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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
121/206

危篤

 エレナの悲鳴が食堂に響いた。マルス達は、何事かとレンとヨーゼフに駆け寄った。二人は、全身を震わせもがき苦しんでいる。レンは、何とか吐き出そうとしたが吐き切れずヨーゼフは、既に白目をむいていた。

 「レン、ヨーゼフ!」

 マルスとラーズが、二人の半身を起こした。エレナは、ユリヤに抱き付き顔を真っ青にしている。

 「そ、そんな馬鹿な、どうして」

 と、料理長は、顔面蒼白になって立ちすくんでいる。他の料理人や給仕掛かり達もその場に凍り付いた様になった。

 「シーナ早く」

 と、ラーズが叫ぶように言った。シーナは、苦しみもがくレンとヨーゼフの腹の辺りに手をかざした。しばらくすると全身を震わせていたレンとヨーゼフが落ち着きを取り戻し始めた。

 「ふぅ、もう大丈夫だよ毒気は無くなったよ」

 と、シーナが言うとマルスとラーズは、気が緩んだのかその場にへたり込んだが、マルスは直ぐに立ち上がり料理長に詰め寄った。

 「どういう事だこれは?」

 「分からない、本当に分からないんですよ殿下」

 「何だとぉ?」

 と、マルスが料理長の胸ぐらを掴み言うと背後からレンの声がした。

 「ま、待ってマルス…はな、話しを聞こう」

 と、シーナの治癒の力で解毒されたが身体の痺れが取れないレンが言った。

 「な、何か変わった事がなかったか?」

 と、同じく痺れが残るヨーゼフが言った。マルスから手を放された料理長が泣きそうな顔をしながら話し出した。

 「は、はい食材には何の問題もありませんでした、と、特に変わった事と言えば珍しくブラッツ侯爵が調理場へ現れた事ぐらいで」

 「何ブラッツが?一人でか?何しに来たんだ?」

 と、マルスが怒った様に言った。料理長は、震えながら答えた。

 「いえ、他に貴族方が四人と背の高い従者と思われる男が一人です、レオニール様やロイヤー閣下にどんな物を出しているのかと質問されました」

 「間違いないブラッツ達だ、で、その背の高い従者って奴はどんな男だった?」

 と、ラーズが急き込んで聞くと料理長は、右頬を指差し答えた。

 「表情が無く右頬に大きな絆創膏を貼ってました」

 マルスとラーズは、やっぱりといった顔をした。

 「ブラッツの野郎、大胆にも城内に入れたのか、許せん」

 「今すぐ奴の屋敷に行って引っ捕らえよう」

 「お待ちを…こ、これは良い機会です、わしと若は今から危篤となります」

 と、ヨーゼフがシーナに支えられながら言った。

 「ど、どういう事ヨーゼフ?」

 レンは、エレナとユリヤに支えられながら言った。ヨーゼフは、この機会にラストロを担ぎ謀反を企てるであろう旧ザマロ派の貴族や政治家達の一斉粛清を考えたのだ。

 「な~る、二人が死んでなくても危篤と知れば必ず奴らは動き出すだろうな」

 と、マルスが顎に手をやりながら言った。

 「よ、良いかお前達、わしと若は毒が回って危篤じゃ他言は無用ぞ、それと料理長そなたにも一芝居うってもらうぞ」

 と、ヨーゼフが料理長以下食堂に居た者全員に言った。

 「分かりました閣下、俺の料理を使ってレオニール様と閣下を殺そうとするなんて、ブラッツの野郎今すぐにでもぶっ殺してやりてぇですよ、おい皆、今の閣下のお言葉を聞いたな」

 「はい、料理長、レオニール様と閣下はご危篤となられました」

 

 翌日、号外が出た。レオニール王子、ロイヤー閣下危篤との記事が掲載されている。その号外をブラッツ達貴族が秘密の別荘で見て大喜びしていた。

 「いやぁ死んでいないのが残念だが危篤となれば小僧は生き延びても爺は間違いなく死ぬだろうな、ハハハハ」

 「しかしなぜこの強力な毒で死ななかったのか」

 と、ライヤーが不思議がった。この毒で殺し損ねた事は、一度もなかった。

 「ん~記事にはこうあるぞ、毒で意識を失った二人はドラクーン人のシーナ・ヴァリアシ・オルフェール・ラ・エリザ・ランザ女史の治癒の力で一命を取り止めたが意識は戻らず危険な状態が続いているとな…う~むドラクーンの小娘の事を忘れていたわ」

