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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
156/206

禊(みそぎ)の後で

 ここは、トランサー王国随一の砂浜で真夏には、大勢の人で大いに賑わう。ここでみそぎをするためレンは、テランジン、ルーク、シン、そして、カンドラの拷問に関わったテランジンの兄弟分、子分である元海賊士官達とその砂浜に来た。海に入るには、まだまだ寒い気もしたが、身を清めると言う意味では丁度良いとも思った。

 「まだ海に入るには寒いんじゃねぇんですかい、殿様」

 と、ルークが言うとレンは、いきなり服を脱ぎ始めあっという間に下着だけになった。色白だが細身で筋肉質の身体をしている。ランドールのラインの館でイビルニア四天王グライヤーに右腕を切り落とされシーナの治癒の力で繋がれた時に出来た傷跡が目立った。レンは、一気に海に向かって走り出した。

 「まだ寒いけど何とか入れるよ!冷たっ!ひぃぃぃ」

 と、レンは、海水を身体にかけつつゆっくりと海に入りながら叫ぶように言った。

 「よし、野郎どもぉ若に続け!」

 と、テランジン達も服を脱ぎ棄て下着一枚になり海に飛び込んだ。総勢十五人の男達が、季節外れの海に入った。冷たい海水にかって目を閉じていると何もかも洗い流されている気がした。

 「リヴァーヤ達、どうしてるかな?」

 と、レンは、海獣の王リヴァーヤや真っ黒の海獣ブラッキーの事を思い出し呟いた。この海のどこかに居る事は、確かだ。そんな事をぼんやり考えながらレンは、海に浮かんでいた。

 「若、確かにこの冷たい海に入れば我が身が清められている気がします」

 と、テランジンがレンの傍まで来て言った。いつの間にか皆がレンの周りに集まっていた。しばらく海に浸かり瞑想した。浜辺に残っている子分達が気を遣って、たき火を起こしている事に気付きレン達は、浜に上がる事にした。皆でたき火に当たって身体を乾かし温めているとレンは、国王になればもうこんな気軽に外にも出れなくなり、こうやって皆でたき火にも当たれなくなるのかなと思い寂しくなって来た。

 「若、ありがとうございました、これで堂々と屋敷に帰れます」

 と、テランジンは、レンに心から礼を言った。するとルーク、シンと他の者達も一斉にレンに礼を言い出した。レンは、照れ臭くなり頭を掻いた。身体を十分に乾かせ服を着たレン達は、ポッツ達に会いに行くため魔導車で陸軍本部に向かった。本部内の兵舎の一室でポッツ、マイキー、グアンは、血で汚れた服を着替えさせられ頭を丸めて神妙にしていた。

 「おい」

 と、テランジンが声を掛けると「ひっ!」と小さな悲鳴を上げ横一列に並んだ。相当テランジン、ルーク、シンを恐れている様子だった。サイモン大将が笑いを噛み殺しながらポッツ達に言った。

 「ふふ、お前達、今日はレオニール王子もお見えだちゃんとご挨拶しろ」

 「こここのたび王子様、テランジン閣下らのお慈悲により命を救われた、ポポポ、ポッツ・ビートであります」

 「おお同じくマイキー・バイツであります」

 「お、同じくグアン・ナールであります」

 と、三人は言い深々と頭を下げた。テランジンも笑いそうになったが必死に堪えた。

 「テランジンから聞いてるだろうけどお前達をただ許すつもりは無いよ、刑務所に行ってもらう、そこでしっかり今までの事を反省して来るんだ、でも…」

 「どうかなさいましたか?」

 と、サイモン大将がレンに聞いた。レンは、ただ反省させるだけでは意味が無いと思った。この三人には、ちゃんとした人としての教育が必要だと思ったのだ。

 「誰か居ないかな?この三人を教育出来る人」

 「うってつけなのが刑務所なかに居ますよ」

 と、サイモン大将が心当たりがあるのか答えた。レン達は、ポッツ達三人を連れ早速、刑務所に居るその人物に会いに行った。刑務所に勤務する役人がレンを見て驚いていた。 

 「レオニール様ぁ?なぜこのような所に」

 「うん、ちょっと用があってね」

 レン達は、サイモン大将が言う「うってつけ」の人物に会いに行った。かつてブラッツ侯爵が起こした反乱で服役している軍人や役人達が牢の窓越しからレン達を見ていた。

 「レオニール様だ、どうしたんだろう?テランジン殿やサイモン殿も居る」

 「誰だあの三人は?ルーク殿とシン殿の前を歩いてる…ああぁ!あいつらカツ殿を殺した連中の仲間じゃないか!」

 と、ポッツ達に気付いた者が言った。刑務所内は、騒然となった。カンドラ達の事は、新聞で知っていた。そのカンドラ一味の者が刑務所に来たのだ。ヤジや怒号が聞こえる中レン達は、その「うってつけ」の人物を探した。

