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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
118/206

盃事

 司会進行役のルークが皆を静かにさせた後、一息ついて大真面目な顔をして話し始めた。

 「只今よりぃテランジン・コーシュ一家改めぇテランジン・ロイヤー一家のぉ親子兄弟盃の儀を執り行いますぅ、媒酌人はぁ、カツ・ブロイとシン・クラインが行いますぅ、なおぉこの儀式の見届け人と致しましてぇ恐れながら我らが主君であらせられますぅレオニール王子、兄貴の義父上ちちうえになられますぅヨーゼフ公にお願い致しておりますぅ」

 と、ルークが言うと施設内がざわつき始めた。披露宴に参加していた一部の貴族達の顔色が一変した。

 「コーシュ一家だのロイヤー一家だのと君達はヤクザか?それともまだ海賊気分でいるのか?」

 「全くだ、それにレオニール様やヨーゼフ閣下まで冗談にもほどがありますぞ!」

 と、貴族達が鼻息を荒げて言った。

 「ル、ルークこれはどういう事だ?俺は何も聞いてないぞ」

 と、テランジンが慌てて言った。ルークが大真面目な顔をして言った。

 「兄貴、この儀式だけはどうかやらせてくれ、俺達は盃を交わして今まで結束を固めて来たじゃないか」

 「い、いやしかし、俺達はもう…」

 と、テランジンが言いかけた時、レンがテランジンの言葉尻を捕り言った。

 「僕とヨーゼフが許可したんだ、ルーク達の話しを聞いてね」

 「左様、ヤクザの儀式であろうが海賊の儀式であろうが何でも良いレオニール様に忠誠を誓いこの国を守るためには皆の心が一つでなければならぬ、特に海軍は一旦海に出ればふねの中での共同生活じゃ階級の上下よりも親兄弟としての方が共に助け合う心が芽生えやすいじゃろう、盃を交わす事によって生まれるお前達の鉄の結束を信じた、だからテランジン、お前を家長とする親子兄弟盃の儀をレオニール様とわしは認めたのじゃ」

 と、レンとヨーゼフが言うと一部の貴族達は、信じられないといった顔をした。この連中は、皆、旧ザマロ派の貴族達だった。

 「ところでその盃は海軍の者しか受けられないのか?」

 と、意外な人物が声を上げた。陸軍のサイモン大将である。皆が一斉にサイモン大将を見た。

 「私もテランジンと義兄弟きょうだい盃を交わしたいのだが」

 「兄貴!」

 と、ルークが驚いてテランジンを見た。

 「ではサイモン、君とは五分盃だ」

 と、テランジンが言った。それを切っ掛けに次々と陸軍海軍問わず軍人達が盃を受けたいと名乗り出た。更には、貴族の中からも名乗り出て来た。

 「私もテランジン殿と盃を交わしたいのだが」

 と、かつてジャンパールに居たレン達に命懸けで自分達の活動を報告に来たイーサン・ディープ男爵が言った。するとティアック派の貴族達が次々と盃を交わしたいと申し出て来た。

 「何か面白い事になってきたな」

 と、マルスがラーズに言った。ラーズは、そうだなと言い盃事に反対の貴族達を見た。何やらひそひそと話しているのが見えた。

 「おい、マルス、あの連中何やらたくらんでるんじゃねぇか?」

 「ん?ふん、ほっとけほっとけ」

 と、マルスは特に気にする事は無かったが、ラーズは、妙な胸騒ぎを感じていた。そんなラーズの心配を他所よそに儀式は、進められた。ルークは、テランジンと兄弟盃を交わす人数を確認しカツに伝えるとカツは、シンに人数分の盃を用意させた。

 「え~お盃を受ける方はぁこちらにお座り下さいぃ」

 と、儀式を行うために用意された祭壇の前、中央に見届け人のレンとヨーゼフが座り、上手かみて側にテランジンとリリー夫妻が座り、下手しもて側にテランジンと向き合う様な形で盃を受ける者達が座り、テランジンと五分盃を交わすサイモン大将やディープ男爵ら軍の将官や有力貴族は、下手側にテランジンとリリーに並ぶように座った。皆が座ると媒酌人であるカツが台の上に乗せられた銀の盆に盃を一つ置き酒を注いだ。

