に良かった」

 こうしてレンが統治するトランサー王国ティアック朝が復活した。

 (おめでとう、レオニール)

 「えっ?ラムール?」

 (あなたが国王になって私も嬉しいわ、アストレア)

 と、不死鳥の剣の中に居る不死鳥ラムールがレンを祝い、アストレアを呼んだ。

 「なぁにラムール?」

 (今日はレオニールのおめでたい日でしょ、外に出たいわ)

 「そう、あなたも祝ってくれるのね、良いでしょう」

 と、アストレア女王は、不死鳥の剣を鞘から抜くと刀身が光った。そして、ラムールの美しい鳴き声が大広場に響いた。ラムールの声を聞いた事の無い者達が大いに驚いた。

 「な、何だ今の?鳥か?あっ上!」

 大広場の上空に光り輝くラムールの姿があった。マルスやラーズなどイビルニア半島でその姿を見た者は、懐かしく思った。

 「あ、あれが不死鳥…」

 と、初めて見るヨーゼフは、ラムールの姿に釘付けとなった。どういう訳かテランジンとリリーの娘デイジーがリリーの腕の中ではしゃぎ出した。

 「ああう、きゃっきゃ」

 「ちょ、ちょっとデイジーどうしたの?」

 「もっと良く見せてやれ」

 と、テランジンがリリーに言った。リリーは、椅子から立ちデイジーにラムールの姿を良く見せようとデイジーを高く持ち上げた。デイジーは、両手を一杯に広げてきゃっきゃはしゃいだ。するとラムールは、ゆっくりと高度を下げながらレン達の居る大広場を飛び回った。ラムールを始めてみる国民や貴賓席に居る人々が口々に話した。

 「何と言う美しさ…あの鳥がトランサー国旗に描かれている不死鳥なのか?」

 「綺麗な鳥ね、何でしょう?キラキラ何か降って来るわ」

 と、ラムールから零れ落ちる光りの粒に触れながら人々は、口々に話した。光りに触れると光りは、ゆっくりと消えて行く。やがてラムールは、レン達の前に降り立った。ラムールは、レンに自分のくちばしを撫でろという仕草を見せた。レンは、優しく嘴を撫でてやるとラムールは、気持ち良さそうに目を閉じた。

 「ラムール」

 アストレア女王が言うとラムールは、アストレア女王にも撫でろといった仕草を見せた。

 (先ほどアンドロスはフウガ・サモンに見送られて純白の世界へ無事に着いたわ)

 「そう、良かった…フウガは何か言ってなかった?」

 と、アストレア女王は、ラムールの嘴を撫でながら聞くとラムールは、レンを見て答えた。

 (ええ、フウガ・サモンはレオニールがとにかく無事に国王になった事を喜んでるわ、それとエレナを大切にと、そしてヨーゼフ・ロイヤー)

 と、ラムールに名前を呼ばれたヨーゼフは、驚き恐る恐るラムールに近付いた。

 (フウガがヨーゼフ、君ももういい歳なんだから無理はするなと、後の事は若い者に任せ孫とのんびり暮らせと言ってたわウフフフ…それと今までレオニールを守ってくれてありがとうと)

 と、ラムールに言われヨーゼフは、何とも言えない顔をして答えた。

 「しゅ、主君をお守りするのは臣下の務めではないか…フウガ殿までわしをジジイ扱いするとは」

 「な~に言ってんだよ、もう立派な爺さんじゃねぇか、もう国の事は国王となったレンやテランジン、サイモン大将達に任せてよ、孫とのんびり暮らせよヨーゼフ」

 と、マルスが言った。レンは、ヨーゼフの手を取り話した。

 「ヨーゼフ、今日僕がこうして国王となれたのもヨーゼフが居てくれてからだよ、ありがとう…今まで僕の傍に居てくれた分、今度はリリーさんやデイジーの傍に居てあげて欲しいと思う」

 「若…いや陛下、拙者が居たからなどと…身に余る光栄でございます、サイファでお目に掛かった時から拙者はレオニール様、トランサー王国のため尽力する事を誓いました」

 と、ヨーゼフは、サイファ国、国境付近の村でレンとマルスに出会った時の事を思い出し話した。

 「あの頃の若、いや陛下は恐れながらまだ幼さが残っておりましたが、陛下は今や立派な大人の男子であらせられまする、このヨーゼフ、お言葉通りに致しまする」

 「そうしなさい、ヨーゼフあなたにはフウガの分まで生きてもらわないとね、そうでしょうレオニール」

 と、アストレア女王がヨーゼフの肩に手をやりレンに言った。

 「そうだよ、ヨーゼフにはしっかり長生きしてもらわないとね」

 「若ぁ…ありがとうございまする」

 ヨーゼフは、涙を流し礼を言った。そんな中、不死鳥ラムールは、ふとラストロをじっと見つめた。

 (ラストロ・シェボット、あなたにはザマロの様な性質は無いようね安心したわ、これからもレオニールを支えてあげて)

