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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
153/206

カンドラの裁き・二

 評定所の近所にある食堂では、レン達が昼食をとっていた。役人が事前に食堂の店主に王子やその側近達が昼食をとりに来ると伝えていたので食堂が混乱する事は無かった。

 「あの三人、生きた心地がしないだろうね」

 と、レンが先に裁いたポッツ達若衆の事を思い出して言った。ポッツ、マイキー、グアンは、死刑囚が収監される施設に入れられている。今頃は、カツと同じ拷問で死刑にされると思い込んでいて気が狂いそうになっているだろう。

 「はい若、まだ本当の事を知らせていませんからね、死刑にならないと聞けば喜ぶでしょうが二度とやくざな道に足を踏み入れないよう奴らには恐怖と苦痛を与えます、それで改心すれば良いのですが」

 と、テランジンは言ったが、あまり良い顔をしていなかった。若いポッツ達をメタルニアに帰せば当然、カンドラの若衆であった仲間が寄って来るだろう。そしてまた悪事に手を染めるかも知れなかった。

 「奴らに強い心があるかどうか…悪い誘いには乗らない真面目に生活していくという強い心が」

 テランジンは、根っからの親分肌なのかポッツ達がメタルニアに帰った後の事を心配していた。最初は、カツに拷問を加え殺しても飽き足りない憎い奴と思ってはいたが、ポッツ達を見ているとカンドラ支配下のデスプル島で出会ったルーク、カツ、シンを思い出し何とかしてやりたいと思う様になっていた。

 「まぁあの三人の事は俺達に任せて下さい殿様」

 と、ルークが言い昼食を終えレン達は、評定所に戻った。評定所内の牢屋では、カンドラ、チャーリー、コールが妙に静かに自分達の裁きを待っていた。

 「何だ?えらく神妙だな急にどうした?」

 と、監視役が不審に思い言った。

 「なぁに覚悟を決めたまでさグフフフ」

 と、へらへら笑いながらカンドラが答えた。

 (ふん、んな訳ねぇだろ馬鹿野郎め、ライヤーの薬が効き始めたらまずはてめぇからぶっ殺してやる)

 と、カンドラは、密かに思い、目でチャーリーとコールに合図を送った。二人もまた目で答えた。しばらくすると他の役人が来て、王子達が法廷に戻られたので今からカンドラ達の裁きを始めると伝えに来た。そして、カンドラ達を法廷に連れて行くテランジン、ルーク、シンが牢屋にやって来た。カンドラは、狂喜した。

 「ほほう、まさかまさかお前達が迎えに来るとはな、グフフフ手間が省けて良かったぜ」

 「んん?何の手間だ?貴様らの様な人の皮を被った悪魔でも我が国では法を持って裁いてもらえるんだ、ありがたいと思え、さぁ行こうか」

 と、テランジンが呆れ顔で牢に近付き鍵を開けるよう監視役に言った。そして、監視役が牢の鉄格子にある鍵穴に鍵を差し込んだ時、思いもよらない事が起きた。カンドラが鍵が開くより早く鉄格子を蹴り破ったのだ。ガァアアン!と大きな音を立て鉄格子の扉が監視役とテランジンを吹っ飛ばした。

