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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
149/206

カンドラの失敗

 ハーツ山のカンドラの若衆達九十人がどこで手に入れたのか大型の魔導車数台に乗り込んでいた。

 「おう、おめぇら絶対にぬかるんじゃねぇぞ、しっかりやって来い良いな」

 「へい、兄貴」

 と、カンドラの側近の一人であるコールが魔導車に乗り込む若衆達に声を掛けていた。このかなり年の離れた兄貴分に若衆達は、大型魔導車から乗り出し手を振り別荘から城下や港町に向かって行った。

 「兄貴、俺達もそろそろ降りるか」

 と、側近のチャーリーが言うとカンドラは、大あくびを一つしてうんと頷いた。チャーリーが残った若衆十人と普通の魔導車三台に分けて乗り込んだ。上位者ダークスと中位者のイビルニア人は、カンドラが乗る魔導車に一緒に乗った。

 「なぁ兄貴、あいつら本当に上手く町を火の海に出来るかなぁ?どうも俺ぁテランジン達が大人し過ぎるのが気になってんだよ」

 と、カンドラが乗る魔導車に同乗するコールが心配そうに言った。カンドラは、面倒臭そうに手を振り言った。

 「コール、お前は相変わらず心配性だな、大丈夫だってこの新聞見ろやい、俺達の事など一切載ってないだろう、ダークスの旦那の事ばかりだぜぇ」

 「確かにそうだが…」

 「心配すんな兄弟、俺達ぁテランジン、ルーク、シンの野郎をどうやって痛めつけて殺すかだけを考えれば良いのよ」

 と、チャーリーがコールに明るく言ったが、それでもコールの不安は消えなかった。カンドラが、訳知り顔で「心配するな」と言う意味を込めてコールの肩を三回軽く叩きながらダークスに話し出した。

 「なぁダークスの旦那の方はどうでぇ?町に火が上がったらそのまま城に乗り込むのかい?」

 「ああ、そのつもりだ、町が燃えているのを見たら城内の兵士達も消火に向かうだろう、手薄になった所を侵入してレオニールを討ち取る、親分の方はどうかね?上手くテランジン、ルーク、シンをおびき出せそうなのかね?」

 と、魔導車内でダークスは、尖った顎を撫でながら言った。カンドラ達がトランサー王国に来てからテランジン達の事は、徹底的に調べ上げていた。

 「大丈夫さ、あいつらの気性なら必ず現れる、そこを半イビルニア人の子分達が取り押さえる」

 「あいつら、馬鹿が付くほどの愛国者だから必ず消火にやって来る、へへへ」

 と、カンドラとチャーリーが言った。ダークスは「そうか」と言ったきり黙った。

 (ふん、全く以って単純な連中だ、そんな作戦が上手くいくはずないだろう、まぁ私はレオニールだけでも討ち取れればそれで満足だが)

 

 カンドラ達がハーツ山から城下町や港町に向かっている頃、ルーク、シン、サイモン大将率いる新たに編成した練気隊そしてテランジンの若衆である元海賊の士官達と消火隊が町のあちこちに現れていた。ルーク、シンの元海賊士官達は、港町をサイモン大将率いる練気隊は、城下町の警戒に当たっていた。真夜中と言う事もあり城下や港町は、静まり返っている。ルーク達は、互いに小型魔導無線で連絡を取り合い状況を確認し合っていた。

 「ルーク、そちらの状況はどうか?こちらはまだ連中を確認していない」

 「サイモン兄貴、こっちもまだ現れていないぜ、さっきうちの若い衆に様子を見に行かせたが…あっ帰って来た…兄貴、大型の魔導車を二台確認したそうだ、もう二台は城下の外れに向かってるそうだ」

