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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
164/206

リヴァーヤの助けとアンドロスの役目

 レン達が大広場や城下町の門前でライオット達イビルニア人と戦っていた頃、トランサー海上でも激しい戦闘が行われていた。ベッサーラの艦隊の陰から次々と姿を現しては、トランサー本土に上陸しようとするイビルニアのふねをテランジンの三隻の軍艦の内、三号艦と呼ばれる艦の艦長を務めるジャン・ギムレットが自分の弟分や部下に指示を出し次々と撃沈していた。

 「兄貴、また沈めてやったぜ!そっちはどうだい?」

 と、ジャンは魔導無線でルーク、シンに話しかけた。

 「良くやった、こっちは大変だ、ベッサーラの艦が固ぇの何のって」

 「畜生、アイザの旦那はまだ来ねぇのかよ、弾が無くなっちまうぜ」

 と、話していると三号艦に乗艦する士官が妙な事を言った。

 「ギムレット少佐、海面に真っ黒な海獣がやたらと艦の周りを泳ぎ回っております」

 「何っ?真っ黒な…海獣だと?…あっ?!ブラッキーだ、何でこんな時にブラッキーが?」

 ジャンは、直ぐにまたルークとシンに知らせた。

 「何だとブラッキーが?何でこんな時に?ああもうこんな時にシーナが居たら、ジャン、ブラッキーはただ泳ぎ回っているだけか?」

 「ああそうみたいだぜ…んん?ちょい待ち!兄貴、何だろう?何か合図を送ってる様に見えるぜ」

 ブラッキーは、三号艦の周りを泳ぎ回り時々尾びれを海面から出し大きく振り飛び跳ねたりした。その様子をジャンは、ルークとシンに伝えた。その動きに心当たりがあった。レン達と共にメタルニアを目指していた時の事である。途中イビルニアの艦隊に襲われた時、ブラッキーが突然現れ海獣達がイビルニアの艦隊を海に沈めてくれた事を思い出した。

 「じゃ、じゃあまた海獣達が今度はベッサーラの艦隊を沈めてくれるのかい?」

 「分からん、そうかも知れん…って、うおぉぉぉぉぉぉぉ!何だぁ?」

 「どうした兄貴?」

 と、突然トランサー艦隊とベッサーラ艦隊の間に巨大な水柱が立った。海が大きく揺れた。双方とも撃ち合う事を止め水柱が消えるのを待った。そして、水柱が消えるとそこには、イビルニア半島を沈めるために力を貸してくれた海獣王リヴァーヤの姿があった。

