カンドラの始末
ポッツは、ただ震えてテランジンを見上げていた。テランジンは、ポッツに目線を合わせるため屈み込むとものも言わずにポッツに往復ビンタを喰らわせた。
「貴様はカツの右脚を切り落としたんだったなぁ」
「いいいい、止めて下さい、お願いします、親分に言われて仕方なくやってしまったんです」
「残念だが止める訳にはいかんなぁ、カツはきっと止めろと言ったはずだ、だが貴様は自分がカンドラに何をされるか分からんと思い切ったんだろう」
と、テランジンは、ポッツの目を見て言った。ポッツは、慌てて地面に額を擦り付ける様にテランジンに土下座して許しを請うていた。そんな様子をカンドラ達は、ゲラゲラ笑いながら見ていた。
「グフフフ、当たり前だ、カツの脚を切った張本人が同じ目に遭わねぇとなグフフフ」
「だとよ、あれが貴様らの親分の本当の姿だ、他人の事などどうでも良い、自分達に何も無ければそれで良いんだよ、カンドラの子分になった貴様らの運の尽きだ、脚を切り落とすのは最後のお楽しみだ、せいぜい覚悟しておけ、おい、ガキ共を牢に戻せ」
と、テランジンは、子分に言いポッツ達を牢に戻させカンドラ達に近付いた。今日は、カンドラ達に手を出さないと決めていたが気が変わり壁に掛けてある棍棒を取るとカンドラ達を散々殴った。動かなくなった所をドラクーン人のタキオンとワイエットが治療する。
「いい、いててて畜生め」
「ふん相変わらずだな、カンドラ、自分の子分があんな目に遭っていてよくもまぁ笑えるな、俺には考えられん」
チャーリーとコールは、恨めしそうにテランジンを見上げていた。カンドラ達を拷問場の檻に入れテランジン、ルーク、シンは、刑場から海軍本部へ向かった。一方、牢に戻されたポッツ達は、絶望していた。もしかすれば助かるかも知れないと思っていた矢先の事だったからだ。
「やっぱり俺達、拷問で殺されるんだぜ」
「いてぇよぉいてぇよぉ、うぅぅぅぅ」
「怖いよ、兄ぃ」
ポッツ達は、もう助からないと諦めていた。
トランサー城では、レンがエレナの膝枕でぼんやり考え事をしていた。考え事とは、テランジン達の事である。エレナは、城内で聞いたテランジン達の事をレンに話そうか迷っていた。何か言いたそうなエレナに気付いたレンは、どうしたのと聞くとエレナが難しい顔をしながら話し出した。
「あのねレン、侍女達が話してるのを聞いちゃったんだけどテランジンさん達大丈夫なの?ここの所お屋敷にも帰ってないそうなの」
「えっ?帰ってないって?」
レンは、エレナの膝枕から頭を上げ座った。初耳だった。てっきり拷問の後は、屋敷に帰っていると思っていた。ヨーゼフは、相変わらず城で寝泊まりしていて妊娠中のリリーからも何の連絡も無かった。
「リリーさんが心配だわ」
「ヨーゼフは知ってるのかな?聞いてみよう」
と、レンは、エレナを伴いヨーゼフの部屋へ向かった。
「ヨーゼフ」
「若、エレナ様まで、いかがなさいましたか?」
と、丁度書類に目を通していたヨーゼフが二人を見て驚いて言った。レンがテランジンの事を話すとヨーゼフは、うんうんと頷き答えた。
「身重のリリーに拷問をして帰って来る自分の姿を見せたくないと申しておりました、全て片付いたら帰ると、若もエレナ様もどうかお気になさらずに」
「そんな…リリーさんは毎日不安がっているのでは?」
「はは、エレナ様、リリーもテランジンの様な男と結婚したのです、それなりに分かっておるでしょう、それに拙者の娘ですから」