 と、偵察から帰って来た若衆から報告を受けたルークがサイモン大将に話した。

 「分かった、外れに練気隊を送り込む」

 「そっちもこっちも四十人ほど魔導車に乗ってたそうだ、気を付けてくれ」

 そう言ってルークは、魔導無線を切りカンドラの若衆達が現れるのを物陰に隠れながら待った。その頃、カンドラ達を乗せた魔導車が城下町付近で停車していた。

 「旦那、ここから城を目指すのかえ?」

 「ああ、親分は港町に行くんだろ?私とこいつはここからこの森を通って城付近まで行く」

 と、ダークスは、一緒に居る中位のイビルニア人を指差し言った。

 「城下に火の手が上がったら必ず城から人が出て来るだろう、その隙を狙って城内に潜入するから上手く火を上げてくれよ」

 「ああ、任せときな旦那、じゃあ行くぜ」

 と、ダークスと中位のイビルニア人を魔導車から降ろしてカンドラ達は、港町に向かった。

 「さぁはたして親分の思い通りに行くかな?ククク」

 そうダークスは、呟くと中位のイビルニア人を連れ森の中へ消えて行った。そして、トランサー城では、レン、テランジン、ヨーゼフが城内に居る兵士達を集めて話していた。

 「皆、今まで黙っていて申し訳ない、カンドラ一味を油断させるため今まで皆にも話さなかったが、今から数分後に港町と城下で火災が起こるだろう、その時皆は消火の目的で一斉に城から現場に向かってもらいたい」

 と、ルーク達からカンドラの若衆が現れたと報告を受けているテランジンが兵士達に言った。

 「大将、しかしイビルニア人は、レオニール様、ヨーゼフ公、そして大将を狙っているのでしょう?城を空けたら危険なのでは?」

 「それなら心配いらないよ、イビルニア人は二人だけだし僕達だけの方がかえって戦い易い」

 と、レンが答えた。なぜならば中位までのイビルニア人なら一般の兵士でも戦えるだろうがダークスと言う上位者が居る。不死鳥ラムールがレンに言った事によるとダークスは、四天王並みかそれ以上の実力を持っているとの事でフラックがかつてイビルニア半島で放った真空魔波の様な技を繰り出されたら練気を扱えない一般兵士など太刀打ち出来ず無残に殺されるだけである。無駄に死人を出したくないレン達は、あえて自分達だけで戦おうとしているのだ。

 「わざと隙を見せてイビルニア人をおびき寄せ我々が討ち取る、お前達は出来るだけ派手に城から出るのだ、良いな」

 と、ヨーゼフが話しを締めくくった。それから数分後、最初に城下町の端から火の手が上がったと報告が来た。

 「さぁ始まったぞ、行け、カンドラの子分には半イビルニア人が居ると聞いた、見つけ次第殺せ」

 「ははっ!!」

 と、ヨーゼフの下知で城に居た兵士達が大声を張り上げ城門から飛び出して行った。それを近くの木の陰からダークスと中位のイビルニア人が見ていた。

 「ドウやら子分達ガ火ヲ付けたヨウデスネ、ダークス様」

 「うむ、その様だ今のうちに城内に潜入しよう」

 兵士達が城下町に向かったのを確認してダークス達は、音も立てずに城の大手門を越え中に潜入した。城は、不気味なほどに静まり返っていた。

 「さぁレオニールよどこに居る、我々の帰る場所を失くした事を後悔させてやる」

 そうダークスは言うとレン達を探し始めた。そして、港町でも火の手が上がっていた。

 「ひゃっはぁぁぁぁ燃えろ燃えろ!どんどん燃えろ!」

 騒ぎに気付き始めた住人達が何事だと表に出始めている。

 「あっ?!あぁぁぁ!か、火事だぁ!」

 「大丈夫だ、だがもう少し待ってくれ直ぐに消し止める」

 と、ルークが表に集まり出した住人達に事情を説明した。

 「じゃ、じゃあこれはカンドラとか言う悪党を油断させるための?」

 「そうなんだ、これからここで乱闘になるだろうから皆は、戸締りをしっかりして決して表には出ないようにしてくれ」

 「今、燃えている方角は空き家が多い所だろ?多分どこかの空き家にでも火を付けたんだろう…良し、頃合いだなルークあにぃ消火隊を向かわせるよ」

 と、ルークとシンが住人に話した。集まっていた住人達は、ルークに言われた通りにすると言って各々の家に帰って行った。どこかで怒鳴り声が聞こえ戦闘が始まった事を知らせた。