 「いよぉぉぉ!」

 と、言う掛け声で注ぎ終わるとシンに合図を送り、シンは、盃を載せた銀の盆を捧げ持ちテランジンとリリーの前に持って行った。

 「テランジン殿ぉ、リリー殿ぉ、お気持ち程度で結構ですのでぇお飲み下さいぃ」

 と、カツが言った。

 「ところでさっきから気になってたんだがルークやカツは何でいつもの口調じゃねぇんだろう、おまけに声色まで変えて」

 と、披露宴の始まりから不思議に思っていたマルスがエレナに言った。エレナも気になっていた様だった。

 「さぁどうしてでしょう、緊張されてるのかしら」

 と、エレナが答えた。テーブル席で儀式を見守るエレナ達を他所に儀式は進められている。テランジンは、カツに言われた通りに気持ち程度、盃に注がれた酒を飲んだ。

 「さぁリリー少しだけで良い飲むんだ」

 「はい…」

 と、リリーもテランジンと同じように少しだけ飲み銀の盆の上に盃を置いた。それをシンは、カツの目の前に持って行った。カツとシンは、義兄弟となる人数分の盃を載せた銀の盆を並べ酒を注ぎ、先ほどテランジンとリリーが口を付けた盃を目の前に置き、金で出来た先の尖った棒を持ち、テランジンとリリーが口を付けた盃にその棒の先をちょんちょんと付け、カツの隣りに置いてあったこの世界で最も高級な魚で神聖な儀式には、必ず出される魚の腹の部分にちょんちょんと付けた。そして、今度は、義兄弟となる人数分の酒を満たした盃一杯ずつに金の棒の先をちょんちょんと付けていった。

 「いよぉぉぉ!」

 と、また掛け声を上げ金の棒を丁重に置きシンに合図を送り、シンが義兄弟となる連中の前に盃を配って回った。全員分配り終わるのを確認してカツとシンがテランジンと義兄弟となる連中の真ん中辺りにまで来て座った。レンとヨーゼフは、真剣にその様子を見ている。

 「え~そのお盃はぁ兄、舎弟の契りを結ぶお盃です、お目通しを願います」

 と、カツが言った。

 「結構です」

 と、司会進行役のルークが代表して答えた。そして、カツは一息ついて言った。

 「え~舎弟分となられます方々に申し上げます、その盃はぁ兄、舎弟の契りを結ぶ意義深ぁいお盃です、その盃を飲み干すと同時に義兄弟としての強い絆が結ばれます、心してその盃、口半に飲み干しまして懐中しっかりとぉお納めを願います、ご一緒にどうぞ」

 と、カツの合図で舎弟となる者や五分の兄弟となる者達が一斉に三口半に飲み干し懐紙に包んで自分達の懐中にしまい込んだ。全員がしまい終わったのを確認してカツが言った。

 「え~只今盃を受けられましたぁ方々に申し上げます、ここで兄貴分に挨拶を致します、兄貴分の方へお向き下さい」

 と、盃を受けた連中が一斉にテランジンとリリーに向き直った。

 「力強く兄貴、姉御よろしくお願いいたしますとご一緒にお願いします」

 と、カツが言うと皆声を揃えてテランジンとリリーに頭を下げ挨拶をした。その瞬間、披露宴会場となった海軍施設から大きな拍手が沸き起こった。その様子を旧ザマロ派の貴族達が苦々しく見ていた。

