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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
158/206

宣戦布告

 薄暗い部屋の真ん中に香炉が置かれている。その香炉からは、何とも言えない匂いが放たれていた。香炉が置かれた机の横には、立派な口髭を蓄えた男が椅子に座りぼんやりと天井を眺めている。男の名は、ドルフ・ボストーン。ベッサーラ国王である。さきの戦争でイビルニア本国に幽閉されていたところをドラクーン人やエンジェリア人によって助け出され無事帰国したが、隠れ潜んでいたライオット達イビルニア人に洗脳され国内の安定を図るという名目で鎖国した。そして、イビルニア上位者ライオットは、ベッサーラ国民をも時間をかけ洗脳して行き半島が無くなった今もイビルニア国は、ベッサーラ国にとって唯一の友国であると信じ込ませていた。

 「陛下、時間です、お出ましを」

 と、そのライオットがぼんやりするボストーン王に声を掛けた。ボストーン王は、低い声で返事をしてゆらりと椅子から立ち上がり城のバルコニーに向かった。演説をするためである。いや、させられるためである。バルコニーに出ると城の内外にベッサーラ国民が群がっているのが見えた。皆、口々に何か叫んでいる。ボストーン王が設置された魔導拡声器の前に立った。その傍らには、フードを目深に被った中位のイビルニア人、二人を従えたライオットが居る。ライオットだけは、堂々と顔を晒している。青白い額に角の様なものが一つあった。

 「ベッサーラ国民よ!」

 と、ボストーン王は、第一声を放った。

 「今、我らが友であるイビルニア人が危機に瀕している!私の友サターニャ・ベルゼブは、トランサー王子レオニール・ティアックとジャンパール皇子マルス・カムイの手によって非業の死を遂げた!彼らは我が友を殺しただけでも飽き足らず、何とイビルニア半島をも海の底に沈めたという…何たることか…この事によってイビルニア人は、帰る場所を失い路頭に迷い困窮しているという、幸いここに居るライオット殿や他のイビルニアの方々は難を逃れたが、今なお世界中に居る我らの友人であるイビルニア人が困窮している、そして彼らは無差別に殺されている、その殺害の急先鋒がレオニール・ティアックとマルス・カムイである!」

 と、言いボストーン王は、一息ついた。国民からは、低い怒号が聞こえた。ボストーン王は、両手を広げ「静かに」といった仕草をして国民が静かになるのを待った。そして、静かになるとまた演説を始めた。ボストーン王は、いかにイビルニア人が自分達にとってかけがえのない友人であるかを説き、そして、いかにトランサー王国やジャンパール皇国が世界を我が物にしようとしているかを説いた。

 「彼らの目的は世界征服である!トランサー王国、ジャンパール皇国、この二つの国こそが悪の存在である、練気と言った人間離れした剣技を使い罪無き者を殺し得意顔でいる、私は許せない!このベッサーラ王国の正義にかけて彼らを殲滅しようではないか!!そして、世界平和のために我が国民よ、力を貸してくれっ!」

 「おおっーーー!!」

 「ベッサーラ王国、万歳!ボストーン王、万歳!」

 ベッサーラ国民は、何かに取り憑かれたように叫んだ。ライオットは、青白い顔に薄ら笑いを浮かべて見ている。ボストーン王は、また国民をなだめる様な仕草をして静かにさせた。

 「近くトランサー王国内でレオニール・ティアックの結婚式と戴冠式が行われ各国の要人や指導者が集まるという、これはまたと無い好機である!トランサーやジャンパールに与する国の要人、指導者を誅殺するため、私ドルフ・ボストーンはトランサー王国に対し宣戦を布告する!!」

 と、ボストーン王は、自国民に宣言した。そして、この日の夕刻にベッサーラ王国がトランサー王国に向け宣戦布告した事が世界中に広まった。世界各国は、騒然となった。レンの結婚式や戴冠式に招待されている各国の要人や指導者達から直ぐにトランサーに問い合わせが来た。各国のトランサー大使館員達は、対応に苦労した。ベッサーラ王国の情報が少な過ぎるのである。しかし、特に気にもしていない国もある。ジャンパールとランドール、ドラクーン、獣人の国ロギリア帝国である。ベッサーラ王国の宣戦布告に対して何の正当性も無いと主張した。ジャンパール皇帝イザヤは、自分の名代として長男のアルス皇太子にトランサーに行く際は、必ずパルア島のアイザ大将率いる第七艦隊と共に行くように命じ、ランドール国王インギ・スティールも長男のヨハン太子に海軍を引き連れてラーズと共にトランサーに行けと命じた。