 「俺達も行こう、カンドラの野郎と拷問に加わった奴は生け捕りにするぞ、殿様も仰ってた通り、カツと同じ目に遭わせてやる」

 ルークは、憎らし気に言うとシンと共に怒鳴り声が聞こえた方へ走って行った。その頃、最初に火の手が上がった城下町では、思わぬ事態が起きていた。

 「な、何ですかあの化け物は?サイモン大将あんなのが居るって聞いてませんよ」

 カンドラの子分の中に半イビルニア人が居て、ジャンパールに居た半イビルニア人タリスの様にイビルニア人の血が覚醒していた。覚醒の切っ掛けは、練気隊の放った真空斬だった。レン達が放つ真空斬なら真っ二つに出来たであろうが、まだ未熟な練気隊士が放った真空斬は、威力が弱く身体に切り傷を与える程度だった。覚醒した半イビルニア人は、周りに居る若衆の二倍ほど大きくなって大暴れしている。

 「う~む、あれがレオニール様らがジャンパールで見たと言う覚醒した半イビルニア人の姿か…厄介だな、練気隊士は奴に集中しろ!他の者は皆、カンドラの子分共を捕まえろ!」

 と、サイモン大将は、一般の部下や練気隊士達に指示を出した。丁度、城から駆けつけて来た兵士達も加勢に加わり何とか持ち堪えている。

 「おうおう、やってるなぁ、しかしまだ火の勢いが弱いな、どうしたんだ?」

 と、遅れて港町にやって来たカンドラと側近のチャーリーとコールそして、彼らを護衛する十人の若衆達が離れた場所から港町を見ていた。

 「あれっ?!兄貴、火が消えてくぜ…ああっ?!今度は向こう側に火が上がった」

 と、チャーリーが不可解な表情を浮かべて言った。

 「ふむ、テランジンの野郎、気付いてやがったかな、まぁ良いや若い衆が暴れ回ってるだろう」

 と、カンドラは、大した事は無いといった顔をして言った。港町のあちこちで火の手は上がるがしばらくすると直ぐに消えて行く。

 「ほらっ兄貴、どうなってんだよ?直ぐに火が消えるじゃねぇか、これじゃあ計画が台無しだよ」

 と、コールが情けない顔をして言うとカンドラがゲラゲラ笑いながら言った。

 「お前は本当に心配性だなぁコールよ、ダークスの旦那がそのレオ何だ?まぁこの国の王子をぶっ殺しぁしまいよぁ、王子が殺されたとなりゃここに居る連中もそれどころではなくなるだろうぜグフフフ」

 「そりゃあそうだが…もっと火が上がってないと不安だぜ」

 と、心配性のコールが不安気に港町を見つめて言った。その頃、港町にも覚醒した半イビルニア人が居て暴れ回っていた。

 「グガァアッァァ!」

 「な、何だこいつ?急に…あっ?!ルーク兄貴、シン兄貴!」

 「何だどうした?ん?あいつは半イビルニア人だ、気を付けろ!」

 と、この中で一番、覚醒した半イビルニア人の事を良く知るシンが叫んだ。ルーク、シンは、素早く剣を抜き覚醒した半イビルニア人に斬りかかった。二人は、レン達の様な練気技とまでは言えないが、海賊時代に数多くのイビルニア人と戦って来た事で剣に気を溜める事が出来る様になっていた。

 「この野郎!」

 と、まずシンが半イビルニア人の左膝を斬り付け、ガクッと体勢が崩れた所をルークが首を刎ねた。

 「他に何人いる?」

 「分かりません、先ほどカンドラの若衆十人ほどを捕縛しましたが、その中には居ねぇようです」

 「そうか、とにかくさっきみてぇに覚醒する前に半イビルニア人と分かれば直ぐに殺せ、良いな」

 「へい、合点です」

 「俺達は、カンドラを探す、この辺りの警備は頼んだぞ!」

 と、ルークは、言い捨てるとシンと共にカンドラを探し出すため港町中を走り回った。


 トランサー城内では、潜入したイビルニア人上位者ダークスと中位のイビルニア人が、レンを探していた。ダークスは、城内に人が少な過ぎると不審に思っていた。

 「おかしい…これほど無防備とはどうもせん、しかし…この建物の中のどこかに居る事は確かだ」

 と、ダークスは、自分に言い聞かせる様に言い物陰に潜みながら城内を歩き回っていた。そこで、ふとやたらと警戒が厳しい部屋を見つけた。レンとエレナが暮らす部屋である。今は、中にエレナが一人眠っている。部屋の入り口の前には、クラウド率いる近衛兵達が警戒している。