 と、ブラッツが苦々しく言った。

 「まぁとにかくこれでラストロ様を国王にさせる正当な理由が出来ましたな、小僧は生きていても毒の影響でまつりごとを行うのは無理と言う事で」

 と、他の貴族が言うとライヤーは、どうも腑に落ちないと言った。

 「ドラクーン人の治癒の力と言うものがどこまで凄いのか知らないが、どうも引っ掛かる…私はこの目でどんな状況か見るまで信じない、レオニールとヨーゼフが本当に危篤なのか確かめる必要がある」

 「んん?意外に心配性なのだなライヤー殿は、良かろう確かめようじゃないか」

 と、ブラッツは言いレンとヨーゼフを見舞う事にした。レンとヨーゼフは、入院せず城内の一室に病床を設けそこで治療している事になっている。病室にしてある部屋の前には、テランジンの子分である元海賊の海軍将校ら四人が椅子に座っている。部屋の中では、ルークとサイモン大将がヨーゼフから話しを聞いていた。

 「良いか二人とも若とわしは危篤じゃ今後そのつもりで行動してくれ」

 「合点です、しかしテラン兄貴には何て言えば良いのでしょう?号外なんてもう世界中に広まってますぜ、兄貴の事だからジャンパールからすっ飛んで来ますよ」

 「う~むそうじゃな、主君や親が危篤と聞いて帰って来ぬ方がおかしいと思われるのぅ」

 と、ヨーゼフが言うと早速ジャンパールから魔導話が掛かっていると連絡が入った。レンとヨーゼフが魔導話に出るのはおかしいと言う事で代わりにマルスが出た。魔導話の主は、やはりテランジンだった。

 「あっマルス殿下、号外の事を聞き及び連絡しました、若とおやじが毒を盛られて危篤だと」

 「ああその事だが心配には及ばんよ、ちょっとな一芝居うってるんだ…帰って来るんだろ?ああ、そうしてくれテランジンとリリーさんが慌てて帰って来たとなったらより一層現実味が帯びるからな」