 「何が兄貴だ舎弟だ馬鹿馬鹿しい、もうこんな所に居れんわ行くぞ」

 と、旧ザマロ派の貴族達がぞろぞろと海軍施設から出て行った。それを見たシーナがマルスとラーズに言った。

 「あにぃあのおじさん達帰っちゃったけど良いの?」

 「ああ、ほっとけほっとけ」

 「嫌な連中だ全く」

 と、マルス達は言い気にしない事にした。兄弟盃の儀が終ると今度は、親子盃の儀を始めるため子分となる連中が席に着いた。元々テランジンの子分だった者の他に新たに陸海軍の兵卒が加わった。儀式は、兄弟盃の時とは違い大きな盃に酒を注ぎ入れ、それをまずテランジンとリリーが気持ち程度飲んだ。そして、カツが兄弟盃の時と同様に金の棒の先を盃にちょんちょんと付け魚の腹にちょんちょんと付け金の棒を置いた。それを今度は、ルークの前にシンが捧げ持ちながら持って行く。そして、カツが言った。

 「え~若頭ルーク殿にぃ申し上げます、その盃はぁ親分子分の契りを結ぶお盃です、お目通しを願います」

 「結構です」

 と、ルークが答えるとシンは、その盃をカツの前まで持って行った。そして子分達の盃に酒を注ぎテランジンとリリーが口を付けた盃に金の棒の先をちょんちょんと付けて魚の腹にちょんちょんと付け、子分達の盃にちょんちょんと付けていった。その作業を何度も繰り返し終わるとシンが銀の盆に載せた盃を子分となる連中に配った。配り終わった事を確認してカツが言った。

 「え~子分となられます方々にぃ申し上げます、その盃は親子の契りを結ぶ意義深ぁいお盃です、その盃を飲み干すと同時に親分子分の強い絆が結ばれます、親分の言動は絶対のものであります、それを肝に命じましてその盃三口半に飲み干しましてぇ懐中しっかりとお納めを願います、ご一緒にどうぞ」

 と、カツが言い終わると子分となる連中が一斉に飲み干し盃を懐紙に包み懐中深くしまい込んだ。しまい終わるのを見計らいカツが進み出て言った。

 「ここでご挨拶を致します、親分、女将さんによろしくお願いしますと力強くご一緒にお願いを致します、どうぞ」

 「親分、女将さん、よろしくお願いします」

 「よろしく」

 「よ、よろしく」

 と、テランジンとリリーが答えた。そしてまた拍手が沸き起こった。これで儀式は終了した。後は、披露宴らしく宴会となり楽しい時間を過ごしたレン達だった。

 儀式の途中で帰った旧ザマロ派の貴族達は、海軍施設を出てある貴族の屋敷に居た。テランジンの養子縁組に反対した貴族ヘルゲ・ブラッツ侯爵の屋敷である。彼は、ザマロ支配下のトランサー王国で財務大臣をしていた男であった。