 「やぁ海賊達、久しぶりだね」

 と、リヴァーヤは、ルーク達を海賊と呼んだ。

 「また人間が海を汚していると思っていたら…あの忌まわしき者達がまた悪さをしていた様だなぁ、う~む…困ったものだ」

 「リ、リヴァーヤ、海を汚して申し訳ねぇ、しかし今は戦争中なんだ、ベッサーラの艦隊をやっつけねぇと俺達がやられちまう!」

 「か、艦長あの海獣は?」

 と、ルークの傍に居た若い士官が操舵室から見えるリヴァーヤを見て言った。この士官は、イビルニア戦争に参戦していなかった。ルークが説明してやると呆然とした。

 「ああ、あの海獣が伝説の海獣王リヴァーヤ…ほ、本当にいたんだ…」

 ベッサーラ人達は、リヴァーヤを目の前にして大いに動揺した。洗脳はされていても現実離れした光景を見ると正常な人と変わりは無い様だった。

 「ああ、あの化け物は何だ?ど、同志よあれは一体?どうすれば良い」

 と、ベッサーラの戦艦の艦長が傍に居た中位のイビルニア人に意見を求めた。中位のイビルニア人は、構わず攻撃しろと言った。艦長が全艦隊に攻撃命令を出した。

 「ああっ!やりやがったぁ野郎共、リヴァーヤを守れ!ベッサーラに攻撃開始!」

 と、ルークとシンが応戦した。リヴァーヤは、ベッサーラの艦隊から飛んで来る砲弾など気にもしていなかった。リヴァーヤは、自分の周りに海水で大きな壁を作り弾を防いだ。

 「海賊達、何もしなくて良いよ、私に任せなさい…う~む、この者達は操られているな」

 リヴァーヤは、そう言うとベッサーラの艦隊を見つめた。ルーク達は、どうなるのか固唾を飲んで見守っていると、ベッサーラの戦艦から一隻、また一隻と砲撃が止んでいった。そして、艦から黒い人影が次々と海に飛び込む姿が見え始めた。そこを待っていたかのようにブラッキー達海獣が黒い人影を食べ始めた。黒い人影の正体は、イビルニア人であった。リヴァーヤは、人間達の洗脳を解くと同時にイビルニア人が嫌がる人間には聞こえない超音波を出していたのだ。リヴァーヤがベッサーラ人の洗脳を解いている間、ルークは、テランジンに連絡を入れていた。

 「忌まわしき者共め、まだ残党が残っていたか…さぁ海賊達よ、もうあの軍艦から攻撃される事はないだろう」

 「あ、ありがとうよ、リヴァーヤ」

 「海は汚さんでくれよ、さぁカイトや、我々は帰ろう」

 そう言うとリヴァーヤは、大きな水しぶきを上げて海底へと姿を消した。カイトと呼ばれたブラッキーは、ルーク達に別れの挨拶のつもりか尾びれを数回振って海底へと姿を消した。そんな時、ようやくジャンパールの艦隊が姿を現した。アイザ大将から直ぐにルークの一号艦に魔導無線が入った。

 「ルーク大佐、遅れてすまない、敵は?ベッサーラの艦隊は?」

 「ああ、アイザの旦那ぁ、もう終わったぜ、あれを見てくれ」

 と、ルークは、アイザ達にベッサーラの艦隊を見るよう言った。丁度、シンの二号艦がベッサーラの艦隊の旗艦と思われる戦艦に近付いているところだった。シンは、艦の甲板に立ち何かさけんでいる。旗艦と思われる戦艦から水兵が出て来て応対していた。その様子をアイザ大将は、双眼鏡で見ている。

 「おい、この艦はベッサーラ海軍の旗艦か?旗艦ならこの艦隊の司令官と艦長を連れて来い」

 「確かにこの艦はベッサーラ海軍の旗艦です、あなたは?」

 「俺はトランサー海軍中佐シン・クラインだ」

 「中佐殿でしたか、失礼しました、直ぐに知らせて来ます」

 ベッサーラの水兵は、慌てたように艦内に引っ込んだ。しばらくすると先ほどの水兵が司令官と艦長を連れて戻って来た。皆、困惑した顔をしている。

 「トランサーの士官が何の用だ?ここはどこなんだ?」

 「ははぁ、やっぱ何も覚えてねぇのか…ここはトランサー海域だよ、あんたらはイビルニア人に洗脳されてたんだよ」

 と、シンは、これまでの経緯を話してやるとベッサーラ海軍の者達は、皆、顔を真っ青にした。

 「わ、我々は一体どうすればよろしいか?」

 「ちょっと待ってくれよ」

 と、シンは、ルークに連絡を取った。ルークは、トランサー海軍の司令官に指示を仰いだ。司令官は、まずベッサーラ艦隊に降伏旗を掲げるよう要求した。ベッサーラ側は、皆、洗脳が解けているので素直に要求に従った。そして、ベッサーラ艦隊をトランサー海軍の軍港付近に停泊させベッサーラ艦隊の司令官と各艦の艦長を上陸させる事にして他の士官や水兵達は、艦内に残す事とした。