 「あの部屋か…クククとうとう見つけたぞ、一気に攻めるか…いや、騒ぎを大きくするのは好ましくない」

 と、ダークスが思慮深い一面を見せていると後ろから声が掛かった。

 「お前が探している人間なら後ろに居るよ」

 ハッとしたダークスが振り返るとそこには、レン、ヨーゼフ、テランジンが立って居た。

 「恐れ多くもレオニール様のお命を狙うとは不届き至極、表へ出ろ成敗してくれる」

 「はっ?!き、貴様はヨーゼフ・ロイヤー…ふ、ふはははは良いだろう、仲良く三人まとめて殺してやる」

 ダークスは、そう言うと二階の廊下の窓から表へ飛び降りた。中位のイビルニア人もそれに続いた。レン達は、急いで階段を使いダークスが居る所へ走って行った。レン達が姿を見せた瞬間、ダークスがイビルニア人流真空斬を放って来た。

 「うおっ!?危ねぇ!」

 と、テランジンが全て弾き返した。

 「ほほぅさすがはフラック殿を倒したと言うだけある」

 「おのれは昔、ジルドに付いていた中位の者だな再びわしの前に現れるとはジルドの敵討ちのつもりか?」

 と、ヨーゼフがゆっくりと刀を構えて言った。この刀は、フウガから貰った刀だった。ダークスは、何か考えている様子だった。しばらくして口を開いた。

 「敵討ち?そんな事考えもしなかったが、ここでお前を討ち取れば確かにジルド殿の敵討ちになるな、しかし本来の目的は、後ろに居るレオニール・ティアックを討ち取る事だ、国を…私の帰るべき場所を海に沈めた事、許せるものではない、レオニールを殺した後は、ジャンパールに行きマルス・カムイを殺す」

 と、ダークスが話し終った瞬間、強烈な真空斬を放って来た。レン達も真空斬を放ち迎え撃った。真空波同士がぶつかり合い衝撃で地面がくぼみ城の窓ガラスが割れた。ダークスに気を取られていると中位のイビルニア人が壁伝いに走って頭上からレン達に襲い掛かって来た。

 「キィィィヤァァァァ!!」

 「ふん!」

 と、テランジンが攻撃を受け止め鍔迫り合いになった。この中位のイビルニア人は、珍しく鉄の爪を装備していなかった。

 「ふふ、そいつは中位者だが実力は上位者と変わらん、ましてや夜である覚悟する事だ」

 と、ダークスは、不敵な笑みを浮かべ言った。レンは、テランジンに加勢するべきか迷った。しかし、加勢すればその隙を狙ってダークスは、襲って来るだろう。

 「若、こいつは私にお任せを!」

 と、テランジンがわざとレン達から遠ざかりながら言った。レンとヨーゼフは、顔を見合わせ互いに頷き合いダークスに向き剣を構えた。

 「二対一…良いだろう私はこの日のために日々剣の修行に励んで来た、かかって来るが良い」

 そして、レンとヨーゼフ対ダークスの戦いが始まった。


 その頃、やっと覚醒した半イビルニア人の首を刎ねたサイモン大将達城下町組は、他のカンドラの若衆達をほぼ全員捕縛していた。

 「これで全員か?」

 「ははっ!生かして捕縛した連中は、三十人でやむなく殺した者は半イビルニア人を含めて十五人です」

 と、サイモン大将の部下が話した。

 「うむ、とりあえずこの連中を牢にぶち込むぞ、死体の処理はお前達に任せる」

 と、サイモン大将は部下達に指示を出し城下町の治安を預かる警備隊の本部へ向かいカンドラの若衆達を牢に入れると港町に向かった。港町でもルーク、シン達がカンドラの若衆ほぼ全員を捕縛していた。

 「この野郎、手こずらせやがって!」

 と、シンは、捕縛した若衆の頭を思い切り引っ叩きながら言った。

 「ところで肝心のカンドラの姿が見えねぇな、おい貴様、カンドラはどこに居る?」

 「し、知らねぇ」

 と、ルークの問いに若衆は、ふて腐れながら答えた瞬間、ルークの蹴りが若衆の顔を襲った。

 「いてぇ!何しやがる!」

 「ところで貴様はカツの拷問に参加した者か?」

 と、シンが若衆の髪の毛を引っ掴み恐ろしい顔をして言った。その顔を見た若衆は、真面目に答えないとどんな目に遭わされるか分からないと思い真剣に答えた。

 「お、俺は知らねぇ、そのカツって人が死んでからこの国に来た、拷問に参加した奴は、さ、先に親分と一緒に来た連中だと思うぜ、おそらく今も親分達と一緒に居るはずだ」

 なるほどと思いシンは、若衆の髪の毛を離した。

 「カンドラの野郎どこに居やがるんだ」

 と、ルークが叫ぶように言った頃、カンドラ達は、まだ港町から少し離れた所で様子を探っていた。様子を見に行かせていた若衆が血相を変えてカンドラ達のもとに戻って来ると慌てて報告した。