 「芝居?何の事です若とおやじは無事なのですか?」

 「ああ大丈夫だ、帰って来たら全て話すよ、ヤハギ中将に言って海軍の高速艇を使ってくれ」

 そう言ってマルスは、魔導話を切った。ジャンパールでは、魔導話の受話器を置いたテランジンは、呆然としていた。

 「どうなのだテランジン、レオニールやヨーゼフは生きているのか?」

 「…はいおかみ、危篤になっていると言うのは芝居だそうです」

 「何?芝居?」

 と、テランジンとリリーを前にジャンパール皇帝イザヤと皇后ナミが顔を見合わせて言った。

 「詳しい事はトランサーに帰ってから話すとマルス殿下より聞きました、私とリリーは急ぎトランサーへ帰ります、それとマルス殿下より海軍の高速艇を使っても良いとの事で」

 「ああ、そうしなさいヤハギに言って出してもらうと良い」

 「じゃあ私達もトランサーに行くぅ」

 と、コノハが言った時、皇后ナミが怖い顔をした。

 「遊びじゃないのよ」

 「…はぁい」

 と、ナミに言われコノハとカレンが肩を落とした。テランジンとリリーは、その日に海軍のヤハギ中将に高速艇を出してもらいトランサーに帰国する事にした。

 その頃、ブラッツ侯爵達貴族は、ライヤーを連れ大胆にもレンとヨーゼフを見舞いたいと部屋の前まで来ていた。

 「申し訳ありませんが面会はご遠慮願います」

 と、テランジンの子分である強面の海軍将校がブラッツ達に言った。

 「一目だけで良いのだこの国の臣下として王子と閣下の容体を確かめたいのだ」

 と、ブラッツは、出来るだけ深刻な顔を作って言った。

 「申し訳ありません、ご遠慮下さい」

 と、テランジンの子分は繰り返し言った。それでもブラッツ達は、何とかレンとヨーゼフの様子を見せてくれと言い続けた。部屋の中でその様子をレン達が聞いている。

 「どうやら僕とヨーゼフが本当に危篤状態か確かめに来たんだね」

 と、レンが言った。ルークが今すぐにブラッツを叩き斬ると剣を掴んだ。

 「待てルーク、まだまだ泳がす必要がある、それより上手くブラッツ達を追い払ってくれ」

 と、ヨーゼフに言われルークはグッと堪えてサイモン大将とブラッツ達を追い払う事にした。

 「騒がしいぞ、何をしている」

 と、部屋を出て扉を直ぐに閉めてルークが言った。

 「あっ兄貴、侯爵達が殿様や閣下に会わせろってしつけぇんでさぁ」

 と、ブラッツ達のしつこさに困り果てていたテランジンの子分が言った。

 「ブラッツ候、こいつも言ったと思うが殿様と閣下は今非常に危険な状態なんだ、だから会わせる事は出来ねぇよ、帰ってくんな」

 「なにぃ?貴様の様なチンピラが部屋に入れて何故私達貴族が入れんのだ、そこを退け王子と閣下の容体を確かめる」

 と、ブラッツ達は、ルークを押し退け強引に部屋に入ろうとした。当然ルークは、動かない。今すぐにでも斬りたい気持ちを必死で抑え鬼の様な形相をしている。

 「チンピラとは無礼でありましょうブラッツ候、彼は海軍大佐ですぞ」

 と、サイモン大将がルークとブラッツ達に割って入った。ブラッツは、背の高いサイモン大将を見上げるような形で怒鳴った。

 「何が無礼だ!無礼なのは貴様らだろう、我々は誇り高きトランサー貴族であるぞ!そこを退かんか!」

 部屋の中でマルスとラーズが笑いを噛み殺していた。

 「くくく、奴ら必死だな、よしそろそろ俺が出てやろう」

 と、今度はマルスが部屋から出てブラッツ達を相手にした。

 「うるせぇぞ静かにしろ」

 「おお、マルス殿下、どうかレオニール様と閣下の様子を一目だけでも見せて頂けませんか」

 「駄目だ、今ドラクーンのシーナが治療している、それにレオニールもヨーゼフも死にかけている姿をあんたらに見られたくないだろうからな、帰れ」

 と、マルスはブラッツを見ず一番後ろに控えていたライヤーを見ながら言った。ブラッツは、直ぐに気付きマルスに言った。

 「ああ、この者は私の従者でして何かと役に立つんですよ」

 「ふぅん、ところで知ってるか、この世界のどこかにイビルニア人と人間のあいの子が存在するのを、俺達は半島で奴らを見たし皆殺しにしたはずなんだがどうも生き残った奴が居るらしい、奴らは危険だ見つけ次第殺さねぇとな」

 と、マルスがブラッツを見て言った。ブラッツは、半イビルニア人の事を話しには聞いていたがまさか自分が雇った殺し屋がその間の子、半イビルニア人だとは、考えもしなかった。

 「う、噂には聞いております厄介な連中ですなぁ、しかしなぜ私にその様な事を?」

 「間の子だろうがイビルニア人には変わりない、関わり悪事を働いた者は例外なく死刑だ、我がジャンパールの法ではそうだしトランサーも同じだろ?」

 「な、何が仰りたいのか存じませんが今日の所は諦めて帰ります、ところで毒を盛ったと疑われている料理長はどこに?」

 と、ブラッツは、レンとヨーゼフの様子を見る事を一旦諦め料理長の事を聞いた。マルスは、城の地下牢に捕えてあると答えた。ブラッツ達は、地下牢に向かった。そこにもルークの命を受けた元海賊将校が見張りをしていた。

