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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
132/206

王族復帰

 アルカトが純白の世界に戻った翌々日、大評定で死刑が決まったブラッツ侯爵、シャルワ公爵達の刑が町外れの刑場で執行された。国民は、怒りと哀れみをもって反乱軍指導者達の最後を見た。そして、全ての事後処理が終わり、マルスは、新婚旅行中だったテランジンとリリー、シーナ、ラーズとユリヤを連れてジャンパールに帰った。

 ヨーゼフは、またラストロをようして反乱を企てる者が現れるかも知れないと思い貴族や士官以上の軍人達に対しティアック家に改めて忠誠を誓わせるための誓紙血判状の提出を求めた。そして、ラストロ一家にも変化があった。今回の反乱は、旧シェボット派貴族達の恨みもあると言う事でシェボット家を元の王族に復帰させようと話しが持ち上がった。レンとヨーゼフ達は、神仏に帰依させたラストロの今までの態度や言動を見てザマロの様な性質は、一切ないとして賛成したが、ラストロ本人がそれを拒んだ。

 「レオニール様、ヨーゼフ閣下、私が城中にあってはまた良からぬ事を考える者が現れましょう」

 「いや、今回の事で悟りました、あなたが都の外に居る方が危険だと、神仏に帰依するよう頼んだ僕が言うのもなんだけど都に戻って僕を助けて下さい」

 「ラストロ殿、若はあなたを信じて申されております、トランサー城内にはまだシェボット家の屋敷が残ってござる、ご家族のためにも早々にお屋敷に戻られてはいかがかな?」

 と、レンとヨーゼフは、ラストロに話した。ラストロは、意外な顔をした。父ザマロが成敗され自分が城を出た後に屋敷は、取り壊されているとばかり思っていた。確かに取り壊そうと言う話しはあったが、レンが止めていた。レンは、いつの日かシェボット家を再興させよう考えていたからだ。レンにとってラストロは、トランサー国内における唯一の親族である。

 「よくよく考えてお答え致しまする」

 そう言ってラストロは、城を辞した。ラストロは、悩んでいた。慰霊碑近くに建てた庵で復帰の件を考えていると妻子が会いに来た。妻ロザリアもまたレンとヨーゼフに夫ラストロが王族に復帰するよう説得して欲しいと頼まれていた。

 「あなた、若様やロイヤー公の仰る通り王族にお戻りになられてはいかがですか、あなたが王位に興味が無い事は皆ご存じのはず、それに…」

 と、ロザリアは、言いかけうつ向いたまま黙った。半イビルニア人ライヤーに自宅から連れ出されブラッツの屋敷で辱めを与えると言われ座敷牢に閉じ込められた時の恐怖が頭をよぎったからだ。この様に離れ離れの生活を送っていれば、いつまた同じような事が起きるかも知れない。ラストロも同じ事を思った。

 「良し…戻るか王族に、しかし私に一切の野心は無いと言う事を国民や貴族達に改めて知らしめねばならん、どうしたものか」

 ティアック家に対しての忠誠を示す誓紙血判状は、改めて提出した。しかし、それだけでは足りないと考えたラストロは、その事をレン達に相談する事にした。王族復帰の話しを聞いてから一週間が過ぎていた。

 「レオニール様、ヨーゼフ閣下、王族復帰の件お引き受け致します、しかし私が王位に一切興味が無いと言う事を国民や貴族達に知らしめる必要がございます、そこで私はシェボット家家訓を作りました」

 と、ラストロは、謁見の間で言い巻物を一つ取り出しヨーゼフに渡した。レンは、ヨーゼフに読めという様な合図を送った。ヨーゼフは、巻物をそっと開き読んだ。

 「え~一つシェボット家は未来永劫ティアック家に対し忠誠を誓う、一つシェボット家は何があってもティアック家を裏切らない、一つシェボット家はトランサー王国内外における儀式・祭典のみを司り政治的関与は一切しない、一つティアック家に大事有れば真っ先に馳せ参じティアック家の弓となり盾となる事、以上…いかがでござる若?」

