結婚式
早朝、トランサー王国の城下町にある大広場には、レンとエレナの結婚式を行うための準備が整えられていた。アストレア女王とアンドロスが座る椅子の周りには、屋根とトランサー王国の紋章が染め抜かれた薄い布で囲まれていた。微かに姿が見える様になっている。昨日、ラストロがレンから言われた通り準備したものである。ラストロは、式部大臣として現場の指揮を執っている。役人に色々指示を出して最終確認をしていた。
「うむ、雲一つ無い良い天気だ」
と、ラストロは、空を見上げ満足気に呟いた。
「大臣、仰せの通りラダムの枝を町の四隅の一番高い建物に設置しました」
「そうか、ご苦労、ああそうだ、絶対に外れたり倒れたりしないようにしているな?」
「ははっ、大丈夫です」
「分かった」
と、報告に来た役人にラストロは答えたが報告に来た役人が不思議そうに質問した。
「しかし大臣、何故ラダムの枝を?まじないですか?」
「ふむ、夜中にアストレア女王にそうするよう言われてな、あの女王が仰せなのだ何か意味があるのだろう」
会場になった大広場に人が集まり始めていた。一般の者と貴族や各国の要人、指導者などが座る席は分けられている。一般の国民達は、少しでも良い場所を求めて朝早くから場所取りに来ていた。この一般民に紛れてイビルニア人或いは、半イビルニア人が居るかも知れないと感じたラストロは、大広場の警備に当たっている兵士に警戒を強くするよう言い渡していた。
その頃、レンは、城内の自分の部屋で一人そわそわしていた。エレナは、これが最後だと昨日は、両親と眠りについていた。侍女が朝食の準備が出来たと言いに来たので一人食堂へ向かった。カイエンとシーナは、待ちきれないと目の前に出された料理を食べていた。
「おはよう」
と、レンは、声を掛け席に着くとぞろぞろとマルス達も集まって来た。アストレア女王は、先に食べているカイエンとシーナを見るなり呆れ顔をした。
「もう、あなた達は皆が来るまで我慢が出来ないの?」
「腹が減って死にそうなんだ」
「そうそう、ぼくもお腹ペコペコだったよ、あっおじさん、このお皿のやつもっと食べたい」
と、シーナが給仕係りの者に言った。そこへヨーゼフがエレナと両親であるトラヤとタカを連れて食堂へやって来た。
「若、食事が済んだらお着替えをして下され」
と、ヨーゼフに言われレンは、妙な緊張感を感じた。そんな様子のレンを見てマルスとラーズが笑いながら言った。
「ははは、分かるぜその気持ち妙な気分だろ?」
「そうそう俺もそんな感じだったかな、あははは」
と、二人に言われレンは、照れ臭くなり頭を掻いた。エレナは、ずっと両親の傍に居た。そして、食事が始まると自ら給仕した。こんな事が出来るのも今日で最後かとエレナは思うと胸が熱くなり、とうとう泣き出した。娘に釣られるようにトラヤとタカも泣いた。そんな様子をレンは、複雑な思いで見ていた。自分と結婚する事でエレナは、両親や弟と離れ離れになってしまう。
「あ、あの…」
と、レンが何か言いかけた時、意外な人物が話し出した。
「もう、せっかくの晴れの日にこれではお通夜みたいじゃないか」
アルス皇太子であった。
「トラヤ殿、タカ殿、今日が今生の別れではありませんよ、ジャンパールからトランサーへは何時だって行く事は出来ます、我が国には高速艇があります、それも海軍の高速艇はもっと早いいざと言う時、あなた方が自由に使えるよう手配しておきますよ」
「そ、そんな殿下、何もそこまでして頂かなくても…」