 「全く我が甥の晴れ舞台に泥を塗る様な真似をしおってボストーンめ、一体何を考えておるのか」

 と、イザヤは、怒り狂っていた。アルス皇太子も憤っていた。

 「はい、父上、マルスから話しを聞いて冗談だと思ってましたからね、まさか本当に戦争を起こすなんて…今だに信じられません、やはりイビルニア人が絡んでいるのでしょう」

 「ふむ、しかしイビルニア人につけ入る隙を作ったのはボストーン自身だろう、許さん!」

 ジャンパール国内には、自国の国旗とトランサー王国旗が高々と掲げられていた。ランドール王国も同じように自国旗とトランサー王国旗が高々と掲げられていた。

 「ヨハン、ラーズ、我が師ヨーゼフの話しではおそらくボストーンや国民達はライオットなるイビルニア人に洗脳されているそうだ、レオニール殿の大事な時によくも宣戦布告などしたものだ、許せん!お前達しっかりとレオニール殿を助けてやれ、良いな」

 「はい父上」

 「お任せを、レンは俺の義兄弟ですからね、戴冠式は必ず成功させますよ」

 「うむ、頼んだぞ」

 そして、獣人の国ロギリアでも同じ事が起こっていた。自国旗とトランサー王国旗が高々と掲げられていてトランサー王国とは、同盟国であるとロギリア国民に知らしめていた。ベルゼブを暗黒の世界に連れて行くためこの世を去ったベアド・バーン大帝の一人息子ティガー大帝は、自らレンの結婚式と戴冠式に出席するため、そしてベッサーラ王国とのいくさ準備に大忙しだった。

 「父上が御存命ならば直ぐにでもベッサーラに攻め入ってただろうな、ハハハハ」

 「はい、大帝様、イビルニア人を友と呼ぶような人間など生かしてはおらぬでしょうな…しかし、ボストーン殿やベッサーラ国民達はイビルニア人に洗脳されていると聞き及んでおります、されば洗脳を解いてやれば正気に戻るのではないでしょうか?」

 と、ティガー大帝の側近が話すとティガー大帝は、難しい顔をした。

 「無理だろう、ただの催眠術なら解いてやれば良いだろうが洗脳された者はなかなか元には戻らんだろう…今回の戦でどれほど死人が出るか分からんが、イビルニア人だけは一人いちにんたりとも逃してはならんぞ」

 「御意」

 ベッサーラ王国がトランサー王国に対して宣戦を布告して一週間ほど過ぎた頃から続々とトランサー王国の軍港や民間の港に各国の船や戦艦が集まり出した。ただサウズ大陸にある国々だけがベッサーラ王国の動きを警戒してトランサー王国には、来なかった。トランサー国内に置いた大使を名代として儀式に出席させる事にしたようだった。

 トランサー城内の謁見の間でレンとエレナは、各国の要人や指導者、大使達の挨拶を受けていた。

 「此度こたびのご結婚、戴冠式、誠に祝着至極に存じます、これは我が国王からの贈り物です、どうぞ」

 「我が国と致しましてもレオニール殿下がトランサー国王となられる事は大変喜ばしい事、どうか末永く我が国との交流を願いまする」

 皆、挨拶の文句は、同じようなものでレンとエレナは、眠くなるのを必死で耐えながら笑顔で挨拶を受けていた。そして、昼頃になり休憩も兼ねて食事をしていると役人が報告に来た。

 「レオニール様、たった今海上にジャンパール皇国のアルス皇太子殿下が艦隊を引き連れてお越しになられました」

 「えっ?マルス、アルスが来たって」

 「やっと来たのかよ、遅かったじゃねぇか、ちょっくら迎えに行って来るぜ、ああカレンここに居ろ」

 と、マルスは、兄アルス皇太子を迎えに行くためルークとシンを連れて港に向かった。港に到着するとアルスが乗る軍艦とアイザ大将の第七艦隊の姿が見えた。アルスの軍艦から数人トランサー海軍が用意した船に乗り込んでいるのが見え港に向かって来た。船が港に着くとアルスを先頭にアン皇太子妃、エレナの両親であるトラヤとタカが港に降り立った。

