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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
145/206

拉致

 ここは、トランサー王国にある貴族町と呼ばれる場所。その名の通り貴族達の屋敷が建ち並んでいる。大きな通りを挟んで向かい側が一般国民の町である。カンドラ一味がトランサーに入国して一週間後の事だった。夜中、ある貴族の屋敷から火の手が上がった。

 「ごほごほっ!母さん、母さん、は、早く、だ、駄目だ消えない、みんな外へ逃げろ!」

 と、貴族が自分の母や使用人達に言った。炎は、勢いよく燃え上がり屋敷を包んだ。

 「せっかく拝領したお屋敷が…」

 「幸い誰も怪我人は居ないよ、母さん、しかしどうして火が…」

 と、燃え上がる屋敷をなす術も無く親子は、使用人達と見ていた。火事との通報を受けた消火隊が来て消火に当たったが屋敷の半分以上が焼けてしまった。消火隊が焼け跡を調べると付け火だと判明した。

 「モリア伯爵、どうやら付け火の様ですね」

 と、消火隊長が言った。火を付けられた屋敷の主は、テランジンの無二の親友シドゥ・モリアの弟ルディと母ミーシャだった。シドゥの死後、兄の功績でルディは、トランサー王国から授爵され貴族に列した。爵位は、伯爵。そのルディ・モリアが母の肩を抱き怒りに震えていた。

 「一体誰が屋敷に火を放ったんだよ、俺は誰からも恨みなんか買う様な事はしてないぞ」

 

 翌日、レンは、ルディ、ミーシャ親子を城に呼び出し話しを聞いた。

 「もう、何が何だか分かりませんよ…しかし、怪我人が出なかったのが不幸中の幸いでした」

 と、ルディは、しょんぼりと言った。

 「お二人に怪我が無くて良かったです、ところで使用人達はどうされたんですか?」

 と、レンは、心から心配して聞いた。火事の後、ルディは、使用人達を皆、それぞれの家に帰るよう命じた。そして、自分達親子は、近所の貴族の好意でその日は、貴族の屋敷に泊めてもらい朝になりその貴族が城に連絡してレン達の耳に入り親子を呼び出したのだった。

 「まぁ怪我人が出ずに良かった、屋敷は建て直すまで当家に居れば良かろう、のうテランジン」

 と、ヨーゼフが言った。テランジンとリリーが結婚した後、城近くの空き地に屋敷を建てる事を許されたヨーゼフは、そこに屋敷を建てた。ヨーゼフは、ほとんど城に詰めているので余り帰る事はないが、テランジンとリリーは、毎日屋敷から登城している。

 「部屋が余っている、ルディ、おばさん遠慮なくうちを使ってくれ」

 と、テランジンは、子供の頃から良く知るルディとミーシャに言うと二人は、申し訳なさそうな顔をして答えた。

 「テランありがとう、是非そうさせてもらうよ」

 「閣下ありがとうございます、しばらくお世話になります」

 と、テランジンとヨーゼフに礼を言った。モリア屋敷放火の事件は、直ぐにトランサー国内に知らされた。その知らせを聞き大喜びしている者達が居た。カンドラとチャーリー、コールの三人である。

 「良くやった、ほれっこれで遊んで来い」

 と、カンドラは、火を付けた若衆に小遣いをやった。そんな様子を不思議そうにイビルニア人上位者であるダークスが見ていた。

 「次はどこに火を付けるんだい兄貴」

 「ああ、次はテランジンの兄貴がやってるって言う家具屋だな、家具屋だからなぁ良く燃えるぜ、グフフフフ」

 と、カンドラは、嬉しそうに言った。カンドラは、自分の若衆の中でも比較的、品のある顔立ちの者二人を選んで大衆酒場「青い鳥」に毎日通わせテランジン達の情報を集めていた。そして、貴族のモリア家と縁が深いと知り放火させたのだった。カンドラは、テランジン達に縁のある者、全てに危害を加えようとしていた。そして、今度は、テランジンの二人の兄が経営する家具店に火を付けようとしていた。

