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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
135/206

サモン家始末・三

 妻アンを自室に連れて行ったアルスは、うんざりしていた。ここ最近、妻の言動が悪くなる一方で母ナミ皇后から叱られ弟マルスや妹コノハから散々文句を言われていた。

 「アン、どうしてあんな事を言ったのだ、カツとシンはトランサー王国の軍人で本来なら我が国の賊を捕縛する義務はないんだぞ、いくら何でも協力者に対して無礼じゃないか」

 と、アルスは、困り果てた顔をして言った。アンは、なぜ自分が注意を受けているのか全く分からないといった顔をしていた。そして、時折、左手中指にしている指輪を見たり擦ったりしている。そんな様子をアルスは、見逃さなかった。

 「ところでアン、君のその中指の指輪は確か…」

 「はい殿下、この指輪は実家の父から貰った物です、素敵でしょう」

 と、アンが指輪をうっとりとした表情で見つめながら言った。アルスは、妙に気になり良く見せてくれと言い指輪を外させて自分の手のひらの上に置きじっくりと見た。指輪は、貴金属と言うより何かの石で出来ている様だった。黒っぽい色の中にキラキラした紋様が浮いていて不思議な物だった。

 「素敵でしょう?殿下」

 「う、うむ…何だろう?何の宝石で出来てるんだ……うっ?!」

 と、アルスは、急に頭が痛くなるのを感じ指輪から目を離した。

 (何だ今のは?何か黒い物が迫って来るような…)

 アルスは、何も言わず指輪をアンに返した。アンは、指輪を左手中指にはめ込み眺めた。

 「アン、しばらくは母上達と顔を合わすなよ、食事もこの部屋で取れ、良いね」

 「左様でございますか、はい、分かりました」

 と、アンは、返事をしたが本当に理解している様に見えなかった。アルスは、直ぐにレン達の居る部屋に戻った。アルスが部屋に戻ると待ち構えていたかのようにマルスとコノハが兄アルスに義姉の悪口を言いアルスを閉口させた。

 この日、またサモン家相続の会議に出席したレンは、アンの指にあった指輪の事が頭から離れず会議どころではなかった。

 (あの指輪どうも引っ掛かるな…どうしてアン殿はあんな目で指輪を見てたんだろう?女が貴金属を好むのは分かるけど、あんな地味な指輪…)

 「レオニール王子、レオニール王子!」

 「はっ?!す、すいません何でしょう?」

 と、会議に出席していた貴族に呼ばれ物思いにふけっていたレンは、慌てて席から立ち上がった。

 「どうしたんだよ?」

 と、マルスが驚いてレンに聞いた。レンは、顔を真っ赤にして着席した。その時、ステアゴールド公爵の腕にアンが持っている指輪と同じ色をした数珠が巻かれてあるのが目に入った。

 「レオニール王子、残念ですが此度こたびも武勇に優れると思われる武家貴族に相続の件を話しましたが皆、断って来ました、この調子だとまた半年後に王子にはジャンパールに来て頂く事になりましょう」

 と、ステアゴールド派の貴族が言った。皇帝イザヤやマルス、アルスなどの将来レンの子供にサモン家を相続させようと思っている者達から不満の声が漏れた。結局、この日も結論が出なかった。レン達が会議室から出るとカツとシンが待っていて、この間捕えた盗賊団の取り調べの内容を話した。

 「昨日の盗賊共と地方を荒らしまくっている盗賊共とは関係は無いそうです、それと連中の裁きは三日後だそうで」

 「そうか、しかしそうなると他に盗賊共がどこかに居ると言う事になるな、次はどこに現れるのやら」

 と、マルスが顎に手をやりながら言った。レンは、ステアゴールドが腕に巻いていた数珠が気になっていた。最初に会った時も数珠を見たが、今日に限って妙にそれが気になっていた。

 「いかが致しましたか、先ほどから浮かぬ顔をしてござる」

 と、ヨーゼフがレンの様子が気になり尋ねた。

 「うん、サモン家の事とは関係ないから話さない方が良いかなと思ったんだけど…アン殿が持っている指輪とステアゴールド公爵の腕に巻いてあった数珠が気になってね」

 「指輪と数珠?」

 と、アルスが驚いて言った。そして、アルスは、レン達に今朝アンの指輪を見て触った時の事を話した。レン、マルス、ヨーゼフそしてカツとシンには、それが何かはっきりと分かった。

