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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
139/206

赤毛の娘

 タリスを捕縛したと聞いたレンは、ホッとしたのと同時に妙な不安を感じた。コノハ、カレン、ユリヤは、レンの様子を見て励ました。

 「レン絶対大丈夫よ、安心して」

 「そうですよレオニール様、ご安心下さい」

 「はぁ~でも見たかったなぁレンさんの女装姿」

 と、ユリヤが言った時、コノハが、一冊のアルバムを取り出しユリヤに見せた。カレンも見た事のある幼い頃のレンがマルスとラーズに無理やり女装させられた写真である。

 「きゃあ可愛い~へぇ~こうなるんだぁ…へぇ~」

 と、ユリヤは、写真と目の前のレンを交互に見て言った。レンは、顔から火が噴くんじゃないかと思うほど顔を赤らめた。マルスとラーズが帰って来たと侍女が伝えに来たのでレンは、コノハ達といつも皆が集まる部屋に向かった。

 「やぁレオニール二日酔いは治まったようだね」

 と、レンが部屋に入るなり心配していたイザヤが声を掛けた。レンは、もう大丈夫ですと答えヨーゼフの隣りに座り出されたお茶を飲みながら皆の話しを聞いていたが、カツが赤毛の娘をタリスが探しているようだと言った時、お茶を噴き出した。

 「殿様ぁ大丈夫ですかい?」

 と、むせるレンの背中をシンが擦った。その様子をナミは、抜け目なく見ている。

 「レオニール、マルス、あなた達は赤毛の娘の事を知ってるんじゃないの?」

 「なっ…何言ってるんだ母上ぇ俺達が知ってる訳ないだろ?!なぁレン」

 「う、うん知りませんよ」

 と、レンとマルスが言う傍でコノハとカレンは、無表情を保っていた。ラーズは、気を利かせて今回ジャンパールに来た理由を述べ始めイザヤとナミの気を引こうとしたが、間の悪い所に侍従が軍部から届いた知らせを言いに来た。

 「赤毛の娘に会わせろ、探し出してくれと喚き散らしておるそうです、何でももう一度会えたら何でも話すし死刑になっても構わないと言っているとか」

 「ほほう、その赤毛の娘の事が相当気に入っているのだな、ヨーゼフ、イビルニア人が人間に好意を持つと言う事は過去にもあったのかね?」

 と、侍従の知らせを聞いたイザヤがイビルニア人を良く知るヨーゼフに意見を求めた。

 「ははぁ好意と言っても連中が人間に対して持つ好意とはその人間が持つ悪意の事、赤毛の娘が持つ悪意にかれたのかも知れませぬが…どうも違うようですな、半イビルニア人のタリスは赤毛の娘に恋い焦がれている様な気がします」

 と、ヨーゼフは、答えた。隣で聞いているレンは、段々気分が悪くなって来た。

 「拙者が一度訊問してみましょう」

 「なな、何もヨーゼフが訊問する事ないよ、うちの連中で片付けるから大丈夫さ」

 と、焦ったマルスが、慌てて言ったが、ヨーゼフは、今後トランサーにも同じような半イビルニア人が現れるかも知れないから是非、訊問させて欲しいと言った。それはそうだと、イザヤとナミが賛成したので、もはやどうする事も出来なかった。ヨーゼフは、カツとシンを連れてタリスに会いに行くと言ったのでマルスも同行する事にした。レンは、また気分が悪くなったと言い自分に用意されている部屋で寝る事にした。ラーズとユリヤは、城内に用意された客間に向い、残ったコノハとカレンが自分達の部屋へ戻ろうとした時、ナミが呼び止めた。

 「あなた達も何か知ってるんじゃないの?お話しなさい」

 と、コノハとカレンは、ナミの言葉にギクッとしたが何も知らないと言い張りその場をやり過ごし部屋から出た。

 「あ~怖かった…本当にバレないかなぁ」

 「きっと大丈夫よコノハさん、バレない事を祈りましょ」

 と、コノハとカレンが言った時、不意に後ろから声を掛けられた。アルス皇太子の妻アンである。

 「何がバレないのかしら?」

 「お、お義姉ねえさん!何でもないよ何でも、ね、カレンさん」

 「は、はいコノハさん、お義姉様、何でもありませんわ、失礼」

 と、コノハとカレンは、その場を立ち去ろうとしたがアンが立ち塞がった。

 「お待ちなさい二人とも、マルス殿とレオニール殿の様子からしてお義父上とお義母上に知れたら不味い事なのは十分感じたわ、何があったの?わたくしにも教えて、お義父上達には絶対に言わないから」