 「そうか、ご苦労だった、後はこちらだけだな、念のためベッサーラの艦の中にイビルニア人が残ってないか確認するように」

 と、全ての報告を聞いたテランジンは、小型魔導無線を切った。ライオットは、剣をだらりと持ちテランジンを見つめていた。

 「おい、ライオット、海の方は片付いたぜ、まさかリヴァーヤが手助けしてくれるとはな」

 「ううむ、まさか海獣王が出て来るとは…まぁ良いどのみち貴様らは死ぬ事になる…行くぞ!」

 テランジンとライオットの激戦がまた再開された。その頃、大広場では、フウガを刺した変わったイビルニア人が身体の半分をレンが放った雷光斬で黒焦げにされていた。

 「ひ、酷いじゃないか…レオニール」

 辛うじて頭と身体の右側だけは無事だったがまともに動けそうになかった。立っているのがやっとといった感じである。

 「何が酷いもんか、こうなってもお前は痛みを感じないんだろう?」

 「ま、まぁね…でも身体がまともに動きそうにないからもうレオニールとは遊べないなぁ」

 と、変わったイビルニア人が言い左膝を地についた。レン、マルス、ヨーゼフは、ゆっくりと変わったイビルニア人に近付いた。そして、マルスが変わったイビルニア人の仮面を叢雲むらくもの切っ先で取ると醜い顔が現れた。細く吊り上がった目が笑っていたが、苦しそうにも見えた。

 「か、仮面を…眩し過ぎる」

 「はぁ?何言ってんだお前、今から死ぬ奴に仮面もクソもあるか!しっかし不細工な面だなぁ」

 と、マルスが呆れて言った。変わったイビルニア人は、悔しそうに顔を歪めた。さらに醜い顔になった。レンは、こんな奴にフウガやセンとリク、バズ、言わば自分の家族とも言える人々を奪われたのかと考えると猛烈な嫌悪感と憎しみが込み上げて来た。レンは、静かにフウガ遺愛の斬鉄剣を構えた。

 「死ね」

 「若、今日は若の戴冠式の日ですぞ、これ以上お手を汚す事はありませぬ、拙者が」

 ヨーゼフはそう言ってかつてフウガから贈られた刀で変わったイビルニア人の首を刎ねた。これで大広場からは、完全にイビルニア人の気配が消えた。ヨーゼフは、ライゼン大将にイビルニア人の死体の処理を命じた。近衛兵や陸軍兵士達が死体を片付ける中、怪我をした練気隊士達の治療をシーナや大使館付きのドラクーン人が行った。

 「そうだ、テランジンとカイエンは?まだライオットと戦ってるんじゃ」

 「おお、そうだった行こう」

 レンとマルス、ラーズは、テランジン達の加勢に向かった。

 「わしも」

 と、ヨーゼフも向かおうとした時、アストレア女王が止めた。

 「あなたはここに居なさい、アンドロス、レオニール達を」

 「ははっ」

 アンドロスは、何か意味あり気に頷きアストレア女王は、アンドロスの手を取りぎゅっと握った。アストレア女王の目は、どこか物悲し気だった。

 その頃、テランジンとライオットは、壮絶な戦いを繰り広げていた。

 「テラン兄ぃ、本当に大丈夫なのかよ?」

 と、カイエンがライオットと一騎打ちを望んだテランジンに言った。テランジンは、既に傷を負っている。ライオットも傷を負っているが、イビルニア人であるため痛みを感じない。

 「ううむ、ここまでやるとはな…少々見くびっていた」

 テランジンはそう言うと剣に気を溜め始めた。テランジンが気を最大に溜め込んだ時、ライオットが初めて異常を感じたのか剣を構えた。

 「滅殺雷神斬めっさつらいじんざん!!」

 と、テランジンがライオットに向け剣を振るうと巨大な雷が落ちた。その轟音は、大広場や城下町の門に向かっているレン達の耳にも届いた。

 「な、何だ今のは?」

 「テランジンの必殺技だよ」

 と、レンは、以前トランサー城内で見た滅殺雷神斬の話しをした。

 「へぇ凄ぇなぁ、じゃあさっきのでもう勝負はついてるかも知れねぇな」

 「分からないよ、とにかく急ごう」

 と、レン達が走りながら話している頃、予想外の事が起きていた。ライオットは、テランジンの滅殺雷神斬を頭の真上で受け止めていたのである。

 「フ、フアハハハハッ!危ない危ない…私もお前を少々見くびっていたようだ、人間の出せる力とは思えんな、フハハハハ」

 「…まさか防がれるとは…万事休すだカイエン」

 「な、何言ってんだよ兄ぃ」

 「では私もお返しと行こうか…極空魔波きょっくうまは!!」

 「うおっ!」

 ライオットは、かつてカンドラに雇われトランサー城内に忍び込んだ上位のイビルニア人ダークスと同じ技を放った。禍々しい気を帯びた強烈な真空波がテランジンを襲う。テランジンは、辛うじて気合と共に極空魔波を弾き返したがその威力は、ダークスのものとは比べ物にならないほど強力だった。テランジンは、その衝撃で大きく吹っ飛ばされ街道脇の木に激突した。近くに居たカイエンまで吹っ飛んだ。

