水を差す者
ロイヤー家に長女デイジーが誕生して二ヶ月が過ぎた。城に詰めっぱなしだったヨーゼフは、二日に一度は、自分の屋敷に帰り、孫娘に会いに行くようになっていた。カンドラ一家の始末が着いたのでテランジン達、元海賊士官は、通常の生活に戻り軍務に励んでいた。レンは、自分の結婚式と戴冠式の準備で忙しく、ほぼ毎日、式部大臣で王族のラストロ・シェボットと儀式の段取りを話し合っていた。ある日、ふとラストロは、思った。
「ところでレオニール様、戴冠式にはヘブンリーの女王が参られるのでしょう?本当にあの人嫌いのエンジェリア人が来るのですか?」
「はい、アストレア女王は必ず来ますよ、約束を破る様な人ではありません、それにこの様子はおそらく鏡を使って見ていますよ」
と、レンは、アストレアが持っていた手鏡の事をラストロに話した。ラストロは、城の中庭に植えてある大きなラダムの木を見た。
「そう言えば…」
と、ラストロは、幼い頃を思い出した。シェボット家も王族である以上レンが、ランドールで発病した「先祖返り」を起こす可能性がありラダムの実を食べなければならなかった。ラストロは、初めてラダムの木の前に連れて行かれた時、木に見られている気がしたのを思い出していた。お付きの者に話すと笑って気のせいでしょうと言われ、そうかも知れないと思っていたが、レンから手鏡の話しを聞いて妙に納得した。
「やっぱり気のせいではなかったのか」
「女王は全て知ってるはずです、だから必ず来ますよ」
「はい、では信じてお待ちしましょう」
と、レンは、ラストロと二人でラダムの木を眺めた。小鳥が巣を作っているのだろう、親鳥らしき小鳥がミミズを咥えて飛んで来るのが見えた。
それから数日経ってトランサー王国全体が色めき立って来ている事を肌で感じる様になった。王子の結婚式と戴冠式が迫っている。城下や港町、地方の町や村に住む人々が興奮している。
「いよいよレオニール様とジャンパールから来たエレナ様の結婚式だぞ、思い出すねぇ父君のレオン様、母君のヒミカ様の婚礼の日を…懐かしいなぁあの日は良い天気で空に雲一つなかったよ」
「そうそう、懐かしいねぇ今回もまたジャンパールからお輿入れなさるんだろう、我々はジャンパール人とは縁が深いねぇ」
と、当時を知る年寄り達が懐かしんでいた。結婚式も戴冠式も国民の前で行うと言う事で城下の大広場では、着々とその準備が進められていた。城内では、エレナが侍女達に囲まれて花嫁衣裳を着合わせている。
「エレナ様、大変お美しゅうございます」
「あ、ありがとう」
と、エレナは、侍女の言葉に照れながら答え鏡に全身を映している。数着用意された花嫁衣裳の中から一番というものを選んだ。
「では当日はこのお衣装で」
と、決まり厳重に保管された。エレナは、レンに衣装が決まった事を話しに行った。
「決まったんだ、楽しみだなぁ」
と、レンは、素直に喜びエレナの花嫁衣裳姿を想像した。同時に今までの事が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
「あれから今年で五年かぁ…これでやっと本当の意味でおじいさんとの約束を果たせる」
「えっ?何か言った?」
と、窓越しで外を眺めていたエレナが問い返した。レンは、そっとエレナを抱き締めた。
「どうしたの?」
「ジャンパールを出てからの事を思い出していたんだ、エレナ、きっと幸せにするからね」
「レン…」
二人は、自然と唇を合わせた。しばらく抱き合っていると部屋の外から近衛師団隊長ミトラの声がした。
「レオニール様、ジャンパールよりマルス・サモン大公爵ご夫妻とコノハ皇女、そしてドラクーンのカイエン殿とシーナ殿がたった今、港に到着されたようです」
「えっ?」
レンとエレナは、顔を見合わせ驚いた。結婚式や戴冠式には、まだ数日ある。レンとエレナは、マルス達を迎えに行く事にした。ミトラ隊と同じく近衛師団隊長のクラウド率いる一隊に護衛されレンとエレナは、魔導車で港に向かった。港が見えると大男がこちらに向かって手を振っているのが見えた。龍神となったカイエンである。
