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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
136/206

占い師と女装

 「へぇ~マルスあにぃがサモン家をお継になるんだってさ、ほれ」

 と、カツが言いシンに号外記事を渡した。

 「ははぁ兄ぃがねぇ…でも殿様も全く知らねぇ奴に継がれるより良いと思いなさってるはずだぜ」

 「違いねぇ」

 と、カツとシンは、歩きながら話した。そして、占い師を探しに町を探索していると妙に違和感を感じる店の前に来た。そこには、若い娘達が行列を作っていた。

 「おい、シンこの店何か変だよなぁ」

 「ああ、確かに変だなあいつらの気を感じるぜ…しかし、困ったねぇ、こんなに若い娘どもが居ちゃあ踏み込めねぇぞ」

 二人は、その場で様子を見る事にした。しばらくして行列を作っている娘達がカツとシンに気付き始めひそひそと囁き合った。

 「何あの人達、怖い」

 「外国人よ、あの人達も占って欲しいのかしら」

 そんな娘達の様子に気付いたカツとシンは、この場を離れる訳にはいかないが少し物陰があるところまで移動し店を監視する事にした。ここなら娘達も警戒しないだろうと安心していたのも束の間、何とカツとシンの前に警備兵四人が現れた。

 「怪しい外国人が居ると通報があり来たがお前達の事だな、何のためにどこから来た?」

 「はぁぁ?俺達が怪しい外国人?おい聞いたかシン、俺達ぁ怪しい外国人だとよ」

 「確かに聞いたぜカツ、しかし困ったねぇこの旦那方に話しても大丈夫かな?」

 「何を言ってるんだ?全くもって怪しいな、番所まで来てもらおうか」

 と、警備兵四人は、カツとシンを番所まで連行しようとしたが二人が素直に応じる訳も無かった。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ、旦那方はあの店の前を通っても何も感じなかったんですかい?」

 「何の事だ、お前達はあの店の前に居る娘達に何かしようとしてたんじゃないのか?」

 「ええええ?そんな風に俺達は見られてたのか?冗談じゃねぇやい小娘に興味なんかねぇ俺達はあの店の占い師に用があって来たんだ」

 と、シンがついカッとなって怒鳴った。怒鳴られた警備兵達もカッとなり、カツとシンを捕えようと掴みかかった。

 「ええい、生意気な異人め番所で徹底的に調べてやる!来い!」

 「何しやがる!放しやがれ!あの店の前で何も感じない奴に話す事なんかねぇ!」

 「カツ君、シン君じゃないか、どうしたのだ?」

 と、不意に後ろから声を掛けられカツとシン、警備兵達は、声の主を見た。何とジャンパール海軍のヤハギ中将が妻と娘を連れて立って居た。警備兵達は、慌てて敬礼をした。

 「ヤハギの旦那!」

 ヤハギ中将は、妻と娘をその場で待たせカツとシンから事情を聞いた。聞き終わると大笑いして今度は、警備兵達に二人の事を話した。

 「彼らはトランサー王国海軍のカツ・ブロイ中佐とシン・クライン中佐だ、彼らの身元は私が保証する、何か大事な用であの店の前に居たそうだ」

 「ははぁヤハギ閣下が二人の身元を保証されるのでしたら我々は何も言う事はありません、では」

 と、警備兵達は、ヤハギ中将に敬礼しカツとシンに頭を下げ帰って行った。ヤハギ中将は、改めてカツとシンから話しを聞いた。聞き終わると表情が一変していた。この日、非番だったヤハギ中将は、後妻との間に出来た娘を連れ町に買い物に出ていた。

 「娘が評判の占い師に見てもらいたいと言ってねぇ年頃だから好きな男の事でも占ってもらうんだろう」

 と、少し寂しそうにヤハギ中将は言い、妻と娘を呼び寄せカツとシンから聞いた話しを二人にした。

 「そ、そんな…半イビルニア人ってお父さん達が退治したんじゃなかったの?何で都に?」

 「お嬢さん、半イビルニア人が世界中のどこに居るかはっきり分かってねぇんです、この間はエレナ姐さんのご実家付近に現れた奴を俺達がひっ捕らえやしたが」

 「そしてそこの占い師、最近地方を荒らしまくってるって言う盗賊団の中にもひょっとすると混じってるかも知れやせんね」

 と、カツとシンがヤハギ中将の娘に話した。娘の顔色が悪くなっているのが見て取れた。

 「君達はこれからどうすんだね?店に踏み込むのかい?」

 「へぇ、そう思ってここに来たんですがね旦那、あの様子じゃ踏み込めませんよ、大騒ぎになっちまう」

 と、シンが行列を作っている娘達を指差しヤハギ中将に言った。なるほど、あの若い娘達の中にこの厳つい二人が入って行くのは、ある意味勇気が居るだろうと思いヤハギ中将は、クスッと笑った。