 「儀式祭典のみを司るって?」

 と、レンは、ラストロを見た。ラストロは、庵で過ごしていた時、死者の供養が終るとトランサーの歴史書や古い儀式のやり方などが書かれた書物を読み漁っていた。自然と知識が身に付く。

 「以前の父の様な宮中大臣では役目も無くそんな私を見て良からぬ事を企てる輩が居ないとも限りませぬ、そこで政治的な色の無いお役目は無いかと考えましたるところ、今のトランサーには儀式、祭典を取り仕切るお役目が無い事に気付きシェボット家の専門とさせて頂きたく思い家訓に加えました、いかがでございましょう?」

 「な~る、それは妙案じゃ、なるほど式部大臣と言ったところかな」

 「僕もそれには賛成するよ、ヨーゼフではさっそくディープ男爵達に話そう」

 さっそくディープ男爵達、今のトランサー王国を動かしている貴族や政治家達が集められラストロ家の家訓が紹介された。

 「なるほど、式部大臣ですか…それならば王族としての体面も保たれましょうぞ」

 「左様、シェボット派だった連中も文句は言いますまい」

 ディープ男爵達も納得したので直ぐにラストロ家族を城内の屋敷に移す準備が進められトランサー国内外にシェボット家が王族に復帰しラストロ・シェボットがトランサー王国式部大臣に就任した事を知らせた。


 平和な月日が流れレンも十九歳になった。春にジャンパール皇国でマルスとカレンの結婚式があり、レンは、エレナと共に参列した。レンは、マルスの従兄弟になるので皇族側の席に着いた。その翌月には、ランドール王国でラーズとユリアの結婚式に参列。それぞれが幸せを手にしていた。

 「来年は僕達の結婚式だね」

 「ええ、皆来てくれるかしら」

 と、レンとエレナは、自分達の部屋でのんびり過ごしながら話していた。一方ヨーゼフ達重臣は、結婚式と戴冠式の事で悩んでいた。どちらを行うにしてもレンの親族が少な過ぎるのである。まともに血縁者と言えばラストロ一家だけであった。

 「これでは格好がつかぬ」

 戴冠式においても本来ならその国の高僧や司祭から王冠が渡されるが、今のトランサー王国に戴冠式を行えるほどの高僧や司祭がいないのだ。神仏嫌いのザマロが死刑にしていた。

 「ラストロ殿下、式部大臣として何か良い案はござらぬか?」

 と、ジャスティ大臣がラストロに意見を求めた。ラストロも困っていた。結婚式は、自分達家族やジャンパールからは、マルス達が来るはずなのでまだ良いが、戴冠式は、世界にレンがトランサー王国の正式な国王と宣言する場でもある。レンの恥は、トランサー王国の恥になってしまう。

 「そう言えば…」

 と、ヨーゼフが言い出した。レン達がイビルニア国との戦争を終わらせ帰国してきた時、一緒にヘブンリーのアストレア女王と従者アンドロスが来た事を思い出していた。

 「アストレア女王に協力して頂こう、若の戴冠式には出席されると言っておったしのう、あの女王から冠をいただければ他国に馬鹿にされる事はまずあるまい」

 「おお、誠にアストレア女王が戴冠式に出席されるのですか?天の民ですぞ」

 と、ディープ男爵が驚いて言った。人間嫌いで有名なヘブンリーのエンジェリア人、世界の大事以外で人間と関わる事を極端に避ける民族である。

 「大丈夫じゃ若の戴冠式には必ず来る」

 「いやしかし、どうやってヘブンリーに使者を送るのですか?以前テランジン殿からヘブンリーの話しを聞いた時、都に着くまで一年近く掛かったと聞きましたぞ、それでは間に合いませぬ」

 「ふふふ、それなら心配無用じゃ」

 と、ヨーゼフは、おそらく女王は、この会議の事を知っているはずと答え、中庭にあるラダムの木を通して手鏡でトランサーの様子を見ていると話した。皆が信じられないといった顔をしたのでヨーゼフは、ヘブンリーでアストレア女王から聞いたレンの先祖の話しをした。