と、慌てたのは、トラヤだった。タカも目が覚めたような顔をした。アルス皇太子は、にっこりと二人に笑顔を見せ目の前の食べ物に手を付け始めた。食事を済ませたレンとエレナは、着替えるため侍女達に連れられ別の部屋へと向かって行った。食堂に残っていたマルス達も着替えようと各自用意された部屋へ向かった。レンとエレナは、途中城内で別れ、別々の部屋で着替え顔を合わせるのは、城下町の大広場でと言う事になった。かつては、レンの父レオンと母ヒミカの時もそうだったとヨーゼフやラストロから聞いていたレンは、大礼服に着替えている最中に改めてエレナに対する想いが胸に込み上げて来た。早く逢いたい。思い切り抱き締め口づけを交わしたい。エレナもまた同じ想いだろう。
会場となった大広場へは、魔導車で先にレンが向かった。別の魔導車には、レンの義兄弟であるマルス、ラーズの二人とアルス皇太子とヨハン太子が乗り込みまた別の魔導車にヨーゼフとカイエン、ティガー大帝が乗った。その魔導車の車列を守るのは、近衛師団隊長の一人であるミトラの部隊である。先に大広場に到着したレンは、その姿を国民達に見せると大歓声に包まれた。
「レオニール様ぁおめでとうございます」
「きゃ~~レオニール様よぉ」
「レオニール様、万歳!トランサー王国万歳!!」
レンは、照れながら国民達に手を振り答えた。レンは、既に会場に居るラストロに促され用意された立派な椅子に腰を下ろした。貴族席には、正装したディープ男爵、ジャスティ大臣をはじめ名だたる貴族達が座っている。そして、軍人席には、同じく正装したテランジン、サイモン大将、トランサー陸海軍の将軍達が席を埋めている。この席上にルークとシンが居ない事がレンにとっては、心残りだった。そして、貴賓席に、カイエン、アルス皇太子、ヨハン太子、ティガー大帝ら各国の要人、指導者などが着席した。レンと義兄弟であるマルスとラーズは、王族側の席に座った。ヨーゼフは、レンの傍に用意された小ぶりだがこれまた立派に装飾された椅子に座った。そして、少し遅れてアン皇太子妃、シャルロット太子妃、ユリヤ、シーナそしてアストレア女王とアンドロスが大広場に到着し、アンとシャルロットとユリヤは、夫の隣りに座りシーナはカイエンの隣りに座り、アストレア女王とアンドロスは、王族側の席とエレナの両親の席を丁度見守る様な位置に用意された屋根とトランサー王国の紋章が染め抜かれた薄い布で出来た囲いの中の立派な椅子に座った。うっすらと見えるアストレア女王とアンドロスを見た国民達はため息を漏らした。
「何と神秘的な…お姿がはっきりと見えないのが残念だ」
ラストロは、レンとヨーゼフに何か囁き国民達に向き直って大声で言った。
「これより花婿であられるレオニール王子が花嫁エレナ様を迎える儀式を行う皆、静粛に!」
しばらくすると大きな馬車がやって来た。馬車は、赤い絨毯が敷かれたところで止まった。馬車から先に降りて来たのは、コノハ皇女とカレンだった。二人は、出迎えに来たレンに一礼し馬車に振り向いた。次に出て来たのは、エレナの母タカである。そして、父トラヤが出て来て馬車を見た。するとゆっくりと花嫁姿のエレナが姿を現した。この瞬間、また大歓声が沸き起こった。エレナは、頬を赤くしながらゆっくりと馬車を降りた。レンは、初めてエレナを見た時を思い出した。レンは、何か言おうとしたが、ラストロから儀式では、直接花嫁に声を掛けてはいけないと言われていたので堪えた。レンは、トラヤとタカに一礼しくるりと向きを変え大広場の中央に用意された祭壇に向かって歩き出した。祭壇前には、トランサー王国の教会の最高指導者となったホーリッシュ大司教が居る。彼は、レン達が国を奪還するまでの十六年間、神仏嫌いのザマロによって投獄されていた。長年の投獄生活で病になり死を待つだけだったが、レン達が国を奪還し助けられた。そして、病を克服し数人いる司祭の中から教会の最高指導者に選ばれ、今回ラストロからレンとエレナの婚姻の儀を取り持つよう依頼された。