「おーーーーい!殿様ぁぁぁ!」
「あはっ、カイエンだ!おおーーーーい!カイエーーーーン!」
と、レンも魔導車の窓から身体半分を出し叫んだ。エレナが危ないとレンの身体を支えた。魔導車が停車するとレンは、飛び出し人だかりに向かって走った。ミトラ隊が慌てて後を追う。
「カイエン!」
「殿様ぁ!」
レンは、カイエンに抱き付いた。カイエンもまたレンを抱き締めた。
「カイエン、久しぶりだね、元気にしてたかい?」
「ああ、俺っちぁいつでも元気いっぱいだぜぇ、会いたかったぜぇ殿様」
泣き上戸のカイエンは、もう顔を涙でぐしゃぐしゃにしている。レンも釣られて涙を流した。
「久しぶりだな兄弟」
「お久しゅうございます、レオニール様」
「元気そうで良かったわ」
「殿様は相変わらずだね」
と、マルス、カレン、コノハ、シーナがレンを囲んだ。そこにエレナが来てコノハとカレンがエレナに抱き付き泣き出した。
「お姉ちゃん」
「うわーーん、お姉ちゃん会いたかったよぉ」
「二人とも元気そうで何よりだわ」
しばらく港町で再会を喜び合い、カツの墓参りに行く事になった。カンドラの一件の事では、ドラクーン人に世話になったとレンがカイエン、シーナに礼を言った。
「タキオン殿とワイエット殿には本当に嫌な役目を引き受けてもらってね」
「なぁに気にする事ぁねぇさ殿様、カンドラとか言う奴の事なんざ人間だと思ってねぇからよう」
「そうそう、あんな酷い奴ら殿様達と同じ人間なんてぼく達ドラクーン人は思ってないよ」
レン達は、カツの墓前で祈りを捧げ、トランサー城に向かった。久しぶりにトランサー城に入ったマルス達は、まるで我が家にでも帰って来た気分だった。マルスは、相変わらず綺麗に整備されていると花壇や中庭を見て感心していた。部屋で談笑しているとカイエンがヨーゼフの姿が見えない事に気が付きどうしたんだとレンに聞いた。
「ああ、孫が生まれてね、二日に一度は登城するんだけど、あれっ?今日は一度も見てないな」
「何でぇ何でぇヨーゼフの旦那は孫にぞっこんってかぁ」
「うふふ、デイジーって言うのよ、テランジンさんとリリーさんの良いとこだけ受け継いだ感じで将来きっと美人になるわ」
と、エレナが嬉しそうに話すとマルスが、二人にはいつ子供が出来るんだと言いレンとエレナを困らせた。そこへカレンがマルスに「私達の子供は?」と、言い今度はマルスが閉口した。
「ところで早かったじゃないか、どうしたんだい?」
と、レンがマルス達が早くトランサーに来た事が気になっていた。
「ああ、その事なんだがレン…」
と、マルスが少し言い難そうに話し出した。ここ最近、生き残ったイビルニア人や半イビルニア人の活動が活発化していると言うのである。
「せっかく結婚式や戴冠式を控えたお前に水を差すような事はしたくなかったんだが、もしも大事な時に何かあってはと思ってな」
「そうだったのか…知らなかったな、テランジンやサイモン大将も何も話してくれなかったし」
「みんな、殿様の大事な時に心配かけたくなかったんだよ」
と、シーナが訳知り顔で言った時、孫娘を連れてヨーゼフが部屋に入って来た。
「おうおう、旦那もすっかり爺になっちまったなぁ、あはははは」
と、カイエンは、笑いながら言った。いつものヨーゼフなら怒るところだろうが、孫を連れている事もあり満更でもない顔をしてデイジーを紹介した。
「皆様、お久しゅうござる、この子はテランジンとリリーの間に生まれた娘のデイジーでござる」
コノハとカレン、シーナが駆け寄りヨーゼフの腕の中で眠るデイジーを見た。
「うわぁぁ、可愛い」
「ヨーゼフさん抱っこさせて」
「こうして見ると人間の赤ちゃんもぼく達ドラクーン人の赤ちゃんもあんまり変わらないね」
コノハ達は、交代でデイジーを抱っこした。
「あれっ?リリーさんは?」
「はい、リリーは今、侍女達と話しております」
「そう、ところでヨーゼフ、ここ最近まだ生き残ったイビルニア人達が活動してる事、知ってた?」