 「火付け如きがそんなに面白いのか?殺した方が早いじゃないか」

 と、ダークスがカンドラ達に言った。カンドラは、首を横に振り答えた。

 「ただ殺すだけじゃあつまらねぇ、奴らを十分苦しめたうえで殺すのだ」

 「ところで旦那方の方はどうだい、上手く行きそうなのかい?」

 と、チャーリーがダークスに言うとダークスは、面白くないといった顔をして答えた。

 「うむ、なかなか隙が見つからん、城に潜入しようと考えたが敵はレオニール・ティアックだけではない、あのヨーゼフ・ロイヤーが居る」

 と、ダークスは、ヨーゼフを警戒していた。かつて、イビルニア四天王と呼ばれ恐れられたジルドを倒したヨーゼフをダークスは、恐れていた。

 「調べた所、ヨーゼフ・ロイヤーは片時もレオニールの傍から離れんそうだ、狙うなら夜だが当然警備も厳しくしているだろう、難しい所だ」

 と、ダークスは、尖った顎に手をやり言った。

 「それはそうとルーク、カツ、シンの身内や何かはこの国には居ねぇのか?」

 と、カンドラが青い鳥に通わせている若衆に聞いた。

 「へぇオヤジ、ルークって野郎の事はまだ分かりませんが、カツとシンって野郎がライラって店の看板娘に熱を上げてるのが分かりやした」

 「ほほう、そりゃあ良い、カツとシンの前でその看板娘をなぶるのも一興だな、グフフフ」

 と、カンドラは、悪魔の様な顔をして言った。そして、この日の夜中、テランジンの兄達の店に火が放たれた。店兼住居が全焼し周りにも少し被害が出た。幸い兄達家族や近所の者に怪我人や死者は出なかった。消火隊が調べた所、やはりモリア屋敷の様に付け火だと判明した。

 「兄ちゃん何か恨まれるような事でもしたのか?」

 と、翌日、様子を見に来たテランジンが二人の兄に言った。

 「馬鹿野郎、俺達はお前と違って大人しく生きてんだぞ、恨みなんか買った覚えは無い」

 と、長兄のヨランジンが怒った様に言った。次兄のソランジンも全くだと言い、焼けた店を呆然と見ていた。テランジンは、兄達に店を建て直すまでの間、モリア親子同様に自分の屋敷に住まわせる事としレンとヨーゼフに報告するため登城した。

 「今度は、テランジンのお兄さんの店か…偶然なのかな?どうしてテランジンに関係する人達の身に危険が及んだんだろう」

 と、レンは、一点を見つめて呟くように言った。

 「はい若、私もその事を考えておりました、ルディの屋敷が燃やされただけならただの放火魔と思っておりましたが兄達の店が放火されたと聞きこれは偶然ではないと」

 「うむ、ひょっとするとカンドラなる者の仕業かも知れんな…」

 と、ヨーゼフがぼそりと言った。テランジンは、ハッとした。

 「ま、まさか…しかし奴がこの国に来たとは報告を受けてませんよ」

 「何らかの方法で既にどこかに居るのかも知れぬ」

 「しかし、それなら一体どこに…サイモン達陸軍が港町や周辺地域を警戒していますから、怪しい奴は陸軍が捕えているはずです」

 カンドラは、トランサー王国に入国して以来、宿屋から一歩も外に出ていなかった。名前もドラプルと言う変名を使って宿帳に記しているので誰もその男がカンドラとは考えもしなかった。この日の夜、テランジンは、ルークを連れ久しぶりに大衆酒場「青い鳥」に行った。そこには、既にカツとシンが居て酒を飲んでいた。

 「あっ?!兄貴!こっちこっち」

 と、シンがテランジンとルークに手を振り合図を送った。そんな姿をカンドラの若衆二人が抜け目なく見ている。

 「あれが親分が言ってたテランジンとルークって野郎だな…次に火を付けるのはこの店じゃねぇか」

 「だろうな、親分は今晩あたりやれって言うかもな、へへへへ」

 と、カウンターに座っていた若衆二人は、背中にテランジン達の気配を感じながら大人しく酒を飲んだ。

 「やぁテラン久しぶりじゃないか、いつもの奴で良いかね?」

 「ああ、オヤジ久しぶりだ、いつもの奴を頼むよ」

 テランジンとルークが注文した酒が届き飲み始めた。火事の話しからカンドラの話しになるとルーク、カツ、シンの顔色が悪くなった。

 「じゃ、じゃあ火事騒ぎはカンドラの仕業かも知れねぇって?まさかそんな、この国に居るなんて聞いてねぇぜ、何かの間違いだろ?」

 と、ルークは、慌てたように言った。カンドラの事は、考えたくないのだろう。

 「若やおやじはそう考えているようだ、一度この辺りを洗い直した方が良さそうだ」

 「で、でもどうやって?」

 と、カツが酒の入ったコップを握り締めながら上目遣いでテランジンを見て言った。やはりルーク同様、カンドラの事は、考えたくないのだろう。

 「うむ、陸と協力してこの辺りの宿屋なんかを一軒一軒しらみつぶしに当たる、例えば変名を使っているかも知れんから…変名?そうかあの野郎名前を変えて来ている可能性があるぞ」