エレナは、父トラヤの右腕に左手をかけ父と共にゆっくりとレンが待つ祭壇前に向かって歩き出した。その後を母タカが歩き、タカの左右にコノハとカレンが並んで歩いた。エレナ達は、レンが居る祭壇に向かって歩き、レンの前まで来るとトラヤは、レンに一礼してエレナにレンの隣りに行くよう目配せをした。エレナは、伏し目がちでそっとレンの隣りに移動した。顔はヴェールで覆われているが、まつ毛の美しさだけは、はっきりと分かった。レンとエレナは、両親に深々と一礼した。トラヤとタカは、笑顔だが既に目を潤ませている。付き添うコノハは、やっと二人が正式に結ばれるのかと思うと今までの思い出が一気に頭を駆け巡り泣きそうになりコノハは、思わずカレンの手を見ずに握った。そうでもしないと泣き声を上げそうだったからだ。カレンもまた同じ思いだったのか何も言わずただ握り返した。
「これよりレオニール王子、エレナ・アヤマ殿の婚姻の儀を執り行います」
と、ホーリッシュ大司教が言うと大広場からは、大歓声と割れんばかりの拍手が起こった。大司教に仕える者達が儀式で使う物を銀の盆に載せ捧げ持ち現れた。ホーリッシュ大司教は、銀の盆から黄金で出来た聖杯を取り祭壇に置いた。そして、祭壇に供えられていた酒瓶を取ると酒を聖杯に注いだ。
「レオニール王子にお尋ねします、あなた様は生涯となりに居るエレナ・アヤマ殿を妻とし愛し共に支え合う事をこの神の御前にて誓いますか?」
「はい、誓います」
「では、エレナ・アヤマ殿にお尋ねします、あなた様は生涯レオニール王子を愛し共に支え合う事をこの神の御前にて誓いますか?」
「はい、誓います」
「よろしい、ではこの聖杯に入った御酒を二人で飲み切って下さい、どうぞ」
と、聖杯を先に渡されたレンから少し飲みエレナに渡した。エレナもまた少し飲みレンに渡した。二人で二口づつ飲み聖杯を空にした。空になった聖杯をレンから受け取ったホーリッシュ大司教が厳かに宣言する。
「おおっ、今ここに神の御前にて新たな夫婦が誕生しました、皆、大きな拍手を!」
「わぁぁぁぁレオニール様ぁ万歳!」
大広場は、大歓声と割れんばかりの拍手に包まれた。レンとエレナは、照れ臭そうに国民達に手を振った。マルス達は、満足そうにうんうん頷き見ている。エレナの両親であるトラヤとタカは、嬉しさと寂しさが入り混じった涙を流し笑顔で若い二人を見ていた。無事に儀式が終りレン達は、城内大広間に設けた披露宴会場へ移動した。ここからは、一般国民は、参加出来ない。貴族やテランジン達高級士官、各国の王侯貴族、要人、指導者などが出席する。レン達が居なくなった大広場は、直ぐに戴冠式の準備に取り掛かった。ラストロがあれやこれやと指示を出す。
「ふぅ…結婚式は無事に終わったが…しかし、何だろうこの胸騒ぎは」
と、ラストロは、今朝早くに城下町の四隅にある高い建物に設置されたラダムの枝を見て呟いた。枝に付いていた実がキラキラと光っていた。
城内大広間に用意された披露宴会場では、レンとエレナが置物の様になっていた。ティガー大帝は、レンの姿を亡き父ベアドに見せたかったと目を潤ませていた。マルス、ラーズは、レンの義兄弟として各国の王侯貴族を相手に話しをしていた。ヨーゼフ、テランジンの義親子は、各国大使館付きの武官とベッサーラ王国の情報を交換していた。そこへ役人がヨーゼフに報告に来た。
「お話中申し訳ありませぬ、只今メタルニアよりセビル・キャデラ大統領とデ・ムーロ兄弟が到着されました」
「おお、キャデラ大統領が」
「何?デ・ムーロ兄弟まで来たのか?」
