お裁きの後で
ラスロト家族の登場で国民達は、また騒ぎ出した。口々にあれやこれやと言う。
「何でブラッツの野郎の言う事なんか聞いちまったんだラストロさんは」
「きっと深い訳があったのよ」
と、国民達は、ラストロに同情的だった。ラストロは、真っ直ぐブラッツを見ている。ブラッツは、ラストロから目を逸らした。ジャスティ大臣は、ラストロに一礼して問うた。
「ラストロ殿にお尋ねする、何故反乱軍に加担したのか?」
ラストロは、ブラッツを憎らし気に見つめて答えた。
「ブラッツ達に私の妻子を人質に取られた、そして彼らは私にこう言った、言う事を聞かねば妻を辱めると…それで不本意ながら彼らに従う事にした」
と、ラストロが話し終ると国民達からヤジや怒号が乱れ飛んだ。ジャスティ大臣は、国民を静かにさせ今度は、ラストロの妻ロザリアに問うた。
「奥方殿にお尋ねする、今ラストロ殿が申された事は誠か?どうやってブラッツに捕らわれたのか?」
「はい、夫が申した事は本当です、そこのライヤーと言う人が家に来て夫の具合が悪く今ブラッツ侯爵の屋敷で休んでいるから来て欲しいと言われ私は子供を連れて行きました、屋敷では座敷牢に入れられた夫の姿があり私は大変驚きました」
「何と座敷牢に?」
話しを聞いたジャスティ大臣は、ブラッツを睨み付けた。ロザリアは続けて話した。
「座敷牢に居る夫に言う事を聞かなければ私を辱めるとブラッツは言ったのです、その時私は上着を一枚切り裂かれました」
「何と…破廉恥な」
ジャスティ大臣は、信じられないといった顔をした。レン達、裁く側の誰もが激しい憤りを感じた。
「ブラッツ、たった今ラストロ夫妻が申された事、間違いないな?」
と、ヨーゼフが厳しい口調で言うとブラッツは、返事もせずただふて腐れているだけだった。そして、どうやって救出されたのかをジャスティ大臣がロザリアに尋ねると海軍の方に助けられましたと答えた。ロザリアを助け出したルークの部下と協力してくれたティアック派の貴族の家来がブラッツ家の執事と家来三人を連れて姿を現した。執事と家来三人は、悲惨な顔をしていた。
「俺達が屋敷に踏み込んだ時に居た連中です」
「だ、旦那様ぁ…私達は一体どうなるのですか?」
と、ブラッツ家の執事が泣きそうな顔をしてブラッツに聞いた。ブラッツが答えない代わりにヨーゼフが答えた。
「其の方ら主人の行いが悪だと知って我々に一切報告せなんだな罪は同等とまでは言わぬがそれなりに覚悟しておけ」
そう言われて執事と家来達は呆然としていた。そこでライヤーがくすくす笑い出し言った。
「フフフ、馬鹿な主人を持つと大変だな、まぁ私もお前達の馬鹿な主人に雇われてこうなってしまったのだからな大いに同情するよ」
ヨーゼフは、証言者であるライヤーの役目をこれまでと判断しレンにその事を話すとレンもそう思ったようで今度は、ジャスティ大臣に話した。そして、ライヤーと執事、家来三人の刑を言い渡す事にした。
「ライヤー、証言者としての務めご苦労であった、ここでお前とブラッツ家執事並びに家来共の刑を言い渡す、半イビルニア人ライヤー其の方半イビルニア人にして殺し屋を生業とし数々の人を殺傷して来た事重々不届きよってトランサー王国の正義をもって死刑に処す、ブラッツ家執事並びに家来共、主人ブラッツの行いを知りつつ諫める事もせず役人に報告もせずただ主人の命に従い続けた事不届きである、よって懲役一年を言い渡す引っ立てい」
ブラッツ家の執事と家来は、ルークの部下に連れて行かれライヤーは、カツとシンが大評定の場から連れ出して行った。ここで大評定は、小休憩に入った。無論ブラッツ達は、その場で座らされているだけである。しばらくしてレン達が元の席に着き大評定が続けられた。ジャスティ大臣が咳払いをして話し出した。
「妻子を人質に取りラストロ殿を担ぎ上げる事に成功した其の方らは反乱軍を動かし城に攻め入った訳だが、その反乱軍を作るにも金が必要だったろう、その資金はどうやって手に入れたのか?」