 「な、何と言う威力ダークスのものとはまるで違う」

 「ダークス?ふん、あいつに剣を教えたのはこの私だ、言わばお前達人間で言うところの師匠と弟子」

 「な、なるほど、イビルニア人にしては妙に人間臭いな、お前まさか半イビルニア人なんじゃないのか?」 

 「半人如きと一緒にするな!そりゃあぁぁぁ!!」

 と、ライオットがまた極空魔波を放った。テランジンは、身構え極空魔波を弾き返そうとしたが、わずかに遅れを取り攻撃を喰らった。衣服はズタズタに裂け血を噴き出し、また木に激突した。

 「ぐぅぅおぉぉぉ…」

 「兄ぃっ!!」

 カイエンが慌てて駆け寄り倒れたテランジンの半身を起こした。

 「しっかりしねぇか、兄ぃ」

 「フハハハハ、どうしたもう終わりかね?先ほどの技はまぐれだったのかな?」

 と、ライオットは、剣をだらりと持ちほくそ笑んだ。カイエンは、素早くテランジンの傷を治療しライオットに立ち向かった。

 「兄ぃ、休んでな、やい今度は俺っちが相手だ、行くぜぇっ!」

 そう言うとカイエンは、一気にライオットとの間合いを詰め爆炎を吐いた。怯んだところを力任せに殴りつけた。カイエンは、出来るだけテランジンから距離を取ろうとしていた。

 「カ、カイエン…」

 と、テランジンは、やっとの思いで膝立ちになり剣を杖のようにしてカイエンの戦いを見守った。龍神と呼ばれるようになったカイエンは、以前にも増して力を付けた様だった。ライオットを押しに押している。ライオットは、カイエンの攻撃を何とか受け流しているように見えた。

 「むぅぅ、さすがはドラクーン人だな、だが」

 と、ライオットは、大きく飛び下がりカイエンから間合いを取り真空魔波を連発した。カイエンは、強靭なうろこで固めた腕で真空魔波を弾き返した。

 「へんっ!こんなもんどうでもねぇぜ!」

 「そうかな?」

 と、ライオットが言った次の瞬間、テランジンに放った極空魔波の数倍の威力を持っているであろう極空魔波をライオットは、カイエンに放った。

 「うわっ!?」

 カイエンは、咄嗟に爆炎を吐いたが消し飛び真空波がカイエンを襲った。

 「ぎゃぁぁぁぁ!」

 「カイエンッ!」

 テランジンは、動こうとしたが全身を木にぶつけていたせいで思うように動けなかった。真空波でズタズタに切り裂かれ倒れているカイエンにゆっくりとライオットが近付いた。

 「ふむ、治癒能力は他人にも使え自分自身にも使えるのか…面白いな、もう傷が塞がっている」

 と、カイエンの身体を見てライオットは、妙な関心を持った。カイエンは、極空魔波の衝撃で身体が動かないようだった。

 「人間嫌いのはずのドラクーン人が人間の味方をする…残念だよ」

 そう言うとライオットは、カイエンの右肩を剣で刺した。

 「ぐわぁぁぁぁ…」

 「カイエンッ!」

 そこへレン達が到着した。

 「貴様ぁ!!」

 レン、マルス、ラーズは、同時に真空突きを放った。ライオットは、カイエンから素早く剣を抜き大きく飛び下がったがレンの放った真空突きが頬を掠めた。レン達は、真空斬や真空突きを放ちながらカイエンに駆け寄る。レン達から距離を取っているライオットは、余裕の笑みを浮かべている。

 「遅かったじゃないか、中位の者に手こずったのかな?」

 「まぁな、しかしもうお前しかここには居ねぇぜ、皆殺してやった、次はお前の番だ」

 と、マルスは、叢雲を鞘に納め、真・神風を放つ構えを取った。ライオットには、分からない。

 「レオニール様、殿下ぁお気を付け下さい、こいつは並の上位者ではありません!」

 と、テランジンが叫ぶように言った。それを聞いたマルスがニヤリと笑う。

 「剣を鞘に納めてどうやって攻撃するのかね?人間の考える事は良く分からんな、まぁ良い本来の目的を果たそう、我が主、サターニャ・ベルゼブ様を殺し半島を沈め我々の帰る場所を奪った、レオニール・ティアック、マルス・カムイ死ぬが良い」