 と、テランジンは、自分が言った事に妙に納得して三人に言った。その時、店の看板娘であるライラがテランジン達の席の前に来た。

 「テランさんお久しぶりです、リリーお嬢様がご懐妊されたって聞きました、おめでとうございます」

 「やぁライラか、久しぶりだなしばらく見ないうちにまた綺麗になったな…」

 と、テランジンは、言って急に周りを見回した。客が少ない事を確認するとライラに飲んでいけと言いライラの分の酒を注文した。ライラがシンの隣りに座ったのを見てカツが面白くないといった顔をした。テランジンとルークは、カツとシンがライラに惚れている事を知っているのでカツのそんな表情を見てクスリと笑った。

 「そう言えば、お前達がジャンパールで会ったと言う半イビルニア人のタリスにライラは、シンと結ばれると言われたんだってな」

 「そ、そうなんだ兄貴、俺ぁびっくりしたぜ」 

 と、シンは、嬉しそうにライラを見ながら言った。意外な事にライラも満更ではない顔をしていた。

 「わ、分かるもんかよ半イビルニア人の言う事なんかよぉ」

 と、カツが拗ねたように言うとルークがまぁまぁとなだめながら

 「カツ、そう拗ねるな、お前にも好い人がきっと現れるからな、ほれあのいつも弁当を売りに来る女はどうだ?なかなかの器量だぞ」

 「ああ、あの女か、そうだな良いんじゃないか、今度俺が話しを付けてやろう」

 と、テランジンが言った頃、カンドラの若衆が勘定を済ませて店を出て行った。この二人は、メタルニアからの観光客と言う触れ込みで、ほぼ毎日青い鳥で飲んでいる。

 「帰ったら親分に報告だ、とうとうテランジンとルークが現れたってな」

 宿屋に帰った若衆は、真っ先にカンドラ達がいる部屋に行きテランジン達の事を報告した。

 「そうかそうか、ついに現れやがったか、よし今晩あの店に火を付けろ、それとライラって小娘をさらって来いグフフフ面白くなるぜぇ」

 その頃、まだ青い鳥で飲んでいたテランジン達も店の閉店時間が迫って来たので帰る事にしていた。

 「あぁやっぱりここの酒と料理は最高だな、オヤジありがとうまた来るよ」

 「ああいつでも来てくれよ、リリーお嬢様によろしく伝えてくれよ、お子がお生まれになったら最高の料理を振る舞うってな」

 「ああ、伝えておこう」

 「頼んだぜ、おいゴンもう店閉めるから裏片付けるぞ」

 と、店主が言うと店から「へ~い」とゴンの低い声が聞こえた。

 「カツ、シン、ライラを家まで送ってやれ」

 と、テランジンが言った。カツが何で俺までと言ったがテランジンは、フフッと笑っただけで何も答えなかった。カンドラがいつ現れるか分からない今、シン一人よりもカツも一緒に居た方が良いと考えたのだ。そして、テランジンは、自分の屋敷にルークは、軍の寮に帰った。店主が気を遣ってライラに店の片付けは自分とゴンでやるから帰って良いと言ったのでライラは、カツとシンに送られながら家路に着いた。

 「テランさんとリリーお嬢様のお子ってどっちかな?男の子かな女の子かな?」

 と、ライラが嬉しそうに言った。

 「さぁなぁテラン兄貴は男の子が欲しいって前に言ってたなぁ」

 と、シンが答えるとカツが女の子が欲しいと言っていたと反対の事を言い口喧嘩が始まった。そんな二人の様子をライラは、クスクス笑いながら見ていた。

 「ちっ!男が付いてる、どうする?野郎二人もさらうか?」

 と、ライラを誘拐するためカンドラが送り込んだ若衆の一人が物陰から言った。連れ去る場所は、既に決めてある。カンドラ達が宿泊する宿屋がある港町から少し離れた林の中に小屋があった。この小屋は、数年前から使用されておらず誰も来ない事を若衆達は、調べ上げていた。