 「ハインツ!ハインツ軍曹!どこだ?」

 と、サイモン大将が大声で呼ぶと牢の奥から返事がして人を掻き分け牢の扉の前までやって来た。

 「ははっ!ハインツ軍曹でありますっ!あっ?!レ、レオニール様」

 と、ハインツ軍曹は、レンが居る事に気付くとその場に平伏した。

 「ハインツ軍曹、今日はあなたに頼みがあってやって来た」

 「ははっ!何なりとお申し付け下さい、王子に死ねと言われればこのハインツいつでも死ぬ覚悟は出来ております」

 と、レンの言葉にハインツは、答えた。そんな様子をテランジンやサイモン大将が大真面目な顔をして見ている。レンは、テランジンに今までの事と会いに来た目的を説明させた。ハインツ軍曹は、意外な顔をしていた。

 「わ、私が彼らの教育係ですか?」

 「そうだ、君は教育隊の教官だったのだろう?」

 「ははぁ確かにそうでしたが、私のような者が人の教育など…ブラッツ侯爵の口車に乗せられたとは言え私は王子を裏切った者です、その裏切り者に人を教育する資格などありませんよ」

 と、ハインツ軍曹は、悲痛な面持ちで答えた。

 「その事は今こうして服役し罪を償っている、だから是非あなたに彼らの教育を頼みたいんだよ」

 「い、いやしかし」

 「ハインツ、貴様の教官としての評判は聞いている、だから貴様に頼みに来たのだ、レオニール様の願いでもある、引き受けてはくれんか?」

 と、サイモン大将が言うとハインツ軍曹は、難しい顔をして黙った。しばらく沈黙が続きしびれを切らしたテランジンがちょっと怒りながら言った。

 「ええい、どうせ退屈してるんだろう?退屈しのぎにこいつらを人間として鍛えてやってくれって言ってるんだよ」

 「ああ、そういう事だ、こいつらはまだ若い、今のうちにしっかりと鍛えてやって欲しい」

 「ハインツ軍曹、これは命令だ」

 と、レンが言った時、ハインツ軍曹の表情が一変した。「命令」と聞き自分は、まだ軍人である事を自覚したのだ。

 「ははっ!これより彼らの教育に当たります」

 こうしてポッツ達は、ハインツ軍曹の下で服役生活を送る事となった。

 

 その頃、ロイヤー屋敷では、一大事が起きていた。リリーが産気づいたのだった。テランジンの二人の兄ヨランジンとソランジンの妻達やルディの母ミーシャがリリーを介抱している。

 「お嬢様、しっかり!」

 「ああもう、どうしてこんな時にテランは居ないの?」

 「今、産婆を呼びに行かせますので、ちょっとそこのあなた、産婆に連絡してちょうだい、早く!」

 と、普段は、テランジンの子分を恐れて目も合わせないヨランジンの妻が子分に言った。その間、ソランジンの妻やミーシャが子分達を使ってお湯を沸かさせたりお産のためのベッドを用意させたりてきぱきと指示を出していた。

 ポッツ達をハインツ軍曹に預け城に戻っていたレン達にリリーのお産が始まったと連絡が入ったのは、夕暮れ時だった。

 「テランジン!早く屋敷に戻るんだ」

 と、レンが慌てて言った。しかし、テランジンは、何とも言えない顔をして動こうとしない。禊は、済ませたとは言え、何となく帰り辛いのだろう。

 「何をしておるテランジン、早う行かんか!わしも行く」

 と、ヨーゼフは、言い半ば強引にテランジンを引っ張って行った。そんな様子をレンとルーク、シンは、心配した。そこへエレナもやって来た。

 「リリーさんのお産が始まってるんですって?」

 「そうなんだ、今、ヨーゼフがテランジンを連れて屋敷に帰ったよ」

 「私も行く」

 「えっ?」

 エレナは、将来レンの子を産む。その時に備えてお産がどんなものか見ておきたいと話した。レンは、人がたくさん行けばかえって邪魔になるだろうから行かない方が良いと言ったが、ルークとシンが妙に納得して連れて行くと言い出した。