 と、ライオットは、最大級の極空魔波をレン達に向け放った瞬間、マルスも攻撃に出た。

 「うぉぉぉぉぉぉ!真・神風ぇぇぇ!」

 二つの大きな気の塊が激しくぶつかり合い凄まじい轟音を立てた。森の中からは、翼を休めていた鳥達が驚いて一斉に飛び立った。その様子が城下町の大広場からも見えた。

 「先ほどの轟音と言い、あの鳥達の様子…一体どうなっているのですか?イビルニア人がまだ居るのですか?」

 と、貴賓席に居たある国の貴族が言った。同じ貴賓席に居たロギリア帝国のティガー大帝は、そわそわしている。

 「う~む、やはり気になる、アストレア女王、わしも行って来るぞい」

 と、ティガー大帝が言った。シーナも傷付いた練気隊士達の治療を終え一緒に行くと言い出した。

 「おじさん、ぼくも行くよ」

 「そうかい、では行こう、お前達魔導車を」

 と、ティガー大帝は、自国の大使館付きの武官に言った。ほどなくして武官が魔導車に乗ってやって来た。ティガー大帝とシーナがそれに乗り込み城下町前の門に向かった。丁度、大広場と門の間くらいの場所でアンドロスが膝立ちになっているのを見つけた。

 「アンドロス殿、何しておるのじゃこんなところで?マルス殿らと一緒ではなかったのか」

 「おじさん、大丈夫?何か変だよ」

 と、シーナがアンドロスの顔色が悪くなっている事に気付いた。

 「ああ、大丈夫だ、私も乗せてくれ時間が無いのだ」

 と、アンドロスは、苦しそうに言った。アンドロスを乗せたティガー大帝達は、魔導車の速度を上げ門まで急いだ。そして、レン達の居る門前まで到着して見た光景が凄まじかった。レン達とライオットの間には、大きな窪みが出来ていて街道沿いの木々が吹き飛んでいてレン達は、倒れ込んでいた。ライオットは、辛うじて膝立ちで居た。

 「な、何じゃあれは?ああ、いかん!」

 膝立ちで居たライオットが攻撃に出ようとしたのを見てティガー大帝は、慌てて魔導車から出ると剣を素早く抜き叫んだ。

 「白氷瀑斧はくひょうばくふっ!」

 ライオットの頭上から無数の氷の刃が降り注いだ。ライオットは、攻撃から防御に転じ防いだ。

 「ううむ、やはり戦斧せんぷでないと威力が無いのう」

 「むう、今度は獣人か…どいつもこいつも人間共に味方しおって」

 と、ライオットがティガー大帝を睨み付けながら言った。ティガー大帝は、気にせず今度は、レン達の周りに氷の壁を作り守った。ライオットが氷の壁を破壊しようとした瞬間、魔導車から出て来たアンドロスが強烈な真空突きを放った。真空波がライオットに当たり吹っ飛ばした。

 「はぁはぁ…み、未来あるレ、レオニール達に手出しはさせんぞ」

 「エンジェリア人…」

 ライオットは、立ち上がり剣を構えた。アンドロスも剣を構えゆっくりとライオットとの間合いを縮める。倒れていたレン達が気が付くとアンドロスとライオットが激しく戦っていた。シーナがテランジンを治療しレン達のもとへ連れて来た。

 「レオニール様、申し訳ありません」

 「何を言うんだテランジン、生きてて良かった」

 「しかし、あの野郎異常だぜ、ベルゼブより強ぇんじゃねぇか?」

 と、マルスが、右腕を左手で押さえながら言った。真・神風を放った時に少し痛めたようだった。レン達は、しばらくアンドロスとライオットの戦いを見守った。互いに一歩も譲らず激しい戦いとなっている。やがてアンドロスが、やや押され気味になって来た。