 「どうもこうもねぇ三人まとめてさらっちまえば良いじゃねぇか」

 と、他の若衆が言い決まった。若衆達五人は、カツ達に気取られないよう慎重に後を付けて行き人気ひとけが消えた瞬間を狙って襲った。

 「おらぁぁぁ!!」

 と、若衆は、棍棒でカツを襲ったがカツは、紙一重でそれを避け素早く剣を抜いた。

 「何もんだっ?!」

 無論、若衆達は、何も答えない。顔を覆面で覆っているのでカツやシンからは、表情が分からない。

 「てめぇら何もんだ?!トランサー海軍カツ・ブロイとシン・クラインと知っての事か?!」

 と、カツが怒鳴った。シンは、ライラを左手に抱き剣を構えている。

 「何、ビビってんだ!おらぁ行けぇ」

 と、若衆の一人が仲間を怒鳴ると一斉に三人に襲い掛かったが、カツとシンに敵うはずも無くあっという間に若衆達は、倒された。

 「何だもう終いか?まぁいい、てめぇら一人残らず番所に引っ立ててやる……ん?な、何だこの感じ」

 と、カツが若衆の一人を捕まえようとした時、辺りの空気が一変した。過去に感じた事のある独特の嫌悪感、イビルニア人の気配だった。カツとシンは、素早く辺りを見渡した。

 「何で奴らの気を感じる…どこだ?…ライラ心配すんな俺達がついて…あっ?!カツ!」

 と、シンが気付いた時には遅かった。上位のイビルニア人ダークスがカツの真後ろに現れ手刀でカツの首筋を打ち気絶させた。それを見たライラは、悲鳴を上げた。

 「きゃあぁぁぁぁぁぁ!人殺しぃぃぃ!」

 「ふむ、カンドラ殿が気になるからと私達を送り込んで正解だった、こんなにあっけなくやられているとはな」

 「め、面目ねぇ旦那」

 「まぁいい、シンとやら次はお前の番だ、おい、やれっ!」

 と、ダークスは、連れている二人の中位のイビルニア人に命じた。二人のイビルニア人がシンとライラを襲おうとした時、急に照明が照らされた。

 「貴様ら!そこで何をしている」

 と、巡回の警備隊だった。ダークス達は、騒ぎが大きくなると感じカツだけをさらう事にした。

 「一旦お預けだな、この男は連れて行く、レオニールとテランジンに言っておけ、必ず殺してやるとな」

 そう言うとダークスは、カツを軽々と持ち上げ自分の肩に乗せ懐から怪しい玉を取り出し、それを地面に叩き付けた。すると照明も通さないほどの濃い紫色の煙が上がった。

 「あっ!こらっカツを返せ!」

 警備隊がシンとライラの所まで来ると煙が消え、ダークスや中位のイビルニア人はもちろん、若衆までもが消えていた。シンは、呆然とした。ライラが隣で心配そうにシンを見ている。

 「何があったんですか?」

 と、警備隊の一人がシンに聞いた。シンは、先ほどの出来事を説明しサイモン大将に今の事を報告するよう頼み、ライラを連れてロイヤー屋敷に向かった。

 「何っ?カツが連れ去られただと?」

 「へい、兄貴、イ、イビルニア人が居やがった、それも上位者が一人、中位者が二人だ、兄貴と殿様を狙ってるようだった」

 と、シンは、血相を変えて言った。

 「リリー今から登城する、支度を頼む、ああ、ライラ、君は今日からしばらくうちに泊まれ」

 と、テランジンは、妻リリーに言い支度を済ませるとシンと二人登城した。ロイヤー家には、また人が増え一段と賑やかになった。

 その頃、青い鳥には、まだ店主と店員兼用心棒のゴンが店に居た。店の片付けを済ませ帰ろうとしたが、ちょっと飲みたくなったと言って、店主は、ゴンを相手に軽く飲んでいたのだった。