 「殿様、エレナ様の仰る通りですぜ、俺達がエレナ様を兄貴の屋敷までお送りしますので」

 「う~ん、分かった、じゃあ気を付けて行くんだよ、エレナお産の邪魔にならないようにね」

 「分かったわ、さぁルークさん、シンさん行きましょう」

 と、エレナは、ルーク、シンと共にロイヤー屋敷に向かった。部屋に一人残ったレンは、リリーが無事に子供を産む事を祈った。先に屋敷に向かっていたヨーゼフとテランジンは、自分達の屋敷の前に来ていた。

 「テランジン、早う中へ入れ」

 「い、いやぁ先におやじが入って下さい」

 「つべこべ言わずに早う入らんか!」

 と、ヨーゼフに無理やり屋敷に押し入れられるテランジンを見て子分達は、やっと帰って来たと安堵の声を上げた。

 「親分!お帰りなさい」

 「お頭ぁ姐さんが!」

 と、子分達がテランジンの前に集まって来た。

 「ただいま、リリーの様子は?」

 「へい、先ほど産婆がやって来て、部屋から出て行けと言われて分かりません」

 と、子分が情けない顔をして言った。テランジンは、慌ててリリーが出産している部屋に行ったが、産婆に怒鳴られて部屋から出て来た。仕方が無いのでテランジン達は、部屋の外から中の様子を伺った。リリーの苦しそうな声が聞こえる。

 「う~~ん、う~~~~ん」

 「はい、息んで!そうそう頑張って!お嬢様、もう少しですよ!」

 「はぁはぁ、う~~ん」

 部屋の外でテランジンは、そわそわと落ち着かないでいた。ヨーゼフは、テランジンを何とか落ち着かせようとした。

 「落ち着けテランジン、産むのはリリーじゃ、わしらは待つしかない」

 「しかし、おやじ、あんなに苦しそうにしてるじゃないですか、リ、リリーは本当に大丈夫なんでしょうか?」

 と、何も知らないテランジンは、心底心配していた。子分達は、いつもと様子が違う親分を見て必死に笑いを堪えていた。そこへ城からルーク、シンに連れられてエレナが来た。エレナは、リリーの様子を聞くやすぐさま出産している部屋へ駆け込んで行った。

 「リリーさん!」

 「ああぁエレナ様、はぁはぁ…」

 エレナは、そっとリリーの手を握った。突然現れた黒髪の女に産婆は、驚いたがリリーの様子を見て知り合いと感じてリリーを応援するよう言った。

 「さぁ、あんたもリリーお嬢様を励まして!お嬢様、もう少しですよ、ほら頭が出て来たよ」

 と、産婆は、エレナの事を全く知らないようだった。エレナとテランジンの二人の兄の妻達がリリーを励ます。エレナが来て三時間が経過した。

 「リリーさん頑張って!」

 「うう~~~ん」

 「お嬢様!」

 「う~~~~ん!」

 「さぁもう一息だよ!」

 「う~~~~~~~~ん!!」

 部屋の外では、テランジン達が固唾を飲んで部屋の中の様子を伺っている。相変わらずリリーの苦しむ声やエレナ達の励ます声が聞こえる。そして、一瞬静かになった直後、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえた。

 「産まれた!」

 テランジンは、慌てて部屋に入ろうとしたが、また産婆に怒鳴られ部屋に入れなかった。

 「何だよ、あの婆ぁは!」

 と、テランジンがしょんぼりしているのを見てルーク達は、笑いを必死に堪えた。

 「テランジン、これでお前も立派な人の親じゃ」

 「おやじ」

 「兄貴、おめでとうございます」

 「おめでとうございます」

 と、ヨーゼフや兄弟分、子分達が祝いの言葉を述べた。そして、部屋の中から入って良いと産婆の声がしたのでテランジンとヨーゼフは、そっと扉を開け赤ん坊の元気な泣き声がする部屋に入った。