と、ヨーゼフは、明るく答えた。エレナが、リリーに会いに行くと言ったのでクラウド隊を護衛に付けエレナをロイヤー屋敷に向かわせた。未来の王妃様が来たと屋敷中大騒ぎになった。リリーは、エレナに会うのが久しぶりだったので大いに喜んだ。カンドラ達に屋敷や工場を燃やされたシドゥの弟ルディと母ミーシャやテランジンの二人の兄ヨランジン、ソランジン家族は、恐縮しながらもジャンパール人であるエレナを興味深げに見ていた。エレナは、直ぐに客間に通されテランジンの厳つい子分がお茶を持って現れ「どうぞ」と、そっとエレナの前に置くと一礼して部屋から出て行った。
「テランジンさん、お屋敷に帰ってないんでしょう?リリーさん大丈夫ですか?」
「はいエレナ様、夫から事が決着するまで帰らないと聞いてます、私もこの子も夫を信じて待つだけです」
と、リリーは、大きくなったお腹を擦りながら言った。エレナは、リリーの隣りに座り優しくリリーのお腹を触った。微かに動いているのを感じた。自分も将来レンの子を産む事を考えると生命の神秘を感じた。エレナは、そっとリリーのお腹に耳を当てた。
「男の子かしら女の子かしら?」
「さぁどちらでしょう?父と夫は男の子が欲しいと言ってましたが私は最初の子ですからどちらでも構いませんわ、無事に生まれてさえくれれば」
と、リリーは、にっこり微笑んで答えた。エレナは、数時間リリーと過ごし城へ帰った。
この日の夕方、テランジン達は、大衆酒場兼食堂「青い鳥」で飲んでいた。シンの恋人である店の看板娘ライラが心配そうにテランジン達を見ていた。
「ねぇオヤジさん、テランさん達大丈夫かしら?シンに聞いても何も答えてくれないし」
「んん?ああ、心配するこたぁねぇさ、あの極悪人のカンドラって野郎にカツを殺した落とし前付けさせてるんだろう、どんな落とし前かは聞いちゃいけねぇぞ、ライラ」
と、店主がライラに言った。ライラも薄々知っている。テランジン達がカンドラ達に相当酷い拷問を行っている事を店に来る陸軍の兵士が話しているのを聞いた。内容までは、詳しく分からなかったが、店主が聞くなと言っている事は、本当に聞かない方が良いのだろう。
「なぁ兄貴、後二日、どうする?もうけっこうやり尽したぜ」
「うん、あいつらが他にどんな拷問をやってたかもう思い出せねぇよ」
と、ルークとシンがカンドラ達にやっている拷問について話していた。過去にカンドラ、チャーリー、コールがデスプル島でやっていた拷問は、思い出せる限り全てやった。テランジンは、少し考えて答えた。
「うむ、明日はおさらいと行こう、それとガキ共にも少しやる、明後日で始末しよう」
「分かった、ところで兄貴、屋敷に帰らなくて本当に良いのかい?リリー姐さんが心配してるだろう?」
と、ルークが言った。シンは、暗い顔をしてコップに入った酒を見つめていた。
「なぁに大丈夫だ、リリーやおやじには話してある、始末が着いたら帰るとな」
と、テランジンは、グイッと酒を飲み干し言い、新しい酒を注文した。店主が注文の酒を持って来た。
「ほら、ところでテランまだ続けるのか?」
と、店主がテランジンに酒を渡しながら聞いた。
「えっ?何がだ?」
と、テランジンやルーク、シンは驚いた顔をした。自分達がカンドラ達に拷問をしている事など知られていないと思っていた。店主が拷問の事を話すとテランジン達は、困ったような顔をした。
「分かってるさ、心配すんな、ここに来る客にお前達の事を悪く思う奴ぁ居ねぇよ」
「ありがとう、オヤジ」
「しかし、いつまで続けるんだ?あまり長く続けるとお前達がおかしくなっちまうんじゃねぇか?」
と、店主は、心配して言った。確かに拷問など非人道的行為は、長くやる事ではない。しかし、テランジン達には、カンドラ達を簡単に殺す事は、出来なかった。