「ははぁ実はそのように聞いておりました、若に心配をかけまいとお耳には入れるなと拙者が口止めしておりました」
と、ヨーゼフから聞きマルスが「なっ」といった顔をしてレンを見た。マルス達がトランサーへ来る途中、数隻真っ黒な船を見たと言う。
「こっちは民間の高速艇だから攻撃出来なかったんだ、でもパルア島のアイザ大将には連絡してあるからもう沈めてると思うぜ」
と、マルスから聞いたがレンは、妙な胸騒ぎを感じた。
「まぁ殿様、イビルニア人が今頃になって何で動き回ってるのか知らねぇけどよう、俺っちがいるから心配すんなや、なっ」
と、カイエンは、言いレンの肩を叩いた。そこへリリーが来たのでレンは、マルス、ヨーゼフ、カイエンを連れて政務室に行った。イビルニア人の話しをするためである。
「あの時、ダークスを生け捕りにして訊問すれば良かったな」
と、レンは、深刻な顔をして呟いた。
「ダークス?ああ、カンドラ達とこの国に来たっていう上位者の事だな」
「左様でござる殿下、奴はザマロが半島の封印を解いた後に上位に昇格したイビルニア人でした、そういった連中がこの世界中にあと何人居るのか」
「せっかく苦労して半島ごと海の底に沈めてやったってのによう、全くどこぞにあの井戸みてぇなのがあるんじゃねぇのかい」
と、カイエンが何気に言った言葉にレン達は、驚いた。
「い、嫌な事言うなよカイエン」
「そ、そうだよ」
「井戸?ああ、半島にあったイビルニア人が湧いて出る穴ですな…ベルゼブの魔力が消えた今、あんな井戸があっても何の役にも立たぬはず、大丈夫でしょう」
あの井戸の存在を知るヨーゼフに言われレン達は、ホッとしたが完全には、安心出来なかった。なぜならばグライヤーの様な何かを作り出す事が得意なイビルニア人が居てもおかしくないからだ。
「しかし、何でこの時期になって急に動きを見せ始めたんだろう?」
「そうだな、お前の晴れ舞台が迫っているこの時期にな…まぁ警戒は怠らねぇようにしねぇとな」
「ははっ、テランジン達に警戒を強めるよう伝えておきます」
この日の夜、城の大広間でマルス達の歓迎会が催された。カイエン、シーナの食べっぷりを久々に見たレンは、嬉しくてつい涙を流した。時間が過ぎると自然と話しは、イビルニア人の話題になった。テランジンは、カンドラの一件が片付き軍務に戻ってから実は、イビルニア人が乗っているかも知れない船を五、六隻沈めた事を話した。
「ただの人間ではなかったのだな?確認したのか?」
と、ヨーゼフは、少々不安を感じテランジンに聞いた。
「はい、おやじ、我が国の領海に無断で入り込みこちらの制止を振り切り逃げようとしたので、どちらにせよろくな奴じゃありませんよ」
「ふむ、そうか」
「しかし、どこから来てるんだろう?イビルニア人や半イビルニア人が居そうなところと言えばメタルニアくらいしか思いつかないけど」
「左様ですな、しかしカンドラの事もあってメタルニアでは厳しいイビルニア人狩りを行っておるはず」
カンドラの一件以来、メタルニア国では、国内に隠れているイビルニア人や半イビルニア人を徹底的に捜査し見つけ次第、処刑にしていると言う。
「って事は、メタルニアから逃げて来た連中が住み家を探して世界中に現れているって事かい?」
と、カイエンが最後に皿に残った鶏肉をつまみながら言った。
「かも知れないね、半島は海の底だからね、でもメタルニアだけに奴らが集中してるのも変だよね、いくら移民の国だからって…ひょっとしたら他にイビルニア人が集まっている国があるかも?」
と、レンが言うと皆「まさか」といった顔をしたが段々と表情が変わって来た。例えばイビルニアに支配されていたサウズ大陸の国々である。レン達が参加した前のイビルニア戦争の時、支配されていた国々をレン達、人間、獣人、ドラクーン人、エンジェリア人が解放したが、その後の事は、解放した国の王族や政治家に任せていた。
「分かんねぇな…もしかしたらランドールのライン・スティールの様に洗脳された人間がいてイビルニア人を受け入れてるかも知れねぇな、って事はまだ上位の奴が居ると言う事か?」
