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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
133/206

サモン家始末・一

 トランサー王国の港を出て三日後、レン達は、ジャンパールの港に到着した。港では、城からの迎えの魔導車が停まっていた。

 「さぁ早くお乗り下さい」

 と、役人がレン達を魔導車に乗せジャンパール城へ向かった。城門を抜け中門辺りで魔導車が停まり降ろされた。ここからは徒歩で城内に入る事になる。レンは、マルスの結婚式でつい数か月前に来たばっかりの城なのに何故か懐かしさを感じた。季節が変わったからだろう。レン達は、謁見の間に通された。そこには、皇帝イザヤと皇后ナミが、一段高い玉座に座りその傍で去年結婚したアルス皇太子夫妻が居て、その反対側にマルスとカレン夫妻、コノハ皇女が居並んでいた。

 「いやぁ良く来てくれた、早速だが直ぐにこれへレオニールの署名と捺印を」

 と、イザヤ皇帝が言い、侍従がレンの前に書類を出した。サモン家相続の保留と書かれてあった。これが無ければサモン家の名跡が自動的に無くなる事になる。レンは、直ぐに署名捺印をして侍従に手渡した。

 「急いで評定所へ持って行け」

 と、イザヤ皇帝が侍従に言った。侍従は、書類を持って慌てて謁見の間から出て行った。

 「ふぅ、これでしばらくは大丈夫だな、さぁ奥でお茶にしよう」

 と、イザヤは、レン達をいつもの部屋へ連れて行った。その様子を面白くないといった顔をしてアルス皇太子の妻アンが見ていた。彼女は、ジャンパールの名門貴族の出で気位が高い。レンは、義理にも従姉弟いとこになるから仕方がないが、付き添って来たヨーゼフやカツとシンまでが皇帝の私室に入る事が気に入らなかった。

 アルス皇太子の妻は、ジャンパールの名門中の名門貴族ステアゴールド公爵家の出身で生まれた時から将来は、アルスの妻になる事が決められていた。アルスとアンは、恋愛でもなく見合いでもなく自動的にその年齢に達した時に結婚した。

 「いやぁすまなかったねぇレオニールや、危うくフウガの家を潰してしまう所だったよ」

 と、自ら入れたお茶をレンに渡しながらイザヤが言った。ヨーゼフやカツとシンにも自ら入れたお茶を渡しているイザヤを見てアンは、驚いていた。

 「義父上様おとうさまはいつもあのように自ら入れたお茶をあの者達にお振舞いになられるのですか?」

 と、アンがアルスに小声で言った。アルスが「そうだよ」と小声で答えると、とんでもないといった顔をした。

 「あのおかみ

 「伯父さんと呼んでくれレオニール」

 と、イザヤは、にこにこしながらレンに言った。レンは、少し照れながら「伯父さん」と呼びサモン家がどうなるのか聞いた。

 「先ほどお前に署名捺印をしてもらったのは一時的なもので近いうちにサモン家の当主を決めなければならない事は変わらないのだ、どうしたものか」

 現段階では、一時的に取り潰しを免れたと言うだけだった。

 「もう、将来レンの子供に継がせれば良いじゃねぇか父上、何で出来ないんだよ」

 「それはなりませんわ、マルス殿、それともっと綺麗な言葉をお使いなさい」

 と、マルスにアンが姉様ぶってぴしゃりと言った。マルスは、あからさまに兄アルスに嫌な顔をして見せた。アルスは、ばつの悪そうな顔をして見せた。アルスは、完全にアンの尻に敷かれている様だった。

 「サモン家の当主はジャンパール人でなければなりませぬ」

 「何言ってやがる、レンのお袋は父上の妹だぞ、俺達の叔母さんだ半分はジャンパール人だぞ」

 と、アンの言葉にマルスが言い返した。

 「そうよ、お義姉様ねえさまそれにレンのお嫁さんのエレナさんはジャンパール人よ」

 と、コノハも続いて言った。

 「ああ、あの平民の子…確かにジャンパール人ね」

 と、アンは、エレナの事を平民出身の者としか見ていない。マルスの結婚式で顔を合わせた際、どこか馬鹿にした風があったのをレンは、思い出した。ヨーゼフやカツ、シンは、顔には出さなかったがはらわたが煮えくり返る思いで聞いていた。アンは、エレナの事を嫌っている様だった。理由は、分からない。アンがエレナの家が平民ではなくせめて武家貴族なら良かったのにと言った所でナミ皇后が止めた。