 と、アンは、目を輝かせて言った。その目に悪意は、感じられなかった。二人は、困惑した。以前のアンならこんな時は、必ず意地悪く攻め立てて来たが、今のアンは、少女の様に目を輝かせて義妹達を見ている。指輪と数珠の一件以来アンの性格が多少変わった様だった。 

 「…絶対に言わない?本当に?」

 と、コノハは、上目使いで背の高いアンを見ながら言った。カレンは、言わない方が良いという意味を込めコノハの服の袖を引っ張った。

 「聞かせて」

 話さなければアンが、父と母に何を言い出すか分からないと思ったコノハは、カレンとアンを連れ自分の部屋に向かった。

 「まぁ~汚い」

 と、コノハの部屋に入るなりアンが言うと明日片付ける予定だったとコノハが言い訳をした。アンは、適当にそこら辺に散らばっている本や服を片付けながら赤毛の娘の事を聞いた。

 「お義姉さん、本当に言わないって約束出来る?」

 「もちろんですとも、私は口は堅い方です、さぁお話しして」

 「え~と、じゃあ…」

 と、コノハは、思い切って嫌がるレンに女装をさせてタリスの店に行かせた事を話した。

 「な、何と馬鹿な事を…」

 「お兄ちゃんがこれは潜入捜査だって言って、それでねお義姉さんがしてた指輪をレンが貰って来たの、これは証拠になるって」

 と、義妹から聞いたアンは、呆れていたがレンの女装姿も見て見たかったと言ったのでカレンは、自分とマルスの部屋にアルバムと木箱に入れた指輪を取りに行きコノハの部屋に戻って来た。アンに指輪を見せるとあからさまに嫌な顔をして「間違いない自分も持っていた指輪だ」と言いアルバムの中のレンの幼い頃の女装姿の写真を見て目を輝かせた。

 「まぁこれがレオニール殿…確かにどこから見ても女の子ね」

 「今回は私達が化粧を施しましたが本当に美人で」

 と、カレンは、レンに化粧を施した後の姿を思い出してうっとりしていた。アンは、その時の姿が見れなかった事を残念がった。

 「しかし、それがもとで半イビルニア人に好意を持たれるとはレオニール殿も災難ですね、うふふふ」

 一方、軍部に捕らわれているタリスの訊問に向かったマルス、ヨーゼフ、カツ、シンは、取調室の外からまずタリスを見ていた。

 「ふぅむ、あやつがタリスですか、まぁ他の半イビルニア人共と変わりませんな、ではそろそろ拙者らが訊問しますか」

 「う、うん」

 と、マルスがあまり乗り気じゃない事に妙だなと思いつつ先にヨーゼフ、カツ、シンが取調室に入り、最後にマルスが入った。取り調べをしていた警備兵二人が椅子から立ち上がりヨーゼフ達に敬礼した。

 「すまぬがわしらにも訊問させてもらいたくて参った、よろしいか?」

 「ははっどうぞ」

 と、警備兵二人は、壁際に下がった。部屋の真ん中に机が置かれていてヨーゼフは、タリスと向かい合って座った。カツ、シンは、タリスの両脇に立った。

 「ははは、あんたらがまさか役人だったとはな…全く気付かなかった」

 と、タリスは、諦めているのか小さく笑って言った。

 「トランサー王国、レオニール・ティアック王子の御側御用を務めるヨーゼフ・ロイヤーである、単刀直入に問う、其の方ら半イビルニア人はこの国、いや世界中にあと何人居るのか?」

 と、ヨーゼフは、厳しく言った。タリスは、ヨーゼフをまじまじと見た。メタルニアに居た頃、トランサー王国で起きたブラッツの反乱で目の前のヨーゼフの存在を知った。

 「あ、あんたが…じゃあライヤーをったのはあんたか?」

 「ライヤーは俺が始末した、旦那の質問に答えろ」

 と、カツがタリスの頭をはたきながら言った。タリスは、恨めし気にカツを見て答えた。

 「そんな事分かる訳ないだろう、私や先に捕まったゼフト、そしてあんたに殺されたライヤーが半島から外の世界に送り出された後、グライヤー様は何人送り出されたのか…私が知りたい」