 「やぁルーク殿、シン殿、久しぶりだね、カツ殿の一件、誠に残念だった」

 「あなたがルーク・メタール殿ね、カツ殿はシン殿と共に我が実家ステアゴールド家にとって恩人でした、本当に残念でなりませんわ」

 と、皇太子夫妻の言葉にルーク、シンは、感動し涙を流した。皇太子夫妻のそばで酷く緊張したトラヤとタカが「おそれながら皇太子様、カツさんの墓前に参られては?」と言うとアルスとアンは、是非そうしようと言いルーク、シンに墓まで案内させた。アルス、アン、そしてトラヤとタカがカツの墓前で祈りを捧げている姿を見てルークとシンは、また泣き出した。

 「良かったなぁカツよ、良かったなぁ」

 「皆、来てくれてんだぜ良かったなぁカツ、うぅぅぅ」

 そんな様子をマルスだけが呆れたように見ていた。マルスがアルス達を城に連れて行くとヨーゼフが別室に案内した。

 「皆様、お久しゅうござる、元気そうで何よりです、只今レオニール様とエレナ様は他国の者の挨拶を受けておりご多忙です、今しばらくお待ち下さい」

 「あはは、ヨーゼフ閣下、我々はレンの身内だからいつでも大丈夫ですよ」

 アルスが明るく答えた。

 「ははぁ恐れ入ります、ところで殿下、アイザ大将は?」

 「ああ、ベッサーラがいつ攻めて来るか分からないからトランサー海域の警戒に当たらせてるよ、宣戦布告から一週間も経つのに今だに攻めて来ない様子を見るとそう心配する事も無さそうだけどね」

 「兄貴甘いぞ、テランジン達の調べによるとどうやらサウズ大陸の国々を仲間に引き入れようとしてるそうだぜ、まぁどの国も断っているそうだが一部は同調してベッサーラに集まってるそうだ」

 と、マルスは、話した。宣戦布告があった翌日、テランジンは、自分の三隻の軍艦の潜水能力を利用して偵察するためサウズ大陸にある国、タンザに潜入してベッサーラ王国の内情などを調べ上げ昨日、帰還して来たのだった。

 「鎖国していたからタンザで情報を仕入れるのは骨が折れましたよ」

 「ベッサーラが宣戦布告した後の事しか分かりませんでしたが、相当数のイビルニア人や半イビルニア人があの国に残っている事だけはっきり分かりやした」

 と、テランジンに同行していたルークとシンが言った。

 「まぁ何か動きがあれば直ぐに分かるさ」

 と、マルスは、皆に言い話題を変えた。夕方になり疲れた顔をしたレンとエレナがマルス達の居る部屋へとやって来た。

 「やぁレン、エレナさん久しぶりだね、ん?あんまり元気そうじゃないな」

 「まぁレオニール殿もエレナ殿もお疲れのようね」

 と、アルスとアンが言うとレンは、情けない顔をして答えた。

 「はい、挨拶を受けるだけでこんなに疲れるとは思いもしませんでした」

 そこでレンは、エレナの両親であるトラヤとタカが居る事に気付いた。

 「義父上ちちうえ義母上ははうえ!エレナ、エレナ」

 「ああ、お父さん、お母さん!」

 エレナは、直ぐに両親のもとに行き二人の手を取った。会うのはマルスとカレンの結婚式以来だった。

 「お前が家から出て婚儀の日をまだかまだかと思って待っていたが…ふふ…いざその日が来ると嬉しくもあり寂しくもあるな」

 「そうね、最初は将来は公爵夫人に娘がなるんだと思って近所の連中に散々自慢してやったけど、まさか王妃様になるなんてね…夢にも思わなかったわ、エレナ」

 と、トラヤとタカが言いエレナを抱き締めた。そんな様子をレン達は、温かく見守った。エレナは、ふと弟のリュウがどうしているのか両親に聞いた。昨年の冬、学校の冬休みを利用してトランサーに釣り旅行に来た。その時、カンドラ達に尊敬するカツが殺された影響からか海軍に入りたいと言い出した。エレナは、反対したがリュウの意志は強く、その時丁度居合わせたジャンパール海軍中将ヤハギは、大いに喜んだ。ヤハギ中将から全て任せて欲しいと言われたがエレナは、父母に相談するようにと言いジャンパールへ帰国させた。その後、無事に一般の学校から海軍士官学校に編入した事までは、話しで聞いていた。