「左様、殺し屋に払う金もな、領地財産を半分にされた其の方らの経済力では不可能なはず」
と、ヨーゼフも言った。ブラッツとシャルワ公爵以外の貴族達は不思議そうにしていた。言われてみればおかしい。殺し屋を雇う金も反乱軍を作る金も全てブラッツとシャルワ公爵が出したような形になっていてヨーゼフが言う様に領地財産を半分にされた自分達には、その様な資金を出せるはずがなかった。
「ライヤーに一千万ユールを即金で渡した事といい反乱軍の資金といい、どうやって金を作ったのですかブラッツ候、シャルワ公」
と、ガンツ伯爵が不思議そうな顔をして言った。シャルワ公爵は、余計な事を聞くなと言わんばかりにガンツ伯爵を睨み付けた。
「教えてやろう」
と、ヨーゼフは、ブラッツの屋敷の書斎で見つけた小さな小箱を取り出しブラッツ達の前に置かれた台の上に乗せた。それを見たブラッツの顔色が一変した。
「あっ!?そ、それは…き、貴様ら…見つけたのか…」
「ああ、見つけたともわしと義息子で其の方の屋敷の書斎を隈なく調べた結果、細工された壁からこれが出て来てのう、中には鍵と地図が入っておったわ、のうテランジン」
と、ヨーゼフは言いテランジンを見た。テランジンが軍人席から立ち上がり答えた。
「はい、義父上確かにその箱はブラッツ屋敷の書斎から出て来た物です、そしてその中の地図に描かれた山はハーツ山でした、かつてブラッツ家が所有していた山の一部の地図です」
「そこには何があった?」
「はい、巧妙に隠された倉庫がありました、その倉庫は山に穴を空け作った倉庫です、その鍵は倉庫の扉の鍵でした」
と、テランジンは話しニヤッと笑いブラッツを見た。ブラッツの顔から脂汗が噴き出していた。
「そしてその倉庫の中には驚くほどの金銀財宝が眠っておりました」
と、テランジンが言うと大広場全体がどよめいた。
「どういう事かなブラッツ?其の方が所有していた山に何故その様な金銀財宝があったのか、そしてその財宝は誰の物だったのか、其の方の物ではあるまい財宝の持ち主はザマロであろう、何しろ其の方はザマロの金庫番と言われていたのだからな」
と、ヨーゼフは言いザマロの財宝を持って来させた。財宝を目の前に置かれブラッツとシャルワ公爵は、悲痛な顔をした。ラストロも驚いていた。父ザマロの財産は全て国に没収されているとばかり思っていたからだ。
「知らなかった、お前が父の財産を管理していた事は知っていたがこれほどまでに隠していたのか」
「は、反乱が成功した際これは全てラストロ様にお渡しする物でした」
ラストロは、嫌な顔をした。父ザマロが悪行を重ねて集めた財宝など貰っても迷惑なだけだった。
「わしはあの時、其の方の助命を致す代わりにザマロの隠し財産を全て提出しろと言ったはず、何故嘘を吐いたのか?もしやその時から今回の反乱を企てていたのか?」
と、ヨーゼフの言葉にブラッツは、重い口を開いた。
「全て出さなかったのはわしの出来心だ、本当だ…そしていつか引き渡すつもりだったが気が変わった、質素倹約令で地味に暮らさねばならぬようになり、せめて気分だけでもと思い、密かに山に行っては倉庫の中に入り金銀財宝を眺めていた、最初はそれだけで良かったそれだけで満足した」
「そうか、それだけで満足しておれば良かったものを…ところで大変な物を隠し持っておったな、持って参れ」
と、ヨーゼフはイビルニア製品の数々を持って来させブラッツ達の前に並べさせた。ブラッツ以外の貴族があからさまに嫌な顔をした。
「ブ、ブラッツ殿これは…あの時全て提出していたのではなかったのか?」
と、シャルワ公爵が言うとブラッツは首を横に振り言った。
「これはザマロ様が特に愛した品々、簡単には渡せなかった」
ラストロは、これらのイビルニア製品を見て険しい顔をした。かつてアルカトから貰った首飾りが原因でとんでもない事件を起こしている。ブラッツは、並べられたイビルニア製品の中に木箱で覆われた物を見て木箱を取れとヨーゼフに言った。