 「お、親分失敗です、み、皆捕まっちまったようです」

 「な、何だと?」

 報告を受けたカンドラが呆然としているとコールが絶望的な顔をして言った。

 「兄貴、やばいんじゃねぇか、さっさと逃げねぇと」

 「馬鹿野郎、カツ一人、ったくれぇで帰れるか!まだ、まだ望みはある、ダークスの旦那がこの国の王子をりゃあ、きっと上手くいくはずだ」

 と、カンドラは、半ばやけくそになっていた。チャーリーも不安になって来たのか、せめてここから離れようと言い出したが、カンドラは、動こうとはしなかった。その頃、サイモン大将達と合流したルークとシンは、捕えた若衆達を訊問していた。

 「お前達の親分はどこに居る?ハーツ山に隠れていた事も知っている、まだハーツ山に居るのか?」

 と、サイモン大将は、棍棒をちらつかせながら訊問している。こんな物で殴られては堪らないと若衆は、泣きながら正直に話した。

 「お、俺達は先に魔導車に乗ってここに来ました、親分達は後から付いて来ているはずなんです」

 「ではなぜ姿が見つからないのだ」

 「わ、分かりませんよ、必ずどこかに居るはずなんですよ」

 「だそうだ、ルークどうする?こいつが嘘を言っている様には思えんが」

 と、サイモン大将は、ルークに意見を求めた。ルークもこの若衆が嘘を言っている様には思わなかった。そこへシンが態度の悪い若衆を乱暴に連れて来た。

 「このガキ、さっきから生意気なんだ、さぁもういっぺん言ってみろ」

 と、シンは、若衆の脚を蹴り地べたに座らせながら言った。若衆は、シンに殴られたのか鼻の周りを血で真っ赤にしていた。

 「へっ俺ぁ知ってるぜ、てめぇら親分の前じゃビビッてまともに喋れねぇらしいなぁ島に居た頃はよく小便漏らしてたそうじゃないかチャーリーの兄貴が話してたぜ、カツとシンの小僧はテランジンが居なきゃ何にも出来ねぇ小便小僧だってなぁ、あはははは、ゲフォォォォォ!」

 シンが若衆の腹を思い切り蹴り上げ、ルークが若衆の髪の毛を引っ掴み顔を上げた。そして、ルークは、無表情で若衆を見つめた。その無表情がかえって不気味に思えた。

 「おい、ガキィ、カツとシンを小便小僧と言うのかそうか…ならばその小便小僧の一人であるカツがお前らから受けた拷問の一部をお前に味合わせてやる」

 「えっ?」

 「おい、このガキしっかり押さえとけ」

 と、ルークがテランジンの子分であり自分の弟分達に言った。

 「へい兄貴」

 と、弟分である元海賊士官二人が生意気な若衆を取り押さえるとルークは、若衆の左手を掴み地面に押さえ付けた。

 「な、何すんだよ?!」

 「死んだカツがカンドラに何をされたか今からお前はその身をもって体験する、あいつの左指の爪が全部剥がされていた、おまけに親指はやっとこか何かで潰されていた…まずは爪を剥がそう」

 「何?おい止めろ!…うぎゃぁぁぁ」

 と、ルークは、まず小指の爪を剥がした。生意気な若衆の悲鳴が静かになった港町に響く。

 「おい、やっとお前らを捕えて静かになったんだ馬鹿みてぇに大声出すな、おい、こいつに猿ぐつわでも噛ませろ」

 と、ルークが無表情に言うと元海賊士官がポケットから手拭いを取り出し生意気な若衆にの口の中に乱暴に突っ込んだ。そして、ルークは、若衆の薬指の爪に自分の親指を掛けた時、若衆が涙を流しながら首を横にぶんぶん振った。