 「なるほど、あの木にはそんな力があったのですか、だからラダムの木を絶対に枯らしてはならないと言い伝えられていた訳ですな」

 皆が納得したところでヨーゼフは、大きな声で言い出した。

 「女王、聞いておられるか?来年のレオニール様の戴冠式では女王からレオニール様に王冠を渡して頂きたい…これで良いわ」

 と、ヨーゼフは、アストレアを信じ会議を終わらせた。

 それからまた月日は流れ、ラストロも式部大臣としてトランサー国民に認められ大小様々な儀式や祭典を取り仕切っていたある日、ジャンパール大使が血相を変えてレンに謁見を求めて来た。

 「何事でござる?」

 と、応対した役人が驚いて言った。

 「す、直ぐにレオニール王子にお取次ぎ下さい急を要します」

 何事だろうと役人は、ヨーゼフに報告した。大使の様子がただ事ではないと分かったヨーゼフは、レンに話し大使を謁見の間に通した。

 「王子、大変です、急ぎジャンパールへお行き下さい、ササ、サモン家がサモン家が」

 「サモン家がどうかしたの?」

 「は、はい、当主の居ないサモン家がこのままではお取り潰しになるやも知れないのです」

 「ええっ何だって?」

 と、レンとヨーゼフが驚いた。フウガが死んだ後、サモン家の家督は、レンにあったがレンがジャンパールで立太子式を行いレオニール・ティアックと元の身分になった時点でサモン家の家督が無くなったと言うのだ。立太子式から三年が過ぎていた。このまま当主が不在であれば取り潰されてしまうと大使が言った。

 「それで僕にどうしろと?」

 「王子にジャンパールに行って頂き法的な手続きを取ってもらいまする、王子はフウガ・サモン公爵のお孫として育てられておりました、戸籍もサモン家にありましたので何をするにも存命の縁者が居る場合は、そのお方の承諾が必要なのです、おかみはサモン家が取り潰される事を望んではおりませぬ」

 レンがトランサー王国王子となった頃、当主の居なくなったサモン家をどうするか議会で話し合われた。サモン家の孫として育ったレンの将来生まれて来るであろう子供の次男三男に相続させようと話し合われたが、反対する者も居た。ジャンパール人からトランサー人になったレンの子供を養子にするのはおかしいと言って来た。サモン家は、ジャンパール人が相続すべきだと言った。そうこうしている内にレンがトランサー王国を奪還し、イビルニアとの戦争が始まりジャンパール国内が慌ただしくなり、サモン家相続の話しをする者が居なくなって月日が流れ、マルスの結婚式の後で思い出したかの様にまた話しが持ち上がった。

 「何で今頃になってそんな話が出て来るのさ、春頃にマルスの結婚式に行った時には何も言わなかったじゃないか」

 と、レンは、苦笑を交えて言った。大使は、申し訳なさそうな顔をしていたので気の毒に思ったレンは、直ぐに答えた。

 「分かった行くよ、ヨーゼフ一緒に行こう、それとカツとシンを連れて行く」

 「ははっ」

 「ありがとうございまする王子」

 と、ジャンパール大使は、急いで大使館に戻り本国に連絡した。レンは、ヨーゼフ、カツ、シンとジャンパールに行く事をエレナ達に伝えた。

 「もう反乱を企てる者はおらんと思うが国内の事頼んだぞテランジン」

 「はい、おやじ、俺やルークとサイモンで睨みを効かせます」

 「カツ、シンしっかり殿様と旦那のお世話をするんだぜ」

 「兄弟、俺達に任せてくれ」

 「エレナ、ジャンパールに行ったら君の両親と弟に会って来るよ」

 「ええ、よろしく伝えて来て」

 レン達一行は、港に向かった。港には、運良くジャンパールの民間の高速艇が停泊してしたのでそれに乗りジャンパールに向かった。本来ならばトランサー海軍の軍艦で向かうはずだが事は急を要するので、わずかな供連れで向かう事となった。


 

 

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