と、傍に居たテランジンが少し驚いた。ほどなくしてキャデラ大統領がデ・ムーロ兄弟を従えてヨーゼフ、テランジンの前に姿を現した。
「ロイヤー公、テランジン殿、初めまして私がメタルニア国大統領セビル・キャデラです」
「これはこれは、拙者トランサー王国王子御側御用をあい務めますヨーゼフ・ロイヤーでござる」
「私はトランサー海軍大将テランジン・ロイヤーです」
と、互いに深々と頭を下げ挨拶した。
「これ、デ・ムーロ、お前達もご挨拶せぬか」
と、キャデラ大統領がデ・ムーロ兄弟に言ったが、ミランとクリフは、ヨーゼフにのみ丁重に挨拶したがテランジンを見るなり指差し言った。
「大統領、この男とはただの腐れ縁ですよ、せっかく良い物を作って送ってやってるのに礼の一つも言って来ねぇ」
「何ぃ?あの時、誰がイビルニア人から助けてやったと思ってるのだ?この恩知らずめ、それにお前達が作った物を俺は世界のために有効活用してやってるんだぞ」
と、デ・ムーロ兄弟とテランジンが口喧嘩を始めたが本気でやっている訳ではなく冗談で喧嘩しているのだ。顔を合わすといつもこんな調子である。キャデラ大統領は、いい加減にしろと言わんばかりにデ・ムーロ兄弟を睨み付け黙らせた。そして、改めてレンの結婚のお祝いを述べた後、カンドラの一件に触れテランジンに深々と頭を下げた。
「あのような者達を我が国の者とした事、誠に遺憾であり誠に申し訳なく思っている」
「大統領どうかお顔を上げて下さい、もうカンドラ達は始末しました、もう終わったのです」
「後でカツ殿の墓に参りたいのでお連れ願いますか?」
「ははっ喜んで、カツも大喜びする事でしょう」
と、テランジンは、目に涙を浮かべ言った。デ・ムーロ兄弟もカツを良く知っているので思い出すと胸が熱くなるのを感じた。ヨーゼフは、せっかくの祝いの場が湿っぽくなったと思い話題を変えた。
「ところで大統領、途中ベッサーラやイビルニアの艦に襲われはしませんでしたか?」
「ええ、大丈夫でしたトランサー領内に入ったら海軍の方が護衛に就いてくれましたので、ただ南の方角から大砲の音がしてましたな」
「俺達言ったんですよ旦那、飛行魔導機に乗りゃあもっと早く安全にトランサーに行けるのにって」
と、以前イビルニア半島を包む雲を消し去るための爆弾をレン達のもとに持って来た時に乗っていた空を飛ぶ魔導機の事をデ・ムーロ兄弟は話した。ヨーゼフは、目を輝かせて話しを聞いたがキャデラ大統領は、とんでもないといった顔をした。
「何で魔導機を付けたからと言ってあんな鉄の塊が空を飛ぶのだ、落ちたら死ぬのだぞ、私は船で結構だ」
「以前、レオニール様や義息子より聞き及んでおりました拙者も是非、その飛行魔導機とやらに乗ってみたいものです」
「それ大統領、旦那の方がよっぽどご理解があるぜ」
キャデラ大統領は、面白くないといった顔をしたが、気を取り直して今度は、直接レンとエレナに挨拶がしたいと言ったのでヨーゼフがレンのもとへ連れて行った。
「ところでミラン、クリフ先ほど海で大砲の音がしていたと?」
「ああ、そうなんだテラン、ありゃあランドールの戦艦かな、ベッサーラの艦隊に撃ち込んでたぜ、そう言えばベッサーラとは戦争状態だったんだよな?」
「そうだ、裏でイビルニア人が暗躍している、ベッサーラの国王はイビルニア人に洗脳されているそうだ、ベッサーラに居るイビルニア人が最後なら良いのだが」
と、テランジンは、暗い顔をした。実際世界中のどこに何人居るのか分からない。
「メタルニアに居たイビルニア人とその何だぁ半イビルニア人って奴はかなりの数は始末したみたいだが、逃げた奴も居るだろうな、そいつらがベッサーラに行ったのかなぁ?」