 「とにかく、一度お城に帰って殿様達に相談しやす」

 「相手は半イビルニア人と分かってますからね、絶対俺達の手で捕えねぇと兄貴に顔向け出来ませんよ」

 「うむ、店もなかなか繁盛しているようだし急に居なくなる事はないだろうから、日を改めて踏み込んでも問題はなさそうだな」

 と、ヤハギ中将が店の様子をそれとなく見ながら言った。カツとシンは、ヤハギ中将家族と別れて城に戻りレン達に報告した。話しを聞いたレン達は、大爆笑した。

 「酷いもんですよ、誰が通報しやがったのか知らねぇが俺達が娘を狙ってるってよくも言ってくれたぜ」

 「ヤハギの旦那のおかげで助かりやしたが、次は必ず踏み込んでひっ捕らえやす」

 「ああ、その時は俺達も行こう、くくく」

 と、マルスが笑いながら言った。コノハとカレンは、自分達が一緒に行けば良かったと残念がった。レンが理由を聞くとコノハが、自分の護衛官だと言えば誰も疑わないと答えた。しかし、そうすればコノハやカレンを危険な目に遭わせる事になると言いカツとシンは、丁重に断った。占い師に身を変えた祈祷師タリスの捕縛は、後日行う事にしてマルスは、逃げられないようにと店の周りに見張りを配置すると言い軍部に連絡した。

 この日の夜、占い師に身を変えた祈祷師タリスは、店の奥で今日の稼ぎを確かめていた。

 「いやいや、今日も儲かったな」

 「調子が良さそうだな、祈祷師から占い師になって良かったじゃないかタリス」

 と、更に奥から別の男が現れタリスが数える札束を見ながら言った。この男も半イビルニア人で地方を荒らしまくっていた盗賊団の首領、名はゼフトと言った。

 「ステアゴールド邸にはいつ行くんだ?もうそろそろ頃合いだと思うが」

 「うむ、お前が渡した数珠と指輪の魔力であの親子は腑抜けになっている頃のはずだな、明日の夜中にでも行こうと思う、何しろステアゴールドはこの国の名門中の名門貴族らしいから凄いお宝がありそうだ、こちらも気合を入れて行かねばな、ハハハハハ」

 この二人は、グライヤーから別々にイビルニア半島から世界に送り出されたが、メタルニアで偶然出会った。純血のイビルニア人ならば非常時以外は、必ず単独で行動するが人間の血が入っているせいかこの二人は、共に力を合わせる事を選んだ。当然、ライヤーの様に単独行動を好む者も居る。

 「フフ、ライヤーが調合してくれた毒のおかげで上手くステアゴールドを騙せたよ」

 「ああ、しかしライヤーの奴残念だったな、トランサーで捕まり殺されてしまった、ライヤーの弔いの意味を込めて次はトランサーを荒らしてやろうか」

 と、タリスとゼフトは、既にレン達が自分達の存在に気付いている事も知らず好き勝手な事を話していた頃、ステアゴールド、アン父娘おやこに変化が表れていた。

 「お父様、わたくし何かこう、気分が悪くて…なぜか左手が妙に重く感じます」

 「お前もかね?わたしも数珠をしている腕が重くてね、頭も少し痛むな…」

 と、父娘は、互いに身に付けているイビルニア製品である指輪と数珠を外した。すると先ほどまでの気分の悪さが何事も無かったかのように消え去った。驚いた二人は、改めて指輪と数珠を見た。

 「あっ!」

 「んんっ?!」

 二人は、何か黒い物が迫って来る感覚にとらわれ思わず指輪と数珠を床に落としてしまった。

 「な、何でしょう今のは?」

 「何か黒い物が迫って来るような…今までこんな事はなかったのに…」

 「お、お父様、これはしばらく身に付けない方がよろしいのでは?」

 「ああ、そうだなタリスの奴が来てくれれば良いのだが」

 何故、今になりイビルニア製品を見に付けると違和感を感じる様になったかと言うとサモン家相続の問題が解決したからだった。マルスがサモン家を相続する事になり一切の悪感情が消えたからだった。元々父娘は、将来レンの子供がサモン家を継ぐ事に反対して意地悪くなっていた。そう言った些細な悪い感情にイビルニア製品が持つ魔力が反応し父娘をどんどん破滅へと追い込んでいたのだった。実際ステアゴールドは、他の貴族から態度が尊大過ぎると嫌われアンは、元々高飛車で傲慢だった性格が更に悪くなって、そのためしゅうとめである皇后ナミから疎まれ始めていたし、義弟義妹のマルス、コノハからも嫌われていた。ステアゴールドは、執事を呼び指輪と数珠を金庫に保管よう命じた。

