決着
「やっと来たかレオニール、待っていたよ」
と、イビルニア人は、フウガに剣先を向けながらレンに言った。レンは、自分の事をレオニールと呼んだ者がバズとセンとリクを殺した者だと直ぐに分かった。
「逃げろレン」
と、フウガは、レンを見ないでイビルニア人から目を離さずに言った。イビルニア人もフウガから目を離さない。フウガの腕から血が滴り落ちている。レンは、傷ついたフウガを見て逃げるどころかフウガを守らねばと思い、フウガの傍に行こうとするが、イビルニア人に阻まれて行けない。
「レオニール、十五年ぶりだねぇ会えて嬉しいよぉ」
イビルニア人に言われた瞬間、レンは、これまで感じた事のない恐怖と嫌悪感で一杯になり、急に身体が凍り付いたように動けなくなった。
「レン早く逃げろっ」
と、フウガは、言いイビルニア人に斬りかかったがイビルニア人は、寸前で受け止め鍔迫り合いになった。
「ぬうぅぅ…」
「危ないじゃないか、今レオニールと話てたのに、君には少し大人しくしてもらわないとね」
イビルニア人は、そう言ってフウガを蹴り飛ばした。フウガは、蹴り飛ばされた瞬間イビルニア人の足を斬り付けた。蹴り飛ばされフウガは、本棚に背中からぶつかった。本が数冊、床に落ちた。太もも辺りを斬られたイビルニア人は、何もなかったかのように立っている。
「ぐぅぅ…」
倒れたフウガは、痛みでなかなか起き上がれないでいた。かつてのフウガ・サモンであれば簡単に目の前にいるイビルニア人の首を刎ねていただろう。しかし、老人となったフウガには、体力の限界があった。ましてや夜のイビルニア人を相手にするには相当きついものがある。
「そこで大人しく見てろ」
と、イビルニア人は、フウガに言い、素早くレンを取り押さえた。
「フウガにも会いたかったが君にも会いたかったんだよレオニール、やはりボクが思った通りだぁ、綺麗な顔をしている…くくく、匂いも良い、若い人間の匂いだ」
イビルニア人は、レンの両手を掴み上げ壁に押し付けて言った。レンは、恐怖で震え上がっている。
「ひいいぃぃぃ」
「うふふふ、そんなに怖がるなよ、後でたっぷりと時間をかけて嬲ってやるから…そしてお前の綺麗な顔を切り刻んでやるよ」
そう言ってイビルニア人は、レンの股間をまさぐった。レンは、泣きながら首を横に振るしか出来ないでいた。そのしぐさを見たイビルニア人は、クスクス笑って仮面の奥でジュルジュルと舌なめずりした。
「可愛いなぁ…今すぐにでも嬲ってやりたいがまずは、お前の偽ジジイを殺してからだよ」
「レ、レオニールとかにに、偽ジジイとか何を言ってるんだ、ど、どうして僕のおじいさんを傷つける?」
レンは、勇気を振り絞り震える声でイビルニア人に言った。イビルニア人は、やれやれと言った態度で答えた。
「んん?なんだ知らないのか自分の素性を…フウガも人が悪いな…ちゃんと教えてあげなきゃ」
「うるさい黙れ、レンから離れろっ」
と、フウガは、やっとの思いで立ち上がった。そしてまた刀を構えた。それを見たイビルニア人は、レンの鳩尾を殴りフウガに向かい合った。
「げほぉおお」
レンは、その場に崩れた。今までに経験した事のない痛みだった。
「じっとしてるんだよレオニール」
そう言ってイビルニア人は、鉄の爪を左手にはめ、右手で剣を構えた。フウガは、間合いを少しづつ詰め激しく撃ちかかった。イビルニア人は、長剣でフウガの攻撃を受け左手の鉄の爪で突いてくる。フウガは、それを紙一重でかわしてまた撃ちかかる。
「やるじゃないか、まだそんなに体力が残っているんだねぇ、驚いたよ…ふふふ」
イビルニア人は、全く疲れた様子もなかった。レンは、意識を失いそうになりながらフウガとイビルニア人の攻防戦を見ていた。痛みと恐怖で身体が思うように動かない。