 「兄貴、それはイビルニア製品に間違いないぞ」

 と、マルスが言うとアルスの顔が青ざめた。イビルニア製品を持つとどうなるのかをヨーゼフは、静かにアルスに話した。

 「持ち主の負の部分に宿りやがては持ち主を破滅に追い込みまする」

 「そ、そんな…じゃ、じゃあアンと義父上ちちうえがあのように傲慢なのはイビルニア製品のせいなのか?」

 「元々高飛車で傲慢なのがイビルニア製品のおかげで更に拍車が掛かっている状態なんじゃねぇか?」

 と、呆然とする兄アルスにマルスが言った。

 「でも二人はどこであれを手に入れたんだろう?」

 と、レンが不思議に思い言うと直接本人達に聞こうと言う事になった。

 「その事なら任せて欲しい、今晩私はステアゴールド邸に行く事になっているからその時に聞いてみよう」

 と、アルスが青ざめた顔で言った。そして、レン達は、一旦マルスの部屋行き、夕方にアルスは、自室に居るアンを連れてアンの実家ステアゴールド邸に行った。マルスは、食堂で父イザヤ母ナミに指輪と数珠の話しをした。二人とも信じられないといった顔をした。

 「アルス殿下のお話しが本当なら間違いありません、トランサーにはかつてザマロが仕入れたイビルニア製品が数多くあり持ち主となった者を不幸に陥れて来ました」

 と、ヨーゼフは、話し世界中にどれだけのイビルニア製品が出回っているか分からないので、いつどこで手にするか分からないとも言った。

 「しかしおかみ、健全な心を持ってすればそれがイビルニア製品なのか分かりまする、アルス殿下が感じた何か黒い物が迫って来る感覚、それこそがイビルニア製品の特長でござる、心が穢れた者や良からぬ秘密を抱えておりますれば何も感じずその者の心はイビルニアの悪意に支配され破滅致しまする」

 「ではアンは何か良からぬ事でも考えていたのでしょうか?」

 と、ナミが不安気に言いとマルスがそれ来たとばかりに義姉の悪口を言いまくった。

 その頃、アルスは、ステアゴールド邸で優雅な食事を楽しんでいた。妻の実家に来るのは、結婚前に一度、その後に二度ほどあったが、今回の様な豪華な料理を出されたのは初めてだった。

 「義父上、この様な豪華な料理を出されずとも良かったのに」

 「何の殿下をお迎えするのに質素なものでは当家の恥、今宵はゆるりと過ごしましょうぞ」

 豪華な料理に舌鼓を打ちながらアルスは、指輪と数珠をの話しをどこで切り出そうかと考えていた。料理を食べ酒が進むと同時にステアゴールド公爵の態度も変わって来た。普段アルスを呼ぶ時は、殿下と尊称を付けるが今宵のステアゴールドは、酔っているせいか殿下から婿殿むこどのくんとなり最後は「アルス」と呼び捨てる始末だった。その姿をアルスは、冷静に見ていた。アルスは、意外にも酒に強くステアゴールドと同じ量の酒を飲んでいるが全く酔っていない。

 「ふぅぅぅ…レオニール…赤ん坊の頃に両親を殺された可哀想な子…フウガ・サモンに養育され見事親のかたきを討ち果たしたが…しかし私に養育を任せてもらっていたならもっと安全に国を取り返せていたものをイザヤ殿はなぜ私にレオニールを預けてくれなかったのか…あの子は武家貴族の手で養育されるより、この名門ステアゴールド家で養育されるべきだった…」

 と、ステアゴールドは、急に愚痴を言い出した。

 「全くその通りですわ、お父様、レオニール王子は当家で養育されるべきでした、亡きサモン様がジャンパールに連れて帰って来たからと言っても一国の王子を武家貴族などの手で養育させるとはお上もあんまりです」

 と、娘のアンまで言い出した。アルスは、冷静にこの父娘おやこの会話を聞いた。

 「フウガ・サモンめ…よくも私に相談も無く孫だと偽り王子を育てたものだ…レオニールの子にサモン家は絶対に継がさせぬ!アルスッ」

 「はい、義父上」

 「そなたも協力してくれ、武家貴族は武家貴族が継げば良いのだ、一国の王子の…いや国王となる者の子が継ぐべきじゃないとな、あ~皆を説得してくれ、頼んだぞ」

 「ははぁ」

 アルスは、ステアゴールドの本音が聞けたと満足した。ただし協力する気は、全くもって無い。そして、アルスは、本来の目的である指輪と数珠の話しを切り出した。

 「ところで義父上、立派な数珠をされていますね、よくお見せ下さい」

 「んん?おお、これかね、そうだ良い数珠だろう、さぁ見なさい」

 そう言ってステアゴールドは、左手首から数珠を外しアルスに手渡した。アルスは、てのひらに乗せじっと見た。アンが持っている指輪同様の黒っぽい色合いでキラキラと紋様が浮いている。アルスは、数珠を掌に置いた瞬間から違和感を感じていた。