「そうだろうな、今のベッサーラは唯一イビルニア人や半人が無事に暮らせる国だろうからな」
と、テランジンが深刻な顔をして言った。そして、今はこの話しは止そうと言い別な話しをした。
「ところでお前ん所に若い職人は居るのか?」
「ん?何だよ急に…まぁ居ねぇなぁ最近の若い奴ぁ物を作る事に興味が無いみてぇだなぁ」
「全く…情けねぇ話しだ、たまにうちに雇ってくれって来る若い奴もいるが直ぐに辞めちまうんだよ」
と、デ・ムーロ兄弟は、困った顔をして言った。
「そうか、そうか分かった、近いうちにお前達に良い人材を紹介してやる」
と、テランジンは言ったが、デ・ムーロ兄弟は、笑って取り合わなかった。その頃、ヨーゼフに連れられたキャデラ大統領から挨拶を受けていたレンは、ふとポッツ、マイキー、グアンの元カンドラの子分の事を思い出していた。この三人は、まだトランサーの刑務所で服役している。
「本当にカツ殿の事は申し訳ありませんでした、カンドラ達と通じていた役人共は全て処分致しました」
「えっ?スミソンもですか?」
と、レンは、キャデラ大統領にカンドラの始末を任されていたメタルニアの役人の事を思い出した。
「ははぁ、あやつはカンドラの始末が着いた後、静かに暮らしたいと自ら役人を辞め田舎に引っ越しました」
「なるほど、処分される前に身を引いた訳ですな」
「はい、退職金は返上すると言い、まぁあやつ自身が誰かを殺めた訳ではありませんから、ただカンドラ達から賄賂を受け取り多少の融通を聞いてやっていただけと聞き及んでおりましたので退職金も返上した事もあり特に罪は問いませんでした」
と、キャデラ大統領は、話した。その後、キャデラ大統領は、メタルニア国内のイビルニア人と半イビルニア人の事について話した。
「見つけ次第、即殺してますが逃げた連中を含めますとまだ相当居るようです、それらがベッサーラに行っているようで」
「その様ですな、ベッサーラ王国は奴らにとっては楽園でしょうなぁ」
と、ヨーゼフが深刻な顔をして言った。事と次第によっては、ベッサーラ王国に攻め入る必要があると言った。レンも当然それを覚悟していた。もしかすると国王になって初の仕事になるかも知れない。
レンとエレナの披露宴は、夜まで続きその間、時々海上の戦況がレン達の耳に入っていた。特にジャンパール海軍の活躍は、群を抜いておりマルスとアルス皇太子は、大喜びしていた。
「さすが我が国の海軍だ、第七艦隊の者達には勲章を与えねば」
と、アルス皇太子がにこやかに言った。そんな中、披露宴も終わりを告げ、ラストロから戴冠式は、三日後に行うと知らされた。各国の要人、指導者達は、自国の大使館や城内の客間へと休みに向かった。披露宴に参加しなかったアストレア女王とアンドロスが居る部屋へと向かったレン達は、披露宴が終り戴冠式は、三日後だと話した。そして、レン達も休む事にした。マルスとラーズに冷やかされながらレンとエレナは、自分達の部屋に向かった。部屋で二人きりとなったレンとエレナは、夢でも見ている様な気分だった。今日、国民達の前で結婚式を挙げ二人は、夫婦と認められた。
「僕たちやっと夫婦になれたんだね」
「そうね、皆喜んでくれて本当に良かった…レン」
と、エレナは、レンを見つめた。レンは、エレナを抱き締め口づけを交わした。レンとエレナの情熱的な夜が始まった頃、レンが初めてトランサーに足を踏み入れた地、トラズ湾の磯に真っ黒な船が一隻、着岸し船から数十人出て来た。皆、真っ黒なフード付きのマントをしているが、一人だけ顔を晒した者が居る。
「ここがトランサー王国か…」
と、言ったのは、ベッサーラ王国を陰で操っているイビルニア人上位者ライオットであった。