と、マルスが顎に手をやり言った。深刻な雰囲気になりカイエンがせっかくの歓迎会が台無しだと文句を言ってイビルニア人の話しは、これで打ち切った。その後、どんちゃん騒ぎをしてこの日は、休む事にした。
翌日、レンとエレナは、結婚式の打ち合わせでラストロと話し、マルス達は、久しぶりのトランサーだからとお忍びで城下町や港町に足を運んでいた。
「この町は相変わらずだな、活気があって良いなぁ」
「そうですね旦那様、活気があってみんな楽しそうです」
と、カレンは、マルスを旦那様と言い答えた。どこから見ても仲の良い若夫婦であった。コノハは、そんな兄夫婦を羨ましそうに見ている。カイエンとシーナは、ドラクーン大使館に居た。シーナの兄で龍神となったカイエンの補佐をするドラコから「他国に行って大した用も無いのにあまりウロウロするな」と釘を刺されていた。
「あ~あ良いなぁ私も好い人欲しいなぁ~」
と、コノハが言った。マルスは、げらげら笑って答えた。
「そうだな、お前も年頃だしなぁ婿候補を探さにゃあならん、俺が骨のある奴を探してやるから心配すんな」
「嫌だよ、私はちゃんと恋愛がしたいの自分で探すもん」
と、コノハは、ちょっとふくれっ面を見せたが何の当ても無い事に気が付くとしょんぼりした。
「まぁそう焦る事もねぇさ、しかし腹が減ったな、ちょっとそこで何か食うか?」
と、マルスが言いコノハ、カレンは「賛成」と答え港町のちょっと小粋な店に入り食事を楽しんだ。そこでマルス達は、ふと何か違和感を覚えた。料理が不味かった訳ではない。店の雰囲気が悪い訳でもない。人である。カウンターに一人フードを目深に被った男が座っている。
「何だろう?この感じ…あの人が座ってるところから感じるんだけど、気のせい?」
と、丁度男の後ろの少し離れたテーブル席に居たマルス達は、座っていた。カレンがこっそりと指を指しマルスとコノハに言った。二人は、静かに頷いた。
「カレン、コノハお前達は先に城に戻ってろ、俺はあいつの後を追う」
「ええっ?そんな」
「お兄ちゃん」
「大丈夫だ、無茶はしねぇ」
フードを目深に被った男が勘定を済ませるのを見計らってマルス達も勘定を済ませ店の外に出た。男の姿が確認出来た。マルスは、コノハとカレンをトランサー城に帰し男の後を追った。マルスの腰には、ジャンパールの宝剣「叢雲」がある。
「あの野郎、半イビルニア人だな…一人でどこに行くつもりだ?」
マルスの尾行は、もう達人の域に達している。半イビルニア人と思われる男は、一切気付いていない様子だった。いつの間にか港町を出てあまり人気を感じない通りに出た。
「あれっ?この先って軍港じゃないか、あの野郎軍港に何しに行く気だ?…おっと」
不意に振り向いた男に気付かれそうになりマルスは、慌てて木陰に身を潜めた。男は、しばらくその場に居て辺りを警戒している様子だったが、大丈夫と思ったのかまた歩き出した。マルスが後を追う。そして、軍港が見える辺りまで来ると男は、持っていた鞄から手帳を取り出し何やら書き込み始めた。マルスは、完全に気配を消し叢雲の鯉口を切りゆっくりと近付き声を掛けた。
「おい、そこで何をしている?」
男は、一瞬ビクッとしたが、慌てた様子も無くゆっくりと振り向き答えた。
「いやぁ私は世界中を旅行していて各国の軍港を見るのが好きなんですよ、ほらこうやって絵を描いて楽しんでいるんです」
「ふぅん、そうかい、ところでお前半イビルニア人だろ?」
と、マルスは、単刀直入に言った。男は、わなわな震え出し逃げようとした。
「あっ!?待てこの野郎!おりゃ!」
と、マルスは、素早く叢雲を抜き放ち男の踵に目掛けて軽く真空突きを放った。真空波が踵に当たり男は、倒れ込んだ。それでも必死で逃げようとする男にマルスが飛び掛かり押さえ付けたところにトランサー海軍の兵士達がやって来た。
「何事だ?そこで何をしている?」
「よう、お前さんの頭に伝えてくれ、半イビルニア人を捕えたとな」
「な、半イビル…頭って?」