「駄目じゃ、木箱で覆ってある製品には特に邪気を感じる、裁きが終わり次第全て灰にする」
「ま、待ってくれ頼む、最後に一目だけでも見せてくれ」
そこでレンは、妙な情けを掛けた。どうせ死罪になるんだからと見せてやるようヨーゼフに言った。ただし一つずつである。ヨーゼフが役人に一つずつ木箱を取り見せてやるよう命じ役人が一つずつ見せた。ブラッツは、それを目を輝かせて見た。
「おお…イビルニア四天王像」
と、ブラッツが呟いた。シャルワ公爵ら他の貴族達の様子がおかしい事に気付いたジャスティ大臣がどうしたと聞くとムーン男爵がイビルニア製品を見ていると気分が悪くなるので遠ざけてくれと頼んだ。するとムルワ伯爵やラットン男爵、ガンツ伯爵そしてシャルワ公爵までもが言い出した。
「それがまともな人間の反応だ」
と、ヨーゼフが言い少し遠ざけるよう役人に命じた。ただブラッツだけが残念そうにしていた。陽も少し傾き始めた頃、空が急に鳴った。上空で雷雲が発生したのだろう。ジャスティ大臣は、もう十分だろうと思いレンとヨーゼフにここらでブラッツ達の裁きを言い渡しても良いのではないかと相談をした。レンもヨーゼフも賛成した。ジャスティ大臣は、貴族席に居るディープ男爵達と軍人席に居るマルス達にも話した。全員の賛成を得てジャスティ大臣がブラッツ達に言った。
「これより其の方らの裁きを申し渡すが最後に何か言いたい事があるか?」
今回の反乱の中心人物である五人の中の主犯格であるブラッツ、シャルワ公爵は、何も言わず一点を見つめていたが、ムーン、ラットン両男爵とムルワ、ガンツ両伯爵だけが口々に言った。
「此度の事、重々反省しております、何卒何卒お命だけは」
「私も反省しております、どうかお命だけはお助け下さい」
「こここ此度の反乱を計画しラストロ様を巻き込んだのは全てブラッツ候の仕業です、私は仕方なくブラッツ候に付いていただけでして、どうかどうかお慈悲を」
「わわ私もだ若様とヨーゼフ公の暗殺など考えもしなかった」
「黙れぇ!!わしだけなら考えてやっても良かったが事もあろうにレオニール様のお命を狙うとは不届き至極!暗殺すると聞きながら何故我らに話さなかったのか、今更何を申し立てても遅いわ、愚か者め!」
と、ヨーゼフが一喝した。ムーン男爵達は、見苦しいほどに震え泣き出した。それを見て国民達は、失笑した。そこで軍人席に居たシーナが急に頭が痛いと言い出した。
「何だよ珍しいな、大丈夫か?」
と、ラースが言うとシーナは、額を手で押さえながら答えた。
「早くお裁き終わらせてあれを灰にしなきゃ」
「ああ、まぁそうだな、頭痛我慢出来るか?」
「うん、まぁ我慢出来るよ」
シーナがそう言うとどこかで雷が落ち地響きがした。そして、ポツポツと雨が降り出した。野営テントの下に居るレン達は、平気だったが莚に座らされているブラッツ達や国民達は、雨に濡れ寒さに震えた。テントの下でジャスティ大臣は、巻物を広げた。
「これより裁きを申し渡す、タイラン・ムーン男爵、其の方レオニール王子並びに御側御用人ロイヤー公爵を暗殺せんがため殺し屋ライヤーが毒を盛るのを助け、反乱軍を指揮したる事重々不届き至極、よって改易、国外追放を申し渡す」
「か、かか改易…国外追放…ははぁ」
ムーン男爵は、反逆罪で死刑は覚悟していた様だったが何故、自分が反逆罪に問われないのか不思議に思い質問した。
「お、恐れながら…何故私めは反逆罪に問われないのでしょうか?」
「反逆罪は死罪ぞ、本来ならば其の方を含め一族郎党皆死罪を申し渡すべき所をレオニール様のお慈悲で改易、国外追放に留め置いたのだ、ありがたいと思う事だな」
と、ジャスティ大臣が厳しい声で言った。ムーン男爵は、レンに向かい平伏した。余り死刑者を出したくないと言うレンの願いは、ヨーゼフ達によって叶えられていた。ジャスティ大臣は、次にラットン男爵、ムルワ伯爵、ガンツ伯爵の裁きを言い渡していった。皆、反逆罪は問われず改易、国外追放を言い渡された。そして、残るブラッツとシャルワ公爵の裁きの時が来た。