 「お黙りっ!これ以上エレナを馬鹿にする事はわたくしが許しません」

 これには、さすがのアンも黙った。ざまあ見ろとばかりにマルスがアンを見た。そして、サモン家の始末は、明日レンを交えて会議する事と決めレン達は、マルス夫妻の部屋に行った。以前のマルスの部屋を改装し二人では、十分すぎる広さになっていた。マルスとカレンは、レン達を座らせお茶を持って来た。

 「ムカつくだろ、あの女」

 「へい、エレナ姐さんの事を散々に言いやがってぶん殴ってやりてぇですよ」

 と、カツが怒った様に言った。

 「おやさしいアルス殿下には少々合わぬ姫君ですな」

 と、ヨーゼフがお茶をすすりながら言った。マルス、カレンそしてコノハは、アンが皇室入りしてからの事を一部始終レン達に話した。そして、サモン家相続の件について一番口出ししている者がアンの父ステアゴールド公爵だと分かった。明日の会議でそのステアゴールド公爵と顔を合わせる事になる。

 レン達がマルスの部屋でのんびりと過ごしている頃、アンは、夫アルス皇太子にレン達の態度について文句を言っていた。

 「一体何ですか、あの者達の態度は!レオニール殿は良いとしてあの年寄りとガラの悪い二人は許せませぬ、義父上おとうさまはこの国の皇帝陛下ですよ、もっと恐れ入っても良いはずです、殿下からもっと身分をわきまえろと言ってやるべきです」

 「そうかい?確かに初めて会った時はあんな感じじゃなかったけど、父上も母上も何も言わないからあれで良いんだよ、レンの家臣だしね」

 と、アルスは、全く気にもしていない様子だった。アルスは、マルスから聞いたヨーゼフやカツ、シンの話しをアンにしてやったが、やはり良い顔をしない。ヨーゼフがこの世界では、世界三大英雄の一人として数えられている事は、アンも知っているしトランサー王国では爵位を持っている歴とした貴族である。ヨーゼフの事よりカツとシンが問題だとアンは言った。海賊上がりの軍人風情がイザヤとナミの前に姿を見せる事が許せないらしい。

 「レオニール殿も連れて来る者を選んで頂かないといけませんわ」

 と、終始ふくれっ面の妻を持て余していたアルスだった。

 翌日、レン達は、朝食をマルス夫妻の部屋で取った。いつものように食堂で食べると義姉が何を言い出すか分からないからとマルスの気遣いだった。朝食を済ませたレンは、ヨーゼフを連れマルスと共にサモン家始末の会議に出かけた。残ったカツとシンが都を見学したいと言ったのでコノハとカレンが案内すると言い出した。

 「め、滅相もございません、姫様方に案内なんてとんでもねぇです、自分達でブラブラしてきますよ」

 「良いの、良いの、城に居たってアン義姉ねえさんがうるさいだけだから」

 「大きな声では言えませんが本当にうるさいんです、どうか私達に案内をさせて下さい」

 と、恐縮するカツとシンにコノハとカレンが言った。どうやら毎日の様にアンに小言を言われている様だった。それならとカツ、シンは、コノハ達に城下の案内を頼んだ。当然コノハ達の護衛も一緒に来る。一応コノハは、母ナミ皇后にカツとシンを連れてお忍びで城下に行く事を伝えた。

 「よろしい、良く案内してあげなさい」

 と、許しが出たので意気揚々と城内の長い廊下をカツ、シンを連れコノハ達が歩いていると前から女官を引き連れてアンが歩いて来た。

 「どちらへ?」

 と、アンは、コノハとカレンに姉様ぶって聞いた。コノハは、ムッとしたが顔には出さずカツとシンに城下を案内してあげるのだと言った。アンは、カツとシンを蔑んだ目で見て言った。