 「何ぃ盃事だとぉ?やはり海賊かヤクザではないか、レオニール王子やヨーゼフ公は一体何を考えておられるのだ」

 と、ブラッツ侯爵が言った。披露宴に途中まで参加していた貴族達が盃事の意味を説明するとブラッツ侯爵は、呆れた顔をした。ブラッツ家を訪ねに来た貴族達が口々に言った。

 「あれでは軍人ではなくヤクザですよ、トランサー貴族も地に落ちました」

 「全くだ、今思い起こせばレオニールの父レオンの頃よりおかしくなりましたなぁ、あの時ジャンパールの小娘との縁談を潰すべきでした」

 「しかし、グランデ王が賛成されたのだ、あの時はどうしようも無かった…」

 「もはや小僧や老いぼれにこの国を任せてはおけん、やはりあのお方にこの国の王になっていただかねばならぬわ」

 と、ブラッツ侯爵が言うと貴族達が顔を見合わせて言った。

 「左様、あのお方に…ラストロ殿下に」

 と、ブラッツ侯爵達、旧ザマロ派の貴族は、ザマロの息子で今は大人しく父ザマロが処刑した者達を日々供養しているラストロ・シェボットを国王にしようと考えていた。

 「幸い今のトランサーに王は居ない、レオニールは今だ王子の身分、戴冠式を済まされる前にラストロ殿下を王にすれば他国に文句は言われまい」

 「しかし、うるさいのが居るぞ、ヨーゼフ・ロイヤーだ、あの爺が居ると厄介だ、どうしたものか…」

 と、貴族達は、ヨーゼフを恐れていた。

 「まぁ爺の事はゆっくり考えよう、それよりラストロ殿下に直接会い話さねばなるまい」

 「ではいつ会いに行きますかな?」

 「善は急げだ、明日ラストロ殿下のいおりに行きましょう」

 と、ブラッツ侯爵達は話した。

 テランジンとリリーの披露宴から三日後、レン達は、港に居た。新婚旅行に出るテランジンとリリーを見送るためだった。

 「では若、おやじ皆行って来ます」

 「行って来ます」

 と、テランジンとリリーがレン達に言うとマルスがクスクス笑いながら言った。

 「帰って来たら二人の子供が出来てたりしてな、うふふふ」

 テランジンとリリーが照れ臭そうに下を向いた。ヨーゼフは、にこにこして言った。

 「良いではないか、わしも早う孫の顔が見たいわい、あはははは」

 「兄貴、軍の事は俺達に任せて思いっ切り羽を伸ばして来て下さい」

 と、ルークが言うとテランジンが真面目な顔をして答えた。

 「ああ、頼んだぞ、何かと気になる事もあるからな」

 「何が気になるの?」

 と、レンが言うとテランジンは、旧ザマロ派の貴族達の事を話した。ラーズも気に掛ると言いレンやヨーゼフを驚かせた。

 「あの連中どうも引っ掛かるんだよ、用心しといた方が良いぞ」

 「そうかなぁ…ねぇヨーゼフどう思う?」

 と、ラーズの言葉を聞きレンがヨーゼフに聞いた。

 「まぁあの連中に今や何の権限もございません、ただの土地財産を持つ貴族ですからなぁその土地や財産も我らが国を奪還した後に半分にしてやりましたから、財力も無く余計な事は考えぬでしょう」

 「それならば良いのですが」

 と、テランジンは、浮かない顔で言った。リリーも不安気な顔をしている。

 「なぁに心配する事ねぇさ、安心して旅行に行って来いよ、コノハとカレンを頼んだぜ」

 と、マルスが明るく言った。テランジンとリリーは、新婚旅行先の一つとしてジャンパールに行くので、ついでにコノハとカレンは、一緒に帰る事にした。

 「良いなぁお兄ちゃんは…私ももう少しトランサーに居たかったなぁ」

 「マルス様お早いお帰りを」

 と、コノハとカレンが言った。

 「さぁもう行った行ったぁ船が待ってるぞ」

 と、ヨーゼフが言いテランジンとリリー、コノハ皇女とカレンは、ジャンパール海軍のふねに乗り込んで行った。ジャンパール海軍の艦に乗るのはコノハが居るからだった。テランジン達を見送ったレン達は、城に戻った。ラーズと共に来たユリヤ・アンドリエは、エレナに話したい事が山ほどあると言ってエレナと共にレンとエレナが暮らす部屋に行った。

 「まさかユリヤと一緒に来るなんて夢にも思ってなかったからホントびっくりだよ」

 と、レンが言うとマルスもその通りだと言った。レンとヨーゼフは、マルス、ラーズを連れ普段政務を執る部屋に入った。

 「しっかし盃事って大変だな、あんなに面倒臭い手順があったんだな」

 と、椅子にドカリと座りながらマルスが言った。

 「あはは、思い出すなぁ俺達も盃交わしたよなジャンパールで」

 と、ラーズが幼い頃を思い出し言った。

 「ほほう、殿下らも?」

 「うん、小さい頃にねマルスがどこで聞いたのか盃を交わすと兄弟になるんだって言ってね」

 と、レンがにこやかに答えた。

 「今度、カツとシンに言ってちゃんとした儀式をやろうか」

 と、マルスが言った時、部屋の扉を叩く音がした。ヨーゼフが入れと言うと近衛師団隊長のクラウドが一通の封書を手に入って来た。


  

 



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