 「不死鳥よ、安心してくれ私は父の様には絶対にならない」

 と、ラストロは、真剣な目でラムールに言った。ラムールは、ラストロにも自分の嘴を撫でさせた。そして、空に飛び上がり何度もレン達の頭上を飛び回った。光り輝く尾羽や光の粒が大広場に舞い落ちた。人々は、何か癒される感覚を覚えた。そこへベッサーラ海軍の士官達を海軍施設に待機させたルーク、シン、ジャン達、テランジン一家の者達が大広場にやって来た。

 「ああ、ありゃあの時のでっけぇ鳥じゃねぇか!どうなってんだ?」

 「ルーク来たか、久しぶりだろうあの不死鳥を見るのは」

 と、テランジンがルーク達に言うと傍に居たシンが急に泣き出した。相棒であるカツが殺された事によって誰よりも心に深い傷を負っていたシンは、ラムールから降り注ぐ光の粒を全身に浴びてその心の傷を癒したのだった。テランジンもルークも同じだった。カンドラ事件に関わった全ての者達の心をラムールは、癒してくれた。

 (さぁ私はもう少し自由を満喫するけど良いかしら?)

 と、ラムールは、レンに言った。

 「もちろんだよ、でもちゃんと帰って来てね」

 (うふふ、分かってるわ)

 そう言うとラムールは、天高く舞い上がり姿が見えなくなった。アストレア女王は、柄だけになった不死鳥の剣をレンに渡した。ラストロは、頃合いと思い戴冠式の終了を国民や貴賓席に居る人々に告げた。

 翌日、世界中にレンが正式にトランサー王国の国王となった事が知らされた。ジャンパール皇国は、皇帝イザヤの甥になるレオニール・ティアックが正式に国王となった事でジャンパール議会では、トランサー王国に対し何か祝いの品を贈ろうと決まった。そして、その祝いの品と言うものは、フウガの銅像だった。二体贈る事となった。この提案は、アルス皇太子の妻アン皇太子妃の父ステアゴールド公爵によるものだった。

 「レオニール様をお育てしたフウガ・サモン閣下の銅像ならばきっとレオニール様もお喜びになられるはずですぞ」

 この提案に皇帝イザヤと皇后ナミも大賛成した。銅像の一体は、フウガが斬鉄剣を地に突き直立したものでもう一体は、フウガが幼い頃のレンと手を繋いでいるものを作る事となった。

 国王となったレンは、この日多忙を極めた。まず自分の戴冠式のために集まってくれた各国の要人や指導者、王侯貴族達の別れの挨拶を謁見の間で一日中受けた。

 「もうクタクタだよ」

 と、夕方になりやっとマルス達が居るいつもの部屋へと帰って来た。王妃として共に挨拶を受けていたエレナも疲れた表情を浮かべていた。夕食となり皆で食堂へ向かった。

 「ところでベッサーラの連中はどうするんだよ?士官達は海軍の施設に居るんだろ?」

 と、ラーズが話し出した。ライオットの洗脳を解かれたベッサーラ人達は今、トランサーの陸と海の上に居た。レンは、難しい顔をしながら答えた。

 「その事なんだけどベッサーラ本国にはまだ洗脳が解けていない人達が一杯居るだろ?今、海軍施設に居るベッサーラ人の洗脳を解いた事は秘密にしてるんだよ、あくまで彼らを捕虜としてベッサーラに通告したんだ、そうしないと下手に洗脳を解いた何て言ったらまだ洗脳されてる連中が彼らの家族に何をするか分からないからね」

 「な~る、そりゃそうだな、言えば裏切り者の家族として捕えられ殺されるかも知れん」

 と、マルスが訳知り顔で言った。皆、暗い顔になった。せっかくレンが国王となったのにベッサーラ王国とは、戦争中だったのである。戦争を裏で操ったライオットは倒したが、操られているベッサーラ本国の人々は、その事を知らないし知っても洗脳されているため信じないだろう。