 「さぁ明日の晩はいよいよレオニール王子を招待するぞ、どのようにお育ちになられたのか楽しみだよ」

 「はい、お父様、お城で会いましたが立ち居振る舞いはサモン閣下に養育されただけあり、まるで武家貴族の様でした」

 「何と?!それは良くない王家の方がその様では余りにも無粋、貴族の立ち居振る舞いをご伝授せねばならんな、あははははは」

 と、ステアゴールドは、明るく笑った。使用人達は、主のこんな明るい笑顔を見たのは数ヵ月ぶりだと驚き喜んだ。アンも彼女が本来持つ優しい笑顔を見せていた。

 翌日、ジャンパール中にマルスがサモン家を相続し公爵から大公爵となった事と臣籍降下はせず身分は、皇族である事が正式に発表された。マルスは、城内の一室で記者達の質問に答えていた。

 「そうだ、フウガの家を継ぐのは俺意外考えられんと思ってな、他の武家貴族には無理だな、うん」

 「かつては孫としてサモン閣下に養育されていたトランサーのレオニール王子は何とおっしゃってましたか?」

 「ああ、何の縁もゆかりも無い者に継がれるより俺に継いでもらう方がありがたいと言ってたよ」

 と、マルスが記者達の質問に答えていた頃、レンは、魔導話でトランサーに居るエレナと話していた。サモン家は、マルスが継いだ事とエレナの実家近くに出た半イビルニア人の話しをした。

 「マルス皇子がサモン家を!良かったじゃない、おじい様もきっとお喜びになられているわ」

 「うん、僕もそう思ってるよ、でも本当は僕達の子に継がせたかったけどね」

 と、レンは、少し寂しそうに言った。

 「半イビルニア人ってまだ居たの?」

 と、エレナは、レンの気持ちを察し直ぐに話題を変えた。レンは、エレナに半イビルニア人は、まだ世界中に沢山居るはずだと言い、今回分かっている半イビルニア人を捕えるまでトランサーには、戻れないと話した。その後、少し雑談しテランジンに変わるよう言った。そして、レンは、テランジンにジャンパールに半イビルニア人が現れた事を話しトランサー国内にも居るかも知れないから少し警戒するよう命じた。

 「分かりました若、ルークとサイモンにも言っておきます」

 「頼んだよテランジン」

 そう言って魔導話を切ったレンは、ジャンパール城内の中庭に出てベンチに座り庭を眺めた。そこで幼い頃の思い出に浸っていると廊下を歩く女官達がレンを見てひそひそと囁き合いながら通り過ぎて行った。

 「あの女官まだ居たんだ」

 と、レンは、女官の一人を見て呟いた。そして、空を見上げた。雲一つない晴天であった。中庭でぼんやりしているといつの間にか眠ってしまった。

 「…ン、レン、レン起きろ」

 「はっ?!ああ、マルスかもう記者会見終わったんだね」

 と、マルスとコノハ、カレンがいつの間にか傍に居てレンを起こした。

 「何やってんだこんな所で、昼飯食ったら占い師の所へ行くぞ」

 と、マルスが楽しそうに言った。その様子にレンは、不安を感じた。昼飯を食べ終わると何故なぜかレンは、マルス達に城内にある衣裳部屋に連れて行かれた。

 「こんな所に来て何するのさ、占い師の所に行くんだろ?」

 「ああ、それでお前には女になってもらう事にした」

 「…?…はぁぁぁ?何言ってるんだマルス、女って女装しろって事だろ?な、何で僕が」

 「お願いレン、これはレンにしか出来ないの」

 「お願いしますレオニール様」

 と、コノハとカレンまでレンに女装するよう言って来た。レンが、中庭で居眠りをしていた頃、記者会見を終えたマルスは、コノハから占い師タリスの新しい情報を聞いていた。コノハの話しでは、女学校の生徒の中に占い師からお守りと言われて買った指輪をしている者が居ると言う。その指輪の特徴を聞くと、どうやらステアゴールド親子の物と類似している。指輪をした女生徒は、かなり性格が悪くなって周りの者を不愉快にさせていると言う。そこでマルスは、証拠を押さえるためにレンに女装させて占い師に会い、指輪を買って来させようと考えた。