 「何も皇族がするような事ではないでしょう…ましてや…」

 「まして何?母上から了承を得てます」

 と、コノハがアンの言葉尻を捕って言った。語気には、これ以上何も言うなといった意味が込められていた。母上と聞きアンは何も言わずもう一度カツとシンを蔑んだ目で見て女官を連れて立ち去って行った。

 「ごめんね、カツさん、シンさん」

 「とんでもねぇですよ、気にしちゃいませんぜ」

 「良かった、行こう」

 と、コノハは、言いカツとシンの手を引いて城を出た。その頃、レンに付き添いサモン家始末会議に出席していたヨーゼフは、ステアゴールド公爵に難癖を付けられ困っていた。

 「何故、他国人のロイヤー閣下がこの会議に参加されるのか?この会議はジャンパール人の会議ですぞ」

 「そ、それは…」

 と、ヨーゼフは困りレンの顔を見た。そこへイザヤ皇帝が遅れて会議部屋に入って来た。

 「お上、何故他国人であるロイヤー閣下がこの会議に参加しておられるのですか?」

 と、イザヤを見るなりステアゴールド公爵が言った。娘を皇室に嫁がせ姻戚関係にあることから礼儀も何も無い。イザヤは、内心ムッとしながらも他の貴族や武家貴族の手前、顔には出さず冷静に答えた。

 「当たり前ではないか、ヨーゼフは我が甥レオニールの後見人でもあり、フウガの無二の親友である、其の方がいちいち口を出す事ではない控えよ」

 と、イザヤに言われステアゴールド公爵は、あからさまに悔しげな顔をして着席した。周りの者が冷や冷やしながら見ていた。気を取り直したイザヤが会議を始めると言いサモン家始末が話し合われた。

 「余の考えとしては将来レオニールとエレナに出来るであろう次男三男あたりにサモン家を継がせるのが一番だと思うのだが」

 と、イザヤが言うとその通りですと会議に出席していた貴族、武家貴族の大半が賛成したがステアゴールド公爵とごく一部の貴族が異を唱えた。サモン家は、ジャンパールの武家貴族が継ぐべきだと言った。

 「しかし、どこの家も断っておるではないか」

 と、イザヤが言った。実際、有力な武家貴族にサモン家相続の話しはされていた。どこの家も名前が大き過ぎる言って断っていた。レンは、自分の居ないところでサモン家の話しが進められていた事に腹が立った。

 「もうレンの子供が継ぐ事で良いじゃねぇか、何で駄目なんだよ」

 と、マルスがうんざりした様に言った。ステアゴールド公爵が娘アンと同じ鼻をマルスに向けながら答えた。

 「レオニール様はジャンパール人の血をお持ちなれど今やトランサー人であられます、他国人である以上ジャンパールの家を継ぐのはおかしいと申しておるのです、サモン家はジャンパール人が継ぐべきです」

 と、娘と同じ事を言うステアゴールド公爵を思い切り殴りたいとレンは思った。イザヤは、レンに意見を求めた。生まれはトランサーだが赤ん坊の時にフウガによってジャンパールに連れて来られフウガの下でレンは、育った。ジャンパール人としての教育は十分に受けて来た。