 「リリー!」

 「あなた、お帰りなさい」

 テランジンは、リリーが寝るベッドの傍に座りそっと手を握った。

 「良く頑張ったな、お疲れさん」

 「ところで赤ん坊はどっちじゃ、男か?女か?」

 と、ヨーゼフが早く知りたそうな顔をして聞いた。リリーは、少し申し訳なさそうに答えた。

 「女の子よ」

 「女か…うんうん無事に生まれてくれたのならそれで良い、リリーありがとう」

 と、テランジンは、心からリリーに礼を言った。この日、テランジンとヨーゼフは、屋敷に残りエレナは、ルークとシンに城まで送られて帰って来た。

 「物凄く苦しそうで痛そうで…怖かったけど出産に立ち会えて本当に良かったわ」

 と、エレナは、リリーの出産の様子をレンに話した。レンは、テランジン、リリー夫妻に何かお祝いをしたいと思い王族でありトランサー王国の儀式や祭典を取り仕切る式部大臣ラストロに相談した。

 「ほほぅテランジン殿に娘御が誕生したのですか」

 「はい、それで何かお祝いをしたいと思いラストロさんに相談しに来ました」

 「なるほど、それでは」

 と、ラストロは、テランジン、リリーに赤ん坊のための物を贈る事を提案した。

 「例えば、ティアック家の紋章の入ったお包みとか、ほ乳瓶とか…城内を探せば何か見つかるかも知れませんね、探してみましょう」

 と、レンは、ラストロと共に城の納戸の管理をしている役人を呼び贈り物に適した物があるか聞き、探す事にした。納戸は、ラストロの父ザマロが王位に就いた頃から綺麗に管理されていてレンは、意外に思っていた。納戸内にある物は、ザマロが見れば直ぐに捨ててしまえと言いそうな物ばかりだったからだ。

 「レオニール様、ございましたよ、このお包みはおそらくレオニール様の物ではないでしょうか」

 と、納戸係の役人が真っ白なお包みをレンに差し出した。なるほどティアック家の紋章が散りばめられ肌触りの良いお包みだ。他に十九年前、赤ん坊だったレンが使うはずのおもちゃや木馬、乳母車などが出て来た。レンは、これら全てをテランジンとリリーに贈る事を決め用意させた。

 「父がああ言った物を残していたとは意外でしたな」

 と、ラストロが少し驚いた様子で言った。

 

 翌日、テランジンは、ルークとシンを連れて登城して来た。レンとエレナは、子供の誕生を心から祝った。

 「おめでとうテランジン、女の子だってね、もう名前は決めたのかい?」

 「ありがとうございます若、名前はまだ決めておりません、リリーと二人でゆっくり考えます」

 「ところでヨーゼフさんは?」

 と、エレナがヨーゼフが今朝から登城していないので何となく聞いてみた。テランジンは、クスクス笑い話し出した。

 「昨日エレナ様がお帰りになった後、ククク、あんなおやじの顔見た事ないですよ、シドゥが見れば大笑いするでしょう、孫を抱いたとたん、フフフただの爺になりました」

 と、テランジンの話しを聞きレンは、フウガを思った。ジャンパール皇帝イザヤ、皇后ナミそしてヤハギ中将から自分が赤ん坊だった頃のフウガの様子を聞いた事があったが、同じなのだろう。目に入れても痛くないほど可愛がっている事だろうと。

 「ふふ、ヨーゼフしばらくは登城しないだろうね、あっ?!そうだ、テランジンお祝いの品があるんだ」

 と、レンは、侍従に昨夜、納戸で探し出した物を持って来させた。テランジンは、お包みをそっと持ちティアック家の紋章が描かれている事に驚いた。

 「若、これは?」

 「ごめんね、そんな物しか今は無くてね、良かったら使って」

 レンは、あまり深く考えていなかったが、臣下が主家の紋章や家紋が入った品を主家から贈られる事は、名誉な事である。テランジンは、自分に子供が出来たと言うだけでここまでされて良いものかと思った。