「あの野郎共を簡単に殺す事は出来ねぇんだよオヤジ、徹底的に痛めつけてやらねぇとあの野郎共に虫けらの様に殺された奴らがうかばれねぇよ」
と、シンが憎しみを込めて言った。目には涙を称えていた。それを見た店主は、自分が口を出すべき事ではないと悟った。
翌日、テランジンが「おさらい」と言ったように今までカンドラ達にやってきた拷問をこの日、全てやった。ポッツ達にも経験させた。ドラクーン人のタキオンとワイエットも拷問の後で直ぐに治療するので相当疲れている様子だった。夜遅くになりカンドラ達を拷問場の檻に入れ、ポッツ達を元の牢屋に戻し、テランジン達は、タキオンとワイエットをドラクーン大使館まで魔導車で送った。
「テランジン殿、今日はかなり激しかったですな、我々も少々疲れました」
と、タキオンが魔導車から降りながら言った。
「ええ、今日は今までのおさらいでした、明日あの連中を始末しますのでお二人のお役目は今日で終了です、今日までありがとうございました」
と、テランジンは、二人に丁寧に頭を下げた。
「今まで嫌なお役目を受けてもらって本当に申し訳ありませんでした」
「カツもあの世で感謝してます」
と、ルークとシンも礼を言った。タキオンとワイエットは、とんでもないと言い逆に最後まで付き合うと言ったが、テランジン達は、丁重に断った。最後にカイエンとシーナ、ドラコによろしく伝えて欲しいと言い軍の海軍の宿舎へ帰った。
翌朝、テランジン直属の部下であるルーク、シンら元海賊士官達が刑場へ集まった。テランジン達がずらりと居並ぶ中、カンドラ、チャーリー、コールが檻から引き出され、牢屋からは、ポッツ、マイキー、グアンが連れて来られた。
「ふん、今日はえらく人が多いなぁ、あれ?今日は治してくれる奴が居ねぇどうしたんだ?」
と、カンドラがタキオンとワイエットが居ない事に気付いて言った。ポッツ、マイキー、グアンには、その意味が分かった。
「お、親分、今日で最後って意味じゃないですか?」
と、マイキーが震える声で言うとカンドラは、面白くないといった顔でテランジンを睨み付けた。一方、レンの耳にも今日でカンドラ達を処刑するという情報が入っていた。
「そうか、今日で一週間だね」
「はい若、テランジン達もやっとこの復讐から解放されるでしょう」
「ヨーゼフ、カツの墓に行こう」
「ははっ、直ぐに用意させます」
と、レンとヨーゼフは、カツの墓参りに行く事にした。刑場では、ポッツ達若衆がカツの右脚を切った鋸を見せつけられ泣き叫んでいた。
「この切れ味の悪そうな鋸で脚を切り落としたのだろう、痛かっただろうなぁカツは」
と、ルークが鋸を持ち言った。チャーリーとコールは、身体を強張らせうつ向いていたが、カンドラだけが興奮気味にルークを見ていた。
「さてと、では始めようかまずは、貴様だ!おい、コールを押さえろ」
と、テランジンが子分達に言った。
「おおい、ちょ、ちょっと止めろぉ!ななな何で俺なんだ、止めろぉぉぉ」
屈強な子分達に力ずくで押さえ付けられたコールは、喚き散らしたがどうにもならない。右脚を押さえ付けられた。ルークがゆっくりとコールに近付き鋸の刃をコールの右脚の膝下辺りに当てた。
「やや止め、止めてくれぇ、ぎゃぁぁぁぁ痛い、痛い痛い痛い!」
ルークは、容赦なく鋸を挽いた。肉が裂け血が飛び骨がゴリゴリと鳴った。その光景をポッツ達に見せつける。ポッツ達は、目を背けたがテランジンの子分にしっかり見ろと頭を押さえられ目を見開かされた。「ブチッ」とコールの脚が切れたところでポッツが嘔吐した。コールは、気を失っていたが、ルークに蹴り起こされ切り落とされた脚を投げ付けられた。