 (義父上はなぜこのような物を平気で身に付けられるのだ、駄目だ耐えられない)

 と、アルスは、作り笑顔で数珠をステアゴールドに返した。

 「不思議な物ですね、一体どこで手に入れられたのですか?」

 「ふふふ、気に入ったかね、これはな…」

 と、ステアゴールドは、嬉しそうに話し出した。数か月前ステアゴールドは、病の床にあった。全身がだるく常に微熱があり咳込むと血を吐く事もあったと言う。どの医者に診せても原因が分からないと言われ途方に暮れていたある日、突然屋敷に祈祷師が訪ねて来た。名は、タリスと言った。ステアゴールドは、わらにもすがる思いでタリス師の祈祷を受けた。

 「彼の祈祷を受けて翌日には何事も無かったかのように健康を取り戻したのだよ」

 と、ステアゴールドは言い話しを続けた。祈祷から一ヶ月経った頃、また突然タリス師が指輪と数珠を持って現れたと言う。そして、こう言った。

 「おそれながら殿や皇室入りされた姫君はしき霊が取り付きやすいようなのでお守りを持って参りました」

 と、言い指輪と数珠を置いて帰った。それっきり一度も祈祷師タリスは、現れなくなった。

 「ほほう、祈祷師ですか…その祈祷師は何処いずこに居るのでしょうか?」

 と、アルスは、祈祷師タリスに興味を持った。

 「さぁなぁタリスめどこに居るのやら…都中を探させたが見つからなんだ」

 「タリス殿は父上の命の恩人です十分にお礼をせねばなりませんわ」

 「そうだね」

 と、アルスは、目の前の父娘に話しを合わせ別の事を考えていた。夜も深まりアルスは、ステアゴールド邸にアンと共に泊まった。

 翌朝、アルスは、アンをステアゴールド邸に残し公用があると言い急いで城に帰り、昨夜ステアゴールドが酔った勢いで話した内容をレン達に話した。

 「何?あやつはレオニールの養育をフウガに任せた事が気に入らなかったからサモン家の相続に反対しているのか」

 「何だよそれ」

 と、イザヤとマルスが呆れた。

 「まぁ確かに今にして思えばステアゴールドには話しておいても良かったように思います、ねぇお上」

 「ふむ、確かにステアゴールドの気持ちも分からぬでもないが…しかしあの時は仕方がなかった」

 と、イザヤとナミは、当時を振り返り呟いた。レンは、もしフウガではなくステアゴールドに養育されていたら自分はどんな人間になっていたんだろうと思った。直ぐにアンの他人を見下した顔が浮かびゾッとした。