 「では質問を変える、其の方が知っておる半イビルニア人は何人居るのか?そしてどこに居る?」

 と、ヨーゼフは、落ち着いて言った。

 「答える代わりに私の質問にも答えて欲しい、私の両隣に居る二人とそこの人、そしてロイヤーさんあんたらから赤毛の娘の気を感じる、何故だ?この三人が私の店にやって来た時も感じた、私は赤毛の娘を探している」

 と、タリスの言った事にヨーゼフ、カツ、シンは、互いに顔を見合わせた。マルスが急にそわそわし始めた。ヨーゼフは、そんなマルスの様子が気になったが気を取り直してタリスに言った。

 「どうしてその赤毛の娘を探しておるのか?仮に探し当てたとしても会わせる訳にはいかんぞ、其の方は罪人である」

 「どうして探しているのか自分でも分からない本当だ、ただもう一度だけ逢いたい…あの日あの娘を占ってから何かこう説明できないものが込み上げて来て…ああ…逢いたい、あの娘に逢いたい逢わせてくれ」

 と、タリスは、興奮して来たのかヨーゼフに掴み掛らんばかりに言った。カツとシンが慌ててタリスを押さえ込み椅子に座らせた。ヨーゼフは、目の前の半イビルニア人が人間の娘に恋をしていると確信した。しかし、まさかその赤毛の娘がレンだとは思ってもいなかった。

 「俺達からその赤毛の娘の気を感じるとお前は言ってるが俺達はその赤毛の娘の事なんざ知らねぇぜ、気のせいだろう」

 と、シンが言うとタリスは、そんなはずはないと言い切った。

 「私の祈祷はでたらめだが占いは本当だし人間には感じない気を私は感じる事が出来る」

 「そうかい、でも俺達は本当に心当たりがねぇ俺達の身の回りの赤毛の人間と言えば殿様しか居ねぇ、殿様は男だから関係ねぇからな」

 と、カツが言った。タリスは、他にも居るはずだと言ったのでヨーゼフは、赤毛の娘の容姿を詳しく話せとタリスに言った。

 「ももも、もう良いじゃねぇかヨーゼフ、なっカツもシンも、赤毛の娘なんてこの世に存在しねぇタリスお前の見間違えだ、さぁ皆出ようぜ」

 と、マルスは、容姿を聞いたら絶対にバレると思いヨーゼフ達を取調室から出そうとした。そんなマルスの様子をヨーゼフ達は、怪しんだ。タリスは、マルスに構わずヨーゼフ達に赤毛の娘の特徴を話し出し最後に指輪を渡したと言った。

 「ほう、なるほどジャンパール人ではなさそうだな、で指輪を渡した、その指輪とはステアゴールド殿に渡した数珠や指輪と同じ物か?」

 「そうだ、同じ指輪だ、あの娘は必ず左手の中指にはめているはずだ」

 「そうか、指輪を持っているのなら探し出して回収せねばなるまい…しかし妙だな其の方が言う赤毛の娘の容姿…はて誰か似ているような」

 と、ヨーゼフは、顎に手をやり首を傾げた。マルスは、諦めたのか黙り込んだ。カツとシンには、見当が付いたのでマルスをチラリと見た。そして、ヨーゼフにも見当が付いたのか顔色が段々変わって来て何か言おうとしたが、警備兵二人が壁際に居る事を思い出して止めた。

 「今日の訊問はこれまでとする」

 と、ヨーゼフは、言いさっさと取調室から出て行った。カツとシンも出て行きマルスは、警備兵二人に引き続き取り調べをするよう言い渡しヨーゼフ達を追った。周りに誰も居ない事を確認してヨーゼフ達は、マルスを囲んだ。

 「殿下、何て事を!赤毛の娘とはレオニール様の事でござろう、一体何をされたのですか?」

 「あにぃ、何があったんです?」

 「そうだぜぇ何か様子が変だなと思ってたんだ、殿様と何をしたんです?」

 と、三人に問い詰められマルスは、観念したのか事の次第を話し出した。ヨーゼフ達は、呆れて言葉が出なかった。

 「し、仕方がなかったんだよ、奴が本当にステアゴールドの屋敷に来た祈祷師タリスかどうか確認するためには潜入捜査が必要だったんだよ、まさか半イビルニア人相手にコノハやカレンを使う訳にはいかないだろ?男のレンが女装して行けば何かあっても対処出来るんじゃねぇかと思って…その…でも証拠の指輪を手に入れたんだぜ」