 「ぐわぁぁぁぁ!くっ?!痛っ…な、何だ今のは…」

 「兄貴!」

 「あんたも大丈夫か?」

 と、ルークとシンが倒れたテランジンと監視役を起こそうとした。

 「グフフフ…やっぱりライヤーを飼ってて正解だったな」

 「全くだ、良い薬を作ってくれたもんだぜ」

 「ああ、身体から力がみなぎって来る感じだ、若い頃に戻ったみてぇだぜ」

 と、カンドラ、チャーリー、コールがゆっくりと牢から出て来た。

 「グフフ、その監視の野郎は死んだんじゃねぇか?動かねぇぞグフフフ」

 「貴様がなぜライヤーを知っている?薬とは何の事だ?言え!」

 と、テランジンは、動かない監視役をルークとシンに任せカンドラに組み付いた。

 「グフフ、あいつは俺が飼ってた殺し屋だ、半イビルニア人ってぇのは面白い連中だなぁ、もしもの時のためにと俺達に若返りの薬を作ってくれてたのさ、おらぁっ!」

 と、カンドラが言いテランジンを投げ飛ばした。ガシャアーン!と机や椅子にぶつかり大きな音を立てた。そこへカンドラが倒れているテランジンに追い打ちをかけた。

 「グフフフ丸腰で来るとはお前も不用心だな、裁きなんか受ける前にお前をここで殺してやるぜぇ」

 と、カンドラは、テランジンの首を絞め始めた。

 「兄貴!!」

 「野郎!」

 と、動かない監視役の面倒を見ている場合じゃないとルークとシンがテランジンを助けに行こうとした。

 「おいおい、てめぇらの相手は俺達だぜ」

 「おらぁ!」

 と、チャーリーとコールがルークとシンに襲い掛かった。薬の効果で若返ったカンドラ達の力は、凄まじいものだった。かつて、その腕力でデスプル島を支配し流れて来るならず者達を力で支配していた。

 「こうしててめぇを殺せる事をどんなに夢見た事か、軍人崩れの若造に島を追い出された屈辱、片時も忘れた事はねぇグフフフ今その屈辱を晴らせる時が来た」

 カンドラは、更に力を込めテランジンの首を絞めたが、テランジンも負けてはいない。絞められまいと渾身の力でカンドラの手を引き離そうとした。

 「くっ…うううう」

 ルークとシンは、チャーリーとコールを相手に殴り合っている。

 「おら、どうした小僧、お前の拳など全く効かねぇぞ」

 「この野郎…」

 「ふん、あの頃を思い出させてやる」

 

 その頃、法廷でカンドラ、チャーリー、コールを連れて来るはずのテランジン達を待っているレン達は、痺れを切らせていた。ジャスティ大臣は、何度も時計を見てウロウロと歩き回っていた。

 「テランジン殿は何をしておるのだ?三十分以上になりますぞ」

 「ふむ、確かに遅すぎる…あやつめふざけておるのか」

 と、ヨーゼフも時計を見て言った。レンは、嫌な胸騒ぎを感じていた。ジャスティ大臣は、テランジンの子分である海軍士官に様子を見て来いと言った。海軍士官が牢屋近くまで来ると直ぐに異変に気付いた。