 「ぼ、僕はフウガおじいさんに育てられて本当に良かったと思います」

 「誠に拙者もそう思います、ステアゴールド殿の手で養育されていたらアン様ような…いや失礼」

 と、ヨーゼフは、アンの夫であるアルスに気を遣い最後まで言わなかった。その代りマルスが言った。

 「義姉さんみたいな高飛車で傲慢な性格になってたな、そうだったら俺が徹底的にいじめてやってたがな、あはははは」

 レンは、心底フウガに育てられて良かったと思った。そして、アルスは、アンの指輪とステアゴールドの数珠がどの様にして二人に渡ったかを話した。

 「祈祷師?タリス?ふぅむ聞いた事が無いな…コノハ聞いた事あるか?」

 と、マルスが妹コノハに聞いた。コノハは、少し考えてハッとした顔をして答えた。

 「そう言えばこの間、学校で誰かが言ってたなぁ城下に良く当たる占い師が居てね、その占い師って物凄く不思議な感じなんだって」

 「何だよ占い師かよ、祈祷師だぞ祈祷師、占い師じゃ…あっ?待てよ、以前にも似たような事が確か…」

 「ランドール、ライン公のやかただろマルス」

 と、レンがマルスの言葉尻を捕って言った。ヨーゼフもうんと頷いている。

 「その占い師、イビルニア人いや半イビルニア人かも知れない」

 と、レンが静かに言うとカレンが残念そうな顔をした。カレンは、近くその占い師に運勢を見てもらおうと思っていたからだ。

 「ともかくその占い師を調べた方が良いな、軍部に連絡しておこう」

 「陛下、その事なら俺達にお任せ下せぇ、半イビルニア人と聞いて俺達が黙っていたらテラン兄貴に合わせる顔がありません」

 「何しろ半イビルニア人はシドゥあにぃのかたきですからねぇ」

 と、カツとシンが鼻息を荒げて言った。全ての事情を知っているイザヤは、それならとカツとシンの申し出を受けた。

 「ではよろしく頼む」

 「合点です、では早速行って参ります」

 と、カツとシンは、その占い師を探しに城下に向かった。イザヤとナミは、レンとヨーゼフに礼を言いサモン家相続の話しを始めた。

 「やはり余の考えは変わらぬ、サモン家はレオニールの次男三男をもって相続させる、法も少し変える、明日の会議で何が何でもステアゴールド達反対派を納得させてやるわ」

 と、イザヤが大真面目な顔をして言うと今度は、マルスが珍しく神妙な顔をして言い出した。

 「その事なんだけどよ父上、母上、サモン家は俺が継ごうと思う」

 「はぁぁぁ?マ、マルス何を言ってるんだ」

 「マルス…どういう事なの」

 と、この場に居た全員が驚いた。イザヤもナミも息子が冗談で言っているのではない事だけは、見て取れた。レンとヨーゼフは、顔を見合わせ呆然とした。

 「だって考えてみろよ、レンとエレナに将来男の子が二人も三人も生まれるとは限らないんだぜ、もしも相続させたとしても反対派だった連中に苦労させられるだろうし、俺が継ぐって言えばステアゴールド達も文句は無いはずだ、連中は有力な武家貴族の次男三男に相続させようと考えてるがフウガの事を考えたらさ、何の縁もゆかりも無い赤の他人に相続されるより俺が継ぐ方がフウガも喜ぶと思うんだ、ホントはレンの子の方が良いんだろうけど」

 と、マルスは、話した。

 「しかしそうなると臣籍降下になるぞ、お前は皇族を離れる事になる」

 「分かってるさ」

 「マルス、本当に良いのかい?」

 と、レンは、心配した。まさかマルスが継ぐ事になるとは考えもしなかった。イザヤ、ナミ、アルスが何やら話し込んでいた。話しがまとまったのかイザヤは、マルスに言った。

 「良かろうサモン家はお前が継げ、しかし臣籍降下はさせん、サモン家を皇族扱いとする」

 そして、翌日に開いたサモン家相続の会議の場でマルスは、居並ぶ貴族達に自分がサモン家を継ぐ事を話した。皆、大いに驚いた。ステアゴールドは、呆然とした。そして、マルスがサモン家を継ぐ事によりサモン家を皇族扱いとするとイザヤが言った。貴族達に反対する者は、居なかったので案外あっさりと決まった。

 「なんかあっさり決まっちまって気が抜けるな、絶対ステアゴールド達が何か行って来ると思ったのに」

 「そうだね、でも良かったよマルスが継いでくれて、おじいさんもきっと喜んでくれるよ、ありがとう」

 と、会議が終りサモン家相続も解決しレンとマルスは、のんびりと午後の時間を過ごしながら話していた。

 一方、ステアゴールドは、屋敷に帰りアンにサモン家相続の話しをしていた。

 「まさか、マルス殿下がお継になられるとはな…しかし皇族扱いとは気に入らんな、サモン家の家格が当家より上になる」

 「いかがなさるのですか父上、皇帝陛下が皇族扱いとお決めになられたのでしょう」

 「まぁそうだ、その事はくつがえらんだろう、しかし何か言ってやらねば気が晴れぬ、そうだ明日にでもレオニール王子を当家に招待しようか」

 と、ステアゴールドは、突然言い出した。ステアゴールドは、レンに嫌味を言ってやろうと考えた。素面しらふでイザヤやマルスに嫌味を言えるほどの度胸は、この男には無い。

 「それは良い事ですがレオニール王子お一人を招待なさるのですか?きっとあの老人と海賊上がりの二人も付いて来るんじゃありませんか?」

 と、アンは、左手中指の指輪を愛おしそうに眺めながら言った。ステアゴールドは、マルス殿下が来るよりは、ヨーゼフとカツ、シンが来る方がまだ良い言った。

 「では早速、招待の使者をお城に送ろうレオニールがどの様にフウガ・サモンに躾けられたか見てやる」

 そう言ってステアゴールドは意地悪く微笑んだ。

 サモン家相続会議が終ってから三時間後、ジャンパール中に新聞各社が号外を出した。「マルス殿下、サモン家を相続する」と見出しに書いてある。その号外を城下に半イビルニア人の占い師を探しに出ているカツとシンが配っている者から受け取り驚いていた。

 

 

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