 「僕達も戦おう」

 と、レン達は、氷壁の内側から出ようとした。

 「そこに居ろ!レオニール」

 「で、でも」

 「そこで私の戦いを良く見ているのだ」

 と、アンドロスは、レン達の加勢をこばんだ。

 「アンドロスの様子がおかしいよ、どうしたんだろ?」

 「確かに何か変だな」

 「あのね…」

 と、シーナがここへ来る途中のアンドロスの様子をレン達に話した。レンは、ティガー大帝に氷壁を解くよう言った。しかし、ティガー大帝は、首を横に振り断った。

 「何でだよ?アンドロスがやられちまうじゃねぇか!」

 「マルス殿…」

 と、ティガー大帝は、暗い顔をして話し出した。レン、マルス、ラーズ、テランジンがふと気付くとシーナもカイエンも暗い顔をしていた。ドラクーン人と獣人だけにしか分からない何かがあると思ったレンは、それが何か話すよう言った。氷壁の外側ではアンドロスが戦っている。カイエンが重い口を開いた。

 「アンドロスはよぉ、この戦いでライオットを道連れに死ぬ…いや、帰るんだよ」

 「死…道連れに?帰るって何?」

 「そうだよ、帰るって何だよ?」

 「アンドロス殿、エンジェリア人の故郷、純白の世界だよ、彼はアストレア女王の永遠の従者という役目を終えようとしているのだ」

 と、ティガー大帝が言った。そこへアンドロスが激しく氷壁にぶつかった。

 「アンドロス、役目って何だよ?どうして君がライオットを道連れにしなきゃいけないんだ?一緒に戦おう、死んじゃだめだ!」

 レンは、氷壁の内側で必死に叫んだ。マルスとラーズは、ティガー大帝に詰め寄り直ぐに氷壁を解くよう半ば脅しながら言ったが、ティガー大帝は、頑として聞き入れなかった。そんな様子を氷壁の外側から見たアンドロスは、少し寂しそうに笑った。

 「フフ、何のつもりか知らんが後ろの連中に助けてもらわなくて良いのかな?エンジェリア人よ」

 と、ライオットは、不敵な笑みを見せ言った。アンドロスは、全身あちこち斬られて背中の翼から落ちた羽がそこらじゅうにあった。レンは、泣きながら叫んだ。

 「アンドロス!」

 「レオニール…皆、ありがとう、お前達の様な人間が居た事が何よりの幸いだ、ティガー、カイエン、シーナ…我々エンジェリア人やお前達の存在がこの世界の均等を保つ鍵であり人間が皆、レオニール達の様では無いという事を忘れるな、そして」

 と、アンドロスは、ライオットを見て言った。

 「イビルニア人はこの世界には必要ないのだ、消えてもらおう」

 アンドロスは、剣を構えた。全身からレン達が今まで感じた事の無い清らかで力強い気が放たれている。アンドロスは、全ての力を使い果たしライオットを討ち取ろうとしている。ライオットは、危険を感じ最大級の極空魔波を放とうとしたが、アンドロスの持つ聖なる力によって身体の動きを封じられていた。

 「何?この期に及んで!か、身体が動かん!?う、うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 アンドロスの放った真空斬がライオットを首を刎ねた。

 「やった!アンドロスッ!」

 ライオットの首を刎ねた瞬間にティガー大帝は、氷壁を解いた。レン達は、すぐさまアンドロスに駆け寄った。アンドロスは、フラフラになりカイエンが支えた。

 「く、くぅぅぅ…人間共…海獣王やエンジェリア人の助けがあったからと調子に乗るな…我々イビルニア人は必ずまたこの世に復活する…お前達人間に怒り、憎悪、嫉妬…負の感情がある限り何度でも復活してやる…フフ、フハハハハ」

 「うるせぇ!ベルゼブみてぇな事言いやがってさっさと死にやがれ」

 「ライオット、お前達イビルニア人が何度も復活すると言うのなら僕達人間も何度でも戦う、そして必ず僕達は勝つ」

 と、マルスとレンが言うと首だけのライオットは、ニヤリと笑い何も言わなくなった。完全に死んだ。シーナが龍の姿に変身して爆炎を吐きライオットの死体を完全に灰にした。レン達は、役目を終えようとしているアンドロスを連れ、皆が待つ大広場へ戻った。

 

 

 

 

 

 


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