「ああ、お前さんはテランジンの子分じゃないのか、とにかくロイヤー大将に伝えてくれジャンパールのマルス・サモンが半イビルニア人を捕まえたとな」
マルス・サモンと聞き若い兵士は、慌てて海軍本部に向かった。残った兵士がマルスの代わりに半イビルニア人を捕えた。捕えられた半イビルニア人は、諦めたのかその場に座り込みうな垂れていた。しばらくしてテランジン、ルーク、シンがやって来た。
「殿下何事です?」
「ほれっこいつを見ろよテランジン」
と、マルスが半イビルニア人から取り上げた手帳をテランジンに投げ渡した。テランジン、ルーク、シンは、手帳に描かれた軍港を見た。一見何の変哲もない、ただの風景画といった感じだが、ページをめくっていくとテランジン達の顔色が変わって来た。
「こ、これは…」
「どこに何があるとか大砲が何門付いているとか書いてあるだろ?どこを攻撃すると効果的だとか」
「はい、貴様、どこから来た?メタルニアか?」
と、テランジンは、目の前の半イビルニア人に問うた。何も答えない半イビルニア人をシンが殴りつけた。マルスは、テランジンに訊問するから場所を貸してくれと言い海軍本部に半イビルニア人を連れて行った。海軍本部にあまり使われていない部屋がありそこで訊問する事にした。
「最初に言っておくが素直に全て話せば楽に殺してやる、逆らえば無駄に苦しい思いをするだけだぞ」
と、マルスが冷たく言い放った。この半イビルニア人は、意外にも素直に話し出した。話しを聞いてマルス達は、驚愕した。
「じゃあレンの戴冠式の時に戦争でも始めると言うのか?」
「ああ、この国の王子の戴冠式にやって来る各国の要人を殺し世界を混乱に陥れ生き残った我々半人や純血の方々で世界を支配するとライオット様は言っていた」
「何と…そのライオットとは何者だ上位者か?」
「そうだ、ライオット様は今、影でベッサーラ国を支配されている」
と、半イビルニア人は、話した。ベッサーラ国とは、イビルニア半島があったサウズ大陸にある国で前の戦争の時、解放されているはずだった。
「ふむ、しかしお前よくベラベラとしゃべるな、素直過ぎる」
と、余りにも素直に話す半イビルニア人を不審に思いマルスが言った。
「俺は、痛いのは好きじゃないんだ、どうせ殺されるんなら楽に殺されたい、それに半分人間の血が入っている事で純血の連中からは馬鹿にされているし…早く死んで生まれ変わりたいのさ」
と、半イビルニア人は、何か思いつめたような顔をして言った。こんな者にも身分や付き合い方など色々あるのかと思うとマルスは、目の前の半イビルニア人が憐れに思えてきた。
「そうか、分かった、では楽にあの世に送ってやる」
「殿下、よろしいので?」
「ああ、こいつが嘘を言っているとは思えんしな、外へ連れて行ってくれ」
半イビルニア人は、海軍本部外の広場に連れ出されマルスによって首を刎ねられた。そして、マルスは、城に帰り半イビルニア人から聞き出した話しをレンとヨーゼフに話した。二人とも信じられないといった顔をしたが、直ぐに思い直した。ベッサーラ国は、イビルニアの支配を解かれた直後に国内の政情不安を理由に鎖国していたのだった。
「せっかくイビルニアの支配が解けたのにおかしな事をするなぁと思ったんだ」
「はい、若、ベッサーラの王ボストーン殿は、その時には既にそのライオットなる上位のイビルニア人に洗脳されていたのやも知れませぬなぁ」
「おそらくライオットって奴はボストーン王の名で宣戦布告して来るはずだ、レンお前の戴冠式に合わせて軍を送り込んで来るだろう、でも心配すんな、この俺が知った以上お前の戴冠式に水を差すような事はさせん、パルア島のアイザ大将の第七艦隊を出撃させる」
と、マルスが鼻息を荒げて言った。幸いジャンパール領パルア島は、トランサーからも近い。
「ありがとうマルス」
「当たり前だ、俺の弟分の晴れ舞台の日に邪魔はさせん!だからお前は結婚式と戴冠式の事だけを考えてろ、良いな?」
「うん」
レンは、従兄弟であり義兄弟でもあるマルスの言葉を素直に受けた。