 「おかしらぁ?ああっ?!何やってるんだ貴様ぁ!」

 と、海軍士官は、先に目に入ったルークに殴りかかるチャーリーを見て叫んだ。「兄貴!」とルークに加勢しようとした海軍士官にテランジンが叫んだ。

 「こいつら隠し持っていた薬を飲んで力を付けやがった、王子にこの事を伝えろ、急げ!!」

 そう言われた海軍士官は、慌てて法廷に戻って行った。

 「けっ応援が来る前にてめぇらぶっ殺しておさらばするぜぇ」

 「そ、そうはさせん」

 と、テランジンは、やっとの思いで首に掛けられたカンドラの手を引き離すと思い切り蹴り倒し今度は、テランジンが馬乗りになってカンドラを押さえ付けボコボコに殴った。

 海軍士官から知らせを受けたレン達は、信じられないといった顔をしたが、サイモン大将は、直ぐにテランジン達の加勢に向かった。

 「薬を飲んだって?どういう事だろう?」

 「さぁ隠し持っていたそうです、薬の影響なのかカンドラ達が若く見えました」

 と、海軍士官が言うとレンは、ハッとして海軍士官にドラクーン大使館に行きドラクーン人を連れて来るよう命じた。

 「ド、ドラクーン人ですか?」

 「早く、急いで!」

 「わ、分かりました」

 と、海軍士官は、慌てて走って行った。

 「ヨーゼフ、僕達も行こう」

 「ははっ」

 レンとヨーゼフも牢屋へ走った。牢屋内は、サイモン大将やテランジンの子分達も交えごった返していた。カンドラ、チャーリー、コールの威勢のいい声が聞こえた。

 「おらぁどうした?小僧共!てめぇらの力はそんなもんかぁガハハハハ」

 「こんだけの人数が居てこの程度かぁ?おらぁもっとかかってこいよ!殴り殺してやるぜぇ」

 「止めんかぁっ!!」

 と、ヨーゼフの大音声が牢屋に響き一瞬だけ時が止まった様になった。レンとヨーゼフは、人を掻き分けてテランジン達に近付いた。

 「ちっ、来やがったな男女め、このカンドラ様が易々(やすやす)とてめぇらの裁きを受けるとでも思っていたのか?テランを殺したら今度はダークスの代わりに俺がてめぇを殺してやるぜぇ」

 と、カンドラがまたテランジンの首を絞めようとした。サイモン大将や子分達がカンドラを取り押さえようとかかったが、片腕で簡単に投げ飛ばされて行く。とてつもない腕力である。

 「この野郎!」

 と、レンがカンドラを思い切り蹴ったが全く効いていなかった。カンドラは、ニヤリと笑ってレンを見て直ぐにテランジンに向き直り組み付くとテランジンをレン達に投げ付けた。

 「うわぁぁぁ!」

 「わ、若、大丈夫ですか?申し訳ありません」

 「だ、大丈夫だよ、それよりあいつはどうしてあんなに強くなったの?見た目も若返って見えるし」

 「あいつは義手の中にでもライヤーから貰ったと言う薬を隠し持っていたようです」

 「ライヤーだって?」

 レンは、ライヤーと聞き驚いた。ライヤーと言えば自分とヨーゼフをブラッツ達と共に毒殺しようとした半イビルニア人ではないか。混乱の中、テランジンは、手短にカンドラとライヤーの関係を話した。カンドラを取り押さえようと子分達が必死になっている。そこへドラクーン人を呼びに行っていた海軍士官がドラクーン人二人を連れてやって来た。

 「王子、お連れしました」

 「レオニール様、何事ですか?」

 「あの今暴れている三人は薬の効果で異常な力を付けてます、その力をお二人の能力で取り払う事はできますか?」

 と、レンが慌てて話した。ドラクーン人二人は、暴れているカンドラ達を見て驚いて言った。

 「あの連中はカツ殿を殺した連中では?今日裁きがあったんでしょう、最後の悪あがきですか?」

 「まぁそんなところですよ」

 と、申し訳なさそうにテランジンが言うとドラクーン人は、にっこり微笑んで答えた。

 「分かりました、龍神様からも今回の件では何事もあなた方の意向に沿う様にと承っております、では」

 と、ドラクーン人は言うと光りを放ち龍の姿に変身した。突然現れた人型の龍にカンドラ達は、大いに驚いた。

 「ど、どっから現れやがった、この化け物め!」

 「ふん、構うこたぁねぇ今の俺達に敵う者なんか居るか」

 と、コールとチャーリーがテランジンの子分やサイモン大将の部下を投げ飛ばしながら言った。カンドラは、昔どこかで聞いた話しを思い出し、目の前の人型の龍がドラクーン人である事に気付いた。

 「おい、二人とも気を付けろ!その化け物は龍の民ドラクーン人って奴だ!」

 「何言ってんだよ兄貴!今の俺達ぁ無敵だぜ!」

 「馬鹿止せ!」

 と、カンドラが止めるのを聞かずチャーリーがドラクーン人の一人に襲い掛かった。チャーリーは、ドラクーン人を散々殴ったり蹴ったりとしたがビクともしなかった。薬の力で異常な力を持っていても所詮は、人間である。龍の姿に身を変えたドラクーン人には、歯が立たなかった。