 「軽く飲むつもりがけっこう飲んじまったなぁ、ああもう日付が変わっちまってるぞ」

 「もう帰りやしょう」

 と、ゴンが店主からコップを取り洗い場で向かった時、異変を感じた。

 「ん?何だこの臭い…何か焦げ臭いような…って、ああああ?!オ、オヤジさん火事だ!」

 店の奥から煙が出ていた。店主とゴンは、慌ててバケツに水を汲み店の奥から裏口に出た。すると丁度、カンドラの若衆二人に遭遇した。この二人は、まさか店に人が残っているとは思わなかったのだろう、火を付けある程度燃え広がるのを見届けて帰るつもりだった。

 「あっ?!やべぇ!」

 「この野郎」 

 と、直感でこの二人が火を付けたと感じたゴンは、水の入ったバケツを二人に投げ付け殴りかかった。あっという間に二人を殴り倒し火を消した。幸い裏口の戸が燃えただけで済んだ。

 「オヤジさん、こいつらこの間店で暴れた奴ですぜ」

 「何だと、よし明日の朝一番でテラン達に引き渡そう、ゴンこいつら縛り上げて地下に放り込んどけ」

 「へい」

 

 トランサー城、ヨーゼフに与えられた部屋の前にテランジンとシンが居た。

 「おやじ、起きてますか?俺ですテランジンです」

 と、扉に前でテランジンは、声を掛けた。すると部屋の明かりがともり扉が開いた。

 「何じゃこんな時間に、何かあったのか?」

 と、ヨーゼフは、眠そうな顔をして言った。テランジンとシンは、ヨーゼフにカツがカンドラ一味に連れ去られた事を話すと見る見る顔色が変わって来た。ヨーゼフは、直ぐに着替えを済ませ二人を連れてレンとエレナの部屋へ向かった。

 「レオニール様、起きておられますか?ヨーゼフです、レオニール様」

 と、ヨーゼフは、軽く扉を叩きながらレンを呼んでみた。扉の隙間から明かりが灯ったのが見えた。

 「ヨーゼフ様?」

 と、扉を開けたのは、エレナだった。ヨーゼフの後ろにテランジンとシンが居る。

 「エレナ様、レオニール様を起こして下され、緊急事態です」

 緊急事態と聞いてエレナは、訳も分からずレンを起こした。レンは、ヨーゼフ達がこんな時間にわざわざ起こしに来る事は、かなり酷い事が起きてるんじゃないかと不安になった。そして、不安は、的中した。テランジンとシンからカツがカンドラ一味に連れ去られ、おまけにイビルニア人まで関わっていると聞きヨーゼフ同様、見る見る顔色を変えた。そこへ警備隊から話しを聞いたサイモン大将がルークを連れてやって来た。

 「話しは聞いたテラン直ぐに港町を捜査しよう」

 「ありがとうこんな時間に、よろしく頼む」

 と、テランジンは、兄弟分でもあるサイモン大将に礼を言った。サイモン大将は、直ぐに陸軍本部に向かった。

 「僕も出るよ、イビルニア人が関わっているんならほっとけないよ」

 と、レンは、素早く着替えを済ませフウガ遺愛の斬鉄剣を手にした。

 「だ、駄目ですよ!殿様、イビルニア人は、殿様とテラン兄貴を狙ってるんですから」

 と、シンが慌てて言った。

 「そうです若、ここは我々にお任せ下さい」

 と、テランジンもレンに言った。

 「何を言ってるんだ、テランジンだって狙われてるのに僕だけ城に残れないよ、エレナ、ヨーゼフ行って来るよ」

 そう言うとレンは、先に行ってしまった。

 「ああ、ちょっと若!」

 と、慌ててテランジン、ルーク、シンが後を追った。そんな様子をレンとエレナの部屋の近くの部屋で寝起きするエレナの弟リュウが眠い目を擦りながらエレナとヨーゼフの傍に来た。

 「何かあったの?」

 「ええ、カツさんが悪い人達に連れ去られたの」

 「……はぁぁぁ?カ、カツさんってジャンパールで家の近所に出た盗賊をシンさんと二人でボッコボコにした人だよ、な、何で?」

 と、リュウは、あの時見たカツやシンの強さに憧れていて二人を英雄視していた。

 「必ず無事に帰って来ます、さぁ心配でしょうがお二人ともお休み下され」

 と、ヨーゼフは、エレナとリュウに言い自分は、普段政務を執る部屋に向かった。

 その頃、イビルニア人ダークスに拉致されたカツは、荒縄で縛られカンドラが宿泊する部屋の床に転がっていた。



 


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