「いいいてぇよぉ、ひぃぃぃ」
「ふん、カツがどんな思いでてめぇらに殺されたか、ちったぁ思い知ったか!」
と、ルークが鬼の様な形相でコールに言った。そして、ギロリとポッツ達を見た。三人とも小便を漏らしていた。
「次はてめぇだチャーリー」
と、シンがルークから鋸を引き取ると子分達にチャーリーを押さえ付けさせた。抵抗するチャーリーをシンが殴りつけ怯んだ隙に子分に右脚を引っ張り押さえ付けさせた。
「よしっ、カツが受けた苦しみを思い知れ!」
と、シンは、乱暴にチャーリーの右脚を鋸で挽いた。刑場にチャーリーの泣き叫ぶ声が響き渡る。
「ぎやぁぁぁぁぁ!ぐぅわあああああ!」
その様子をカンドラは、ふぅふぅ息を荒げて血で汚れたズボンの上から股間を握り締め見ている。それに気付いたテランジンがカンドラを殴り倒した。
「この変態野郎め!てめぇの兄弟分がやられて何を興奮してやがる!」
「グフッグフフフフ」
カンドラは、テランジンに殴られた痛みなど全く無い様子だった。チャーリーの脚を切り落としたシンは、脚をチャーリーに投げ付けた。チャーリーは、息も絶え絶えで仰向けになって倒れ呻いている。残るは、カンドラだけである。テランジンがシンから鋸を受け取りカンドラの目の前でちらつかせた。カンドラは、ニヤニヤ笑って鋸を見ている。とうとう気が狂ったかと思われた。テランジンが子分達にカンドラを押さえ付けさせた。何の抵抗も示さない。不審に思ったが、テランジンは、容赦なくカンドラの脚を切り始めた。
「うううぅぅぅあぁぁぁぁいいい痛いぃぃぃグフフフフフフ、いいい痛いぃぃぃ!」
どうも様子がおかしいと思いテランジンは、半分まで切って手を止めた。
「こいつ、どうも変だな、おい、消毒薬持って来い」
と、テランジンは、子分に言い消毒薬の入った瓶を持って来させた。
「気が狂ってもこいつを傷口に流し込めば痛みで正気に戻るだろう、それっ」
と、テランジンは、消毒薬をカンドラの半分まで切れた脚の傷口に流し込んだ。
「ごぉわぁぁぁぁぁ!熱いっ!熱い熱い痛い痛い!ひぃぃぃぃややや止めろぉ!」
「ふむ、正気を取り戻したな、よし、続けよう」
と、またテランジンは、鋸でカンドラの脚を挽き始めた。正気を取り戻したカンドラの抵抗は、凄まじく取り押さえている子分達は、苦労した。それでも何とか脚を切り落とした。
「ぐぅぅぅぅいてぇぇぇ畜生め!」
と、カンドラは、テランジンを睨み付けた。
「貴様はきっとこうしたはずだ」
と、テランジンは言うと、持っているカンドラの脚をカンドラの顔に押し当てた。
「ぐぅぅぅぅガ、ガキ共はどうなる?まさか俺達だけじゃねぇだろうな?」
と、カンドラが悔しそうに言った。チャーリーとコールもそうだと言いポッツ達を睨み付けている。
「おお俺達だけこんな目に遭うのは不公平だ!」
「そうだ、だいたいカツの脚を切り落としたのはポッツだぜ、ポッツを先にやれよ」
「そうだな」
と、テランジンは、血で汚れた鋸を持ちポッツ達にゆっくりと近付いた。ポッツ達は、泣き叫びながら許しを請うた。テランジンは、顎で子分達にポッツを取り押さえるよう指示しポッツの脚に鋸を当てた。
「おおおおお願いします、許して下さい、ふふふ普通に死刑にして下さい、何でもしますからぁ、お願いします、わぁぁぁぁん!」
「グフフフフそうだテラン、さっさとポッツの脚を切っちまえよ」
「黙ってろ!」
と、ルークがカンドラの腹を蹴り上げた。テランジンは、じっとポッツ達の目を見て言った。
「今、何でもすると言ったのか?」
「ははははい、何でもしますから、どうかどうか普通に死刑にして下さい」