 「はぁはぁはぁ…なんて野郎だ」

 「もう気は済んだかね?そろそろこちらからも攻撃しよう」

 そう言うとドラクーン人は、素早くチャーリーの腕を引っ掴むと強引に壁に投げ付け倒れた所を馬乗りになり頭に手をかざした。手がぼうっと光り出した。

 「なな何だこりゃあ?おお、おい何か変だぞ!止めろ!」

 「じっとして居ろ」

 「ぐわぁぁぁぁ?!ち、力がぁぁぁぁ!」

 チャーリーは、両足をバタつかせ抵抗したが、やがて動かなくなった。その様子を見て異常を感じたコールがチャーリーに馬乗りになっているドラクーン人に体当たりを仕掛けたが、もう一人のドラクーン人に阻まれた。

 「そうはさせん、そりゃ!」

 と、ドラクーン人の拳がコールの腹を襲った。

 「ぐはぁぁぁ!」

 コールが苦痛で顔を歪ませ怯んだ所をテランジンの子分達が一斉に取り押さえ引き倒した。仰向けになったコールにドラクーン人が馬乗りになり右手を光らせた。

 「さぁお前も元に戻してやろう」

 「やや止め…あぁぁぁ!ち、力がぁ…」

 「野郎!」

 と、今度は、カンドラがコールの上に乗るドラクーン人に襲い掛かろうとしたが、テランジン、ルーク、シンによって阻まれた。そこにテランジンの子分やサイモン大将達も加わる。

 「は、放しやがれ!このぉぉぉぉ!」

 「こいつ…何て力だ、ドラクーンの方、まだ掛かりそうか?」

 「こちらは終わったよ、そっちに行く」

 と最初にチャーリーの薬の効果を解いたドラクーン人がカンドラに近付いた。薬の効果を失ったチャーリーは、心なしか以前より老けて見えた。力を失い放心していた。

 「さぁ次はお前だ」

 ドラクーン人は、光る手をカンドラの頭にかざした。カンドラの力が弱まって行くのがを取り押さえているテランジン達にも伝わった。

 「ややや止めろぉ!畜生めぇ!ぐあああああ…ああ…ああぁぁぁ」

 と、カンドラは、力が抜けていき元の状態に戻って行った。取り押さえるのを止めたテランジン達がカンドラを見下ろすとそこには、以前より老けたカンドラが呆然と仰向けになっていた。傍ではコールも以前より老けたような状態でカンドラと同じように仰向けで呆然としていた。

 「手間取らせやがってジジイ共め!そらっ立て行くぞ」

 と、テランジン、ルーク、シンがカンドラ、チャーリー、コールを法廷へ引っ立てて行った。

 「ありがとうございます、方々、助かりました」

 と、レンは、ドラクーン人二人に礼を言った。

 「何のこれしき、しかしあんな人間が居たんですな、悪の塊の様な連中ですぞ」

 「同じ人間として恥ずかしい限りでござる」

 と、ヨーゼフが申し訳なさそうに答えた。そして、ドラクーン人二人は、怪我をしたテランジンの子分やサイモン大将の部下達を軽く治療してレンとヨーゼフ、サイモン大将と共に法廷へ向かった。

 法廷では、ジャスティ大臣がレン達の帰りを待っていた。居並ぶ大臣や貴族達は、カンドラ達の事を話し合っていた。

 「事ここに及んでなおも抵抗するとは誠にけしからん連中ですぞ」

 「左様、死罪は確定済みだが誠にけしからん」

 と、そこへテランジン、ルーク、シンがカンドラ達を連れて法廷に入って来た。皆一斉にカンドラ、チャーリー、コールを見た。ざわざわと法廷内が騒がしくなり、やがて怒号が聞こえた。ジャスティ大臣が静かにさせようと皆をなだめた。

 「皆、お静かに、法廷ですぞ、皆、お静かに…ああレオニール様が見えられた」

 と、レンに気付いたジャスティ大臣がレンに駆け寄った。

 「レオニール様、お怪我はありませんか?」

 「はい、僕もヨーゼフも大丈夫です、それとこちらのお二人の席を用意して下さい」

 と、レンは、ジャスティ大臣に連れて来たドラクーン人二人を紹介し席を用意させた。サイモン大将が、テランジンの肩を軽く叩きながら傍を通り過ぎ自分の席に戻った。全員が座った事を確認するとジャスティ大臣が裁きを始めた。

