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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
12/206

約束を果たしに

 イビルニア人は、音もなく軽々と門を乗り越えた。屋敷の敷地内に入り音も立てずに屋敷の周りをウロウロと歩き回った。

 「やっぱり、この上に居るな」

 と、イビルニア人は、屋敷の二階を見た。丁度フウガの部屋だった。

 「直接行くのも芸がないか…どうせなら…」

 と、イビルニア人は、一階の裏口から侵入する事に決めた。外から出入りできる鍵は、頑丈な物にしてあるがイビルニア人に掛かれば簡単に開いた。このイビルニア人の目的は、フウガとレンの命を奪う事だったが、十五年も待ってやったと言う気もあり、どうせなら屋敷に居る者全員を殺そうと思っていた。フウガとレン以外にこの屋敷には、三人居る。用人のバズ、女中のセンとリク。完全に気配を消しているイビルニア人は、台所付近の部屋で寝起きするセンの部屋の前に立った。その隣の部屋がリクの部屋だ。イビルニア人は、音もなく部屋の扉を開け中に侵入しセンが寝ているベッドの真横に立った。静かな寝息を立てるセンの口と鼻をイビルニア人は、両手でふさいだ。急に呼吸が出来なくなったセンは、驚いて目を覚ました。目の前に真っ黒な物体が見えて更に驚いた。自分の口と鼻をふさぐ手を引きはがそうとしたが、離れない。両足をバタバタさせてもがいていたが、やがて動かなくなった。イビルニア人は、センを窒息死させた。

 「ふふ、まずは一人目」

 と、イビルニア人は、満足げに呟いた。そこに、センの部屋が騒がしいと思い隣の部屋で寝起きするリクが、寝ぼけまなこを擦りながらセンの様子を見に来た。

 「センどうしたの?」

 と、リクが部屋に入って来た。センが寝るベッドの隣に真っ黒い人影が立っているのが見え恐怖でリクは、叫びそうになったところをイビルニア人は、一瞬で飛び掛かり、リクの首を片手で掴んだ。

 「かっ…ぐぐぐ…」

 リクは、必死で抵抗したがイビルニア人は、ビクともしない。イビルニア人は、ゆっくりとリクを持ち上げた。そして、リクの首を掴んだ手に力を込めた。ゴキッと鈍い音がした。リクは、死んだ。イビルニア人は、死んだリクを先ほど窒息死させたセンのベッドの隣に寝かせた。

 「二人目…」

 そう呟いてイビルニア人は、センの部屋を出た。そして、次は、用人のバズの部屋の前に立った。イビルニア人は、ゆっくりと扉を開けた。そこには、刀を抜いて立っているバズが居た。

 「なんだ、気が付いたのか」

 と、イビルニア人は、ちょっと残念そうに言った。バズは、物も言わずに刀を突きいれた。左胸に刺したがイビルニア人には、効いていないようだった。バズは、刀を引き抜き後ろに下がった。

 「おのれは、イビルニア人か…」

 「そう、十五年前の約束を果たしに来たのさ」

 「…約束?…何のことか?」

 「君のあるじとの約束さ」

 「殿に何の用だ?!」

 と、バズは、猛烈な突きをイビルニア人の顔に放った。イビルニア人を殺すには、首を斬り落とすか頭を潰すしか方法が無い事をバズは、知っている。イビルニア人は、その猛烈な突きを紙一重でかわし、素早く刀を持つ右腕を左手で掴みバズの口を右手でふさいでバズを壁に押し付けた。バズは、必死に抵抗したがイビルニア人の力には、かなわない。イビルニア人は、バズの右の手首を折り刀を持てなくした。そして、身に着けていた短剣を取り出してバズの鳩尾みぞおちに刃先を当て、ゆっくりと突き入れた。 バズは、口をふさがれているので声が出せない。左手でイビルニア人を押しのけようとするが全く動かない。イビルニア人は、クスクス笑って言った。

 「さっき何の用だと言ったね、教えてやるよ、ボクがここへ来たのは君の主とレオニールを殺しに来たのさ」

 バズは、何としてもこのイビルニア人を仕留めようとしたが、もうその体力は、無くなっていた。鳩尾を深々と刺されたバズは、動かなくなった。死んだ。イビルニア人は、短剣をバズから引き抜き鞘に入れ、バズを壁際にもたれさせた。

 「さてと、いよいよフウガ・サモンと対決だ…くくく」

 と、イビルニア人は、言って低く笑った。そして、レンとフウガが眠る部屋がある二階へと向かった。イビルニア人は、何の迷いもなくフウガの部屋の前まで来た。扉をゆっくりと開けて部屋の中に入って来たイビルニア人をフウガは、椅子に座り見ていた。部屋は、薄暗かった。