 「カイエン、ベッサーラ人達の洗脳はあなたが解きなさい」

 と、アストレア女王に突然言われたカイエンは、食べ物を噴き出した。それをまともに見たヨハン太子の妻シャルロット太子妃は、あからさまに嫌な顔をした。

 「お、俺っちが?」

 「そう、あなたがやるのです、リヴァーヤが出来るのです、あなたにも出来るはず」

 「う~ん、どうやって解いたんだろ?明日ルークあにぃにそん時の状況を聞いてみよう」

 「そうしなさい、ところでレオニール…頼みがあるのですが…その…」

 と、アストレア女王は、珍しく顔を少し赤くして言い辛そうにしていた。その姿がどこか恥ずかしそうにする少女の様に見えた。アンとシャルロットがうっとりと見つめた。

 「女王様があのような表情を…」

 「レオニール様、どうか女王様の頼みをお聞き入れ下さいますよう」

 「は、はぁ一体頼みとは何でしょう?」

 と、レンが聞くとアストレア女王は、両手で顔を覆い恥ずかしそうに答えた。

 「私、また海の底が見たいの」

 何だそんな事かとレンは、笑いそうになったがグッと堪え真面目に答えた。

 「分かりました、明日テランジンに言って見に行きましょう」

 マルス達も行くと言い出したのでテランジンの軍艦三隻を出してもらう事にした。翌朝、登城して来たテランジンにアストレア女王が海の底が見たいと言っていると話すとテランジンは、大笑いした。

 「あははは、あの女王が?分かりました早速行きましょう」

 「皆も行きたいって言ってるんだ、ふね出せる?」

 「大丈夫です陛下、今の所ベッサーラから新たに艦隊が攻めて来る事は無いでしょうから三隻とも出せます」

 と、テランジンは、レンを「若」とは言わず「陛下」と言い答えた。レンは、妙な気分がしたが改めて国王になった事を実感した。そして、レンは、エレナ、アストレア女王とマルス達を連れお忍びで軍港へ向かった。軍港に居た水兵や士官達は、大いに驚いた。国王となったレンが視察に来たと思った。

 「いい、一体何事ですか?陛下」

 「ふふふ、ちょっとね」

 と、レンとエレナ、アストレア女王、マルスとカレン、コノハがテランジンと一号艦に乗り込み、ラーズ、ユリヤ、シーナ、カイエンが二号艦に乗り、アルス皇太子とアン、ヨハン太子とシャルロット、ティガー大帝が三号艦に乗り込み軍港を出た。沖まで出ると一号艦の艦長であるルークが二号艦のシンと三号艦のジャンに潜水開始と指示を出した。テランジンの三隻の軍艦は、変形して海に沈んでいった。

 「まぁぁぁぁ何と美しい…黒流穴こくりゅうけつがあった海はどことなく暗い感じがしましたが、トランサーの海はとても明るく見えるわ」

 と、アストレア女王は、少女の様に目を輝かせて海の底を見つめた。カレン、コノハは、海の底を初めて見た。アストレア女王の様に感動していた。

 「ねぇお兄ちゃん、ジャンパールじゃこんなふね作れないの?」

 と、コノハが言うとマルスは、残念そうに答えた。

 「ああ、潜水艦は、出来てるがあれは軍事用だ、この艦も軍事用だがこんなに快適に居られない、民間用の潜水艦などいつ出来るか分からんな」

 「え~つまんないのぉ」

 と、コノハは、残念がり窓を覗いた。二号艦では、ユリヤが大はしゃぎしていた。

 「凄い凄い凄い、何これぇ~?ラーズ様、デ・ムーロ兄弟と言う方に同じものを作ってもらいましょう」

 「そんなに簡単に作っちゃくれないよ」

 と、ラーズは、少し呆れて答えた。三号艦に乗っているアルス達は、大真面目に海の底や艦内を見学していた。

 「素晴らしい、マルスからこの艦の事は聞いていたがここまで凄いとは…」

 「私もラーズから聞いていたがここまでとは思わなかったよ」

 「ふぅむ、我が国にも欲しいのぉ」

 「我が国でもこの様に海の底を探索出来る船があれば良いのに」

 「全くですわ、ヨハン様ランドールも船の開発にもっと力を入れねばなりませんね」

 と、この潜水をそれぞれが満喫して陸に上がった。この日は、珍しくアストレア女王は、多弁だった。アンドロスが居なくなった寂しさもあったかも知れない。夕食後、いつもの部屋でくつろいでいると、ベッサーラ討伐の話しになったが、レンは、ベッサーラ討伐の前にやる事があると言い話しを終わらせた。

 「何だよやる事って?」

 「ふふ、良い事だよ」

 と、レンは、笑顔でマルス達に言った。

 

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