 「ああっ?何だ?もう降参か?お前の言う小便小僧のカツは左手の爪全部剥がされてんだぞ、たった爪一枚くらいで許してもらえるとでも思ってるのか?」

 そう言うとルークは、若衆の左薬指の爪を剥がした。若衆は、血走った眼で声にならない悲鳴を上げ全身を痛みと恐怖で誰が見ても分かるくらい震え出した。ルークは、左手を押さえながら若衆の口に入った手拭いを取った。

 「ももも、もう勘弁して下さい、カツさんやシンさんを馬鹿にした事は謝りますです、おおおお願いですもう止めて下さい、ひぃぃぃぃ」

 と、若衆は、泣きながら一気に言った。

 「カツが受けた拷問はこんなもんじゃねぇ、あいつはそれをあの小屋で一人で耐えたんだ…敵だらけでおまけにイビルニア人まで居て…カツが爪を剥がされ親指を潰された後、何をされたか知ってるか?」

 と、シンが若衆の顔を覗き込みながら言うと鼻血と涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした若衆は、知らないと激しく首を横に振った。

 「なら教えてやる、あいつは生きたまま右脚をのこぎりで切られたんだよ、今からそいつをやってやる」

 と、シンは、言って若衆の右脚に手を掛けると若衆は、恐怖で小便を漏らし泣き叫んだ。

 「うわぁぁぁぁぁ…ごめんなさいごめんなさい、もう二度と馬鹿にしません」

 「いいや、駄目だ、昔の事とは言え俺達を小便小僧呼ばわりしたのは許せん、おい、カツの脚切ったのこぎり持って来い」

 と、シンが無情にも弟分達に言った。しかし、これはシンの芝居であった。こうして本当の恐怖を思い知らせる事でこの若いカンドラの子分を改心させようと思ったのだ。弟分である元海賊士官がのこぎりを持って来てシンに渡すと若衆の恐怖は頂点を極めたのだろう、火事場のクソ力と言うやつで自分を取り押さえている元海賊士官とルークの手を振り解き地面に頭をぴったりと付け土下座した。

 「ひぃぃぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさい本当に二度と馬鹿にしませんから、許して下さい」

 「ふん、分かったかこれがお前が今、生きている世界だ、俺達がデスプル島に居た頃、こんな光景をしょっちゅう見ていた、明日は我が身かも知れないと思うと夜も眠れなかった、カンドラの子分である以上今のような事は覚悟するんだな、カンドラは気分屋だからなぁ、野郎の怒りを買えば今以上の事が待っているだろう」

 と、シンが言うと若衆の呼吸が急に荒くなり激しく全身を震わせた。ルークが頃合いと見たのか若衆の前にしゃがみ込み顔を覗き込むようにして言った。

 「なぁお前、良い機会だからカンドラ一味を出て堅気になれ、お前みてぇなのはこの世界は合わん、それにまだ若い、やり直すなら今だぞ、ん?」

 と、ルークに言われた若衆は、目を見開いたまま激しく頷いた。ルークは、元海賊士官に「連れて行け」と言うふうに顎をしゃくった。若衆が連れて行かれるとその場が急に静かになった気がした。

 「う~む、ちょっとやり過ぎたかな?あいつ気が狂ったりしないよな」

 と、シンが言うとルークは、あれで良かったんだと言いやり過ぎたのは、むしろ自分の方だと言った。

 「二枚も爪を剥がしちまった、まぁあれであの小僧は目が覚めただろ…そんな事よりカンドラだ、あいつは絶対にこの付近に身を隠してるはずだ、もっと探さないと」

 と、ルークが言うとサイモン大将が、別の場所から見てるんじゃないかと言った。

 「例えば港町の外れにある丘の上とかな、あそこなら町をちょっと見下ろせる感じで見れるからな」

 事実、そうだった。カンドラ達は、その丘から港町を見ていたのだ。

 「おい、兄貴、町は真っ暗だぜ、城下町もだ、こりゃあ失敗だな、どうするよ?」

 と、チャーリーが港町を眺めながら言うとカンドラは、腹癒はらいせに近くに居た若衆を一人殴り倒し答えた。

 「仕方がねぇハーツ山に立てこもるぞ、ダークスの旦那の方も分からねぇ、おい野郎共、魔導車出せ!」

 と、カンドラは、若衆に命じ魔導車でハーツ山に引き返して行った。その頃、トランサー城内では、レン達とイビルニア人ダークスの激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 

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