 「どうやってジャンパール国内に侵入した」

 と、フウガは、落ち着いて言った。イビルニア人は、音を立てずに扉を閉めフウガと距離を置いて向かい合った。

 「久しぶりに会えたのにもっと気の利いた言葉はないのかい、死んでいく君には関係ない事じゃないか」

 と、イビルニア人は、言ってフードの付いた黒いマントを脱いだ。腰に長剣と鉄の爪、先ほどバズを殺した短剣が架けられている。

 「レオニールは、元気にしてるかい、せっかくボクがこの日のために見逃してやったんだ病気で死んだなどと言うなよ」

 「ああ、元気にしてるさ、しかしお前も律儀な奴じゃな、十五年前の約束を果たしに遥々(はるばる)イビルニアから来るとは…出来れば忘れて欲しかったな」

 フウガは、心からそう思った。イビルニア人は、ヘラヘラ笑っている。フウガは、椅子に座っているが油断は、していない。左手に鞘ぐるみでフウガ自慢の愛刀、通称斬鉄剣を持っている。

 「まぁもう少し話そう、ボクがどうやってこの国に侵入できたか知りたいんだろ?大変だったよ、海上の警戒が凄くて、さすがにボクたちでも入り込めなかった」

 「当たり前じゃ、ジャンパールの海軍をなめるな」

 フウガは、軍部に海上と港の警備を強めるよう厳しく言い渡していた。

 「でも、運が良かったのかなボク、偶然協力してくれるジャンパール人が現れたんだ、そいつはフウガの孫のレンを殺してくれと言ってきたんだ」

 「何?レンをなぜじゃ?」

 と、ジャンパール人がなぜレンを殺そうというのかフウガには、理解出来ない。

 「わしではなくレンを…誰に依頼された、言え」

 「ふふ、それは言えない…あ、そうそうレンがトランサーの王子レオニールと言う事はそいつには話してないから安心しなよ、でも…」

 と、言ってイビルニア人は、あごに手をやり考え込んだ。

 「あいつ知ってるんじゃないかな、レンがレオニールって」

 「何っ?誰だ教えろ、レンを殺せと言った奴を」

 フウガは、椅子から立ち上がった。フウガは、過去に軍人でもあり政治家だった頃の言わば政敵が自分の暗殺をイビルニア人に依頼したとばかり思っていた。政治家なら自分の立場を利用してこっそりと海上のイビルニアの船に行く事は、可能だろう。

 「そうだな…ボクを倒せたら教えてやるよ」

 と、イビルニア人は、長剣をゆっくりと鞘から抜きながら言った。

 「では、そうするか」

 フウガも斬鉄剣と呼ばれている刀を鞘から抜き言った。


 その頃、レンは、眠りから覚め喉の渇きをうるおそうと屋敷の台所に向かっていた。水を飲んだレンは、ついでにトイレに行き小便も済まし自分の部屋に戻ろうとした時、微かな違和感を感じた。

 「ん?何でこんなところに葉っぱが」

 屋敷内は、常にセンとリクが綺麗にしている。しかも台所付近にゴミが落ちている事など過去になかった。葉っぱは、イビルニア人が庭を歩き回っていた時に靴の裏に付いたのだろう、それがここで剥がれ落ちたのだった。センの部屋の扉が少し開いているのに気付いたレンは、何となく気になってセンの部屋に向かった。部屋の前に立つと何とも言えない異様な気配を感じた。思い切ってセンの部屋の扉を開けた。

 「セン起きてるの?」

 レンの目の前にベッドで横たわっているセンと床に横たわっているリクがいる。様子がおかしい事に直ぐに気付いた。

 「セン、リクどうしたんだ」

 と、二人に駆け寄った。二人の目は、見開かれたままでリクの首が変に曲がっている。レンは、二人を揺さぶったが、何の反応も無い。レンは、二人の口元に手をやった。呼吸をしていない。

 「し、死んでる…た、大変だ」

 レンは、バズの部屋に向かった。

 「バズ大変だよ、センとリクが…え…?」

 レンは、バズがうつむいて壁を背に座っているのを見た。部屋に血の匂いが立ち込めている。レンは、慌ててバズに駆け寄った。

 「バズ、どうしたんだ、センとリクがたいへ…あああ」

 レンは、バズが口と鳩尾みぞおちから血を流しているのに気付き思わず尻もちをついた。

 「バズ…こんな、こんな事…」

 レンは、混乱した。なぜセンとリクとバズが死んでいるのか訳が分からない。レンは、無我夢中で屋敷内を走りフウガの元へ急いだ。この異変を早く知らせなければいけない。フウガの部屋の前まで来た時、部屋の中から撃剣の音が聞こえた。フウガの身に何か起きていると直感したレンは、扉を思い切り開けた。

 「おじいさんっ!」

 そこには、イビルニア人と対峙する傷ついたフウガの姿があった。

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