 「なっ、頼む!これは潜入捜査だ、コノハやカレンが行ってもしもの時の事を考えたら危ないだろ?男のお前が行けばいざとなったらその場で取り押さえられるじゃないか」

 「そ、それはそうかも知れないけど、だからって何も女装する事ないじゃないか」

 と、レンが言うとマルスがコノハに言えとばかりに目配せした。

 「ごめんねレン、実はあの占い師女の子しか見ないそうなの男が行っても門前払いされるって」

 「頼むレン、半イビルニア人はシドゥのかたきだろ?これはシドゥのためでもあるんだ!よしっお前達かかれ!」

 「はい」

 「ちょ、ちょっと待って」

 と、レンは、強引にマルス達に服を着替えさせられ化粧を施された。仕上がったのかマルス達は、満足そうにレンを眺めた。レンは、一体自分がどんな姿をしているのか分からず困惑した。

 「なっ、言った通りだろ?良い女になった、これじゃあ絶対にバレねぇ」

 と、マルスがレンの姿を見てニヤリと笑った。

 「うん、レン完璧よ、鏡で見て」

 「お美しゅうございますレオニール様」

 と、コノハとカレンは、言うとレンを大きな鏡の前に立たせた。レンは、半ば諦めたのか幼い頃、マルスとラーズに女装させられた時の事を思い出し鏡の前に立った。なるほど、こうして見るとバレそうにないなと思ったが、直ぐに思い直しやっぱり嫌だと言った。

 「お、伯父上達やヨーゼフに知られたら大変な事になるよ、やっぱりそう」

 「駄目だ、ここまでやったんだ行くぞ!」

 と、マルス達は、レンを無理やり衣装部屋から引き出し連れ出した。城内の長い廊下で役人や侍従、女官と言った城で働く者達に会っても誰もレンだとは気付かなかった。コノハかカレンの友人とでも思われているのだろう。

 「ちょっと待ってろ」

 と、マルスは、侍従達の詰め所に行き、今から忍びで城下に出るとだけ知らせた。では、護衛官をとある侍従が言ったが、マルスは、自分が居るから大丈夫だと言い護衛を付ける事を断った。レンは、いつバレる分からないと怯えていたが、その仕草が逆に可憐な女に見せた。

 城をこっそりと出てしばらくするとカツとシンが見た娘達の行列が目に入って来た。店の看板には、占い館と書かれてあり壁の張り紙には女性限定と書かれてあった。レン達が店の近くまで来ると例のあの何とも言えない嫌悪感を感じ、改めてこの店が半イビルニア人の店だと確信した。

 「こいつら何にも感じないのか?まぁ良いやレン出番だぞ」

 「…ホントに大丈夫かなぁバレたら大恥だよトランサーに帰れなくなるよ」

 と、レンは、言いつつゆっくりと歩き行列に並んだ。マルス達も当然変装していて誰も気付かない。

 「くくく、面白くなって来た」

 と、マルスは、目深に被った帽子の下で笑った。コノハとカレンも帽子を目深に被りそこら辺に居る若者達と変わらない格好をしてレンを見守った。店から指輪をうっとりとした顔で眺めながら女が出て行くのが見えた。小一時間経ちやっとレンが店の奥へと入って行った。

 「次の方どうぞ」

 と、声が掛かりレンが占い師の前に座った。机の上にあった名札には、占い師フォルツと書かれてあった。祈祷師タリスは、占い師に身を変えた時に名前も変えていた。レンは、うつむき加減でタリスの顔を見た。ジャンパール人の様だったが、レン達から見れば明らかに違う何かがあった。

 (やっぱりあいの子だ、間違いない)

 「今日はどの様な事を占って欲しいのかね?」

 「あっ、いやっ、ちょ、ちょっと気になるひとが居てその人と上手くいくか見てもらいたいのです」

 と、レンは、出来るだけ女の様な声を作り思い付く限りの嘘を言った。タリスは、ふむふむと聞き絵の描かれたカードを十数枚取り出しそれを机の上に並べた。このカードもイビルニア製品だとレンは感じた。タリスは、並べたカードを忙しく動かし捲り首を傾げた。