「ううむ、さすがに歳を取るときついのぉ」
と、フウガは、肩で息をしながら言った。身体のあちこち斬り付けられている。その痛みがさらにフウガの体力を奪っていく。刀を正面に構えイビルニア人と睨み合う事、数分、フウガが、剣先を少し右にずらした瞬間、イビルニア人が長剣で突いてきた。フウガは、身体を大きく左に移動させ刀を振り下ろした。フウガ自慢の斬鉄剣がイビルニア人の長剣を叩き斬った。斬った勢いで今度は、イビルニア人の右腕の肘から下を斬り飛ばした。が、切り上げた事で右わき腹に隙が出来た。イビルニア人の左手の鉄の爪がフウガの右わき腹を襲う。
「ぐあぁぁぁ」
と、フウガの苦しそうな声が部屋に響いた。フウガの手から斬鉄剣が落ちる。イビルニア人は、ゆっくりと刺したわき腹から鉄の爪を引き抜き、フウガを蹴り倒した。倒れ込んだフウガは、わき腹を押さえ動けないでいた。
「ふん、ボクの腕を斬り飛ばした事は褒めてやるよ…でも気が変わった、お前の目の前でレオニールを犯してやる」
そう言ってイビルニア人は、レンの元に近づきうつ伏せになっているレンを足で仰向けにした。馬乗りになり仮面を外した。醜い顔が現れた。目は、細く吊り上がっている。イビルニア人は、口を使って器用に左手の鉄の爪を外した。左手でレンの顔や胸を撫でまわした。レンは、恐怖と嫌悪感で吐き気がしてきた。イビルニア人は、顔をレンの耳元に近づけ耳をチロチロと舐め始めた。
「や、や、やめてぇ…やめろぉ」
レンは、必死で抵抗した。馬乗りになっているイビルニア人を押しのけようとしているが、全く動かない。
「ううん、良い気持ちだろ?次は…」
と、イビルニア人の舌がレンの口元に移動し始めた時、フウガが後ろからイビルニア人を羽交い絞めにしレンから引きはがした。
「レン早く逃げろ、逃げるんだ」
と、フウガは、言いイビルニア人を必死で取り押さえた。イビルニア人は、フウガを振り放そうとしたが、フウガに左腕を掴まれ抑え込まれて床に押し付けられた。しかし、力づくで態勢を立て直し今度は、フウガを押さえつけた。
「何でイイところを邪魔する、このぉ」
と、イビルニア人は、左手でフウガの首を絞めた。フウガは、締め切られまいと両手でイビルニア人の左手を離そうとしている。レンは、震えながらもフウガを助けに行こうとした時、頭の中で女性の声がした。
(私は、ここにいる、早く私を出しなさい)
「誰っ?」
と、レンは、止まった。
(私は、ここだ、早く取りなさい)
また声がした。その時、ふとフウガの刀箪笥が目に入った。箪笥の隙間から微かな光が見えている。レンは、夢中で刀箪笥に近づき光が出ている引き出しを開けた。そこには、光を放つ不死鳥の剣があった。
(早くっ)
と、強く言われレンは、不死鳥の剣を取り出し鞘から抜いた。刀身が赤い光を放った。レンは、全身に力がみなぎってくるのを感じた。光に気付いたイビルニア人は、フウガを投げ飛ばしレンに近づいて来た。
「それは不死鳥の剣か、ザマロが必死になって探していたな」
そう言ってイビルニア人は、器用に片手で鉄の爪を左手にはめた。
「さあぁレオニールかかっておいで」
と、イビルニア人は、言ってレンに攻撃をしかけた。先ほどまで恐怖で震え上がっていたレンは、別人かと思うほどの働きを見せた。イビルニア人の攻撃を易々(やすやす)とかわし、イビルニア人の左腕を斬り飛ばした。続けざまに膝も斬った。斬られたイビルニア人は、膝立ちになりレンを見上げるような態勢になった。レンは、不死鳥の剣を水平にしイビルニア人の首に目掛けて払った。刃が、吸い込まれるようにイビルニア人の首に入り通り過ぎた。首が床に鈍い音を立てて落ちた。レンは、見事イビルニア人を討ち果たした。