 と、マルスは、ばつの悪そうな顔をして言った。もしも何かあってレンが女装しているなどと世間に分かればトランサー王国は、とんだ大恥を掻く事になるとヨーゼフは、呆れて言った。

 「しっかし、あの野郎よりによって殿様に惚れちまうとは、さすがに人の血が入ってる証拠かぁ?」

 「馬鹿者、感心しておる場合ではないぞカツ、まぁ赤毛の娘の正体が分かった以上タリスを早々に死刑にせねばなりませぬぞ殿下」

 「ああ、そうしよう、あっそうだ!皇帝おやじ達には絶対に内緒にしてくれよ」

 「当たり前でござる!特に皇后様に知られたら殿下や姫様は無事では済みませぬぞ」

 と、ヨーゼフに言われマルスは、顔を青くした。ヨーゼフは、カツとシンにレンの女装の事は一切他言無用だと命じた。

 マルス達が城に戻るとアンが意味あり気にマルスを見た。いつもと様子が違う義姉を見て不審に思ったが、カレンが待つ自分の部屋に戻った。ヨーゼフ、カツ、シンも自分達に用意されている客室に行き休む事にした。レンは、妙な胸騒ぎを感じながら既に眠っていた。ヨーゼフの訊問から数時間後、この日のタリスの取り調べが終わりを告げた。

 「今日はこれまでとする、明日またとロイヤー公がお見えになるかも知れんタリス、無礼の無い様にしろ」

 「ああ、分かっているそんな事より赤毛の娘を探してくれ、一目だけで良いあの娘に逢えたら私は…」

 「分かった分かった」

 と、熱っぽく話すタリスを適当にあしらいながら警備兵二人は、取調室からタリスを牢屋へ連れて行った。軍部では、用心のためにタリスと先に捕らわれている盗賊団のかしらゼフトを別の牢に入れた。牢の中には、何人か普通の人間も混じっている。

 「タリスさん、とうとうあんたも捕まっちまったのかい」

 と、先にタリスの店から出て捕縛された男が声を掛けて来た。タリスは、男の言葉に耳を傾ける事もなく両手で頭を押さえぶつぶつと呟いている。

 「…すめ…むすめ…げの娘…か毛の娘、赤毛の娘あああああああ赤毛の娘に逢いたい!赤毛の娘を連れて来ぉぉぉぉぉい!」

 と、タリスが牢屋内で喚き出した。直ぐに騒ぎになり警備兵達が駆けつけた。

 「何事だ?!うるさいぞ静まれぇ!ええい、黙らぬか!」

 と、警備兵の一人が長い棒でタリスの腹を突いた。鈍い音がしてタリスは、その場にうずくまったが直ぐに立ち上がり、また叫び出した。

 「早く早く娘に逢わせろ!赤毛の娘ぇなぜ直ぐ店に来なかったんだ、あああ逢いたい逢いたい!」

 「こいつっ!?」

 警備兵達が牢の外側から長い棒でタリスを滅多打ちにした。倒れ込んで静かになったと思った矢先、タリスに変化が現れた。急に身体が一回り程大きくなりゆっくりと立ち上がった。雄叫びを上げるとタリスは、牢内の罪人達や牢の外側に居た警備兵達を身体から出た衝撃波で吹っ飛ばした。警備兵達に棒でしたたかに打たれた事によりイビルニアの血が完全に目覚めてしまったのだ。

 「キィィィィ赤毛の娘ぇ~どこだ、どこに居る?」

 タリスは、素手で牢の鉄格子を引き延ばし牢から出た。警備兵達は、慌ててタリスを捕えようとしたが全く歯が立たず次々と投げられたり殴り倒されたりした。その様子を別の牢に入れられていたゼフトが見て叫んだ。

 「おい、タリス!俺だゼフトだ!俺も出してくれよっ早く!」

 「……」

 「おい?聞いてるのか?俺もここから出せよ」

 と、叫ぶゼフトを完全に無視してタリスは、牢屋から出て行ってしまった。軍部は、騒然とした。当直の兵士達が慌ててタリスを取り押さえようとしたが取り押さえる事が出来ず、とうとうタリスを外に出してしまった。この間、タリスは、兵士から奪い取った刀で戦っている。

 「い、いかん!町に行かれたら大変だ!何としてもここで食い止める、マルス殿下らに連絡しろ」

 「ははっ!」

 と、一人兵士が城に向かって走った。眠っているレン達にタリスが暴れていると知らせが入ったのは、午前零時を回った頃だった。

 

 


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