 「ああ、リュウなら元気にしてるぞ、士官学校でもなかなかの成績だそうだ」

 「へぇ~あの子が…でも本当に大丈夫なのかしら平民の子が士官学校に入るなんて聞いた事が無いし」

 と、エレナが心配そうに言うとマルスが得意気に答えた。

 「それは心配無用だぞエレナ、リュウの士官学校編入の手続きはヤハギが直接とったし俺が武家や武家貴族のガキ共にリュウは俺の弟分だからいじめたりしたら生まれて来た事を後悔する事になるぞと言ってあるから大丈夫だ」

 「ふふふ、ヤハギ中将から聞いたが、みんな震え上がってたそうだよ」

 と、アルスが笑いながら言った。それを聞いてエレナは、安心した。この日の夜は、城内の大広間で各国の要人や指導者、大使を招いた晩餐会が催された。その席上では、やはり今回のベッサーラ王国が宣戦布告した事についての話しで持ち切りになった。さきの戦争で共に戦ったリードニア王国の大使が、テランジンやルークに意見を求めていた。ヨーゼフも他の国の大使や要人達に囲まれ色々と意見を求められていた。そんな中、ランドール大使がレンにラーズ達は、明日の朝トランサーに到着すると話していた。

 「それと信じられないのですがヘブンリーのアストレア女王とアンドロス殿も同行しているとか」

 「そうですか、女王が来る事は分かってましたが船に乗って来るんですね、僕は飛んで来るのかと思ってました、あははは」

 と、レンは、軽い冗談のつもりで言ったが、ランドール大使は、そもそも人間嫌いと言われているエンジェリア人が人間が行う儀式のために来る事が信じられないでいた。何も知らない大使は、目の前の青年とエンジェリア人の関係が気になって仕方がなかった。

 「おそれながら王子とエンジェリア人とはどのようなご関係でしょうか?」

 レンは、手短に自分の先祖の事を話すと大使は、大いに驚いた。そこへロギリア帝国の大使が来てティガー大帝は、ランドールの艦隊と共に来ると告げに来た。ティガー大帝とは、手紙のやり取りがあったものの直接会うのは初めてだったレンは、ティガーの父ベアドを思い出した。ベルゼブを倒すため龍神エルドラとコルベと言う二人のドラクーン人が犠牲になった。そして、見事レン達は、ベルゼブを倒す事が出来たが、その後突如として現れた時空の歪みからベルゼブが現れた時には、ベアドとその老家臣二人が犠牲となりベルゼブをまた暗黒の世界へ連れて行った。勇敢だった父ベアド大帝に勝るとも劣らない人だと聞いている。レンは、ロギリア大使に会うのが楽しみだと話すと大使は、にこにこしながら答えた。

 「はい、ティガー大帝も大変楽しみにされております、ああそれとベッサーラ如きイビルニアに与するような不埒な国は我がロギリア帝国の武力を持って蹴散らすとのティガー大帝のおおせであります」

 「そうですか、それは心強い事です」

 と、レンは、答えた。ランドール大使、ロギリア大使と話しているとシンが、トランサー陸軍の士官を連れてレンを呼びに来た。

 「お話中申し訳ごぜぇませんが殿様、ちょっと」

 レンは、ランドール、ロギリア両大使に会釈してその場を離れシンと陸軍士官から話しを聞いた。

 「殿様、我が国にイビルニア人が侵入した形跡が見受けられたとの事でさっき兄貴とサイモン大将が現場に向かいました」

 「な、何だって?」 

 「南にある漁村で真っ黒な船体の船が乗り捨てられているのを発見したとの事です」

 と、陸軍士官は言い、今のところ人的被害は無いと言った。それを聞いたレンは、ホッとしたが直ぐに不安になった。上陸したであろうイビルニア人は、一体どの辺りに居るのかと思った。南の漁村から城下町まで普通に人間の足なら一週間以上掛かるがイビルニア人ならもっと早いだろう。途中、馬や魔導車を使うと考えればもっと早い。