「リッチ・シャルワ公爵、裁きを申し渡す、其の方貴族の最高位の爵位を賜りながらレオニール王子並びに御側御用人ロイヤー公爵を暗殺せんがため殺し屋ライヤーが毒を盛るのを助け、反乱軍の資金提供及び指揮を執った事、誠に重々不届き至極である、よって反逆の罪で死罪、改易を申し渡す」
と、ジャスティ大臣が言い終わると直ぐにシャルワ公爵は、すがるような目でレンに向かって言った。
「か、家族は、私の家族も死罪ですか王子」
「死罪はお前だけだ、ジャスティ大臣は改易と言ったろ、残念だけどシャルワ家を残す事は出来ないよ」
と、レンは何ともやり切れない思いで答えた。シャルワ公爵は、改易にはされたが家族が死罪にならなかった事を喜び良かった、良かったと涙を流し呟いていた。そして、いよいよブラッツの裁きの時が来た。
「ヘルゲ・ブラッツ侯爵、裁きを申し渡す、其の方、レオニール王子並びに御側御用人ロイヤー公爵を暗殺せんがためメタルニアより殺し屋ライヤーを呼び毒を盛らせ、ラストロ殿下に執拗に反乱軍の将となり王位に就くよう迫り、断られれば殿下を拉致監禁し妻子を人質に取り無理やり反乱軍の将に仕立て自身も反乱軍に資金提供並びに指揮を執り、更にはザマロ・シェボットの財産を隠し持ちそれを反乱の元手とした事、重々不届き至極に付き、暗殺未遂、拉致監禁、隠ぺいそして反逆罪で火炙りに処す、なおブラッツ家は改易」
ジャスティ大臣が裁きを言い終わると国民達が騒ぎ出した。雨脚が強くなって来て雷がゴロゴロと鳴り出した。ブラッツが狂ったように笑い出した。ジャスティ大臣が刑の執行は、三日後に行うと言った。大評定に出席していた貴族、政治家、軍人達が帰り支度を始めラストロ家族もレンに一礼して帰り支度をした。そして、ブラッツ達を役人が連れて行こうとした時、レンは不死鳥ラムールの声を聞いた。
(レオニール、早く国民を避難させなさい)
「えっ?」
「どうかなさいましたか若?」
と、ヨーゼフがレンに振り向き言った。
「今、ラムールが不死鳥の剣が僕に言ったんだ、国民を避難させろって」
「な、何と?」
(早く、時間がありません、急ぎなさい)
またレンの頭の中で不死鳥ラムールの声が響いた。レンは、ミトラに国民をこの場から早く立ち退かせるよう命じた。ミトラは、訳が分からないまま部下達と国民を立ち退かせた。
「な、何だよ、どうしたんだよ?」
「さぁ大評定は終わった、早く家へ帰れ風邪を引くぞ」
「何なんだよ全く」
国民達は、ぶつくさ文句を言いながらもミトラ達近衛兵の指示に従った。シャルワ公爵が役人に連れて行かれ残るブラッツをルークが立たせ連れて行こうとしたその時、大広場に雷が落ちた。
「うわぁ危ねぇ!」
と、ルークがブラッツの頭を押さえ屈みこんだ。幸いレン達から離れた場所に落ちた。石畳が黒く焦げていた。早く連れて行けとヨーゼフがルークに言い、ふと木箱で覆った四天王像に目が行った。隙間から微かな光が漏れていた。
「な、何じゃこれは?」
「どうしたのヨーゼフ」
と、レンも木箱を見た。猛烈に嫌な予感がした。ザマロの財宝を役人達が片付けて最後にイビルニア製品を後日、燃やし灰にするため陸軍本部近くの広場へ持って行くよう指示をレンが出した直後また近くに雷が落ちた。
「さっきから何なんだよ全く…っておいシーナどうした?」
「うぅぅぅあれだよマルス兄ぃ」
と、シーナは、さっきより激しく頭が痛むのか苦しそうに木箱を指差し言った。マルス達も木箱の隙間から光が漏れている事に気付いた。
「お、おいレン!箱が」
「うん、分かってる…え?うわぁぁぁあぁ!」
雷の音に合わせて木箱が爆発し周りに居た役人やレン、ヨーゼフが吹っ飛んだ。煙がもくもくと上がり見えなくなった。
「いたた…皆、大丈夫、ヨーゼフ大丈夫かい?」
「ううう、拙者は大丈夫です若、一体何が起きたのやら」
何とか怪我も無く皆無事だった。そして、煙が消えてこの場に居た者、全員が驚愕した。