 「これよりカンドラ・ブーン、チャーリー・ポウ、コール・ヒットマンの裁きを行う、其の方共まずはレオニール様に平伏せよ」

 と、ジャスティ大臣に言われたカンドラ達は、レンに向き直り平伏した。薬の影響なのか抵抗する力が無い様に思えた。しかし、カンドラ達の後ろに座っているテランジン達は、抜け目なくカンドラ達を見ている。ジャスティ大臣は、咳払いを一つ落とし言った。

 「其の方らおのが子分を使ってカツ・ブロイ中佐を拷問、殺害させた事、そして城下や港町に火を放ち混乱に乗じてイビルニア人を使いレオニール様、ヨーゼフ公、ロイヤー大将を暗殺しようとした事、相違ないな?」

 カンドラ達は、何も答えない。答える気力が無いのかも知れない。しばらく黙って答えるのを待っていたが、なかなか答えないカンドラ達に痺れを切らせたテランジンが、カンドラの頭を思い切り引っ叩き怒鳴った。

 「さっさと答えろ!」

 「いてぇ!な、何しやがる!今答えようとしてたんだよ!」

 と、カンドラは、頭を押さえながら言った。テランジンは、鬼の様な顔をして睨み付けている。

 「ああ、間違いねぇ、こいつの恨みを晴らすためになぁ」

 と、カンドラは、テランジンに肘から下を切り落とされた右腕を擦りながら言った。ちなみに義手は既に取り上げられている。カンドラは、デスプル島に居た頃の話しを始めた。テランジン達が語った話しとは、随分食い違っていたが、最終的に島から追い出された所だけが合っていた。

 「俺達は、確かにならず者だが島では平和に暮らしてたんだぜ、それがこの男のために一変した」

 「何が一変しただ馬鹿野郎、俺が来るまでは島の近くを通って来た船を襲い全てを奪い、女が居れば犯し逆らう者は殺し、やりたい放題やっていただろう」 

 と、テランジンが声を荒げて言った。ただルークとシンは、暗い顔をして聞いていた。テランジンが島に現れるまでは、その海賊行為に加担していたのだった。

 「そうそう後ろのルークとシンそして死んだカツはよくやってたぜ、こいつらが出て帰って来ると必ず食料や金を持って帰って来てた、ハハハハ」

 と、チャーリーが開き直って大笑いしながら言った。

 「うう、うるせぇ!俺達だってやりたくてやってたんじゃねぇ、やらなきゃてめぇらにいつ殺されるか分からねぇからやってたんだ」

 「そうだ!それに俺達は船襲っても誰も殺しちゃいねぇぞ、女にも手を付けた覚えは無い」

 と、ルークとシンが怒りで震えながら怒鳴る様に言った。そして、人目もはばからず泣いた。当時の事を二人は、相当悔やんでいる様子だった。

 「うううぅぅぅ…テランの兄貴が島に来てくれたおかげで俺達が船を襲う事は無くなったが、その後もてめぇらは襲ってただろ!」

 と、シンは、堪りかねて目の前のコールの後頭部を思い切りはたき言った。ペチィィンと小気味良い音が鳴った。「いてぇっ!」と、コールが恨めしそうにシンを見た。

 「へん、どうだ?こいつらも俺達と同じ事をやってたのは確かだ、こいつらの裁きはどうなるんだ?」

 と、カンドラが不敵な笑みを浮かべジャスティ大臣に言った。法廷内に居る貴族や大臣達は、カンドラ達、テランジン達と交互に見て何か囁き合っている。サイモン大将だけが、ただ腕組をしてカンドラ達を睨み据えていた。ジャスティ大臣が咳払いをして答えた。

 「ルーク・メタール大佐、シン・クライン中佐は今や立派なトランサー国民であり軍人である、デスプル島に居た頃にやっていた行為は不問にする、本件とは関係無い、二度と口にするな」

 「な、何だと?!」

 「当たり前だ、この裁きは其の方らの裁きである、ルーク、シン、そして其の方らに殺されたカツを裁く場ではないわ、馬鹿者!大臣、このような連中にまともな裁きなど無用じゃ」