 「本当によろしいので?」

 「うん、僕とエレナの子供はまだまだ先の事だしね、新しい物が良かったら後で贈るよ」

 「いえいえ、これで結構です、身に余る光栄です」

 と、テランジンは、レンから贈られた品を屋敷に持ち帰りヨーゼフに見せた。ヨーゼフは、その品を見た瞬間、涙を流して一つ一つ手に取りながら話した。

 「おおぉぉ、これはレオニール様を包むためのお包み…このおもちゃは…懐かしいなぁ…乳母車まで…これら全てはあの時、レオニール様のために我々が揃えた物だ…こうして今わしの前にある事が夢にようじゃ」

 と、ヨーゼフは、当時を思い出し話した。どの品も一級品である。たかがおもちゃにしても最高級の素材が使われていて、そこらの金持ちや貴族などが手に入れる事の出来ない物だった。ヨーゼフは、レンがどれほど自分達を信頼しているかをこれらの品々を見て思った。

 「テランジンよ、ロイヤー家が続く限りティアック家をお守りせねばならぬぞ」

 「はい、おやじ」

 と、テランジンもレンが深く自分を信頼している事を感じていた。そこへ娘を抱いたリリーが来てレンの贈り物を見て驚いていた。

 「まぁ素敵、レオニール様も私達の娘の誕生を喜んで下さっているのね、ところであなた、この子の名前なんだけどデイジーって言うのはどうかしら?ねぇお父さん」

 「ふむ、デイジーか…デイジー、デイジーうん俺は構わんよ、おやじどうですか?」

 と、テランジンは、ヨーゼフの意見を聞く事にした。

 「うむ、デイジー、デイジー・ロイヤー良い名じゃ、そうじゃ明日デイジーを連れて登城しよう」

 と、ヨーゼフも孫娘の名に賛成し登城してレンとエレナに孫娘を会わせる事に決めた。ヨーゼフは、リリーからデイジーを引き取り普段は絶対に見せないであろう表情になってデイジーに話しかけた。

 「お前の名はデイジーじゃ、明日王子様に会いに行くぞ」

 そんなヨーゼフの様子を見てテランジンとリリーは、クスクス笑った。


 翌日、ヨーゼフ達は、デイジーを連れレンとエレナの前に居た。デイジーは、レンから贈られたお包みの中でリリーに抱かれ、すやすやと眠っている。リリーは、どうぞとエレナにデイジーを渡した。エレナは、恐る恐るデイジーを抱き見つめた。生まれて三日目なのでまだまだどちらに似ているのか分からないが、成長すればきっと美人になるだろうとエレナは、思った。

 「ところで若、孫の誕生をお祝い下さり誠にありがとうござりまする、今デイジーを包み込んでいるお包みは、かつて若をお包みする物でした」

 と、ヨーゼフは、言い目を潤ませた。レンは、自分が生まれた当時の事を改めてヨーゼフから聞き不思議な気分になった。

 「あのザマロがよく捨てずに置いていたものと…奇跡でござる」

 と、ヨーゼフは、エレナが抱く孫娘デイジーを愛おしそうに見つめながら言った。エレナは、レンにも抱っこさせようとデイジーをそぉっとレンに抱かせた。レンは、慣れない手つきでデイジーを抱き見つめた。

 「かわいいね」

 「うん、私達もいつか赤ちゃんが出来た時のために少しくらいは慣れておかないとね、レン手が震えてるわよ」

 と、エレナがレンの震える手を見て言った。レンは、デイジーを直ぐにリリーにかえした。

 「と、とにかくテランジン、リリーさん、おめでとう、ヨーゼフこれからは城に詰めっぱなしは駄目だよ少しでもデイジーの傍に居てあげてね」

 と、レンは、かつて自分の養育のために軍からも政界からも身を引いたフウガの事を思い出した。ヨーゼフは、何とも言えない顔をしてリリーが抱く孫娘を見ている。

 「ははぁ、そう言って頂けるのは嬉しゅうございますが、若の戴冠式と結婚式が迫っております、全てが終わり次第、拙者は隠居しようと考えております」

 そうだったと、レンは、テランジンとリリーに娘が生まれた事で自分の結婚式や戴冠式の事を忘れていた。式の準備は、全て式部大臣であるラストロに任せてあり着々と進んでいる。後は、その時を待つだけであった。

 「僕はやっとおじいさんとの約束を果たす事が出来る…おじいさん僕はもう直ぐこの国の国王になります」

 と、レンは、幸せいっぱいのロイヤー一家を眺めながら呟いた。


 

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