「お願いします、お願いします」
「うわぁぁぁぁん、どうか…どうか…」
テランジンは、立ち上がりポッツ達に言った。
「もう二度とやくざな道に足を踏み入れない、悪い事はしないとここで誓えるか?」
「はははい、誓います誓いますから、どうかお願いします」
と、テランジンに両手を合わせてポッツ達が叫ぶように言った。カンドラ達は、妙だなと思った。どうせ死刑にする者に誓うも何もないじゃないかと。その事にポッツ達は、気付かずただ普通の死刑を望んだ。
「良かろう、許してやる、しかしただ許す訳にはいかん、貴様達は…」
と、テランジンが話している途中でカンドラ達が喚き散らした。
「どういう事だ!何でガキ共だけ許されるんだ!」
「そうだ、そうだ!俺達と一緒に死刑にしろや!」
「うるさい黙れ!」
と、ルークとシンは、棍棒でカンドラ達を殴り付けた。ポッツ達は、呆然としていた。ただ普通の死刑を望んでいたが、どうもそうではないらしい。
「あ、あの普通に死刑にしてもらえるんですよね」
「ん?死刑?貴様達を死刑にするつもりはない、貴様達は先ほどもう二度とやくざな道には入らん、悪い事はしないと誓った、誓いを破れば親分達の様な目に遭い死ぬという事だけは肝に銘じておけ、それと言いそびれたが、ただ許す訳にはいかん、貴様達はこの国で服役させる、良いな?」
と、テランジンに言われポッツ達は、死刑どころか生かせてもらえると知り泣き崩れた。テランジンは、子分にポッツ達を陸軍本部に居るはずのサイモン大将のもとへ連れて行くよう言った。刑場から連行されるポッツ達を憎らし気にカンドラ達は、見ている。
「テラン、なぜガキ共を許した?」
と、カンドラは、納得がいかない様子だった。チャーリーとコールも不満そうな顔をしている。テランジンは、カンドラ達に向き直り言った。
「あのガキ共は貴様らの命令でやっただけだ、親分の言動は絶対…それをガキ共が守っただけだろう、逆らえばどんな目に遭わされるか分かったもんじゃないからなぁ、その事は死んだカツもよく分かっている事だろう」
「ちょっと待てよテラン、んじゃ死ぬのは俺達だけなのか?本当に小僧達を生かすつもりなのか?」
と、チャーリーが怒った様に言った。その隣では、コールが失血で気を失いそうになっている。
「勝手に死ぬなっ!」
と、シンがコールの頭を叩いた。ビクッと意識を取り戻したコールは、脚の苦痛に顔を歪めた。
「そうだ、あのガキ共にはちゃんとした人生を送らせる、あの若さだ、まだ間に合う」
そう言うとテランジンは、鋸を子分に渡すとシドゥの形見となる剣をスラリと抜いた。ルークも剣を抜きシンもカツの形見の剣を抜いた。
「俺達も疲れた、貴様らの様な人の皮を被った悪魔に対してやった拷問も今日で終わりにする、この一週間、気が狂いそうになったぜ、よくもあんな事を平気で出来るもんだと感心したよ」
と、テランジンは、ゆっくりとカンドラに近付き言った。
「ああ、本当にな、こんな事ならイビルニア人を相手にしている方がよっぽどマシだと思ったぜ」
と、ルークがチャーリーに近付き言った。
「本当に気が変になりそうだった、それも今終わる、ジジイ共最後だ、何か言い残す事はあるか?」
と、シンがコールに近付き言った。カンドラ、チャーリー、コールは、無駄だと分かりつつ抵抗したが、テランジンの子分達に首を突き出す形で取り押さえられた。
「ち、畜生めぇ!てめぇら絶対に呪い殺してやるからなっ!覚悟しやがれ!」
「まま、毎晩てめぇらの枕元に出てやるからな!」
「あの世でカツの野郎を徹底的に拷問してやるぜぇグフフフフ」