 と、ヨーゼフがもう飽きたといった顔をして言った。ジャスティ大臣は、うんと頷きレンを見た。

 「レオニール様」

 「うん、もう十分だと思います」

 「分かりました…では裁きを申し渡す、カンドラ・ブーン、チャーリー・ポウ、コール・ヒットマン、其の方ら他国人でありながら我が国で徒党を組みカツ・ブロイ海軍中佐を拷問殺害し御城下や港町に放火し混乱に乗じてテランジン・ロイヤー海軍大将、ルーク・メタール海軍大佐、シン・クライン海軍中佐を暗殺しようと企みイビルニア人上位者ダークスと中位のイビルニア人を使い、あまつさえレオニール王子、御側御用人ヨーゼフ・ロイヤー公を暗殺させようとした事、重々不届き至極よってトランサー王国は其の方らに死罪を申し渡す」

 「ちょ、ちょっと待てや、俺達がテランジン達を殺そうとした事は認めるが、そこの王子や隣の爺さんまで殺そうと思っちゃいなかったぜ、あれはダークスが勝手にやった事だ、本当だ」

 と、カンドラが必死になって言った。

 「ふむ、そうらしいが王子やロイヤー公の暗殺が成功すればこの国を乗っ取ろうとしていたらしいな」

 と、若衆の調書を見ながらジャスティ大臣が言うとカンドラが情けない顔をして答えた。

 「信じてくれよ、ありゃ若い衆の士気を高めるために言った嘘だよ」

 「ふん、どちらにせよ其の方らの死罪は決定している、スミソン殿よろしいな?」

 と、ジャスティ大臣は、法廷内に居るメタルニアの役人スミソンに同意を求めた。スミソンが居た事に気付いたカンドラ達が口々にしゃべりだした。

 「おい、スミソンてめぇ居やがったのか、俺が散々、まいないやって良い思いさせてやったってのに何で助けねぇんだ」

 「そうだ、俺達はメタルニア国民だぞ!何でこんな所で死刑になるんだよ」

 「てめぇの借金誰が払ってやったと思ってるんだ?俺達カンドラ一家が肩代わりしてやったんだぞ」

 スミソンは、ばつの悪そうな顔をして聞いていたが、やがて重い口を開いた。

 「確かに私は貴様らから多額の賄賂を受け取り見返りとして色々と便宜を図ってやった…だが今回の事は私がどうにか出来る事ではないメタルニア国内でやった事なら何とか出来たかも知れんがな、他国で問題を起こした貴様らが悪いのだ、しかも殺人…それもイビルニア戦争の英雄を殺したのだぞ、本来なら戦争になってもおかしくなかったんだ、それをトランサー王国の寛大な御処置で戦争だけは免れた、ここで我がメタルニア国の貴様らに対する処分を申し渡す、カンドラ・ブーン、チャーリー・ポウ、コール・ヒットマンのメタルニア国籍を剥奪する、そしてこの三人の処分は全てトランサー王国に委ねる」

 カンドラ達は、呆然とした。無国籍者にされた挙句、処分は、全てトランサー王国に委任すると言われたのだ。カンドラ達は、怒り狂いスミソンに襲い掛かろうとしたが後ろに居るテランジン達に直ぐに取り押さえられた。

 「畜生、放せテラン、あの野郎ぶっ殺さねぇと死んでも死に切れねぇ」

 「諦めろ、スミソン殿の言う通り他国で問題を起こした貴様らが悪い」

 「なお刑の執行はロイヤー大将、メタール大佐、クライン中佐に任せる事とする、引っ立てい」

 と、ジャスティ大臣が言うとカンドラ達を取り押さえているテランジン達に代わりサイモン大将の部下がカンドラ達を法廷から刑場近くの施設に連行して行った。法廷内が静かになりスミソンは、レンに深々と頭を下げた。

 「閉廷」

 と、ジャスティ大臣が裁きの終了を告げ、レン達は、城へ戻った。


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