 「おかしいな、何だろうこれは?君ちょっと顔を見せてくれ」

 と、タリスが言いレンに顔を上げさせた。レンは、バレるんじゃないかと言う不安と恥ずかしさからか涙目になり頬を少し赤く染めた。その姿がいかにも悩みを抱える美女にタリスには映った。

 (どうか気付かれませんように)

 と、レンは、心で祈った。タリスは、レンの顔に釘付けになった。

 「き、君は…う、美しい…はっ?!い、いやいや、ふぅむ何とも不思議な結果が出た、その気になる男とは上手くいくがそれは現在ではない、来世と出た、こんな事は初めてだ」

 「ら、来世ですか」

 「うむ、この指輪を付けていなさい、早くその人と結ばれるかも知れないよ」

 と、タリスは、レンに左手を出しなさいと言い自ら例の指輪をレンの左手中指にはめた。

 「君は特別だ無料で良い、その代りまた店に来てくれ良いね」

 そう言ってタリスは、レンの手をギュッと握りしめ離した。レンは、妙な気分になり慌てて椅子から立ち上がり占いの料金を払おうとしたが、タリスは、それも受け取らなかった。レンは、早口でタリスに礼を言い店から出た。待ち構えていたマルス達が駆け寄り、直ぐにレンを近所の小さな公園に連れて行った。

 「どうだった?指輪は買わされたか?」

 「店の中の様子はどうだった?」

 「占い師の他に誰か居ましたか?」

 と、マルス達に矢継ぎ早に質問されレンは、ちょっと待ってといった仕草をしてベンチに座り直ぐに指輪を外した。

 「う、占い師はフォルツって名乗ってるようだけど祈祷師のタリスに間違いないと思う、この指輪を見てよ、アン殿が持っていた物と同じだよ、はぁはぁはぁ…しかし何で僕にただで指輪をくれたんだろう、手まで握られておまけにお代はいらないだってさ、その代りまた来てくれって頼まれたよ」

 レンは、そう言って指輪をマルスに渡した。マルスは、指輪を受け取るとしばらく眺め嫌な顔をして持参していた小箱に入れた。

 「レンご苦労だったな、タリスの野郎まさかお前に惚れたんじゃないのか?」

 「えええ?ま、まさか…変な事言うなよ」

 と、マルスに言われたレンは、タリスが自分の指に指輪をはめ込んだ時の顔を思い出しゾッとした。証拠となる指輪を手に入れたレン達は、急いで城に帰った。侍従がマルス達を見るなり慌てたように駆けつけて来た。

 「殿下、お戻りになられましたか、レオニール様を探しておるのですがどこにおられるかご存じありませんか?」

 と、言われレンは、血の気が引いて行くのを感じた。マルスは、慌てて答えた。

 「ああ?えええと…あいつどこだったかな?城内に居るはずなんだ直ぐに呼んで来るよ」

 「左様ですか、ところでそちらのお嬢様は?」

 「ええ?あああ私の学校のお友達よ、直ぐに帰るから」

 と、今度は、コノハが慌てて答えた。マルス達は、この場を何とかやり過ごし急いで衣裳部屋に行きレンを着替えさせた。

 「ふぅ~何とかバレずに済んだな良かった良かった」

 「良かったじゃないよ、もう二度とこんな事しないからね」

 と、レンは、怒りながら言い侍従が自分を探していた事を思い出し、マルス達と衣裳部屋を出て侍従達の詰め所に向かった。

 「僕に何かご用ですか?」

 「ああ、レオニール様、先ほどからステアゴールド公爵家の御用人殿がお待ちです、どうぞこちらへ」

 と、侍従は、レンだけを用人が待つ部屋へと連れて行った。

 「ステアゴールドの用人だと?レンに何の用事だ?」

 と、その場に残されたマルス達は、怪しんだ。レンが部屋に入ると既にヨーゼフ、カツ、シンが待っていた。驚いたレンが何事か聞くとステアゴールドは、今宵レン達を屋敷に招待したいとの事だった。

 「いかがでございましょう、我が主が是非、皆様を招待したいとの事でございます」

 レンは、ヨーゼフ達と相談した。サモン家相続の一件でお互い快くは、思っていない。しかし、頭ごなしに断るとステアゴールドの名誉にも係わる事だろうと思い、その招待を受けてやる事にした。マルスやイザヤ達にステアゴールドの屋敷に行く事を伝えレン達は、用人の運転する魔導車でステアゴールド邸に向かった。魔導車の中でレンの唇が妙に赤い事に気付いたカツが驚き、何かあったのかと心配して聞くとレンは、慌てて口元を袖で拭い何でもないと言い張った。

 

 


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