 「出来る事なら僕の子供に継がせたいと思います…時間は掛かると思いますが」

 「私もレオニールの考えに賛成だ、フウガもその方が喜ぶだろうし」

 と、アルス皇太子がにっこり笑って言うとステアゴールド公爵が何て事を言うのだといった顔をして娘婿であるアルスを見た。アルスは、知らぬ顔をした。

 「皆様方、お忘れか?当主不在で三年以上家名を残す事が出来ない事を、この国の法ですぞ!」

 と、ステアゴールド公爵が少し声を荒げて言った。家名を残すためには、レンが半年に一回はジャンパールに行き保留の書類に署名捺印をしなければならない。面倒である。

 「んじゃあ法を変えれば良いじゃねぇか、簡単な事だ父上はサモン家が消える事を望んじゃいない」

 と、マルスが言うとステアゴールド公爵が馬鹿にしたようにマルスを見て答えた。

 「殿下、一個人のために国法を変える事など出来ませぬぞ、国民に示しが付きませぬ」

 「余は断じて許さぬぞ、サモン家の名跡を消す事は絶対に許さぬ、ステアゴールド少し頭を柔らかく出来ぬのか?」

 ステアゴールド公爵は、何も答えず目を閉じた。そして、会議は平行線のまま終わった。レン達は、マルスの部屋に行った。

 「全く父娘おやこ揃って嫌な連中だよ、いつも最後にはああなるんだ、ステアゴールドの奴が賛成しないんだ」

 と、マルスは、レンとヨーゼフにコップを渡しながら言いぶどう酒を注いだ。

 「あの公爵はそうとう頭が固いようですな殿下」

 と、ヨーゼフは、ぶどう酒を一口飲んで言った。

 「そうなんだ、でも昔はあんなに固い奴じゃなかったんだぜ」

 「ふぅん、何か僕あの人に相当嫌われてる気がするな」

 と、レンもぶどう酒を飲みながら言った。そこへコノハとカレンがカツとシンを連れて城下から帰って来た。カツとシンは、町の様子をレンとヨーゼフに嬉しそうに話していると夕方になり侍従が呼びに来た。

 「お夕食の時間です、皆様食堂の方へ」

 「いらねぇよ、ここで食べる」

 「お上がお呼びですので」

 と、侍従に言われ渋々マルス、カレン、コノハは、レン達を連れて食堂へ向かった。どういう訳かアンが居なかった。

 「あれっ?義姉さんは?」

 「ああ、アンは急用で実家に帰ったよ」

 と、アルスが答えた。マルスとコノハは、久しぶりにのびのびと食べれると諸手もろてを挙げて喜んだ。そんな様子を苦笑交じりにアルスが見ていた。

 「義姉さんきっと今日の会議の事を親父おやじから聞いてるんだぜ」

 と、マルスが目の前の料理にがっつきながら言った。アンが居れば行儀が悪いと小言を言われている。

 「しかし、何故ステアゴールドはレオニールの子を待てないのか、フウガの事を思えばレオニールの子が継ぐのが一番良いと思うのだがねぇ」

 「全くその通りですお上、フウガも何の縁もゆかりもない者に自分の家を継がれるのは嫌でしょう」

 と、イザヤとナミが言うとアルスもその通りだと言った。

 「こうなったらレン、さっさとエレナにお前の子を産ませろ沢山な」

 と、マルスに言われレンは、顔を赤らめた。そんな様子をヨーゼフ、カツ、シンは、にこやかに見ていた。

 その頃、やはりマルスが言ったようにアンは、実家の屋敷で父ステアゴールド公爵から会議の様子を聞いていた。

 「まぁ夫がその様な事を…」

 「左様、レオニールの子がサモン家を継ぐ方がフウガも喜ぶと…よくも私の前で…十五年間私を騙していたフウガ・サモンが喜ぶと」

 ステアゴールド公爵は、フウガに恨みを抱いていた。それは、ジャンパール皇国では名門中の名門とされる当家を差し置いて武家貴族如きサモン家が一国の王子の養育をしていたからだ。さらにその恨みは皇帝であるイザヤにも向けられていた。何故レンの養育を自分に任せてもらえなかったのか。娘は、将来皇室に入る事を約束されているのにである。そうなるとステアゴールド公爵は、何が何でもサモン家相続の邪魔をしてやろうと決意し娘アンにアルスの説得を命じた。父親思いのアンは、父に協力したが、上手くいかない。

 「アルス殿下を我が方の味方にするのだ」

 「はい、お父様、ですが夫はどうも話しをまともに受け合ってくれません」

 「それを何とかするのがお前の役目ではないか、しっかり頼んだぞ」

 「はい、お父様」

 と、この父娘は、サモン家相続の妨害を改めて決意した。そんなステアゴールド父娘の事などつゆ知らずレンは、歴代ジャンパール皇帝が祀られている部屋の手前に軍神として祀られているフウガの銅像の前に居た。レンは、無言でフウガの銅像を見つめていた。目には薄っすらと涙を浮かべている。

 「おじいさん…」

 と、レンは、一言呟いた。

 

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