と、カンドラ達は、言いたい放題言った。この刑場に居るテランジン、ルーク、シンや元海賊士官達は、呆れ果てた。最後の言葉がこれかと思うと馬鹿にしたように笑う者も居た。
「ふん、呪いたきゃ勝手に呪ってろ、あの世でカツに拷問するだと?それは出来ねぇな、あの世に行けば俺の無二の親友シドゥが居る、それに若をお育てになられたフウガ・サモン閣下も居る、この二人に守られて貴様らはカツに近付く事すら出来んだろう」
と、テランジンは、真顔で言った。カンドラは、悔しそうにテランジンを見上げて言った。
「な、何でそんな事がわかるんだ?俺達は絶対にカツの野郎を痛めつけてやるぜ、徹底的になぁグフフフ、さぁやれよ、さっさと殺せぇ」
「俺は一度死にかけてな、あの世とこの世を繋ぐ川原で川の向こうにいる親友に会った事がある、カツはきっと俺の親友が迎えに来て川を渡っただろう、ところでこんな話しを知ってるか?この世で悪の限りを尽くした者はあの世とは別の世界に連れて行かれる事を」
「べ、別の世界?な、何だそこは?」
と、コールが興味があるのか聞いた。
「貴様らの様な極悪人が行く所は暗黒の世界だ、何も無い真っ暗な世界、イビルニア人が向かう世界だ、その世界で魂は浄化もされず、生まれ変わる事もなくただ永遠に彷徨い続けるのだ」
と、テランジンは、以前ヨーゼフから聞いた話しをした。コールが急に死にたくないと泣き叫んだ。それに釣られたのかチャーリーまで泣き出した。カンドラだけがただ呆然としていた。
「ふん、今さら泣き喚いても遅いぜ」
「汚ねぇ面してピーピー泣くな!自業自得だ馬鹿野郎!」
「さぁもう終わりにしよう」
と、テランジンが言い、三人の首を刎ねた。この瞬間、刑場に居た男達は、口々に叫んだ。
「カツ、終わったぞ!仇は取ったぞ!」
「カツ兄ぃ、終わったぜ」
カンドラ、チャーリー、コールの首は、その日のうちに刑場近くにある処刑後の罪人の首を晒す場所で晒し首にされた。カンドラ達の処刑は、夕刊に掲載され世界中が知るところとなった。マルスやラーズから直ぐに連絡が入った。レンは、色々と聞かれたが拷問の事は、話さなかった。
翌日、テランジン、ルーク、シンが登城しレンとヨーゼフにカンドラ達の処刑を済ませた事を改めて報告した。レンは、テランジン達に労いの言葉をかけ直ぐに屋敷に帰るよう言った。
「リリーさんが心配してるだろうから早く帰ってあげて」
「いやっそれは…」
「何じゃどうした?」
と、言い辛そうにしているテランジンにレンとヨーゼフが理由を聞くと一週間も拷問をして来た自分が屋敷に入ると屋敷が穢れそうだと言った。
「それは困ったのぅ、一週間も拷問などするからじゃ」
と、ヨーゼフは、目の前の婿養子であるテランジンに言うとレンは、何か思い付いたのか手を打って話した。
「そうだ、テランジン、カンドラの拷問に参加した皆を連れて海に行こう」
「海に?なぜですか?」
「禊だよ、僕が育ったジャンパールでは身を清めるために山で滝に打たれたり海に入ったりする事があるんだよ、だから海に行こう」
「な~る、拙者も聞いた事がござる、テランジン行って来い、海に入って身を清めて来い」
と、ヨーゼフも納得してテランジンに禊を勧めた。
「僕も行くよ」
と、レンは、自らも禊をするため支度を始めた。ヨーゼフになぜ若まで禊をするのかと聞かれるとレンは、言い出したのは自分だからと言い納得させた。本当は、カンドラ達を棍棒で殴り倒した時に感じた罪悪感と嫌悪感を取り除きたいと思っていたからだ。そして、レンは、エレナにテランジン達と海に行って来ると話し真夏には、大勢の人で賑わう砂浜へ向かった。