 「兄貴達はふねで南に向かいました」

 「明後日には確認している頃でしょう、では我々はこれにてイビルニア人の捜査に向かいます」

 と、シンと陸軍士官が言い大広間を出て行った。何かあったのかとマルスがカレンと一緒にレンの傍までやって来た。レンは、イビルニア人が上陸したかも知れないと話した。

 「何だと?海をあれだけ警戒しているのにどうやって?」

 「あの小さな真っ黒い船で来たらしい、マルスも知ってるだろう」

 「ああ、確かにあの船で闇に紛れたら気付くのは至難の業だな」

 「とにかくテランジン達の報告を待つよ」 

 と、レンが言うとヨーゼフが何かありましたかと来たので南の漁村で見つかったイビルニアの船の事を話した。

 「なるほど、テランジンとサイモンが向かっておるのですな?ふ~む、こんな時に…宣戦布告があってから何事も無いと思って少し油断しましたかな」

 「どうしようヨーゼフ、儀式は延期した方が良いのかな?」

 「いや、それはなりませぬぞ若、世界各国から既に人は来ております、数名のイビルニア人の侵入で大事な儀式を延期などしたら、若の恥になりまする」

 「そうだぜレン、連中はおそらくお前を暗殺しに来たんだろうが俺が居るから安心しろ、それに明日にはラーズも来るしアストレア女王とアンドロスも来る」

 「うん…でも他の人達が心配だよ」

 と、レンは、むしろ自分の事より結婚式と戴冠式のために集まってくれた各国の要人や指導者達の身を案じた。相手がイビルニア人である以上何をしでかすか分からない。

 「城下の大広場には陸海の兵を配置して厳戒態勢で儀式を行いますゆえ、ご安心下さい」

 と、ヨーゼフは言い大広間に居た陸海軍の士官達を集め自分の政務室に行った。そして、夜も深まり晩餐会を終えた。

 翌日、予定通り昼頃にランドールからラーズとユリヤ、ヨハン太子夫妻そしてアストレア女王とアンドロス、ロギリア帝国からティガー大帝がトランサーの港に降り立った。ランドール、ロギリアの両海軍は、周辺の海の警戒に当たった。

 「やあレン久しぶりだな、ん?どうした?元気が無いぞ」

 と、レンを見たラーズが言った。

 「ちょっとね、城に着いてから話すよ」

 「何があったのか分からんがレオニール殿、此度こたびは誠におめでとう我が父もレオニール殿の晴れ舞台を見たかった事だろう」

 と、ティガー大帝が毛むくじゃらな顔をほころばせて言った。レン達は、ベアド大帝にそっくりだと思い懐かしさを感じた。

 「レオニール、やっとあなたがこの国の王となる日が来ました、フウガが喜んでいるでしょう」

 と、アストレア女王は、レンの頭を撫でながら言った。

 「はい、女王様」

 「しかしレオニール、お前の大事な時に妙な事になったな」

 と、アンドロスが言うとレンは、情けない顔をした。

 「本当に…どうして僕の大事な時に、この世界に一体どれだけイビルニア人が生き残ってるのか、カイエンが言ってたようにまだどこかにあの井戸があるのかなって思うよ」

 「うむ、しかしベルゼブが消えた今、あの井戸があっても何の力も無い大丈夫だ」

 「ところでレオニール、早くお城に行きましょう、ここは目立っていけません」

 と、アストレア女王が少し恥ずかしそうにしながら言った。トランサーに来たエンジェリア人を見ようと人が集まり出していた。エンジェリア人は、本来ならば人間との関わりは一切持たず、ヘブンリーの山奥の都で静かに暮らしている。

 「すげぇ本物だよ」

 「私が見たのはこれで二回目よ、ほらレオニール様が戦争からご帰還された時に」

 「ああそうだった、相変わらずお綺麗な人だ」

 「まさに天の使いだな、見ろよあの大きな翼を」

 と、アストレア女王とアンドロスを見て人々が口々に話している。レンは、気の毒に思い皆を直ぐに城に連れて行った。そして、城では思わぬ事態が待っていた。

  

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