 「貴族方がこんな所に何の御用で?」

 「うむ、恐れ多くも王子と閣下に毒を盛った料理長の顔を見に来たのだ」

 ブラッツ達に気付いた料理長が牢の中から怒鳴り散らした。

 「この人殺しめ!よりによって俺の料理を殺しの道具にするとは!てめぇらぶっ殺してやるからな!覚悟しやがれ!」

 「ほほう、良く吠えるのう、ところでなぜあの者を生かしておるのだ?即刻死刑にせよ」

 「それは出来ません、真の下手人が居る可能性がありますからね今その捜査をしています」

 と、元海賊将校は、言った。ブラッツは呆れた顔をした。

 「無駄な捜査をして何になる、早くあの男を死刑にする事を我々は望む」

 そう言って地下牢を後にしてブラッツ達は、城を出た。

 「しかし、なぜ我々に王子と閣下の様子を見せようとしなかったのでしょうか、何か秘密でもありそうですなブラッツ殿」

 と、ブラッツに同行している貴族が言った。

 「まぁあの海軍のチンピラやジャンパールの皇子の様子だと本当に危険な状態なのだろう」

 「そうですな、しかしなぜあの皇子は急にイビルニア人の事を話したのでしょうか、話しをそらそうとして言ったとしても、ハハハ余りにもおかしな話で」

 「それは私が半イビルニア人だと気付かれたからだろう」

 「えっ?」

 と、ライヤーの言葉にブラッツ達貴族が凍り付いた様にその場に立ちすくんだ。

 「ラ、ライヤー殿今何と?」

 「私が半イビルニア人だと言ったのだ」

 「……」

 貴族達の顔から血の気が引いて行くのが見て取れた。マルスが言ったイビルニア人と関わり悪事を働けば死刑と言う言葉が貴族達の頭によぎった。

 「ふ、ふふふ、ライヤー殿が半イビルニア人だろうが関係ない、要はレオニールとヨーゼフを亡き者にしラストロ殿下を王に据え我々がこの国の実権を握れば済む事だ、そうだろう皆」

 と、額に汗を滲ませながらブラッツが言った。

 「そ、そうだとも、今が好機だ、何が何でもラストロ殿下に御出馬して頂かねば」

 「と、とにかくまたラストロ殿下の庵を訪ねよう、そして何としても言う事を聞いてもらう、出来なければ奥の手を使おう」 

 と、ブラッツ達は、話し合い明日ラストロの庵に行く事にして各々(おのおの)の屋敷へ帰った行った。ブラッツは、ライヤーと秘密の別荘に向かった。ブラッツは、ライヤーが半イビルニア人と分かり最初は動揺したが、事がここまで来てしまった以上、ライヤーを使って絶対にレンとヨーゼフを殺しラストロを君主に据えてやろうと改めて決心した。

 「ライヤー殿、金ならいくらでもくれてやる、何が何でもレオニールとヨーゼフを消してくれ、それとテランジンと言う海軍の親玉が居る、それも殺してもらいたい」

 と、別荘に到着するなりブラッツがライヤーに言った。

 「いくらでも?本当か?人間の世界は金がものを言うからな」

 と、ライヤーは言い笑った。ライヤーは、必ずレン達を殺すと約束しブラッツを帰した。別荘で一人になったライヤーは、暖炉の前に椅子を置き、そこに座りぼんやりとしながら考えた。

 「ふふ、あの男相当自分の主君が嫌いなんだな、まぁ私には関係ない事だ前金で一千万ユール貰っている、これだけあれば当分は遊んで暮らせる、練気使い相手にまともに戦えるかよ、せっかく生き延びたのだ私は面白おかしく暮らして行きたい…まぁもう少し付きやってやるか、危なくなればさっさとおさらばするだけさ、ククク」

 と、ライヤーは、適当な所でブラッツを裏切り逃げる事を考えていた。城内に設けているレンとヨーゼフの病床にしてある部屋でレン達は話し合っていた。

 「あの野郎、普通に半イビルニア人を連れて来やがって、気付いていないのか?」

 「根性が腐ってる連中だからイビルニア人が傍に居ても何も感じないんだろうぜ」

 と、マルスとラーズが言った。

 「それにしてもあの半イビルニア人はどこに居るんだろう、ブラッツの屋敷かな?」

 「踏み込みますか?」

 と、レンの言葉を聞きサイモン大将が答えた。しかし、居なかった時の事を考えると厄介だと思い止めた。どうせまた見舞いと称して様子を見に来るに違いないと思い、その時は引っ捕えようと言う事にした。 そして、レンとヨーゼフが危篤となって二日後、海軍と陸軍の本部にある物が届けられていた。知らせを受けたルークとサイモン大将が見に行くとカツとシンが怒り狂っていた。 


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